仮面ライダージオウ~Crossover Stories~   作:壱肆陸

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朝陽
仮面ライダーゴーストに変身した青年。享年21歳。戦時中に眼魔に殺されて幽霊になり、2015年の春に仮面ライダーゴーストとして一時的に体を得た。長い時間を過ごしたためか達観した穏やかな性格だが、死人ジョークは千歌たちに不評。アナザーゴーストの妨害で奇跡が起きず、99日のタイムリミットで消滅した。2015年では消滅を察して姿を消していたが、壮間の「英雄への憧れ」、ミカドの「命を燃やす生き方」を認め、仮面ライダーゴーストの力を託した。修正された歴史では、戦争が終わった直後に体が限界を迎えて亡くなったが、親友の手によって手厚く葬られた。

本来の歴史では・・・99日のタイムリミットを2度乗り越え命を超越した存在になるが、生き返るためには朝陽の「感情」が足りないと発覚。ムゲン眼魂に感情を集めるべく、Aqoursと共に奮闘する。


スランプ気味かもしれない146です。そこはかとなく調子が悪い気がします。気がするだけかもしれないですけど。

今回はようやくファイズ要素が盛り上がってくる話ですが…長いです。東京喰種知らない人には「???」ってなる展開もありますが…なぜか長々と書いてしまいました。やっぱりスランプかもしれない。

今回も「ここすき」をよろしくお願いします!



なんでも買える家

今ここに倒れ、無造作に捨てられた「喰いかけ」の体たちは、正義のために心血を注いだ誇り高き捜査官たち。肩を並べ、命を預け合い、共に同じ場所で時間を過ごした亜門の仲間たちだ。

 

彼らが死んでいい理由なんて一つも無い。

この世界は間違っている。歪めているのは───“喰種”だ。

 

 

「うおおおおおおッ!!」

 

 

「ドウジマ・改」を握り、亜門はドナートへと一直線に突進する。限界まで鍛え上げられ、今まさに全盛期とも呼べる彼の肉体は、生半可な攻撃では一秒だって止められない。

 

ドナートは亜門の接近を許し、真正面から攻撃の打ち合いを誘った。十字架が集まったような、触手状の2本の“甲赫”を操り、「ドウジマ・改」の攻撃にピンポイントで合わせて防ぐ。余裕綽々、まだまだ遊戯の延長戦といった態度だ。

 

 

「強くなったな鋼太朗」

 

「父親面をするなッ…反吐が出る!」

 

「そう言うな。昔のように話でもしよう…私がコクリアにいた頃、いや、あの孤児院にいた時のように。覚えているか? お前は私の話を聞かないと、夜の寝つけが悪くて困ったものだった」

 

「黙れと言っている!!」

 

 

亜門の攻撃が熱を増し、重さも増していく。地面を揺らすような踏み込みの後、予感できる強烈極まる一撃。ドナートは十字架の盾を生み出し、完全な防御体勢に入った。

 

「ドウジマ・改」が盾に突き刺さる。押し込まれる。そして、ギミックが解放され、螺旋状の“尾赫”が展開。それはドナートの盾を一気に抉り取り、その老いた体の大部分を削り飛ばした。

 

 

「ハハハ…! 父親の誘いは受けるものだ、悲しいぞ鋼太朗。よもやこの程度で、私を殺せたと思っているわけでもあるまい?」

 

 

貫いたドナートの体が分解され、塵になる。その直後に背後から現れ、固め技で亜門から体の自由を奪ったのは、指が欠けた以外傷を負っていないドナートだった。

 

SSレート以上ともなると、赫子や個体自身の能力は常識では計れない。赫子で分身ができるという理不尽もまかり通る領域の存在だ。

 

 

「無意味だとは思わんか?」

 

「なん…だとッ…!?」

 

「護衛の指揮に優秀な“目”がいる。喰種も捜査官も、来ている者は大方把握しているつもりだ。お前が私を憎むように、『アオギリの何某』のウサギはお前のパートナーの女の父親にして、お前の元パートナーを殺した怨敵だったな。お前が殺した双子の喰種の妹分、『墓盗り』とやらも来ているぞ? そして私を投獄した捜査官…瓜江幹人の息子も。会えたのならとびきり残酷に殺してやろうと思っていたのだが、残念だ」

 

「なんのつもりだドナート…!! 何が言いたい…!」

 

「それだけじゃない。恨み、恨まれの連鎖、その番いはこの宴だけでも数えきれない。実に滑稽。お前達『正義の執行者』も殺さずして道を歩けず、それが結局連鎖を加速させ、繰り返すだけの無為な命だ」

 

「貴様如きが…貴様のような悪がッ…! 戦い散っていった仲間達を侮辱するな!」

 

 

亜門の桁外れの馬力がドナートの拘束を振りほどき、再び「ドウジマ・改」をドナートへ向ける。

 

 

「……話をするというなら、一つだけ答えろ! 何故コクリアを脱走した貴様が、こんなイベントの護衛で表舞台に立った!? この謝肉祭に何があると言うんだ!」

 

「何も無い。が、お前でも分からないか? 私にだって、頼まれれば断れない相手くらいいるものだ」

 

「用心深い貴様がそこまで言う『ファイズ』とは、一体何者だ!?」

 

「何者…か。クククッ…殺せば分かる話だ。それが喰種捜査官なのだろう?」

 

 

生きるということは殺すということ。何かを守るためには何かを奪うしかない。それを選び続けるのが命で、誰もが誰かに恨まれ、因縁の環に絡まる糸くずだ。

 

「ファイズ」もまた、例外じゃない。この物語の歪に収まったファイズは何を奪いそして、何を奪われたのだろう。

 

_______________

 

 

Sレート「墓盗り」と対峙していたS1班。しかし、手柄を欲しがるウリエはその戦いを放棄し、自分だけが知る「ファイズ」の仲間を探した。

 

その喰種の名は「パラポネラ」。2003年頃に出現した、蟻のマスクを着けた喰種。そしてウリエはパラポネラを発見した。そんなレア物がここにいること自体が、ファイズの協力者である証拠だ。

 

パラポネラの推定レートはA。一等捜査官には少し重荷だが、ウリエの実力なら問題なく駆逐できる。ファイズの協力者を単独で発見し駆逐したとなれば、上等への昇進は確実だろう。

 

 

(これで俺は昇進! 黒磐を凌ぐ! シラズを追い越す! 俺が殺して俺が勝って俺が俺が俺が俺が、俺が一番だッ!!!)

 

 

ウリエはクインケを握り、意気揚々と殺そうとしたのだ。「パラポネラ」はそれを見て赫子を出した。毛細血管みたいで、少しだけ綺麗に思えた。

 

気付けばウリエは、血だらけで死にかけでパラポネラに倒されていた。

 

 

「───は?」

 

 

ようやく自分が置かれている場所を理解した。ウリエは今、蟻の巣の中。食べられる5秒前。勝てなかった。歯が立たなかった。推定レートはAなんて、15年前のデータを信じたウリエの浅はか、愚か、自業自得のうすら馬鹿。

 

“喰種”「パラポネラ」。赫子のタイプは“尾赫”。推定レートS。

枝分かれした赫子の一本がウリエの腹部を突き、内臓に刺さる。それを引き抜き、赫子に付着したウリエの細胞と血液を丹念に舐め取ったパラポネラは、小さく「おー」と声を上げた。

 

 

「そんなに美味しくない。でも嫌いじゃない。どっち? まぁ、焼けば食えるが人類の知恵でしょう。運びにくいし腕切るけど、お祭り邪魔する方が悪いよ?」

 

「(ああああああああ痛い。腕、腕とられる!! 死ぬ。死にたくない。嫌だぁ)」

 

 

蟻だからか。体格に合わない力でウリエの腕を掴んで引っ張り、筋繊維が一つずつ千切れていくのが分かる。走馬灯が見えた。それは自分を置いて死んだ父親の姿が主に真ん中にあって、その隣にいながら父を守れなかった憎い黒磐特等がいて、そこで泣きじゃくることしか出来ない幼い自分がいて。

 

後ろの方で僕を呼ぶ声がした。

 

 

「ウリエッッ!!!」

 

 

銃声がパラポネラの体を貫き、背骨がその体を掴んで離れた場所に叩きつけた。

立ち上がるパラポネラ。そこで、ウリエの元に駆け付けた男───シラズは、別のクインケを起動させる。

 

「ライ」に比べて大型の、ロケットランチャー型クインケ、Aレート“羽赫”「ボマー」。煙を吐き出しながら発射された獣の牙のようなロケット弾は、高速でパラポネラに到達し爆裂した。

 

 

「無事かウリエ! 馬鹿野郎! なんでお前一人で死にかけてんだ!」

 

「(シラズ…!?)なんで…真戸班が……!?」

 

「何故、というのは私たちが聞きたい。だが、深追いせず突入したのは正解だったようだ」

 

 

そう答えたのはアキラ。ウリエも段々と状況が理解でき始めた。

SSレート「ラビット」と遭遇した真戸班。その場にいた全員が死を覚悟し、総員がラビットに挑んだ。アキラの指揮は見事で、“羽赫”ながら近距離・遠距離共に隙の無いラビットに対し、死者を出すことなく数分戦い続けた。

 

しかし、到底討伐できる気がしない実力差。一歩でも焦って踏み出せば、あの剣のような羽赫で首を落とされる。少しでも弱腰になって後退すれば、弾丸のような羽赫で脳天を射抜かれる。

 

そんな綱渡りの極限戦闘が続く中、ラビットが僅かに動きを鈍らせた。

アキラ達が知る由も無いが、それは護衛の指揮をする喰種からの連絡。「墓盗り」巴ユミツが、S1班の田中丸と富良相手に追い詰められているという内容だった。

 

 

「ッ……ユミツ…!」

 

 

ここでユミツの加勢に行けば真戸班を通すことになり、この護衛の目的である「エトの情報」はファイズから得られない。それを天秤にかけたラビット───アヤトは、即座に答えを出した。

 

 

「強くねぇ癖に出張ってんじゃねぇ! ダブるんだよ、クソ姉貴と…!」

 

 

その答えとは、ユミツを助けることだった。

 

 

 

「ボマー」の爆撃を喰らったパラポネラだったが、網のような赫子で卵の殻のようなバリアを作って難を逃れたようだ。赫子は再び広げられ、今度は集まって刃のように変形した。

 

 

「やめ…ろ…!(泥棒が!)そいつは俺の功績だ…! 横取り、するな!」

 

「テメェ…あーそうか分かったよこンの、アホがァ!!」

 

 

猶も昇進への執着を見せるウリエに、シラズはとうとう我慢の限界。死なない程度の全力の頭突きが、出血するウリエの頭に激突した。

 

 

「お前のそういうとこスゲーとは思ってたよ! なんでそこまで昇進してぇのかは知らねぇけどな! 言ってくれねぇからな! でも死んだら終いだろうがウリ公ッ! なんでその前に誰かに頼ろうとか思わねぇんだよ!」

 

「黙れ…(黙れ!)、落ちこぼれの癖に」

 

「確かにオレはお前から見りゃ落ちこぼれかもしれねぇ。でもよ、落ちこぼれだろうがオレは…お前に死んでほしくねぇんだ!」

 

 

「死んでほしくない」。そう言って戦いに走り去ったシラズの背中を見て、ウリエの頭が痛む。覚えのない映像と声が、千切れた頭の血管から滲み出たような気がした。

 

 

「“尾赫”は弱点の無い万能型とはよく言うが、ここまで万能だと話が違うな。クインケの素材としては非常に興味深いが…」

 

 

アキラたち真戸班はパラポネラに苦戦を強いられる。

厄介なのはあの血管のような“尾赫”。束ねることで“甲赫”クラスの強度を出し、分離して発射することで“羽赫”のように遠距離にも対応。それぞれが細いからか“鱗赫”並みに再生も速く攻撃力もある。その上形状は自在。飛び抜けた性能は無いにせよ、十二分に脅威な特異過ぎる赫子だ。

 

 

「あぁー捜査官がもうこんなに。これは少し参ってしまう。まだお開きには早いと思うのに…」

 

「知らんな、喰種(クズ)の事情など。総員、不知一等の射撃を援護しろ! こういう時こそ火力が物を言う。やれ、不知!」

 

「ウッス、アキラさん!」

 

 

極細の赫子が高速で振られ、目視し辛い斬撃が空を斬る。

それを意に介さない「ボマー」の連続爆撃。パラポネラの視界を塞ぎ、細い赫子を吹き飛ばした。しかし、編まれて羽状になったパラポネラの赫子が煙を即座に吹き飛ばす。

 

が、死角に接近していたアキラがすかさず「フエグチ」を振るった。高速で通り抜けるノコギリに等しい一撃がパラポネラの体に触れるが、刃は通らず切断には至らない。

 

パラポネラの衣服が破れた下から、赤い糸が巻き付いた体が現れる。これが防御力の絡繰りだ。

 

 

「細い赫子を体に何重にも巻き付け、鎧のようにガードしているのか。『フエグチ』で斬れないなら『アマツ』でも無理だな」

 

「…オレがコイツを使います。そうしねぇと皆死んじまう。俺がコイツで、あのバケモンを殺す!」

 

 

赫子をうねらせ、血を流す捜査官を品定めするパラポネラ。

失わないために必要なのは奪う覚悟。シラズが別のアタッシュケースを持ち換えた。

 

 

______________

 

 

大雑把に動く赫子はショベルのように土を削り、山の木々をついでのように掘り起こして抉り倒す。近づけば瞬時に赫子を纏い、防御と鋭さを増した肉弾戦で迎え撃つ。それがアナザーファイズの戦い方だ。

 

 

「隙が小さいな。野生の獣のような反応だ」

 

「なら、お裁縫をしましょう。小さい隙間を縫って動きを止めればいいです」

 

「貴様の感性は独特で分からん…!」

 

 

什造は両手に「サソリ1/56」を何本も構え、生身ながらアナザーファイズの動きと渡り合う。彼の攻撃はアナザーファイズに通らないと分かっているからこそ、補佐に徹した動きがゲイツを更に有利にさせるのだ。

 

ゲイツが接近してアナザーファイズの戦法が切り替わる一瞬、什造は「サソリ」を放つ。防御が薄くなったその一瞬で什造が狙ったのは、背後で倒れかけた大木だった。

 

 

「木ィっ…!?」

 

「理解した。“縫い付ける”とはそういうことか」

 

 

アナザーファイズの赫子が倒木を薙ぎ倒すが、そのモーションで迫るゲイツの対応に遅れた。ジカンザックスがアナザーファイズの体に食い込み、裂く。

よろめいたアナザーファイズが半狂乱で赫子の反撃。その速度、完全な回避ができずゲイツの頭部に打撃が入る。生身だったら頭部が弾け飛ぶ一発だっただろう。

 

 

「浅はかだな喰種、何のための“仮面”だと思っている」

 

 

ゲイツは生身じゃないから、多少痛手を喰らったところで構わず食らいつく。殴り倒されたアナザーファイズにゆみモードのジカンザックスを密着させた。

 

 

「馬鹿がッ! 僕の間合いに飛び込みやがって! 挽き肉にして花火みたいに打ち上げてやる!」

 

 

体を抑えていようと、赫子が展開すれば予備動作無しでゲイツを叩き潰せる。背中から溢れる液状の甲赫がゲイツに伸ばされようとした時、飛来した10本の「サソリ」がアナザーファイズの赫子を地面に突き刺し固定した。

 

 

「はい、ちゃんと縫い付けたですよ。やっちゃってください」

 

「鈴谷什造ォ…ッ…!!」

 

「上出来だ喰種捜査官。アナザーライダーの喰種…地で爆ぜる花火は好きか!?」

 

 

緑のライドウォッチを起動したゲイツ。

2015年でのキメラアナザーとの戦いの後、仮面ライダーゴーストによって切り離された5つのライドウォッチをミカドは回収していた。

 

それはその一つ、仮面ライダーゾルダのライドウォッチ。

 

 

《ゾルダ!》

《フィニッシュタイム!》

《ゾルダ!ギワギワシュート!》

 

 

ロケットランチャーの火力がジカンザックスから放たれ、その爆撃が余すことなく地に押さえつけられたアナザーファイズの体に浴びせられた。アナザーファイズの姿は焼き尽くされ、辺りの木々、地面も爆発の餌食となって消し飛ぶほどの威力。

 

ゾルダウォッチの能力か、これだけの火力を出しながら反動は最小限。すぐに体勢を立て直したゲイツが爆心地の中心に視線を上げる。

 

 

「が嗚呼アアアぁぁァッッ!! ああああああやりやがったな邪魔虫があああああ!!!」

 

「しぶといですねえ」

 

「全くだ。今ので倒せていないのは驚きだが…」

 

 

激しい怒りがアナザーファイズの神経の隅々にまで巡らされ、赫子が背中から溢れ出てその体を覆い尽くす。全身が灰に包まれたような、醜悪な獣がそこにいた。

 

ところで、先ほどの爆発は謝肉祭で戦っている多くの喰種や捜査官にも伝わった。それに奇跡的直感で食いつき、全速力足上げダッシュで駆け付けた人物が一人。

 

 

「鈴谷先輩! そんなところにおられたのですか…先の爆発に一抹の不安を覚え、この半兵衛参上致した次第……」

 

 

息を切らし、長身かつ長い黒髪の男が什造のもとに爆速で駆け寄った。特徴だけ見ればイケメンに捉えられるのだが、実際の彼は能面のような不気味な顔つきをして臆病というよく分からない変な人、それが阿原半兵衛上等捜査官。

 

 

「半兵衛! 遅いですよ~何してたですか」

 

「鈴谷先輩と合流すべく、護衛を潜り抜けようと東奔西走…まさかもう『ファイズ』を見つけていようとは感服半兵衛…して、そちらの鈴谷先輩の右を陣取る面妖な人物は一体…」

 

「貴様こそなんだ。コイツの仲間か」

 

「半兵衛は僕の部下です」

「鈴谷先輩のまさに右腕。阿原半兵衛です」

 

「どっちでもいい。喋ってる暇が無さそうなのは捜査官なら分かるだろう!」

 

 

アナザーファイズの複眼がゲイツに向けられ、踏みしめた地面が破裂するほどの爆発的加速のダッシュが迫る。赫子を纏った腕は軌道上の物体を切り裂き、尋常じゃないパワーが突風を生み出す。

 

 

「鈴谷先輩、ジェイソン氏を…!」

 

 

半兵衛が持っていたアタッシュケースを什造に投げ渡し、その生体反応を感知したケースが開錠され、その内部のクインケが起動する。

 

什造がソレを掴んだ瞬間、閃光する殺気。ゲイツに襲い掛かっていたアナザーファイズの腕の赫子が、瞬きする内に削ぎ落とされた。

 

 

「おかえりです『ジェイソン』。さて、そろそろ殺しちゃいましょう」

 

 

階段のようなギザギザの形状をした鋼鉄の大鎌。その空気が揺らぐような暴力性は何よりも「武器」として相応しい。

 

S+レート“鱗赫”「13'sジェイソン」。天才捜査官、鈴谷什造の切り札。

 

 

_______________

 

 

パラポネラの赫子が広がり、蜘蛛の巣のように、孔雀の羽のように己の領域を広げる。赫包からRc細胞が赫子の先端に運ばれ、広げられた赫子の壁の表面に複数の「弾丸」が形成された。

 

 

「チャンスは一度きりだ。必ず当てろ不知!」

 

「しゃあッ!」

 

 

アキラの指揮で、真戸班総員がパラポネラの発射した赫子を叩き落とす。その間にシラズはパラポネラへと接近。その手に握るのは、簡素な杭のような形状をしたクインケ。

 

打ち終わった赫子がしぼんでいき、今度は紡がれて細い触手に。迫るシラズや他の捜査官を貫こうと伸縮し、班員の誰かが貫かれ血しぶきが上がった。しかし、止まることは許されない。死んでいない事を信じ、シラズは走りを加速させる。

 

避けた触手が地面に突き刺さった。シラズの足元に刺さった赫子は地中で分裂し、まるで鳥籠のようにシラズの周囲を覆い囲う。パラポネラの罠だ。

 

 

「クソがッ…!! そこ、どけえええええェッッ!!」

 

 

クインケを握りしめ、尚も足を踏み出す。それに応えてか鳥籠は閉じられる前に切断された。アキラの「フエグチ」がシラズの頭上をかすめる。

 

赫子を使い切った絶好のチャンス。こちらを虚ろに見つめる蟻のマスク、その胴体に向け、シラズは握った杭を思いきり投げ放った。

 

 

「それ何? まぁ、なんでもいいんだけどよ」

 

「なっ……!? 嘘だろ!!」

 

 

シラズが放ったクインケが、パラポネラの脇腹から伸びた赫子に弾かれ落ちた。体を守っていた分の赫子を解いたのだ。予測できた展開。頭に血が上り、判断を誤ったシラズの致命的なミス。

 

パラポネラの赫子が集まっていき、大蛇のような一本の尾赫らしい形を作り上げた。アレを喰らえば死は確実。アキラはフエグチを振り切った後。班員の多くはさっきの攻防で負傷し、助けに入れない。

 

 

遠方で寝かされていたウリエが、その一秒を目撃した。

血で滲む眼球が、怪物の尾と死の間際のシラズを捉えた。

 

 

「(シラズ……)」

 

 

これはいつの事だったか。嫌な日に見た夢か何かだったか。

 

 

 

『瓜江ッ!! 弾幕足りたかッ!!』

 

 

 

赤く染まった片目を大きく開け、猛獣のように口を開けて舌を出し、お前は飛んでそう叫んでいたあの一秒。その後の一秒はどうしても頭に浮かばない。

 

 

『この世の不利益はすべて当人の能力不足』

 

 

これは誰の言葉だっただろう。残酷で悲しい真実の言葉だ。いつからかこの言葉が知らないうちに心の奥に突き刺さっていた。そんなデジャヴのような感覚が、ウリエの意識を覚醒させる。

 

 

「しらず…」

 

(死ぬな)

 

(死ぬな)

 

「しらずっ」

 

(死ぬな!)

 

 

尾赫がシラズに迫る。ウリエが声なき叫びを吠えて立ち上がった。

届かない虚しい何かで終われない。理由はわからない、だがシラズは言った。ウリエに死んでほしくないと。きっとシラズも同じ気持ちだったのだろう。

 

左目に力が入った。その一瞬に届く刃を手に、ウリエの声が死と生の境目に切り込んだ。

 

 

「死ぬな!! シラズッッ!!!」

 

 

ウリエが振るった「三日月」の刃が弧を描き、シラズを貫く寸前だったパラポネラの尾赫を切断。すぐさま「兜」を起動したウリエが、パラポネラへと斬りかかる。

 

 

「うおおおおおおおッッ!!」

 

 

出血が酷い。動く度に傷口から体が裂けそうだ。

こんなことをして何になるか、ウリエは打算的な自分を黙らせた。

 

理由なんて無くても。今でも全く気に食わないし、落ちこぼれだと見下していても。悔しい事にこれは事実。不知吟士は、瓜江久生の仲間なのだ。

 

 

「ウリ公ッ! そこ避けろ!」

 

 

パラポネラと近接戦を繰り広げていたウリエに、シラズが舌を出して野蛮な笑いを浮かべて叫んだ。シラズの手には、さっき弾かれたクインケが。

 

鍛えたわけでもなくとも、阿吽の呼吸は存在する。

シラズがクインケを投げ、ウリエはギリギリまで交戦を続けることで、パラポネラは飛んでくるクインケが見えない。そして被弾の瞬間に体を屈め、シラズのクインケはパラポネラの右腕に突き立ったのだ。

 

 

「吹っ飛ばせ! ナッツ!!」

 

 

そのクインケはシラズが討伐したSレート喰種の赫子。2種の赫子と赫子分離機能を持った特殊な喰種から作られた「キメラクインケ」。その性能は、「感応して膨張するクインケ」。

 

Sレート“甲赫”/“尾赫”クインケ「ナッツクラッカー」。

パラポネラに刺さった「ナッツクラッカー」は杭の形からサッカーボールのような巨大な球に膨張。その結果、尾赫のしなやかさが肉を押しのけ、甲赫の強度が肉を抉り、

 

 

パラポネラの右腕と体のおよそ半分を破散。

そして、ウリエの「兜」がパラポネラの体を両断した。

 

 

_______________

 

 

「ジェイソン」を持った什造の戦いが切り替わった。巧みなナイフ術のテクニカルな戦法から一転、速度とトリッキーさ+クインケの火力に物を言わせた理不尽な戦いに。

 

 

「鈴谷什造っ! 邪魔だァ! 僕の、祭りだぞ! 僕が、僕のォッ…僕のためだけの謝肉祭を台無しにする気かあああああああ!!!」

 

「はい。悪く思わないでください。これも、お仕事です」

 

 

什造はアナザーファイズの攻撃を潜り抜け、赫子は振り回された「ジェイソン」で細切れにされ、アナザーライダーが生身の人間に圧倒され始めた。

 

防御を失ったアナザーファイズに「ジェイソン」の一撃、と同時にギミックオン。削り斬られた装甲から食い殺すように、刃から発生した赫子がアナザーファイズを嬲る。

 

満身創痍のアナザーファイズが地に捨てられた。クインケではアナザーファイズを倒せない。だから最後は、ゲイツがトドメを刺す。

 

 

《フィニッシュタイム!》

《ゲイツ!》

 

「爆発するぞ、下がれ!!」

 

《タイムバースト!》

 

 

のたうち回るアナザーファイズに叩きつけるライダーパンチ。激しい戦いの末、既に限界だったアナザーファイズの体は容易く崩れ、再び大爆発が山を揺らした。

 

爆発の中から転がるアナザーファイズウォッチ。

“喰種”「ファイズ」はその力に激しく執着するように、飢えた声で手を伸ばす。

 

 

「嫌だ…アレは、『ファイズ』は僕の…おれ───がひっ」

 

 

そのマスクが顔から落ちるのと同時に、什造の「ジェイソン」がその首を一撃で斬り落とした。アナザーライダーといえど“喰種”、最強の捜査官を前に絶命以外の道は無かったのだ。

 

 

「『ファイズ』駆逐完了、です。『アラタ』は使わなくて済みましたね」

 

「……いや、おかしい。何故死んでいる…!?」

 

「どうかしましたか? おや…この顔、見たことあるですね」

 

 

マスクが外れた「ファイズ」の素顔は、〔CCG〕の記録に残っていたものだった。その名前は「ジュラルミン」。異様に硬い甲赫を持ったSレートの喰種で、S1班の捜査対象だった喰種だ。

 

 

「鈴谷先輩…つまり『ファイズ』は『ジュラルミン』だった、という…?」

 

「それは変ですね。15年前から暗躍していたというには、ちょっと若すぎです。それに過去の行動と照らし合わせても不自然です」

 

「そもそもアナザーライダーはウォッチが健在なら死ぬことはない。死んだとしてもすぐに時間が修正され、無かった事になるはずだが……」

 

 

「ファイズ」の死体が灰となって崩れ去った。そして、そこに転がっていたはずのアナザーファイズウォッチは知らぬうちに消失している。

 

妙な胸騒ぎが、ゲイツを会場の内側へと走らせた。

 

 

__________________

 

 

「ナッツクラッカー」が刺さって発動してしまえば、凄まじい反発力で内側から体を引き千切る。つまり外側をいくら守った所で無意味。

 

パラポネラの半身が弾けた。右腕が断たれ、そこかしこに肉片が飛び散り、パラポネラがマスクを突き破るほどの絶叫を響かせる。シラズとウリエが勝ち取った勝利だ。

 

他の捜査官たちも遅れながら現着し始めた。もしパラポネラが立ち上がっても、これだけ人数がいれば対処ができる。

 

 

「シラズ…」

 

「ありがとなウリエ…お前が来てくれなきゃ、オレは絶対死んでた。お前の手柄だぜ、もっといつもみてぇにギラギラ喜べよ!」

 

「いや…俺の見立ての甘さが招いた事態だ。真戸班が俺の失態をカバーしてくれた(心底不甲斐ない…)。これは……お前の手柄なんだ、シラズ」

 

「お…おぅ、なんだよ気持ち悪ぃな…」

 

 

ウリエは全てを成し遂げたような達成感に包まれていた。手柄よりももっと大切な何か。まるで、自分はこの瞬間のために生きて来た、そう思えてしまうほどの感覚だった。

 

シラズはそんなウリエを気味悪げに見ながら、パラポネラに注意を向ける。倒れたまま叫びも弱くなっていき、死に行っているのが感じられる。

 

 

「ウリエ、アイツを…」

 

「あぁ。トドメを刺す」

 

 

『喰種対策法』13条2項、「“喰種”に対し、必要以上の痛みを与える事を禁ずる」。喰種は苦しまぬよう即殺すべき。忘れられがちではあるが、それが捜査官に求められる心がけの一つだ。

 

ウリエは「兜」でパラポネラの首に刃を向ける。

その時、消えたと思った叫びから、囁くような言葉が聞こえた。

 

 

「───熱い」

 

 

その声は徐々に大きくなっていく。言葉が死で途切れる様子も見せず、地面に落ちた火花の欠片から業火に育つように、震える狂気が息を吹き返す。

 

 

「なんだコイツは…!(早くトドメを!)」

 

「熱い熱い痛い熱い熱い熱い熱い熱い痛い痛い熱いッ…焼ける!! 嫌だ嫌だ死にたくない、死にたくないッ! 助けて私は、わたしは、オレ、俺は違う違って、

 

───僕は、死にたくないいいいぃぃぃぃ!!!」

 

 

消えかけていた赫子が異常に増大し、それは激しい血しぶきのようにも見えた。赫子は触れるものを破壊しながら千切れた腕を拾い、パラポネラの体を修復。そして、蟻のマスクがひび割れて砕ける。

 

真っ白だが汚い髪。仮面の奥は幼い天使のような美しさを歪ませる、右目だけの“赫眼”。

 

 

「“隻眼”だと…ッ!?」

 

 

この喰種は殺さなければ取返しがつかない。瞬間の判断でウリエは「兜」を振り下ろす。今なら間違いなく殺せる、そのはずだった。

 

刃が首に触れた刹那、時間が止まった。

その中で悠々と歩くのは、混沌を生み出す悪の貴族、タイムジャッカーのアヴニル。

 

 

「様子を見に来てみれば驚きだ。しかし、これもまた一興! “影武者”は死に、追い詰められた今こそ、貴公が王として君臨するに相応しい時!」

 

《ファイズゥ…》

 

「お開きにはまだ早い。祭りは、ここからが本番だ。そうだろう!?」

 

 

パラポネラの体にウォッチが埋め込まれる。

ファイズの力の特性は「人外との親和性が高いこと」と「条件さえ満たせば変身者を選ばないこと」。だから変身後でも赫子を使う事ができ、こうして複数の変身者を持つことができる。

 

そして、さっき死んだ「ファイズ」は、アヴニルが用意し洗脳した影武者。パラポネラとはファイズの協力者ではなく、「ファイズ」そのものだったわけだ。

 

 

「───ごはん、だ」

 

 

アナザーファイズに変身したパラポネラ。その背中から伸びたのは灰色の6本の棘。これまで使っていた赫子とは全く違う、昆虫の脚のような触手。

 

その「脚」がウリエの体を削り、後ろの捜査官の頭を穿った。

 

 

「“二種持ち”…!? かあッ…!!」

 

 

ウリエは急所を外れ、なんとか生きていた。しかしアナザーファイズはもうそこにはおらず、後ろに来ていた2人の捜査官の体を赫子で切断。あっという間に3人、この化け物によって殺された。

 

 

「むかし、父さんが言ってたぜ。懐かしい。食べる時、は、ちゃんと手を合わせる、って。感謝する。しなきゃ。じゃあ、みなさん手を合わせてぇ…」

 

 

手を合わせたアナザーファイズは死んだ捜査官の頭をもぎ取り、怒り狂うシラズやアキラの攻撃を掻い潜り、更に1人の頭を握力で握り潰す。

 

 

「いただきます」

 

 

アナザーファイズの口が開き、手にベットリ付いた血液と脳髄をその舌に滴り落とす。苦悶の表情を浮かべた生首を噛み、千切って飲み込む。次の一口を咀嚼する。

襲い掛かってくる捜査官に対し、動きもせず赫子で貫く。食べかけの生首を放り投げ、そうして貫いた息のある捜査官の体を、ガツガツと貪った。

 

強い者には奪う権利がある。奪い続けたものだけが死を超え、生き続ける。死と隣合わせのこの場所で、奪い、腹を満たし続けるアナザーファイズは、何よりも“喰種”だ。

 

 

「あまい味…あつあつのパンケーキをはちみつで漬けで、ぐちゃぐちゃにした、スムージーみたいな味がする。ジャムがほしい。ヒトは、頭とか、ドロドロだったり柔らかいところが、甘くておいしい…」

 

「ざっけんな…死ねよ、このバケモンがああああァァッ!!!」

 

 

シラズの「ボマー」を受けても、アナザーファイズの灰色の「脚」は折れない。そこからたったの2歩で接近してきたアナザーファイズの「脚」が、邪魔するなと言わんばかりに「ボマー」に「脚」を突き刺した。

 

すると、「ボマー」はみるみるうちに灰となって崩れ落ちる。他の捜査官のクインケもそうだった。アナザーファイズに貫かれたクインケは、どれも灰になって消えている。

 

 

「ぜんざい、ふたつ。だいふく、ひとつ。僕に…よこせ!!!」

 

 

ガバァと口を開き、アナザーファイズが食い掛る。

だが、飛来した矢がその先行した頭部を射抜き、アナザーファイズを弾き返した。地面を転がるがすぐに立ち上がるアナザーファイズだったが、今度はその眼前に投げられた斧が。

 

 

「それでよければ食っていろ。やはり、さっきのアナザーファイズは偽物だったようだな」

 

 

直感を頼りに駆け付けたのはゲイツだった。

衝撃で曲がった首をベキベキと音を立てて治し、ざらついた吐息をつくアナザーファイズは、新たに現れた食糧を見定める。

 

 

「ぜんざい、あと()()()…か」

 

 

ゲイツの後ろから爆進する足音。視界を横切った黒い鋼の猛獣。

アナザーファイズに追突したそれは、一撃の薙ぎ払いでアナザーファイズを視界の彼方にまで吹き飛ばした。

 

 

「アキラッ!!」

 

「そう大きな声で呼ばずとも聞こえるさ…亜門特等」

 

 

全身に黒い甲冑を纏った巨体を、アキラは「亜門」と呼んだ。

ドナートと交戦していた亜門はこの鎧を使う事で、逃がしはしたものの、なんとかあの場を切り抜けたのだ。

 

SSレート“甲赫”「アラタ・弐」

喰種の中には“共食い”をする者がおり、それを繰り返した個体は稀に喰種として一段階上の強さに到達することがある。そういった個体は覚りし者とかけて“赫者”と呼ばれ、赫子を全身に纏って異形の怪物に変化するのだ。

 

「アラタ」は赫者のクインケ。その姿を見てゲイツは仮面ライダーと錯覚するほど、「アラタ」は容姿も能力も装着前のそれとは比較にならないほど変化させる。

 

 

「ウリエも居たのか…! 傷が深い…シラズ! アキラとウリエを連れて退避しろッ!」

 

「ッ…亜門、特等……!(俺はまだ戦える!)」

 

「言いたいことは分かる。だが、俺はお前を死なせたくない。俺が遅れたばかりに…! 俺をドナートから救ってくれた瓜江特等に、合わせる顔が無い…!」

 

「……(あんたもそれか…)」

 

 

あちこち体が抉られたウリエの体を見て、己の不甲斐なさと喰種への怒りが溶岩のように湧き上がってくる。そして、亜門はその怒りと同種の熱を隣から感じ取った。食い散らされた死体を見て体を震わせる、ゲイツだ。

 

 

「その姿…お前は捜査官か?」

 

「違う。ただ奴を調べに来た一般人だ。調べて帰るつもりだったが…気が変わった。今ここで、奴を殺さなければ怒りが収まらん!」

 

「そうか…ならば戦うぞ! 戦う力があり、喰種に正義の怒りを燃やす者は、誰であろうと喰種捜査官だ!」

 

 

アナザーファイズが「脚」を地面に突き刺し、赫子を大きく広げた。

血管のような赫子が捻じられ、纏まって、太く大きな一本の姿になる。それはまるで、サメの尾ひれのよう。

 

 

「焼け、食べる。こないで痛い刺さないで入れないで触らないで、僕は父さんのおうさま、あたらしい兄ちゃん、たったひとりで、誰も…たべたくないおなかすいた、僕は、虫だ。僕は、魚だ。どこにいても殺して喰う生まれながらの牙。僕は、“喰種”だッッ! 僕と違うヤツらみんな、消えろ死ねぶちまけろぉぉ!!」

 

 

手に付いた血を振り落とすような仕草をすると、滑りこむように接近したアナザーファイズ。その動きのまま巨大な尾赫を振り抜く。激しい風圧に押さえつけられるが、亜門はそれを両腕でしっかりと受け止めてみせた。

 

その後ろには負傷者を抱えて退避するシラズと、彼の相棒であるアキラがいた。アキラはその去り際に、短く言葉を投げた。

 

 

「死ぬなよ、亜門特等。君が死んだら、誰が私の昼食に付き合ってくれるんだ」

 

「そうだな…大丈夫だ。俺はまだ、こんなところでは死ねん!」

 

 

アキラの勘がアラートを出している。父と同じで、彼女の勘はよく当たる。

ただ、今は信頼に足るパートナーの言葉を信じ、アキラはその場を去った。

 

 

「喋り終わったか喰種捜査官! だったらこっちに集中しろ!」

 

 

亜門が動きを止めている間に、ゲイツが「腕」を掻い潜り顔面目掛けて蹴りを炸裂させた。更にジカンザックスを呼び戻して尾赫を斬り捌き、最後に亜門の「ドウジマ・改」がアナザーファイズへと突き刺さった。

 

 

「がげッ…だ、ぱ、たっ!!」

 

 

赫子も「腕」も捨て、アナザーファイズが素手でゲイツに掴みかかる。首を掴んで放り投げ、斬られた赫子を再度分解して今度は右足に巻き付かせた。そうすることで赤く染まった右足は瞬発的に強化され、亜門の体を一撃で蹴り飛ばす。

 

 

「ててて、てっ、ひゃあ飛、べっ!!」

 

 

転げ、立ち上がったばかりのゲイツに追いつき、アナザーファイズは強化された右足で容赦なく顔面に膝蹴り。

 

 

「おかえし」

 

「…釣りを返してやる」

 

 

赤い残光を残す高速の蹴りを全身を使って躱し、ジカンザックスを振るうも刃が「脚」に食い込むだけで切断できない。しかし、ゲイツは刺さった斧を更に蹴る事で「脚」を烈断。灰になる「脚」を掃い、留守になった胴体に拳を叩き込む。

 

 

「うおおおおおおッッ!!」

 

 

野太い叫び。アナザーファイズが振り返った先には、もう亜門が復帰し武器を振りかぶっていた。しかし、その武器は「ドウジマ・改」ではない。スピア型ではなく、機械的な見た目をした大きなブレード型のクインケ。

 

そのクインケの刃がアナザーファイズの体を斬る。その衝撃、痛み、全てが傷口から浸食するように焼き付き、赫子の末端にまで力が伝播する。「ファイズ」の力そのものに作用しているような、確実にアナザーファイズの命を削る痛みだ。

 

 

「それもクインケとやらか? 随分と効いているみたいだが」

 

「俺も詳しくは知らん。だが、このクインケがヤツに有効打となるのは過去数度の戦闘で実証済みだ。行くぞ…『フォトン』!」

 

 

Sレート“鱗赫”クインケをベースに仕上げられた対「ファイズ」クインケ、「フォトン」。影武者の“甲赫”を想定したため“尾赫”に対して相性が悪いが、その瞬間的威力は相性の差を容易く覆す。

 

 

「俺も本気を出す。一気に畳み掛け、あの喧しい喉を潰してやる!」

 

《ビルド!》

 

 

壮間に無断で持ち出したビルドウォッチを起動し、ドライバーに装填してアーマータイム。ゲイツの後ろにアーマーが形成され、装着されると共に「びるど」が複眼と一体化する。

 

 

《アーマータイム!》

《ベストマッチ!》

《ビ・ル・ドー!》

 

 

仮面ライダーゲイツ ビルドアーマー。手に持ったドリルが防御の赫子を掘り進め、そのまま攻撃を貫通させる。更に、これまで観察したファイズの能力、戦闘をビルドの力で定式化。パターンとして分析が完了し、一気に戦いが有利に傾く。

 

 

「あと4秒後に隙が生じる! そこにそいつをぶちかませ!」

 

「あぁ…任せろッ!!」

 

 

激化するアナザーファイズの攻撃。分析していても尚、紙一重の反応を強いられる並外れた動きと、赫子+両手両足+「脚」という手数の多さ。

 

 

「散れっ、ちれっ、いねっ、味、ああああッッ!!」

 

「脳が溶けたか野生動物が!」

 

 

ゲイツは数撃喰らっても痛みを噛み殺し、根性で喰らいつき、4秒が経過。宣言通り、アナザーファイズの胴体に「フォトン」の通り道が生じた。

 

そこにすかさず斬りこむ、赤く輝いた重い斬撃。「フォトン」が完璧に入った。

 

 

「死ね!!」

 

 

さらにゲイツのドリルがアナザーファイズの首元を穿ち抜く。

再びの絶叫、からの赫子の異常暴発。細く鋭い赫子が無数の矢のように、ゲイツと亜門に降り注ぎ、亜門の顔を覆っていた甲冑が砕けてしまう。

 

しかし、その一つも2人の命には届き得なかった。

 

「フォトン」の効力が作用を始め、アナザーファイズの力が維持できない。変身した姿が崩れ去り、“隻眼”が見つめるのは「アラタ」の損傷から覗く亜門の顔。

 

トドメを刺そうとする亜門に向け、パラポネラは指をさす。乾いた笑いと満面の笑顔が、不気味に無邪気にこう呼んだ。

 

 

「鋼太朗だ」

 

「ッ……!? なぜ、俺の名前を…!?」

 

 

有名人を呼んだ感じではない。旧知の友人を、家族を呼んだような親しみと喜びに満ちた声色。しかし、そんなことは興味が無いと、ゲイツがドリルを向けて突進する。

 

ファイズの力はまだ復活しない。相手は手負いの喰種。変身した今なら難なく殺せるというゲイツの判断は正しい。パラポネラが“アナザーライダー”であり“喰種”で()()()()という仮定の下では。

 

 

「邪魔、すんなよ」

 

 

パラポネラの顔に模様が浮かび上がった。その時にフラッシュバックする、ミカドの焦げ付いた記憶。それはそこから数秒間、色の濃さを増し続けることになる。

 

パラポネラの姿がアナザーファイズではない姿に変わった。

完全なる灰色の体はまるで彫刻のよう。パーカーを着た人間のようなスマートな体形に、顎と触覚が特徴的な昆虫の頭。

 

 

「あれは……オルフェノク…ッ…!?」

 

 

ミカドはその怪人を知っていた。忘れもしない、怒りの炎の奥底にある記憶で、その存在は今もまだ灰にならず燃え続けているのだから。

 

「蟻」の特質を備えた「オルフェノク」、「アントオルフェノク」だ。

 

 

「アヴニル。鋼太郎と話がしたい。あと、そいつも」

 

「…いいだろう。だがしかし、殺すでないぞ。死にたくなければな」

 

 

またしても時間が止まり、夜の闇からアヴニルが浮かび出て指を鳴らした。

瞬間、途切れる意識。いや、一瞬たりとも途切れてはいなかった。それなのに、ミカドと亜門は、気付いた時には全く別の場所に座らされていた。

 

 

(意識ごと時間を止めて移動させたのか…!)

 

 

そこは教会だった。ただし長椅子は全て片付けられ、代わりに長い机が一つとそれを囲う椅子が置かれている。亜門とミカドはそこに座っていた。

誕生日席に座っているのはパラポネラだ。ただ、先程までの狂気的な表情と言動は鳴りを潜め、落ち着いた様子でこちらを見つめていた。

 

 

「嬉しいな。懐かしいだろ、鋼太朗? 昔はよく一緒におやつを食べた。鋼太朗は…ぜんざいとドーナッツが好きだったっけ」

 

「何を言っている…?」

 

 

瞬間移動した驚きから覚めた亜門が、混乱を隠せない声で返す。パラポネラはそれでも恍惚とした様子で、今度はミカドの顔に触れる。そこで初めて、ミカドと亜門は赫子で椅子に縛り付けられていることに気付く。

 

 

「見ろよ鋼太朗! アヴニルが言ってた別の王候補、こんな子供だ。でもよく見ると“ミナト”にそっくりなんだぜ! ここに父さんがいてくれたら、本当にあの頃の孤児院みたいだ…」

 

「“ミナト”……!? お前、まさか───」

 

 

パラポネラの言葉のパーツが亜門の中で組みあがる。

胸にかけたロザリオが熱を帯びたように、ドナートに育てられ、何も知らなかったあの日々が蘇る。その幸せだった日々の中で、知らずに失われていった命も。

 

 

「“ミツル”……なのか…!?」

 

「そう! 久しぶり鋼太朗! 僕はミツルだ!」

 

 

ドナートは孤児院の子の引き取り先が見つかったと偽り、殺して喰っていた。その中には亜門と長い時間を共にした家族も多く居た。

 

その一人が「ミツル」だった。亜門と同じで甘いものが好きで、人懐っこく大人しい子だった。それとはかけ離れた白くなった髪、狂気が沁み込んだ顔、枯れた声。だがその顔立ちは紛れもない「ミツル」のものだ。

 

 

「有り得ん…ミツルは俺よりも年上だった。それに、ミツルはドナートに喰われて死んだはずだ…!!」

 

「…有り得なくはない話だ。ライドウォッチを使った時点で体の時は止まる。それに…ヤツは“オルフェノク”だった」

 

「知ってるんだ、へぇ知ってるんだな! オルフェノクのこと、みんな忘れたと思ってたんだ! 教えろよ“ミナト”! 僕は一体“何”なの!?」

 

「俺はミカドだ…! オルフェノクは、一度死んだ人間が生き返ることで生まれた怪物……オルフェノクになった者は、姿だけでなく心も醜く変容する…!」

 

「そう! そうそうそう!! 僕は“オルフェノク”だッ!! 人類の進化系! 人類を進化に導く選ばれた存在!」

 

「違う…!! 俺の知るミツルは…お前は、“人間”だったはずだッ! 何度も食事を共にした。おやつを分け合った。答えろミツル、お前は“喰種”だったのか!?お前も、ドナートと同じだったのか…!?」

 

 

“人間”“喰種”“オルフェノク”、ミツルの像がぼやけるように、誰もその正体を理解できない。それはミツル本人もそうだ。確かなのは、幸せだった過去だけ。

 

 

「僕は……“人間”だった。父さんは本当に僕たちを養親に預けたんだ。僕が“人間”じゃなくなったとしたら、その時」

 

「何があった…! 何がお前を変えてしまったんだ…!! お前と一緒に施設を出た、“ミナト”は!? ミナトも生きているのか!?」

 

「ミナト、そこにいるじゃねぇか。隣にいるお前が…

いや、違う。ミナトじゃない。お前はミナトじゃない! ミナトは、僕が…“殺した”。仕方なかった。僕を“人間”じゃなくしたのは、ミナトだッッ!!!」

 

 

ミツルはミカドの首を掴み、赫子を引き千切って掴み上げると、その顔を床へと叩きつけた。ミカドの頭から流れる血の香りで、ミツルの右目が赤く染まる。

 

 

「違う、僕は殺したくない。食べたくない! だから、そうだよ、そうなんだ! “謝肉祭”をやった! 覚えてるか鋼太朗!」

 

「何を言っている…放せ…! バケモノが…!」

 

「いや、覚えているさ…そういうことか。“謝肉祭”、俺達の孤児院はカトリックだったからな。四旬節の前の一週間、豪勢な食事と遊戯をする祭り…特に俺とミツルは、最終日に振舞われるパンケーキを楽しみにしていたな……」

 

「謝肉祭をやれば腹を空かせた喰種が集まる。だから僕は、“ヒトをオルフェノクに変える毒”を食事に混ぜた。謝肉祭以外にも、見かけたヒトの死体、喰われやすそうな間抜けにも“毒”を入れた」

 

 

オルフェノクは、人間をオルフェノクに変える「オルフェノクエネルギー」を放出することができる。「蟻」の特質を持つオルフェノクなら、オルフェノクエネルギーがフェロモン状でも不自然ではない。

 

 

「オルフェノクは“いなかったこと”になってる。だから増やせない。でも僕はいる。その矛盾が、面白い結果をつくった。僕の“毒”は、喰種にだけ効くようになったのさ! 捜査官なら知ってるだろ鋼太朗」

 

「まさか、『灰病』とはお前が……!」

 

「“毒”を食べた喰種は体のつくりがオルフェノクのようになる。完全にはなりきれないんだけどな。つまり、寿命がとても短くなって、死体は灰になる! それに、僕の毒は粘膜接触や共食いでも感染する」

 

 

「ジュラルミン」は赫子の形が変化し、灰色になっていた。灰病の末期症状だったというのも、その病原体を「ファイズ」であるミツルが持っていたのなら納得だった。

 

ただ、「灰病」がミツルの仕業としても、目的が分からない。そんな地道な作戦を15年間も遂行し続けた理由が。しかし、それはミツルが嬉々として自ずと語ってくれた。

 

 

「だって死んだ方がいいだろ! 絶滅したほうがいいじゃんね、“喰種”なんて!! 分かるだろ! 僕の気持ち! 捜査官の正義と一緒だよ! 誰かが分かってくれると思って頑張ったんだ! その誰かはお前だったんだよ! 鋼太朗!!」

 

 

ミツルは叫ぶ。15年間溜めてきた想いを。ようやく再会できた家族に。

ミカドも一瞬納得してしまった。形だけ見れば確かに、それはミカドの「正義」とよく似ている。己がどれだけ堕ちてでも、悪を根絶する決意とよく似ている。

 

だとしたら、この嫌悪感はなんだ。

人を喰らいながら喰種を憎む矛盾。大義のために暴力を厭わない矛盾。大義を掲げながら、その奥底には承認欲求しかない矛盾。

 

 

「違う…俺はお前とは…!」

 

 

何故か似ていると思ってしまった、だとすれば、外から見たその正義は、どれだけ醜いというのか。

 

 

「俺は……もうお前を許すことができない…!!」

 

 

ミカドの横で、亜門がミツルにそう言った。

逆鱗に触れた一言だった。触れに行った一言だった。ミツルは怒りのまま亜門を蹴り飛ばし、椅子が砕ける。

 

 

「がはッ…! ッ…お前は、人を喰らった! 俺の知るお前は人間だったさ、だが今は! 罪なき人々を平気で殺め、己の欲望のまま喰らう、仮面をつけた悪鬼…俺が殺してきたそんな“喰種”と、同じ目をしているんだ…! お前は…間違っているッ…! ミツル!!」

黙れえええええええええ!!!!

 

 

正論を掻き消す金切声。赫子を広げ、亜門に襲い掛かるミツル。

 

自由になった亜門の右手のそばには、偶然にも「フォトン」があった。亜門は赫子を「フォトン」で受け止め、ミツルの体を弾き返す。

 

 

「もう誰もお前を許してはくれない…だから罪を償え! お前が“人間”でありたいなら!」

 

「なんでッ…! なんで僕が! 僕は間違ってない! 僕は何も悪くないだろうが! もう“人間”でもなんでもないなら、どうでもいい! “喰種”の次は“人間”だ! “喰種”も“人間”も“オルフェノク”も、みんな死んでしまえ! 僕以外はすべて!!」

 

 

激情したミツルの姿がアントオルフェノクへ変化した。

アントは亜門が盾にする「フォトン」に噛み付き、オルフェノクエネルギーを注ぎ込む。クインケの組成は喰種と同一であるため、青い炎を出して「フォトン」が灰になってしまった。

 

亜門の両手に大量の灰が覆い被さるが、「フォトン」の中から灰にならずに残ったものがあった。「Φ」の記号と「2003」の文字が入った、ファイズのプロトウォッチだ。

 

 

「プロトウォッチ…! アナザーファイズに有効だったのは、そういうワケか!」

 

 

己の正義、そして過去と葛藤していたミカドも命の危機で我に返る。亜門を襲うアントオルフェノクを体当たりで跳ね飛ばし、プロトウォッチを亜門の手から掴み取る。

 

 

「これは貰っていくぞ。ヤツを殺すために必要なものだ」

 

「…これを、俺は見たことがある。これは俺が捜査官になった後に知ったことだが、コクリアに幽閉されていたはずのドナートが所持していて、〔CCG〕が押収したと資料には書いてあった。確か…15年前のことだ」

 

「15年前、2003年か。アナザーファイズの刻印と一致する。だが……!」

 

 

アントが立ち上がる。先の戦いの傷がほとんど癒えたミツルとは違い、亜門とミカドは人間だ。特にミカドの方は既に肉体の限界が近く、亜門はクインケが手元に残っていない。

 

杖を突く音が教会を反響し、時間が止まった。

 

 

「たわけ者が、殺すなと言ったはずだ。吾輩が用意したこの場で王候補を殺せば、そのペナルティを受け貴公も死ぬ可能性がある。それほどに貴公の存在は危ういと何度言えば分かる!」

 

「タイムジャッカー、アヴニル!」

 

「ふぅん、久しぶりではないか正義を騙る王候補。またも吾輩の王の邪魔をするというのは、実にッ不愉快だ! ヤツは吾輩が一から育て上げた王の器、貴公の軽い正義とは話が違う。下がれ」

 

「こんな化け物が王だと? ふざけるな! それで訪れる未来がどんなものになるのか、貴様は知らないだろう! 貴様の軽薄な道楽に、大義などあるものか!」

 

「知っているさ! そして否ッ! 吾輩の存在は貴公よりも遥かに大義である! 今ここで不愉快な貴公を殺すことはできぬが、その『鍵』を奪う程度なら問題あるまい。罰も精々致命傷だ!」

 

 

身動きが取れないミカドから、ファイズのプロトウォッチを取り上げようとするアヴニル。しかし、その手が触れる寸前に時間停止は別の波動によって打ち消され、ミカドの体が動いた。

 

 

「困るなアヴニル氏。そういう勝手はルール違反だ」

 

「それを厭わないのが吾輩ッ! そうだろう、ウィル!」

 

 

壮間の預言者であるウィルが現れ、アヴニルからミカドを守るように右腕を広げた。

 

 

「その偽善者も貴公の王か? あの取り柄のない男といい、貴公はまるでナンセンスだ!」

 

「ゲテモノ好きの貴方には言われたくないが、彼は私の王ではない。彼が誰の王なのかは私も気になるところだが…今はその話はいいとしよう」

 

「久方振りの再会だが、容赦はせんぞ。その『鍵』は置いて行け。さもなくば───」

 

 

揚々と喋っていたアヴニルの顔面を、思いきり殴りつける逞しい拳。

不意を突かれたアヴニルが床を転がる。彼を殴ったのは、怒りで歯を食いしばった亜門だった。

 

 

「……行けッ!! ミカド!! お前の正義がどんなものかは知らないが…考えることだけはやめるな! 何が正しいのか考え続け、その末に出た結論なら俺は信じる! その答えで…ミツルを救ってくれ!!」

 

 

一度だけ聞いたミカドの名を呼び、彼が背負った覚悟を想像し、亜門は叫んだ。ミカドは捜査官を志した頃の自分と似た何かがある。亜門はそう感じたのだ。

 

 

「亜門…鋼太朗…! 俺が、救うだと? ヤツを……!?」

 

 

ミカドを殺さなければ反動も大したものではないだろうと、アヴニルはアントの体の時間停止を解除する。その瞬間、生身の亜門にアントが襲い掛かる。

 

その頼みの真意を聞くことができないまま、ウィルのマフラーがミカドを包み込んで2人の姿が教会から消えた。亜門と、抱きつくように飛び掛かり、口を開けるアント───ミツルを置いて。

 

 

「なんで、鋼太朗……僕を───」

 

 

幸せな偽りの日々が懐かしい。清く正しいと思っていた世界が懐かしい。

“喰種”は、“オルフェノク”は、自分の命を肯定するため、また命を奪う。

 

 

_________________

 

 

 

「立てるかい? ミカド少年」

 

「触るな…」

 

 

そこは教会から離れた街中。ウィルの手を振り払い、ミカドは力の入らない脚でなんとか立ち上がる。その手にあるのはファイズのプロトウォッチで、目的は達成された。

 

そのはずなのに、分からない何かがミカドの心に刺さって抜けない。

 

 

「亜門鋼太朗は…死んだのか?」

 

「どうだろうね。確かめに戻るのはおすすめしない」

 

「…だろうな」

 

「彼は強い。義憤に燃える超人と言っていい。例え歪みに歪んだこの物語でも、その力に満ち溢れた生き様は健在だった。ただひとつ、その歪みのせいで彼は己に刺さった楔を処理しきれていなかった…それが危うい」

 

「歪み…だと?」

 

「アヴニル氏によって歴史が大きく捻じ曲げられている。その歪の正体がようやく見えたよ。それは───金木研の存在だ。この物語には彼が存在しない」

 

 

「金木研」「隻眼の喰種」「眼帯」「佐々木琲世」「王」

 

彼を呼ぶ名は多く存在するが、そのどれもが2018年の今に至るまで存在しないのだ。

 

 

「カネキケン……」

 

「例えるなら彼はとてつもなく大きな歯車。彼は人間でありながら喰種となり、悲劇の主人公として悩み、苦しみ、戦った男だ。人間と喰種が分かり合える世のため、この理不尽な世界で戦い続けた」

 

「人間と喰種が分かり合う…だと? 世迷言だ。日寺もそうだが、余りに馬鹿がすぎる。あんな化け物と、どう分かり合えと言うんだ…!」

 

「真に望む理想というのは、どれも世迷言さ。君だってそうだろう」

 

「共存なんかよりも単純な話だ。俺の望む未来は…屍の先にしか無い! 仮面ライダーを、怪人を、理不尽な力を殺し尽くす! それだけだ…!」

 

 

タイムマジーンが飛来する。これから向かう先は2003年、恐らくオルフェノクが跋扈しているであろう時代。嫌な記憶が何度も過ぎるが、逃げるわけにはいかない。全ては望む未来に革命を起こすため。

 

 

「……君は強い。そんな君に、この言葉を捧げよう。

誰かが言った、“生きて、生きて、生き延びて、このクソみたいな世界をぶち壊せ”。こんな世界と戦う覚悟があるなら、どうぞ進むといい」

 

「言われるまでも無い!」

 

 

ミカドが時空転移システムを起動させ、ファイズのプロトウォッチでゲートを開く。そこに飛び込む瞬間、思い出すのは亜門が残した言葉。

 

 

『考えることだけはやめるな』

「俺が…間違っているとでも言うのか…! 俺は何も……!」

 

 

『僕は間違っていない!!』

 

 

今度はミツルの言葉が蘇る。次々に浮かび上がる言葉を上書きするように叫び、ミカドはレバーを倒す。

 

間違っているとしたら、この世界だ。

そんな世界を正すために戦う。その答えを胸に、2003年へと向かった。

 

 

「私はそんな道を、我が王には進ませたくないけどね」

 

 

そんなミカドを見送り、ウィルはそう吐き捨てた。

 

 

_______________

 

 

2003

 

 

仕事を終え、帰路に就く若い女性。道を照らす街灯は点滅を続け、ふと光が消えた一瞬があった。特に気にもせず歩いていた女性だったが、何かにぶつかってしまう。

 

女性は顔を上げた。そこにいたのは、布を被ったカタツムリのような、灰色の怪人だった。

 

 

「いや───」

 

 

叫び声を飲み込むように、女性の口に怪人の粘液が流し込まれる。徐々に呼吸はできなくなり、体の内側から粘液は浸食する。やがて、女性の体は灰になって消えてしまっていた。

 

 

「あぁ……またやってしまった……!」

 

 

女性を殺した「スネイルオルフェノク」は、怯えた様子でその場から逃げ出す。

彼は別のオルフェノクに殺され、オルフェノクとして「使徒再生」を果たした。それ以来、彼の心の中で声が四六時中叫ぶのだ。

 

「人間を殺せ。淘汰しろ。進化しろ」と。

 

そうしてこれで5人目。まだ声は絶えない。もっと殺さなければ、平穏なんてやってこない。スネイルは次の標的をゆっくりと探す。

 

目に入ったのは若い男だった。歳に合わないアタッシュケースを持ち、こちらを見ている。

 

 

「オルフェノク…」

 

 

男は携帯電話を開いた。通報するつもりだろうか。スネイルは足を速める。

しかし、男は「110」ではなく一つのボタンを3度押した。いつの間にかその腰には奇妙なベルトが。

 

男が押したボタンは「555」。

 

 

《Standing by》

 

「変身」

 

《Complete》

 

 

携帯電話「ファイズフォン」を高く上げ、ベルトバックルにセット。

 

赤い光が夜を照らす。光のラインが男の体をなぞるように走り、その姿を変える。黒いスーツと銀の装甲という人工的な姿に、血管が走っているよう。マスクは「Φ」を示すように、黄色く光る円盤状の複眼。

 

仮面ライダーファイズ。その名は、オルフェノクにとっての「死神」に等しい。

 

 

「ファイズ……! やめてくれよ、俺は殺したくなかったんだ! 仕方がなかったんだ!」

 

 

ファイズはオルフェノクと言葉を交わさない。黙ってスネイルを殴りつけ、転がった先に走って追いつき、蹴りでの追い打ちを入れる。

 

 

《Ready》

 

 

ベルトのファイズフォンから「ミッションメモリー」を引き抜いて、腰のカメラ型ガジェット「ファイズショット」に装填。そうすることで武器として機能するようになり、ファイズはそれを手甲のように装備した。

 

立ち上がろうとするスネイルを踏みつけ、ファイズはファイズフォンの「ENTER」を押し、拳に力を込めた。

 

 

《Exceed Charge》

 

 

装甲を巡るフォトンブラッドが右腕に集まり、光を帯びたその拳を、ファイズはスネイルへと叩きつけた。その瞬間に解放されるフォトンブラッドの高エネルギーは、オルフェノクを絶命へと至らしめる。

 

 

「なんで……! こうするしか、なかったのに…!!」

 

 

スネイルは「Φ」の光が浮かび上がった直後に青い炎に焼かれ、灰化した。これで何度目だろう。最期に彼が残した呪言が、ファイズの呼吸を締め付ける。

 

生きるということは罪の連続。誰もが誰かから奪わずして生きられない。そして命とは須らく愚かだから、必要のないものまで奪い過ぎてしまう。「死んでいい命なんてない」というなら、きっと「死んではいけない命も」存在しない。

 

 

「分かんねえよ。人間、喰種、オルフェノク…一体誰なら生きていいんだろうな」

 

 

変身を解き、「荒木(あらき)(みなと)」は遺灰をすくい上げ、呟くしかなかった。

 

 

________________

 

 

次回予告

 

 

Open your eyes, for the next FAIZ.

 

「Peace On Death、死をもって平和を」

「“喰種”と“オルフェノク”、この2つの人類の敵を駆除すんのが、俺たち〔CCG〕のお仕事だ」

 

2003年。人類は2つの天敵に狩られる弱者だった。

 

「ヒトを殺したら死んで当然だろ。邪魔なんだよ、俺の平穏を脅かすヤツは」

「君はどっちでいたい? 人間が愛されたこの世界で」

「正しい生き方を探してる。もう正しくなれなくても、探すことはできる」

 

オルフェノク、喰種、人間───3つの種の本能が錯綜する。

 

「なぁミカド。もしかしての話をしていいか?」

「貴様らが間違っていないのなら! 俺は…何を憎めばよかったんだ!」

 

仮面ライダーは「正義」か「悪」か。間違っているのは一体誰だ。

ミカドの過去と、現在と、未来が揺れ動く。

 

「ファイズ、俺は……お前を殺す…!」

 

 

次回「ジャスティファイズ2003」

 

 

 

 




ウリエとシラズの所は書きたかったから書きました。

「ミツル」と「ミナト」はオリキャラですが、亜門と同じ孤児院で育った人物です。その詳しい背景や真相は後編にて。時系列が2003年なので、カネキくんとか出ませんし壮間も当然出番なしです。

ミツルは東京喰種に出てくるヤベー奴を纏めたようなキャラ造形にしてます(キバ編の北島祐子然り)。東京喰種にて「白髪」はヤバいと覚えておいてください。

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今回の名言
「生きて 生きて 生き延びて このクソみたいな世界をぶち壊せ!!」
「約束のネバーランド」より、シスター・クローネ。

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