仮面ライダージオウ~Crossover Stories~ 作:壱肆陸
仮面ライダーWに変身した少年。ソウルサイド担当。16歳。ガイアメモリ流通組織でメモリを開発する幹部だったが、「白い夜」事件をきっかけに記憶を失い切風探偵事務所に引き取られた。極度の面倒くさがり屋のオタク系引きこもりニート。口癖は「面倒くさい」。「地球の本棚」と接続できるが、面倒くさいから依頼以外で滅多に使わない。ファングの事件で記憶を取り戻してからは不変の身体となり、償いとして永遠に戦い続けることを決意した。2009年では壮間と探偵勝負をし、その後はナギを打倒するためスクールアイドルフェスティバルに尽力。壮間の「他者への誠実」を認め、Wの力を託した。修正された歴史でも永斗の予測に反して存在しており、面倒くさかったという理由で警察を一週間でやめた(逃亡した)後、「何でも屋」の求人を見つけることとなる。
1月も半分を過ぎました、2022年もあっという間なんじゃないかと怖いですね。146です。今回は東京喰種×ファイズ編、ラストバトルとエピローグ。湿度とか色々違った物語の結末をご覧ください。
あと活動報告で色々募集してます。DMでもオッケーです。お待ちしております。
今回も「ここすき」をよろしくお願いします!!!
「顔の割れた子供一人捕まえるのに時間をかけ過ぎだ……これで人員配備を見直さないようなら無能で形容できるレベルではないな」
ミカドがオルフェノクであると吹聴し、ミナトに関する嫌疑をリークし、それを聞きつけた形で彼らを捕らえるように命じてから数日が経過。未だに成果は出ず、瀬尾は隠す気もなく苛立っていた。
未知の4つ目のベルトを手中に収めれば、得体のしれないスマートブレインに対する対抗力に成り得る。そのついでに自分に従う気の無い邪魔で優秀な2人を排斥できれば儲けものだ。今後も平穏に生きていくため、瀬尾は盤上の手駒を整理する。
「瀬尾特等。ご報告が」
「光ヶ崎ミカドと荒木湊を捕らえた。それ以外の報告をする気なら、口をつぐんでさっさと消えてくれるかな。さっきから毒にも薬にもならない情報ばかりで気が狂いそうなんだ。とりあえず何かを伝えて仕事をしている気になろうとしているんだろうね。全く意識の醜い奴らばかりだ」
「では自分で現場に行かれてはどうですか?」
「……は?」
予想だにしなかった部下の反抗的な態度。問題になるためこの場で報復はしないが、この手の気質の者はいずれ平穏を脅かす。その顔を覚え、そのうち排除しようとその捜査官の方を向いた瀬尾だったが、
「醜いのは貴様の方じゃないのか、カイザの贋作」
眼前に広げられた掌と、クズに向ける視線。脅威を感じ取った瀬尾は咄嗟に距離を取り、カイザギアを構えた。
「いくらなんでも部下の名前と顔くらい、ある程度記憶しているつもりだが…君は知らない。部外者を局内に入れるとはザルで済ませていい失態ではないと思うけどな」
「失敬、私は令央。と言っても、貴様に払う礼など微塵とて必要を感じない。物語のシミにでもなって消え失せろ」
「困るんだよ……お前みたいなふざけたイレギュラー。俺の平穏の邪魔だ。変身!」
《Standing by》
《Complete》
瀬尾は仮面ライダーカイザに変身し、初手からカイザブレイガンで容赦なく叩き斬る。しかし令央もまた姿を変え、返しの爆撃で室内を吹き飛ばし、爆風で砕けた窓からカイザを追い出した。
騒然とする〔CCG〕局内。捜査官の応援を呼ぼうとしたカイザだったが、介入者は既に先回りしていた。立ち塞がるくすんだ白、体を巡るように彫られた光の道が「宇宙」の力を増幅させる。
《フォーゼェ…》
「アナザーフォーゼ」となった令央が、立ち上がったカイザに左足を向ける。その左足には半透明な装備が出現しており、体勢を立て直そうとするカイザに蹴りを叩きつけた。
《スタンパー ON》
衝撃の1秒後に爆破、2段攻撃でカイザの行動を妨害。弾かれたカイザの体が飛んで行く前に更に今度は左足を上げ、空に生成された巨大な脚がカイザを踏み潰す。
《ジャイアントフット ON》
《チェーンソー ON》
「この…っ…!?」
すぐさま左足がチェーンソーへと切り替わり、地に伏したカイザの装甲を切り刻む。悲鳴を上げようが、悶え苦しもうが、変身が解かれるまで脚を離すことは無く、一切の時間をカイザに与えないまま勝負は決した。
「これまで見た贋作の中でも、貴様は特に不出来だな。ただひたすらに保身のみを考えるその性根、それがまかり通ること自体が冒涜だ。ここで死ね」
変身が解かれた瀬尾の首を掴んで、持ち上げる。捨て台詞すらも聞きたくないと首を絞める力を強めていく。
しかし、アナザーフォーゼはそこで手を離し、窒息寸前の瀬尾を解放した。上手く呼吸も出来ない喉で咳き込み、瀬尾の目は己に死を与えに来た理不尽を億劫そうに睨み続ける。死を目前にして、
「何故だろうか。その目が…心の底から不快で仕方がない…!」
《ロケット ON》
右腕に出現したオレンジのロケットを放つ。生身に対し天文学的な過剰火力の前に、瀬尾の体は跡形もなく消し飛んだ。執拗とも言えるほど存在の一片すら残さず。その証左として、令央の手元にカイザウォッチが生成された。
2009年と2015年での戦いで多くのものを失った。キメラアナザーに使った5つのウォッチは奪われ、火兎ナギも敗れ、物語を壊す計画は失敗。何より令央が仮面ライダーダブルに敗北するという屈辱的な結末。
その上、重宝していた電王ウォッチも失った。そのせいで2003年に来るのでさえ随分と苦労した。ダブルに付けられた身体の傷もいつまでも癒えない。
「ファイズも間に合いそうにはないか……おのれ、どこまでも苛立たせてくれる…贋作共が……!」
己に降りかかる圧倒的な不自由に、憤りを放つ令央。それを令央が壊した部屋から見下ろすのは、新たな王としてミツルを送り出したアヴニルだ。
「ふむ、随分とあっけなく終わったな。あの男への借りはいずれ返してやるとして、今は…あの正義騙りの若造がファイズの下へ辿り着いたところか。吾輩も動くとし……」
ミナトはミツルの毒で放っておいても死ぬ。が、それより前にミカドが殺してしまえばファイズのウォッチを手に入れてしまう。それを阻止しようとしたアヴニルだったが、
体を動かした途端に体の内側が砕けるような痛みが走る。息と一緒に吐き出される、夥しい量の血液。更に、杖を持つ右腕が枯れ木のように痩せ細っている。
「……っ…思ったよりも遅かったではないか。時間も随分と奪われたと見える。これでは、辿り着く前に吾輩が朽ち果ててしまうか……ふん、まぁいいッ! ゲホッ! ゴホォっ!!」
アヴニルはこれ以上この時代で行動できないことが確定した。文字通り血を吐くほど憤懣やる方ないが、ここから先は成り行きを見守るしかないようだ。
「ひび割れたガラス細工。果たしてどちらが砕けるか、それとも……」
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『世界を救うには貴様の力が必要なのさ。あらゆる時代を巡り、全ての仮面ライダーを破壊する。それが世界を救うたった一つの方法だ』
ミカドが覚悟を決めたあの瞬間、あの男はそう言った。その時のミカドは、仮面ライダーを全て殺し尽くせばいいと、そう解釈した。今その正義は揺れつつあるが、成すべきことは何も変わらない。
『全ての仮面ライダーを殺す』、それが世界を救うための契約。未来のため、それを違えることは有り得ない。
だからせめて、善人は善人として、正しさを穢さないままに終わらせてやる。今のミカドはただそれだけを想い、拳を握り固めた。
「ファイズ!!」
シャークオルフェノクに肉薄し、ゲイツは狂気に満ちたその顔を全霊で殴りつける。目を覚ますことはきっと無いと分かっていても。目を覚ましたところで、殺すしかないと分かっていても。
ジカンザックスを構える。シャークの両腕に備わった刃を斧で受け、切り返す。反撃を受けて引き剥がされるが、シャークが人間を襲いに行かないうちに縋りついてでも追いつき、掴んだ腕を起点に投げでシャークを地に叩きつけた。
「逃がさんぞ…ここで終わらせる! 貴様を絶対に行かせない!!」
日寺壮間は王に成りたいと言った。そのために最も単純な方法は、仮面ライダーを殺してウォッチを奪うことだ。恐らく野望に蓋をせず、悪意を以てジオウの力を使えばそれも可能。ジオウにはそれだけの力があると、ミカドをゲイツにしたあの男も言っていた。
壮間がそうしないのは、辛いからだ。ミカドだってよく知っている。優しい者を殺すのは辛く、苦しい。だが、それでも成し遂げたい未来があるんだ。
「だから俺は……その痛みを背負って、戦い抜いてやる!」
その言葉に応じるように、市街地の片隅で咆哮するシャーク。その衝動はゲイツへと一直線に軌道を描き、牙を向ける。ゲイツはそれを真正面から叩き伏せる。
命が削れていくのを待つ戦いの中、狂気に侵された意識の海の底で、ミナトはぼんやりとその戦いを見ていた。そこにあるのはただ後悔だけ。
(俺にもっと勇気があったら。俺があの時、ちゃんとミツルを救えてたら。俺が……ミツルの手を取ることさえ、出来ていたなら……きっと世界は、少しはマシだったんだろうな)
あの時、ドナートの道楽を壊し、孤児院から皆を救えたはずなんだ。そうすれば鋼太朗を死線に駆り出すこともなかった。
その後も何度も選択を間違え、その度に悲劇は広がった。正しく生きたい、誰かを救いたいなんて言いながら、ミナトの人生は矛盾だらけだ。本当に正しく生きたかったならすぐに死ぬべきだった。ミツルの手を取れず、最初に間違ったあの時に。
殺したいと思いながら、守りたいと接した。救いたいと思いながら、己のために殺した。そうやって生き続けたせいで、アラタに、アヤトに、トーカに、土岐に、鋼太朗に、ミカドに、ミツルに、接した全てに苦しみを強いてしまった。
ゲイツのジカンザックスがシャークオルフェノクの胴体を裂く。灰の香りが内側を満たし、呼吸が浅くなっていくのが分かる。逃げ続けた死がそこまでやって来た。
(これでいい。後はきっと俺じゃない誰かが世界を変えてくれる。最初から俺には……何も出来なかった)
オルフェノク、喰種、人間。3つの種が生存権を争うこの世界は、ただ自分が生きるために選び続けることで成り立っている。だから、分かり合うには架け橋が必要だった。3つの命に寄り添える架け橋が。この世界に間違っている誰かが存在するとすれば、歪んだ身で架け橋になろうとしたミナトだけだ。
この世界は間違っている。
歪めているのは───俺だ。
「ミカド…………」
荒い息を抑え、躊躇を払いのけ、エネルギーを帯びた刃をゲイツがシャークオルフェノクに振り下ろす。荒れ狂っていた怪物はその刹那、動きを止めてその名を呟く。
「ミツルを…頼む───」
蒼い炎が真昼の東京に灯り、いずれ絶えた。
_______________
腹が減った。悲壮感やら焦燥やら、そんなものを押しのけてその感覚が全ての欲求を支配する。喰種の身体にされてからそれが常で、ミツルは満たされるまで人を、オルフェノクを、喰種を喰らい続けた。
「ぜんぜん足りない……!」
胃袋に穴が開いているように虚が埋まることは無い。理由は分からないが、唯一残された食欲すらもミツルは満たすことは出来ないのだ。
一度死んでオルフェノクになってから、ずっと元に戻りたかった。嘘でもいいからあの頃が欲しかった。人間という矜持に縋りついていたはずなのに、気付けば人間以外の何かになっていた。そして最後にミナトを殺し、この世界はミツルを隔絶した。
「……熱い。あいつらに弄られたところが、傷が熱い…! 嫌だ。僕はまだ死にたくない!」
満たされない孤独な世界で何をして生きればいい。あの頃みたいに人間として生きるには何をすればいい。溶けた脳で考える。答えは簡単だった、殺せばいいんだ。
喰わなければ生きていけないなら、喰種を喰って殺す。自分を認めない人間も喰えばいずれいなくなる。ミツルを拒絶するような奴らは、食欲の捌け口にされて当然だ。いずれ喰種がいなくなれば人間の誰かが認めてくれるはず。それが、ミツルの出した結論だった。
「そうだ…そうしよう。だって僕が正しい。僕が…『仮面ライダーファイズ』だ…!」
舌の上に乗せた正義を呑み込んだミツルを、遠方から光線が撃ち抜いた。足を地につけたまま上半身だけが外れたように仰け反るミツルは、損傷した顔の左半分を修復しながら新たな敵対者を赤い右目で捉えた。
ファイズフォンⅩを向け近づいてくるのは、仮面ライダーゲイツ。
「だれだよお前」
「今から死ぬ奴に名乗って何になる」
オルフェノク態に変化し、赫子を展開。不愉快なゲイツを挽き肉にしようと攻撃を仕掛けるが、駆け出したゲイツはそれを完璧に見切り、隙だらけの鳩尾に拳を、更に顔面に回し蹴りを叩き込んだ。
打撃から感じる爆発しそうな殺意。アントオルフェノクの赫子が大きく広がり、喰種としての本能が最大出力のアラートを出しているのを感じる。この男は、危険だ。
「なんで…邪魔するんだよッ!! やっと決めたってのに、なんで僕を気持ちよく生かしてくれないんだよ! 正しい僕の邪魔をするってことはさぁ…最初にお前が死ぬってことで文句無いよなァ!?」
「喰種を殺し尽くして人間に認められたい。だったか?」
「……!?」
「知っているさ。理解はできるが否定してやる。正当な理屈は無い。覚えておけ。正義は強い方が絶対……未来の世界では常識だ!」
「僕が弱いってことか…? ふざけんなっ!!! 僕がなんのために、こんな身体になったと思ってんだクズ野郎がァァァッ!!!」
ミツルの内部でライドウォッチが超動。暗闇に呑まれた体を赤い血管が循環し、アナザーファイズがここに誕生した。それに対しゲイツもまた、ホルダーからライドウォッチをひとつ取り外す。
「Φ」の文字、「2003」、さっきまで黒かったプロトウォッチは、物語の決壊によって色を取り込んだ。カバーを回し、ゲイツは怒りを以てウォッチを起動。ドライバーの左側に装填し、アナザーファイズを殺す力を召喚した。
《ファイズ!》
「…変身!」
《ライダータイム!》
《仮面ライダー!ゲイツ!!》
《アーマータイム!》
《Complete》
《ファ・イ・ズー!》
ファイズフォンのビジョンの中に出現したアーマーが分散し、アナザーファイズと拳を交えるゲイツに装着された。
ファイズの装甲を纏い、赤いフォトンブラッドと黄色い「ふぁいず」の文字が音を出して発光。仮面ライダーゲイツ ファイズアーマーは、片足に体重をかけるように屈むと、再びアナザーファイズに向かって駆け出した。
「ミナトの真似ぇ…? 違う、僕が! 僕だけがファイズだ!」
アナザーファイズの右腕に赫子が固められ、肥大化した一本の剛腕を作り出した。地面を殴り割るほどの力を振りかざすアナザーファイズに対し、ゲイツはファイズフォンのコマンドを入力する。
《Ready》
《Shot on》
「潰れろおおおおっ!!」
ゲイツはファイズギアを模した「ギア555」の一つ、「ショット555」を両肩の「フォンギアショルダー」を介して召喚。拳に装備すると、力任せなアナザーファイズの一撃に正面から拳をぶつけた。
爆ぜる衝撃が、アナザーファイズの赫子だけを破裂させた。自分が力負けした事実を受け入れられないうちにゲイツは視界から消えており、死角の存在に気付いた瞬間にショット555のインパクトがアナザーファイズに炸裂する。
「過去に来て、温い時代だと吐き捨てた。だが…いつの時代も変わらなかった。平和を悪が貪り喰う理不尽がいる。つまり貴様が悪で、俺が貴様を殺す」
「うるっせええんだよ死ねやああああああッッ!!!」
心優しい誰かが死ななければいけない理由はなんだ。ミカドが彼を殺さなければいけなかった理由はなんだ。全ては、悪意を以て力を使う愚か者のせいだ。
つまりお前が悪い。殺してやる。
そんな短絡的な怒りを、殺意を、蒸れた憎悪を全てアナザーファイズへと向ける。アイツはこれ以上ないくらいに敵。誰がなんと言おうと諸悪の根源。ミツルを殺すことは、間違いなく絶対的に正義だ。
伸ばされた触手状の赫子をゲイツへと差し向けるも、ゲイツは左手で持ったジカンザックスで赫子を斬り捌き、あっという間に接近。そこから展開されるアントオルフェノクの『脚』も未来で既に見た。熱された頭で冷静に入念に切り刻む。
「赫子の扱いが稚拙だ。真面目にやれゴミが」
「ふざけ…っ…!」
いくらなんでも赫子+脚の処理で手間取っているゲイツには隙がある。何よりこの苛立ちを直接ぶつけんと四肢を振るうアナザーファイズだが、横からの予期不可の衝撃が攻撃態勢を崩壊させた。
それは自律走行したライドストライカー。
ファイズはオートバジンやファイズギアといったサポートメカを巧みに操る戦士。ゲイツはその能力でバイクを操作したのだ。
跳ね飛ばされたアナザーファイズに飛び掛かり、無防備な身体にショット555の一撃を見舞う。衝撃で地面を削りながら転がるアナザーファイズだったが、顔を上げた先にもゲイツは既に追いついており、
「貴様が潰れろ虫けら」
更にもう一撃。ショット555がアナザーファイズの顔面を叩き潰し、舗装された地面が衝撃で波状に粉砕。
立ち上がったアナザーファイズの反撃を喰らいながらも、ゲイツは攻撃の手を加速させる。絶対に殺すという激しい衝動を纏って、何度も何度も殴りつける。
「なんで僕が…こんな目に遭わなきゃいけないんだ! 僕以外の全てが悪いのに! なぁ、僕が生きるために、お前ら全員が死ねばいいのに!!」
そんな言葉を聞いてやる義理は無い。ゲイツがジカンザックスにファイズウォッチを装填し、その刃に赤い光が満ちる。そして、地面を斬り上げた軌道に沿って光波が地を走り、アナザーファイズの防御を掻い潜って到達した。
光はアナザーファイズの体の中心で解放され、円柱状の空間を創り出して内部にアナザーファイズを固定させる。走り迫るゲイツを見ても、その体を動かすことは許されない。
《フィニッシュタイム!》
《ファイズ!ザックリカッティング!》
横払い斧の一閃。アナザーファイズの体が砕ける。フォトンブラッドのエネルギーがオルフェノクの体組織を焼失させ、死への加速度を上昇させる。
「うおおおおおおおァっ!!!」
行き場を見つけてしまった怒りを全て吐き出し、崩れかけたアナザーファイズに、ゲイツは最後の一撃を振り下ろした。
アナザーファイズの身体に浮かび上がる「Φ」の刻印。爆発と共にアナザーファイズウォッチは粉々に破砕され、その力は欠片も残さず消え去った。
「……う…っ……」
斬撃を喰らい、体が引き裂かれながらも、地に落ちたミツルは己が生きていることを確認した。痛みなんてとっくに感じない。喰種の再生力で傷も修復されつつある。
「ま…だ……僕はまだ…生きてる……! 僕は……死なな───」
ミツルの指先が、蒼く燃え上がった。
その炎はすぐに広がる。腕が、体が、頭が、脚が、蒼く燃える。それは何度も見た『オルフェノクの死』の瞬間。
オルフェノクの喰種化。それは幾千回の実験を経ても安定化させることは叶わず、やはりオルフェノクの記号とRc細胞は互いに喰い合うというのが結論だった。ミツルがここまで動けたのは、アナザーウォッチの力で身体の時間が停止していたからに過ぎない。
ウォッチが壊れた今、オルフェノクの記号とRc細胞が急速な反応を起こす。その結果、体細胞に尋常ならざる負荷がかかり、オルフェノクの力が活性化。そして……
ただでさえ短いオルフェノクの寿命が急激に削られ、ミツルの命は絶えることとなった。
「……熱い…嫌だ……なんで…死にたくない……助けて…助けて!」
命乞いに眼も向けず、ゲイツはその場を去ろうとする。これまでしてきた事、これからする事の報いだ。悪にお似合いな当然の結末だ。そう己の正義の紐を、今一度固く結び直す。
死を眼前にして、過ぎ去ったミツルの思い出がフラッシュバックする。そんな思い出が途切れた瞬間と同じだった。あの時と同じで、火に包まれた最期。
焦げた匂いと燃える家と喰種。とても怖くて、熱くて、死にたくなくて、泣き喚いて、それでも最期まで手を握っていてくれたのは───
「助けてよ……ミナト…兄ちゃん……!」
その言葉に、聞きたくなかった言葉に、ミカドが振り返った。
誰もいない。微かに燃える灰の山が、意味もなくそこにはあった。
かつて救えなかった声が、意味もなく聞こえた。
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「見事だ。思惑通り我が王を出し抜き、君は仮面ライダーファイズのウォッチを手に入れた」
目的は果たした。タイムマジーンを呼んで2003年を去ろうとした時、ミカドの前に現れたのはウィルだった。彼の皮肉に何も返さず、ただ黙って彼の前に立つ。
「…もう少し喜んでくれた方が報われるものだけどね。出し抜かれた我が王も、死んだ彼らも」
「一つ……時代を教えろ、預言者」
「寄り道かい? 君らしくも無い」
ミカドがウィルに尋ねたのは「ある人物」が戦った時代。ウィルが答えた通りにタイムマジーンを動かし、ミカドは何も語らないままその時代へと向かった。
2012
「お望み通り、ここが歴史の転換点だ」
整備された山の一角にタイムマジーンから降り、少し歩くとウィルは止まり、隠れた。高い塀を降りた一つ下の道で、白いスーツの男が誰かに電話をかけている。
「私も直ぐに向かいます!! それでは…!!」
その大きな後ろ姿には、ミカドも見覚えがある。
「あれは……亜門鋼太朗か…?」
「あぁ。彼のパートナー、真戸呉緒が喰種“ラビット”こと霧嶋トーカを発見し、そこに馳せ参じようとしている場面だ。ここで彼は真戸呉緒を失う事になる代わりに…“彼”と出会う」
亜門の前に飛び降りた黒いパーカーを着た少年。何より特徴的なのは、歯茎が露出したデザインの『眼帯』のマスクだ。彼こそがミカドが見に来た存在。
「あれが金木研だ」
金木研。2003年に行く前にウィルから聞いた、喰種と人間が分かり合える未来のために戦ったという半喰種。彼は共に過ごす喰種を守るため、捜査官である亜門の前に立ち塞がった。
しかし、現実はそう単純ではない。
「……やられているな。前に出ただけで、力がまるで及んでいない」
「そうだね。今の彼の力はとてもちっぽけだ。でも見ているといい、直に流れは変わる」
亜門の「ドウジマ」に歯が立たず一方的にやられているカネキに、亜門が一つ言葉を投げかける。
「……仮面をつけた悪鬼。貴様らに一度聞いてみたかった。罪のない人々を平気で殺め…己の欲望のまま喰らう。貴様らの手で親を失った子も大勢いる。残された者の気持ち…悲しみ…孤独…空虚…お前たちはそれを想像したことがあるか…」
亜門が吐き出す、喰種への怒り。それから続く言葉も、それらはミカドが仮面ライダーに対して抱いていた憎しみそのものだった。
「この世界は間違っている…!! 歪めているのは
そう、歪めているのは悪の存在。理不尽な力。それらを全て排斥して初めて、世界は正される。それらを排除することは正義であると信じていた。
だが、カネキは亜門に言葉を返す。
「……あなたの…言う通りです…多くの“喰種”は道を誤った。ラビット……という“喰種”もきっとその一人だと思います…僕もあなたの言う事はとてもよく分かる…だけど…
相手のことを本当に知らないまま、間違ってるって決めてしまうなんて…そんなのが正しいなんて僕には思えない」
少し前のミカドなら一笑に付していた言葉。だが、今に限ってそれは、ミカドの正義を貫いてしまった。そして立ち上がったカネキは、再び亜門に立ち向かっていった。
「……ヤツはこれからどうなる」
「喰種を守るため彼は亜門鋼太朗の肉を一部喰らい、退けることに成功した。喰種を守る道を定めたのさ。それから幾度となく痛みと絶望を味わうが、それでも戦い続ける。『何も出来ないのは嫌だ』…とね」
「そうか……」
最後まで結末を聞くことなく、ミカドはタイムマジーンに戻った。そうしてミカドは、喰種とファイズの物語を後にしたのだった。
________________
2018
2018年に戻り、色々と確認は済ませた。あちらでは2週間足らずほど経過しており、その分こちらの時間も進んでいる。ミツルが起こした謝肉祭の事件は無かった事になっているが、やはり喰種は人間社会のどこかに潜んだままで、社会での認知度はそう高くはない。
今まで何をして生きて来たか分からないくらい、今のミカドは行く場所も思いつかない。だから揺られるようにその足は学校へと向かっていた。戦わない時間を長く過ごした、この場所に。
「………何をしたんだ…俺は……あの時代で……!」
未だ夏休みの教室には誰もいない。それを確かめるとミカドは、過去から溜め続けた感情を虚空に吐き出した。
仮面ライダーを殺すと息巻いて出て行って、ミナトの優しさに揺れて、それでも正義のために殺すと誓った。怪人は許さないだなんて標的のすり替えをした。そしてミツルを殺して、最期にミナトの名を呼ぶ声を聴いて、
その声が、助けを求める妹と重なってしまった。
「俺は……何を殺した…? 俺が殺したものは…本当に悪だったのか…!?」
ミカドは己が殺したものを自覚してしまった。
悪だと決めつけて殺したものが、あの時の妹と同じかもしれないと思ってしまった。
考えないようにしていたのだ。ミカドが正義のために殺した喰種たち、「ランタン」を探していたオルフェノク、そしてミツル。どんな過去があってどんな思いがあったのか知りたくなかった。最初から純粋なバケモノだと思いたかった。
でも聞いてしまった。聞いてしまったら止まらない。もうミカドは怪人を完全な悪と見なせない。優しいと知りながら仮面ライダーを殺す、それはミカドの心を強く締め付けた。もし怪人に対してもそんな思いを抱いてしまうのなら、ミカドは絶対に耐えられない。
『相手のことを本当に知らないまま、間違ってるって決めてしまうなんて…そんなのが正しいなんて僕には思えない』
カネキの言葉が反響する。知らないまま随分と奪ってしまった。もし知ろうとしていれば何かを変えられたかもしれないのに、何か別の結末が見えたかもしれないのに、ミカドはそうしなかった。
果たして知っていたと思っていたものでさえ、ミカドは知れていたのだろうか。そう疑問に思った時、真っ先に浮かぶのはタスクの存在。
怪人化したタスクはその力に負け、仲間を殺した。ミカドはその介錯をした。もしその認識が違ったら、そんな怖い想像。でも記憶がそれを追従する。
「………まさか」
あの時、灰の山が積もっていた。不自然なほど多く。そして疲弊していたタスク。人間の仲間数名を殺しただけでそんなに灰は積もるか? オルフェノクが疲労するか?
もしあの時、別のオルフェノク達が襲って来ていたとして、タスクがそれを守ろうとしていたなら。仲間を殺され、それでも仇は討った、そんな場所にミカドが駆けつけていたとしたのなら。
『俺、は…こんなに誰かを救いたかったのに…皆に生きて欲しかったのに…』
あれはミカドに対する恨み言だったのか。懸命に人間らしく生きようとしていた親友を、ミカドは信じられず、
「殺したのか? 俺が…お前を……!」
ミカドの正義が完全に崩れ落ち、力が抜けた体が床に這いつくばる。汗が、動悸が、止まらない。それでも残酷に記憶は巡る。
もしもの話があると言って、タスクは本当は何を言いたかった。殺してやるが求めていた答えじゃなかったんじゃないのか。オルフェノクになってから会ったあの夜、何を思っていたんだ。
「なぁタスク…お前、本当は…生きたかったのか? 戦いたくなんてなくて、オルフェノクになってしまったとしても…ただ平和に人間らしく、生きたかったって言うのか? だとしたら俺は……お前に……!」
『その時は俺が殺してやる。お前が人殺しになる前に』
『醜い悪を駆逐し、50年前の世界を取り戻す…!』
お前は醜い悪だ、生きる価値は無い、死ね。
「……違う。俺は…そんなつもりじゃ……」
ミカドはタスクにそう言ってしまっていたんだ。そして殺してしまった。唯一絶対に正しいと、全ての免罪符となっていた行為は、ただ生きたがる仲間を手にかけた悪の所業だった。
ミツルだってそうだ。託されたじゃないか、亜門鋼太朗に『ミツルを救ってくれ』と。ミナトに『ミツルを頼む』と。殺してくれだなんて意味じゃなかったはずだ。それなのに意識から遠ざけて、己がしたいままに殺したんだ。
『悪』とは、ミカドのことだった。
己の弱さに空の教室で慟哭する。
ミカドも未来の仮面ライダーと同じだ。力を持つべき人間じゃなかった。世界を変えるなんて土台無理な話だった。歪んだ世界を前に己も歪み、何一つ変える事はできなかった。
金木研の信念。『何も出来ないのは嫌だ』、立派な志だ。
お前は何を成したんだ? 戦いの末、きっと素晴らしい未来を、答えを勝ち取ったんだろう。俺は何も出来なかった。金木研や荒木湊のような主人公みたいに……出来なかった。
「うぉっ!? 本当にミカドいた!?」
「えーまたまたー……わっ、本当にいる! しかも泣いてる!!!????」
誰も居なかった教室に2人、ミカド以外の誰かが入って来た。それは壮間と香奈だった。
「日寺……」
「お前どこ行ってたんだよ…これ取ったって報告したくても家知らないし、仕方ないからなんとなく毎日学校来てたけど……」
「あ、私は部活帰り。今のうちに宿題写しお願いしとこって思って」
「早めに動けるなら自分でやんなよ…で、これ! 見て! 二輪免許! これで俺もお前と一緒にバイクで戦える……ってどうしたんだよミカド」
自慢げに免許証を見せつける壮間。現実が形を得て現れたようで笑えてくる。泣き崩れながら弱々しく、ミカドはその肩を掴み、どうしようもない後悔を一方的に、曝け出した。
「日寺…っ……もし…お前がいたなら。俺じゃなくて、お前だったら……! お前なら…変えられたんじゃないのか!?」
『ホリチエさん、喰種のこと…もっと教えて欲しいんです。習さんはまぁおかしかったけど……喰種ってなんか、不思議と滅茶苦茶ド悪人に見えなかったというか……』
『だから謝肉祭行く前に色々調べろよ! 灰病とか気になる事あるだろもっと!』
『ちょっと待って! 殺す前に聞いたっていいんじゃないか!? この人がなんで『ランタン』を探してたのか……! 何も聞かずに殺すなんておかしいだろ!』
『聞かせてくださいよ。ミナトさんと鋼太朗さん、ミツルさんの…昔の話。俺でも何か力になれるかもしれませんし』
『任せてください。俺が必ずミツルさんを救います。だから……ミナトさんも死のうとするのはやめてください。生きてもいいと思いますよ、俺は』
『目を覚ませよミツルさん!! あんたにはまだ家族がいるだろ! 望まれてるんだ! 戻れないなんてことはないんだよ!!」
もし2003年に行ったのが壮間なら、きっと知ろうとしたはずだ、過去の世界にいる人間達の全てを。そして救おうとしたはずだ、己が誇れる未来のために。
『タスクの様子……なんかおかしくなかったか? ちょっと俺、話聞いて来るよ。お前はすぐ自分のペースで話しするからさ』
『俺は……タスクがこんなことするなんて想像できない。お前だってそう思うだろ? 俺達の知ってるタスクは、もっと優しかった』
もし未来の世界に壮間がいてくれたなら、タスクだって死なずに済んだんじゃないか。
「………悪い。忘れてくれ…」
こんな妄想に意味は無い。奪ったのはミカドだ。
ミカドは消えゆくように呟くと、教室を立ち去った。
「ミカドが泣いてるの初めて見た……」
「……ねぇ、ソウマ。前に私が王になったソウマの隣にいるのが想像できる…って言ってたよね」
「おぉ…うん。不意に恥ずかしいな」
「ちょっと聞きたくて。その話、ミカドくんはどう…?」
「………分かんない」
壮間の未来にミカドがいるのか。その問いに対し、壮間ははっきりと答えを返せなかった。だが所詮は想像の域でも、一つ浮かんだ未来があった。
「でも、もしかしたらアイツ……俺の敵になるかもしれない」
ミカドは喪失という虚無に揺られて街を歩く。すれ違う人々の顔がよく見えない。あんなに望んでいた理想が、ミカドの行く先を照らしてくれない。
人ごみの中で、何かとすれ違った。
離れないように固く手を繋ぐ、幼い兄と妹。
過ぎた時間とは似ても似つかない。そんな兄妹だった。
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「喰種が紡いだ物語、これにて読了……少し酷な物語でしたね。失ったものは回帰しないというのに…虚しいと分かっていても我々は求めてしまう」
高槻泉の『吊るしビトのマクガフィン』を閉じ、ウィルは新たな本を開いた。
「少し気分転換といきましょう。己の弱さに絶望したミカド少年。そんな彼を救う天使、もしくは奈落に落とす悪魔……次に彼らを待ち受けるのは───」
何の変哲もない学校。何の変哲もない街。普通の人間が平穏に生きるそんな「下界」。その中に紛れるそうではない…いや実は割と俗っぽい例外。彼もまたその内の一人。
校内では授業が行われているにも関わらず、その少年は屋上で太陽を眺めながらドーナツに齧りつく。そして体育館から盗んできたバスケットボールを放り投げ……
太陽を覆い隠した瞬間、少年の背中に現れる「翼」。銀の弾丸がボールを射抜いた。
ボールの破片が舞い落ちる中、少年は呟く。
「はぁ……魔法使いやめてぇー……」
NEXT>>2012
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次回予告
「出たな、アナザーウィザード!」
「戦うしかない……それなのに、俺は……どうすれば…」
再来するアナザーウィザード。しかしミカドは……
「人間を幸せに導くのが、天使の使命……」
「なんて考えてた時期もあったなー。ぶっちゃけ今は人類滅びろって思ってる」
壮間たちが出会ったのは、堕落した駄目な天使、『駄天使』!?
「絶望の世界を救うためだ。サバトを決行する。犠牲となれ人間よ」
「俺以外が理想を語るな…俺の前に現れるな!!」
「えぇ…これ私も巻き込まれる感じか?」
アナザーウィザードのサバトを止めろ。
そして、行く先の見えないミカドの前に現れた、次の仮面ライダーは…!
「俺は指輪の魔法使い。希望を守る天の遣いさ」
「殺さなければ未来は無い。例え悪になったとしても…俺は!」
次回「ドロップアウト!?2018」
不穏からの温度差。急にふざけた所行きます。ミカドが不憫ですね。めちゃくちゃ不安だけど、この方向性で考えてる事がうまく機能してくれることを願って……次回のクロスは仮面ライダーウィザードと「ガヴリールドロップアウト」です!この物語はミカドにとって救いとなるか、試練となるか……
では、ネタが集まり次第補完計画に取り掛かりますので、それまでさらばです。
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