仮面ライダージオウ~Crossover Stories~   作:壱肆陸

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神楽月蔵真
仮面ライダースペクターに変身した青年。20歳。怪奇現象管理協会の組合員。背が高く顔が怖いため近寄られ難いが、非常に仲間思い。しかし敵と味方の線引きがはっきりしすぎていて、話を聞かず暴走することも多い。2015年では一度は壮間たちと敵対したが、アナザーゴースト戦、スクールアイドルフェスティバル防衛線では頼れる味方となった。スペクターのウォッチは令央によって奪われたが、キメラアナザーの撃破に伴い現在はミカドが所有している。修正された歴史では、ミステリーハンターとして活動している模様。たまにテレビに出るらしい。

本来の歴史では・・・自分からグレートアイに選ばれに行き、ルーツが眼魂とは関係ないにも関わらず深淵の力を使いこなす等、眼魔世界にとってのイレギュラーとして場を乱し続ける。


数字3桁で555、913と並んでも違和感ない146です。
今回から2003年編ですが、東京喰種要素濃すぎてついて行けてないよーっていう方!ご安心ください、ファイズ編は東京喰種より昔の話なので、ぶっちゃけ本編とはそんな関係ないです。何人か原典のキャラは出ますが。

今回も「ここすき」をよろしくお願いします!





EP14 ジャスティファイズ2003
[並行]


2018

 

汗をダラダラと流しながらも、まるでランウェイでも歩くかのような立ち振る舞いでビルの屋上を進み、月山は指を鳴らして高らかに声を上げる。

 

 

「やぁ、僕が帰ったよ。喜びたまえホリ!」

 

「あ、帰って来たんだ。早いね。捜査官でも来た?」

 

「勘が良いね小さき友よ」

 

「本当にザルだよねー、月山君ほど目立つ人をなんで捕まえられないのかな」

 

 

喰種捜査官の介入により、謝肉祭は壊滅状態に。鈴谷什造によって主催者のファイズが駆逐され、高レートの護衛喰種は逃走したが、会場に残った喰種たちは軒並み一網打尽にされた。月山が無事に帰ってきているのがホリチエには不思議で仕方ない。

 

 

「…そういえば、ミカド君は?」

 

「そう! ミカドくん! 彼とムッシュ・ファイズ…2人をセットで頂く算段だったのだが、ミスター鈴谷の存在が厄介でね……しかし、彼が『隻眼』だというのは単なるGossipに過ぎなかったみたいだよ」

 

「ふーん…その感じだと、ミカド君はもう帰ってきそうにないかぁ」

 

 

ホリチエは寝っ転がるとカメラを持ち上げ、夜空をレンズに映す。

空の途中で消えた赤い飛行物体が見えた気がしたが、気のせいかもしれない。ホリチエは少しだけ残念そうに、呟く。

 

 

「結局、いい写真は撮れなかったなぁ」

 

 

彼は色々なものを覆い隠していた。心に封じ込めていた。ホリチエはそれをレンズに収めたかったのだが、それが叶うことはなさそうだ。

 

横で「それなら僕を撮り給え!」とうるさい月山を無視し、ホリチエは夜空にシャッターを切るのだった。

 

 

__________________

 

2003

 

 

「ったく、これで今月何件目だ? “喰種狩り”」

 

「12件目っスね」

 

「愚痴で言ったんだ馬鹿」

 

 

首を切り裂かれた喰種の死体。それを見て面倒くさそうに溜息を吐いた男は、〔CCG〕対策Ⅱ課の丸手(まるで)(いつき)准特等捜査官。

 

対策Ⅱ課は前線で戦う捜査官とは異なり、大局的な指揮を担う〔CCG〕のブレイン。なので本来現場に出ることは少ないのだが、そんな彼が死体と睨めっこしているのには理由があった。

 

 

「コイツは“オルフェノク”の仕業じゃないみたいだな…何人いやがるんだ、喰種狩りがトレンドなのか?」

 

 

この世界には人を食糧として狩る“喰種”の他に、人類の天敵が存在する。

死した人間が変異した灰色の怪物。進化に適応できない存在を淘汰する傲慢なる新人類、“オルフェノク”だ。

 

 

______________

 

 

オルフェノクの活動が活発になったのはほんの最近。堰き止めていた何かが解き放たれたように、オルフェノクは人間を襲い始めたのだ。オルフェノクに殺された人間は一定確率でオルフェノクに覚醒するため、ここ数年で被害は飛躍的に増えてしまっている。

 

オルフェノクは正真正銘の怪物。警察ではとても手に負えない。そこで白羽の矢が立ったのが、同じく怪物の駆逐を専門としていた組織、〔CCG〕だった。

 

 

「…で、喰種の死骸の解剖、結果どうだった?」

 

「それが驚きっすね。パネェっす。直近で見つかった死体は、どうも“クインケ”が凶器みたいス」

 

「クインケだぁ!? どこの誰だ死体も放って報告もしねぇアホは! クビだクビ!」

 

「一応、それぞれ支部に確認取ったスけど、心当たりないみたいっす」

 

 

丸手に報告をするのは、同じく対策Ⅱ課で彼の部下の馬淵活也。

 

クインケは喰種捜査官の武器。その痕跡が見つかったのであれば犯人は捜査官ということになるが、後処理も報告もしないとなると理由が分からない。混雑してきた状況に頭を掻きむしる丸手だが、馬淵がそこに更なる情報量を投下する。

 

 

「あと犯人が受付に出頭してるみたいっすね」

 

「ほー、犯人が出頭……出頭!?」

 

「うっす」

 

 

丸手に掴みかかられた馬淵が軽く返す。丸手は沸騰しそうな頭を抱えながら、受付へ足を運んだ。

 

 

「光ヶ崎ミカド。18歳。喰種を殺したのは俺だ」

 

「…悪戯する相手は選んだ方がいいぞ。ここは子供が遊ぶ場所じゃない」

 

「これで証明になるか」

 

「こいつぁクインケ、マジか……!」

 

 

降りてみて待っていたのが子供で、丸手は叫び出したくなった。意味が分からない。前線から引いて対策Ⅱ課に転属した時から気苦労は覚悟していたが、こんな頓珍漢な事案に立ち会うなんて聞いていない。

 

 

「…貴様はこれをどうやって。機密にされているはずだが」

 

「拾った」

 

 

ミカドはあっけらかんと言う。差し出されたクインケはナイフ形のもので、恐らくかなり細かく分割されたタイプのクインケだ。1つくらい回収し損ねていても不思議ではない。

 

 

「ったく、どこのどいつだ…オモチャを落として帰った馬鹿野郎は…!」

 

「あと、彼を連れて来た捜査官によると、パトロールしてるとこを襲われてボッコボコにされたらしいっす。パネェっすね。キミ、捜査官になってみない?」

 

「冗談言うなマブチ。俺ぁまだ信用してねぇぞ。なんてったって喰種を殺したりしやがった?」

 

「そこの出っ歯が的を射ている」

 

「出っ歯?」

「お前だマブチ」

 

「喰種を殺したのはお前達と接触するためだ。俺はある喰種を捜している。実力の証明がしたければ誰でも相手をしてやる。俺を雇え、喰種捜査官」

 

 

想像を超える展開。これなら、やたら強い子供の悪戯の方がなんぼかマシだ。

普通の捜査官だったらミカドの言葉など一蹴するだろう。しかし、丸手は例外だった。「使える奴に子供も老婆も詐欺師も関係ない」が、彼の信条なのだ。

 

 

「……ついて来い」

 

 

〔CCG〕きっての指揮官、丸手は、ミカドを「使える奴」と判断した。

 

 

__________________

 

 

 

(想定以上に上手く行ったな。やはりコレを数本拾っておいて正解だった。説得力が段違いだ)

 

 

ミカドが握るのは、2018年で鈴谷什造が使っていたものを数本くすねた「サソリ1/56」。

 

丸手と馬淵の後ろを歩きながら、ミカドは一先ず息をついた。かなりの無茶を通すつもりだったが、手間も時間も拍子抜けするくらいだ。

 

 

「言っておくがまだ信用したわけじゃないぞ。これから貴様の身元調査をして使えるかどうかを徹底的に調べる」

 

「俺からも言っておくが、俺に戸籍は無い。調べるだけ無駄だ。戸籍が無くて喰種を追っていると言えば境遇くらい想像できるだろう」

 

「チッ…喰種孤児の類か。また面倒くさいな。一応調べとけよマブチ」

 

「うっす」

 

「そもそも俺を調べる必要があるのか? この施設の入り口にあったアレは、察するに喰種の判別装置だな。俺はアレに反応しなかった、それでは不十分か?」

 

 

この時代では〔CCG〕の本部と支部くらいにしか設置されていないが、丸手たちと会うにあたってミカドは金属探知ゲートのようなものをくぐった。あれは「Rc検査ゲート」と呼ばれるもので、簡単に言えば人間と喰種を判別できる装置だ。

 

 

「そっちじゃねぇ。俺が疑ってんのは、貴様が“オルフェノク”じゃないか、って話だ」

 

「オルフェノク…か」

 

「最近俺たち〔CCG〕に回されるようになった案件だ。化け物退治の専門なんてそう沢山はいやがらねぇからな。知らねぇ化け物の担当までさせられて迷惑この上ねぇ」

 

「特にⅡ課で新参の俺らは喰種とオルフェノクどっちも請け負っちゃうから。大忙しで丸手さんも機嫌が悪い悪い」

 

「仕事が増えて昇進しやすいってことだけは有難いがな! それで、オルフェノクってのは喰種と違って人間と全く見分けがつかん。殺して灰になりゃオルフェノクだが」

 

 

なるほど、とミカドが心の中で頷く。ファイズの歴史が存在する2003年の状況は、これで大方理解できたと言ってもいいだろう。

 

 

「仮に俺がオルフェノクだとして、何故易々と俺を奥に案内した」

 

「もしそうだとしても、比較的対処できるようにする。貴様は喰種捜査官が希望らしいが、そっちはアカデミーを通らねぇと無理な決まりだ。代わりに、貴様には人員不足甚だしい“オルフェノク対策課”の手伝いをしてもらう」

 

「話が違うな」

 

「クカカ! 人生そんなに甘かねぇってことだクソガキ」

 

 

思っていた方向と異なってしまったが、〔CCG〕に潜入できたのは大きい成果だ。これ以上望んだって仕方がない。それよりも、オルフェノクに関わらなければいけないというのが、ミカドを気後れさせる。

 

 

(…馬鹿か俺は。そんな事を言っている場合ではない。覚悟を決めろ。あのミツルとかいう喰種を見つけ、ファイズを殺すためには必要な事だ)

 

 

気付くと、ミカドはその「オルフェノク対策課」に通されていた。ここは20区の〔CCG〕支部。支部とはいうものの、そこはオルフェノクという巨悪に対抗するには少し小さい部屋だった。

 

 

「邪魔するぞ」

 

「うぃーす…と、丸手さんと馬淵。ちゃっす。お疲れ様っす」

 

「昼間っから気の抜けた挨拶すんな土岐。瀬尾の野郎が来てるって話だったが?」

 

「瀬尾特等なら、新しく寄越された人員が弱すぎるってキレながら本部に行きましたよ」

 

「あの野郎がいねぇなら楽でいい。おら、そこ座れ光ヶ崎。

急な話だがコイツをオルフェノクの捜査に使え。使えるかどうかは土岐、お前が現場で判断しろ」

 

 

本当に急な話で、土岐と呼ばれた若い男性の捜査官も顔をしかめる。同期らしい馬淵に視線で助けを求めるも、中身のないサムズアップが帰ってきた。

 

 

「分かったか」

 

「分かったことにしときゃす」

 

「よし。じゃ、研修がてら仕事の説明するぞ。

まず前提として“喰種”と“オルフェノク”、この2つの人類の敵を駆除すんのが、俺たち〔CCG〕のお仕事だ。当然だが命の保証はねぇぞ。死んでも文句言わねぇこった」

 

「無論、承知の上だ」

 

「お前にはここでオルフェノクを追う“捜査官補佐”をやってもらう。しかるべき手続きも踏んでねぇ非正規の人員だから給料も休みも期待すんな」

「うっわひでぇ」

「人の心ないっスね丸手さん」

 

「押しかけた身だ。何の文句も無い」

 

「そりゃ結構。他のガキどもにも見習ってほしい心構えだな」

 

「「うわぁ」」

 

 

覚悟が決まり過ぎているミカドに、馬淵と土岐がドン引き。丸手は満足そうに鼻息を吐くと、話を続けた。

 

 

「じゃあ早速だが、ここ最近の“喰種狩り”を捜査してもらおうか」

 

「それは俺がやったと言った気がするが」

 

「テメェじゃねぇよ馬鹿。クインケで殺されてたのは数件だけ、残りは全く別のヤツの仕業だ。喰種が誰に殺されただなんざ知ったこっちゃねぇが、無視できねぇ理由があるのは分かんだろ」

 

「…オルフェノクの仕業、か」

 

「目撃情報から犯人も割れてる。夜でも目立つ赤い蛍光に満月みてぇな顔面。Sレート“オルフェノク”、『ファイズ』だ」

 

 

ヒットだ。ミカドが思わず拳を握る。まさかこんなにも早くファイズの情報を得られるとは思っていなかった。

 

その横で、気付かれないよう浮かない顔で目を泳がせるのは、土岐。

 

 

「……どこで何やってんよ、ミナト…」

 

 

____________

 

 

生きるというのは難しいもので、知能がある存在なら大なり小なりそれについて悩みを抱えるものだ。しかし向き合ってばかりでは疲れるから、人は何かでそれを発散する。丁度、バイクで気ままに走り回るというのも典型だ。

 

もっとも、彼がバイクを乗り回すのは気分転換などではない。淀んだ何かを胸に抱えながら、彼は14区の住宅街にバイクを停めた。ヘルメットを外し、後部座席に手を伸ばすが、そこに何も無かったことを思い出して苦い顔をしながら座席を叩く。

 

バイクを停めた音が聞こえたのか、住宅の1つから小さな子供が飛び出し、怪談を駆け下りてバイクから降りたばかりの彼に飛びついた。

 

 

「ミナト!!」

「ごふっ…! 出会いがしらのタックル、慣れねぇ…」

 

「こら、駄目だって…ごめんねミナトくん。ほらトーカ、謝りなさい」

 

「いや…別にいいぜアラタさん。トーカちゃん元気そうだし」

 

 

青年「荒木湊」は、彼らに会いにこの住宅街に訪れた。

ミナトは場所を定めることなく区をあちこち点々としている。「霧嶋新」と、8歳の娘「霧嶋董香」、アラタの後ろに隠れるトーカの弟の「霧嶋絢都」。彼らはそんな中で出会った人々の一部だった。

 

 

「ほら、色々持ってきてやったぞ。結構古いけど、絵本とすごろく。あとシャボン玉つくるアレとか…適当に遊べ」

 

「すげー、ひこうきだ! アヤト、あっちでこれ飛ばそ!」

 

「えっ、ぼくは絵本の方が…」

 

「ミナトもいっしょに飛ばそうよ!」

 

「…おぅ、後でな。お父さんとちょい話すから」

 

 

元気に駆けだしたトーカをアヤトが慌てて追いかける。よく見る構図に思わず安心感を覚えるミナト。温まった空気を一旦吐息として吐き出すと、ミナトはアラタと部屋に入り、声量を抑えて会話を始めた。

 

 

「ごめんね。いつも色々持ってきてもらって」

 

「…別に。寄った店で安かっただけだし、どうせ()()()()()からな。そっちだって大変だろアラタさん。“食糧”の確保、無理が来てんじゃねぇのか?」

 

「うん…まだ大丈夫かな。運がいいみたいだ。そっちの方まで君の手を煩わせることはないと思うよ」

 

「…そんなつもりはねぇよ。俺が持って来れるのは“灰”くらいだ」

 

 

ミナトは口に出しかけた提案を喉の奥に引っ込めた。彼はその立場上、「ヒトの死体」にはよく出くわすのだ。“食糧”の調達の力になれると思ったが、不要なら押し付けることもない。

 

そう、霧嶋新とその子供2人は“喰種”だ。人の肉を食べることでしか生き永らえられない。

 

しかし、アラタは喰種の中でも「人間のように生きる喰種」だった。人の死体を探し、拾って持ち帰る。そうすることで比較的手を汚さず、子と共に人間らしく生きようとしている。

 

 

「ミナトくんの方はどう?」

 

「……何も変わらねぇ」

 

「ありゃりゃ、これは何か大変な感じかな? ボクじゃ力になれそうにないけど…そうだ、夕飯でも食べて行きなよ。間違えて料理作り過ぎちゃったんだ。佐藤さんから貰った煮物も余ってるし…」

 

「やっぱ大変だな。そんなもん食えねぇだろうに…」

 

 

喰種である彼らはヒトの食べ物を酷く不味く感じてしまい、とても食べられたものでは無いし栄養にもならない。「食べれたらいいんだけどねー」とアラタが返す。

 

 

「でも楽しいよ。周りと合わせて平和に生きるっていうのは。喰種らしくないって言えば、そうかもしれないけど」

 

「らしい…か。俺は分かんねぇよ。俺らしいって、何だと思う。俺は他の奴らやアイツみたいにはなれねぇ。でも、アンタらみたいには…きっと無理だ」

 

「…ミナトくんは難しいだろうね。でも、君はどっちでいたい? 人間が愛されたこの世界で」

 

 

喰われ、淘汰される立場でありながらも、人間はこの世界に愛されている。それは紛れもない事実だ。ヒトらしく生きられたらどれだけ幸せか。きっとそれだけで全てが解決してしまうくらいの、巨大なエネルギーを持った“夢”だ。

 

ミナトはヒトではない。

何かを望もうとすると、奪ったモノの影がその足を底へと引きずり込んで来る。その根底にはいつも、忘れることのできないミナトの「罪」があった。

 

 

「何になりたいか…俺は何も……」

 

 

生きることですら憚られる。その考えが消えたことは一瞬もない。

望むことも、誰かの生き方に干渉することもしたくない。だからミナトは聞かない。

 

 

アラタから「濃いヒトの血」の匂いがする理由を。

 

 

_______________

 

 

「俺は土岐昇太。二等捜査官! お前の上司だ! 俺の事は『先輩』ないし『土岐さん』と呼びなさい」

 

「……」

 

「なんか呼びんさいよ。まいっか。まずオルフェノクについて教えんぞ!」

 

 

〔CCG〕20区支部にてオルフェノク講義が始まった。20区は最近出現した「梟」と呼ばれる喰種と何らかの関りがあるとされ、喰種の対策に場所も人員も割かれ、オルフェノク対策課が使える場所が少なく肩身が狭いらしい。ホワイトボードもなく紙に書いて説明を始めた。

 

 

「“喰種”と“オルフェノク”はどっちもヒトを襲うけど、その2種の関係は基本的に不干渉! 何故って、オルフェノクは死んだら灰になって食えない…いや一応灰は食えるらしいけど、大した栄養にはならないみたい。そんでなんでか知らないけど喰種はオルフェノクにならない! だから互いに戦う理由が無いのよね」

 

 

土岐の話によると、人間はオルフェノクと喰種の両方に狙われているという渋い状況にあるらしい。もっとも、喰種とオルフェノクも利害は全く一致しないため、手を組むことも少ないのが救いか。

 

しかし、そうだとすると妙な話が浮上する。アナザーファイズ、ミツルのことだ。喰種がオルフェノクになれないとすると、喰種かつオルフェノクのヤツの存在は何なのか。

 

 

「理由が無いくらいで闘争が止まるものか。例外がありそうな話だ。そもそも喰種を殺したファイズ……オルフェノクを捜査するのだろう」

 

「あーそれ。ファイズかー。ファイズ探しかー…やめにしないファイズ探し。俺らじゃ荷が重いって。ファイズはふつーのオルフェノクじゃないしさぁ」

 

 

「普通のオルフェノクじゃない」というのは仮面ライダーだという事だろう。土岐の説明によると、オルフェノク対策課設立にあたって強力を申し出た「スマートブレイン」という企業が存在し、ファイズはその企業が開発したものだという。

 

わざとらしい泣き言を吐く土岐だが、ミカドがこんなチャンスを棒に振るわけもない。殴ってでもは比喩だとしても、ミカドは上司である土岐に掴みかかって威圧する。

 

 

「馬鹿な事を言うな。命を捨ててでも戦うのが捜査官じゃないのか」

 

「うへぇ、新人怖い…やりやすって。冗談冗談。やんなかったら丸手さんや瀬尾さんに殺されるし……」

 

「チッ…先が思いやられる」

 

 

確実に新人の態度ではないが、ミカドは土岐を脅して捜査へ向かわせた。

ファイズが「オルフェノク」と認知されているのは好都合。敵が怪人なのならば、何の邪魔も遠慮もなく殺せるというものだ。

 

この時代では、仮面ライダーを殺すことが共通の正義となる。

 

 

_____________

 

 

あるカトリックの孤児院に、共に両親を不幸な事故で亡くし、同時に施設へとやってきた2人の子供がいた。一人はミナト、もう一人はミツルという。

 

ミナトは優しくて気が強く、孤児院にいる年下の子たちの兄貴分のような存在だった。そんな中でも、特にミツルとは仲が良く、ふたりはいつ見ても一緒にいた。

 

2003年から数えて10年ほど前、孤児院を営んでいた神父、彼らにとっての「父親」はミナトとミツルに告げた。「お前達の引き取り先が見つかった」、と。これまでに施設を出て行った仲間たちは多く居た。その誰にも「大きくなったらまた会おう」と約束し見送ったものだ。寂しくはなかった。何より、ミナトとミツルは一緒にいられるのだから。

 

二人を引き取ったのは気味の悪い男だった。まるで舐るように子供たちを見る男だった。父さんの知り合いだというのだから大丈夫だと、その時は納得してしまった。

 

しかし、向かった「新しい家」で、二人は世界が残酷だということを知った。

 

 

「や、やめろ…! なんでだ! ふざけんな、折角生き返ったのに!」

 

「先に手を出したのそっちだ。ずっと死んどけよ、オルフェノク」

 

 

13区の一角。カメムシの特質を備えた「スティンクバグオルフェノク」の頭を掴み、壁に叩きつけたのは、行為に似合わない綺麗な顔と黒髪に、華奢な背格好。ミツルだ。

 

ミツルの顔に紋様が浮かび上がり、その姿もまた灰色の怪人に。

アントオルフェノクへと変化したことで腕に加わる力が飛躍し、スティンクバグの頭蓋が軋んでいく。

 

 

「お…お前も…オルフェノ…ク…!!」

「一緒にすんな」

 

 

10年前、ミツルとミナトを引き取った男は“喰種”だった。それも、家ごと人間を焼き、焼け焦げた遺骸を喰らうのを好む凶悪な喰種。

 

喰種が起こした火災で死に絶える寸前だった二人の前に、喰種は嘲け笑うように赫子を出して現れた。そして、父であったドナート・ポルポラが喰種で、彼に「食事」として譲ってもらったのがお前たちだと突き付け、二人が焼け死ぬのを眺め続けた。

 

愛していた父が喰種で、施設を出て行った仲間たちも既に喰われていた。そんな残酷な真実を噛み締めながら、ミツルは死んだ。そして、目覚めた。オルフェノクとして生き返って。

 

 

「僕は、お前らとは違う」

 

 

アントの背中から3対の昆虫の「脚」が出現し、スティンクバグをめった刺しに。死を迎えたスティンクバグの体は灰化した。

 

アントオルフェノクの「捕食態」。ミツルは姿を変えることができる特殊なオルフェノク、自然発生的に覚醒したオルフェノク『オリジナル』である。

 

 

「ぐ…喰種…っ!」

 

 

灰の上に立つアントオルフェノクを見て、通りがかった女が声を発した。悲鳴がその喉から出る前にアントは女の首を掴み、裏路地へと引きずり込む。

 

 

「今、なんて言った…?」

 

「けほっ…あ、あなた喰種でしょ!? お願い、教えてください…この区にいた女の子の喰種を知りませんか!? カボチャの被り物の!」

 

 

どうやらこの女性にも何か事情があるようだが、ミツルの脳内は怒りで満たされ、声なんて入ってこない。この女は、ミツルを「喰種」と間違えたのだから。

 

オルフェノクの姿は『動植物』と『戦う姿』で決定される。どちらも、特に後者は変身者の深層心理に大きく影響され、ミツルの場合は死の直前に見た“喰種”が『戦う姿』として反映されてしまったのだ。そのため、アントの姿や能力は喰種のそれと非常に酷似している。

 

ミツルはそんな自分の姿を嫌悪している。幸せだった世界を壊したのも、ずっと自分を騙し続けてきたのも、喰種なのだ。

 

 

「知らない。僕は喰種じゃねぇ。不快なんだよ間違えるな。僕は…『人間』だ!」

 

 

叫んだアントは、鋭い虫の牙で女性の肩に噛み付いた。

フェロモン状のオルフェノクエネルギーは即座に心臓へと到達し、心臓を焼滅させる。

 

 

「歪んでいるな。これのどこが人間だ?」

 

「…うるせぇよ。顔を見せるなアヴニル」

 

「ふむ、態度が大きい。誰のおかげで貴公が今まで生きてこられたと? が、吾輩は寛容だ! 許すッ!」

 

「黙れよ…!」

 

 

人を殺したばかりのミツルの後ろに現れたのはアヴニルだった。女性の喰種は他人に食事を見られるのを嫌うというが、ミツルの場合はそれが殺人にあたるのだろうか。少なくとも、アヴニルの出現は不快の要因ではあるようだ。

 

 

「オルフェノクでありながら姿や所業は喰種のそれ。無論、人間からはかけ離れた存在。孤独な王は大いに結構だが、己を人間だと主張しながらそこの娘に種を注いだのは本能故か?」

 

「言い方が気色悪い。殺さねぇとどうにかなりそうなんだよ。『人間やめろ』ってうるさいんだ。でも、だってそうだろ? 聞こえてるうちは、僕はまだ人間だ…!」

 

「何故そこまで人であることに執着するか、分かりかねる。しかし命の危機が近づいていることも把握しておろう?」

 

 

オリジナルは「使徒再生」のオルフェノクよりも優れている場合が多いが、ミツルはそこまで突出して強いわけでもない。このままオルフェノク殺しを続けていると「スマートブレイン」から強力な刺客がやってくるだろう。「ラッキークローバー」レベルが来れば、ミツルは死ぬしかない。

 

 

「生きるために強さが欲しければ、いつでも吾輩を呼ぶといい。王に相応しき力をくれてやる」

 

 

ステッキが地を突き、アヴニルが姿を消す。

奥歯を噛み締めるミツルの後ろで、心臓を燃やされた女性の手がピクリと動いた。

 

 

______________

 

 

1区に拠点を構える〔CCG〕。その〔CCG〕本部にて、最高位の捜査官である「特等」と局長が一堂に会する会合、それが「特等捜査官会議」である。

 

 

「瀬尾特等。オルフェノクの捜査について近況を」

 

 

局長の和修吉時が、端の席に腰を掛ける男に報告を求める。

歴戦の捜査官である特等たちの中で異彩を放つ、色素の薄い髪色の若い男。オルフェノク対策課の2人の特等のうち1人、瀬尾(せお)潔貴(いさき)

 

 

「オルフェノクの被害件数は増加を止めず、いつ大規模な被害を出すイカレが出てもおかしくない状況。『ファイズ』は足取りを掴めず、例の3本目のベルトも所在不明。ラッキークローバーの『香賀』にはいいように躱され続けるという体たらく…どれもこれも、あんた方がロクな人員を寄越さないからです」

 

 

それだけ言って着席し、書類を机に叩きつける瀬尾。特等たちの空気が一気に凍り付いた。

 

 

「おい瀬尾。言い方ってものがあるだろう。そもそも君は特例の特等なんだ、もう少し立場を…」

 

「立場? だったらクビにでもすればいい。俺という損失を補填できる人材が〔CCG〕にないアンタら年寄りの責任でしょう。喰種捜査が大変なのかは知らないが、こっちだって命を張っているのに寄越されるのが味噌っかすばかりでは話にならない。役立たずの尻拭いをする気持ちくらい、特等の皆様なら分かっているとばかり」

 

「…なるほど。ならば瀬尾特等、具体的に望むものは?」

 

「有馬貴将をウチに移してください。アレだけで有象無象100人分の価値がある。1人ならそっちも手続き楽でしょうよ」

 

 

吉時の質問に対する瀬尾の返答で、今度は会議が一気にざわついた。

有馬貴将は19歳でありながら上等捜査官に位置する異例中の異例、鬼才の中の鬼才。それもそのはず、SSSレート喰種「梟」を退けたという大きすぎる功績が、その実力を物語っている。

 

 

「それは承諾できないな。有馬上等は〔CCG〕のホープとなる存在だ。喰種よりオルフェノクの数や被害が圧倒的に少ないという現状なら、あれだけの才能は喰種捜査に専念させたい」

 

「それはオルフェノク捜査を軽視していると解釈しても? 個体の危険性はオルフェノクの方が上なのに、こちらも優秀な『個』を用意しない意味が分かりませんね。瓜江特等に伊庭特等…『隻眼の梟』戦の損失を埋めるべく人材を育てたいのでしょうが、所詮は自分たち“喰種捜査官”の自己保身にしか───」

 

「そこまでよ、瀬尾くん。それ以上は捜査官への侮辱にあたるわ」

 

 

唯一の女性特等、安浦清子の一言でようやく瀬尾が黙った。厳密に言えばもう一人のオルフェノク対策課の特等が顔を真っ青にし、瀬尾を黙らせたのだが。

 

 

「有馬上等の移転…考えておこう」

 

「その場しのぎの言葉にならなければいいですけどね、局長」

 

 

それ以上話が進むことも無く、特等捜査官会議は終わった。

話を適当にいなされた気がしてあからさまに瀬尾は機嫌が悪そうだった。果汁100%ジュースを自販機で購入すると、壁に寄りかからないくらいの場所で休憩を挟む。

 

 

「おおおおおおおい! 聞いたぞ瀬尾この野郎! テメェ特等会議で清子さんと吉時さん怒らせたって!!??? 何やってくれてんだドアホが!!!」

 

「チッ、丸手准特等。特例とはいえ階級が上の俺に対し、タメ語でしかも掴みかかるとはどういう了見かな」

 

「年功序列だ!! あぁぁぁ…俺、次会った時何言われるんだ…!」

 

「〔CCG〕は完全な実力主義と聞いたのだけどね。年下に階級を越された劣等感で前時代的な価値観を押し付ける様は、余りに浅はかで見るに堪えないな。そもそも叱られて死ぬわけでもあるまいし、歳を食った男が怖がるのは大袈裟だ。誰も何一つ面白がっていないから今後そういった茶番はやめてくれると助かる」

 

 

休憩中の瀬尾に突撃した大焦りの丸手。しかし瀬尾は心底面倒そうに丸手の手を払いのけると、暴力にも似た怒涛の口撃ラッシュ。流石の丸手もこれには言葉を失う。

 

 

「………あー、アレだ。とりあえず報告しとくぞ。20区の支部に一人、補佐を入れた。直接見ちゃいないが戦力的にはまぁまぁやれるヤツらしい。いっぺん見て来い」

 

「それならそうと手短に言えば早かったはずだ。それにタメ語は直していないな、あれで聞こえないとしたら相当都合のいい耳をしている。聞きたくない事を有耶無耶にできる人生は楽そうで羨ましさすら覚えるよ」

 

「うるせぇんだよテメェは!!! いい歳してジュースなんて飲みやがって!」

 

 

それ以上口論が続かないよう、逃げるように去った丸手。

瀬尾はすぐさま丸手の背中から目を離すと、ジュースを窓際に置き、ウェットティッシュで丸手の手を払った自分の右手を念入りに拭き始める。

 

 

「補佐、か。邪魔な役立たずじゃなければいいが」

 

 

 




ミツル、ミナト、土岐、瀬尾がオリキャラでございます。ザ・導入みたいな話になっちゃいました。思ったより書かなきゃいけない話が多くてですね…

チラホラ前半に出てきた東京喰種要素も回収していきますので、根気がある方は読み返していただければ。次回は瀬尾の活躍にご期待ください。

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