仮面ライダージオウ~Crossover Stories~   作:壱肆陸

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赤嶺甲
仮面ライダーアクセルに変身した男性。23歳。警視庁本部の「超常犯罪捜査課」に所属する刑事。階級は巡査で下っ端なのだが、態度は相手が上司だろうが民間人だろうが極めて尊大。「己自身が唯一絶対の正義」という信条を持ち、それに違わない行動、選択を貫いており、それができる頭脳とバイタリティも備えている。ある事件をきっかけにA-RISEと関りを持ち、特に綺羅ツバサに気に入られたことで腐れ縁のような関係になった。2009年ではウィンター事件の捜査で壮間に助力し、アナザー電王を足止めする役目も請け負った。しかし令央に敗北したことでアクセルのウォッチは奪われてしまった。修正された歴史では警察として手柄を次々と立てているが、その態度のせいで上の人間に嫌われており未だに巡査。


お久しぶりですねェ!(ジェラードン)。146です。アーカイブスのエターナル編も更新しておりますので、是非ともよろしくお願いします。

お待たせしました、今回からはガヴリールドロップアウト×仮面ライダーウィザード編でございます。前回の東京喰種に比べ、複雑な設定は一切ございません。「なんか天使と悪魔出るって」くらいの認識で大丈夫です。可愛いのでビジュアルは事前に要確認ですが。

今回も「ここすき」をよろしくお願いします!


EP15 ドロップアウト⁉2018
落第天使は下界にて


 

「この本によれば、普通の青年、日寺壮間。彼は2018年にタイムリープし、王となる使命を得た……のですが、先日より焦点にいるのは50年後から来た少年、光ヶ崎ミカド。2003年で彼はファイズの力を奪い得たのと同時に、己の心を支えていた正義を失ってしまいました」

 

 

ウィルは本を閉じる。

ミカドの存在は壮間の物語に想定していなかった存在。そんなイレギュラーな彼が、このまま無意味な存在として消えるか、物語を動かす…もしくは乱す因子となるか。

 

 

「分岐点の上に立たされた彼は何処へ向かうのか……気を取り直して、次のページを開くとしましょう。ステージには魔法使い、型破りなショーが幕を開けるようです。まず登壇するのは……伝説の天使」

 

 

ゴミ袋で埋め尽くされた目が悪くなりそうな部屋で、スマホから発せられる人工的で長方形な光に顔を重ねるのは、荒れた翼をボリボリと搔きむしる少女。

 

 

「は、アプデの緊急メンテ? ざっけんな死ねよ…」

 

 

天使……?

 

 

_________________

 

 

8月。それは青い春が終わる季節。

 

 

「───負けた」

 

 

全国高校サッカーインターハイ。いわゆるサッカーの全国大会。

その日、ある少年のサッカー人生が終わった。夢に見た全国大会で、一回戦での惨敗だった。

 

ずっとサッカーが好きで、誰よりも本気で練習を重ねて来た。だからこそ、自分にプロになれるほどの才能は無いと自分で分かってしまった。だから、もう終わりなのだ。彼のサッカーは今日で終わってしまった。

 

 

「俺……明日から何して生きればいいんだろ……」

 

 

勉強、進学、就職、結婚、そんな人生が欲しいわけじゃない。少なくとも今は、明日もずっとサッカーをしていたいという虚無な望みが胸を満たしている。生きる糧が見えない。心の支えが無くなって、現実の重さに心が潰れてしまう。

 

 

人はこれを「絶望」と呼ぶ。

 

 

「誇りに思え、人間」

 

 

少年の前に降り立ったのは、絶望を嗅ぎつけた濁った宝石。

歪な指輪がはまった左手が触れると、少年の体が砕けるようにひび割れる。その亀裂に手を入れ、緑色の宝石が少年から引きずり出された。

 

 

「全ては世界を救うため。サバトは近い───」

 

 

倒れた少年の抜け殻が倒れ、黒い羽根が舞い落ちた。

 

_________________

 

 

「せーのっ、はい! エロイムエッサイム!」

 

「エ…エロイムエッサイム!」

 

「エロイムエッサイム!!」

「エロイムエッサイム!!…じゃないんだよ! 何やってんだ俺ら!」

 

 

夏休み中盤。壮間宅の庭に漂う線香の煙、転がる水晶玉。そして息を切らして叫んだ壮間。壮間の家にあった何処ぞの民族の仮面を外し、香奈は「うーん」と唸る。

 

 

「なにやってんだろね」

 

「だよな。冷静になろうぜ。こんなんでアナザーウィザード見つかるわけないって」

 

 

1か月と少し前のこと、壮間とミカドが遭遇したのは未知のアナザーライダー、その名も「アナザーウィザード」。それから壮間はバイクの免許を取りながら、香奈はダンスの引退ステージの練習をしながら、アナザーウィザードを少しずつ探していた。

 

で、行きついた方法が謎の儀式。

率直に言ってどん詰まっていた。

 

 

「でも『ウィザード』って魔法使いって意味なんでしょ? だったらやっぱ魔法、オカルトっきゃないって! 次はこっくりさんやってみよう!」

 

「だから冷静になれって。そんなので見つかるわけ……って話聞いてくれないかなぁ! なぁ!?」

 

 

アナザーウィザードについて分かっているのは、人の中から『宝石』を取り出しているということ。たったそれだけだ。今までのアナザーライダーとは違って、ひたすら目立たぬよう、邪魔が入らないように動いている印象を受ける。故に厄介。

 

それはつまり、アナザーライダーになっても明確な自我を宿しているということ。それこそ令央や火兎ナギと同じように。今回は一筋縄ではいかない敵だと、容易に想像できた。

 

 

「そんな敵を探すのに、こんなんで大丈夫なのか…?」

 

 

そして、アナザーウィザードとは別に、壮間には気になることが一つあった。

 

 

「ミカド、あれから見ないよな…」

 

「だね……元気なさそうだったけど、何があったんだろう。泣いてたし…」

 

「アイツ自分の家も教えてくれないし、自分のこと全然話さないからな…まぁミカドは俺達のこと別に仲間とか友達とか思ってないだろうけど…」

 

 

つい先日のこと、休みのはずの学校でミカドと出会った。彼はなにかに絶望したような顔で、慟哭し、涙を流していた。それは普段のミカドからは想像もできないような姿だった。

 

その直後、ウィルが現れて少しだけ事情を説明してくれた。壮間に隠して2003年に行き、仮面ライダーファイズの力を手に入れたという。でも預言者はそれ以上のことを教えてくれなかったし、ミカド本人から聞くこともできない。

 

壮間はどうしようもなく不安だった。自分の知らない場所で、彼が引き返せない所に行ってしまいそうな気がして。

 

 

「……でもきっとアイツは、戦うことはやめないと思う。アナザーウィザードを追ってたら会えるはずだ」

 

「そうだね、その時はちゃんと話聞こう! 殴ってでも何があったのか吐かせてやるんだから!」

 

「殴ってでもはちょっと…喧嘩になったら勝てないぞ多分」

 

「しゃー! そうと決まればスピリチュアル作戦続行!! 次は…占いとかいいんじゃない? えーっと、ソウマは牡羊座のA型で……」

 

 

決意は固まっても方向性は変わらないようで、スマホでポチポチと壮間の個人情報を入力する香奈。こうなった香奈を動かすのはもう無理だと、壮間は大分前に悟っている。

 

 

「うわ、恋愛運終わってるよソウマ」

 

「余計なお世話過ぎる。ラッキーアイテムは…」

 

「遊園地だって」

 

「場所て。デカいよラッキーアイテム」

 

 

軽くツッコミを入れて壮間が振り返ると、水晶玉を拾って足を完全に外へと向けた香奈が。

 

 

「え、行くの?」

 

 

________________

 

 

『そんなのが正しいなんて僕には思えない』

『俺はなんで生きてちゃいけないんだよ』

『誰のために戦ってるかわからなくなったミカドとは大違い』

 

 

誰も彼も、未来でも過去でも、清く正しい言葉がミカドを否定する。

 

 

『みんなの未来を頼んだよ』

『負けんじゃねーぞ』

『ミカドさんはちゃんと仮面ライダーです』

 

 

誰かがくれた優しい言葉が、悪意と同じように突き刺さる。

その理由は至って単純だった。ミカドの正義は醜く歪んでいて、他人の善意を受け止められないくらい弱いものだったのだ。

 

 

「俺は間違っていた……だとしたら、何を憎めばいい…何を殺せばいい! 怒りだけが全てだったんだ…この怒りで俺は一体、何を……!」

 

 

もう何が悪で何が正義か分からない。それでも未来を救う権利を持つのはミカドだけだから、戦わないなんて選択肢は無い。親友を殺し、生きようとした心を何度も殺した咎人の身で、真に殺すべきものは何だ?

 

このまま消えて、正しい誰かに託すことができたならどれだけ楽だろう。そんな事ばかりを考えて、数度の夜が過ぎ去った。

 

 

 

それはそれとして、

 

 

 

「うーん…っ、懐かしい空気ですね…」

 

 

普遍的な街の片隅で、なんとも解放感溢れる伸びをする女性がいた。ふわふわとした金髪で、華の髪飾りを付け、この暑い中でマフラーを着けているのは確かだが、顔については誰も何も言えない。

 

何故ならガスマスクを着けていたから。

 

思い出したかのようにしばらく周囲をキョロキョロと大袈裟に警戒した後、彼女はガスマスクを外して可愛らしい素顔を空気に晒した。それは天に生まれた生き物と思ってしまうほど美しい素顔だった。

 

まぁ実際にそうなのだが。

 

 

「久々の人間界…ですが気は抜きません…! いくら懐かしの人間界といえど、天使たるもの油断は禁物です!」

 

 

中二病の痛い人ではない。諸々の説明は全て省略するが、彼女の名は千咲=タプリス=シュガーベル。天使である。一般的に言われる、天界に住む聖なる上位存在の、あの天使である。

 

色々と更に説明は省略するが、天使学校を卒業した天使は人間界の学校で修行を行う。そんなわけでタプリスも前に下界に来ていたことがあり、今回わけあって再び地上に降臨したというわけだ。

 

 

「およそ6年です。それだけの時間で私は、天使として何回りも成長しました! ただ危険に怯えるだけだった昔とは違うんです。危険度Bの犬だろうと猫だろうと、今の私には全然───」

 

 

得意げに堂々とある気、成長した己に張り切るタプリス。

そんな彼女が道すがら見つけてしまったのは、公園のベンチに座り、己の不義に絶望していたミカドだった。

 

 

(あ…あああああれはっ! 危険度A『何やら深刻そうな顔で思い詰めている人』!! 大変ですっ!! 天使学校で習いました…確か日本の人間は極限まで追い込まれると、自分で自分を斬る『SEPPUKU』を……!!)

 

 

人間を幸せに導くのが天使の使命。天使タプリス、そんな様相のミカドを捨て置くことなんてできるはずもなく、顔面を真っ青にして激突する勢いで駆け寄った。というか勢い余ってミカドに激突した。

 

 

「っ…早まらないでください!!」

 

「……なんだ…?」

 

「いいですか!? 自殺したからといって必ずしも天国に行けるわけじゃないです! 天界って実はそういうのあんまり考慮してくれなくて…過去数百年の記録を見ても、自殺するより天寿を全うした方が断っ然オトクなんです! そもそも今天国行くのは全然オススメしませんし! だからどうか『SEPPUKU』は……!」

 

「……は? 誰だ貴様…」

 

 

ところどころ意味の分からない文言は飛び交うが、言いたい事は解るし、やたらと騒々しい身振り手振りで彼女が自分を心配していることは伝わった。彼女はミカドが死のうとしていると思っているらしい。初対面で凄まじいバイアスと行動力だ。

 

 

「あぁそうか…この時代の奴らは普通死ぬのか、自分に絶望した時は…」

 

「ですので……どうか気をしっかりと…悩みなら私でよければ聞きますので…! そうです気分転換でいんたーねっとなんてどうでしょう! C言語とJavaならご一緒できますよ!」

 

「どいてくれ、大丈夫だ…死ぬつもりは無い」

 

「そ、そうですか! ではお元気で! あなたの人生に光あれです!」

 

 

怪しく眩しい女をあしらい、ミカドは再び意味もなく彷徨う。

死んで終わることなんてできるはずがない。ここで死んだら、タスクもミナトも無駄に死んだ愚者として無に還るのだから。ただ、この命の捨てる場所を、消費する目的を見失っただけだ。

 

それにしても、彼女は随分と既視感のある雰囲気をしていた。

きっとそれは過去に来て何度も触れた優しさが、さっきと同じように自分に過ぎるほど眩しく、痛かった故の錯覚なのだろう。

 

ところで依然として感じる背後の気配の正体は、確かめるまでもない。

 

 

「………死ぬつもりは無いと言ったが」

 

「す、すみません。やっぱり少し気になってしまい…」

 

 

タプリスは思い悩んでいるミカドを、やはり放っておくことはできないようだった。この時代にはお人好しで根っからの善人が多過ぎると、ミカドは辟易すらしてしまう。

 

その度に思うのだ。最初からそんな人達を守るためだけに戦えていたら、きっと間違えることも無かったのだろうと。あれだけ自分を突き動かし、今も胸の中で滾る憎しみこそが、今は憎い。

 

 

________________

 

 

「ウェルカムトゥ…遊園地!」

 

「行動力。本当に来ちゃったよ馬鹿じゃないの」

 

「バイクで来れればラクチンだったんだけどね。ソウマの役立たずー」

 

「免許取り立てで二人乗りはダメだろ流石に」

 

「じゃあいつ出番あんのよ、その『バイク』。ミカドくんもソウマも乗り物持ってるのズルじゃん!」

 

 

お前なら走るで大体間に合うだろと言いかけたが、流石に女子を化け物扱いするのは気が引けた壮間。そんな化け物香奈の勢いに負け、比較的近場の遊園地にまで足を運んでしまったのだった。ラッキーアイテムだったが故に。

 

ここに来てどうする気なのだろうか、香奈を気にすると何やら水晶玉に手をかざして念を送っていた。

 

 

「むむむむ…はっ、こっちだよ! こっちで魔法使いの何かが見つかる予感! カードが私にそう告げてる!」

 

「水晶だろそれ!?」

 

 

観覧車、メリーゴーランド、ホラーハウス、この暑い中のクマ着ぐるみスタッフを素通りして駆ける二人。夏休みに遊園地にまで来て何をしているのだろうか。ここに来るのにも入るのにもそれなりに金もかかったし、色々と無駄に浪費している気がしてならない。

 

 

「……香奈、ダンス部の引退ステージの準備、良い感じか?」

 

「なにどしたの? そりゃ良い感じですよ、私としてもずっとやってたダンスの一区切りってやつだから…あっ、もしかして『こんな事してる暇あんの?』って言いたいの?」

 

「鋭いんだよなぁ…」

 

「んー、そうだ。ソウマは覚えてる? 昔はみんなでよくこういう遊園地行ってたの」

 

「まぁ、お母さんとかお父さんが日本に帰ってきてる時な。家族ぐるみで行ったのはそりゃ覚えてるけど」

 

 

幼いころの話だ。ジェットコースターに乗りたくなくて喚いたことや、買ってもらったアイスを香奈に食べられたりと悪い思い出くらいしか残っていないが、確かにそんな事はあった。そんな思い出話も、取り出して見てみると尊いと思えてしまう。香奈はそんな壮間の思いも見透かしたように、話を続けた。

 

 

「今、まだダンスやってたり、過去に行けるようになったり、ソウマが王様目指したりしてるのは、あの時はまだ考えもできなかった」

 

「…そりゃそうだ」

 

「でもあの時の思い出はまだ大事でしょ? それなら私は、今もそうでいたい。ソウマが王様になった後でも私がダンス辞めた後でも、笑って話せる思い出は多い方がいい。だって私たちずっと一緒なんだもんねー?」

 

「あくまで俺の想像な。でもまぁ、そっか。ゴールばっか気にしてても仕方ないみたいな話は旅行の時にしたっけ。成長しないな俺…」

 

 

要するに香奈は、やるべきこともやりたいことも全部逃さず気ままに楽しみたいのだ。業突く張りもいいとこだが、それを地でいける辺りが彼女が非凡であることの証明だろう。

 

それでも水晶玉片手に第六感で動き回っている状況は如何にといったところだが。しかし壮間が更に嫌なのは、香奈ならこのまま何か見つけてしまうと想像できるところだ。

 

 

「んっ!? こっちから何か魔力的な匂いがする……!」

「うんそうだな。そっちチュロスの屋台あるから多分その匂いかな」

「唸れ私の水晶! 今は魔力漲る昼時、いざ堕天……っ!?」

 

 

腹が減ったらしく、Aqoursの津島善子みたいな口上で駆け出した香奈。しかし注意を失ったその足は数秒後に何かに躓き、香奈は勢いよく転倒。そして……

 

 

「私の水晶玉ぁぁぁぁっ(1万円)!!」

 

 

香奈がお小遣いをはたいた水晶玉(ガラス製)、地面に落下し破散。咽び泣く香奈も気にかけるべきであろうが、それよりも目を疑ったのは、香奈の脚を奪ったものの正体。

 

 

「ぎゃああああクマぁぁぁぁっ!?」

 

「いや着ぐるみの人だコレ! だ、大丈夫ですか!?」

 

 

クマの着ぐるみが道端に転がっていたのだ。しかも恐らく中身入り。内側から荒い呼吸が聞こえる。

 

 

「………クソ暑い……死ぬ……水……」

 

「ちょ、香奈! 水とか持ってない!? 水筒持ってたろ!?」

「ごめん、つぐちゃん家で貰ったコーヒーしかない」

「コーヒーを水筒に入れるなよ!!」

 

 

コーヒーが果たして水分補給になるのか分からないが、何も無いよりはマシだろうと信じて、クマの被り物を脱がせるとと着ぐるみの人にコーヒー入り水筒を渡した。

 

本人も水分ならなんでもいいと思っていたのか、受け取って飲み干すまで僅か数秒。なんとか立ち上がって息をつける程度には回復できたらしい。

 

 

「あぁよかった…後はしばらく日陰で休んでれば多分───」

 

 

双方が落ち着いたところで、その人物の素顔を改めて見た壮間だったが、思わず目を奪われてしまった。澄んだ碧眼と空を流れるような金髪、それらすらも付属品と言わんばかりに美しい顔立ち。絵画を見ていると錯覚してしまうほど、麗しい女性がそこに……

 

 

「……苦っ!」

 

「───あれ?」

 

 

壮間は夢から覚めた。一呼吸置いて改めて見た彼女は、泥か何かで濁った碧眼とその下に染み付いた濃いクマ、局所的台風に遭ったのかと聞きたくなるボサボサの金髪、世界でも恨んでいるようなくたびれ果てた顔つきをした、なんとも荒んだ姿の女性だった。

 

 

「ふぅ~生き返る。ったくクソ暑い中で着ぐるみとかマジ有り得ん、滅びろよ…あーでも助かった。礼は言っとく、あんがと」

 

「あっはい、ならいいです。はい」

「私のコーヒー全部無くなってる……」

 

「よっこらせ…っと、あれ? ここにあったビラ知らね?」

 

「ビラ?」

 

 

そういえば他の着ぐるみたちは何かのチラシを配っていた気がする。しかしそんなものは倒れた彼女を発見した時には無かったはずだ。

 

 

「おかしーな…ここに『ご自由にお取りください』って置いてたんだけど」

 

「それをビラ配りとは呼ばないのでは…風に飛ばされたんじゃ?」

「あっ、じゃあ私たちで探すの手伝おうよ!」

 

「いや、いいわ。よくよく考えたら全部配ったことにすりゃいいし。風に持ってかれた分は……空の上の天使とかが拾ってるだろ、多分」

 

 

なんて適当な人だろう。前に会った似た雰囲気の士門永斗ですら、一言一句にもっと責任感があったと思う。

 

 

「うわ、歩くのめんどくさ…」

 

 

綺麗な声でなんか酷いことを言っている。が、もうすっかり元気そうではあるので一礼して去ることにした。

 

 

「夏って変な人も増えんのかな…まぁ暑いと疲れるのは分かるけど」

 

「うーん…あ、そういえば水晶玉壊れちゃったんだった! どうしよ、アレがないと何も感じない!」

 

「役目終えたんだろ。おとなしく帰って…いや、ちょっとだけ遊んで帰ろうよ」

 

 

夏になると変な人が更に変になるのかもしれないと、更に変なテンションの香奈を見て壮間は思った。

 

さて、折角だから遊ぶ事にしたが、香奈に主導権を握られるとジェットコースターやフリーフォール行き確定だ。壮間は絶叫マシンの類がとても苦手だからなんとしても回避したい。

 

 

「楽しそうだね我が王、姫君」

 

「おわっウィルさん!」

「ねぇ俺にプライベートは無いのか? 言うだけ無駄だって分かってるけど」

 

 

なんて少し悩んでいたらウィルがひょっこりと看板の影から現れる。全く油断も隙もあったものじゃない。

 

 

「別に私だって四六時中君を観察しているわけじゃあない。人をストーカーのように言うのはよしてくれ」

 

「じゃあそれ相応の行動で示してくれよ。脈絡もなく看板裏から出てくる奴をストーカーじゃなくてなんて呼べばいいんだ。怪談とか?」

 

「ねぇウィルさん、ミカドくんのこと詳しく教えてよ! 知ってるんでしょ」

 

「それはできない。少し私情も入るが、ミカド少年のことに君が関与すべきではない。そもそも彼には彼のプライバシーというものがあるからね」

 

 

どの口が。壮間はそう強く思ったし、声にも出した。

 

 

「それはそうと我が王に姫君、夏休みに男女で遊園地とは実に素敵なカップルだ。周囲の羨望の視線がさぞや心地いいことだろう」

 

「カップル…って言われても、私ソウマの顔はそんなタイプじゃないし」

 

「俺だって水晶持って走り回るやつに何をドギマギすりゃいいんだって話よ。大体、カップルって言ったら……そう、あそこにいる二人みたいにラブラブな感じで……」

 

 

近場にいた手頃なカップルを指さした壮間。

が、その直後になにやら女性が怒り始め、弁明する男性に慈悲を与えずビンタ。そのまま女性は去って行ってしまった。僅か数分の出来事である。

 

 

「疫病神かな?」

 

「モテないオーラが伝染ったんだよ。謝ってきなって」

 

「今のを俺のせいにするのは流石に怒るぞ」

 

 

何が原因であぁなったのかは分からないが完全にフラれたのは間違いないらしく、人目もはばからずに大声で絶叫している。

 

 

「くそっ!! みんな幸せなのになんで俺ばっかり! おかしいだろ! 俺の何がダメだってんだよ! うわあああああああっ!!」

 

 

少し同情している壮間だったが、そういう所がダメだったのではないかと、香奈は女性目線で思った。しかしウィルだけは急に神妙な顔をすると、叫ぶ男を指す。

 

 

「なるほど……そういう事か」

 

「何? フラれた理由でもわかった?」

 

「違う。見ていたまえ我が王、恐らく……来る」

 

 

ウィルが言わんとしている事を、壮間もなんとなく想像できた。予感が確信に成長するのを待たず、黒い羽根は舞い落ちる。人間を嘲笑うように、差し込む陽光の中で。

 

 

「良い絶望だ。人間」

 

 

影も形も無かったはずなのに、アナザーウィザードはそこにいた。恐らく魔法による瞬間移動での出現。これでは備えるなんて出来るわけがない。つまり、これが千載一遇のチャンスでもある。

 

 

「出たな、アナザーウィザード!」

 

「だが…まだ足りない」

 

 

壮間がドライバーを出す前に、アナザーウィザードは叫んでいた男性と共に消えていた。別の場所で発生した騒ぎからその場所はすぐに分かったのだが、これまた嫌な場所に動いている。

 

地上を見渡すほど高い、ジェットコースーターのレールの上。男性の首を掴んだアナザーウィザードはその体を空中に晒し上げる。

 

 

「死への恐怖で、より深き絶望を…」

 

「やめっ…た、助け…!!」

 

 

邪魔者の気配を感じていたアナザーウィザードは、行動から徹底して無駄を排除する。脅しですらも時間の無駄。淡々と絶望を作るべく、即座にその手を放し、男性の体は落下を始める。

 

 

「っクソ、遠慮なしかよ! 変身!」

 

《ライダータイム!》

《仮面ライダー!ジオウ!!》

 

 

壮間は変身して速度を上げ、落ちる男性を受け止めようと走る。だが落下する体がジオウに受け止められるより先に、またも光が射した。舞い落ちるのは、今度は白い羽根。

 

 

「……天使…!?」

 

「あ、危ないところでした……! ですが……!」

 

 

男性を受け止めたのは、頭上に光の輪を浮かばせ、白い翼で滑空するマフラーの天使…タプリスだった。男性を地上に下ろすと、タプリスはジオウに気付かずそのままアナザーウィザードの場所まで浮上する。

 

 

「ついに見つけましたよ! あなたが天界と魔界を混乱に陥れた犯人、超々特S級の危険人物ですね!」

 

「天使か……これもまた宿命」

 

「ここで会ったが百年目です! この天使、千咲=タプリス=シュガーベルが天界を守るため、あなたをやっつけます! 覚悟っ!」

 

 

「……なんだアレ」

 

 

レールの上でアナザーウィザードと対峙している少女は天使に見える。飛んでたし光の輪があるのだから、10人が10人天使に見えるだろう。妖怪の先祖返りも驚いたが、今度は天使が来たのかと思うと驚きに果てが無くて気が遠くなる。

 

そんなタプリスは人間の危機を感知して単に駆け付けただけではなく、ここに人をひとり運んで来てしまっていた。

 

 

「なんなんだ…あの女、飛んだかと思えば何を……っ!」

 

「お前…ミカド! なんでここに! てかどこにいたんだよ!」

 

「……日寺。あの女、余計な事を…」

 

 

強制的に悩み相談を受けていたミカドは、焦ったタプリスに連れられる形で遊園地に降り立った。偶然にもそこで真っ先に出くわしてしまうジオウの姿。

 

 

「お前と話すことは無い…失せろ。あのアナザーウィザードは……俺が倒す」

 

「俺が倒す…? そんな顔して何言ってんだよ! 俺だって分かるよ、お前…そんなんで戦えるわけないだろ!」

 

「黙れッ! 戦わなければいけないんだ、戦いの中で…俺は…俺の生きる術を探すしかない! 邪魔をしないでくれ日寺!」

 

「ミカド………」

 

 

声に乗った感情が弱々しい。表情から覚悟が感じられない。今にも壊れてしまいそうな言葉で、ミカドは壮間を拒絶する。どんな風に答えればいいのか、壮間には分からない。

 

時が止まった二人の間に、水滴が降り注ぐ。

雨かウォータースライダーの飛沫かと思いきや、その間に落ちて来たのは翼の濡れた天使タプリスだった。

 

 

「天使が落ちて来たぁ!?」

 

「ま、参りました…勝てません……」

 

「………もう負けたのか貴様」

 

 

啖呵を切ってすぐ、水の魔法でタプリスは吹き飛ばされたのだった。

衝突していた二人の心が一瞬だけ合致する。「この天使、弱い」と。

 

 

「その姿…何時ぞの王候補だな」

 

 

タプリスを下して地上に降りたアナザーウィザード。息を吸い込んでドライバーを構えるミカドに、アナザーウィザードは右手を突き出し静止する。

 

 

「まだ…その時ではない。力を収めろ」

 

「なんだと…?」

 

「今は世界を救うための儀式を執り行っている。世界が救済された後、新たな王として貴様たちに引導を渡してやろう。その時まで決して……邪魔はさせない」

 

《コネクト》

 

 

アナザーウィザードは解釈に困る発言を残し、魔法陣の中に姿を消した。

これでアナザーウィザードが戦いを避けていることはハッキリした。となると、ここで倒せなかったことが非常に痛い。次に出くわせるのは果たしていつになるのか。

 

 

「うぅ…情けないです」

 

「あ、そうだ。大丈夫ですか! えぇと……天使さん?」

「うぉーいソウマぁー! ん? ミカドくんじゃん!! あと誰そっちの人、可愛い!?」

 

「か、可愛いだなんてそんな…照れますよ……ではなくっ! あれ? もしかして見えてます…?」

 

「えっと…はい、割とくっきりと」

 

「おかしいですね…天使力を全開にしたはずなのですが……もしかしてその姿、人間の方ではないのですか!?」

 

「いえ人間です。変身してますけど。それで天使さん、いろいろ話聞きたいんですけど…」

 

「へ?」

 

 

顔にカタカナが書いてある全身装甲の人間に加え、天使という存在に対して随分と呑み込みが早い。話まで聞かれるらしい。久々の人間界は随分と様変わりしてしまっているようで、タプリスは戦慄した。

 

ちなみにタプリスの姿が人間に見えているのは、単に天使力不足である。

 

 

「なるほど、こちらの人間さんは皆さんのお友達だったんですね。失礼しました、私は千咲=タプリス=シュガーベルです。未熟ですが天使をやらせてもらってます!」

 

「やっぱ天使…何あったらこんなことになるんだよミカド」

「……知るか」

 

「それにしても情けないところをお見せしてしまいました…やはり私は未熟、天真先輩がいてくれたら心強いのですが………む? 今、天真先輩のこと気になりましたか!?」

 

「…え? 名前出たし、まぁ少しは。誰ですかそれ」

 

「よくぞ聞いてくれました! 天真先輩は私の憧れの先輩です! 天使学校を首席で卒業した、容姿端麗将来有望のまさに天使の中の天使! こちら天真先輩のお写真です、どうぞ人間界でもご布教くださいませ」

 

 

天使学校というパワーワードは出るし、タプリスの圧は凄いし、情報が渋滞を始めた。しかも渡された写真なのだが、ここに映っている人物、壮間にはどうにも見覚えがある。

 

 

「今、天界は未曾有の危機に瀕しています。そこで人間界にいる天真先輩のお力を借りようと、私タプリスが下界に降りて来たというわけで……」

 

「よっタプリス。久しぶり」

「あ、天真先輩。お久しぶりです」

 

 

 

・・・・・・・

 

 

 

「天真先輩っ!!??」

 

「ですよね!! やっぱりさっきの着ぐるみの人!!」

 

 

熱く語っていたタプリスの肩を叩いた人物は、先程着ぐるみで倒れていた女性。写真の清く美しい優等生の少女とはまるで別物だが、表情や髪質に目を瞑れば完全に一致している。

 

そう、彼女こそが天使学校が誇る優等生天使、天真=ガヴリール=ホワイト……の成れの果て。

 

読者の皆様には一足先に説明するが、彼女は修行として下界に降りた後、ネットゲームに触れたことでみるみるうちに堕落。そして成ったのだ。家に引きこもってゲームだけをして生活することを目標にしている、救いようのない天界きっての駄目天使───通称「駄天使」に。

 

 

そんな駄天使と、王を目指し勇む壮間と、過ちに惑うミカド。その三名が出会ってしまった。

 

 

「なんかめんどくさそうだし、やっぱ帰るわ」

 

「「待って待って待って!!!」」

 

 

 




今回登場しましたのはタプリスとガヴリール、参考は漫画ですが設定はアニメ準拠で行こうと思います。察しの通り雰囲気は一気に明るくなりましたが、別にだからといってミカドが明るくなるわけじゃないので悪しからず。

アナザーウィザードは強敵で、しかも何やら企んでいる様子…どうする天使たち。

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