仮面ライダージオウ~Crossover Stories~   作:壱肆陸

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火兎ナギ
アナザーダブルとアナザーゴーストに変身した少女。17歳。山梨県の人気スクールアイドル。人懐っこく子供っぽい性格で、可愛らしく無邪気な女子高生。しかし、その本性は清廉な人間を汚すことを生きがいとし、薬物、売春、賭博、窃盗、殺人、ガイアメモリ、あらゆる手段で人を快楽の沼に墜とし悦に浸る真性のサイコパスである。アナザーダブルの「つがい」となる人物を洗脳し仕立てあげ、スクールアイドルを次々と失墜させ、一時はスクールアイドルという文化を崩壊寸前まで追い詰めた。体を捨てアナザーゴーストとなってからは、桜内梨子の体を手に入れるため、深層心理下で彼女を操っていた。

本来の歴史では・・・とあるイベントでμ'sと対面し、友人関係を築く。そして「あるメモリ」を使って事件を起こしたことで、その才能がメモリ流通組織にまで知れ渡ることとなり……


ここ最近で全巻読んだ漫画、「ザ・ファブル」「ウソツキ!ゴクオーくん」「ゴールデンカムイ」の146です。もっと書けや、いい加減にしろって本当に。

ファイズの謝肉祭が始まります。ゲストたちがゴチャゴチャするためミカドが少し薄いかもですが。あと、東京喰種側の設定(赫子とかクインケ)は調べておくと読みやすいかもしれません。

今回も「ここすき」をよろしくお願いいたします!


胃減る

充満する血の臭いに、薄暗さの中で光を反射する紅い瞳。

「祭」の準備をする「二人」のうち片方は、客のために用意した“肉”を爪でなぞり、近づいて来るような祭囃子に心を躍らせていた。

 

 

「トクベツな“ゲスト”と、“捜査官”に、“アイツ”も来てくれる? 今年は盛り上がる…また一緒に楽しく食べようよ。思い出すだろ? なぁ───」

 

 

一人は地面の下の闇に巣を巡らせる“蟻”の仮面。

もう一人は、血液の赤で仮面にその文字を示す。

 

無意味の意、空虚という存在、『Φ』を。

 

 

______________

 

 

 

夏休み。壮間はバイク免許を取るため自動車学校に通い、香奈は高校最後のステージに向けて練習に励んでいる中、ミカドはというと「美食家」月山に連れられ、20区の街外れの洋館に来ていた。しかも何故か正装して。

 

 

「Bonsoir、予約の品を受け取りに来たよ。ミセス・アサ」

 

「うっせーな。そのミセスってやつ気持ち悪いからやめろって言ってんだろ」

 

「Oh…質素だが味わい深い内装に似合わない、その野蛮な立ち振る舞い…相変わらずだね。君のWildなテイストに合わせ、店を模様替えすると客足も伸びると思うんだが…」

 

「面影はできるだけ残すんだよ。客が店に一々口出してんじゃねー」

 

 

ここは何かの店らしい。どうやら友人と言わずとも知り合いのようで、月山は「アサ」と呼ばれた若い店主と会話を弾ませる。月山が勝手に弾んでいるだけかもしれないが。

 

月山は「ミセス」と呼んでいたが、風貌は金髪ヤンキーの青年で背も高く、あまり女性には見えない。それよりもミカドが気になるのは、その独特な雰囲気。

 

 

「……“喰種”か」

 

「おいアンタ、あのツレ…人間だろ。どういうワケだよ?」

 

「おっとそうだった、彼…ミカドくんの胸元が寂しい気がするんだ。一つ刺繍を頼めないかい?」

 

「説明になってねーよ。なんで喰種が人間連れて来てんだって聞いてんだよ! しかも一目で勘付きやがった。何者だ?」

 

「よくぞ聞いてくれたね! これから件の『謝肉祭』だろう? 彼はそこでこの僕が用意したSpécialité…つまり食材さ! きっと花火の如く祭りを盛り上げてくれるに違いない…」

 

 

喰われる側とは思えない目付きの食材が綺麗な恰好で喰種の店に来た。月山も馬鹿ではないので通報される心配はないのだろうが、この珍妙な状況に流石のアサも「ワケわかんね…」と、その話はそこでやめにした。

 

月山はミカドから上着を剥がして、アサに渡す。

またしても喰種が目の前に現れ、ミカドは更に警戒を強めていた。街外れとはいえ喰種が店を構えているとは驚きだ。人間がここに入り込んでしまっては、まさしく蜘蛛の巣にかかったも同然なのだから。

 

 

(それにしては店が綺麗だし血の匂いもしない…今日は喰っていないだけか)

 

 

荒々しかったアサは急に黙り込み、渡された上着と向き合ってスイスイと針を布で泳がせていく。驚くほどスムーズな刺繍の手際。人喰いの怪物とは思えない繊細さだ。

 

 

「なぁアンタ」

 

「僕かい?」

 

「ちげーよ。そっちの、さっきから睨み付けてる人間のアンタだ」

 

「っ…!?」

 

 

刺繍から目を離すことなく、アサはミカドに話しかけた。当然身構えるが、どうにも戦おうとしている様子はない。ただ手は止めず、一つの質問を投げかけた。

 

 

「人間の客なんて滅多にこないからさ…なぁ、魚って…どんな味がするんだ?」

 

「何…?」

 

「気になって食ってみたこともあるけど、やっぱ臭ぇしグロテスクだしで食えなかった。よくあんなもん食えるよな人間って。どう感じてんのか気になるんだよ」

 

「人間がどう感じるか? 喰種がそれを言うか!? 罪なき人間を襲い、殺し、死肉を貪る悪趣味な怪物が!」

 

 

その言葉の大半は横の月山に向けられたものだが、当の月山は「魚の味、是非とも教えてくれたまえ」と知らぬ顔だ。アサもミカドの憤りを否定はせず、それ以上の事を聞くことはなかった。

 

 

「ほら、出来たよ。あと予約のマスク。なんでマスクでウチなんだよ、ウタさんとこ行けばいいだろ」

 

「ムッシュHySyのマスクも素敵だけど、やはりこの刺繍が美しいね。粗暴な職人の指が紡ぐ、この上なく丁寧な仕事……一流に相応しい。マダム・ツムギを越えたのでは?」

 

「馬鹿言うな。俺なんてまだ、ツムギの足元にも及ばねーよ」

 

 

急ごしらえながら美麗な刺繍と、同じく刺繍が施された仮面。仮面の方が時間をかけたため数段模様が凝られていた。喰種も人間の趣味くらい持つものなのだろうか。

 

月山はその『謝肉祭』用の仮面を仕舞うと、ミカドと共に店を去った。

 

 

「俺の正装が必要だったのか!? どうせ解体するつもりだろう!」

 

「ノン、この僕が持ち込む食材なんだ。一流を身に着けてもらわなくては、『美食家』の名が廃るというものさ」

 

「知るか! どいつもこいつも喰種の分際で……!」

 

 

今だけだ。ファイズに近づくため、協力関係を築いている今だけは我慢しなければならない。それが終われば纏めて駆逐する。喰種も怪人と同じ、悲劇を生み出すだけの悪しき力だ。

 

そして二人は足を運ぶ。今宵は遂に、謝肉祭の開催日。

 

 

_________________

 

 

「招待状を見せろ」

 

「この通り」

 

 

謝肉祭の会場は貸し切った山。自治体には普通の祭りと説明しており、表面上では喰種が人を喰うパーティーをしているなんて気付きようが無い。

 

月山はその中の入口の一つで、護衛の喰種に招待状を見せた。招待状はイクマのものだが、その点に関しては特に問題は無さそうだ。

 

その護衛はウサギの面を被った男の喰種。お互い、仮面をしていても匂いと雰囲気でその正体を察した。

 

 

「久しぶりだね霧嶋くん。君はあの時よりも更に研ぎ澄まされているようだ。お姉さんとは…フフ、まだ喧嘩しているのかい?」

 

「うぜぇんだよクソ美食家野郎。まだ生きてやがったのか。で、そっちの人間は」

 

「持ち込みの食材さ。再会を祝し、後で君にも一口分けてあげよう」

 

「いらねぇ。持ち込みはあっちのテントに持ってけ。人間の身体検査もそこでする」

 

 

手続きを済ました月山は、「来たまえ」とミカドを指定のテントに案内する。そことは別にサーカス会場のような大きなテントもある。ショーが行われるのはそっちだろうか。

 

ミカドがテントに入る寸前、高く建てられた物見やぐらの上に誰かが立ったのが見えた。恐らく会場のどこからでも見えるその人物は、赤く「Φ」と描かれたフルフェイスマスクを被った“喰種”だった。

 

 

「ようこそ僕の宴へ。さぁ巡り合った僕の同志たち! 今日は思う存分楽しんでいけ!」

 

 

月山がマスク屋でモタモタしていたせいで、祭が始まるギリギリになってしまったようだ。だが、高らかに開会宣言をしたその喰種の名を、ミカドは知っている。

 

 

「アレが『ファイズ』か…!」

 

 

その姿を忘れぬよう一瞥を網膜に焼き付けると、ミカドはテントに入った。身体検査に引っかからないよう、ジクウドライバーは持っていない。つまり戦う手段は無いが問題は無い。今回の謝肉祭潜入の目的は、あくまでファイズとの接触だ。

 

テントに入ると、ミカドと同じように連れてこられたであろう人間が数人いた。ただ、彼らは自分たちがこれから解体され、料理になるなんて全く思っていないに違いない。

 

 

(運よくライドウォッチの没収は免れた。ライドガジェットで暴れるくらいはできる。混乱に乗じてコイツらを逃がすとなると、リスクが跳ね上がるが…)

 

 

流石に騙されて喰われてしまう人間を見過ごすわけにはいかない。彼らは一方的な理不尽の被害者だ。喰種という悪鬼が生み出す、理不尽の。

 

ミカドの喰種に対する憎しみの源泉は、怪人や仮面ライダーに対するそれと同一。それを頭の中で確かめるたびに、ここに来る直前ホリチエと交わした会話を思い出す。

 

 

「貴様は行かないのか」

 

「うん。だって危ないし」

 

 

ホリチエは謝肉祭潜入には同行しないらしい。危険だから当然と言えば当然だが、彼女のことだから写真を撮るためなら来ると思っていたから意外だった。

 

 

「こう見えて私、死ぬのはちゃんと怖いよ。そりゃ近くでミカド君を観察したい気持ちはあるけど、流石に私じゃ逃げらんないと思うし」

 

「足手まといが増えないならこっちも助かるがな」

 

「ちょっと待って。行く前に一個だけ聞きたいんだけど…知らない喰種の世界に入って、色々知ったわけじゃん。君にはどう見える? 喰種のこと」

 

「どう見える…だと? 考えるまでもない。喰種は殺すべき悪だ」

 

 

ホリチエの質問に、ミカドは即答する。

その時の表情をカメラに収めるホリチエだったが、写真を確認するとやはり首を捻った。

 

 

「んー…イマイチ。それほんとに喰種への気持ち?」

 

「当たり前だ。そういう貴様はどうなんだ。喰種の友人がいたり、捕食現場を撮影したり、俺から見れば貴様も悪と変わらん」

 

「私の意見は変わらないよ。11年前、月山君の食事を撮ってからずっと。喰種の世界は…なんだか面白そう、それだけ」

 

 

ホリチエの心は正義感や倫理観で縛られたりはしない。あらゆる命を同じフィールドに捉え、自分の好奇心のままに写真を撮るだけ。言ってしまえば喰種と同じ、限りなく本能的な生き物だ。

 

ミカドはそんなホリチエを理解できなかった。

自分自身の本能とは何だ。2015年で小原鞠莉に突き付けられた言葉がフラッシュバックする。

 

 

『なんで本音で話さないの』

 

「黙れ…貴様らに何が分かる!」

 

 

次々に浮かび上がる言葉を噛んで潰すように、ミカドは強く呟いた。

それに気づかれたのか、テントの中の少女が1人、こちらをじっと見てくる。

 

 

「…独り言だ。こっちを見るな」

 

「あなたはなんでここに来たですか。普通の人が入って来ちゃだめですよ~。これから、とっても危ないお祭りなのです」

 

 

その少女はまた妙な雰囲気だった。不自然なほどに黒い髪に、目元と口元に赤い糸の縫い糸が見える、人形と言われれば納得してしまいそうな姿だ。

 

それより言葉の意味が戦慄を呼ぶ。彼女はこの祭りが何なのか分かっているのか。

 

 

「ただのステージのアルバイトだ、ここにいる者は全員そうだろう。それに祭りはとっくに始まっている」

 

「そうですか…それにしては眼が据わっているように見えましたが」

 

 

月山やアサのような喰種の雰囲気とはまた違うが、注意はしておくべきだろう。

 

ミカドは没収を免れたファイズフォンⅩで、会場に放ったタカウォッチロイドが撮影する映像を確認する。立ち食いの屋台もあり、客たちに飲み物が運ばれ、それぞれのステージで踊りや商いが行われ、実に盛況だ。

 

ただ屋台で焼かれているのは人の肉で、串に刺さっているのは目玉。飲み物は血を腐らせた血酒。ステージ上で売られているのは人の死体。肉が焼けた匂いに豚も牛もヒトも大差はないから、麓の人間たちに気付かれることもない。

 

準備から宴の当日まで、実に大胆かつ巧妙に人間世界に溶け込み、欺いている。本当に吐き気のする光景だ。怒りで気がどうにかなってしまいそうだった。

 

 

「はーい、バイトの皆さん出番です! 2人ずつステージに行って、説明した通りにお願いしまーす!」

 

 

説明は渡された紙に書かれた通りだが、当然フェイクだ。ステージに上がれば喰種に解体されて、皿の上に乗せられ喰われるだけ。

 

 

「俺が行く」

 

 

ミカドが真っ先に手を挙げ、解体ショーへの片道切符を手に入れる。

そして指定人数のもう一人も同時に埋まった。さっきの奇妙な少女が手を挙げたのだ。

 

 

_______________

 

 

謝肉祭が始まり、〔CCG〕の「ファイズ討伐作戦」も開始された。

内部から流出した出席者リストから危険度の高い喰種が多数確認され、この作戦は万全の配置で遂行されることとなった。とはいえ敵の配置は不明であるため、内部に潜入した捜査官が1人と、それ以外は戦力を分散させる形となっている。

 

 

「ンン瓜江ボーイ…士気は十分かね?」

 

「無論です」

 

「空回りはしねぇようにな。最近のお前は若干目に余る」

 

「留意します」

 

 

主にSレート以上の捜査を担当する、〔CCG〕の主戦力の一つであるS1班。巨体の英国紳士のようなS1班班長、田中丸望元特等捜査官。現場に慣れたベテラン感が滲み出るS1班副班長、富良太志上等捜査官。その2人の言葉に最低限の返答を返しながら、ウリエは昂る気持ちを抑えていた。

 

 

「(内部には大量の喰種、討伐数が稼げる。それに俺の掴んだ情報が正しければ…巨大な功績は俺のものだ)」

 

 

内部に突入しようとするS1班に、暗闇に紛れた複数の赫子の急襲。

手練れの集まりだけあって不意打ちは捌くS1班。ウリエは即座に「兜」を起動し、襲い掛かった影の頭を狙って刃を振り下ろした。

 

 

「喰種を複数体確認。最高レートは…」

 

 

ウリエの一撃は躱された。いずれも強力な喰種であろうが、一つだけ〔CCG〕の記録に残った仮面がある。それは、髑髏と立ち入り禁止を合わせたような模様のマスク。その手に持つのは捜査官から奪った刀のクインケ。

 

 

「Sレート『墓盗り』です」

 

「クインケ奪うっつうアオギリの残党か。Sレートだ、油断すんなよお前ら」

 

「手癖の悪いお嬢さん…ふぅンッ…お仕置きタイムだっ!」

 

「特等捜査官、相手にとって不足無し。貴様の墓標(クインケ)も頂こう」

 

 

______________

 

 

同刻、同じく作戦に参加した真戸班。

S1班とは異なる方向から突入を試みており、当然それを止めようとここにも喰種が現れる。

 

 

「不知、援護しろ」

 

「っ…ウッス!」

 

 

班長のアキラは女性捜査官ながら前線を張る猛者。その手に持った背骨のようなクインケ、“鱗赫”「フエグチ」が不用意に攻めて来る喰種の首を斬り落とす。

 

「フエグチ」は更に自在にうねり動き、逃げようとした2体の喰種の胴体を両断した。しかし、反撃を狙った喰種が跳躍し、弾丸のように飛ばす赫子“羽赫”を展開。空中からアキラを貫く気だ。

 

 

「テメェ…させるかよッ!」

 

 

シラズが構えたのはピストル型のクインケ、“羽赫”「ライ」。威力を抑えた精密連射銃で、 シラズが放ったうちの一発が喰種の「赫包」に命中。「赫包」が損傷すれば、並の喰種ならしばらく赫子は使えない。

 

その隙に他の班員が落下した喰種を仕留めた。これで襲って来た敵は全員のようだ。

 

 

「いい狙いだったな不知一等。やはりその『ライ』はしばらく貸しておくことにしよう。火力に偏るクインケばかりでは部隊のバランスが悪い」

 

「あ、あざっス…」

 

「…気にしているのは瓜江のことか?」

 

 

特段気にしていたつもりは無いのだが、やはりアキラは冷血なようで班員がよく見えている。シラズはつい申し訳無さそうに頭をかく。

 

 

「まぁ…別に前から相棒!とかそういうのじゃなかったし、仲良かったわけじゃないんスけど。でもやっぱ元は同じチームだったわけで、アキラさんにもあの態度はなんかちげーんじゃねーかって…!」

 

「なら次に会った時、そう言えばいい。胸ぐらでも掴んで一発殴ってやるのはどうだ」

 

「いや、オレらもう青春の喧嘩する歳じゃねぇっスよ…」

 

 

シラズはウリエを仲間だと思っている。捜査官としての才覚に差があるのは分かっているが、叶う事なら前のように共に並んで日々を過ごし、高め合いたい。

 

何故そこまでそう思うのかは分からない。が、アキラの言う通り、次に会ったらもっと向き合いたいと強く思った。

 

もっとも、次に会えるなんて淡い未来予想は、新たに現れたその姿にかき消されたのだが。

 

 

「総員警戒態勢! 気を引き締めろ死ぬぞ!」

 

 

アキラは声を張ると同時に振り返って班員を確認。まだ誰も死んでいないだけでも幸運だった。この喰種には、瞬きの隙に部隊を壊滅させるだけの力がある。

 

 

(ラビット…つーことはアイツがアキラさんの……!)

 

 

黒いウサギのマスク。アキラにとっては運命的とも言える配役だ。

会場内の喰種の中でも最強クラス、SSレート「ラビット」。

 

 

「私の指揮で動け。そして死ぬな。喰種(クズ)は───駆逐だ」

 

 

_____________

 

 

 

ミカドと少女がステージに案内された。そこはフェンスで囲まれ、逃げ場のないリング。それを場所狭しと囲うのは、マスクを被った無数の喰種たちだった。

 

ミカドたちの前にいたのも喰種だった。月山の話によると、こういうステージでの解体は喰種が飼う人間である「飼いビト」が行うのが普通らしいが、今回は人間を殺すのが好きな喰種がやるという。とびきり悪趣味な道楽だ。

 

 

「さぁ、まずは2人! 何も知らない若い男女がキッチンに上がりました! 男の方は締まった肉体で食べ応えは抜群! 女の方は見目麗しく、頭部愛好家の方も満足な一品!……?」

 

 

喰種の実況が勢いを弱め、少しだけ会場もざわつく。本来は人間側のパニックも楽しむものだが、ミカドが全く動揺していないから調子が狂ったのだろう。

 

しかし、それはミカドも同じだ。隣の少女もミカドと同じく、一切動じず喰種をじっと観察していたのだから。

 

 

「チッ…おいおい、恐怖でフリーズってそれ一番つまんねーよ。何のために生きたまま連れて来たと思ってんだ? もっと空気読めよ人間がよぉ」

 

 

盛り上がりに欠けるのが不満なようで、喰種は攻撃してこない。

ならばとミカドがファイズフォンⅩを準備。

 

 

(このまま会場を荒らし、ファイズまで辿り着いてやる。屑の祭りはここでお終いに───)

 

「なんかこういうの、懐かしい感じですね」

 

 

ミカドがファイズフォンⅩを構えるのと同時に、少女が右足を踏み出した。会場に響く金属音。釘付けになる全員の視線。()()した少女の右足(義足)から現れた、幾本ものナイフ。

 

 

「な……!?」

 

「もっと盛り上げましょう。せっかくのお祭りなのです」

 

「おい、ちょ、待───」

 

 

少女が義足からナイフを引き抜き、目の前の喰種の頭部をめった刺しにするのは、喰種が赫子を放出するよりも遥かに速かった。

 

瞬殺。解体家の喰種は死に、処理しきれない展開の中で、その正体を知っている誰かが名前を呟き絶望を広げる。

 

 

「鈴谷───!?」

 

 

その名前が出た途端、会場は破裂せんばかりのパニックに包まれた。一人の人間を前に、喰種の誰もが我先にと逃げ出そうとする異様な光景。

 

〔CCG〕S2班班長、鈴谷(すずや)什造(じゅうぞう)特等捜査官。人間側のバケモノとも称される特等の中で、最年少にして異次元の強さを誇る捜査官。その名は、多少荒事に触れている喰種ならば誰でも知っている。

 

 

「逃がしませんよ…」

 

「ッ…待て貴様!」

 

「はい?」

 

 

喰種を追おうとする什造を引き留めたのはミカド。()が捜査官なのは問答せずとも分かる。問題なのは、なぜ捜査官がここに居るのかだ。

 

 

「やっぱり知ってましたね。ここが喰種のお祭りだって。見たことのない顔です、捜査官じゃないですよね?」

 

「質問するのは俺だ。喰種捜査官はこのイベントを殲滅するつもりなのか。答えろ」

 

「はい。僕は中からグチャグチャにする役です。一般人さんは逃げてください」

 

 

なんとも緊張感のない可愛げな声と表情だが、さっきの一瞬を見てからだとそれが一層恐ろしい。悪魔か死神か、そういう類の何かに見えてしまう。

 

それはともかく、捜査官の突入は想定外だ。下手すればファイズに逃げられる可能性もある。しかし、この鈴谷の力を利用すれば、ファイズに辿り着く可能性が高まるかもしれない。

 

 

「俺も目的は同じだ。戦う手段もある。『ファイズ』を殺すつもりなら俺も協力してやる」

 

「結構です。危ないので逃げてください」

 

 

什造はミカドをあしらい、ナイフ形クインケ───Bレート“尾赫”「サソリ1/56」でフェンスを切り裂き喰種を追った。

 

流石は国家公務員。危険な作戦に一般人の協力を受けるわけがない。

そう来られたのならミカドも手段は一つだ。少し苛立つ神経を落ち着かせ、ミカドもテントの外に飛び出した。

 

 

「最後まで話を聞け貴様!」

 

《Single mode》

 

 

什造が外で戦っていたうちの一体の喰種に、ブラスターモードにしたファイズフォンⅩの発砲が命中。破壊光が喰種の体組織を崩壊させ、無力化した。

 

什造じゃなければどうという事はないと、他の喰種もミカドを狙う。しかし、繰り出される赫子の攻撃は月山より数段劣っており、ミカドはそれを落ち着いて潜り抜ける。そして、短い戦いの末、ミカドの発砲が的確に全ての喰種を貫いた。

 

 

「おぉ、すごいですね。でも…」

 

 

喰種の再生能力は異常。破壊された体をすぐさま再生させ、立ち上がる。

しかし、立ち上がった彼らが見たのは飛び掛かって来る什造の姿。それを認識した次の瞬間には「サソリ」が眼球を貫いており、別の喰種は喉を裂かれ、頭を刺され、瞬く間に全ての喰種が息絶えたのだった。

 

 

「トドメはちゃんと刺さなきゃダメですよー。でも嘘じゃなかったですねぇ。捜査官じゃないのにこんなに強い人は初めて見たかもです」

 

「…貴様の強さの方が余程非常識だ。これで分かっただろ、俺は戦えると」

 

 

鈴谷什造は少年か少女のように見えて、実年齢は25歳。19歳で〔CCG〕に入局し、死線を潜り抜け続けてきた猛者の目は、ミカドを「それなりの手練れ」と判断した。ただ、一つだけ目立つ違和感を、什造は隠さず指摘する。

 

 

「ヒトを殺したことは無いですか?」

 

 

什造の目が全てを見透かし、その言葉がミカドの触れて欲しくない部分を抉る。腹の底から逆流する何かが声を引きずり、返しの言葉がミカドの口から出てこない。

 

 

「喰種を殺せないなら、やっぱり帰った方がいいですよ。ここから先は殺さないと死んじゃう場所です」

 

「……侮るな…ッ!」

 

 

ミカドは什造が投げた「サソリ」を一本、死体から引き抜く。そして、射撃で逃げる喰種の脚を射抜き、機動力を奪って「サソリ」でその首を掻っ切った。

 

 

「…はぁ…っ…俺は、ヒトを殺した覚えは無い……コイツら喰種も、怪人も、仮面ライダーも……! “ヒト”ではないバケモノだ…!」

 

「…そうですか。あんまりこういうの、向いてるようには見えないんですけどねえ…」

 

 

駆け出した什造の後を、ワンテンポ遅れてミカドも追った。

 

 

______________

 

 

ウリエたちS1班はSレート「墓盗り」と対峙。墓盗りが持つ刀のクインケは恐らくB~B+相当の“尾赫”クインケで、墓盗り本人の赫子も“尾赫”と割れている。

 

だとすれば一切問題は生じない。赫子には相性が存在し、尾赫に対して有利なのは“羽赫”。“羽赫”のクインケに関しては、最強クラスのものがここにある。

 

 

「ハイアー……マ~~~~~インド!!!!!!

 

 

田中丸望元の叫びと共に、双眼鏡のような形状の大砲クインケから波動砲が解放された。真っ向から喰らった喰種の体が焼け消え、残された手足頭がバラバラと苔の上に落ちる。

 

SSレート“羽赫”「ハイアーマインド(高次精神次元)もしくは天使の羽ばたき(エンジェルビート)」。その破壊的火力の前に、大抵の喰種は風で吹き飛ぶ紙切れに等しい。

 

 

「随分と派手なクインケだな…!」

 

「ショーの主役は派手な方が良いだろう!! 我がハイアーマインドもしくは天使の羽ばたきの風を再び喰らい、今度こそ吹き飛びたまえ盗っ人ちゃんっ!! ハイアーっ……!!」

 

 

射出される前に墓盗りは望元の懐に入り込む。しかし、刀のクインケでは間合い不十分。到達する前にエネルギーが解放されてしまう。だが、それは刀の間合いならという仮定に過ぎない。

 

その瞬間に墓盗りの三本の尾赫が解放され、破格の速度と切れ味で望元が抱えていたもう一つのケースを破壊した。それは「ハイアーマインドもしくは天使の羽ばたき」のエネルギーバッテリー。

 

 

「マイ・エンジェル!! の燃料!!」

 

 

ついでに尾赫が望元の脚をかすめたことで体勢が崩れ、僅かに砲撃の射線がズレた。それによって紙一重で砲撃を回避した墓盗りは、そのまま敵陣に突入する。

 

瞬間の判断。例え攻撃の直後だろうと、特等捜査官はそう簡単に仕留められない。そこで狙ったのは、他の喰種と戦闘していた富良太志上等。その不意を狙う。

 

 

「富良くんッ!」

 

「わかってます」

 

 

別の喰種の相手もしながら、富良の鞭のようなクインケが墓盗りの尾赫を弾いた。A+レート“尾赫”クインケ「ランタン」がしなり、2体の喰種を一度の動きで切り裂いた。

 

一体は即死だが、墓盗りは咄嗟の回避で傷が浅くすんだ。そして、今の一連の戦闘でハッキリしたが、この部隊と戦うには墓盗りの力量では厳しい。

 

 

「グッジョブだよ富良くんッ!! しかしあのまま潜り込めば我がハイアーマインドの『近接モード』の餌食になっていたものを富良君を狙うとは…卑劣に勘のいいお嬢さんだことだ!」

 

「まぁ流石はSレートってとこですね。この感じだと、もう少し粘りそうか…」

 

 

恐らく墓盗りを仕留めきるのには少々の時間を要しそうだ。その呟きで焦りを覚えたウリエは戦っていた喰種を仕留めると、富良に進言する。

 

 

「雑魚は大方駆逐し終わりました。最高レートは墓盗り、田中丸特等と富良上等で駆逐に十分なのは明らかです。このまま無駄に戦力を余らせていれば、内部の『ファイズ』に逃げられる恐れがあります」

 

「…っておい待て瓜江!」

 

「俺がこのまま突入します(墓盗りの分配される手柄より、『アイツ』の手柄だ)」

 

 

上司の判断を聞き届けることなく、瓜江はほぼ独断で謝肉祭会場に突入。特等と上等相手で門番をしている余裕はなく、墓盗りのガードを通り抜けることができた。

 

 

「あの野郎、勝手なことしやがって…若ぇヤツはこれだから! お前は有馬じゃねぇんだぞ馬鹿野郎…!」

 

 

遭遇したのがSレート程度で幸運だった。そうでなければ突入の機会はなかっただろう。そんな風に己に巡って来た好機を反芻し、昂る呼吸でウリエはある仮面を探す。

 

外で戦闘が起こっていたにも関わらず、妙な事に会場の喰種は気付いていなかったようだ。捜査官の出現で会場の喰種が騒めくが、ウリエにとっては大した功績にもならない雑魚に過ぎない。

 

ウリエが探すのは「ファイズ」…ではない。そちらは潜入した什造が探しており、手柄を持っていかれるのが目に見えている。だからウリエは過去の捜査資料から功績の鍵を探しまくった。

 

 

(「ファイズ」の初出現は15年前、捜査官と複数回対峙したがどれも逃げられている。それに加え奴が行った捕食、謝肉祭準備の活動、どれも単独だとは考えにくい)

 

 

「ファイズ」には仲間がいるというのがウリエの結論。そして、その正体も特定した。2003年辺りに数回の記録が残っており、ファイズの出現と同時に姿を消した喰種。現場に残った赫子痕や目撃証言などを照らし合わせても明らかだった。

 

 

「…やはりいた! 白い髪の、蟻のマスク!」

 

 

会場の一角に、辺りを観察していたような喰種がいた。その特徴は15年前の記録と一致している。予想通りの展開に笑みが零れてしまう。

 

 

「捜査官…やっぱり今年は来たか。言った通り、思った通り…? わかんないね。フクザツだな、私の人生はずっとそうか」

 

「ファイズの仲間の喰種…『パラポネラ』、駆逐する(俺の功績!)」

 

「まぁアレだ。年に一度のお楽しみだから、あんまり邪魔しないでくれないか」

 

 

___________________

 

 

今回の作戦には相当の戦力が投入されており、用意された護衛も突破され会場に続々と捜査官が突入し始めた。それに伴い、会場は完全にパニック状態に。この状況に数点、什造は妙な違和感を覚えていた。

 

 

「なんで山なのでしょう」

 

「な…いや、確かにそうだが」

 

「山だとぐるっと囲まれちゃいます。実際、捜査官がこの山のたくさんの方角から攻めてきたせいで、中の喰種は逃げたくても逃げられません」

 

 

冷静に話しているように聞こえるが、什造とミカドは今も喰種との戦闘の最中だ。逃げられないと気付いた連中が自棄になっているせいで、先程までより数段厄介な動きをしてくる。

 

しかし、什造の戦いぶりは全く動じない。次々に襲ってくる喰種の急所を「サソリ」で抉って最速で処理。近づかれると厄介な敵には「サソリ」を投げつける。尚且つ常に手数を減らさないよう、数本の「サソリ」を投げ上げて空中でキープしている。しかもこれをやりながら会場を駆け回り、「ファイズ」を捜しているのだ。

 

柔軟な体と異常な反射神経に身体能力、そこに天才的戦闘センスが加わることで成される超絶技巧のナイフ操術。取りこぼしもほとんど無く、ミカドの手が余ってその戦いを悠々と観察できてしまうくらいだった。

 

 

「まあ、それは『ファイズ』に聞いてみるしかないですねえ。ぜんぜん見つからないですけど」

 

「…いいや、それならたった今見つかった」

 

「本当ですか?」

 

「会場に放った“目”が、開会挨拶をしていた仮面を見つけた。ここから距離があるな…」

 

 

什造もタカウォッチロイドの映像を確認し、場所も把握。ミカドに近寄ったことで、什造はその腕についているウォッチに興味を示した。

 

 

「変わった時計ですねえ。“バイク”ですか?」

 

「おい貴様、勝手に触るな!」

 

 

什造が玩具で遊ぶようにウォッチを触っていると、偶然変形機構が起動してしまい、ウォッチがライドストライカーに変形してしまった。

 

 

「おぉ! 本当にバイクになりました。クインケみたいです。これちょっと借りますね」

 

「何? ふざけるな、俺のバイクを勝手に……!」

 

「小っちゃくなるのは…これですか? お、小っちゃくなりました」

 

 

什造はライドストライカーをウォッチに戻すと、全速力で走り出した。向かっているのは、何かのパフォーマンス用であろう高台のステージ。ミカドより速いため、当然だが追いつけない。

 

喰種たちをかき分けてステージに到達すると、今度はまたウォッチをライドストライカーに変形させた。方向を調節している所にミカドも到着。

 

 

「ん…こんな感じですかね」

 

「待て貴様まさか!?」

 

 

バイクにまたがった什造に嫌な予感を感じたミカドは、急いで自分も後ろに搭乗。その瞬間にバイクのエンジンが唸りだし、あっという間に加速し、そして───

 

 

高台のステージを飛び出し、バイクは宙を駆けた。

 

 

「あ、見つけました」

 

 

什造はファイズの姿を肉眼で捉えた。しかし、どう考えてもバイクの飛距離が足りない。そこで什造は飛行するバイク上で立ち上がり、車体を蹴って更に跳躍した。

 

後部座席のミカドを置いて。

 

 

「ふざけるな貴様ァァァァァ!!!」

 

 

反応が遅れたミカドはライドストライカーと共に墜落。

それを全く気にせず、什造はファイズへの放物線の途中で「サソリ」を構え、着地と同時にファイズの体を抉り斬った。

 

しかし、その不意打ちは赫子で防がれたようだ。派手ではないが、祭のパレードに連なっていそうな謝肉祭らしい衣装に「Φ」のマスク。赫子は肩甲骨の辺りから放出されており、“甲赫”であることが分かる。

 

 

「反応や良し…ですね。ドロドロの甲赫で、しかも“灰色”。報告通りの姿です」

 

 

通常、硬度が高いはずの甲赫が、液体のように不定形をとっている。しかも細胞の塊である赫子は赤色や紫色であるのが決まりのはずなのに、ファイズの赫子は完全な灰色。

 

これは「灰病」の末期症状だが、それなら赫子は衰弱し、ここまで大きくはならないはず。さらに言えば、この症状で何年間も暗躍なんてできるはずがない。

 

 

「追いついたぞ…貴様に言いたいことはあるが、まずは貴様だファイズ!」

 

 

大破したライドストライカーを置いて、ミカドも什造とファイズの対峙に追いついた。

 

ファイズとの接触には成功。しかし、状況は想定と異なる。

捜査官と共に遭遇してしまったせいで戦闘以外の選択肢が無い。喰種ならいいが、敵はアナザーライダーに変身するのだから仮面ライダーへの変身能力は必須だ。

 

 

「ナイフに銃。敵…“白鳩”か。よしてくれ、僕の祭りをォ…邪魔すんなッ!」

 

 

赫子は液状のようだが、「サソリ」の刃が立たないレベルの硬さは健在。もう一対の腕のように自在に動き、什造とミカドの姿を地面ごと削り取る。

 

ミカドの射撃は赫子の間をすり抜けたが、ファイズ自身の反応も良く容易に避けられた。これまでの喰種とは違い、什造の動きに対して赫子の防御を適切に操っている。

 

 

「強いですね。推定レートはS+でしたか」

 

「チッ…ならば協力しろ。変身もされずこのザマでは話にならんぞ!」

 

「大丈夫です。僕ひとりで勝てそうですので」

 

 

さっきから什造はミカドと連携を取らない姿勢を貫いている。什造の実力が飛び抜けているから、それは当然のこと。S+レートの基準は平均の特等捜査官と同等なのに対し、什造の強さは最強格の平均では収まらない。

 

 

「いきますよ。その素敵なマーク、切り取って飾ってあげましょう」

 

 

赫子は「サソリ」じゃ切れない。だから什造は赫子に関しては回避に徹し、懐に入り込もうとする。しかしファイズもそれを分かっているようで、什造に対して間合いを詰めようとしない。

 

ファイズの赫子は薄く広げても「サソリ」の強度を超える。だから目一杯面積を広げ、延長し、距離を保ったまま什造を追い詰める。什造の弱点を強いて挙げるなら、馬力不足とスタミナ不足。あからさまに相性が悪い敵だ。

 

 

「面倒ですねえ」

 

「鈴谷什造、有名税ってヤツだよ。ピエロと祭り屋は有名人が好きなんだぜ。捜査官の踊り食いっていうのも、いい余興だよなぁッ!!」

 

「余興ならもっといいものがありますよ。ここにいる全員“皆殺し”です」

 

 

ギアが切り替わった。什造の動きが一段階速くなった。

手数を使い切る勢いで「サソリ」を投擲。どれも弾かれるが、弾かれたものから再びキャッチして異次元の動きで別方向から更に投擲。

 

そうして防御が什造の思うままに操られる。その導きのまま抜け道も作られ、いつの間にか什造はファイズの間近に。

 

 

《Burst mode》

 

 

防御ががら空きになった一瞬で、ミカドのファイズフォンⅩの三点バーストが火を吹いた。それによってファイズの動きが、什造を前にして止まってしまう。

 

 

「いらないって言ったのですが…」

 

 

そこからコンマ数秒。反応しきれない速度の斬撃が、ファイズの体の随所を切り裂く一瞬の未来が見えた。死ぬ、そう本能が判断し、ファイズの姿が喰種からアナザーライダーへと切り替わる。

 

 

《ファイズゥ…》

 

 

体の外側が黒色で、血管のような赤いラインを境に灰白色。黄色い複眼の奥には複雑な模様の化け物の顔が見えた。その姿はこれまでのアナザーライダーにはあった「モチーフ」のようなものが感じ辛く、敢えて言うなら「半機械の生物」のようだった。

 

左肩には写真では見えなかった「2003」の文字が。この情報だけでも接触した価値があるが、それで退散できるような状況ではなさそうだ。

 

 

「あれがファイズの“赫者形態”ですか…やっぱりなんか違う気がするのです」

 

 

アナザーファイズの間近にいたはずの什造は。直感的にミカドのところまで退避していた。

 

 

「あの鎧、多分『サソリ』じゃ切れません。それになんか…()()()()感じがするです。なんにしても『ジェイソン』無しでは分が悪いですねえ」

 

「勘が良いな、嗅覚というやつか? 察しの通り、今の俺達にヤツに対する有効打は……」

 

 

アナザーファイズに変身しても、肩から生える赫子は健在。腕のように使っていた赫子を今度は両腕に纏わせ、“甲赫”らしいサーベルのような刃を創り出した。

 

ドロドロの赫子を撒き散らしながら、刃が地面を裂く。ベースが人外な分、アナザードライブやアナザーゴーストよりも遥かに人間離れした動きをしてくる。生身のままではいずれ真っ二つにされ、喰われてしまうだろう。

 

ミカドが自分の死を感じ始めた頃。例えるなら花火、クラッカー、飛び込みのゲスト、宴を沸かせる何でもいい。ヤジを飛ばすように、その死線にソレは投げ込まれた。

 

 

「───ジクウドライバー!? まさか…月山か!」

 

 

ジクウドライバーは隠して来た。誰も信頼できなかったため場所は教えなかったのだが、これを持っているとすれば月山しかいない。

 

什造がいるからか月山は姿を見せないが、ミカドにとってはどうでもよかった。アナザーファイズの攻撃が什造に向けられている隙に、ドライバーを装着する。

 

 

《ゲイツ!》

 

「変身ッ!」

 

《ライダータイム!》

《仮面ライダー!ゲイツ!!》

 

 

装甲を纏い、ミカドもまた人外の力を手にする。仮面ライダーゲイツは暴れるアナザーファイズを横から殴り飛ばすと、飛び散って仮面にかかった赫子を地面に払い落とした。

 

 

「おお…今度は“赫者”のクインケみたいです、凄いですねその恰好。顔にひらがなが書いてあります。面白いです~」

 

「ふざけた格好なのは承知の上だ。だが、これでも俺は戦力外か捜査官?」

 

「…いえ。確かにこれは…いっしょにやった方がラクチンそうです」

 

 

敵はアナザーファイズ。ミカドと什造の共同戦線がようやく成立した。

その光景を隠れながら観察していたのは、ミカドにジクウドライバーを届けた月山だ。

 

 

「あぁミカドくゥん…まさか捜査官まで来るとはサプライズだが、これもまた食前のパッフォーマンスッ!だと思えば悪くは無い。君が美味しくなっていく様を、僕はここから観劇させてもらうよ」

 

 

月山の食欲を更に搔き立てるのは、ホリチエに囁かれた一つの噂話。

 

 

「謎の“喰種”『ファイズ』は……『隻眼の喰種』…!! 人間と喰種が混じり合った伝説的な存在、体験し難い珍味ィ! そんな至上の食材たちが戦い、死力を吐き出し尽くしたところでこの僕がぁぁァッ……! 2人セットで……くぅゥッ! フォォルテッッッシモォォォオォッ!!」

 

 

_________________

 

 

多方で防衛線が突破され、会場に捜査官が雪崩れ込んでいるのを感じる。感じながらも、その喰種は一切気に掛けることなく、己の手で殺めた捜査官たちを喰らっていた。

 

その老いたロシア人の男の喰種は、その服装の通り「神父」と呼ばれていた。その名は「ドナート・ポルポラ」。つい先日まで喰種収容所「コクリア」に幽閉されていた、SSレートの極めて危険な喰種だ。

 

喰種は生きている以上ヒトを殺す、存在が罪な存在。そんな喰種だが彼の「罪状」は飛び抜けて残虐非道。彼はカトリック系の孤児院を営み、そこで預かった孤児を己の手で育て、そして喰らっていたのだ。

 

 

「弱い。動きにも思考にも切れがない奴らばかり。『灰病』とやらで活発な喰種が減り、平和ボケでもしていたのか。全く嘆かわしいな」

 

 

「ファイズ」に頼まれ謝肉祭にやって来たが、彼にとっては存外つまらない結果に終わりそうだ。中の喰種を助けてやる義理も無い。このまま逃げ去ろうとしていた、その時。

 

 

「…ドナートッッ!!!

 

 

迫る鬼気。死神の足音と呼ぶには壮大過ぎる。殺意と恨みの炎に焼べられ、何年もの間煮え続けた溶岩のように滾る憤怒が、響く声と力で爆発する。

 

突撃する巨体が突き出すスピア型クインケ、“甲赫”/“尾赫”「ドウジマ・改」は、ドナートが繰り出した十字架の集合体のような甲赫の防御を抉り取り、貫いた。

 

 

「クックッ…ようやく楽しめそうな相手が来たか。久しぶりだな鋼太郎、我が愛しき息子よ」

 

「黙れッ! 何度も言ったはずだ、俺は貴様を父親と思わない! この胸に燃える憎しみだけが…貴様という悪鬼と顔を合わせる理由だ!」

 

 

彼は喰種捜査官。かつてドナートの孤児院で育ち、偶然その捕食を知ってしまった。それでも彼は生かされ、ドナートの嘘と共に生きることを強いられた。その殺戮を知りながら何もできなかった無念、そして罪は、彼を「正義」へと駆り立てた。

 

亜門鋼太郎特等捜査官。彼は正義を掲げる捜査官の理想像そのもの。

首にかけたロザリオは孤児院から持ち続けた唯一の品。戒めと義憤をロザリオに託し、この間違った世界を正すため、亜門は目の前の悪魔を駆逐する。

 

 

「ずっと分からなかった。貴様が何故、俺を生かしたのか。その答えを探そうとも思った…だが! もう答えなんて必要無い!! 貴様は今、ここで駆逐するッ!!」

 

 

命が集まる。因縁が絡まる。恨み憎しみ連鎖は続く。歪み企み矛盾で溢れる。解かねばならない。結び目は「Φ」の印が示すままに。

 

感覚が鋭い“喰種”であるアナザーファイズは、戦いながら感じ取った。この会場の何処かに、自分と同種の力の欠片───ファイズのプロトウォッチを持つ者がいると。

 

力が引き合い出会うその時まで、祭はまだ終わらない。

 

 




冒頭に登場した「アサ」は、「小説版東京喰種[空白]」のキャラです。表紙でビジュアルも確認できます。
色々と各地で話がスポーンしてますが、そのうち幾つかはファイズ編の本筋に全く関係ないやつです。逆に言えばちゃんと関わって来るキャラとか話とかもあるので、ご安心を。

次回はもつれた話を戦闘しながら解く作業です。

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