仮面ライダージオウ~Crossover Stories~   作:壱肆陸

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切風アラシ
仮面ライダーWに変身した少年。ボディサイド担当。18歳。育て親の切風空助が立ち上げた切風探偵事務所を受け継ぎ、相棒と共に探偵をやっている。普段はクールを表に出しているが、実際は感情豊かで特に怒りは分かりやすい。毒舌家だがデリカシーが無いだけで、他人を攻撃する意図は無い事が多い。仲間曰く「優しい」。元は事件の捜査で音ノ木坂の清掃員としてバイトしていたが、色々とやらかした末に初の男子生徒として編入。μ'sが9人揃ったのと同時に探偵部を(勝手に)立ち上げられ、マネージャー兼部長をさせられることとなった。アナザーダブルに殺されたことでWの歴史が消滅した。2009年では壮間と探偵勝負をし、その後はナギを打倒するためスクールアイドルフェスティバルに尽力。壮間の「相棒への信頼」を認め、Wの力を託した。修正された歴史では接客業に向いてないせいで中々職に就けず、血の繋がらない父の提案で「何でも屋」をやることにした。しかし職員募集でやって来た青年の怠惰具合が酷く、かなり苦労している様子。


明けましておめでとうございます。(1月12日)
昨年は応援ありがとうございました。今年も本作品をよろしくお願いします。

新年一発目はファイズ×東京喰種編クライマックス。ミカドとミナト、追われる身となった2人が出会います。少し東京喰種の新ゲストも登場。まずはミカドの過去(未来)から。


今回もタップorスライドで「ここすき」をよろしくお願いします!




[ Φ]

2068

 

 

「なぁミカド、もしかしての話をしていいか?」

 

 

小さく盛られた山を前にした殺風景。目を開き立ち上がった彼は、ふとそんな事を言った。声を掛けられた少年、光ヶ崎ミカドもまた、閉じていた眼を片方開いて次の言葉を待つ。

 

 

「いやちょっと待ってね。妄想の話するわけじゃないんだ。仮定、あくまで仮定の話。あらゆる状況に予め答えを決めておくのは有益なことであって…」

 

「まだ俺は何も言ってない」

 

「でも…『もし』なんて意味の無い話で時間は裂かない! なんてミカドは言いそうだから」

 

「毎度のことだが、一体俺を何だと思っているんだ(タスク)

 

 

彼の名は鳴瀬(タスク)。ミカドと同じくレジスタンスに所属する少年であり、今となってはミカドの唯一の友人と言える存在だ。少し前まではこの環にもう一人いたのだが、彼はもうこの小さな山の下で眠っている。

 

怪人に殺されたのだ。2人は喪った友人に最後の墓参りをしていた。レジスタンスはもうじきこの拠点を離れ、二度とここに足を運ぶことはできなくなる。

 

 

「…ここもいずれ怪人や仮面ライダーに荒らされるんだよな」

 

「だろうな…こんな時代に安息の地なんて存在しない。俺達は、死んだ友を安らかに眠らせることができないんだ。そんな腐った世界に生まれてしまった」

 

「俺さ、きっと死ぬまで忘れられないと思うんだ。アイツの最期の言葉、『生まれてくる意味なんてあったのか…』って。俺らは生まれた時から化け物たちに奪われるだけの命だった、アイツはそう思いながら、憎みながら死んでいったんだ」

 

「あぁ…だから俺は仮面ライダーを許さない。理不尽に力を振りかざす悪は、この手で全て殲滅する。お前も同じだろう」

 

 

タスクもまた地獄のような環境で育ち、レジスタンスに拾われたという。レジスタンスに来たばかりの頃からミカドと親しくし、友達の力になりたいと後方支援から前線に身を移してミカドをサポートしてくれた。ミカドもタスクのことを、志を同じくする親友と思っていた。

 

 

「そう…だよな。じゃあさ、ミカド……」

 

 

タスクは少し間を開けると、冗談めいた口調でこんな質問を吐いた。

 

 

「もし俺が、お前の言う『悪』になっちゃったらさ!……お前は……」

 

 

質問の意味は分かった。仮面ライダーはそもそも人間が変身した存在で、怪人も人間が変異するタイプのものがある。いつ誰が罪なき人々を襲う悪鬼になってもおかしくない、そんな世界なのだ。だからミカドは、間を開けずに即答を返した。

 

 

「あぁ、その時は俺が殺してやる。お前が人殺しになる前に」

 

 

_____________________

 

2003

 

 

夜が長い。そう感じたのは久しぶりだった。

〔CCG〕に見切りをつけ自力でアナザーファイズを探していたミカドだったが、見切りを付けられたのはミカドも同じ。ミカドが捜査官に追われる身となって数日が経過した。

 

 

「やってくれたなカイザ…やはりヤツを真っ先に殺すべきだったか…」

 

 

こうなったのは十中八九が瀬尾の仕業だが、本人は姿を見せないのが彼の根の卑劣さをよく表していて苛立ちが募る。あれがミカドの知る元来の仮面ライダーの姿なのだ、栗夢走大や朝陽のような例外が連なって感覚が鈍っていた。

 

恨んでいても状況は好転しない。今のミカドは昼夜問わず最優先で捜査官たちに追われ、生活すらもままならない有り様。ミツルを探して騒ぎを起こすなど以ての外だ。

 

 

「ッ…甘く見ていた。いや、早計だったというのか。何があっても〔CCG〕の立場を捨てるべきでは無かったとでも…? 馬鹿な……!」

 

 

判断を間違った、その結論を頭を叩いてふるい落とす。有り得ないのだ。オルフェノクを擁護し、あんなクズの仮面ライダーを上に置く組織の力に頼るなんて。

 

でも一つ、矛盾はあった。

 

2014年、木組みの街。ミカドが最初に訪れた過去のライダーの時代。そこで美しく眩しい湖の景色を見て、思ったはずなのだ。果たすべきは復讐に非ず、守るべきは人々の平和だと。アナザーファイズから市民を守るためには、例え汚れた組織でも利用すべきだったのではないか。

 

 

「違う……俺は間違っていないはずだ! 守るべきものだと…? この時代にそんなものは無い!」

 

 

少し夜を徘徊するだけで喰種やオルフェノクは見つかった。喰種は何食わぬ顔で日常生活に紛れ、いつ誰がオルフェノクになるかも分からない2068年に似た地獄。更にミカドをこうやって追い詰めているのは怪人ではなく人間だ。

 

小原鞠莉にも曝け出した本音。気に喰わず、受け入れられず、ミカドはこんな時代を守りたいなんて思わない。心の幹がガリガリと削れ、未成熟な本体が形を失う。

 

消えてしまう。そうならないために、ミカドが縋れるのは一つだけ。痛みを以て芯を通した『正義』だけだ。

 

 

「A+レートオルフェノク“インタラム”発見。駆逐に入る…」

 

 

箱を持った狩人がまたやって来たようだ。班と思われる複数の捜査官たち。そのリーダー格は腕に持つ螺旋のようなクインケで、生身のミカドを問答無用で殺しにかかる。

 

 

「インタラム…“暫定”か…! ふざけた名前だ。俺はオルフェノクじゃないと何度言えば伝わる馬鹿共が!」

 

「知らねェんだよ。文句なら死んでからクソ特等に言いやがれ」

 

 

クインケから放たれる電撃は容赦が無い。人を殺すかもしれないという恐れが薄く、それでいて手練れの捜査官。ただの人間がこれほど厄介だと、ミカドの心も更に揺さぶられる。

 

 

「そこまでだ“白鳩”、そいつは俺が貰う」

 

「…あ?」

 

 

人目に付かない戦いに乱入したのは仮面の男。ミカドと捜査官たちは喰種を想起した。しかし、その姿は視界の奥から一瞬で消え去り、次の一瞬には背後の空間に。

 

斬り裂くようなソニックブームを捜査官たちに残し、その男はミカドを攫って行った。

 

 

_______________

 

 

「何者だ!?」

 

 

ミカドに叫ばれる当然の疑問。男は雑に用意された小屋のような場所に着くと、仮面を外してミカドと向き合う。

 

 

「まず礼だろうが新人」

 

「荒木湊…!」

 

 

喰種の仮面を外したミナトは腰を下ろし、ミカドにも座るように促す。しかし帰って来たのは礼どころか全力の蹴り。慌てて避けるミナトだが、心当たりがないわけでも無さそうだった。

 

 

「…お前、眼がいいな。見えたか?」

 

「あぁ。さっきの一瞬、貴様の姿をハッキリと見た! やはりファイズ、貴様はオルフェノクか!」

 

 

捜査官を一蹴したあの力、ほんの一瞬だがその姿が変容していたのをミカドは確かに見た。敵意を剥き出しにはするが、薄々勘付いてはいたことだ。予想できた展開に、双方共激しく動揺するなんてことはしない。

 

 

「……何故助けた。オルフェノクが俺を…!」

 

「何故って、俺も今は捜査官に追われる身だし。似たような奴が困ってたら助けた方がいいだろ」

 

「ふざけるな! 誰が貴様らと同じだ!」

 

「でも分かったろ、追われる側の気持ちってやつがよ。今日を食い繋ぐので精一杯で、それ以外の事は望む余地もねぇ。生きるってだけで命賭けなきゃいけない生活だ」

 

「……そんなもの、とうの昔に分かっている。だからなんだ!? 貴様らバケモノに同情しろとでも言うのか! 逆だ! そんな未来を変えるために俺は戦うんだ!」

 

「誰のための未来だよ、それ」

 

「…人間に決まっている。貴様らを消し去った後に残った、力無き人々のための未来だ!」

 

「あぁそうか。じゃあそれでいいんじゃないか」

 

「誰がいつ貴様の認可など求めた!」

 

 

会話に一々噛み付くものだから、ミナトは面倒くさそうに視線を逸らす。こんな事なら助けなければよかったと思いたいところだが、ミカドを探していたのは用があったからだ。ミナトは雰囲気を変えないまま本題に移った。

 

 

「…話っていうか、なんで今こうなってるのかは大体把握したつもりだ。俺がオルフェノクを庇ってるって誰かが漏らした。お前だろ、新人」

 

「…それがどうした。あの男は真面目に取り合うどころか、その疑いを俺に向けたがな」

 

「ミツルの事だよ。お前、どこで知った? アイツは今どこで何してる」

 

「それを知るために動いていたのを捜査官や貴様が邪魔をしたんだ!」

 

 

ミカドの過熱な反応で、彼がミツルの現状を知らないのは分かった。それに落胆したような、安心したような、自身でも処理できない感情をミナトは顔に浮かべた。

 

 

「殺すのは待ってやる。貴様がヤツと同じ孤児院にいたのは知っているんだ! 教えろ、『ミツル』は何処だ!」

 

「…知ってたら聞かねぇだろ。でもお前、ミツル探して何する気だ?」

 

「殺す! ヤツはこの先15年に渡って甚大な被害を生み続ける怪人だ! 俺はヤツと、貴様を殺すためにこの時代に来た! 邪魔をしたいのなら今すぐ変身しろ…どちらにせよ貴様を殺すことに変わりはない!」

 

「しねぇよ、邪魔は。ミツルが……死ぬべきなのは分かってるし、ミツルをそうさせた俺も死ぬべきだ」

 

 

ミナトから飛び出したのは予想外の反応だった。身内だから庇うのだと思っていたが、帰って来たのはもっともらしい正論。正論だからか、それをミナトが言っているのがミカドは受け入れられない。

 

 

「でもまだ死ねない。俺はまだやる事があるんだ、だからお前も俺を殺すな」

 

「……それらしいことを言ったと思えば、やはりただの命乞いか」

 

「別にここで騒いでもいいが、まだその辺を捜査官がうろついてる。俺を殺す前に邪魔が入るって話だ。お前はまだ俺を殺せないし、俺もお前を殺す気は無い」

 

「このままずっと睨み合えと? 俺は貴様を逃がす気は毛頭無いぞ…!」

 

「どうせ膠着してるなら一つ聞かせろよ。お前さ、どうやって死にたい?」

 

「…何だと?」

 

「死ぬまでに、どうやって生きていたいか。って話を聞いてんだよ」

 

 

悪辣に聞こえた質問だが、ミナトの口調は冷静だ。不意に投げられた質問というシチュエーション。どんな時もお茶らけた態度を見せていた友人と対照的に感じてしまった。

 

隣に誰もいない日々を経て、蒸れた感情を意味もなく、ミカドは思わず吐き出した。

 

 

「……意味などあるものか」

 

「……」

 

「何を思って生きようが、幸せを願って夢を見ようが…見知らぬ悪意に踏みつけにされて潰える。奪われて消える…それがこの世界だ! まずは世界に蔓延る悪を消し去らなければ、人の命に意味など生まれない!」

 

 

ミカドの友の一人は、生きた意味を見いだせないまま死んだ。もう一人の友……タスクも同じだった。

 

 

________________

 

 

2068年には一人の『王』が存在する。だが『王』がやったことは世界に力をばら撒いた事だけで、それらが各々大きく成長し、多種多様な悪意が世界を取り合っている。それが未来の概略図だ。

 

その悪のうちの一つ、「スマートブレイン」。2003年に存在するものとは恐らく別物。未来のスマートブレインは、優れた技術で仮面ライダーや兵器を量産。オルフェノクを改造して使役。そうやって一国に匹敵する支配力を手にした勢力だ。

 

レジスタンスはそこから対怪人のテクノロジーを盗んでいた。ファイズフォンⅩもその一つ。いずれ『王』を倒すために更なる技術をスマートブレインから奪う、それがタスクと共に行った最後の任務だった。

 

 

「俺がいなくても平気? 不安じゃないか、ミカド?」

 

「馬鹿にしているのか。平気だ。お前もお前の任務を抜かるなよ」

 

 

技術関連の知識があったタスクはデータを盗む部隊。その間に施設内の制圧をするのがミカドのいる部隊の役割だった。敵はオルフェノクの集団、そう見積もっていたレジスタンスだったが、その中には仮面ライダーも混ざっていたのが大きな計算違いだった。

 

 

「Hey! 罠にかかったネズミが大漁だ。ちゃーんと遺書とか書いてきたのかい?」

 

「……悪いが書く相手がいない。貴様らに全て奪われたからな!」

 

 

ミカドの部隊の前に現れた、白い体に青いラインの仮面ライダー。「天のベルト」で変身した『仮面ライダーサイガ』が、その場にいる人間の数を数え、短く切った笑いを上げた。

 

 

「Go to…Hell!」

 

「撃て!!」

 

 

隊長の号令で、サイガに向けて一斉に発砲。戦闘が始まった。

天のベルトの力は凄まじく、並みの仮面ライダーを軽く凌駕していた。そんな相手に対し装備は余りに不十分で、レジスタンスは多数の犠牲者を出しながら敗走を余儀なくされた。

 

悪意から成るものだろうか、被害が甚大だったのは戦闘隊ではなく、情報を盗んでいた隠密行動隊の方。生存者はただ一人、タスクだった。

 

 

「いつまで経っても慣れないな、また仲間が大勢死んだ…! だが……タスク。お前だけでも生きていてくれて、どこか安心してしまっている。よく生きて帰ってきてくれた」

 

「……ミカド…」

 

「討たれた仲間たちの仇は必ず取るぞ。仮面ライダー、怪人…醜い悪を駆逐し、50年前の世界を取り戻す…!」

 

 

ミカドは一人残されたタスクにそんな言葉をかけた。

だが、いつものような軽い返答はなかなか帰って来なかった。タスクはミカドの方を見ないまま、口を開けたかと思うと、やはり言葉を出さず下を向く。

 

 

「……なんでもない。あんま無茶するなよ、ミカド…」

 

 

あの時、タスクは何を思っていたのか。今のミカドにも上手く想像できない。ただきっと、この時にもう何もかもが手遅れだったのだろう。

 

次の日からが真の地獄だった。待ち受けていたのはスマートブレインの報復。

疲弊したレジスタンスを、スマートブレインはライオトルーパーとオルフェノクの大群を使って一方的に追い込んだのだ。

 

 

「Rock on…みっけ♪ 久しぶりだねえhuman boy」

 

「サイガ…!」

 

 

ミカド達が潜んでいた場所に現れたのは髪の長い軽薄な青年。口調と立ち振る舞いから間違いなくサイガの変身者だ。彼はオルフェノクになることもなく生身のまま人間達を圧倒し、すれ違いざまにミカドの顔面を張り倒したかと思うと、倒れたミカドの上に腰掛けて脚を組んだ。

 

 

「貴様ァ…っ!!」

 

「んー、missing? Hey you あの生き残りのboyは?」

 

「ッ…! タスクに何をする気だ…!!」

 

「Oh…ハッ! You're kidding! まさか気付いてなかった!? あのboyが偶然運よく生き残ったとでも!?」

 

「な…っ…!?」

 

 

イイこと思いついたと言わんばかりに微笑むと、男はミカドを蹴り飛ばして立ち上がった。ミカドはその意図から目を背け、手を振る男を無視して走った。その先は言うまでもなく、タスクの所だ。

 

 

息を切らし、ミカドがそこで見た物。それは炎に囲まれた灰の山。そして、それを前にして佇むのはただ一人。クラゲのオルフェノク。

 

いや違う。信じたくなかっただけだ。見間違うはずもないのに。一挙一動が、そこにいるという事実自体が、その正体を物語ってしまう。

 

 

「タスク………!?」

 

 

オルフェノクの影が、成瀬丞の姿を映し出す。

タスクは生き残っていたんじゃない。一度死んで蘇っていたのだ。灰色の体は血に塗れて、今にも絶えそうな息でミカドに歩き寄る。共にいたはずの仲間はどうした、そんな疑問は聞けない。

 

タスクが殺したと分かってしまったから。

 

 

『あぁ、その時は俺が殺してやる。お前が人殺しになる前に』

 

 

ミカドはファイズフォンⅩをタスクに向ける。対オルフェノク用に強化された銃弾は、今の彼のような手負いのオルフェノクなら即死させることができる。

 

何もかもが遅かった。あの時に気付けていれば。

 

 

(気付けていれば…なんだ? お前を、人殺しにはさせずに済んだのか…!?)

 

 

いいやきっと違うのだろう。気付いていたとして、果たしてミカドは殺せたのか? 怪人を全て殺すという正義を友にも向けられたか? 現に今、ミカドはその引き金を引くことが出来ずにいるのに。

 

声が上擦る。顎が震える。視界が狭まる。心音が鼓膜に張り付く。殺さなければいけない。これ以上の被害を出さないように。これ以上タスクを苦しませないように。自分達が望み、命を懸けた、平和な未来のために───

 

 

「うあああああああああああっ!!」

 

 

指が境界を超えた感触。

赤い光が瞬く。もうそこにまで近付いていたタスクの体が、ミカドに倒れ込んだ。

 

 

「ミカ…ド……?」

 

 

急所を外してしまった。最後の最後まで躊躇があった。

だがもう、タスクの死は免れない。

 

 

「だよなぁ…やっ、ぱ…お前だよ…なぁ……」

 

「っ…タスク…!」

 

「なぁ…なんで…こうなったんだろーな……俺、は…こんなに誰かを救いたかったのに…皆に生きて欲しかったのに…俺は……なんで生きちゃいけないんだよ…ッ!」

 

 

掛ける言葉を探す前に、タスクの体は灰になって崩れ落ちた。

 

炎の中で乾いた体を震わせて、ミカドは絶叫した。友を守れず、苦しませてしまった。ミカドは己の正義に従い、ただ一人の友を殺してしまった。

 

なんでこんな目に遭わなければいけない。誰かのために戦い、優しかったタスクが、よりにもよって怪人として死ななければいけない理由はなんだ。そんなもの、この世の何処にもあるはずがない。

 

世を占める理不尽。それに対する怒りを超え、激しい憎悪がミカドを満たした。

 

 

「It's so emotional! and…checkmate♪」

 

 

タスクの死を見届けたサイガが咽び泣くミカドの背後を奪い、脳天に指先が触れた。

 

憎悪で何かが変えられるのなら、世界はとうに変わっている。いくら恨んだ所で、ミカドは背後にいるサイガに立ち向かう術がない。

 

殺意が砕けた心を凝固させ、ミカドの網膜が正義以外を捉えなくなった、そんな死の寸前。

 

 

ミカドの時間が、世界の時間が止まった。

世界に侵入してきたその存在は、ミカドにこう告げたのだ。

 

 

「貴様、ボクの王になると良い」

 

 

_____________

 

 

「喪った友のため、俺はもう引き下がることはない。俺が未来を変える! それが…アイツらの生きた意味になるはずなんだ…!」

 

「なるほどなぁ。そいつもまぁ、正しいのかもな」

 

「貴様に判断される筋合いは無い」

 

 

ミカドの言葉を聞いて、ミナトは少し彼という人間について腑に落ちた。まるで一瞬たりとも速度を緩めず、全力疾走を続けているような生き方。一つに定めたゴールに全てがあると信じ、そこに辿り着ければ自分はどうなってもいいと思っている。

 

その気持ちは分かる。自分に意味を見出せなくなったのはミナトも同じだ。

 

 

「…俺は、正しい生き方を探してる」

 

「なんだと…? 馬鹿な。オルフェノクが何を言う!」

 

「わかってるよ。俺はもう今更、正しくなんて生きられない。でも…もう正しくなれなくても、探すことはできる。そうやって見つけた生き方で、苦しんでる誰かがちゃんと生きられるようになれば…そうやって生きるって決めたんだ」

 

「誰か…それは貴様のようなオルフェノクか?」

 

「そうだな。あとは…人間も、喰種もそうだ」

 

「……馬鹿馬鹿しい!! 正しく生きるだと!? オルフェノクが、喰種が!? 人を襲いたくない。平和に生きたい。それで見逃して何になる!? 未来が何か変わるのか!? いいや変わらない! 殺して、消し続けて、根絶やしにする事でしか何も変わらないんだ!!」

 

 

怪人だけど心優しい。だから助けるべき。反吐が出る。

だったら何か? 怪人の力に溺れたタスクが悪人だったという訳か? 心優しき存在を助ける崇高な理想の前では、友を手にかけたミカドの行為は無意味だったとでも言いたいのか?

 

平和になんて生きようとするんじゃない。人を脅かす悪であり続けろ。お前達は、そうあるべきだ。

 

 

「今更正しそうな面なんてするな! 貴様らが間違っていないのなら! 俺は…何を憎めば良かったんだ!? 俺の家族は仲間は友は…何に殺されたと言うんだ! 何を主張しようがもう遅いんだよオルフェノク! 俺はもう殺した。もう……引き下がれない!」

 

 

感情を叫んでファイズフォンⅩの銃口をミナトへと向ける。

蘇る未来の記憶。緊張する呼吸を抑え、ミカドは冷静になって銃口を下げた。

 

ここで殺したとしてミツルの居場所が分かるわけじゃない。ミカドはこれ以上感情に駆られ、悪手を取るわけにはいかないのだ。

 

 

「…なんか、お前といると出来の悪い弟持ったみたいだ」

 

「何を…!」

 

「わかった、じゃあミカド。お前、俺を殺せ。でも今じゃない。その時を選ばせてくれるんだったら、ミツルを探すのに協力してやる」

 

 

条件だけを見れば願っても無い申し出だ。しかしこれを飲むには、「大人しく殺される」というミナトの言葉を信用しなくてはいけない。

 

 

「……信用したわけじゃない。俺は必ず貴様の首を掻っ切る」

 

「真面目なんだな」

 

 

________________

 

 

ミナトが妙な行動を起こさぬよう、背後を取るのは常にミカド。信用していないと言い続けるように一瞬たりともその目を離さず、2人は共に行動するようになった。

 

 

「真戸上等からミツルは喰種として追われてたって聞いた。まぁ無理もない話だ、生き方が似てるからな。アイツのやってる事は見当が付くし、それなら人間に聞くよりいい方法がある」

 

 

そうして足を運んだのは4区。人の気配がする寂れた地帯に立ち入ると、真っ直ぐ一つの建物に向かって扉を叩く。

 

 

「いるか、ウタ」

 

「ん…ミナトくん。元気だった?」

 

 

出てきたのはピアスにファンクな服装の攻撃的な雰囲気の青年。それらの社会性に欠けた見た目を差し置いて警戒心を煽るのは、その目だった。黒い眼玉に赤い瞳が常に晒されており、極めつけには右手でつまんでいる人間の眼玉。疑う余地もなく喰種だ。

 

 

「喰種から聞き出す気か…!?」

 

「へぇ、そっちの男の子は人間だね。差し入れ?」

 

「違う。ちょっと色々あって話が聞きたい。あと、物を借りたいんだ。イトリを呼んでくれ」

 

「なぁんだ…まぁいいよ。なんか面白そうだし」

 

 

喰種の所に連れて来られるのも慣れてきてしまっている自分がいる。ミツルの所に辿り着くまで、ミカドはどれだけ悪に頼らなければいけないのか。己の不甲斐なさに嫌気がさす。

 

 

「なになにウーさん? おっ、ミナっちゃんじゃーん! そっちの人は? 差し入れ?」

 

「だから違う。喰種で情報通ならお前だろ、教えて欲しいことがある」

 

 

奥からまた女の喰種が増えた。彼女がミナトの言っていた「イトリ」だろう。時間を惜しむようにミナトは開口一番で本題を切り出した。

 

 

「喰種みたいなオルフェノク、心当たり無いか。喰種やオルフェノクを一人で狩り回ってる蟻のオルフェノクだ」

 

「あー、知ってる知ってる。ちょっと前に4区にも出たわよ。ウーさんが会ったって」

 

「最近のそいつの動向を知らないか?」

 

「ミナっちゃんには借りがあるし、タダでいいんだけど…あんまり最近は聞かないしねぇ。喰種みたいなオルフェノクって言えば、凄い話は聞いたけど」

 

「凄い話…?」

 

「そ、赫子を使って“共食い”するオルフェノク」

 

 

そのワードにミカドの形相が変わった。

この時代に来て知識を得て、「喰種でありながらオルフェノク」という存在がどれだけ有り得ないのかを知った。そんな存在が、そうそう複数もいるはずがない。

 

 

「そいつだ! 俺が探す『ミツル』は! 吐け喰種、そいつの情報を!」

 

「待てよ馬鹿、落ち着け。ウタもいるんだ。戦いになったら死ぬぞお前」

 

 

このアジトには屈強な喰種が複数。何より「ウタ」の強さは見るだけで別格と感じる。やはりここは殺意を圧し留め、ミナトの話の流れに乗るしかないようだ。

 

ミナトがイトリからその情報の仔細を聞き出すと、長居する素振りもなく席を立った。「借りもの」を受け取ったミナトが、最後に一つだけウタに質問をする。

 

 

「蓮示はまだ4区に?」

 

「そうだね。今はぼくが一発勝ち越してる」

 

「戦績を聞いたんじゃないんだけどな。ま、蓮示のことは頼むよ」

 

 

ミツルの情報は得た。早々にミカドの目標は達成された。ミナトとの短い協定関係もここまでと言いたかったが、その前にミナトの問いが投げられた。

 

 

「お前がミツルの今を知ってた理由は聞かねぇけどさ、お前が知るミツルは…何をしたんだ?」

 

「理由が無いなら殺すなと言いたいのか。残念ながらヤツは誰も庇いようのない悪だ。ヤツは……!」

 

 

喰種を集めて人間を喰らう謝肉祭を仕切っていた。それは、喰種を絶滅させるため。結果を見ればそれはミカドの理想であることに、ミカドは気付いてしまった。

 

 

「……罪なき人間を大勢喰った。勇敢な捜査官を殺した!」

 

「そうか。お前も酷い目に遭ったんだろ。悪かったな…そいつも俺のせいだ。俺があの時、ミツルの手を取れていれば…きっとこんな事にはならなかった」

 

 

ミナトのファイズフォンがメールを受け取った。土岐からだ。土岐がなんとかして手に入れた喰種捜査の情報が、ミナトに届けられたのだ。それによると、もうミナトに残された余裕はそれほど残っていない。

 

 

「俺はやらなきゃいけない事がある。ここで別行動だ」

 

「それを俺が信じると思うのか」

 

「監視でもなんでも付けろ。お前は……ミツルを探しに行くんだろ。急げよ」

 

 

何故ミナトがこんなにも協力的なのか。その答えを探すことも無いまま、言われた通りにタカウォッチロイドを監視につけ、二人はそこで別れることとなった。

 

 

「ミカド」

 

 

別れる寸前に、ミナトがミカドを呼び止める。だが律儀に振り向いたりはしない彼に、ミナトは聞こえなくてもいいと言葉を続けた。

 

 

「ずっと怖かった。いつか誰かを傷付けてしまうんじゃないかって。お前なら……俺を終わらせてくれる」

 

 

気付けばミカドはいない。一人になったミナトはメールを見返す。

正しい生き方を探して、ミナトは喰種やオルフェノクと接しながら、捜査官とも繋がりを持った。それぞれの場所で立場を隠しながら。当然、そのせいで自分が接した誰かに危険が及ぶ可能性は理解していた。

 

だから心に決めていたのだ。もしそうなってしまった時は、自分の命を使って守り抜くと。

 

 

「行くか……」

 

 

オートバジンに跨って、向かった先は14区の所定のポイント。こんなこともあると考え、かなり前からこのプランは考えていたのだ。そこは、SSレート喰種「骸拾い」───霧嶋新がよく死体探しに行く場所から最も近い、喰種捜査官がパトロールをするポイントだ。

 

ここなら捜査官のマークの範囲内で、不自然ではない。

ミナトは捜査官の存在を確認すると、先回りしてウタから借りたソレを手に持った。

 

 

「…? そこの君、どうし……っ!?」

 

 

妙な素振りを見せていたミナトを見つけ、声を掛けた捜査官が驚愕した。その手に持っていたのは、引き千切られた人間の腕だったからだ。

 

 

「喰種!?」

 

「…いいや、違うな。知らねぇか? 人喰いの怪物は喰種だけじゃねぇんだよ」

 

 

ミツルに何があったのかは知り得ないが、こういう意味では幸いだった。おかげでミナトの行為に説得力が出る。

 

ミナトは手に持った腕に噛み付き、咀嚼した。

気持ち悪い。不味いとかの次元ではなく、ひたすらに嫌悪感が精神を舐る。この眩暈がするほどの禁忌の臭いを、食感を、味を、一つも残さずに吐き戻してしまいたい。

 

だが、その全てを呑み込んでミナトは鋭い双眸を捜査官に向ける。

 

戦う手段にファイズギアは使えない。アレは今、20区支部が回収したことになっているから。もし使えば土岐が責任を取らなければいけない。

 

これが己以外の全てを守るため、己を捨てたミナトの決断。

ミナトの顔に紋様が浮かび上がり、市街地にまで届く咆哮と共に肉体が隆起する。触れるもの全てを傷付ける逆立った鱗と、眼前の全てを威嚇する鋭い牙が生え揃い、ミナトの真の姿───シャークオルフェノクが姿を晒す。

 

 

「覚えておけ…俺が人喰いのオルフェノク。俺が……『骸拾い』だ!!」

 

 

出くわした捜査官のうち、一人はクインケを展開した。「骸拾い」の情報が回り、本部局員が配備されていたのだろう。それも今となっては好都合。

 

シャークは弾丸のような速度で距離を詰めると、まるで水中にいるかのような無重力な身のこなしで、捜査官の一人を蹴り飛ばす。もう一人のクインケの一撃も易々と見切り、腕を掴んで傍の壁に叩きつけた。

 

 

「仲間を呼べよ。全員纏めて皆殺しにしてやる」

 

 

ミナトが描く歪なシナリオ。

喰種「骸拾い」に成り替わり、捜査官を襲い続け、徐々にここから活動圏を遠ざけることでアラタたちから疑いを遠ざける。あわよくば「共食いのオルフェノク」らしいミツルの疑いも全て請け負い、それらの正体が全て荒木湊に収束したところでミカドに殺させる。そうすればミカドは危険なオルフェノクを討伐した功績で、今の立場から脱却することもできるはずだ。

 

ミナトはずっと死にたかった。でも生きているうちに何かできるんじゃないかと、命にしがみついた。そんな自分が心から嫌いだった。だから生きた意味として、最期は誰かのために死にたいと思っていた。

 

 

(ミカド、お前の正義ってやつは俺とは違う。俺は喰種もオルフェノクも、優しいやつは皆生きて欲しいって思う。でも……)

 

 

正しい正義はない。正義に優劣はない。どんな正義を選んでも理不尽に誰かが犠牲になり、死の場所がすり替わるだけ。第一、何が正しいかなんて偉そうに選ぶ権利はミナトにはない。

 

 

(世界のために、大切な奴のために戦える優しい奴に…俺は生きて欲しいんだ。お前ならきっとたくさんの命を救えるから…俺なんかよりも、ずっと)

 

 

ミナトの思惑通り、徐々に増援の捜査官が集まり始めた。

命を捨てるのに覚悟すら必要ない。ここで派手に暴れれば捜査の目は一気にミナトというオルフェノクに向けられるはずだ。

 

シャークオルフェノクは腹の底から雄叫びを上げ、捜査官達に戦いを挑む。

 

 

 

 

「ばぁっ」

 

 

 

落下する声が。見上げると視界いっぱいに広げられた、血管の巣。

 

ミナトが殺さないようにしていた捜査官たちが、それの着地と同時に切り刻まれた。生臭い雨が降りしきるアスファルトで、それは舌を出してステップを踏む。

 

 

「お ひ さしぶり。みーなとっ、ひひひひひひゃはははははああああああああああっっ!!!」

 

「…ミツル」

 

 

どちゃどちゃと肉の道を踏み潰しながら、変わり果てたミツルがミナトに駆け寄った。赤い右目と、あの日自分たちを絶望に落とした喰種と同じ赫子。

 

 

「どうしたんだよ…お前…」

 

 

散文的に、ミツルに何が起こったのかはなんとなく理解できた。話にも聞いていた。それでもそれしか言えなかった。

 

 

「ずーー-っとみてたよ。うん、見てた。聞いたよ。だれかしらない喰種なんかのために。今、死のうとしてるんだろ。なんで? ミナト、僕のことは助けてくれなかった癖にさあああああ!!!」

 

「……っ…!」

 

「ねぇ。覚えてるだろ。おぼえてなきゃいけないんだよ。あの時、あの日、あの夜、新しい家が燃えた。死んだのは……()()()()

 

 

「やめてくれ」と、図々しくも思ってしまった。そこだけには触れて欲しくない。ミナトの願いはもちろん届くことはなく、ミツルは手術中にアヴニルから真実を聞かされていた。

 

 

「ミナトも僕をうらぎったんだ。父さんや、ほかの奴らといっしょだ」

 

「違う! 俺は…本当に、お前だけは救うつもりだったんだ! 約束を破ったのはドナートだ! 俺はずっと……お前を助けたくて……!」

 

「…じゃあなにしてたんだよ!」

 

 

ミツルの姿がアントオルフェノクに変わり、呂律の回らない怒号を倒れたミナトにぶつけた。砕けてしまうくらい歯を食いしばり、発散しきれない感情がミナトの首を絞める。

 

 

「僕がオルフェノクになったあと、何してた!? 僕が死にそうになってたとき何してた!? 僕が捜査官に狙われて、クソ医者に連れてかれて、切られて、刻まれて、入れられて、掻きまわされて、飲まされて、浸されて、犯されて、なんどもなんどもなんどもなんどもなんどもなんども殺されたとき!! お前はなにしてたんだよ!! 僕を助けたいなら…………なんでたすけにきてくれなかったんだ!!!!」

 

 

あれからミツルと会わなかったわけじゃない。ただ、その時はもうミツルは自分を守るためなら人殺しも厭わなくなっていて、どう接すればいいか分からなかった。ミツルを肯定する手段がわからなかった。また間違えてしまいそうで、怖かったんだ。

 

アントオルフェノクの右目が真っ赤に濁り、悍ましい様相の赫子がミナトに伸ばされた。

 

ずっと、またこうしてしまう気がして怖かったんだ。

その時ミナトは、ミツルの姿に怯えてしまった。

 

 

「───また、その目だ」

 

 

 

あの日、ミツルだけが喰種に焼き殺された。そしてオリジナルのオルフェノクに覚醒し、襲い掛かる喰種をミツルはオルフェノクの力で撃退した。

 

 

『…大丈夫、ミナト兄ちゃん?』

 

 

ミナトを守ってくれたのは分かっていた。でも、あの時は。喰種のようなその姿が、喰種に対する残虐な攻撃が、変わり果てたミツルの姿が、怖いと思ってしまった。

 

だから、あの時に差し出された手を、ミナトは取ることができなかった。お前はもう人間じゃないと、そう突き付けたのはミナトだった。

 

 

『なんで……なんだよ、それ……!』

 

 

父に裏切られ、受け入れてくれると思っていた兄に裏切られ、世界に何も無くなったミツルは。その力でミナトを抑え付け、その牙でミナトを噛み殺した。

 

その時、仲間が欲しいという本能か、ミツルはオルフェノクエネルギーを注入していた。そして幸か不幸か、ミナトは使徒再生を果たし、オルフェノクとなったのだ。

 

 

 

そして現代。あの日と同じようにアントオルフェノクの牙がミナトの首に突き立てられ、耳の近くで肉が抉れる音がした。漂う血の芳香、眼が眩む激痛と共に、何かが自分の中に流れ込んで来るのが分かる。

 

 

「僕の毒、つよくなったんだ。その毒はオルフェノクとしての力を強くする。ミナトもさぁ……僕とおなじになれよ」

 

 

オルフェノクになってしまってから、ミナトはその本能に苛まれた。四六時中、耳を塞いでも聞こえる声が囁くのだ。「殺せ。誰彼構わず殺せ。人間をやめろ」と。

 

誰かと一緒にいると殺してしまいたくなる。特にドナートや放火の喰種への憎悪で、喰種に対する声は更に大きかった。だから人を襲う喰種やオルフェノクを殺して殺意を発散し、その殺しを正当化した。アラタやトーカ、アヤトと接する時も、昂る殺意を痛みで掻き消し、平然を装っていた。

 

 

ずっと怖かった。善意で自分に触れてくれる誰かを、傷付けてしまいそうで。信じてくれる誰かを裏切ってしまいそうで。でも独りで死にゆくのが怖かったから、本能に蓋をして間違った道を歩んだ。

 

 

その本能が、無視できないほど大きく膨れ上がる。抑えきれないほど暴れ狂う。理性の枷が外れ、殺意の衝動に意識が埋もれていく。

 

そして、自分じゃない叫びが喉から垂れ流され、かつて理性や理想と呼んでいたなにかは、ミナトの中から消えてなくなった。

 

 

__________________

 

 

 

「随分と派手に動くな…これが日陰の怪人の行動か?」

 

 

喰種捜査官の目には留まらないよう、イトリから得た情報通りに現場を確かめるミカド。どれも随分と滅茶苦茶に暴れた形跡が残っており、率直に言って見るも無惨な有り様だった。

 

しかも短期間にかなりの距離を移動し、同じように暴れている。これではむしろ誰かに見つけて欲しいと言っているようなものだ。

 

ミカドが妙だと勘繰っていると、タカウォッチロイドが異常を伝えに戻って来た。その自律AIの慌てようから、何か相当な事が起こっていると見て取れる。

 

 

「ファイズ……! クソ、何が起こったんだ!」

 

 

タカウォッチロイドが導くのに従い、ライドストライカーで現場に急行する。しかし、ミカドは自分でこの展開が予想外だと心の何処かで思ってしまっていた。

 

これまで出会って来た過去の仮面ライダーと同じように、ミナトが信用を裏切るような行為をするとは思えなかった。他人と干渉し、難儀な方向に舵を切り、他者の事を想って戦う存在。日寺壮間もそうだ。瀬尾や未来の仮面ライダーとは根本から違うと、認めざるを得ないのだ。

 

だからと言って殺さないわけじゃない。タスクを殺してしまった今、タスク以外の誰かを許すことは無い。どんな善人だろうが悪にならない保証はないのだから。

 

そう理解していたつもりだったのに、ミカドはやはり信じられなかった。駆け付けたその場所で、シャークオルフェノク───ミナトが暴れているのだ。

 

 

「…ふざけるなよ」

 

 

その姿は間違いなく、あの一瞬で見たミナトのオルフェノク態。でも、そうだとしても、何故あんな理性を忘れた形相で暴れている。一体何が彼を狂わせた。

 

シャークの視線が無機物から逃げ遅れた市民へと向いた。一気に加速し、殺意を剥き出しにする身体を、割り込んだミカドが身を挺して食い止める。

 

 

「何をしているファイズ!! 正しい生き方だなんだと、高説を垂れ流していたのは嘘だったのか! 曝け出した罪の意識も…信頼したような目も! それを真に受けて反発する俺を見て心で笑っていたのか! 答えろ!!!」

 

 

答えは返ってこない。唸り声だけが響く。

ミナトはオルフェノクで、殺すべきだったはずだ。でも、タスクと同じだと、そう思ってしまって、自分でも分からない言葉を吐き連ねてしまった。

 

 

『ずっと怖かった。いつか誰かを傷付けてしまうんじゃないかって』

 

 

背中で聞いたミナトの言葉が、ここに来て蘇る。

ミカドはもう自分の正義の居場所が分からない。でも、きっとあれは本心なのだろうと、そう思えた。今こうして暴れているのが本心じゃないのなら。望んだ最期も得られないのなら。まだ間に合う、彼が生きた意味が無くなってしまう前に

 

 

『あぁ、その時は俺が殺してやる。お前が人殺しになる前に』

 

 

「……望み通りここで終わらせてやる。ファイズ、俺は……お前を殺す…!」

 

 

 

 




ミカドとミナトの原罪が明かされ、次回で決着&エピローグです。ミカドは最後にどんな結論を出すのでしょうか。ミカドの信念がもうグラグラですが、ラスト一話気張りましょう。

ちなみに、今回のメールで土岐の出番は終わりです。

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