仮面ライダージオウ~Crossover Stories~   作:壱肆陸

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アリオス
仮面ライダーネクロムへと変身した男装の少女。18歳。眼魔世界の王族の末子だが人間世界出身。信条にするほどの完璧主義者であり、能力も全体を通して高いハイスペック人間なのだが、かなり感情に流されやすく、自身も完璧になるべく雌雄同体を目指したり間違いを指摘されるとショックを受けて落ち込むなど、年相応に未成熟な部分もあるお嬢様。2015年では一度は壮間と敵対したが、ぶつかり合った末に理解し合い、2009年の戦いにも同行するなど壮間を手厚くサポートし、最後は「最高最善の王になれ」と激励した。ネクロムのウォッチは令央によって奪われたが、キメラアナザーの撃破に伴い現在は壮間が所有している。修正された歴史では、切風莉生として画家を目指しているらしいが、兄の相棒の影響でサブカルに興味が湧いてこっそりコミケに行こうと画策中。

本来の歴史では・・・ゴーストドライバーを破壊されて資格を剥奪された後、メガウルオウダーを完成させ無双。眼魂コンプリートまであと一歩に迫るが、人間界侵略部隊から梨子を守った事で裏切り者と見なされ、やむなく眼魂の体を捨てて眼魔世界から逃走。味方のいない世界で逃亡生活を強いられる。


ファイズ編は短くなります(話数の話です文字数じゃありません)!146です!クッソ長くなりました。申し訳ありません。

今回は「東京喰種[JACK]」のネタバレを含む内容となっています。というかそれがメインなので、読めば分かりやすいかと。電子書籍限定で、100円ちょいくらいで買えたと思いますので是非とも。

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JACK

2003年、某日。

20区にいたミナトは、オルフェノクが人間を襲っていると聞きつけ、オートバジンで急行。すぐさまファイズへと変身し、暴れるペリカンオルフェノクへ攻撃を開始した。

 

 

《Exceed Charge》

 

 

気合の入らない動きで、容赦なく殴り、蹴り、ファイズはペリカンオルフェノクを圧倒。最後にオートバジンのハンドルから引き抜いたサーベル『ファイズエッジ』の一閃を刻み込み、ペリカンは青い炎に焼かれ灰となって崩れ去った。

 

 

「…20区は平和じゃなかったのかよ」

 

「おおおい! ミナト! オルフェノク倒しちゃってるじゃねーの!」

 

「昇太か。遅いぞ、とっくに終わってる。早くても困るけどな」

 

 

変身を解除し、ベルトをケースに仕舞っていた頃に、捜査官の土岐がようやく現着した。ファイズは『Sレートオルフェノク』として捜査官に追われる身であるが、土岐は色々事情があって例外。ミナトの味方だ。

 

 

「何してんだミナト?」

 

「灰を集めてんだよ。ちょっと都合があって必要なんだ」

 

「なんじゃいそりゃ、それならケース貸しな。邪魔だろ?」

 

 

ミナトはファイズギアを土岐に預け、オルフェノクの遺灰を袋に集める。

この灰は人間の体組織の成れの果て。肉ほどではなくとも喰種の栄養となる物質だ。普通なら必要とされない代物だが、人を襲わない喰種や子供の喰種にとっては食糧として有用。ミナトの知ってるうちにも、これを必要とする喰種は多くいる。

 

 

「……そういや昇太。お前、風邪でも引いたか? 声が変……」

 

 

ふとミナトが振り返ると、そこにいた土岐の姿は、ファイズギアと共に消えていた。後で確認すると、土岐はその時間は支部におり、ミナトには会ってないとのことだった。

 

 

そんな奇怪な事が起き、ミナトはファイズギアを失った。その直後から20区で『喰種狩り』が発生。その姿の目撃情報から、犯人は『ファイズ』と断定されたが、その正体はミナトではない誰か。

 

時間は20区捜査官が『喰種狩り』の捜査を始めた現在に戻る。

夜の20区で眩いほどの栄華を示すクラブで、受付の静止も払いのけ、力づくで店の奥にまで進んでいく野蛮を放つ男。女性に囲まれシャンパンを注いでもらっている冴えない男を見つけると、彼はそんな男に掴みかかりテーブルへと叩きつけた。

 

騒然となる店内。しかし、暴力を被った当の男性は混乱するでもなく、ただ笑ってふらふらと立ち上がる。

 

 

「あれぇ、やっぱ分かるか?」

 

「やってくれたな。お前のしたこと、納得できる説明はしてもらうぜ。香賀ァ」

 

 

名前を呼ばれた男の姿が揺らめき、その体はオルフェノクへと変化。

体から伸びる帯が包帯のように腕に巻き付くが、傷跡のような模様は隠しきれていない。他にも細い腕や足はやつれた病人のよう。特徴から捉えづらいが、その頭部の形状や肌の質感から生物モチーフを特定できる。

 

「カメレオンオルフェノク」、香賀。最強のオルフェノク4人衆、「ラッキークローバー」の一人。

 

オルフェノクの姿に、先ほどとは比にならない阿鼻叫喚に包まれる店内。逃げ出そうとする店員たちを見て舌打ちをしたもう一人の男は、ポケットから出した多数の「羽」を、そこにいた「人間」全員を狙って放った。

 

羽は店員全ての体に突き刺さり、皮膚を破って心臓へ到達。オルフェノクエネルギーが心臓を一瞬で燃やし尽くし、逃げる人間は一人残らず灰化してしまった。

 

 

「勿体ないことをする…彼女たちはまだ『綺麗』になれたじゃないか」

 

「全員即死、素質ナシだ。それより説明しろや。お前がファイズギアでやった遊びのことだ」

 

 

カメレオンオルフェノクの姿が淡く輝くと、再び姿を変えた。冴えない男から一転、周囲の目を惹く美青年へ。これが香賀の本来の姿。変身能力とは実に俗説的なカメレオンらしい能力だ。

 

 

「綺麗な顔が台無しだ。そう怒らないでくれ、馳間」

 

「気色の悪い台詞に付き合うほど俺は冷静じゃねぇぜ。ファイズ、つまりお前が殺しやがった何人かの喰種は、20区の喰種集団『ブラックドーベル』のメンバーだ。首領の『黒狗』とは友好的な関係を築いてたってのに、今回の一件で奴さんは大激怒よ」

 

 

そう凄まじい剣幕で話す男もまた、ラッキークローバーの一人、馳間。いかにも凶暴な立ち振る舞いとは裏腹に、彼の立ち位置は「交渉人」なのだ。

 

 

「お前のせいでオルフェノクの未来の栄華が一歩遠のいた。どう落とし前を付けるつもりか、聞かせてもらおうか」

 

「相変わらず分からないよ。喰種と仲良くしてどうする気だい? 彼らはオルフェノクに覚醒しない、哀れな種。美しさに際限があるのは哀しいことだ。だからファイズで殺してあげたんだ。死に際はそれなりに綺麗だった…それじゃ駄目なのか?」

 

「個人の価値観に意味はねぇんだよ。強者は強者と組んで、弱者が弱者のうちに確実に狩るべきだ。少し頭捻りゃ利害のすり合わせもできる。オルフェノクが種として存続するために、喰種とは手を結ぶべきだ」

 

「喰種は殺すべきだよ。彼らはいたずらに人間を食べる、許されない事…世界の損失だ。人間は俺達が正しく一度殺し、綺麗に導いてあげないと」

 

 

香賀は自分の「拘り」でしか動かない。期待はしていなかったが、彼らでは会話にすらならなさそうだ。

 

 

「四つ葉を欠けさせるにゃまだ早い。今は大目に見てやるよ。それで、奪ったファイズギアはどうした」

 

「あれはね…数回使ったけど、やっぱり綺麗を肉眼で見れないのは違った。だから譲ったよ。初々しい綺麗をした新人ちゃんに」

 

「……あ?」

 

 

_______________

 

 

13区。気性の荒い喰種が多いと言われるこの区域。

今宵に限り、喰種は駆られる側に回っていた。その相手は20区に出たという、装甲を纏ったオルフェノク「ファイズ」。

 

ファイズは死ぬ寸前の喰種に何かを囁いては、体を砕いて息の根を止める。その異様な光景を目の当たりにしてしまった不運な若者の集団も、ファイズが出した蔦のような触手に貫かれ灰になってしまった。

 

生き残った数人の人間に対し、ファイズは変身を解き、南瓜のマスクを見せつける。

 

 

「覚えておけ。私は、13区の…『ランタン』」

 

 

_______________

 

 

「……というのが、昨日起こったファイズの騒動の聴取結果だそう」

 

 

喰種捜査官として役割を得たミカドは、幸運にも早々にファイズの一件を追う事ができた。ミカドに13区支部から貰った情報を共有するのは土岐で、話し終わった表情は何故か安心しているようなそれだった。

 

 

「うし、じゃあさっさとファイズ見つけっぞ! 市民の安全第一! 人間にこれ以上被害出させられるかって!」

 

「さっきまでのやる気の無さはどうした。まぁ、早くファイズを見つけたいのは同意だが」

 

「お前もそんなに熱心なの? 喰種捜査したいって話だった気が」

 

「ここで手柄を立ててこんな部署を去りたいというだけだ」

 

 

実際はファイズの手掛かりを得た時点で、潜入の目的の半分は達成している。ファイズを見つけ、討伐し、ウォッチを手に入れさえすれば、後は現れたアナザーファイズを撃破して終わりだ。

 

しかし聴取の内容が気になる。聞き取り元はファイズに襲われて生還した人間らしいから、嘘は無いだろう。だがわざわざ変身前の姿と名前を口に出した理由がわからない。しかも今度は20区ではなく、13区だ。

 

 

「ランタン…金属元素の名前でもあるが、南瓜の見た目ならハロウィーンなどで飾られていたという『ジャック・オ・ランタン』の方か。確かアイルランドの伝承にある妖の類だったな」

 

「お前詳しいな」

 

「俺の時代では常識だ」

 

「時代?」

 

 

2005年に出た「魔化魍」だけじゃなく、「ファントム」や一部の「ドーパント」「ヤミー」「イマジン」などは想像上の存在の形や能力を持って現れる。生物や幻獣、古代種の知識は対怪人の知識としては必須なものだ。

 

 

「一つ聞くが、これは車で何処に向かっている。13区で捜査すると思っていたんだが」

 

「今は5区に向かってるよ。喰種捜査官の『アカデミー』。13区の『ランタン』……聞くやつが聞けば分かる名前だ。その分かるヤツがアカデミー生にいるから聞きに行く」

 

「アカデミー、あの丸手とかいう男が言っていたやつか。捜査官予備軍が何故オルフェノクの事件に明るい?」

 

「『ランタン』はオルフェノクじゃねーんだなこれが。13区の『ランタン』は3年くらい前に駆逐されてる“喰種”。その正体は、どこにでもいるような可愛い女子高校生だったって話……」

 

「…また亡霊の話か。下らんな」

 

 

13区で「ヤモリ」と並んで悪名高かったのが「ランタン」だったらしい。名前は三波麗花。彼女は同じ学校の同級生と潜入していた捜査官により、駆逐されたという。

 

事件の詳しい顛末を話す土岐だったが、ミカドは大した興味を示さなかった。彼はただひたすらに、オルフェノクであるファイズをどう追い詰め、殺すかだけを考えていた。

 

 

______________

 

 

彼には幼馴染が2人いた。野球をやめてからは疎遠になってしまい、荒れていた2人だったが、それでも大切な友人だった。そんな2人───アキとリョウというが、アキは右目を、リョウは命を奪われた。腐りかけた日々に突如として割り込んだ、“喰種”によって。

 

仇を討ちたいと、討てないと自分を許せないと思ったから喰種を追った。それができる「仲間」もいた。新しく「友達」も加わった。

 

その時は信頼できる女友達だと思っていた。今思えば気もあったと思う。

彼女が幼馴染2人の仇である「カボチャ頭の喰種」だと知った時、彼女は既に虫の息だった。

 

トドメは、彼自身が刺した。

 

 

『憧れてたの。ずっと人間みたいに生きること…

だから、それを邪魔する奴が大嫌い』

『だから殺してやったの! 死なないとわかんないでしょ!? 馬鹿だから!!』

『お前も…こう生まれてみろよ!』

『もーすぐテストなのに…せっかく…勉強したのになぁ…』

 

 

彼女の、三波麗花の気持ちは分かる。彼女が辛かったのも分かる。でも、だからといって犠牲を許容なんてできるはずがなかった。何が悪で間違っているのか、彼には答えを出せなかった。

 

それでもせめて、自分が守りたいものだけは、自分で守りたい。そう思ったから、彼は喰種捜査官になることを決意した。

 

 

「太志」

 

 

名を呼ばれ、彼───富良太志はふと我に返る。こんなことを度々考えてしまうのは、喰種捜査官になるその日が近づいているからだろうか。

 

 

「お、悪いな有馬。ボーっとしてた。珍しいな、お前がアカデミーにいるなんて」

 

「話を聞きたいって呼ばれた。さっきまで瀬尾特等とも話していたし。もしかすると、俺はオルフェノク対策課に転属するかもしれない」

 

「オルフェノク対策課!? お前、その歳で転属とか上等とか…俺なんて来年ようやっと捜査官だぜ? 今思うと、お前はとんでもない特例だったんだな」

 

 

富良が話す相手は、先の「隻眼の梟」戦で単身勝利をもぎ取った天才捜査官、有馬貴将。早い話は喰種以上のバケモノ。「ランタン」の一件で富良と共に行動していた捜査官というのも、彼だ。

 

 

「そうか、太志はアカデミーを出るのか。おめでとう」

 

「祝うならもう少し祝ってる風な顔しろっての」

 

 

有馬貴将という男は、表情が変わりにくく得体が知れない。ずっと見慣れた道を散歩する時のような、感情の起伏が生じない顔をしている。それは喰種を殺す時だって変わらないのだから恐ろしい。

 

 

「捜査官として現場に出るなら、武器は今の内から手に馴染ませておいた方がいい。いざという時に上手く使えないなんてこともあるらしいから」

 

「あぁ、“武器”…な」

 

「うん。太志はもう貰ってるだろ、あの『クインケ』───」

 

 

有馬の何の気ない言葉に富良は返事を詰まらせる。しかし、沈黙の時間が長く続くことはなく、2人を見つけた土岐がそこに割り込んで入って来た。

 

 

「いたいた。君がアカデミー生の富良君。と……有馬上等、ホンモノ…あ、オルフェノク対策課20区支部の土岐二等っす」

 

「ッス! おい有馬、階級下でも年上だからな。敬語だぞ」

 

「…? あぁ、分かってる」

 

「この子がSSSレート倒したっていう…っと、そうじゃなくて。2人に話聞きたいんすけども、事件の内容聞いてる?」

 

「はい。13区の『ランタン』を名乗るオルフェノクが現れた、ですよね」

 

「なっ…!! なんだよそれ! 『ランタン』……三波が…!?」

 

 

自分の手で殺したはずの友人が再び現れた。そう聞いて動揺しない方がおかしい。しかし、有馬がおかしいのは言うまでも無いことで、淡々と事実を並べ続ける。

 

 

「有り得ない。『ランタン』は3年前、確実に駆逐しました。名のある喰種を騙った愉快犯の類いでしょう」

 

「んーやっぱそっか」

 

「待てよ有馬! オルフェノクって確か、死んだ人間が生き返った存在なんだろ!? だったらもしかして、本当に三波が生き返ったんじゃ……!」

 

「『ランタン』は人間じゃないよ」

 

「……!」

 

「そもそもオルフェノクは死体が蘇ったものですよね。『ランタン』の死骸は処理しました。その赫包から作った『クインケ』も、『ランタン』を討伐した彼…富良太志が既に所有しています」

 

 

有馬が吐く事実が重い。有馬によって死にかけていた三波に、富良はトドメを刺し、有馬はその『所有権』を富良に譲った。討伐された喰種はクインケとして加工され、後に所有権を持つ捜査官へ渡される。

 

富良が三波を殺したのはアカデミーに入る前。アカデミー生にしてレートA+程の『クインケ』を持つ例は滅多になく、他人から見れば名誉なものだっただろう。しかし、富良にとってそれは、そんなに簡単な問題ではなかった。

 

 

「…ッス、持ってます。確かに三波は、俺が殺しました」

 

「まーそこは本部に確認取れば分かるけど、そのクインケ、今持ってるなら見せてもらっていい?」

 

「それは……」

 

 

持っていない。持ち歩けない。それどころか、使ったことは一度もないのだ。

あの金属製のケースが『ランタン』とするなら、あの中に幼馴染の仇でありかつての友人が折り畳まれているという事だ。この手で殺した彼女が。

 

耐えられなかった。『彼女』を武器として使い、また別の誰かを殺すことが。

 

 

「…いや、アカデミー生だし勝手に持ち出せないか! 今の無し!」

 

「…すんません」

 

「でもやっぱこのオルフェノクが『ランタン』と無関係って決まったワケじゃないし、捜査を手伝ってくれるなら助かるかな。ただでさえ人手不足だしなー」

 

「ウス、俺達に出来ることなら。三波の名前で勝手やられるのも…嫌っスし」

 

「一応聞くけど、流石に有馬上等は…」

 

「俺も出ます。ちょうどオルフェノク対策課転属の話も来てるので、オルフェノクと喰種の違いくらいは知っておきたい」

 

「おぉ、マジか」

 

 

有馬が協力するなら『ファイズ』の捜査が一気に進むだろう。ワンチャン瀬尾の力を借りずに済むかもと考えると、土岐も気分が楽になった。

 

一方で富良は必死に気持ちを固める。オルフェノク捜査に参加するなら、いつ戦闘が起こるか分からない。いざという時には使わなければいけない……『彼女』を。

 

 

________________

 

 

「捜査に俺を使うんじゃなかったのか、あの男…!」

 

 

5区のアカデミーに到着し、そのアカデミー生から話を聞くと思っていたミカドだったが、土岐からのお達しは「お前はここで待機。会わせなきゃいけない人がいて、ここで待ち合わせしてるから」だった。

 

ファイズの発見はミカドの使命の一部だ。それをあの土岐という責任感に欠けてそうな男に委ねるのは酷く不安でしかない。もし待ち合わせが嘘で土岐が厄介払いをしたいだけだったのなら、今度は階級なんて関係なしに蹴りでも見舞ってやる。

 

 

「ふむ…見ない顔だな。編入生か」

 

「おいちょっと、真戸! あ、ごめんね君。驚かせちゃったか」

 

 

待ちぼうけを食らっていた所に声を掛けられた。その声の主は2人組で、最初に声を掛けて来たであろう方はあからさまに異様だった。老人とまでは行かないが、その白髪と痩せた体に悪い姿勢からは若さを感じない。

 

何よりその「目」だ。ミカドへの観察を隠す気もなく、外見どころか心の中まで見たがっているような目が嫌悪感を搔き立てる。

 

その反面、もう一人の大柄な男の方は笑いながら、こちらに「すまん」とサインを送っている。

 

 

「誰だ。捜査官か? 俺と会う予定なのは貴様らか」

 

「私はともかく、篠原を知らないのか。『オニヤマダ』の一件、アカデミー生ならば知っていそうなものだが」

 

「いや、そんなに有名人じゃないよ。まだ特等でもあるまいし」

 

「知らんな。俺は捜査官じゃないしアカデミー生でもない。捜査官補佐という事になっているらしいがな」

 

「ほう、補佐…そうか、丸手が言っていた喰種を殺したという少年か」

 

 

ミカドの正体に興味を持ったようだ。少し目を見開くと、真戸と呼ばれた男は手袋を付けた左手で、ミカドに握手を要求した。

 

 

「私は真戸呉緒。位は上等捜査官だが、オルフェノク対策課の君には関係の薄い話だ。こっちは篠原。上等だったか?」

 

「もう准特等だって。『オニヤマダ』の一件で昇進したの忘れないでよ」

 

「関係ないなら仲良くする必要性が見いだせないな。それで、用件を言ったらどうだ」

 

「用件…聞きたいと思っていたことならあるがね。これ、君の忘れ物だ」

 

 

握手を断られた真戸が出したのは、ミカドが〔CCG〕に提出した「サソリ1/56」だった。そんな事を言うためにファイズの捜査を妨げられたと思うと、ミカドの中で苛立ちが増す。

 

 

「それは本部に返却したものだ。貴様ら捜査官の落とし物だからな」

 

「これが我々のクインケだと、そう言うか。私は捜査官でもクインケに詳しい方でね。そんな私から言わせてもらうと、このクインケは素晴らしい。形状、組成などから考えて、かなりサイズの大きい赫子を相当数に分割したものだろう。ケースに入れずとも形状保持が可能で、硬度、切れ味共に申し分ない。対喰種の暗器として重宝できる代物だ」

 

「知らん。拾ったナイフに興味はない」

 

「しかし、それほど素晴らしいクインケなのに私が知らないのだよ。クインケ嫌いの丸手は気付かなかったようだが、画期的とまでは行かずとも少々()()()技術も用いられている。それで改めて聞きたいのだが…このクインケを何処で拾ったのかな?」

 

 

背筋が冷える口調と目付き、そこから弾き出された推理に戦慄した。砂漠で雨を望むような態度でミカドの返答を待つこの真戸という男は、恐らくミカドの正体にほぼ勘付いているだろう。クインケに関してはいずれバレると思っていたが、こんなに早いとは思わなかった。

 

 

「……拾ったものは拾った。練馬…20区の何処かだ。知りたければ案内してやるが、俺とて補佐として捜査の最中だ。俺の上司に許可を取れ」

 

「君の上司、オルフェノク対策課となるとやはり…」

 

「何をしているのかな真戸上等、篠原准特等。彼に用があるのは俺なのだがね」

 

 

ミカドに詰め寄る真戸の後ろから、煙たそうに発したであろう言葉が飛んできた。新たに現れた男も薄い髪色をしているが、真戸とは違って死人を想起はできない。異様ではあるのに特別な何かを感じない、気味の悪い男だった。

 

 

「いや、これは真戸がそっちの補佐に勝手に…いやーごめんなさいね」

「丁度良かったよ瀬尾特等。彼を少し借りるが、構わないか?」

 

「はぁ…どいつもこいつも年下に敬語は使いたくないか。程度の低い自尊心が透けて見える。俺が了承する前提で話しているようだが、貴方の中で俺はどれだけ都合のいい存在なのか考えたくもないね。分かるだろうが返事は却下だ、そちらも確か『パラポネラ』と『骸拾い』だったか? そちらの捜査を優先すべきでは」

 

「ふむ。少しでいいのだが」

 

「同じ主旨の質問を二度もしないでもらえるかな。それとも捜査が遅れた分、貴方が穴埋めをしてくれると。一応名の知れた捜査官、いないよりはマシだ」

 

「それは遠慮しておこう。オルフェノクからはクインケを作れないからね。時間を取らせてすまなかった。行くぞ、篠原」

 

 

根負けしてくれたのかは分からないが、真戸はやっと去ってくれた。それに「クインケ狂いが…」と吐き捨てる瀬尾という男が、今度はミカドに目を向ける。

 

 

「さて、君が20区支部の捜査官補佐か。俺はオルフェノク対策課の瀬尾、階級は特等…つまり一応は最上位だ。人手が足りない我が部署、飛び込みの子供ですら使わなければいけない現状と丸手准特等の判断には辟易するが、精々俺に楽をさせてくれ」

 

「……あぁ」

 

 

普段なら噛みつき返す所だが、この瀬尾という男は必要以上の反応をすると面倒くさそうな雰囲気が凄まじい。出来れば関わりたくないタイプの人種、ミカドも角を立てないよう軽く返してしまう。

 

 

「…この際敬語云々の話は見逃すとする。早々にファイズの案件を担当するようだが、君の役目はその発見か正体特定までだ。残りの始末は戦力的に俺がやる事になるから、出過ぎた真似をして俺の手間をかけさせないよう留意してくれるかな。今回はそれだけ念を押しに来た」

 

 

握手を求めて来た真戸とは対照的に、瀬尾はミカドに近寄りたくもないという潔癖が前面に出ている。言動からも隠す気のない本心が丸見えである。総じて「嫌な奴」という烙印を押さざるを得ない。

 

 

「…期待できそうにないな。補佐というのは反抗的で態度が大きくて困る。本当に醜いな」

 

 

最後まで嫌な言葉を吐き連ねて去った瀬尾だったが、ここで消えてくれてミカドは安心した。もう少しで危うく、あの顔面を殴り飛ばしてしまうところだった。

 

 

___________________

 

 

「何しに行ったんだよ俺は。暇かって」

 

 

オートバジンを走らせながら、ミナトはヘルメットの中でぶつくさと自嘲する。というのも、会いたい人物がいて〔CCG〕の養護施設に足を運んだのだが、結局は入れずにUターンしてしまったのだ。

 

思い悩む「彼」にかける言葉が上手く整理できない。ファイズギアを失い、何者でもなくなってしまったというミナト自身の揺れも、一つの理由だろうか。

 

気付けばまたあの住宅街にバイクを停めてしまっている。その時、偶然家に入ろうとしているアラタがいて、こちらを見て「丁度良かった」と手招く。行く場所も無いミナトはそれに甘えるしかなかった。

 

 

「見てミナト。お父さん、また食べ物もらったんだよ!」

 

「へぇ、なんの肉だこいつ。変わった匂いするけど」

 

「ほんと? ほらアヤト、ちょっと嗅いでみて」

「みんなくさいから分かんないよ、お姉ちゃん…」

 

「鹿の肉…らしいよ。料理のおすそ分けのお礼って、尾口さんが」

 

「鹿さんのお肉…人間って鹿さんも食べるんだ…」

 

「そうだな。今じゃあんま食べないけど、昔はウサギとかも食べてたらしいな。フランスとかじゃ今でも…あ、悪いアヤト。怖かったか」

 

 

人間的目線から見ればヒトを食べる方が遥かに怖いのだが、その辺は喰種と人間の価値観が大きく違うのだ。実際、喰種は人間以外を殺すことは余りないという。動植物なら手当たり次第食い荒らす人間の方が、見方を変えれば野蛮とも言える。

 

 

「貰ったものを人に渡すのも変だし、これ食べて行かない? 鹿肉なんてどう料理すればいいか分からないけど」

 

「…食いっぱなしも悪いだろ。手伝うよ」

 

 

どうせやる事もない。ミナトはアラタの誘いに応じた。

結局は自分が食べるのだから生肉でなければなんでもいいが、鹿と聞いて一つの思い出が浮かび上がる。冷蔵庫を開けると人肉に並んで他の材料も揃っていたので、諦めて記憶に従うことにした。

 

 

「なんでビーツまであるんだよ。人間だってこんなに貰わねぇし、断わりゃいいのに」

 

「ご近所さんと仲良くできてると思ったら、嬉しくてつい…ね」

 

「ミナト、なに作ってるの? 真っ赤っか…血?」

 

「……ボルシチつってな。外国の料理。昔、父さんが作るのをよく手伝ってた」

 

 

ボルシチはロシアの郷土料理。ロシアから日本に渡って来たという育て親、ドナート・ポルポラが孤児院でよく作ってくれた料理の一つだった。

 

 

『小さい時からよく食べた料理だ。私の国では牛ではなくて鹿をよく入れていたな…懐かしいよ。ほらミナト、味見するといい』

 

 

今思うと嘘でしかない台詞だった。喰種であったドナートがそんなものを食べるはずがない。憎いとしか思えないこの思い出に、時折このように縋ってしまうのは何故なのだろう。

 

 

「がいこく……」

 

「…味見してみるか、トーカ」

 

「…うっ、おいしくない……」

 

「だよな」

 

 

外国だなんて、トーカやアヤトには果てしなく遠い言葉だろう。

ここは「人間の世界」と言って差し支えない。非力な喰種は、東京の小さなコミュニティに身を寄せ合わなければ生きてすらいけない。人間のように、自由に夢見ることもできない。

 

人間と喰種が分かり合えない以上、それが正しいと思う時もあり、間違っていると思う時もある。でもせめて、優しく生きようとしている彼らが生きて欲しいと願うのは、この身には過ぎた行為だろうか。

 

 

「アラタさん。子供たちだけで外に出すのは、しばらく避けろ。誰かに目を付けられてるかもしれない」

 

「…ありがとう。気を付けるよ」

 

 

何か少し動いたら途端に崩れ去る、歪な平穏が愛おしい。

ミナトは呼吸を整えて鍋の中身に目を向けた。この正しくない時間を謳歌する自分に、静かに腹を立てながら。

 

 

_____________

 

 

13区の『ランタン』を名乗るオルフェノクの捜査は続いた。三波麗花の身辺調査を行ったが、喰種なだけあって話は曖昧なものが多い。学校も一定期間で転々としていて、学級委員長的な性格で人気も友達も多く獲得していたらしく、そこからオルフェノクの正体を絞り出すのは骨が折れる。

 

 

「喰種を名乗る理由は一見理解できないが、オルフェノクなら元は人間だ。『ランタン』に身内を殺され、仇を炙り出すために行動を起こしているなら腑に落ちる」

 

 

と、ミカドがそれらしい見解を述べたことで、捜査の方針はそれに固まった。今は『ランタン』による捕食被害者の遺族等を洗っている最中だ。

 

 

「土岐」

 

「上司な。俺」

 

「あの瀬尾という男だが」

 

「上司な。彼」

 

「なんなんだアイツは」

「めちゃくちゃ嫌な人。性格は最悪。〔CCG〕調べ特等人気ランキング、初登場にしてぶっちぎり最下位」

 

「腕の話だ」

 

「あーうん。特等は人間側のバケモノって例に漏れず、あの人も大概よ。性格は本当に最悪だけど」

 

 

何度も念を押して「性格は悪い」と繰り返す土岐。性格はともかく、特等というのに余り強そうな感じがしなかったのが気になっていた。それこそ、直前に会った「篠原」という捜査官の方が余程バケモノに近かった気がする。

 

 

「お前、結構やる奴なんだな。光ヶ崎くん」

 

「育った環境が違う。当然だ」

 

「そのみょーに頭キレて、不愛想な感じ…アイツに似てっ気するんだよな。顔もちょっと似てる…?」

 

「駄弁っているとは余裕だな。上司を名乗るなら、俺よりまともな事くらい言ったらどうだ」

 

 

ミカドも瀬尾と大差ないくらい容赦の無い事を言うので、土岐が身震いしてしまう。今後こんなのを上と下に置くと考えると嫌すぎる。ここは少し正捜査官の威厳を見せようと、土岐は首を捻って考える。

 

 

「あ、『ランタン』の被害者が暴れてるって話だったよなぁ。でもちょっとおかしい気が、今した」

 

「…何処がだ」

 

「だってよ、もし『ランタン』が生きてるとして、わざわざそれで出て行くか? 相手が暴れててオルフェノクだって言うなら、捜査官が動くはずだし。のこのこ出て行ったらついでに自分が殺されちゃうかもしれないぞ」

 

 

土岐の言う事には一里ある。『ランタン』から見れば、放っておけば捜査官が処理してくれるだけの話。手を出す旨味が何一つ無い。

 

 

「だから『ランタン』を名乗ってるのは『ランタン』を見つけるためじゃなくて、その逆ってのはどうよ!」

 

「それこそ有り得ない話だ。それはつまり、『ランタン』と犯人は───」

 

 

言いかけた瞬間に、土岐の端末からアラームが鳴る。それは「ファイズ」が現れたことを意味していた。幸い現在地から場所は近い、5区のアカデミー付近だ。

 

 

___________________

 

 

「ファイズ」はアカデミー生の集まりの前に白昼堂々と現れ、そこにいた数人のアカデミー生を瞬時に殺害。一般人も巻き込んで騒ぎは大きくなり、破壊行動も大きくなる。これはほとんどアカデミーそのものに攻め入っているのと同じだ。

 

教官の捜査官も多く駐在しているアカデミー、そこに攻めるとなると相応の理由がある。その目的というと、ファイズは目に付く者に危害を加えながら、誰かを探しているようだった。

 

 

「どこだ…フラタイシ! 彼女を殺した捜査官はどこにいる!!」

 

 

ファイズが出たと聞き、クインケのケースを持って現着した富良が最初に耳にしたのが、ファイズのその言葉だった。ファイズが「ランタン」を名乗っていた理由、それは「ランタン」を殺した者を探すため。

 

恐らく襲った喰種や捜査官からその名を聞き出し、仇を見つけたとアカデミーに突入したのだろう。このまま待てば他の捜査官が駆けつけ、ファイズは倒されるのは目に見えている。

 

だが、それを待っているうちに何人が死ぬ? 何より、種を蒔いたのは富良自身だ。

 

 

「こっちだ『ランタン』! 俺が…富良太志だ!」

 

 

ファイズの黄色い複眼が富良に向けられる。あの装甲怪人と戦うには武器は不可欠であり、クインケの起動を試みる。A+レート“尾赫”「ランタン」の起動を……

 

 

『富良くん』

 

 

「っクソ…やっぱ、出来ねぇよ……!」

 

 

三波麗花のあの笑顔が好きで、あの笑顔でリョウを殺して、その笑顔を富良が殺した。色々な感情がグチャグチャになって、過ぎ去った現実を清算できない。後悔がある。罪悪感がある。

 

奪った命が、その背中に縋りついて来る。

 

 

「太志。伏せろ」

 

 

葛藤に耽っていた富良をしゃがませ、迫るファイズに殴打が入る。

あの日、三波を殺したサーベル型クインケ「ユキムラ1/3」を持った、有馬だった。

 

 

「すまねぇ有馬…俺…」

 

「大丈夫。『ファイズ』は俺が倒すから」

 

「タイシ、アリマ…そっか、お前達が!! 麗花ちゃんを殺した捜査官!!」

 

 

ファイズは有馬の首をへし折ろうと、増した怒りで襲い掛かる。しかし、これまで通りなら殺せていた攻撃も有馬は容易く捌き、喰種以上の身体能力を以てしても彼を殺すことが出来ない。

 

 

「驚いたな。思っていたよりも速い」

 

「何を言って…! なッ…あ゛あ!?」

 

 

僅かに見せた隙で3回、「ユキムラ」で斬られた。もしファイズの鎧を着ていなかったらと想像すると身の毛がよだつ。

一度死に、オルフェノクとして蘇り、見知らぬ男からこのベルトを受け取って更なる力を手にした。そこまで幸運に恵まれたのに、この生身の人間一人を殺せるビジョンが、まるで見えない。

 

 

「人間じゃない…バケモノ! そのバケモノの癖して、麗花ちゃんを…!!」

 

「ご苦労、有馬一等。そのままもう少し相手をしておいてくれ。さて…『ファイズ』を発見、駆逐に入る」

 

 

ファイズが有馬相手に翻弄される中、新たに現れた援軍。アカデミーに足を運んでいた瀬尾だ。瀬尾は有馬の戦いぶりに関心するように眉を動かすと、慌てる素振りもなく自分のアタッシュケースを開いた。

 

その中にあるのはクインケではなく、ベルトと装備。そして携帯電話。ファイズギアと同じ構成だが、異なるのはその黒色だ。

 

ベルトを着けた瀬尾は携帯電話のカバーをスライド回転させ、現れたキーボードに変身コードを入力。打ち込まれた数字は「913」。

 

 

《Standing by》

 

「変身」

 

《Complete》

 

 

ベルトに「カイザフォン」を斜め入れすると、瀬尾の体をなぞって光のラインが駆ける。フラッシュが瞬き顕現したのは、黄色のフォトンブラッドが駆け巡った黒い殲滅兵士の姿。

 

「χ」を象ったマスクが紫に光る。瀬尾潔貴が変身した戦士の名は、仮面ライダーカイザ。

 

 

「もう下がっていいぞ有馬上等。『ファイズ』の始末は…はぁ…俺が引き受ける」

 

 

意味もなくネクタイを締めるような仕草をするカイザから感じられるのは、正義感などではなく「今から仕事をしますよ」という、やる気の無い気迫。

 

有馬に比べれば得体が知れ、普遍的な気だるさを放つカイザに、憤るファイズは攻勢をあらわにした。しかし、その身のこなしから発揮されるのは、圧倒的な力。

 

 

「軽い? 持ち主が変わったのか。回収が楽になるなら、なんでもいいんだけどな」

 

 

カイザブレイガンのガンモードで一方的にファイズの動きを牽制した後、ミッションメモリーをセットしてブレードモードに移行。次々に体を斬り付け、ファイズがたじろぐ歩幅に合わせて距離を詰め、執拗に絶え間ない滅多切りを浴びせる。

 

カイザは倒れたファイズにブレードを突き立て、その喉元を貫こうとする。

それは実に簡略化された効率的な戦い。「元人間」であるオルフェノクを容赦なく殺せて、尚且つ「呪いのベルト」と適合する逸材、それが瀬尾潔貴。二等捜査官であった彼が、一躍特等捜査官に抜擢された所以だ。

 

ファイズの息の根を止めようと、ブレードに力を込める。剣先が首に埋もれる感触が伝った瞬間、どこからか伸ばされた帯がカイザの腕を弾き、ファイズから退かせた。

 

 

「チッ、ラッキークローバーの香賀…『カメレオン』か」

 

「ファイズのベルト、取って来いって叱られてね。彼に嫌われたくない俺は、少し動くことにしたよ」

 

「特等になったからもう功績はいらないんだよ。だがS+レート、討伐報奨200…300万は固いか」

 

 

ファイズの守護に現れたカメレオンオルフェノクは、その細い体でカイザの猛攻に渡り合う。ラッキークローバーに位置するオルフェノクはどれもレートはS+以上、有象無象とは根底から質が異なるのだ。

 

そうなるば自然とファイズはおざなりになってしまう。立ち上がったファイズは再び富良に殺気を向け、息を切らしてにじり寄る。それに立ち塞がる有馬の後ろで、富良はふと浮かんだ言葉をファイズに向けた。

 

 

「お前、三波の…友達だったのか?」

 

「太志?」

 

 

ファイズの脚が止まる。斬りかかろうとする有馬を、富良が止める。

怒りに肩を震わせるファイズが、富良の言葉に叫びを返した。

 

 

「…そう。麗花ちゃんは私の大事な友達だった。いつも通り虐められに行った夜、アイツらを食べてる麗花ちゃんに会って、彼女が“喰種”だって知った…嬉しかった! 感謝しかなかった! 最期にこんな喜びを知れて、大好きな彼女に食べられて死ぬなら、それでいいと思った!」

 

「もういいだろ太志。隙だらけだ、今なら殺せる」

「待ってくれ有馬! 俺達は…コイツの話を、聞かなきゃいけねぇだろ…」

 

「でも…麗花ちゃんは命を差し出す私を受け入れてくれたんだ! 私も受け入れた! 私たちは……友達だった。麗花ちゃんが区を去るって言って、いつか会おうって約束して…でも会いに行った先の13区に、麗花ちゃんはいなかった。お前達が、殺したから!!」

 

 

富良は、その話を聞いて納得できた。

人間に憧れていた喰種、「ランタン」。そんな三波が、彼女のことを本心どう思っていたのかは知ることは出来ない。何かの気まぐれか、遊戯のつもりだったのかもしれない。そうだとしても、きっと三波は「人間の友達」に心の何処かで飢えていたのだろう。

 

もし富良と有馬に近づいたのが、純粋に殺すためだけじゃなかったとしたら。手に持っていたケースの重さが、一段と増した気がした。

 

 

「そうだ…俺が三波を殺した」

 

「ッ…! だから私は、お前をッ!!」

 

「許してやれなかった…! 俺も死ぬんじゃないかって、怖くなった…! 俺、頭悪いからわかんねぇけど! もっといい終わりがあったんじゃないかって、あれからずっと後悔してんだよ! アイツがただの人間で、好きなままでいられたら…どんだけよかったかって…」

 

 

泣き崩れる富良を見て、ファイズも振り上げた腕を力無く下ろしてしまった。そんな時間が暫く続いた。煮詰められた感情が全て吐き出されたその場で、誰を殺して誰を憎めばいいのか、分からなかった。

 

その静謐を瓦解させたのは電子音的な銃声。ファイズの体に火花が散り、力が抜けたその体を退かせる。

 

 

「アイツがファイズ! あの黒いのは瀬尾特等だからな、間違えたら俺が殺される!」

 

「見ればわかる。オルフェノクもいるのか…面倒だな」

 

 

車から降りた直後、富良と有馬に迫るファイズにファイズフォンⅩを発砲したミカド。クインケを持たせようとする土岐を振り払い、ジクウドライバーを装着する。

 

 

「自前のものがある。クインケは必要無い」

 

《ゲイツ!》

 

「変身!」

 

《仮面ライダー!ゲイツ!!》

 

 

撃たれたファイズ、交戦するカイザとカメレオン、剣を構える有馬、その全員が変身したゲイツに釘付けとなった。2003年時点でその存在が意味するのは、「ファイズ」「カイザ」「デルタ」に次ぐ、「四本目のベルト」。

 

 

「ようやくだ…仮面ライダー。貴様を……!」

 

 

ゲイツはよろけたファイズに蹴りかかり、建物の壁に倒れ込んだ所に腹部へ拳を突き刺す。その一挙一動には確かな殺意が籠っている。それもそのはずだ、

 

ファイズは一般人を何人も殺め、土岐の推理から喰種と共謀していた疑いもある。喰種の隠匿は殺人犯を庇うよりも遥かに重罪だ。つまりミカドにとってファイズは、過去の世界でようやく出会えた悪の仮面ライダー。未来の世界で飽くほど見た、憎むべき敵。

 

 

「俺の望む未来のためだ。貴様の力を奪う。そのために死ね、仮面ライダー!」

 

「…そうやって、麗花ちゃんも殺したんだろ…全員殺す!! 麗花ちゃんを殺した捜査官なんか全員ぶっ殺してやるっ!!」

 

 

張り詰めていた何かが切れ、ファイズの中から怒り以外の感情が消え去った。怒りや憎しみをぶつけ合う戦いは熾烈さを増す。そんな見るに堪えない戦いを前に、富良は言葉を失ったまま何も出来ない。

 

 

「ふぅん、補佐がベルト持ちか。拾い物にしては存外悪くないかな」

 

「あっ、気が合ってしまったな。彼の目…過酷の中で磨かれた目、熟成された命の美しさを感じたよ。俄然、あの少年に興味が湧いた!」

 

 

ゲイツを自分の利益として冷静に分析するカイザと、ベルトに興味はないカメレオン。動いたのはカメレオンで、肩から帯を伸ばし、ファイズと殴り合うゲイツの腕を絡め取り、引き寄せた。

 

 

「初めまして、俺はラッキークローバーの香賀。いきなりだけど、君にはもっと綺麗になって欲しいんだ。俺に委ねて楽にしてくれればいい。そうすれば君はオルフェノクとしての美しさを手に入れられる」

 

 

カメレオンの言葉に血の気が引く。記憶が閃光の如く蘇る。そしてバックドラフトのように、爆発する憎悪の感情。

 

 

「黙れオルフェノク!! 忘れるものか…貴様らはそうやって、(タスク)を殺した! 死ぬのは貴様らだ化け物!!」

 

 

ゲイツがジカンザックスを出す前に、カメレオンの帯を切り離したのは有馬。変身しているゲイツの動きをも置いていく自分勝手な攻撃で、カメレオンの虚を突き、その両肩に「ユキムラ」を突き刺した。

 

 

「なっ…!?」

 

「おお、君の目も悪くない…!」

 

「……」

 

 

有馬は喰種と会話しない。オルフェノクが相手でも同じ。戦いの中で不要な会話も、感情の発露も行わない。そんな有馬を気味悪く思いながらも、ゲイツは燃え滾る衝動のままカメレオンの体に袈裟斬りの傷跡を刻み込んだ。

 

 

「結局俺はこっちか。仕事場で目上を振り回さないのは常識だと思うんだけどね」

 

《Exceed Charge》

 

 

ぶつくさと愚痴りながら、カイザはベルトのカイザフォンのエンターキーをプッシュ。暴れ出したファイズにブレイガンの銃口を向け、光の矢を射出し、命中直後に光の網がファイズの体を縛り付けた。

 

剣を逆手持ちし、身を低く構えたカイザは「χ」の形の閃光となって、身動きのできないファイズの体を通り抜けた。そして、解放された斬撃がファイズを斬り裂く。

 

だが、「χ」の残光はファイズを灰化させるに至らず、変身を解除させるに留まった。地を転がるファイズギアと、ファイズに変身していた成人するかしないかくらいの少女。何よりカイザを苛立たせたのは、攻撃の寸前に軌道に割って入った富良だった。

 

 

「君のせいで仕留め損なった。どういうつもりかな、アカデミー生。喰種の擁護は重罪。オルフェノクも同様の扱いだと習わなかったのか?」

 

「待ってくれよ! そいつは…三波の友達だって言ってた。俺が悪いんだ…そいつは友達の仇を取りたかっただけなんだ…! 人を殺したのは分かってる。でも、殺す以外だってきっと───」

 

 

富良の言葉に一切の興味は無いと、カイザは弁明をする富良の顔面を殴り飛ばした。変身した状態の一撃をただの人間が食らって平気なわけもなく、富良は道路の脇で気を失ってしまった。

 

カイザの紫色はファイズの変身者に向けられた。殺意を感じたその体はオルフェノクへと変化。壺を被り、尾のような蔦を備えたウツボカズラ怪人、ネペンテスオルフェノクだ。

 

 

「お前ら捜査官が正しいだなんて反吐が出る! どいつもこいつも喰種は悪だ、殺せって何も分かってないんだ! 喰種だって生きてる。人を食べるしかないなら、そうやって生きていくしか無いだろ! それの何がいけないの、教えろよ捜査官!」

 

「なんでそんな事を答えなきゃいけないのかな? 俺が、わざわざ薄汚い化け物のために」

 

 

溶解液を躱し、蔦を斬り落とし、抵抗するネペンテスを一笑に付してカイザのいたぶるような攻撃が続く。

 

 

「どうでもいいんだよ、多くの人間にとってそんな事は。喰種がどうだろうがオルフェノクがどうだろうが、自分の身を可愛がるために死んで欲しいんだ。俺もどうでもいい。邪魔な害虫を殺して名声を得て、金を得て、大した苦労もせず清潔に生きれるならそれでいい。逆になんで君らはそうしないのか疑問だね」

 

「…腐ってる! お前らが正義ぶってる世の中なんて、間違ってる!」

 

「間違ってるのは君らだ。ここは人間様の世界なんだ、人間様のルールに従えない奴が全部悪い。お前は何人殺した? 元人間なんだから人を殺しちゃ駄目って、お母さんに習ったよな? それでも殺した馬鹿が君だ。ヒトを殺したら死んで当然だろ。邪魔なんだよ、俺の平穏を脅かすヤツは」

 

 

カイザの銃弾がネペンテスの肺を撃ち抜いたところで、ネペンテスは人間の姿に戻ってしまった。伏したまま体をずって逃げようとする彼女の傍に発砲するも、オルフェノクの姿に戻ることはない。

 

 

「もう変化する体力も残ってないか。最期まで不愉快だな君というオルフェノクは」

 

 

腹の底から厭そうな息を吐きだすと、カイザはカメレオン戦に向かって発砲した。ファイズがいない今、構図は3対1。生身の怪物と4本目のベルトというイレギュラーで予期してない状況に陥ったカメレオンには、ファイズギアを回収する余裕もない。

 

 

「ここは退こうか。悲しいなぁ、今の君はとても綺麗だよ、さようなら新人ちゃん」

 

「誰が逃がすか!」

 

 

退避の構えを見たゲイツと有馬が一気に仕留めにかかるも、その瞬間にカメレオンの「形」が大きく変わって攻撃を外してしまった。瘦せ細っていた手足が急激に長く、太く発達。トビウオのような滞空補助の翼まで生えている。

 

カメレオンは感情や環境に応じて色を変える生き物で、その真価は環境適応。その特質を備えるカメレオンオルフェノクは変幻自在に戦闘体を変化させることができ、これはその一つの退避特化「跳躍態」だ。

 

一度のジャンプで攻撃範囲外にまで離れてしまったカメレオンを追うことは出来ず、ゲイツが行き場の無い怒りで地面に拳を叩きつける。一方で有馬は冷静に次の駆逐対象に向かう。

 

 

「瀬尾特等、太志と『ファイズ』は」

 

「富良君はパニックになっていてね。巻き込まれる可能性があるから眠ってもらった。そして『ファイズ』の事だが……」

 

 

カイザは有馬と角を立てないように適当に言いくるめると、ゲイツを引っ張って彼女の前に立たせた。苦しみ悶える、「ファイズ」の前に。そして簡潔に一つだけ指示を出す。

 

 

「君が殺せ」

 

「…どういう事だ」

 

「たまにいるんだよ、そこそこ戦力になっても殺せないっていう役立たずが。Peace On Death、死をもって平和をが〔CCG〕の理念。殺せないなら邪魔なだけだ」

 

 

カイザの言う事には納得できた。肝心な時に手を下せない甘い戦士は、戦いの場において邪魔になるし何より本人に危険が及ぶ。それにはゲイツも同意だ。これが試験のつもりならば、ミカドにとって何も難しいことはない。

 

ジカンザックスの刃を振り上げる。

しかし、変化せず、声も出さず、人間の姿のまま命乞いの目でこちらを見る少女に、ゲイツの体が止まってしまう。灰となって崩れ去りつつあるその体が、ミカドの記憶と重なる。

 

いつの日もよく燃えていた。家族を失った日も、親友を失った日も、ミカドの視界には無情の炎と灰になった思い出があった。その理由にいたのはいつだって、人間の理を越えた怪物共だ。

 

 

「……死ね!」

 

 

ジカンザックスをゆみモードにし、少女の心臓に矢を放つ。刹那で死に至った少女は吐き出された血だまりに顔を沈めながら、衣服のみを残して灰になって消えた。

 

 

「『ファイズ』討伐完了。カメレオンを足止めした功績くらいは、局長に進言しておいてもいい」

 

「…勝手にしてくれ。俺は昇進に興味は無い」

 

 

ミカドの言葉に少し文句を呟きながら変身を解除した瀬尾は、ファイズギアを拾い上げて有馬に後処理を命じた。カイザブレイガンの刃を念入りにタオルで拭きながら、その場を去る。

 

ファイズを殺したのに、ミカドの持つプロトウォッチにファイズの力は宿らなかった。その疑問に答えを出すより前に、ミカドもその場から立ち去る。灰になって跡形もなくなった命に目を伏せて。

 

 

__________________

 

 

喰種狩りを行っていた「ファイズ」を駆逐し、事件は収束した。殺し方の手口の違いや到底Sレートに届かない強さに、これまでのファイズとは変身者が違うと瀬尾は指摘したが、何にせよファイズギアの回収をした功績は大きい。

 

本来すぐに持ち主であるスマートブレイン社に返却されるべきだが、今回の功績を使ってミカドがファイズギアを調べたいと進言した。ファイズウォッチが生成されなかった理由を探るためだったが、土岐が同じようにファイズギアの所有権を求めたのは驚いた。

 

結局、20区支部はファイズギアの短期間の所有を許された。

 

 

「そうか、アイツは死んじまったのか…」

 

 

目を覚ました富良は有馬から事の顛末を聞いた。

あんな後悔はもうしたくないと縋りついたが、やはり富良には何も変えられなかった。それで一つ、分かってしまった事がある。

 

 

「有馬、お前は喰種と話さないって言ってたよな」

 

「あぁ」

 

「もしお前と親しい奴だったり、大事な奴が喰種だったとしてもか?」

 

「俺は命じられれば殺すよ。奪う事に躊躇はしない」

 

「やっぱそうだよな。俺は、お前らみたいにハッキリと答えを出せねぇんだ。そんな馬鹿な俺じゃ何かを変えるなんて望みはデカすぎるって、痛感した。俺は……だったら俺は…せめて守れるものを守っていくだけだ」

 

 

富良の中で一つの想いが固まった。

だが、これだけは答えを出さなければいけないと、「ランタン」のケースを手に取る。捜査官として戦いに身を投ずる、近い未来までには必ず。

 

 

___________________

 

 

日が暮れた。暗くなると喰種の活動が活発化するため、人間にとっても喰種にとっても危険な時間帯だ。当然、霧嶋家の姉弟も外には出ず、布団に入って絵本をせがむ。

 

 

「ねーミナト、絵本読んで!」

 

「アラタさんに頼め…」

 

 

何故かミナトに。根負けしたミナトはいつもアラタが読み聞かせている絵本を開くが、やはり感情豊かに読むというのは苦手だ。アラタに比べて読み方が飽きやすかったのか、辛抱強くないトーカはすぐに眠ってしまった。

 

 

「…ねぇミナト。お父さんは?」

 

「アヤトは起きてたのか。お父さんは『食べ物』を探しに行ってる。そんな心配そうな顔すんな、アラタさんは強いから」

 

「……うん」

 

 

アヤトは臆病だが、歳にしては少し精神的に成熟している印象があった。少なくとも無邪気な姉とは違い、人間と分かり合えないことを見据えているような気さえする。幼いながら覚えているのだろうか、母親が喰種捜査官に殺された時のことを。

 

 

その時の話を聞いたことがある。母親───霧嶋ヒカリを殺したのは、わずか16歳の少年だったという。名前は有馬貴将。その幼さに警戒が薄れ、咄嗟に逃げることが出来なかった。アラタは子供たちを守るため、ヒカリを置いて逃げ出したと言っていた。

 

最愛の子を守るため、最愛の人を見捨てた。その決断はどれだけ辛かっただろう。それからどれだけ苦しんだだろう。そんなアラタはきっと、残された子供たちを守るためならなんだってする。そこから先の可能性は、ミナトにとって余り考えたくないものだ。

 

 

「あぁ…アラタさんは本当に強い人だ。尊敬してる。アラタさんはきっと…お前らを守ってくれる」

 

「…ミナト?」

 

「でも、もし。アラタさんがお前らを守れなくなったら…遠くに行っちまったら。アヤト、お前がお姉ちゃんを守るんだ」

 

「ぼくがお姉ちゃんを? ぼくよりお姉ちゃんのほうが強いよ?」

 

「今はそうでも、お前は男だ。トーカより強くなるよ。だから…何があってもお前だけはトーカの味方でいてやれ。どんな形でもいい。絶対に、家族は守ってやるんだ」

 

「わかった…」

 

 

誰が何を言っているんだという話だ。自分の罪の禊を小さな子供に押し付け、自分でも自分が分からない。兄貴面をしながら大事な家族を守れなかったのは自分じゃないか。

 

……違う。守るだなんて高潔な話に自分はいない。大事な家族を、ミツルを化け物にしたのはミナトなのだから。

 

 

「アヤト、留守番頼む。アラタさんが帰ってきたら、飯ちゃんと美味かったって言っといてくれ」

 

 

音が玄関の外から聞こえると、ミナトは霧嶋家の部屋から出て行った。玄関先に置かれていたアタッシュケースの中にはファイズギアが。戻ってくるのが思ったよりも早かったおかげで、早々に「やる事」を片付けられるようだ。

 

 

「いるんだろ、ずっと見てやがって。狙いは俺か?」

 

 

夜道で声を張り上げるミナト。アラタ達と一緒にいたこの数日、特に今日はよく視線を感じたのだ。出てきたのは体格の大きい男だったが、目につくのは真っ白な服装。喰種捜査官に違いない。

 

 

「捜査官…話くらいは聞いてやるよ。ストーカーって本部に言いつけて欲しくなけりゃな。一応俺も、そっち側の人間だからな」

 

「…俺はある喰種を追っていた本部の局員だ。『骸拾い』、ヤツの強さは凄まじかった。レートはSSを下らない完全な『赫者』だ。俺達はその力を見誤り、全員殺されたはずだった」

 

「……もう話は充分だ。オルフェノクってことだろ」

 

「あぁ…! 気付けば俺だけが目を開き、人ではなくなっていた。オルフェノクになった以上、〔CCG〕には戻れない。そんな話があるか! 俺は『骸拾い』……霧嶋新とその子を駆逐し、再び捜査官として返り咲いてやる!!」

 

 

男の姿がオルフェノク態へと変化する。この暗闇でも分かる巨体、豪胆な一挙一動。カバの特質を備えた、ヒポポタマスオルフェノク。

 

深くは追及してなかったつもりだ。しかし、ミナトは全てを理解してしまった。やはりアラタは捜査官や喰種を殺し続けていたのだ。強者と戦い、共食いをし、子供たちを守る強さを手に入れるために。

 

さすまたのような棍棒を掲げるヒポポタマスに、ミナトもファイズドライバーを装着。ファイズフォンを開き、ボタンを3度押す。

 

 

「なぁアンタ。本当に戻れると思ってんのか」

 

「何だと?」

 

「戻れねぇよ。どんだけ理不尽でも悲しくても、俺達はもう死んだんだ。人間だった頃には戻れない」

 

「ファイズギア…!? そうか、貴様も()()なら、何故邪魔をしようとする。戻れないと言いながら喰種を庇うだなんて、何になったつもりだ!?」

 

「答えは出せなかった。俺はどんな存在として生きたいのか、俺らしいって何なのか…生きてちゃいけないってのが一番しっくり来たよ。…でも俺は生きている。その意味があるとすんなら、正しく生きようとしてる誰かを守ること。それだけだ!」

 

《Standing by》

 

「変身!」

 

 

ファイズフォンを高く掲げ、ドライバーに装填して倒す。それがトリガーとなり、夜の闇に赤光が放たれる。

 

 

《Complete》

 

 

仮面ライダーファイズへと変身を果たし、腕をスナップさせてヒポポタマスへと駆け出す。それに呼応して飛来した銀色のロボットが、円形の盾からヒポポタマスに銃撃を集中砲火。ファイズの専用バイク「オートバジン」が人型へと変形したものだ。

 

連射を受けてヒポポタマスが後ずさりした所に、ファイズの全身を入れたパンチが叩きつけられる。流石に重く殴り倒せなかったが、それならもう一発、更には蹴りと追撃し反撃の余地を与えない。

 

 

「アンタはオルフェノクになっても、捜査官として生きたいのか。だとしたらこれは…多分間違ってるんだろうよ。それでも俺には、選ぶ事しかできない」

 

 

喰種捜査官から見れば、アラタやトーカ、アヤトは駆逐対象。どんな生き方をしていたかだなんて人間が知ったことでは無い。知ろうともしてくれない。どう足掻いてもそれは仕方のない事だ。

 

目の前の彼は間違っていない。でも、ミナトはあの家族を守りたい。

奪われたくなければ奪うしかない。理解し合うことはできない。この世界は、間違っている。

 

 

バイクに戻ったオートバジンのハンドルにミッションメモリーを入れ、引き抜き、ファイズエッジを起動させた。フォトンブラッドで赤く発光する刃をヒポポタマスへと押し付けると、超高熱がその体組織を焼き切る。

 

オルフェノクの体に慣れていないのか、その衝撃でヒポポタマスは人間の姿に戻ってしまった。しかし、ここで逃がせばアラタ達に危険が及ぶ。ファイズは彼を確実に殺すべく、エッジを振りかぶった。

 

 

「ファイズ!!」

 

 

人気のない街道に響いた叫びに振り返るファイズ。

灯りに照らされて見えたその正体は、土岐と彼の首根っこを掴んだ少年…ミカドだった。

 

 

「ファイズギアを不用心な場所に置いたかと思うと、夜な夜な土岐が持ち出した。何かと思って後をつけてみれば納得だ。土岐とファイズは繋がっていたというワケか。しかも昼間のファイズは正規の変身者ではなかったとしたら、ウォッチの件も飲み込める」

 

 

そう言葉を発するミカドの声は、確かに怒りが混じっていた。

ファイズの光は暗闇の中でもよく見える。その光に照らされ、ミカドの目に映っていた光景は、ファイズが生身の人間を襲っている光景だった。

 

 

「この時代は分かりやすくて清々する。どこを見ても悪しかいないのは慣れたものだ。何度だってこの手で殺してやるぞ、ファイズ!」

 

「知られた…っつうことか」

 

 

ヒポポタマスは人間の姿のまま逃走してしまった。

次から次へと現れる、平穏を乱す存在。彼らを今度こそ守るために、邪魔する者は全て摘み取るしかない。

 

これはそれぞれの生き方を正当化させる、それだけの戦いだ。

 

 

__________________

 

 

「もしかしてまだ引っ張ってる? あの補佐の子のこと」

 

「実に興味深い話が聞けそうだったのだがね。瀬尾特等には、今度お礼と称して加工前のクインケでも送り付けてあげるとしよう」

 

 

喰種の捜査の一環であるコンビニ店を見張りながら、真戸はそんな事を言った。その発言に焦るのは真戸のパートナーの篠原。

 

 

「ちょっと…確か瀬尾っちは潔癖って話でしょ。そんなもの送ったらついでに私がまた…」

 

「冗談だよ」

 

「出たよ、マッドジョーク…」

 

 

真戸はどんな話をする時も言葉の脈があまり変わらないから、冗談と本気が非常に見分けづらい。篠原の記憶に新しいものだと、職場に娘のリボンを付けて来て、おちょくっているのか本気で間違えているのか分からず困ったなんて事もあった。

 

 

「しかし、あの少年が気になるというのは本気だよ。篠原、もし彼が未来から来たと言ったら…信じるかね」

 

「今日の真戸は冗談多いね……」

 

 

真戸の言葉が冗談か否かが定まる前に、コンビニに足を運ぶフードの人物を視界に捉え、真戸と篠原の無駄口はスッパリと中断された。2人は人目を避けるように歩くその人物の前を、細い体と大きな体で意図的に塞ぐ。

 

 

「おやおや、こんな遅くに一人で外出とは不用心ですなぁ。一人娘がいる身としては、どうしても不安を煽られてしまい困ったものだ。クク…さて、樋下ミツルさん。ちょっとお聞きしたいことがあるのですが?」

 

「…“白鳩”、あぁまた…そういう事か」

 

 

真戸と篠原がクインケケースを構える。篠原が喰種捜査官の名前を出して辺りの人々を避難させ、事実上の戦闘開始の号令が発せられた。フードを被った人物、ミツルは真戸達がAレート喰種『パラポネラ』としてマークしていたのだが、反応で真偽を確かめる前に事態は展開を変えた。

 

喰種だと思っていた人物が、目の前でオルフェノクへと変化した。そして会話を挟まず小柄な身体から放たれる剛力の蹴り。不意を突かれた真戸が遥か後方へ吹っ飛ぶ。

 

 

「クク…まさか喰種とオルフェノクを見誤っていたとは。全く支部も雑な仕事をする。これは向こう数年の笑い草となる珍事だな」

 

「大分派手にぶっ飛ばされたけど、真戸平気!?」

 

「平気だ。防御に使ったクインケはやられ、体も骨が数本折れていそうだがね」

 

「平気じゃないねそれは。コイツは私がやるから、真戸はそこで大人しくしてなって」

 

 

篠原が起動した大型の鉈のようなクインケ、Sレート“尾赫”「オニヤマダ壱」。数年前に腕試しとして捜査官を大勢殺した「オニヤマダ」を篠原が駆逐し、手に入れたクインケだ。

 

 

「お前らも僕を“喰種”だと、そう思っていたのか? だったら死んでも仕方ねぇよなぁ。“人間”の僕を殺そうとして、僕を馬鹿にしたんだから…正当防衛だ!」

 

「人間ねぇ…悪いんだけどもしそうだとしても、立場上人を殺して回ってるような奴を放ってはおけんのよ!」

 

 

相手は人間、一撃噛みつくか突き刺すかすれば死ぬ。「オニヤマダ壱」を軽々振り回す恵まれたフィジカルはあるが速度が左程なら、パワー対決で篠原がアントに勝てる要素は無い。そう分析できるはずだった。

 

しかし、どういうことか、アントは攻めの姿勢を崩さない篠原を仕留めることが出来ない。動きが手堅く堅実、隙が全く見えてこない。一方的に狩るつもりが、じわじわと追い詰められていくような冷えた感覚が背筋を伝う。

 

 

「くっそ…なんなんだよオッサン! さっさと死ね!」

 

 

触腕を解放し「捕食態」へ。一気にケリを付けるつもりの動きだったが、やはり篠原の動きは鈍らず、膠着の末に「オニヤマダ壱」が触腕をぶった切った。

 

准特等捜査官、篠原幸紀。その強さは「しぶとさ」。彼は無数の戦いを潜り抜け、堅実に成果を上げ続け、後に“不屈のシノハラ”と呼ばれるに至る。

 

 

「悪いけど…こちとらそう簡単にやられるような、一朝一夕の鍛え方はしてないわけ。一応、正義の味方を名乗らせてもらってるからね」

 

 

アントの攻撃に余裕が消えた。単調化した動きの間を縫うように、後方から放たれた銃弾がアントの眉間を射抜く。真戸のクインケ「ライ」が火を吹いたのだ。

 

 

「おっとぉ、戦いに焦りは禁物だぞ? 灰色のクズが、我々を甘く見たな」

 

 

視界が掠れ、痛みが全身に渡り、迫りくる篠原を止めたくても身体が動かない。あと数秒であの鉈に体を真っ二つにされ、苦しみながら死ぬのが分かる。

 

喰種やオルフェノクを殺せる存在のどこが人間だ。生身で大鉈を振り回して化け物の肉を断つ存在のどこが人間だ。死体の臓器を改造して武器を作る存在のどこが人間だ。お前らだって立派なバケモノのはずだ。それなのに何故、居場所を持って正義面して幸せを享受している。

 

 

「不条理だ…! どうして、どうして僕だけがこんな…!!」

 

 

届くはずのなかったミツルの嘆きは、戦場を見物していた超常存在に届いた。振り抜かれた「オニヤマダ壱」は空振り、篠原の目の前に捉えていたはずのアントが影も形も無くなっていた。

 

驚いた仕草もなく暫く警戒していたが何も起きず、どうやら姿を消す能力ではないと判断。そうなると、時を止めて逃げ出したとでも言わなければ説明できない現象になってしまい、篠原が頭を抱える。

 

 

「本当に消えたっての!? さて、こいつをどう報告したもんか…」

 

「一先ずは喰種『パラポネラ』をオルフェノク『アント』に変更するよう、オルフェノク対策課の方に伝えておこう。レートはA程度で妥当だろうな。あとはあちらに任せるのがいいだろう」

 

「そういや真戸さ、クインケ壊れたってのは嘘? その感じじゃ骨折れたっていうのも」

 

「『オニヤマダ壱』の性能を落ち着いて見れるいい機会だと思ってね」

 

「本当勘弁してよ…」

 

 

消えたアントオルフェノクに、未知のクインケを持っていた少年。髑髏のような顔は虚空を見つめながら、立て続けに起こった奇妙な事象を脳内で総ざらいする。やはり明確な答えは出ないものの、真戸はまた不気味に笑んで篠原へ問いかけた。

 

 

「篠原よ。私がどうしてオルフェノクに関心が無いか、分かるか?」

 

「クインケ作れないからって言ってたろ? 違うの」

 

「オルフェノクとて人類の敵。必要とあらば尽力するのが筋だ。しかし、オルフェノクの件に関しては…()()()()()()()()()()()()()()()、そう思うのだよ」

 

「はぁ……」

 

「それに加えあの補佐の少年、『アント』…何か大きな我々には手に負えない存在、もしくは現象が動いている。全く具体性に欠ける推測だがね」

 

「なんか仰々しいね、その根拠は?」

 

「勘だ」

 

 

真戸の発言に、篠原はまたしても浮かない表情で頭を掻きむしる。

余りに適当な内容で呆れているのではない。真戸の勘というのは、往々にして的中するものなのだ。

 

 

___________________

 

 

確実にミツルの命を奪っていた篠原の一撃。それを透かした絡繰りは、隠す必要も無いタイムジャッカー アヴニルの時間停止によるものだった。

 

 

「二度目だ。これで吾輩は二度、貴公の命を救った」

 

「何が言いたいんだアヴニル…! 僕はお前の助けなんか求めてない!」

 

「そうか……いい加減弁えたらどうだ、吾輩の傀儡が」

 

 

時間が止まる。再開と同時にミツルの首に冷たい感触が生じ、それがアヴニルの仕込み杖の刃で、今まさに命の危機に見舞われていると理解するまで、少しの時間がかかった。

 

 

「吾輩の助けがいらない、大いに結構だ。ならば望み通りに見捨ててやろう。吾輩は打たれ強いのだ、貴公が使い物にならぬのなら、何度だって器を探すのみ! 違うか?」

 

 

ミツルが生きてこられたのはアヴニルのおかげ、それは認めざるを得ない。そしてこのまま何もしないのなら、ミツルはスマートブレインと〔CCG〕の両方から追われる身となり、常識の埒外にいる怪物達によって間違いなく殺される。

 

 

「だったら…何を求めるんだ、僕に。強さが欲しけりゃくれてやる、そう言ったよな! どんな事だってやってやる。僕はまだ死にたくないんだ!」

 

「上出来だ。貴公の選択は聞き届けた。高貴なる吾輩の名に懸け、貴公を王の玉座へと導こうッ! まずは力に相応しき存在へと『生まれ変わって』もらうとしよう」

 

 

アヴニルが指を鳴らし、再び時が止まった。

時間の冒涜者の計画は単純明快。この2003年の地に「隻眼の王」と「オルフェノクの王」を顕現させ、己の王とする。

 

そこに忠義は無い。己の野望のため、彼は傀儡の王を底なしの地獄へと叩き落とす。

 

 




三波麗花はCV早見沙織さん。今回出てきたキャラはオルフェノク以外は全て原作キャラです。そして瀬尾はクソ野郎です。草加から正義を引っこ抜いた奴だと思ってください。ていうかファイズ×東京喰種編に出て来る奴らに純正ヒーローはいませんね。

余計な犠牲を挟み、次回からミツルとミナトの話。そしてミカドの過去にもようやく触れるなど、核心に迫っていきます。名前にミが多い……

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