仮面ライダージオウ~Crossover Stories~ 作:壱肆陸
これは本作品響鬼編で扱った、「響鬼×いぬぼく」の物語の一部を切り取ったものです。
Access…[Archive 2005]
File:KABUKI
時代は戦国から江戸に移り変わる、そんな世。
世界の変化を意識に留めることも無く、裸足で闇夜を駆け抜ける影が『獣の姿』から『人の姿』へと変容した。
「…腹減ったな」
丸い眉と黒髪の、やせ細った少年。
彼は『犬神命』。妖怪『犬神』を先祖に持ち、その形質を受け継いで生まれた半妖の存在。犬神の『先祖返り』である。
先祖返りは家の繁栄を呼ぶと言われ、いわば縁起物、家具のように扱われることも多い。そんな風習により、彼は生まれて一度も自分の意思で外の世界を見たことなんて無かった。
だから命は家から脱走した。
追手から逃げ、人から金品や食物を奪う毎日。脱走したところで、自由なんて何処にも無かった。
「今夜の飯は…アイツから巻き上げよう」
先を考えずに山奥にまで逃げてしまったが、幸運にも人影が見えた。
犬神の姿に変身すると、命は唸り声をあげてその人物へと飛び掛かる。
「お前さん、先祖返りか。こりゃ面白いもん捕まえた」
「……は…!?」
気付けば命は組み伏せられていた。
何も食べていない命に抵抗はできない。ただ反抗の意志を表情に出し、その人物を睨み見上げる。
先祖返りである命に対し、弱者を見る眼。腹の内から感じる獰猛さ。腕から伝ってくる、世を生き抜くに足る大きな力。
その男は、まるで山犬のような奴だった。
「……で、お前さんどっから来たよ。家から逃げてきたクチか?」
「うっせぇ…おまえに関係無いだろ」
「飯食わせてやってんだぜ?話くらいしろってんだ…ったく」
その山犬のような男は、命を捕まえると持っていた握り飯を振舞った。ただし、逃げないように縄で縛りながら。
この男は何なのだろう。先祖返りを知っているかと思えば、家に差し渡すこともないから追手でもない。かといって逃がすわけでも無い。意味不明だ。
「俺ぁカブキ。鬼ってやつだ」
「鬼…?なんだそれ。おまえも先祖返りかよ」
「違うさ。似たようなもんだけどなぁ、従妹みたいなもんだ仲良くしようぜ」
「…わけわかんねぇ」
その後、一晩逃げる隙も無く。命の生殺与奪はカブキが掌握したまま再び日が昇った。
「おいなんだよ!放せ!俺を何処に連れてく気だ!」
「うるっさいうるっさい。ほれ着いたぜ」
命が連れてこられたのは、山奥に佇む小屋だった。
その庭で薪を割っていた一人が、帰ってきたカブキに駆け寄って来る。
「お師匠様…よかった…昨日帰ってこなかったから…心配で…」
前髪で顔も見えないような少女は、弱弱しい声でカブキの帰還を喜んだ。
しかし、庭にいるもう一人の人物は、少女の声を掻き消すように力いっぱい薪を割る。
「俺は別にどーでもよかったけどな!オマエが居ない分、飯が沢山食えて最高だったぜ!」
「え…でも彦匡さま…昨日はご飯に手も付けてなかった気が…」
「うるせーよツクモ!食ったよ!オマエが見てねぇ所でたらふく食ったんだよ!心配で飯が喉通らなかったみたいに言うんじゃねぇ!」
「よしよし、おめぇらが俺の事を好いてるのはよーくわかった!ほれ、頭なでてやっからこっち来な」
「誰が行くか!つーか誰だよそのチビ野郎!」
小屋に居たのは不気味な女と喧しい男。男の方はチビ呼ばわりまでしてきた。うざったい事この上無い。
だが、犬神の力で鼻が利く命は、彼らの正体を嗅ぎ分けていた。
「あいつらも先祖返り…!?」
「お、わかるか。だからお前さんを拾って来たんだ。喜べ彦匡、九十九、此奴は俺たちの新しい家族だ!」
「はぁ!?ざっけんな!俺は自由だ!てめぇらに飼い殺されるなんて御免だ!」
「そうだぜカブキ!こんなの増やして、これ以上飯が減るのは勘弁だぜ!」
「此奴も先祖返りなんだよ、そう言ってやんな彦匡。それに犬のお前さん。自由ったってどうすんだ?このまま逃げても、捕まって家に逆戻りか飢えておっ死ぬかのどっちかだ。解ってんだろ?」
それを言われると命も言葉が詰まる。
結局、先祖返りが逃げ出したところで自由は無い。その現実を痛感してしまい、己の運命が憎い。腹が立って仕方が無い。
「…私、槌口九十九…です。よろしく…お願いします…」
「るせぇ!俺に気安く触れんな!」
手を握ろうとした九十九の手を、命は思わず弾いてしまう。それに怒りを燃やした彦匡は、命の薄汚れた着物の襟を掴み、お互いが殴りつけるかの剣幕で命に言葉で噛み付いた。
「おいテメェ!ツクモに何しやがんだこのチビ野郎!」
「何?やるってのかよデカブツ!」
「おめぇら…喧嘩すんなっ!」
互いを睨み付けていた二人の顔が、カブキの手によって文字通り激突。結構な勢いで額を打った二人は、額を抑えた同じ格好でうずくまる。
「先祖返り同士で家族なんだから仲良くしろ!喧嘩すんなら、俺がおめぇらをたこ殴りにすんぞ!」
「「本末転倒じゃねぇか!」」
その後は、なし崩し的に一緒に暮らす流れになってしまった。逃げようとするとカブキが暴力的に止めてくる。命も逃げるだけ無駄だと思うようになり、抵抗するのをやめた。
共に過ごすうちに魔化魍の存在や、カブキたち鬼について知ることにもなった。その戦いに同行することもあった。
そうやって、案外退屈しなかった時間は過ぎ去って行った。それも不気味なほどに静かに。ある日、命はその疑問を言葉にした。
「俺の家も、おまえらの家も、全然追ってこないよな。こんな小屋一つ、見つけるのわけねぇだろ」
「それは…お師匠さまが昔婿入りした家が…先祖返りの家だったらしくて…その家の力で上手く誤魔化してる…らしいよ…?」
「って言っても、そんなのができる家なんて悟ヶ原家くらいだけどな」
洗濯をしながら、九十九と彦匡がそう答えた。
『悟ヶ原家』。妖怪『サトリ』の先祖返りを擁する家で、先祖返りを束ね、秩序を守る家。しかし命はその名前に要領を得ていないようだった。
「なんだよオマエ、先祖返りなのに悟ヶ原家も知らねぇのかよ!」
「読み書きもできない馬鹿牛に言われたくねぇし。サトリガハラって、どうせ書けねぇし読めねぇんだろ。知ってるうちに入るかよそんなの」
「うるせーよ!物覚えんのは苦手なんだよ!」
「お、なんだ。俺の話にそんなに興味あんのか?」
洗濯板で命を殴りかかろうとした彦匡の背後。いつの間にかカブキが仁王立ちしており、彦匡の手から洗濯板を取り上げる。
しばらく共に暮らして命も色々と理解してきた。
九十九は引っ込み思案だが優しい少女、一緒にいて悪い気はしない奴。それに対して彦匡は頭空っぽの暴力野郎、ただの馬鹿、牛なのに馬鹿だ。
だがカブキだけは上手く言葉で言い表せない。掴みどころが無く、心の底が見えない。ただ滅茶苦茶に強くて、力だけじゃなく立場もそれなりにあるらしいのは分かるのだが。
「そこまで言うなら教えてやろうじゃあねぇか。俺がカミさんと出会ったのは、桜舞い散るあのえらく綺麗な丘で……」
「興味ねーよ、おっさんの馴れ初めなんて。気分悪くなった罰でカブキと彦匡は夕飯の味噌汁抜きな」
「なぁっ!?そりゃ酷ぇぜ命!彦匡てめぇ!」
「おいなんで俺も!?てか俺が悪いの!?」
命も飯係という役割を押し付けられ、それなりに忙しい毎日になった。
毎日こき使われ、狩りにも行かされた。腹は立ったが、気分は不思議と悪くなかった。家にいた頃の置物として祀られる毎日よりは、随分と「生きている」感じが心地よかった。
「で?わざわざ昼飯前に何の用ってんだ彦匡?」
「見せたいものがある…って聞いたけど…」
ある日の昼時、命と九十九、カブキは彦匡に集められた。一際上機嫌な彦匡に対し、一際不機嫌だったのは命だ。
「おまえ、昼飯前に俺にご足労願ったんだから大層な用なんだろーな?つまらなかったら大罪だぞ。そん時は牛の火炙り死刑な」
「それほどの罪か!?いーや命、オマエも仰天だぜ。つまらねぇなんて言わせねぇ!」
彦匡はそう言って、音叉を展開した。
音叉はカブキが鬼に変身するのに使う道具。彦匡はカブキと同じように音叉を弾き、反響する波動を額に翳す。
そして彦匡の身体は紫に燃え上がり、鬼の姿へと変身して見せた。
「どうだ見たか!これで俺も鬼だ!」
「彦匡さまが…遂に鬼に…!」
「おいおい、すげぇじゃねぇか彦匡!先祖返りの鬼なんてとんでもねぇ事だぞ!“こんぐらっちゅれーしょん”って奴だな!」
何処からか聞いてきた南蛮語で喜ぶカブキ。感極まって涙を流す九十九。それも無理はない話だ。先祖返りが鬼になったという前例は未だかつて無かったのだから。
彦匡と九十九はカブキに鬼の修行をつけてもらっていた。命もそれを見ていた。だから、その努力が実ったことに素直に感動している。
「どうだ命、何とか言ってみろや?あぁ?」
「……いやつまんなかったな。どうしてくれんだおい、気分悪くなったぞ。早く市中引き回し打ち首獄門しろよ」
「罰重くなってねぇか!?」
それを認めると彦匡にデカい顔をされそうなので、命は悪態をついた。
これが自分の良くない部分だというのも、直したいと思うのも、誰かに触れなければ気付かなかった事で、愛おしく思う。
「命や、ちょいといいかい?」
「…なんだよカブキ」
「ん?お前さんが来てからしばらく経ったと思ってな。あれから飯は美味いし、彦匡も九十九も明るくなったし、俺にゃ良い事ずくめだった。命はどうだ?」
「別にぃ……」
楽しかったに決まっている。カブキは得体が知れなくても父親のようで、九十九と彦匡は兄弟のように接してくれた。家族なんか居なかった家より、ずっと暖かい日々だった。
命は、この生活がたまらなく気に入っていたのだ。
「俺ぁもう命が逃げるのを止めない。自由になりたきゃ、いつでも行っていい。お前さんが捕まらないように、これまで通り手も回してやるさ」
「今更ガキ一人で何ができるわけでもねえしな……まぁ…飽きる迄は居てやるよ」
命が選んだ生活が、それから数年続いた。
時には戦い、時には前のように逃げ、それでも楽しく満たされた毎日が続いた。
先祖返りに生まれた身には、過ぎた幸せかもしれない。
三人の半妖はそんな気持ちを共有しながら、願った。こんな時間がもう少し続けば……と。
しかし、ある時にその平穏は断ち切られた。
封印されていた最凶の魔化魍、「オロチ」の復活だった。
「なぁ本当に行くのかよ。カブキ、彦匡」
オロチの討伐に全国から鬼が駆り出された。その中には当然、彦匡とカブキの名前も連なっている。
「人間なんか救って何になるんだよ。それでおまえらが死んだら意味ねえだろ!?」
「なーに言ってんだよ命。俺も彦匡も死にゃしねぇさ」
「当たり前だろが。俺は最強の先祖返りで、鬼だからな!」
オロチは恐ろしく強い魔化魍と聞く。もう既に幾つもの村が滅ぼされた。これまでの魔化魍退治とは訳が違うのだ。
だが、そんな引き留めの言葉など焼け石に水なのは解っている。九十九もそれは理解していたようで、本音を飲み込みながら「それ」を彦匡に手渡した。
「…なんだよこれ。刀?」
「彦匡に…贈り物……私も何か…力に成りたかったから…」
九十九が街の鍛冶屋に頼み、作ってもらった彦匡の剣。ただ、そこに彫ってあったのは見慣れない名前だった。
「……!…?」
「読めねえんだろ馬鹿牛。それは“響鬼”って読むんだよ」
「彦匡の鬼としての名前…まだ決まってなかったから……命に字を教えてもらって…一緒に考えた」
「はぁ!?ツクモ、オマエ…命に読み書きを!?なんか変な事されてねぇよな!」
「するかよ。俺はもっと活発で空気読めないくらいの女が好きだ」
「“響く鬼”、いい名前じゃねぇか。俺の“歌舞鬼”には敵わねぇけどな!生きて帰る理由が増えちまったな、ヒビキ!」
「あぁ…まぁそうだな。ありがとうな。ツクモ、命」
何も心配する必要は無い。この戦いが終われば、また元に戻る。またあの毎日がやって来るはずだ。
戦いの末、オロチは討たれた。
あれだけ強大な魔化魍を相手に、犠牲者はただの一人で済んだ。鬼たちの必死の健闘の結果、オロチを相手に奇跡的な結果だった。
ただその戦死者が、飛牛坂彦匡だっただけの話だ。
「彦匡……が……!?」
遺体すらも帰ってくることは無く、戻って来たのは何の役にも立たなかった贈物の剣だけ。それからの九十九は、とても見ていられるような有様では無かった。
そして、程なくして九十九は、その剣で自ら首を斬って死んだ。
「……なんでこうなるんだよ。帰って来るって言ったじゃねえかよ」
あれ以来カブキは姿を見せない。
残された命は、また一人になってしまった。
こんな自由なんてもう要らない。またあの時間を過ごせれば。望むのは、たったそれだけの、果てしなく遠い願い。
「…………よくやってくれたな」
何も考えずに海辺を歩いていた命は、そんな声を聴いた。声の根元は海岸の洞窟。そこに居たのは……カブキだった。
命にとっては最後に残された家族。直ぐに駆け寄ろうとしたその足を、次に聴こえた言葉が止めた。
「主の力無しではオロチの封印は解けなかった。礼を言おう、カブキ」
よく聞くと、その声はカブキのものじゃない。
それよりも今なんと言った。オロチの封印を解いたのは、誰と言った。
「おい…どういうことだよ、カブキ……」
カブキの前に出て行った命が見たのは、カブキと一緒にいる別の二人。陰陽師のような男と鎧を着た白髪の化け物。その存在は間違いなく、悪と言い切れる威風を放っていた。
「命……」
「誰だよそいつら!おまえがオロチを放ったってなんだよ!それじゃ彦匡は…九十九は!おまえが殺したってことじゃねえか!」
カブキは何も答えない。
「…何か言えよ!カブキ───」
命の声はそこで途切れた。
カブキの刀が、彼の胸を貫いたからだった。
「なんっ……で……」
「だから言ったろ。逃げたきゃ止めねぇって。
お前も彦匡も九十九も、また生まれ変わるんだろ?
次生まれた時は、俺なんかに会っちまわねぇようにな」
事切れる寸前だった命を、カブキは海に放り捨てた。
命の目に映った最期の景色で、カブキは───
「懐かしい夢を見たなぁ。あの頃は……あぁ、楽しかったぜ」
あれから400年以上経った、2005年。
山肌から街の灯りを見下ろしながら、カブキは目を覚ました。
彼はこの400年を生き続けていた。いや、もっと遥か昔から、彼は生き続けている。
もういつだったか忘れた昔、カブキは『千年桜』という妖怪の力で不老不死となった。いや、なってしまった。それは未練のある時間をやり直す『代償』だった。
「色々と思い出して来た。あいつらにゃ悪い事したな。
でもまぁ仕方ねぇさ。俺は人間も、先祖返りも、みんな死んじまえばいいって思ってんだから」
なんで人間や先祖返りを恨んでいるのか、永過ぎる時間でそれすらも忘れてしまった。あの楽しかった時間も、こうして夢に見なければ思い出せない。
ただ心に住む鬼が「殺せ」と叫ぶ。その声に従うだけだ。それでいい。どうでもいい。
欠伸をするカブキの後ろで、怒号に似た唸り声がした。
それは魔化魍の声。『彼』の実験の失敗作が、暴れ出した声だ。
「あの親父の研究も、ちぃーっとも進歩しねぇなぁ。やめちまえばいいのに」
カブキは黒い音叉を開き、脚に当てて音を鳴らす。
「───歌舞鬼」
桜吹雪が巻き上がり、カブキの姿を覆い隠す。
現代の舞台に踏み入る古代の鬼。翠の身体に浸食する紅き狂気。
歌舞鬼
暴れる改造魔化魍『ロクロクビ』。
歌舞鬼は巫山戯るように鬼傘を持ち、ロクロクビの攻撃を受け流す。まるで舞い散る桜の花弁のように。
「どいつもこいつもやめちまえばいいんだよ。
考えんのも、努力すんのも───生きるのも」
鬼傘の幻惑、『静』。
その次の一瞬で叩き込まれるは、激しく容赦の無い『動』。
音叉剣による一撃がロクロクビの頸を落とす。
音撃は使わない。完全に祓わないように、かといって再生もしないように、歌舞鬼はロクロクビを刹那で粉々に切り刻んだ。
「何やってんだろうなぁ、俺も。随分とつまらねぇ舞台になったもんだ」
先祖返りは不変と交わった存在。死んでも血縁の何処かで生まれ変わる。
最近生まれ変わった犬神命の話は、興味を惹かれた。
命はカブキと同じく千年桜を使って不老になり、悟ヶ原家の悟ヶ原思紋のために『百鬼夜行』という騒動を起こし、大勢の先祖返りを殺したらしい。それも、千年桜の力で時間を繰り返し、幾度となく。
その最期は、愛した者への未練を断ち切り、あったはずだった可能性に気付き、『次』への想いを胸に抱いて逝ったという。
「俺と同じ運命を背負った癖に、羨ましい最期じゃあねぇか。なぁ、命。いや……同じじゃねぇか。あいつは『いい奴』だったからな」
理由も忘れた。息をすること以外の全てを忘れた。それを忘れたところでどうせ死ねないのだから、カブキにとっては全てが無意味だ。
彦匡が好きだった。九十九が好きだった。命が好きだった。鬼の仲間が好きだった。遥か昔に居た妻や娘も好きだった。
人間を殺したかった。鬼を殺したかった。妖怪を殺したかった。先祖返りを殺したかった。
『歌舞伎』とは、日本の伝統芸能の演劇。
その起源はオロチの騒動があった丁度あの頃だというのに、彼はこの名をずっと昔から持ち続けている。ずっと知っている。
カブキは先祖返りじゃない。前世は存在しない。
でも永い時間できっと何度も感じた。
その何かを、ひたすらになぞって生きるだけ。
人を愛したい/殺したい
退屈したくない/全てがどうでもいい
巻き戻したい/もう戻りたくない
世界を見ていたい/もう見たくない
死にたい/まだ生きていたい
俺は歪んでいない。曲がっていない。
真っ直ぐだ。ただ『傾いている』だけ。
あの時だけ善に、今は少し悪に傾いているやじろべえ。
傾いているから、乗っかった奴がころころと奈落に堕ちて行くだけ。
俺は傾いている。俺は『傾き者』。
俺はおかしい。俺は『傾奇者』。
俺は歌舞鬼。俺は『歌舞伎者』。
殺して喰い尽くした骸の山頂が見えたら、また最初からやり直そう。
飽きることの無い永遠を、飽きるまで演じ尽くそう。
「老い先永い人生だ。
精々歌舞いて、生きていこうぜ」
撒き散らした千年桜の花弁が、街灯に溶けていく。
未だ惨めに繰り返す、かつての弟子がいる。
山頂の前の花道で、彼に背中を掴まれたのなら───
その時に改めて、輪廻の幕引きに期待しよう。
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