仮面ライダージオウ~Crossover Stories~ 作:壱肆陸
2009年の火兎ナギが変身したアナザーライダー。改変された歴史ではダブルを抹殺していたが、高坂穂乃果がスクールアイドルからの離脱と引き換えに動きを止めていた。
火兎ナギの精神が宿ったウォッチを『スクールアイドルと関連がある女子高生』に埋め込むことで変身する。ダブルの基本6メモリのハーフチェンジが可能であり、多彩な能力と体術で敵を圧倒する。一定条件下で撃破しない限り、何度でも蘇る。
バイトがめんどい146です。
東京喰種編2話(ファイズ要素はお待ちを…)、一気にキャラが増えます。キャラがとにかく多いのも東京喰種の特色の一つということで……
あと補足。東京喰種の時間軸には『ある大きな改変』があり、その影響で本来では有り得ない状況にいるキャラクターが多数存在します。ご理解の程を。
今回も「ここすき」お願いします!
食事が人生を表すとするのなら、彼の人生はきっと『傲慢』だ。
タイムジャッカーの一人、ヴォードは根城にしている家に戻ると、昼間から優雅に食事をする彼を呆れたように見て腰を下ろした。タイムジャッカーに時間の感覚も何も無いが、問題はそこじゃない。
「何してんのアヴニル」
「む…ヴォードか。見て分からんか? ディナーの最中だ」
「昼だけどね。初めて見たよ、コンビニの揚げ鶏をそんなゴージャスに食う人」
机にはグラスに注がれたワインと、皿に盛りつけられたというよりは無造作に置かれた安物のフライドチキン。
「肉は買ったのだが焼き方が分からんでな。オゼも目を覚まさぬし、致し方ないからこいつで勘弁してやったわ! 安心しろ、ワインは上物だ。お前も飲むか?」
「買ったって、絶対僕のお金だけどね。どーせ暇ならアヴニルも働けばいいのに」
「働く…吾輩が? 何故だ…? 高貴なる吾輩が労働をする必要など一切皆無ッ! そうであろう違うか!?」
「あーはいはい違いません違いません」
タイムジャッカーとして徒党を組んでからというもの、まともな仲間がいないことが心底しんどい。ヴォードも自分が健常だとは思っていないが、変態科学少女と馬鹿貴族よかマシだとは自負している。
「ほんっっと、なんでこの3人……」
「それと一つ勘違いをしている! 吾輩は何もせず座しているわけではない、吾輩が育てていた『王』が間もなく覚醒するのだ」
「あーファイズね。それにしても大胆に変えたね、あの物語。『反動』が怖いし、僕だったら絶対やらないけどな」
「王を擁立するのに代償の覚悟など標準装備。それに…吾輩が望む世界に、王は2人もいらない」
アヴニルが真っ赤なワインを片目で覗き込む。
彼は傲慢。オゼが知のために全てを顧みないのと同じように、アヴニルもまた理想のために全てを顧みない。
そして、ヴォードは断言できる。王を擁立するタイムジャッカーとして、最も優れているのはアヴニルであると。
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鱗が逆立つ触手が迫る。ミカドの肉を削ぎ落とし、喰らうために。
ホリチエに導かれるまま遭遇した、ドードー鳥の仮面を被った“喰種”。その鱗赫相手によく持ちこたえているが、生身のミカドではそろそろ限界だった。
「はっは、健脚ッ! いいな! おっさんの足よりウマそうだ!」
「鍛えている。貴様に喰わせるためでは無いがな!」
喰種のスペックは怪人並み。しかも後ろでは足をもぎ取られた中年男性が苦しんでいる。変身せざるを得ないと、ミカドはドライバーに触れる。
(まさかコレが狙いか? 賢しい齧歯類女め…!)
ホリチエの激写計画の上かと思うと苛立ちを覚えるが、言っている場合じゃない。ジクウドライバーにゲイツウォッチを装填し、腰に装着しようとしたその瞬間。
「来たね」
ホリチエが物陰でポツリと呟く。
その言葉の通り、被害者と喰種、ミカドの他に新たな登壇者が舞台に上がる。金属アタッシュケースを持った青年。纏うのは白い何かの制服だろうか。
そこにいた誰も、その顔には見覚えがあった。さっきの焼き鳥屋のもう一人の客、目元に二つの黒子の三白眼で表情が硬い青年だ。
「おっほマジか! 客が全員揃いやがった! そんじゃまとめて…!」
鱗赫がミカドと青年を一気に貫こうと加速。しかしミカドがドライバーの装着を完了させる前に、踏み出した青年が眼前に。そして───
喰種の赫子を、一瞬で斬り落とした。
「……19区、Bレート喰種『ドードー』だな(雑魚め)」
「テメェ……“
手に持っていたアタッシュケースが開き、一瞬のうちにそれは体の半分を隠すほどの大剣へと展開していた。その剣で赫子を切断したのだ。
「貴様…何者だ…?」
「喰種捜査官です。そっちの(邪魔な)怪我人を連れて安全な場所へ」
喰種捜査官。人々を襲う喰種を追い、駆逐する国家公務員。
彼が持つ剣からは生命力のようなものを感じた。ミカドが知るはずも無いが、喰種捜査官の武器は「クインケ」と呼ばれる特殊なモノ。その材料は『喰種の赫子』であり、まさに生きた武器なのだ。
彼は
「白鳩の串焼きにしてやるよ!全員纏めて晩飯になれやぁ!」
「(クズが)やってみろ(お前が俺の功績になれ)」
足を失った中年男性の止血をしながら、ミカドはその戦いからも目を離さなかった。人外の動きを続ける喰種に対し、変身もしていない“ヒト”であるウリエが圧倒的優位に立つその様を目に焼き付ける。
ドードーの鱗赫は長く、明らかに近距離戦用である「兜」では分が悪いようにも見えた。実際、相性的にも鱗赫に対し甲赫は不利を取る。しかしウリエはそれらの劣勢的要因を全て、予め用意されたような動きで制圧してみせた。
「ぎっ…ッかぁ!?」
「もらった」
ドードーの動きは常識の範囲を出ない。他の捜査官たちの戦闘記録にもくまなく目を通し、公式化した戦術もほとんど体に覚えさせたウリエにとって、この戦闘は確認テストのようなものだ。
あっという間に潜り込んだウリエがドードーの鱗赫を根元から切断。武器を失ったドードーの首に「兜」の分厚い刀身が真っ直ぐな軌道を描く。
しかし、さっき斬られたはずの赫子が既に再生しており、ドードーは死の恐怖からウリエを鱗赫で無造作に弾き飛ばした。
「赫子の再生速度は異様だな…(それ以上の何でもないが)」
マスクの奥から感じる折られた戦意。いくら赫子が再生しようがドードーがウリエを殺すことは不可能だと誰もが分かった。そんな絶望に追い打ちをかけたのは、ドードーの体内から湧き出る痛みを伴った苦しみ。
咳き込んだドードーの口から零れ落ちたのは血ではなく、『灰』。
「…“灰病”か(そのまま死ね)」
「あぁッ…クソッ!! 肉…肉を! もっと肉を喰わねぇと…ッ!!」
「灰病」の苦しみに加えて力の差は歴然。そのままわき目もふらずに鱗赫を使って飛び上がり、逃走を図る。
ビルに鱗赫を引っ掛け、とても「兜」じゃ届かないような高さで逃げるドードー。変身してジカンザックスを使えば撃ち落とせると考えたミカドだったが、ウリエを見てドライバーの装着を止めた。
ウリエは一切表情を崩さず、「兜」を投げ捨てて別の剣を構えた。
「兜」に比べて格段に小さい剣だが、刀身の形状が珍妙だ。ウリエはその剣を構え、空中を滑るドードーに向けて振り抜く。
Aレート“羽赫”クインケ「三日月」。
剣の形状をした羽赫クインケは珍しいが、他の例と同様「三日月」も遠距離武器。刃がブーメランとなっており、連射ができない代わりに爆発的な射出速度と“鱗赫”並みのパワーで空中の敵を屠る。
「三日月」の刃がドードーの赫子を再び切断し、弧を描いて今度は左足も斬り落とした。落下するドードーに先回りしたウリエは「兜」を両手で掲げ───
「死ね」
「おがッ───」
ドードーの頭部を一突き、即殺。そのドロドロとした血液よりも先に、凶悪な喰種の命が地に落ちた。
喰種が死んだその瞬間に現場を駆けるシャッター音。もちろん、その主はカメラを構えたホリチエだ。
「これが“喰種”の世界だよ、ミカド君」
「説明くらいはしてもよかっただろうが、掘…!」
喰種と喰種捜査官、確かにミカドが知らない世界だ。少なくとも未来で喰種の存在を聞いたことは無い。それに、齧られて捨てられた足、頭部を抉られた喰種の死体、気分がいい世界ではない。ホリチエが止めたのも分かる。
(やはり慣れないな、人の死体というのは…)
死臭が立ち込めてきた。そんな中で写真を確認するホリチエに、煩わしそうにウリエが見下し声をかけた。
「ウリエ君、お疲れ様」
「ホリさん。喰種の情報を追うのはいいですが、店員の彼が喰種だとマークしていたなら、店で会った時点で俺に報告する義務がある。他にも所有している喰種の情報を〔CCG〕に提供していただかないと、喰種隠匿の罪を問うことになりますが」
「いいけど、私がそれで全部話すとは限らないよ? それに、捜査官ならまだ仕事があると思うけど」
救急車のサイレンが近づいて来る。どうやら中年男性が負傷するのを見越して、予め通報していたようだ。救急隊員への状況説明や喰種の遺体の処理、ウリエがホリチエに構っている暇はない。
「〔CCG〕に通報しなかったのも、救急車を呼んでいたから…ですか(姑息な子ネズミが…)」
「私とミカド君じゃどうしようもなかったし、まだウリエ君も近くにいると思って」
ホリチエは過去に何度も、喰種捜査官に情報を提供している。しかし、その捜査情報を知った経路や喰種の情報を掴む方法は一切不明。重要参考人として連れて行きたいところだが、こんな風に毎回躱されてしまう。
「…それで、そちらの彼は」
「ミカド君は友達だけど」
「(……)そうですか」
負傷者の手当をしていたミカドを一瞥するウリエ。ミカドが喰種に襲われたあの時、戦おうとしていたのをウリエは見逃さなかった。
最初は喰種かと疑ったが、それなら捜査官を見ていつまでもここにいる理由が無い。気になりはするが、喰種じゃないのならウリエには関係の無い話だ。
ウリエが諸々の処理をしに行ったタイミングで、ミカドはホリチエに引かれて共に退散。そうして境界線を越え、衝撃的な夜は過ぎ去っていった。
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あの後、ミカドは改めて“喰種”について調べ直した。
“喰種”は人と同じ姿をして人を殺して喰らう食物連鎖の頂点。人肉(もしくは骨)からしか栄養を取ることができず、普通の食事はとてもマズく感じる上に体が受け付けないらしい。ただ、珈琲だけは美味しく飲むことができるという。
「ヒトを食糧として狩る存在、それが“喰種”…か」
参考にした本の印象的な一節を口ずさみ、ミカドはスマホ画面の方に目をやる。そこではこの本の作者である小倉という男が、自身の動画チャンネルで喰種について語っていた。
『近頃、喰種の捕食件数はどんどん減ってる。これはよく捜査官の活動によるものだって言われがちだけど、私はそうじゃないと確信してるよ。そもそも喰種は種として人間より遥かに優れているわけ。つまりこれは、喰種という種が大きな行動を起こす前兆だと、私は思うけどね』
この動画がそこそこ再生されているくらいには浸透している。ミカドが今まで知らなかったのが不自然なくらいだ。
しかし、ニュースで殺人犯が出たと聞いても実感が湧かないように、実際に目で見ていないものを人は中々信じられない。よって、世間の喰種に対する認知は十分とは言えず、人と同じ姿をしているということさえ知らない者も少なくはないそうだ。
ミカドはこの世界の深くに踏み込まなくてはいけない。別れ際、ホリチエが告げた事が真実ならば。
『私が知ってるアナザーライダーは喰種だよ』
喰種がアナザーライダーというのは、先祖返りでアナザーライダーだったアナザー響鬼の前例があるため不思議はない。ただ、世間の中に溶け込んで巧妙に姿を隠す喰種をどうやって見つけ出すか、これはもうホリチエに頼るしかない。
というわけで、今日も彼女と待ち合わせをしている。なんでも「会わせたい人がいる」そうだ。
「……遅い。もはや怒りも感じんが」
時間通り来るとは思っていなかったが、来なかったら来なかったで退屈だ。仕方がないので待ち合わせの喫茶店の前で喰種の本でも読んでおく。
「失礼。これを落としたよ、君」
そう言ってミカドの肩を叩いた男は、本に挟んでいたしおりを持っていた。こんなことにも気付かないくらいだから、ミカドは自分で思っているより苛立っているのかもしれない。
もしくは、喰種の存在に動揺しているのだろうか。
「あ…すまない」
「気を付けたまえ。こんなにも気持ちが良い天気なんだ、落とし物なんかで気分を損ねるのは実にIdiot! 馬鹿馬鹿しいというものさ」
なんだこの面倒くさそうな男は。
足が長い。顔もいい。自分でそれを自覚し、見せつけるような態度が一目でわかる。拾ってくれたのに失礼だが、できるだけ関わりたくない。
しおりを渡そうとミカドに近寄る男。距離が極端に近づいた時、男の瞳孔が大きく開いたような気がした。そして、何を思ったか耳打ちでもする距離まで顔を近づけてきた。
「なっ…!?」
「おっとすまないね。髪の毛にゴミがついている気がしたが、気のせいだったよ。それより君……その本、喰種に興味があるのかい?」
「いや…ただの教養のためだ。こんな時世、自分の身を守る知識くらいは付けておいた方がいい」
「なるほど素晴らしい心がけだね。知見を深めるだけより快適に、より楽しく日々を楽しめる。僕もよくそういった読み物で知識を広げているよ。ところで、困ったことに僕は道に迷ってしまったんだが…道を教えてくれないだろうか?」
自慢するテンションで道を尋ねられる彼の頭は、きっと常人と作りが違うのだろう。なんでも待ち合わせの店がわからないらしいが、偶然にもそこは昨日ホリチエと行った喫茶店だった。
少し距離はあるし、待ち合わせの最中。しかもこの男と一緒に行動しないといけないのは確実にストレスだ。道案内する理由がない。
しかし、断ったら断ったで面倒くさそうな気がしないでもない。現に今も一方的に喋りかけられ続けているし、だったら案内を済ませて早急に別れてしまいたい。
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「そうだ、君は普段蓄えている教養というモノを、少し僕にも享受してくれないかい? なんでもない日常の気付きでもいいんだ。君の話はとても
「黙って歩け」
こんなことなら強引にでも逃げておけばよかったと、ミカドは後悔した。案の定だがこの男は常時うるさい。
「そういえば自己紹介がまだだったね。僕は
「ミカドだ…なぜ道案内で名乗らねばならんのだ」
「ミカドくん…か。
月山が呑気に笑う通り、ここは目的の喫茶店の近くどころではない。ミカドは未だに自分の方向音痴に無自覚なせいで、頻繁に他人に迷惑をかける。
「チッ…どこかで曲がり角を間違えたか」
間違え方がそのレベルでは無いのだが、それはさておき。こうなっては道案内どころではない。それを見計らってか、月山が別の話題を持ち出した。
「ミカドくん…君は喰種に興味があるのかい?」
「だから言ったはずだ。あくまで教養だと」
「ノンノン、僕の目は誤魔化せないよ。あの本を読んでいた時の君の瞳…憤激にあてられた美しい
ふざけた言動をしておきながら中々に鋭い観察眼。面倒者としか思っていなかった月山への意識が、少しだけ変わった。
「ここだけの話、僕は少しだけ喰種について詳しい。喰種捜査官と少し関りがあってね。知っているかな、一般には機密にされている彼らの“脈動する武器”…クインケのことを」
「……それは本にも書いていなかった。貴様…」
「あれは喰種の器官、“赫包”から作られるものだ。これで信用してもらえたかい?」
「それで、何故そんな話を俺にした」
「この辺りの街並みを見て思い出したんだ。この近くに、喰種が潜伏していると噂の工事現場がある。ミカドくんが抱く怒りを問い質すような無粋な真似はしたくないが、少しでも君の力になりたくてね…」
涙でも流そうかという月山のテンション。大袈裟すぎて嘘にも本当にも見えないから判断に困る。が、貴重な喰種の手掛かりは手に入ったと言っていいだろう。
「案内してくれ」
「
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本当に近くに工事現場があり、しばらく作業は行われていないようだ。人目も付きづらく、潜伏するにも迷い込んだ人間を捕食するにももってこいの場所、いかにもという感じだった。
「まだ昼間…喰種はいない可能性も高いね。どうする?」
「痕跡が残っていればそれでいい。行く」
「そうこなくては。僕も同行しよう!」
もったいつけていても仕方がないと、ミカドは足を速める。
潜伏ができそうな半壊した建物に入って調べるが、人の気配はしない。血痕や死臭もなく、ここで人が捕食された形跡は見つからない。
「……喰種がいた証拠も無いな。ヤツの話の一つでも聞き出せればと思ったが、甘かったか」
「Sorry…所詮は噂だったみたいだね。しかし───」
細胞が練り上げられる音が一瞬。その次に空を貫く音がまた一瞬。
その後は肉を貫く音を予感していたのだが、ミカドの体はそれを回避し、コンクリートの床が破砕する音が響いた。
「君がチョコレートケイクのように甘いという意見には同意…そう言うつもりだったんだけどね」
「甘いを例えるならチョコケーキよりもショートケーキが適切だ。食ったことが無いから分からないだろうがな、“喰種”!」
月山の背中から突き出て、右腕に絡みつくドリルのような“甲赫”。赤と黒に染まった“赫眼”。月山習はミカドを狙う喰種だ。
「しかし驚いた。一体いつから気付いていたというんだいッ!? この僕が喰種だと!」
「単純に怪し過ぎだ。少し道を間違えた後の展開が、あまりに都合が良過ぎた。そもそも喰種がいるかもしれないのに丸腰2人は、流石に止めないと不自然だ」
「僕としたことが…Be cool…少々気がはやり過ぎていたようだ。なにせ、君は是非ともこの晴天の下でッ! その燃える瞳をランチとして頂きたいッ!!」
そのグルメじみた願望を叫びながら、月山の一撃一撃が建物を易々と崩していく。
圧倒的なパワー、俊敏、そして攻撃精度。この数撃でも断定するには十分だ。
この月山習という喰種は、昨日の「ドードー」よりも格段に強い。
「君の栞を拾った時、僕の鼻腔に電流が走ったのさ。君から香るそのフレグランスッ! ヒトのそれでありながら、この僕が出会った事の無いまさに未知! それは宝物庫を見つけた冒険家のように、僕の心はっ…むっはァッ! そう! 君の味への好奇心に奪われてしまった……ッ!!」
腕に巻き付いた赫子の攻撃を続けつつ、時折隙を伺って混じる蹴りも強烈。まともに受ければ一発で体が引き千切れてしまうだろう。
ミカドを追い詰める月山が赫子を突き出し、トドメの一撃を食材に献上する。しかし、感じるはずだった肉の手応えの代わりに伝わったのは、硬い鉄の感触。
ミカドは工事現場の鉄パイプで、その一撃をなんとか凌いでいた。
「なるほど…かつて、〔CCG〕の“死神”は傘で喰種を討伐したという。君に、そしてこの僕を相手に! それと同じことができるかな!?」
月山の甲赫の形状が変わった。ドリルのような螺旋の先端が伸び、剣のような形状に。肉の刃の内側でRc細胞が躍動し、食欲をエンジンに猛攻は加速する。
「適度な運動で肉も程よく解れただろう…そろそろ食べごろだッ!」
異常な身体能力と技巧を絡めた攻撃を受け切ることはできず、鉄パイプは一瞬で斬り落とされた。そして再び襲い来る高速の突きが、ミカドの二の腕に切れ込みを入れる。
「ッ…! 避けきれなかった…!?」
「心臓を一突きにしたつもりだったのに…活きが良いランチだ。だがそれもまたSpice! さて…折角だ。味見といこうじゃないか」
赫子に付着したミカドの血液を指でなぞり、息を荒くしながら一気に舐め取った。その瞬間、月山の舌先から全身に伝播する味覚の衝撃。
「トレッッッ!!ビアンッッ!!! 予想通り…いやっ!? 予想以上に予想外の味わいッ! 新しい! 珍味ィ! これこそ味覚のォォォォ
月山習は「
その通り名に違わず、彼は究極の美食を追求している。陸上選手の脚、料理評論家の舌、ピアニストの指、人肉の熟成や燻製…ありとあらゆる趣向を凝らして味の道を開拓し続ける稀有な喰種だ。
そんな月山が全く知らない味、それがミカド。
50年の時を経て人間の“味”もまた大きく変わったのだろう。未来からやって来た未知の食材の味に、月山の興奮は絶頂に至っていた。
「くぅッ…悩ましい! 君をどう頂くべきか…目はソテー、それとも生食? 臓物は? 骨は!? 量が少ないのが悔やまれるッ…! ミカドくゥゥゥンっ! 君は美食の世界に現れた新星、そのものなのだよ!」
「黙れ人喰いのバケモノ! 人の体で勝手に献立を……」
血液を摂取したからか、月山の動きが更に向上した。
一撃を避けきれずまた傷が入ってしまう。もはや、出し惜しむ理由はない。
《ゲイツ!》
「変身!」
月山が破壊した壁の土煙の中から、電子音が響く。
そして、その首を薙いだはずの赫子が、強い拳に弾かれたのを感じ取った。
仮面ライダーゲイツへと変身し、ミカドは月山という喰種、すなわち悪の怪物に対して全霊の戦意と殺意を浴びせる。
《ライダータイム!》
《仮面ライダー!ゲイツ!!》
「…やはり君はチョコレートケイクさ。甘さの中にあるビターな強さと怒り…それがまた一層、僕の食欲を駆り立てるッ!」
「人の姿だからと、俺としたことが甘かったのは認めよう。容赦はしない、殺してやるぞ喰種!」
「…
「ファイズ」、その名を聞いたミカドの瞳が仮面の奥で大きく開く。
再び幕を開けようとする死闘。しかし、そんな殺意の暴風地帯のような場所にも、いつもの小動物は易々飛び込んで来る。
「あ、月山君いた。あれ、ミカド君もいる」
「「掘!?」」
「「…!?」」
よっこらせと乱入したホリチエ。
その名前を同時に呼んだミカドと月山は、思わず顔を見合わせてしまった。
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「説明しろ掘」
「説明してくれるかな掘よ」
またも月山とミカドの言葉が被る。未だ殺気の漂う空間で、ホリチエはあくびでもすうようにゆったりと説明した。
「だから月山君に紹介したかったのがミカド君で、ミカド君に会わせたかったのが月山君ってこと」
「俺に会わせたかったのが喰種だと!? 冗談も休み休み言え!」
「ハハッやはりDestiny! 全く気が利くね僕のリトルマウスは。僕のためにこんな珍しい食事を運んできてくれるなんて」
「違うよ。ミカド君は私が写真撮るんだから、食べちゃダメ」
「君のジョークはいつも冴えているね! まぁその話は後でじっくりするとしよう。それにしても、僕らの居場所がどうしてわかったんだい?」
月山の問いかけに、ホリチエが彼の襟元にあった発信機をヒョイとつまみ上げる。
「月山君はすぐどっか行っちゃうから、イクマ君にコレ付けてもらったんだ」
「その歳にもなって礼儀がなってないお転婆ぶり…だがそれが君のキュートかつユニークなところでもある!」
「どこかに行くのは貴様だろ。待ち合わせは時間通りに来い! そのせいで変態の喰種と鉢合わせてしまった!」
「変態とは心外。僕は紳士さ」
「え? 私ちゃんといたよ、待ち合わせの店」
よくよく確認すると、ミカドが待っていたのは近くの別の店。どうやら目的地直前で曲がる角を間違えていたらしい。
「……それで、何故貴様とこの喰種が親しいんだ」
「誤魔化した。まぁいいけど。
月山君とは高校の時の同級生で、私が月山君の捕食シーンを撮った時からよく一緒にいるね」
「あの時の衝撃は忘れられないよ…そう、あれは月の映える夜だった……」
「一応言っておくけど、私は喰種じゃないからね」
「僕の話を遮らないでくれるかな、掘よ」
喰種と人が友達。信じ難いが、やり取りを見る限りは真実だ。
となるとウリエが言っていた『喰種の隠匿』も真実。ホリチエが善人なのか悪人なのか、ミカドには分からなくなっていた。
殺し合いから談笑になってしまったのは仕方がないとして、月山の一人喋りも鬱陶しいのでミカドは気になっていた単語について聞き出すことにした。
「喰種と話すのは不本意だが…」
「僕は食材と話すのは好きさ。口にする美味が僕に咀嚼されるまで何を思い、どんな人生を歩んできたのか…それもまた食事を盛り上げるエッセンス!!」
「黙れ。俺が聞きたいのは貴様が発した名前のことだ。掘が俺をこの喰種に会わせようとしていたのも、恐らくその事だろう。答えろ、『ファイズ』とは何だ?」
ミカドが持つ2068年の携帯型ガジェット、その名が『ファイズフォンⅩ』。
仮面ライダーの名前を全て把握しているわけではないが、ファイズフォンⅩもライダーの力を分析して作られたライドガジェットの一つ。関係が無いという方が考えにくい。
「これはまた驚いたね。ミカドくん、もしや君が追っている喰種というのはムッシュ・ファイズのことかい?」
「ファイズとは喰種の名か。掘、ということは…」
「うん。私が知ってるアナザーライダーは、そのファイズっていう喰種のこと。ほらこの写真見て」
ホリチエが出したのはアナザーライダーの写真だった。マッシブな灰白色の体の全体に赤い血管が巡っており、その肩には『FAIZ』の文字が。アナザーライダーの特徴と一致する。
「アナザーファイズ…というわけか」
「アナザーファイズ? What's!? 僕を置いて話をするのはやめてくれ給え!」
「ただでさえ月山君と喋ると長いから、まずは20区に戻るよ。事情はそこで話し合うから、それまでは月山君とミカド君、仲良くしてね」
「仲良く……だと? 人を喰らう怪人とか…!?」
今も床に落ちたミカドの血を嗅いでは悶えている喰種と、何を仲良くすればいいのか。ミカドは滾る殺意を押しとどめ、ホリチエに続いて20区へ向かった。
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喰種対策局、通称〔CCG〕。
1区にある本部にて。「ドードー」に関する報告書の提出を終えたウリエは、トレーニング場へと向かっていた。
ウリエや多くの捜査官にとって、喰種捜査のために一分一秒が惜しい。捜査できないのなら体を鍛え、更に強力な喰種を駆逐できるようにする。当然だ。
彼ら喰種捜査官をそこまでさせるものは何か。喰種から人々を守りたいという正義感もあるだろうが、そうじゃない例も多い。ウリエはその典型だった。
(やはりBレートの単独駆逐程度では大した功績は望めないか…喰種の捕食数も減っている。これでは今期の木犀賞すら……!?)
ウリエが戦うのは功績と昇進のため。目指すのはCCGの最高戦力「S3班」への着任。現在地はS1班所属の一等捜査官と年齢の割に相当優秀な立ち位置だが、こんなもので満足は出来るはずもなかった。
「単独での『ドードー』討伐、お見事だ。瓜江一等。S1に行って随分と腕を上げたみたいだな」
「…真戸准特等。と……」
「よぉウリ公、久しぶりだな。またトレーニング漬けか?」
「……シラズか…(気安く話しかけるな)」
ウリエの前に現れたのは、「出来る女」といった風貌の女性捜査官と、その後ろについて来たウリエと同年代の人相のあまり良くない男性捜査官。
女性でありながら異例の速さで准特等にまで昇進した敏腕捜査官、
「『ドードー』討伐の件ですが、大した事ではありません(本当にな)。別の喰種を追っていた際に偶然出くわしただけですので」
「S1が追っているのは19区の『ジュラルミン』…Sレートの喰種だったな。顔も割れていたが突然行方を眩ましたと聞く。ヤツの足取りは掴めたのか?」
「『ジュラルミン』はS1の担当です(お前らに手柄を取られてたまるか)」
「冷てぇな。そりゃお前にとっちゃ、俺らの班なんてショボいかもしれねぇけどよ…」
「ほう、私の班がショボいとは言うようになったな不知一等。私の指揮に文句があるならかかって来い。真戸パンチをお見舞いしてやる」
微笑を浮かべながら拳を構えるアキラに、「勘弁してくださいよ!」と喚くシラズ。その見慣れた光景にウリエは奥歯を噛み締める。
(下らない慣れ合いを見せるな…勝手にやっていろ…!)
ウリエはこの2人が気に食わない。
アキラは冷酷そうに見えて感情が豊かな女性で、彼女が率いる班も人間味のある色が強い。ウリエからすればそれが慣れ合いのようで苛立って仕方がない。現特等を何人も育て上げた名捜査官、真戸呉緒の娘だかなんだか知らないが、所詮は死ぬまで上等だった男だ。高が知れている。
だが、ウリエが特に気に入らないのはシラズの方だった。
(なぜお前が俺と同じ一等なんだ…!)
捜査官の階級は上から、『特等』『准特等』『上等』『一等』『二等』『三等』。ウリエとシラズは
二等から一等に着任する平均年齢は27歳。ウリエは順調に功績を稼ぎ、20で一等に着任した。順風満帆だった。
しかしそれから一向に上等に昇進できないまま燻っていた時、同じ班だった落ちこぼれのシラズがSレート喰種を討伐し、一等捜査官になった事を聞いてしまった。
「そ、そうだウリ公! 俺もこの間やっと一等捜査官に…」
「あぁ知っている(嫌味かクズが)おめでとう、不知一等(お前には過ぎた肩書だがな)これで念願の昇給も望めるはずだ(偶然Sレートを討伐したくらいで図に乗るな。俺の前から消えろ)」
本音を建て前で覆い隠すが、醜い感情の炎は勢いを強めるばかり。
シラズもそれ以上何も言う事ができず、何とも言えないようなムズムズした顔でアキラの後ろに下がっていった。
「そうだ瓜江一等。近日実行される『例の作戦』のことなんだが…
S1と上等数名で担当する予定だったそうだが、ヤツが呼んだという“出席者”や“護衛”の情報が手に入り、急遽戦力を大幅に見直すこととなった」
「…具体的には」
「“アオギリの樹”残党、SSレート『ラビット』及びSレート『墓盗り』。先日“コクリア”から脱走したSSレート『神父』ことドナート・ポルポラ……他にも辛口な面子が揃っている。それに合わせ、我々真戸班や特等捜査官数名、S2班も配置されるとの事だ」
S2班が来ると聞いて、思わず不快感が顔に出てしまいそうになる。
この一件で討伐数や功績を稼ぐ算段だったのに、S2が来るとなればその功績を大幅に持っていかれてしまう。
「私からは以上だ。邪魔をして悪かったな。行くぞ、不知一等」
「…またな、瓜江」
「あぁ(二度と顔を見せるな)」
「おっと忘れていた。
「分かりました(またか。訓練でも見てくれるなら有難いが…)」
ウリエの内側を冷や汗が伝う。この作戦の結果次第では、シラズ如きに階級を追い越されてしまう。優秀な同期は他にもいる、彼らに後れを取っているようではS3班なんて夢物語だ。
「(ふざけるな…! この『ファイズ討伐戦』で功績を挙げ、上等に昇進するのは俺だ)」
S+レート喰種「ファイズ」。今回の作戦はファイズが開催する“とあるイベント”の掃討作戦。そのイベントとは───
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「あの時言っただろう? carnaval…謝肉祭さ」
「謝肉祭だと? どういう意味だ」
「そのままの意味だよ。元来の意味とは異なってしまうが、ムッシュ・ファイズは年に一度、多くの喰種を集め食事と娯楽を楽しむFestivalを開催する。彼はそれに『謝肉祭』と銘打ったのさ! 実にユニークなセンスだ!」
一行は月山が所有しているという20区のビルの一室に集い、月山の口からファイズの詳細が説明されていた。
ファイズという喰種が行う『謝肉祭』。2003年から年に一回、時期は不定期で行われているらしい。そんな大規模なイベントをやっていたら捜査官に見つかりそうなものだが、参加者や護衛に毎回手練れを呼んでおり、情報統制も厳格で、捜査官も下手に手が出せないようになっているらしい。
「肉に感謝する祭典、謝肉祭…か、喰種が? 笑えない冗談だ」
「有象無象が集まる三流イベントと侮っていたが、ムッシュ・ファイズはこの日のために興味深い食材や催しを用意しているというじゃないか! この『美食家』が参戦しないなんて…全くもってナンッセンスッ!! 集まった喰種たちも、この僕の登場に湧き上がることだろうッ!」
「でも月山君は呼ばれてないじゃん。招待状来たのはイクマ君で、月山君は勝手に行くって言ってるだけだし」
「んんッ! 何故桃池くんが招かれてこの僕がスルーされるんだい!? whywhywhywhywhy!」
月山が発狂していると、そこに新たにもう一人が扉を叩いて合流する。
ギターケースを背負った地味目な青年だった。月山を見た後だと誰でも地味に見えるだろうが。
「全然駄目っすわホリチエさん…今日も“収穫”ナシ…って月山さんと知らん人おる…? こんにちは…」
「やぁ桃池くん! 久しぶりだね、メロディのご機嫌は相変わらずかい?」
「こちら話題に出てた
「ホリチエさん!? あ、じゃあこの人も? でも匂いが…」
「ミカド君は人間」
「貴様も喰種か…2対1で俺を喰うつもりか? 上等だかかって来い、殺す」
「ちなみに喰種は嫌いみたい」
「やっぱそうじゃないっすかーッ!! どういうことなのよこの状況!?」
人間一人に対し随分と怯える喰種だ。喰種も好戦的な個体ばかりではないということか。
イクマがパニックで大声を出した矢先、彼は咳き込んで膝から倒れ込んでしまった。突然だが見覚えのある光景。その掌には、予想通り『灰』が付着していた。
「桃池くん! あぁ…『灰病』はよくなっていないのか。そんな体で“喰場”の死体漁りなんて……食材なんて僕が獲って来るというのに! そうだっ、この新鮮なミカドくんを咀嚼するといいッ! 味は僕が保証しよう! ただし一口目は僕が貰うけどね」
「食わせてたまるか! そっちがその気なら、今ここで貴様らの息の根を止める!」
「ちょ…月山さん誤解招くこと言わんといてください…! 大丈夫です、俺は全然大したこと無いんで…!」
イクマの方はやはり戦う気は無いようで、なんとか雰囲気をなだめようとする。それにしても気になるのは、「ドードー」と同じ「灰病」と呼ばれる症状だ。
「掘、『灰病』とはなんだ? 聞いたことの無い病だが」
「灰病とはッ…!!」
「貴様に聞いていない」
「灰病は喰種だけがかかる病気なんだって。こんな風に体の中が灰になるみたい。喰種はそのくらいなら再生するけど、症状が最悪の場合は体全部が灰になって死んじゃうらしい」
「僕ら喰種を蝕む悪病…月山財閥の技術と人脈を以てしても、未だ治療法や対策は確立されていない…!」
喰種は立場上、病院を頼りにはできない。そもそも喰種の医師なんてほとんど存在せず、再生力が高いのだから人間のように医療技術が発展することもない。情報コミュニケーションも人間のようにはいかないため、未だ病の原因すら掴めていないらしい。
「僕にもいつ病魔が襲い掛かるのかと思うと恐ろしいよ。だが例えそうなってしまっても、せめて息絶えるその瞬間まで…僕は美食を追求し続けたいッ!! 」
「なんとなく月山さんは大丈夫な気がしますわ…」
「Why?」
「バカは風邪ひかないって言うじゃん」
「ハハッ、この子ネズミ」
「茶番はそこまでにしろ。灰病とやらの話はもう十分だ。
俺は目的のためにファイズに接触する必要がある。その謝肉祭とやら、俺も行けばいいんだな」
「最初からそのつもりだと言ったはずだよ。君はこの美食家が直々に用意した珍味として、宴の皿に乗せられるのさ。安心したまえ、腕のいいシェフが君を最高の美味に調理してくれる!」
話が嚙み合っていないが当然だ。ホリチエという共通の知人がいるから戦っていないだけで、月山は常にミカドを喰う気だし、ミカドは常に月山を殺そうとしているのだから。
「…なんでふたりとも戦おうとしてんの?」
再び点火した殺気を、またしても吹き消したのはホリチエだった。
「何故…とは? 話を聞いていなかったのかい? 掘」
「この2体の喰種を殺し、招待状とやらを奪う。それでファイズに接触する。それ以前に人を喰う怪物を放置できるか」
「でもミカド君、月山君とイクマ君殺して招待状手に入れても、喰種のイベントに人間が紛れ込んでもバレバレだよ? 捜査官でもそんな作戦取れないと思うけどな」
喰種は嗅覚に優れており、人間と喰種を判別するのは容易い。いくら変身したとしても、何十何百の喰種に囲まれれば手も足も出ない。かといって、そうなればファイズに近づく方法は無くなってしまう。
「月山君とミカド君、利害は一致してるんじゃないかな」
「Hmm…?」
「…どういうことだ?」
「謝肉祭では色々な催しがあるって言ってたよね。だったらさ、『生きた人間を解体する』とか『その場でライブクッキング』とかあるんじゃない?」
「懐かしき“喰種レストラン”のように…かい? 確かに、その可能性は高いだろうね」
「それならミカド君は食材としてそこに潜り込めない? 一旦潜り込んじゃえば、調理される前に逃げれればミカド君の勝ちで、できなきゃ月山君の勝ちでいいわけだし」
ホリチエは何食わぬ顔で悪魔のような策を提示してきた。
自分からまな板の上に乗れという。しかし、外に護衛もいるとなれば、それ以外に有効な手段も見つからない。
「Wait! それでは僕にメリットが無いじゃないか! 元よりミカドくんの全部を持っていくつもりは無いんだ。こんなにも美味しそうなミカドくんを衆目に晒した挙句、大部分をゲストに食べられてしまうなんてェ……ガッデム! なんて悲劇だ!! 僕は絶対に許可しないィ!!」
「んー…あ、そういえば月山君。こんな噂聞いたんだけど、ちょっと耳貸して」
発狂する月山の耳元で、ホリチエが何かを囁く。すると、月山の昂ぶりは途端に勢いを弱め、代わりに目を大きく開いたかと思うと気味悪げに笑いだしたではないか。
「やはり僕は素晴らしい友を持った…僕のことをよく分かっているじゃないか、小さき僕のfairyよ! 君の言葉に僕はいつも惑わされる…まさに甘美な蜜を運び来るhoney beeさ!」
「妖精からミツバチって急に随分下がったね。それに月山君ハチミツ食べた事ないじゃん」
「ないけども。そうと決まれば喜びたまえミカドくん! 君を“生きて”かの祭りに招待しよう! 是非とも精々足掻き、僕の宴を盛り上げてくれたまえッ!」
「月山君は招待されてないけどね」
「ないけども」
月山が何を企んでいるかは知らないが、どうやら謝肉祭に潜入することは出来そうだ。そこでアナザーファイズの手掛かりを掴み、ファイズのプロトウォッチを手に入れる。そして……
「ファイズのウォッチは俺一人で手に入れる。日寺…貴様の出る幕は無い」
壮間が免許取得に現を抜かしているうちに、差をつけてやる。
そう固く決意するミカドの意識に、ふとアナザーファイズの姿が浮かび上がった。あの灰白色の体───ミカドの心に焦げ付いたある記憶が、徐々に濃くなっていく。
『こんなに誰かを救いたかったのに…皆に生きて欲しかったのに…
俺は……なんで生きちゃいけないんだよ…ッ!』
思い出すたび、心の結び目は硬くなる。
殺すんだ。力を持つ悪は殺す。これ以上、悲劇を生まないために。殺し続けるしかない。そうしないと、なんのために───
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謝肉祭の日が近づく。
招待された者、招かれざる客、イレギュラー…それぞれの理由で、彼らは宴へと赴く。
「アヤト…どういうことだ、なぜ今更あんな戯れの護衛を…」
「『ファイズ』が条件を出してきた。ヤツは『エト』の居場所を知っているらしい、働き次第じゃ案内してもいい…ってな。俺らはそれに縋るしかねぇ。行くぞ、ユミツ」
CCGによって半壊滅状態に陥った喰種集団『アオギリの樹』。青年の喰種、霧嶋アヤト───「ラビット」と女性の喰種、巴ユミツ───「墓盗り」は、組織再興のためマスクを着けた。
「謝肉祭…まっこと
目玉を舌の上で転がし、「神父」はマスクの下で愉快に浸る。
監獄を破り味わう外の世界は、やはり愉しみと驚きに溢れた喜劇の舞台だ。
「見つけたぞ…コイツが『ファイズ』の───!」
〔CCG〕にて、過去十数年にも渡る資料の中で、ウリエはその可能性に辿り着いた。これが真実ならば、動き次第では計り知れない功績が手に入る。ウリエの心は既に決まっていた。
「先輩がお寝坊されたので、この右腕が代わりに出席致したところ…例の『謝肉祭掃討戦』、先輩のお力をお借りしたいとの次第。しかし我々とて別任務中…葛藤半兵衛…」
「じゃあ半兵衛と僕で行けばいいです。それに…いいことを思いついたですよ」
「……ッ!…フッ…!ふんッ…!
………ドナート…ッ!! 貴様は…必ず…!!」
椅子にもたれかかってお菓子をつまむ小さな捜査官と、胸元の十字架のロザリオに義憤を誓い、肉体を鍛え上げる巨躯の捜査官。
「夏が燻る。この季節はよく死ぬ。懐かしい匂いがするなぁ。
僕と一緒に熱狂しようぜ、灰になって遊ぶ『お祭り』だ」
物語に空いた大きな『穴』に、誰も気付くことはない。
変わってしまった世界で、穴の中で異物は孤独に執り仕切る。
祭が始まる。入場コードは『555』。
登場キャラ紹介。
恐らく最も知名度が高い喰種、月山習(CV宮野真守)。「:re」から登場する僕の推しこと東京喰種の草加枠、瓜江久生と、声はウルトラマントレギアの不知吟士。人間サイドのヒロイン、真戸アキラ。あと小説版のみのレギュラー、地方からミュージシャン目指して上京した喰種の桃池育馬くん。最後の方チラッと出た奴らも次回から暴れます。多いですね、頑張ります。
この多数のキャラの中で、ファイズに繋がる道は一体誰にあるのか……ミカドの過去にもスポットライトが当たり始めました。
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