仮面ライダージオウ~Crossover Stories~   作:壱肆陸

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ガイスト
ロイミュード002の進化態。人間態は蒼いコートを羽織った大柄の青年。事実上ロイミュードの頭領のような存在だが、人間に対する敵対心は少ない。しかし、ロイミュードを家族として愛しすぎているため、ロイミュードの世界を作るために人間の支配を目論む。自身の生命エネルギーを攻撃力に変える能力を持ち、最強のロイミュードとして相応しい強さを誇る。進化に必要な感情は『怒り』、しかし彼が怒りを覚えることは滅多になく超進化には至れていない。2014年では018を殺したアナザードライブに怒りを覚え、一撃で叩きのめした。デザインモチーフは『骨』『魂』『仮面ライダーゴースト』。

本来の歴史では・・・『ベルト』を葬った宿敵として走大の前に立ちふさがる。ある事件をきっかけに超進化を果たしたガイストは人間に宣戦布告を行い、シングルナンバーのロイミュード3体を率いてグルーバルフリーズを決行。木組みの街の外へ侵略を開始した。



テン・ゴーカイジャー楽しみ過ぎる146です。
やっぱレジェンド作品はいいよ…好きじゃねぇとこんなの書いてませんもん。

長かったラブライブクロス編もクライマックス。まずは第1話みたいに壮間の長ぇ自分語りから始まります。

今回も「ここすき」をよろしくお願いします!


主人公をはじめよう!

多分誰もが考えたことあると思う。自分は特別な人間じゃないかって。

でもそれは皆が同じだから、自分以外の誰かが特別なのが嫌だから、中二病とか痛いとか運とか普通とかそんな言葉で他人を下げたがる。その言葉が自分に刺さっているのに気付いて、そうやってみんなが特別を諦める。

 

そして諦めた人は自分が負けたと思いたくないから、後から来る人に普通を強制する。それが主人公不在の普通世界を作ったんだろう。

 

仕方ないことだと思う。こうやって世間のせいにするのも、仕方ないと思う。

 

俺は普通だ。普通の人生だった。

これといった挫折も大きな失敗もしてない、痛みに欠けた人生。でもそれは出来ない事を避け続けてたってだけで、別にただ勇気が無かっただけだ。

 

これを言うとたまに友人に怒られたりする。具体的に言えば大学に落ちた友人で「じゃあお前より点数悪い俺はなんなんだ」って。でもお前彼女いるじゃん。凄いじゃん。

 

そういえば最近も似たようなことで怒られたな。学習しないな。俺の中にも誇れる自分があるって言われたけど、やっぱ分かんないよ。俺は楽器できないし。コーヒー淹れれないし。妖怪の血を引いてないし。踊れもしない。

 

「彼らだって何度も過ちを犯し、何度も捨ててきた」。違う。そんな人たちにはなれない。そんな勇気は無い。俺は間違いを避けて来たし捨ててもこなかったし。

 

主人公ってみんな、俺に出来ないことばっかり出来て、そうなれるわけ───

 

 

───あれ?

 

 

_____________

 

 

令央によって捉えられ、理解が何もできないまま香奈はアナザーゴーストに取り込まれてしまった。それ以来、ハッキリとしない意識の内側で嫌な声が絶え間なく語り掛けてくる。

 

 

『しぶといねぇ。もう楽になっちゃお?あー、もしかして今が気持ちいいの?マゾ?』

 

「だから…あなた誰…!?私から出てってよ…!」

 

『いやだ。私ね、昔は自分の体あったんだけどさー。嫌いな子にウォッチ取られたせいで何にもできなくなっちゃったんだ』

 

「なに…?なんの話…!?」

 

『しょーがないからもっかい契約して体ポイしたの。でもやっぱ体無いと気持ちよくなれないんだよね。だからあなたの体ちょーだいっ☆一緒に気持ちよくなろ?』

 

「嫌だ!嫌だ嫌だ嫌だ!来ないで!誰か…助けて……!」

 

 

ここが何処かも分からないのに助けを求める。藻掻く。体が思うように動いている気はせず、感情の出口すらも選べない。でも抵抗しないと彼女に蝕まれ、そのまま永久に消えてしまう。そんな気がして怖かった。

 

死にたくないから手を伸ばす。ここから出たくて手を動かす。

全身を吸うように巻き付く手から逃れることは出来なかったが、その指の隙間から僅かな光が見えた。その光景が、香奈の感覚を一斉に呼び覚ました。

 

 

「あれは……!?」

 

 

荒地に不自然に建てられたライブステージ。そこに立つのはAqoursと…μ's。

 

 

『は、μ's?もしかして過去から来たワケ?何しに?』

 

「Aqoursとμ'sが一緒のステージに…!!?でもなんで、早く逃げて…!」

 

 

ステージにいる千歌と視線が合った。アナザーゴーストとなった香奈に怯えもしない決意の瞳と声が、その意思を香奈に訴えかける。

 

 

「こんにちは!私たちは浦の星女学院のスクールアイドル、Aqoursと…」

 

「音ノ木坂学院のスクールアイドル、μ'sです!」

 

 

穂乃果の声も続く。勘違うワケも無い、伝説通りの本物の穂乃果だ。

 

 

「時代も場所も全然違う、遠い憧れだった存在」

 

「私たちのずっと先にいた、スクールアイドルの未来そのもの」

 

「こうやって出会えた奇跡を…更に未来に繋ぐために!

楽しんでいってください!私たちのお祭り、スクールアイドルフェスティバルを!」

 

 

シェークスピア眼魂の力で煌びやかなライブ空間が広がる。香奈とアナザーゴーストを分離し、バッドエンドを覆す大作戦。スクールアイドルフェスティバルが遂に開幕した。

 

 

 

「始まった。まずは動きを止める!来い、フーディーニ!」

 

「ベートーベン、力を借りるぞ!」

 

《Loading》

 

 

ネクロムとスペクターの力を奪われたとはいえ、これまで越えてきた英雄たちの試練が無くなったわけではない。英雄の心は依然として繋がっている。

 

フーディーニ魂を羽織ったダークネクロムBが鎖でアナザーゴーストを拘束。ダークネクロムRは腕を大きく広げ、指揮の構えを取った。

 

スクールアイドルフェスティバルのトップバッターはAqours。本来は今日披露するはずだったラブライブ地区予選用のあの曲を、ベートーベン魂の力で増幅して香奈の意思を引っ張り出す。

 

 

一曲目『MIRACLE WAVE』

 

 

(この曲…!)

 

 

アナザーゴーストの内側で香奈の感情が動いた。

イントロを聞けば体が動き出しそうな高揚。それもそうだ、何度も何度も聞いたのだから。好きすぎて振付も完璧に真似てしまうくらい。

 

曲が進み、あっという間にサビ前に到達。千歌のソロパートに入る。

この瞬間はその場にいた全員の意識が向いた。何故なら、ここはAqours史上最難関、千歌のバク転パフォーマンスのパート。

 

 

─『悔しくて じっとしてられない』

─『そんな気持ちだった みんなきっと わかるんだね』

 

 

メンバーが作った波を受け、遂に千歌の番。

緊張なんてしない。香奈に笑顔を向け、一気に波に乗る。

 

側転、ロンダート、バク転、

そして着地。千歌はあのフォーメーションを完璧に成功させてみせた。

 

 

「よし…!」

 

「やったな、千歌…!!」

 

 

蔵真とアリオスも拳を握って喜びを噛み締める。

本来の歴史であれば、千歌は本番前日まで必死に練習し、ギリギリで完成に辿り着いた。

 

このイベントのため、他の曲も並行して練習する必要があったのにも関わらず成功に漕ぎつけられたのは、完成を知って身に着けていた香奈が直々にレッスンをしてくれたからに他ならない。

 

 

─『あたらしい光 つかめるんだろうか?』

─『信じようよ(YEAH!)』

─『“MIRACLE WAVE”が“MIRACLE”呼ぶよ』

 

 

掴みは上々。香奈の感情は大きく動き、アナザーゴーストの中のナギが抵抗しているのが見て取れる。

 

MIRACLE WAVEは確かに奇跡を呼び込む『呼び水』となってくれた。

次はそこに、冷たくも優しい感情の渦を創り出す。

 

 

「穂乃果さん!」

 

「うん、千歌ちゃん!次は私たちの番だね!」

 

 

マイクを受け取ったのはμ's。幻想空間が再び再構築され、一面を覆った二次元的な青い光が、三次元的に空間を包む『白』へと変わった。

 

それは降りしきる雪の光景。吹雪の中でもなお翳まない、圧倒的な伝説の輝き。

 

 

二曲目『Snow halation』

 

 

こちらもラブライブ地区予選で披露した楽曲であり、μ'sはこの曲でA-RISEに勝利し、ラブライブ本戦出場を勝ち取った。

 

当然そのライブは未来にも語り継がれており、μ'sの伝説の中でも一二を争う。奇跡のバトンを加速させるのにこれほど相応しい一曲は無い。

 

 

─『届けて 切なさには』

─『名前をつけようか“Snow halation”』

 

 

μ'sのメンバーの想いを一つに結び合わせた歌詞。μ'sの絆の形そのもの。

Aqoursのライブとはまた根本的に違う。ナギの苛立ちを煽り、香奈の正の感情を扇ぐ神の啓示。夢を現実にする神話の一節。

 

強い輝きを受けた雪が、見る者全てを幻想へと導く光暈(ハレーション)

 

 

─『微熱のなか ためらってもダメだね』

─『飛び込む勇気に賛成 まもなくStart!』

 

 

μ'sが初めて綴ったラブソングは誰に向けられたものだろう。

友愛、親愛、その愛の種類は定かではないが、微熱を含んだその感情を向けるべき相手は、彼女たちの心の中に同じ姿として存在した。

 

奇跡のリレーの走者はスクールアイドルだけではない。

 

 

______________

 

 

2009年、μ'sが時間遠隔でライブを行っているのを守護するため、ダブルはアナザー電王を相手取る。

 

歌声が鼓膜には届かないが、確かに聞こえてくる。

彼女たちのライブを直接見る機会はついぞ少ないままだったが、その歌が、存在が、彼らを支えたのは紛れもない真実だ。

 

 

「お前、アイドルは嫌いか?」

 

「何…?」

 

 

令央の予想を上回る互角の打ち合いの末、ダブルの左側が問いかける。

 

 

「愚門だな。私は彼女たちには敬意を払っているつもりさ。彼女たちは物語に存在するべくして生まれた、選ばれし存在なんだよ。貴様ら贋作によって汚されなければ私が害を成さずにも済んだんだ。罪深いのは貴様らさ」

 

『僕らからすりゃ八つ当たりもいいとこなんだけど…』

「まぁ…言いたい事は分かるぜ芸術家気取り。要は俺らがいなけりゃアイツらは真っ当に道を進んでた。余計な痛みも別れも知らずに済んだ…ってことだろ。俺だってそう思うよ」

 

 

アラシと永斗の負い目として、令央の言葉もまた真実。

彼女たちを巻き込んだばかりに辛い思いをさせた。スクールアイドルとしての道を歪めたのはアラシ達かもしれない。

 

だからアラシは『消える』ことに対し、抵抗しなかった。

 

 

「あの時の俺は何者でも無かった。それでも生きて欲しいと、そう言ってくれたんだ」

 

「何の話をしている?」

 

「男は女に受けた恩を忘れねぇ。一生かけて命を捧げて返す。親愛なるクソ親父から教わった『ハードボイルド』って生き方だ。よく知らねぇけどな」

 

「安い…贋作にその台詞は不釣り合いだ。撤回してもらおうか!」

 

 

短剣がダブルの首筋に軌道を描くが、紙一重で回避したダブルは淀みない最速の蹴りをアナザー電王へと突き刺した。

 

ダブルはそこで攻めを止めない。一度崩した防御を更に砕くイメージで、暇を与えず連続の蹴りを放つ。体の捻りが風を巻き起こし、連鎖攻撃が風の勢いを強め、連鎖の終着点は突風の砲撃。渾身の回し蹴りが決まった。

 

 

「この話するたびアイツらは言ってくれる。巻き込まれて良かった…ってな」

 

『ある意味恐ろしいよね。物怖じしない物好きもいいとこ。アラシみたいな顔面犯罪者でも僕みたいなガチ罪人でも受け入れて楽しく生きる。それがμ'sだ』

 

「都合のいい解釈はやめてもらおう。贋作如きに彼女たちの何を理解できる!」

 

「そっくりそのまま返すぜ。テメェこそμ'sを舐めんな!」

 

 

アナザー電王が投げた刃を体に受けながらもダブルの体勢は揺らがず、今度はその顔面を蹴り飛ばした。

 

 

「少なくとも…俺達はμ'sに出会えて幸せだった!その誇りに懸けて、テメェはここでぶっ倒す!」

 

 

____________

 

 

スクールアイドルフェスティバルは2曲目が終了した。

雪はまだ止まない。次にマイクを受け取る彼女たちは、吹雪を一層激しく、冷たく、そして熱く盛り上げる。

 

 

「見ててください。これが私たちの本気です!」

 

「…負けないから」

 

 

μ'sという伝説にも牙を剥く強い意思。次はSaint Snowがステージに上がった。

彼女たちはこのイベントに対する想いは弱いのかもしれない。だからこそ、この2人だけはこのステージに戦いに来たのだ。

 

どのスクールアイドルよりも記憶に刻み付くライブをする。

Saint Snowは勝つために来た。その力を象徴するため、2人が選んだのはこの曲。

 

 

3曲目『SELF CONTROL!!』

 

 

(Saint Snowも来てくれたんだ…すごい…!)

 

 

Aqoursと直接対決をした場面こそ少ないが、それでもAqoursのライバルとして名高いグループ。感激ものだ。

 

しかし、それに反してナギの意思も強まっている。抵抗する香奈や、踊るスクールアイドルをたちを下卑た声で嘲笑うように。

 

 

─『最高だと言われたいよ 真剣だよWe gotta go!』

 

 

これまでの2曲の余韻を打ち倒す、強い歌声。

手を引いてくれたμ'sとAqoursとは違い、Saint Snowの曲はあらゆる弱さに発破をかける。

 

彼女たちにとって歌は、ダンスは、武器。

目の前の相手を屈服させ、弱い昨日の自分を打ち倒す。香奈の知る限り、最強のスクールアイドル。

 

 

それを見て刺激されないわけがない。香奈の意思が強まった影響か、ナギの悪意も反発を強める。その結果、フーディーニの鎖が破られてしまった。

 

 

「くっ…!」

 

 

溢れる感情が悪意に誘導され、攻撃として現れてしまう。

アナザーゴーストが放ってしまったエネルギー波はステージに向かって行く。そこにはパフォーマンスを続けるSaint Snowが。

 

結界を張ってあるとはいえ、攻撃が迫るのは怖いに決まっている。

それでも2人は足を、声を止めない。自分たちの強さの次に信じられるとするなら、それは命を張って戦う仮面ライダーの強さだから。

 

その結果、衝撃波は結界に阻まれて消えた。

 

 

「聖良、理亞…!よく信じてくれた!」

 

 

ダークネクロムRがロビンフッド魂でアナザーゴーストの歩みを止め、そこにダークネクロムB ツタンカーメン魂がガンガンハンド鎌モードで虚空を切り裂く。

 

 

「鎮まれ悪霊!邪気封印!」

 

 

ツタンカーメンの力で生み出されたピラミッド型亜空間が、アナザーゴーストを封じ込めた。蔵真は己の体力を削り、その封印を保ち続ける。

 

 

─『ふるえる指先 知ってても見ないで』

─『大切なのは SELF CONTROL!!』

 

 

Saint Snowは踊り切り、最後まで己の強さを誇示し続けた。

怯えてる場合じゃないと感じた。それは蔵真という強さともう一つ、負けたくない強さがここに来ているから。

 

 

「見事なステージだった」

 

「これは私たちも負けられないわねぇ」

 

「えぇ、当然よ。頂点の強さ…見せてあげる」

 

 

吹雪が一瞬にして消え、紫色の光が暗闇を切り裂く。

聖良と理亜、どちらも負けたライブをしたつもりは微塵もない。それなのにすれ違うだけで感じる戦慄に、敗北を予感して体が震える。

 

絶対強者、A-RISEがステージに立つ。

 

 

4曲目『Shocking Party』

 

 

ラブライブ一次予選、μ'sとの初の直接対決で披露した曲。

その時μ'sが披露した『ユメノトビラ』も未来ではトップクラスに人気を集めているが、その勝負において4位通過のμ'sに対して、A-RISEはダントツのトップ通過。

 

スクールアイドルの頂点に立ち続け、何人をも寄せ付けなかったその強さ。

彼女たちにとって勝ちや理想は獲りに行くものではない。既にその手中にあるものだ。

 

 

─『誰かのせいじゃない 心はfreedom』

─『主役は自分でしょ? わかるでしょ?』

 

 

(A-RISE…!すごい、本当にすごい…!!)

(ホントだよねぇ…ホンット、気に食わないったら仕方ない…!)

 

 

スクールアイドルをやっていたナギもA-RISEの強さは知っている。決して折れない誇り高き強者、誰もが彼女たちに憧れて上を向く。ナギの対極にいるアイドルだ。その眩い力は万人を惹き付ける。

 

 

A-RISEはμ'sに敗北した。それは然るべき結果だったと思っている。

でも悔しくないのは違うはずだ。だから今度こそ、これを見る香奈の記憶に何よりも強く焼き付け、頂点として物語の結末を迎えたい。

 

敗北を知って強くなるのは、強者の特権だ。

 

 

─『もっと知りたい知りたい 過剰なLife』

─『だから…Shocking Party!!』

 

 

強くある。それがA-RISEの正義。

 

本来起こり得ない出会いが化学反応を生み出し、互いの力を引き出したパフォーマンスを発揮させていた。理想的な結末へのバトンは風に乗って走り続ける。

 

スクールアイドルは奇跡を繋いで───

 

 

 

______________

 

 

 

「もう終わりぃ?」

 

 

2009年、もう一つの戦い。

仮面ライダージオウはアナザーダブルに叩きのめされ、無様にその体を地に転がしていた。

 

奇跡はあくまでも奇跡。いくら繋がろうと、それがいつどこで切れてもおかしくない。ましてや弱者が紛れ込めば猶の事。

 

今の壮間は、その奇跡に応えられるほど強くはなかった。それだけの事。

 

 

 

______________

 

 

2015年にも悪意の使途は訪れる。

これまでの幸運を取り立てるかのように、幻想空間を突き破り、あの存在が襲来してしまった。

 

 

「発見…ハイジョ…排除…」

 

 

ステージの切り替わりの瞬間、キメラアナザーが青い炎で大地を焼き焦がして降り立つ。想定よりも圧倒的に速い襲来に絶望に近い感覚が襲い掛かった。

 

頭に入れていたが、この可能性は『捨て』以外の処置を取れなかった。

つまり、この状況に対して出せる回答は手元にない。

 

 

_____________

 

 

ライブ会場には、キメラアナザーに対抗出来る力は無い。

一方で2009年も同じだ。ジオウVSアナザーダブルの戦いは余りに一方的で、終始ペースを掴むことすらできず攻撃を受ける事しか出来なかった。国見が変身していたアナザーダブルとは強さの次元が異なる。

 

2つの時代でバトンが地に落ちた。

 

 

「起きてる?」

 

 

倒れたジオウを蹴っ飛ばし、呻き声が聞こえたのを確認してアナザーダブルは喜んでしゃがみ込む。戦いでは退屈だからと、対話を求めているようだ。

 

 

「なんだっけ?ダブルの力を…とかなんとか。それ使わないの?」

 

「……うるさい…!」

 

「あもしかして貰えなかった!?やだお気の毒~!そりゃそーだよね、君笑っちゃうほど弱いもん。なんでここに来たの?もしかしてマゾ?」

 

 

壮間は結局ダブルウォッチを貰えなかった。アラシが言っている切札も、手元にはやって来ない。

 

 

「話聞いてたよ。王様になりたいんだって?なれるわけないけどさ、仮になれたら何したい?やっぱ男の子だしハーレム作りたい?夢の話なら私はねー、クソな王様の愛人になって寝首を切り落としたい。そしたら私はバカを殺してバカに褒め称えられる最高に気持ちいい人生を送れる!」

 

 

なんの話をしているのだろう。壮間の夢を小馬鹿にして遊んでいるのだろうか。今となってはやはり遠い夢、馬鹿にされても悔しくもない。

 

 

「夢…夢が叶うねぇ、アラシもμ'sもんなこと言って廃校やめよーって頑張ってたんだっけ?バカだよねぇ。何成し遂げたって人は快楽に堕ちる。私が墜とす。君が好きな王もさ、欲でやらかして終わったヤツの方が多いじゃん。

 

世界はゴミ箱で、私たちはその中で発情するハエでしかないのにさっ」

 

 

この世界は屑だと彼女は言った。自分を含め世界に生きる全ては所詮虫けらだと、彼女はそう言い切った。

 

 

「…違う」

 

「は?」

 

 

何を諦めてもそこだけは聞き捨てならなかった。

あれだけ必死に生きて、繋がれてきた物語を壮間は見てきた。それを受け継ぐ覚悟だけは揺るがない。

 

 

「弱くない。虫けらなんかじゃない!お前が何をしようが…アラシさんも永斗さんも、μ'sも、負けてないだろ!お前は最後まで勝てなかった。俺の憧れは……お前とは違う!」

 

「あっはっははっ!急に喋るじゃんおもしろ!で、どうするわけぇ?ザコ一人が呼吸できたって、なんにも変わらないけど!?」

 

 

アナザーダブルが立ち上がったジオウを蹴り飛ばす。

でも、今度は倒れない。ジカンギレードを地面に突き立て、その体をしっかりと向き合わせた。

 

 

「一人じゃない。俺は…天介さんや、アラシさんや、あの人たちみたいに強くなれないかもしれない…!でも、アイツは!アイツだけは俺の隣にいる!」

 

 

戦いの前、答えが見つからない壮間の前に現れたのはウィル。

彼はいつもの調子で壮間にこの言葉を授けた。

 

 

『誰かが言った“一人でいい。唯一無二の誰かを見つけろ”』

 

 

壮間にとっての唯一無二は誰だろう。

アラシの場合は永斗だろう。あの2人は最高のコンビ、相棒同士だ。走大の場合は駆。ヒビキは…少し違うかもしれないが九十九がそうかもしれない。天介にもそんな存在が居たのだろうか。

 

ナギの言う通り誰もが屑だったとしても、誰かと出会うことでそれは変わると断言できる。壮間にとって最も刺激的で、唯一無二の出会いはどこにあった?

 

 

『教えてやる。温い奴に明日を生きる資格は無い。俺の時代では常識だ』

 

 

きっとそれはミカドだと、壮間は思った。

 

 

「ミカドは強いけど、遠く感じたことは無かった。ミカドだけは…俺と並び立って戦ってくれた!俺に相棒がいるとしたら、それは多分ミカドだ!」

 

「で、その相棒君は来てないみたいだけど?」

 

「呼んでない」

 

「はぁ!?」

 

「俺はそこにだけは答えを出せた。ミカドは強いのに、なんか俺と張り合ってるのは分かった。アイツがそう思ってくれてるなら…俺だって弱くないはずだ」

 

 

自分を信じれなくて呼ぶんじゃない。自分を信じて呼ばないのでもない。

ミカドを信じて、隣り合う自分を信じて、最高の未来へ続く最も険しい道を選択したのだ。

 

 

_________________

 

 

 

キメラアナザーに単身立ち向かうダークネクロムR。ダークネクロムBはアナザーゴーストの拘束に手を取られ、その必死の抵抗を見ているしかできない。

 

 

「行かせない…!絶対に貴様を止める!」

 

「対象、脅威の範囲外」

 

 

冷たい事実を発声し、キメラアナザーの銃撃がダークネクロムR ベンケイ魂に降り注いだ。絶対的な戦力差が虚しいこの危機に、もう一つの影が幻想空間を突き破る。

 

 

「仮面ライダーの寄せ集め、不快な姿だ。俺がこの手で叩き潰す!」

 

 

仮面ライダーゲイツがキメラアナザーを前に言い放つ。

その姿が舞台裏から見え、希望の灯に再び風が吹き込まれた。

 

 

「来ると思ってたよ、ミカド!」

 

 

分かっていたからこそ鞠莉の喜びは簡潔だった。

鞠莉が似ていると感じたのだから、その眼に狂いは無い。彼の心には必ず、愛する友と同じ何かが宿っている。

 

ミカドはあれから姿を晦まし、ついぞ見つからなかった。

わざわざタイムマジーンで北海道から内浦まで直交した理由は、壮間から届いたメールにある。

 

 

『俺は戦う』

この一言だけのメールでミカドは逃げ道を塞がれたのだ。

 

 

「ふざけるなよ日寺…!俺が逃げると、そう思っているのか!?乗ってやるさ。目の前の全てを倒してでも、俺は俺の理想に必ず到達してやる!この怪人の次は貴様だ日寺!」

 

 

______________

 

 

「そうだ…忘れるところだった。俺じゃお前に勝てなくても、俺達ならお前達に勝てる!俺とミカドで絶対に勝つ!」

 

「へー、いいよ。やってみなよ!!」

 

 

飛び上がったアナザーダブルの鞭のような蹴り。ジオウはそれを避けられないが、剣でブレーキをかけることで吹っ飛ばされるのを防ぎ、カウンターが決まった。

 

 

《ジュウ!》

 

 

ジカンギレードを銃モードに切り替え、銃撃でアナザーダブルの足元を崩した。走りながら射撃していたジオウはすぐに肉薄し、今度は剣モードに切り替えて斬りかかる。

 

 

「昂ってきた!そうこなくっちゃ!」

 

 

アナザーダブルの左側が黒から銀に変わり、歪な骨のような棍棒、文字通りの『鉄骨』で斬撃を防いだ。サイクロンメタルの力を得たアナザーダブルは、全形態の中で最大の防御力を発揮する。

 

 

「負けるかぁっ!!」

 

《響鬼!》

《フィニッシュタイム!》

 

 

響鬼ウォッチを装填することでジカンギレードの刀身が燃え上がり、強靭な斬撃が鉄骨を焼き切った。しかしその瞬間、銀は青に染まり、今度は銃がジオウに向けられる。

 

風を帯びた銃弾の連射、その速度は不可避。銃撃を受けて攻撃の姿勢が崩れた。そこに飛び掛かるアナザーダブル。それなら……

 

ジオウはなりふり構わない。今見せつけられる全力をここで出す。

その崩れた体勢から放たれる、虚を突いた一撃。剣に宿った全ての力を解放する!

 

 

「喰らえぇッ!!」

 

《響鬼!ギリギリスラッシュ!》

 

 

_______________

 

 

ゲイツがキメラアナザーを引き受けたため余裕が生まれ、ライブは再開された。各グループ一曲ずつの披露が終わり、ここからはメンバーが代わる代わるで各々の曲のショートバージョンを歌うメドレー形式。いわば衝撃持続の段階。

 

そのパフォーマンスを背に、ゲイツは圧倒的なキメラアナザーに立ち向かう。

 

 

「新たなタイショウ出現…分析カイシ」

 

「勝手にやっていろ。そんな暇があればだかな」

 

 

ゲイツが繰り出す強烈な連撃。しかし、仮面ライダースペクターと仮面ライダークローズの力を持つキメラアナザーも格闘戦は得手だ。

 

ならばとゲイツは攻撃を加速させる。仮面ライダーギルス、仮面ライダーカリスの斬撃を初見で躱し、風の防壁と鋼の装甲を突破して胴体に拳が炸裂した。

 

 

「セントウを遠距離に移行…」

 

「望む所だ」

 

 

退いたキメラアナザーの腕に『醒弓カリスアロー』が出現し、放った矢は複雑かつ凶暴な軌道で地面を抉りながらゲイツに強襲する。

 

弓があるのはゲイツも同じ。ジカンザックス弓モードで正確に敵の攻撃を相殺し、チャージした一発がキメラアナザーに突き刺さった。

 

そして、すかさずウォッチを装填し斧モードへ。

エネルギーが満ちたその戦斧を、投擲武器としてキメラアナザーに投げ放つ。

 

 

《フィニッシュタイム!》

 

「仮面ライダーは俺が殺す。その力を前に負けるわけにはいかない!」

 

 

キメラアナザーを斬り付け、巧みなコントロールでゲイツの手元へと戻るジカンザックス。余った力と怒りを重さとして乗せ、上方から粉砕の一撃を叩き込む。

 

 

《ゲイツ!ザックリカッティング!》

 

 

どちらも遥か格上の存在との戦い。しかし、100%以上の力を発揮することでそれに喰らいついてみせた。これもまた一つの奇跡だ。

 

離れていても別の戦場でも、その存在が互いに力を与える。それが相棒という存在。

 

 

 

 

「残念でしたァ」

「分析カンリョウ…脅威対象外…」

 

 

全力120%の一撃だった。

それでもアナザーダブルとキメラアナザーは平然と目の前に現れた。

 

仮面ライダーカリスの『不死』と仮面ライダークローズの『超速成長』。ゲイツの攻撃は全て見切られ、それ以降通用しない。

 

所詮は崩れた体勢での苦し紛れ。並の敵なら倒せても、ナギはその程度じゃ動じない。この瞬間に残ったのは無防備なジオウと、完全攻撃態勢のアナザーダブル。

 

 

奇跡は無駄に終わる。

夢は消える。

 

 

「じゃあね。グッドナイト」

 

 

キメラアナザーの砲撃がゲイツの装甲を破壊し、眼魂の体が消滅。

そして、アナザーダブルの蹴りがジオウの全てを粉々に砕いた。

 

 

_______________

 

 

 

目の前でミカドが消え、キメラアナザーの目標は再びステージへ向けられる。アナザーゴーストの封印も限界が近く、蔵真もアリオスもまともに戦える状態にない。

 

ここまで分かりやすい絶望が他にあるだろうか。

 

 

「……歌おう」

 

 

ステージの上で、千歌がそう呟いた。

この最悪の展開の中でも歌い続けようと、そう言ったのだ。

 

 

「まだ終わってない。みんな生きてる!だから…!私たちは繋げるんだ!」

 

 

信じられる誰かが戦っているのはここにいる誰もが同じ。だから恐怖は忘れ、応えるために体が動き出す。スクールアイドル達はステージに立ち、歌い始める。

 

それを見て仮面ライダーが倒れているわけにはいかない。

ダークネクロムRがキメラアナザーの前に再び立ち塞がり、その全身全霊を以て止める。

 

 

「歌っているんだ私の友が、友の憧れが…!お前如きが触れていい輝きではない!」

 

 

ムサシ魂にチェンジし二刀流で斬撃を浴びせるが、奪われたネクロムの能力『液状化』で一切のダメージすら通らない。

 

だが、アリオスは諦めない。エジソン魂、サンゾウ魂、ニュートン魂、ガリレオ魂、持てる全てでたとえ一歩ずつだろうとキメラアナザーを止める。一秒でも長く戦う。

 

 

今歌っている彼女たちが唯一の可能性の光。

でも0にはなっていない。いや、例え0になったってそこから1にすればいい。

 

諦めない限り夢は叶う。奇跡は起こる。

 

 

(そうだよね朝陽くん…私は私を信じる!)

 

(アラシ君が戦うから私も戦う!絶対あきらめない!)

 

 

千歌と穂乃果が思い描いたそれぞれの姿。

そして、次に想像したのは……その未来、壮間だった。

 

 

________________

 

 

 

変身が砕け、壮間の意識が揺らぐ。自分がいま地に臥せていて、血の味がして、アナザーダブルが自分を見下ろしているのは分かる。もしかしたら踏まれているかもしれない。

 

 

「残念だったね。まぁそこそこカッコよかったんじゃない?」

 

 

ミカドはどうだろうか。自分が負けたから、負けたかもしれないな。さっきの理屈なら。こんな事を考えるのは薄情だろうか。

 

ナギはまた何かしゃべり始めた。しゃべるのが好きなのだろう。こんなクソみたいな思考が巡るのはいつぶりか、2017年の時か、いや…

 

あの時。一回目に死んだとき。2019年のあの時だ。

 

 

(あれ…何か違う…?あの時とは何か……)

 

 

アラシに弱いと言われ、アリオスには強いと言われた。だから壮間は考える。壮間の強さってなんだろう?

 

思い当たらない。壮間は失敗を避けて、叱られるのを避けて、失望を避けて、挫折を避けて、避けて避けて避けてそればっかだった。出来る気がしないことはしなかった。

 

どこが同じなんだろう。アリオスは千歌や穂乃果と並べて言っていたけど、挑戦しなかった自分は対極だ。

 

 

違和感がする。死にかけた今だから感じる理論の矛盾。主人公は自分に出来ない事ができる。だから主人公。千歌や穂乃果はこれまで普通だったけどスクールアイドルに挑戦した。だから強い。

 

逆は?あっちからはどう見える?

 

壮間はまだ挑戦してない。でも今から挑戦できるよな?

他の主人公から見たら壮間にしかできないことってあるんじゃないか?

 

何だ?

 

大学には行ったそこそこいいとこ。これまで生きてきた運がいい?

なんで失敗しなかったんだ。なんでこれまで生きてこれたんだ。なんで逃げなかったんだ。なんで王様になるなんて突拍子もないこと決めたんだ。

 

これまで何度か問いかけられた。俺の強さについての答えが、見えるかもしれない。

 

 

今、どうだ。死を目の前にして答えが見えないのか。

見えないな。死ってその程度のものなのか。走馬灯も見えない。

 

ガチで死んだと思ったのは2019年と2005年、送り狼に襲われた時か。ウォッチ忘れてヤバかった。あの時は見えた気がする、走馬灯。でも割と怖くは───

 

 

(あぁ、そうだ。俺は……あの1回以外、死ぬって思ったことが無いんだ)

 

 

これまで何度も死にそうな場面はあった。

今もそう。でもなんでだろう、ここで死ぬ気がしない。死ぬことが想像できない。

 

失敗しなかった人生。挫折しなかった人生。失敗を避けられたのは自分が何ができて何ができないかなんとなく分かったからなんだ。これに手を出せば失敗して、これならできそうって思えたからやった。

 

だとしたら。ここでまたこんな事を思う卑屈ぶりが嫌だ。なんで香奈が取り込まれ、朝陽が消える最悪が予測できなかったんだろう。ナギの襲来もそう。今のコレもそう。

 

俺を凡人にしている欠陥は………

 

 

『俺は普通にしかなれない』

『俺はあなた達とは違う』

『普通の人間』

『普通』

『普通』

『普通』

 

 

もし俺の強さがそれだとするなら。俺の思考を、才能を止めていたのは、

『普通』。この二文字。他人のことになると途端にこうだ。臆病で保険を張りたい俺は俺の想像に、見誤った弱い俺を組み込んでいた。

 

自信が無くて蓋をしていた。あの大きな失敗体験ばかりを思い出し、身をすくめていた。さっきの俺の答え『俺は弱くない』、違う!バツだ!赤ペンででっかくペケを書いてやる!

 

 

俺は『強い』。俺には才能がある。俺は特別だ。

俺はあの主人公に並ぶんじゃない、継ぐんじゃない、超えるんだ!できる!

 

 

だって『俺は未来が想像できる』。俺の強さはその『想像力』。俺自身の強さを頭にぶち込んで自分を1から作り直せ。

 

 

2015年で受け取ったこの言葉。そんなものは必要無いと、言うまでもなくみんなが突き進んでいたから、それは壮間の胸に仕舞っていた。

 

今なら分かる。これは、俺のための言葉だ。

 

 

『いつだって飛べるよ。あの頃みたいに』

 

 

あの頃?知らないしいらない。想像すればいい。

千歌さんと穂乃果さんもそうだったんだ。出来ると思ったから、これしかないと思ったから飛び出した。

 

なろうとしてなった主人公なんていない。最初からそうだっただけ。そうなっただけ。俺もそうだと思え。この物語は俺を中心に回っている。はばたくチャンスは、訪れた今このとき。

 

飛べ。この才能で今度こそ、俺は飛ぶ!飛べる!

俺だけが届く、想像の未来へ───!

 

 

 

 

 

 

「───でさぁ、次なに話そうか?昔話でもしよっか!そういうの好きでしょ?クソ悪党がこうなっちゃった理由とか、境遇みたいな?私が生まれた家は……」

 

「うるせぇ」

 

 

死体に話しかけているつもりだった。立ち上がった壮間を見て、言葉が止まる。

その声は明らかに違った。その短い言葉の奥に聴こえたのは、ナギが何度も聞いてきた音。

 

人間の人格(ペルソナ)が変わる音。

 

 

「誰も…お前の話に興味ねぇよ。黙ってろ脇役(モブ)

これは……俺の物語だ」

 

 

何かを始めるには地道な努力から?自信の無い凡人の考えだ。

まずは才能に形を与える。カッコつけろ。イキれ。

 

壮間は再びジオウウォッチを起動させ、ドライバーに装填する。

 

 

《ジオウ!》

 

 

そして、ポーズを取る。まるで生まれ変わった気分だった。

だからこの言葉に力が入る。この瞬間から、壮間は変わる!

 

 

「変身!」

 

《ライダータイム!》

《仮面ライダー!ジオウ!!》

 

 

時計盤が回り、『ライダー』が時と名を刻み込む。

響く鐘の音。仮面ライダージオウが顕現した。

 

 

「生き返った…!?あっはっははああ!!やっぱさぁ!いいよね!それ本性!?仮面!?じゃあさっ、もっと激しく行こうか!!」

 

「…来いよ。もう俺は負けない」

 

 

アナザーダブルの猛攻が幕を開ける。

武器を捨てたジオウがそれに真っ向からぶつかっていき、放たれる蹴りを、拳を、弾き飛ばして受け止めて、そして互角に渡り合った。

 

 

「はぁっ…!?」

 

「…想像通りだ。俺は俺の力に…仮面ライダーの力を自分に合わせようとブレーキしてた。卑下しすぎてたんだ。俺はもう…俺を見くびったりしない。俺はまだ先に行ける!」

 

「…あぁ、なるほどねっ!イライラさせてくれんじゃん!」

 

 

ジオウの動きが格段に上がっている。その理由も壮間の想像通り。

 

壮間は人を見通し、いま自分を見通し、未来を俯瞰する強靭な想像力を自覚した。凡人が己の非凡に気付いた時、その先の道は二つ。自己満足の石ころにするか、磨き上げて宝石にするか。

 

今、壮間はそれを磨こうと、その力を全力で使おうとしていた。今の壮間は限界集中状態にある。

 

 

「強くなったのはいいけどさぁ、いいの!?このカラダ一般人のだよ?傷付けちゃっていいのかなヒーローの王様ァ!?」

 

「そうならない。その可能性が、俺には分かる」

 

 

その可能性も事前に予測はしていたが、結局対処は『力加減でなんとかしよう』だった。永斗曰くアナザーゴーストほど仕様が厄介ではないため割と可能らしいが、今の壮間に見えているのはそれ以外の可能性。

 

壮間はジカンギレードを引き抜き、マッハのウォッチをセットした。

 

 

「何する気かしらないけどさぁぁぁっ!気に食わないんだよ、その自信に満ちた態度!!」

 

「だからお前は…俺に負ける!」

 

「言ってくれるじゃん!さァ、感じさせてよその強さ!!」

 

 

最大出力の暴風がジオウを襲う。しかし、アナザーダブルならどこに現れるか、それも想像の範疇。さっきのような不格好な攻撃はしない。

 

風で身体が浮き上がった。その刃にイメージを乗せ、予測したその瞬間に合わせ、精度の高い一撃を叩き込む。

 

 

《マッハ!ギリギリスラッシュ!!》

 

 

反応不可能、音速の一閃。それだけじゃない。

ライダーの力を引き出せなかったのも想像力の欠如だ。ライダーの力を使うために必要なのは『解釈』。

 

壮間は見ている。マッハが融合進化態と人間を分離した瞬間を。

そして想像できる。それを剣に乗せ、能力を再現する未来を。

 

帯びたのは分離の能力。アナザーダブルの中から女性の体が浮き出し、ジオウはそれを引っ張り出した。

 

 

「…よし!」

 

 

女性の体を置くと、体を失ったアナザーダブルの姿が消えた。

しかし壮間は良い未来ばかりを想像できるわけじゃない。そのウォッチの破壊の前に、彼女が来ることも分かってしまう。

 

 

「やるじゃん。意味わかんないくらいにさぁ」

 

《ダブルゥ…》

 

 

ナギはアナザーダブルウォッチを起動させ、己の体に埋め込んだ。

アナザーダブルには精神と体が別で必要と永斗は言っていた。つまりこの行為は反則に等しい。

 

 

「あぁっ…!や…っはっははは!やっぱり、自分の体じゃなきゃ気持ちよくもなんともないよねぇっ!いいっ、やっぱサイコーだよこの力!」

 

 

一人でアナザーダブルに変身したナギ。戦いはまだ終わらない。

正直な話をすると、壮間はあのアナザーダブルに勝てると思えなかった。だから分離した。

 

分離すればこの状況になる。二人用の力を一人で抑え込んでいる今のアナザーダブルは、理論上さっきの半分程度の強さしかない。

 

今なら想像できる。壮間がナギに完勝する未来が。

 

 

「未来の私はさぁ、別のアナザーライダーなんでしょ。それを止めようと頑張ってる。でも無理だよねぇ!私は負けない!絶望するのはそっち!」

 

「いいや。俺たちは勝つ」

 

「勝てるわけ無いじゃん!そんな奇跡起きるわけ無い!!」

 

「奇跡は起きる!」

 

「どうして!?」

 

 

その答えに悩んでいた。今じゃ馬鹿みたいだと笑えてくる。

だから、戦いの中で初めて笑って言い放つ。

 

 

「俺が……主人公だからだ!!」

 

 

強く吹いた風に乗り、その二色の光は壮間の足元に落ちた。

『答えが見つかった時、切札は必ず手元にやって来る』。それは正真正銘、待ち望んだ切札。ダブルライドウォッチだった。

 

 

《ダブル!》

 

 

______________

 

 

壮間もまた、奇跡のバトンを繋いだ。

主人公の目覚めは時を超えて影響を及ぼす。止まっていた物語の歯車が、動き出す。

 

それは幾層にも重なった必然と覚悟が生み出した、最大級の奇跡だ。

 

 

「───久しぶり、神様。僕のお願いを聞いてくれる?」

 

 

眩い光に満ちた場所で、彼は『眼』に願いを述べた。

 

 

______________

 

 

アリオスが決死の覚悟で時間を稼いだ。しかしそれも限界が来て、アナザーゴーストの封印も消滅してしまう。

 

変身が解けるアリオスと蔵真。もう眼魂の体を維持するだけで精一杯だった。

でも、もう何も問題は無い。物語は逆転を始めたのだから。

 

 

「俺は、目覚めるはずが無かった」

 

 

幻想空間に踏み入った存在。キメラアナザーが感知したのは確実な『生体反応』。それは、敗北して消えたはずのミカドだった。

 

眼魂の体じゃない。しかし、治らないはずのその傷は消えている。

 

彼を救うことができるとしたなら、それはもう奇跡という言葉で語れない。神の力にのみ許された、偉大なる『神秘』の力。

 

ふと目覚めたミカドは、不思議と理解できた。

自分が誰に救われたのか。そして、自分のそばにあったソレで、何を成すべきなのか。

 

 

「恩は返す。これで二度目だ。俺は…お前達を侮っていた」

 

 

ミカドを蘇らせたのは、一重にスクールアイドル達の想いの強さ。それがこの結果を生み出したのだ。

 

それだけ命を尽くして繋がれたのが、この奇跡。

 

 

「今だけだ。今だけは負けを認めて、お前達の理想を背負ってやる。お前達もまた時代を作った英雄だと言うのなら…もう負けるつもりは無い、俺は俺の未来のために闘い抜く!」

 

 

アリオスがこの時代に戻った際、壮間はゴーストのプロトウォッチを持たせた。それをミカドのそばに置いて欲しいと。それもまた想像力の片鱗だったのだろう。

 

結果、今ミカドが握ったプロトウォッチに力が宿った。

それはゴーストの物語が蘇った証。

 

 

《ゴースト!》

《ゲイツ!》

 

 

「変身!」

 

 

《仮面ライダー!ゲイツ!!》

《アーマータイム!》

 

 

ゲイツに変身したミカド。その後ろに現れ、印を結ぶゴーストアーマーが宙を舞い、ゲイツの姿を怪しくも勇敢な英雄に変える。

 

 

《カイガン!》

《ゴー・ス・トー!》

 

 

______________

 

 

 

《仮面ライダー!ジオウ!!》

《アーマータイム!》

 

 

ダブルウォッチをドライバーに装填し、アーマータイムが訪れる。その眼前に現れたのはいつもの全身鎧ではなく、黒と緑、2人の直方体戦士。

 

 

「あれ?なんだあれ…」

 

 

さすがにこれは想像できず、いつものとぼけた声が出てしまった。

そこに現れたのはもちろんウィルだ。

 

 

「素晴らしいよ我が王。どうやら、私の想像を超える成長をしたようだ。アレは…その証とでもいうべきかな。君は一つ上のランクに到達したんだ」

 

 

サイクロンメモリとジョーカーメモリを模した自律起動アーマー『メモリドロイド』。サイクロンが軽快な動きでアナザーダブルを翻弄し、ジョーカーがそこに攻撃を加えて牽制する。

 

そして、ジオウの前で『W』の文字を描き、それぞれが変形。

右と左。挟み込むようにアーマーが装着され、『ダブル』の文字が複眼に収まった。

 

 

《サイクロンジョーカー!!》

《ダ・ブ・ルー!》

 

 

「祝え!全ライダーの力を受け継ぎ、時空を超え、過去と未来を知ろしめす時の王者!その名も仮面ライダージオウ Wアーマー!2人で1人のライダーの力を継承した瞬間である!」

 

 

右は緑、疾風の記憶。端子はサイクロンメモリ。

左は黒、切札の記憶。端子はジョーカーメモリ。

 

ジオウとレジェンドの力が溶け合った新たな王の形態。

仮面ライダージオウ Wアーマーの降誕だ。

 

 

2つの時代で鎧を纏った仮面ライダー。双方が受け継いだ想いを、繋いだ心を、その魂を己の言葉へと昇華し、偽りの存在に投げかける。

 

 

「火兎ナギ。お前はその狂気で何人もの物語を穢した!俺が見た悲劇の未来まで…お前の罪を教えてやる!」

 

「覚悟しろ悪しき力。命を燃やし、貴様を殺し尽くす!」

 

 

 




壮間はようやく主人公になりました。王様になれば主人公と思ってた当初からすれば逆転した感じですね。これが遅いか早いかの判断は読者様に委ねます。

ダブル継承、ゴースト継承、そしてあの男の姿も……
次回、「無限大エクストリーム」。全ての戦いが決着!

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今回の名言
「一人でいい。唯一無二の誰かを見つけろ」
「ノラガミ」より、夜ト。

使用楽曲コード:17407800,20161255,22227393,71941169


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