仮面ライダージオウ~Crossover Stories~   作:壱肆陸

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※注意
これは本作品ゴースト編で扱った、「ゴースト×ラブライブサンシャイン」の物語の一部を切り取ったものです。






















Access…[Archive 2015]

File:GOHST






切迫!命の刻限!

僕は昔々に死んじゃった幽霊少年、朝陽。生き返るために、仮面ライダーゴーストとなって英雄の眼魂を集めている。

 

タイムリミットは僕が仮面ライダーゴーストになってから99日。僕を祓おうとする蔵真や、眼魔世界の刺客たちとの戦いの中、Aqoursのみんなの助けもあってここまでやってこれた。

 

残された時間は、あと4日───

 

 

_________________

 

 

夏が終わりに近づく。鬱陶しかった暑い日差しも鳴りを潜め、過ごしやすい季節になりつつあった。

 

 

「いい天気だなぁ…」

 

 

朝陽は屋根瓦の上に寝っ転がり、広げた全身で太陽の光を浴びて心地よさそうに目を閉じる。眼魂を手にしてから実体化できるようになり、こうして暖かさも感じれるようになった。幸せだと心からそう思う。

 

 

「あーっ、見つけた!なに寝てるの朝陽くん!」

 

 

千歌の声が聞こえたから姿を消そうとする朝陽だったが、もう屋根上まで来ていた。不意に目が合ってしまい、思わず逸らす。

 

 

「なんで逃げようとしたの!目逸らさない!こっち見る!」

 

「逃げようとしたわけじゃないよー…ほら、千歌ちゃんもどう?一緒に日向ぼっこ!僕が生きてたらやりたかった事、その2!」

 

 

ジト目で責め立てる千歌をなだめるように、朝陽はその手を引いて一緒に屋根上で寝っ転がった。雲一つない空が光をよく届けてくれる。

 

 

「気持ちいいー…」

 

「でしょ?だから怒ってなんてないで、一緒にお昼寝を…」

 

「って、その手には乗るか!寝てる場合じゃないじゃん!てゆうか、なんで朝陽くんはそんなに呑気なの!あと4日で……消えちゃうっていうのに!」

 

 

「僕寝れないけどね」といつもの死人ジョークを言おうとしていたが、早々に千歌に本題を持ち出されてしまった。そう、朝陽はあと4日でこの世から消えてしまう。

 

これまでの戦いで朝陽は眼魂を集めてきた。千歌からはムサシ、梨子からはベートーベン、花丸からはグリム兄弟…他にも多くの人との繋がりで眼魂は順調に集まり、他の仮面ライダーである蔵真との共闘、アリオスから眼魂の奪取を経て遂に15個の英雄眼魂を揃えることに成功した。

 

それがつい最近、ラブライブ地区予選ごろのこと。集めた英雄眼魂で叶える願いは「朝陽を生き返らせること」であるはずだった。

 

しかし、グンダリを引き連れた強力な眼魔が眼魂の強奪を狙って強襲を仕掛けてきたのだ。スペクターの協力で眼魔の撃退には成功したが、その激しい戦いに巻き込まれてメンバーは大怪我をし、街も半壊滅状態に。とてもライブができる状況では無くなってしまった。

 

そこで朝陽がグレートアイに願ったのだ

「戦いの被害を無かった事にして。Aqoursにライブをさせてあげて」と。

 

 

「本当はあの時、朝陽くんは生き返るはずだった…私たちのためにそれを…」

 

「僕はいい使い方だと思ったんだけどなぁ」

 

「いいわけないじゃん!そりゃ…朝陽くんが私たちを想ってくれたのは嬉しいよ!でも、ライブなんてまたできた!足だって治ったし街も直せた!でも朝陽くんは……!もう消えちゃうんだよ!?なんで…もっと自分のことを考えてくれないの…?」

 

 

千歌は実体化した朝陽の体に触れ、想いのまま叫ぶ。

背中に受ける太陽はこんなにも暖かいのに、彼の身体は悲しいほど冷たい。

 

 

「僕は…そう思わない。確かにライブは後でできたかもしれないけど、あの日、あの時しかあのライブはできなかった。みんながAqoursとして過ごすこの時間はほんの少ししかないから、一秒一秒の今を守ってあげなきゃ…そう思った」

 

「それが朝陽くんにとって、命より大事なこと…!?」

 

「うん。死人(ぼく)の命なんかよりも、ずっと」

 

 

朝陽の即答に千歌はもう何も言葉が出ない。

 

 

「千歌ちゃんの想いは伝わってるよ。だからそろそろ僕も働こっかなー、できれば生き返りたいのも本当だしね」

 

 

朝陽が霊体化して千歌の体を通り抜け、浮き上がって何処かに飛んで行った。何故かその姿を見れる千歌は、遠くなっていく背中が消えてしまうんじゃないかと目が離せなかった。

 

朝陽の言う事が分からない。少なくとも朝陽があれだけの事をしてくれたのに、Aqoursはあの地区予選で敗退してしまった。

 

想いは誰よりもあったはずだ。その想いは、小さな奇跡すら起こさなかった。朝陽が命を捨ててまで守ったものに、果たして意味はあったのだろうか。

 

 

「わからないよ……」

 

 

______________

 

 

 

朝陽が願いを叶えた後、15個の眼魂はそれぞれ別々の方向に散らばっていってしまった。朝陽が消える日まで夏休みであることを利用し、Aqoursは毎日一日中散らばった眼魂の捜索を続けていた。

 

 

「本当ですか!?…はい、はい!すぐに取りに行きます!

ダイヤさん!沼津の方で白い眼魂っぽいものを見つけたって電話が!」

 

「でかしましたわ梨子さん!武蔵坊弁慶の眼魂に違いありません!こちらも先ほど、果南さんから海中で坂本龍馬の眼魂を発見したと連絡が!」

 

「一気に2つも…!クックック…我が魔力に眼魂も共鳴を始めたようね…」

 

「善子ちゃんは不幸を呼び込むから引き続き待機ずら」

 

「強すぎる力の責任…これが堕天使の罪…ってヨハネよ!」

 

 

2つの眼魂発見報告を、不満そうな善子が表に書き込む。これで見つけた眼魂は10個。遂に2桁の大台に突入した。

 

 

「別の県にまで行ってたらどうしようと思ってたけど、どうやらそこまで遠くに行ってないみたいね。これなら…!」

 

「このペースならあと4日で間に合うはずですわ!善子さん!ネット上で更に情報の拡散を!」

 

「承知!今日のヨハネ生配信でも大々的に取り上げるわ!」

 

「マルも現場に行って探すずら!グリムさんの眼魂なら分かるかも…」

 

 

花丸が外に出ようとすると、前を見てなかったせいで入れ違いの人物と正面衝突してしまった。衝突といっても、身長差があるせいで花丸が彼の胸に頭突きしたような形だが。

 

 

「すまない、大丈夫か」

 

「あぁっこちらこそごめんなさ…蔵真さんずら!?」

 

「蔵真さん!?何故ここに!」

 

「決まっているだろうダイヤ。俺も眼魂を見つけたから届けに来たんだ」

 

 

仮面ライダースペクター、神楽月蔵真。普段は単独行動で群れない彼が持ってきたのは、群青色のフーディーニ眼魂だった。これで11個目だ。

 

 

「独自の方法で眼魂探しを続けていた。俺も朝陽が生き返るように手を貸そう」

 

「全く…少し前まで話もせずにいがみ合っていたのに…」

 

「それはお前達も同じだろ」

 

「いがみ合ってたのは鞠莉さんと果南さんで、わたくしは中立の立場を…!」

 

「まぁまぁ、幼馴染の似た者同士ってことでいいじゃないですか」

 

 

梨子がそう2人を落ち着かせる。蔵真は幼いころに内浦に住んでいた時期があり、今の3年生たちとはそこで知り合って以来の間柄だ。短い時間だったが蔵真にとっては掛け替えのない時間であり、彼女たちを守るために蔵真は仮面ライダーになったのだ。

 

蔵馬は朝陽ともぶつかり合った。怪奇現象管理協会である蔵真は死人が現世に留まっていることを認可できず、朝陽を祓おうとしていたのだ。

 

それだけじゃなく覚悟の方向性も大きく異なり、戦って皆を守ろうとした朝陽とは違い、蔵真はグレートアイの力で「眼魔及びこの場所を脅かす全ての存在の抹消」を叶えることで皆を守ろうとしていた。しかし、朝陽の「眼魔だって命、不必要に命を消し去る以外に道はある」という考えに絆され、彼に力を貸すことを決めたのだ。

 

 

「朝陽は甘い…!だが、俺の生き様を曲げた以上、その甘さで消える事なんて許さん!人の命を想うアイツが生き返れないのは道理が違うはずだ!」

 

「とにかく、蔵真さんがいるなら百人力ずら!マルと一緒にあっちへ探しにいくずら!」

 

「分かった。国木田にも見せてやる、怪奇現象管理協会が解析した超科学の技術…温泉をも掘り当てるダウジング術を!」

 

「やっぱりこの人大丈夫ずらか…?」

 

 

Aqoursやこれまで関わってきた人たちの尽力で、眼魂は驚異的な速度で集まっていた。

しかし、皆が気になっていたのは朝陽の様子。皆が頑張っているから自分も力を尽くすという姿勢は見えるのだが、ただそれだけに見えてしまう。消えるのは自分だというのに、いつも彼が見せる必死さが感じられないのだ。

 

誰も朝陽の気持ちが分からない。朝陽が本当に生き返りたいのかも分からないまま、迫る時間だけが焦りを積みあがらせ、皆を駆り出していた。

 

 

_____________

 

 

人間界とは別の何処かに存在する、赤い空の異界。それが人間界の侵略を企む眼魔たちの世界、眼魔世界。眼魔の多くは真っ黒な怪人かそれにパーカーを羽織った上位種くらいだが、階級の高い眼魔は人間と同じ姿をしていた。

 

 

半袖のジャケットに体を通した若者が、緊迫した空気の中で凛々しい瞳を前に向ける。眼魔世界を統べる大帝、その末子であるこのアリオスも人の姿をした眼魔だ。

 

 

「お呼びですか、兄上」

 

 

アリオスが兄と呼び跪く彼もまた、人の姿をした王族の眼魔。王族の長男、つまり眼魔世界のNo2である。尤も、死という概念がないこの世界では次期大帝など不必要なのだから、長男という肩書は意味を持たない。

 

アリオスが彼を恐れるのは、偏にその冷酷さと他を支配する手腕故だ。

 

 

「此度の失敗の件でしょうか。それならば必ず眼魂を奪取し…」

 

「その話は必要無い。力の根源を手中にしている我らが恐れる必要も手を出す必要も無い。英雄眼魂は捨て置け」

 

「…っ、しかし!」

 

「人間界の侵略に不必要だと言った。よってお前の失態に私は一切の興味を持たない」

 

 

英雄眼魂を奪われゴーストに願いを叶えられた。また、部下が勝手にやったこととはいえグンダリを浪費した挙句敗北した。心当たりのある失態のどれも咎められず、彼は淡々とアリオスに言葉を返す。

 

 

「では、なぜ私を…?」

 

「念を押すためだ。もういいだろ、アリオス。お前が我々の意に背き勝手なことをしているのは分かっている。十分に勝手ができてもう満足だろう」

 

「…お言葉ですが、英雄眼魂は十分脅威になり得ます。それにゴーストとスペクター、この両者はいずれ必ず我々の障害になるのは明白。今のうちに消しておくのが得策かと……!」

 

「私が無駄だと言ったのだ。二度と言わせるな。

私が言っていることが分からないか。アリオス、我々がお前を育てあげたのは戦力として使うわけでも、ましてや大帝の真似事をさせるためでもない。確認するが、人間界の征服は目的ではなく単に近づく『事象』だ。それまでに役割を請け負う準備をしておけ」

 

 

それ以上は兄の機嫌を損ねると感じ、アリオスはすぐさま席の前から立ち去った。

 

兄は他者を道具や駒、もしくは環境を取り巻く『要素』としか見ていない。思い通りにいかないモノを盤上からはたき落とし、必要な結果だけをそこに再現する。そういう概念かシステムと考えた方が自然に思えてしまう。

 

 

「やはり兄上に人間界を任せるわけにはいかない。あの世界は私が手に入れる。もう…時間が無い……!」

 

 

兄の目指すのは『維持』、アリオスが目指すのは『完璧』。その考えの違いだけは明確だ。少なくともこんな赤い空の世界を、アリオスは完璧だとは思っていない。

 

やはり大帝になるしかない。そして英雄眼魂はそのための力だ。

 

 

_____________

 

 

 

そして、眼魂を探すこと更に2日。募る想いとは裏腹に発見速度は失速し、あれから見つかったのはロビンフッドの眼魂と卑弥呼の眼魂のみ。

 

善子が書き入れていた眼魂発見表に丸が2つ未記入なまま、カレンダーの×印も未記入が2つに並んでしまう。

 

残された時間はあと2日を切った。しかも、ここに来て天候は最悪の豪雨。これでは満足に外にも出られない。

 

 

「Heavyなrainね…もう時間がないっていうのに…」

 

「もし雨が止んだとしても、思い当たる場所は既に探し尽くしましたわ。情報提供の連絡も無い。これ以上はもう……」

 

「お姉ちゃん…」

 

 

あの日、朝陽が願いを叶えた直後に15の眼魂は飛散した。それがかなり遠くに飛んで行った可能性もあるし、誰かが拾って黙っている可能性もあるし、海に落ちて流されてしまった可能性もある。見つからない理由なんていくらでも思いつく。

 

警察でもあるまいし、それらの可能性を全て調べ潰すのは不可能だ。

 

 

「だったらもっと探す範囲を広げよう。もっと街の方や、遠くの海。あと2日もあるんだよ、今すぐ探しに行けば間に合う!」

 

「千歌ちゃん!」

 

 

この豪雨に飛び出そうとする千歌の腕を曜が掴み、黙って首を横に振る。

誰だってそれが無謀と分かっている。それでも、そうでもしないと朝陽は……

 

 

「…ごめん。でも、諦めれないよ。諦めたくない。朝陽くんには絶対生きて欲しいから……!」

 

「落ち着け高海、その想いは皆が同じだ。動けないなら策を講じればいい。今できることを積み重ね、朝陽を救うんだ」

 

 

蔵真はそう諭すが、その朝陽が姿を見せないのが少し気になりはする。幽霊だからこの天候でも探しに行けるといえば、そうなのだが。

 

やり場のない焦りをを少しでも紛らわそうと、千歌は部室から体育館に出て深呼吸。このまま息を吐きだせば、一緒に叫びが出てしまいそうだ。しかし、その寸前に千歌はその息を思わず飲み込んだ。

 

 

「高海千歌、それに桜内梨子。怪我は治ったようでなによりだ。

全員揃っているな。そしてゴーストはいない…好都合だな」

 

 

外から来たのか、雨水を床に落とすアリオスがそこに立っていた。

蔵真が一気に臨戦態勢へ。何せ、アリオスはこれまでに何度も戦ってきた、Aqoursにとっての「敵」なのだ。

 

だが、その警戒は数秒後に驚きへと塗り替わることになる。

アリオスが取り出した2つの眼魂───グリム眼魂とサンゾウ眼魂によって。

 

 

「お前たちが探しているのはコレだろう」

 

「グリムとサンゾウの眼魂…!お前が持っていたのか!」

 

「あれで15個全部…お願い!それを貸して!それが無いと…朝陽くんが生き返れない!」

 

「驚いた、まさか既に13個も見つけていたのか。それなら話が早い。私も、最初からそのつもりで来たんだ」

 

「本当!?」

 

「騙されるな高海!眼魔世界の者だ、そんな旨い話があるわけがない!」

 

 

肌を刺すような敵意を剥き出しにする蔵真。それは蔵真だけじゃなく、ほとんどのメンバーもそうだ。

 

 

「そう激昂しないでくれスペクター。当然、タダで渡すわけでは無い。私はお前達と取引がしたい」

 

「取引だと?」

 

「私はこの2つの眼魂を渡し、願いを叶える権利を譲る。

その代償として要求するのはたった3つ。散らばった眼魂を集めるのに協力すること。次に願いを叶える権利を私に譲渡すること。金輪際、()の邪魔をしないこと。それだけだ。それ以降の協力は必要無い」

 

「馬鹿な。信じられると思うか?眼魔の言うことを」

 

「私は嘘をつかない。私の願いが叶うのならばゴーストの命を蘇らせるのを見送るし、邪魔をしないのであれば未来永劫お前たちの身の安全すらも保障してあげよう。スクールアイドルとやらも、好きなだけ続けるといい」

 

 

信じるに値するかどうかは置いておいて、聞いた限りでは悪い話ではない。朝陽が生き返ることを思えば、大抵の事象は許容の範囲だ。

 

本音を言えば今すぐに首を縦に振り、アリオスの手を取りたい。しかし、一つだけ確認しなければいけないことがある。はやる気持ちを抑え、千歌はそれを訪ねた。

 

 

「嘘つかないんだよね?だったら教えて。あなたは…どんな願いを叶えたいの?」

 

 

アリオスも朝陽や蔵真と同じく、英雄眼魂の収集者。何か一つ、その戦う理由を構築する大きな願いがあるはずだ。

 

アリオスはそれを隠そうともせず、一つの呼吸さえ挟むことなく答えた。

 

 

「私はこの世界を愛している。故に、他の王族…兄上たちの手にこの世界を渡したくない。私は、この美しい世界を『保全』したいのだ」

 

 

帰ってきたのは予想よりも澄んだ答え。これなら任せられる。千歌の目が輝いた。

しかし、そこで踏みとどまった。これまで敵対してきた過去が千歌を引き留めた。

 

そして、アリオスの言葉は続く。

 

 

「だから私はグレートアイで力を手に入れる。兄上も、他の存在全てをも撥ね退ける絶対的な力。そうして私は完璧な存在になり……

 

この世界を私が永遠に支配し、管理する。完璧な美しい世界を私が作る。『全てを支配する力』、それが私の望みだ」

 

 

千歌の、いや千歌だけじゃない。誰しも言葉と呼吸を思わず止めた。

アリオスの言葉から悪意は全く感じない。この願いが曇りのない最善だと信じている、そんな様子だ。

 

世界が違えば分かり合えないのか。アリオスが掲げたのは余りに歪で、稚拙な危険を孕んだ願いだった。

 

 

「じゃあ…やっぱりやめる。あなたの力は借りれない」

 

「なに…?どういうことだ。私の話のどこに不満がある」

 

「あなたにとっての完璧な世界ってなに?」

 

「我々の世界のように、全ての民が老いることも死ぬこともない、苦痛を感じることもない。変わらぬ幸福が永久に続く世界だ」

 

「うん…やっぱり違うよ。変わらないって良いなって思うことは多分あると思うんだけど、それじゃきっと輝けないって思うんだ」

 

 

千歌がアリオスの言葉を否定して突き返す。

 

 

「私も、そう思う。ここまで苦しいこともあったけど、だから見えたものや聞こえたものもある」

 

「そうだね。ちょっと悩んだりして間違えそうになったことも…今は必要な事だったって思うし」

 

「えっ、曜ちゃん悩みとかあったの!?」

 

「あーっはは…ごめん、こっちの話だから…」

 

 

千歌に梨子と曜も続く。他の皆もAqoursの一員になるまでに何かしらを飛び越えて来たのだ。完璧な世界では存在し得なかった歴史が、そこにはある。

 

アリオスの表情が不快を示す。もはや人間を見ているとは思えないような顔で、それぞれの言葉を鼻で一笑に付した。

 

 

「理解できない。完璧を拒むことに何の意味がある?」

 

「別に分からなくても構わない。要はお前を倒し、その眼魂2つを奪い取ればいいだけの話だ。下がっていろ!」

 

 

交渉決裂は明らか。もっとも、蔵真は最初からそのつもりだったようで、既にドライバーと眼魂を構えていた。

 

 

《アーイ!》

《バッチリミロー!バッチリミロー!》

 

「変身!」

 

《カイガン!スペクター!》

《レディゴー!覚悟!ド・キ・ド・キ・ゴースト!》

 

 

青ラインの入った黒いパーカーを素早く羽織り、二本角の鼓動する亡霊───仮面ライダースペクターへと変身。『見る者』とは音ばかり。彼が取るのは一に武力行使と決まっている。

 

アリオスも戦闘態勢に入ろうと、腰に手をかざそうとする。

しかし、それよりも先にスペクターの体が弾かれた。

 

アリオスとスペクターの間で壁となったのは、こちらも見慣れた顔。見て呉れから戦闘員と分かる洗練された闘気は、もはや彼の代名詞。

 

 

「アリオス様に近寄るな。下界人風情が」

 

「貴様…!ジャレス!やはり生きていたか!」

 

「ジャレス…私の前に現れるなと言ったはずだ。お前の勝手な行動を許した覚えは無いぞ」

 

「心配はいりません、アリオス様。直ちにこの不届き者を排除致します」

 

 

眼魂を強奪しようとグンダリを使って街を一度破壊したのは、他ならぬこのジャレスという男だ。その際に人間の不要な犠牲を良しとしないアリオスの怒りを買ったのだが、ジャレスは話を聞いていない。

 

ジャレスが眼魂を起動し、その姿が青い体の上位眼魔『眼魔スペリオル』へと変わる。ジャレスは更に別の眼魂を体に埋め込み、新たな力を纏った。

 

眼魔は英雄眼魂を模倣したシステムで、仮面ライダーのようにパーカーを纏う。

 

 

青い体の上から赤黒い鱗を帯びた朽ちたパーカーを纏った。

ジャレスは眼魔世界の一級兵士。纏う英雄の力は、ドラキュラ伯爵の逸話を生んだ言われる15世紀を生きた君主。

 

通称「串刺し公」ヴラド・ツェペシュの力を持った、眼魔スペリオル・スピアがスペクターに牙を向ける。

 

 

「一度は敗北したが…スペクター、貴様一人なら恐れるに足らない」

 

「死なないというなら、何度でも叩き潰す!闇に還してくれる吸血鬼め!」

 

 

_________________

 

 

「雨かぁ…今日は沼津の方でお祭りあるから、皆で行きたかったんだけどなぁ。いや、来てくれないかな」

 

 

透ける体で雨を避けながら、他人事みたいに朝陽が呟く。自分が消えるまであと2日だというのに、彼は誰よりも呑気なままだった。近づけばもう少し焦るものだと思っていたから、朝陽自身も驚いている。

 

 

「不思議だよね。あの時…千歌ちゃんに見つけてもらうまでは、あんなに生きたかったのに。今は何が何でも生き返りたいって、そう思えなくなってる。今はもう蔵真がいて、Aqoursも軌道に乗ってきて、僕がいなくても大丈夫って…そう思ってるからかな?」

 

 

もし眼魂が15個あっても、別に叶えるべき願いがあるんじゃないかと、そう思ってしまう。皆が頑張ってくれているのに自分勝手だとは思う。

 

でも、朝陽はとっくに死んだ人間なのだ。

昔の事を思い出すたびに考える。意味もなく生き、意味もなく死んだだけの男が現代に生き返る価値なんて、きっと無い。

 

 

「……!この感じ…!ジャレス!?」

 

 

物思いにふけっていた朝陽を現実に引き戻す、眼魔の気配。

結末がどうあろうと、朝陽は最期まで彼女たちを守り続ける。それだけは揺るがない。

 

 

______________

 

 

浦の星からスペリオル・スピアを追い出すことに成功したが、状況は一方的。前の戦いではゴーストとスペクターで協力してやっと撃退したのだから、スペクター単身で敵う相手ではない。

 

 

「ゴーストハンターもやはり所詮は下界人。程度が低いな」

 

「黙れ眼魔!」

 

 

スペクターがガンガンハンドを振りかざすが、スペリオル・スピアの足元から生えた鋼の杭がそれを弾く。

 

この眼魔の能力は自身が触れた場所、主に足跡からの棘の生成。マーキングした場所は全て把握しているため気を付けてはいるが、能力が極めて強いだけあってそれも限界がある。

 

何より注意力が割かれるのは致命的。棘攻撃の素振りを見せフェイントに引っかかったスペクターに、スペリオル・スピアが拳を叩き込んだ。

 

 

「ッ…!?マズい!」

 

「耐えてみせろ。脆弱な下界人」

 

 

吹き飛ばされた先は少し前に戦っていた区域。つまり敵の未使用の足跡が山ほど残ったマーキング地帯だ。

 

足跡から棘が発射される。ギリギリで飛び込んできたコブラケータイでガンガンハンドを鎌モードに変形させ、その連射を次々に弾いて斬り落とす。

 

 

「凌ぐか。しかし、それもいつまで持つかな?」

 

「蔵真!」

 

 

そこに朝陽が現着。追い詰められるスペクターに加勢しようとするが、スペクターは別の方向を指さす。その先には千歌たちとアリオスが。

 

 

「アリオス…!皆から離れろ!」

 

「ゴーストか。貴様がいると交渉にならない。失せてくれ」

 

「その2つの眼魂…そういうことか!眼魂を持ってるのは僕だ!狙うなら僕を狙え!」

 

「朝陽くん!?」

「なんで言っちゃうのよバカー!」

 

 

朝陽の言葉でアリオスの注意が逸れるが、Aqours側も朝陽を庇っていたのだから想定外。善子に関しては罵倒気味に呆れていた。

 

その情報はアリオスにとっては好都合だ。非戦闘員の一般人ならともかく、仮面ライダー相手ならば遠慮なく実力行使できるというもの。

 

 

「ゴースト貴様!誰の許可を得てアリオス様に近寄っている!」

 

「黙れジャレス!元よりお前の力を借りるつもりはない。

貴様が眼魂を持っているというなら、私の手で奪うまでだ」

 

 

朝陽がゴーストドライバーを出現させ、オレ眼魂を起動。同じくしてアリオスも同様に、その腹部にゴーストドライバーを出現させた。

 

 

《アーイ!》

《バッチリミナー!バッチリミナー!》

 

「変身!」

 

《カイガン!オレ!》

《レッツゴー!覚悟!ゴ・ゴ・ゴ・ゴースト!》

 

 

朝陽が仮面ライダーゴーストへと変身すると、アリオスも黒い眼魂を構える。ただし、その瞳の色は緑色。起動して浮かび上がるのは、0を模した『N』の文字。

 

 

《アーイ!》

《バッチリミイヤー!バッチリミイヤー!》

 

 

「変身」

 

 

ドライバーに眼魂をセットし、解放された緑のラインの黒いパーカーが宙を舞う。粒子を纏って『トランジェント』へと変わったアリオスの体に、パーカーが覆い被さった。

 

 

《カイガン!ネクロム!》

《ヒウィゴー!覚悟!ド・ロ・ド・ロ・ゴースト!》

 

 

3人目の仮面ライダー。翠の脈打つ亡霊───仮面ライダーネクロム。

これまで何度も立ち塞がって来た、ジャレスを超える難敵。凌いだことはあれど、勝利したことは未だ一度も無い。

 

 

「今日こそ私の理想を果たす。消えてもらうぞ、ゴースト!」

 

 

ネクロムから仕掛ける。ゴーストは質量を感じさせないような体捌きで攻撃を流すが、ネクロムの攻撃もまた流動的で無駄がなく絶え間ない。

 

 

「っ…ガンガンセイバー!」

 

「遅い。その程度は読めている」

 

 

手元に出したガンガンセイバーが一瞬でネクロムに奪われ、逆に斬り付けられてしまった。更に、剣を捨てたネクロムはゴーストに強烈な掌打。魂にまで響くような衝撃が、体を貫通した。

 

 

「ロビンフッドさん!」

 

「グリム」

 

 

互いに緑の英雄眼魂をドライバーにセット。ロビンフッドのパーカーと操られたグリムのパーカーが空中でぶつかり合い、それぞれが主と一体化する。

 

 

《カイガン!ロビンフッド!》

《ハロー!アロー!森で会おう!》

 

《カイガン!グリム!》

《心のドア!開く童話!》

 

 

浮遊はゴーストの特権。ガンガンセイバーを拾ってコンドルデンワーと連結、アローモードにして空中からの遠距離攻撃で制圧を狙う。

 

ロビン魂の力で寸分違わぬ精密射撃を次々に決める。しかし、ネクロムの対処はそれ以上に完璧を極め、伸縮自在の触手『ニブショルダー』で空中のゴーストに反撃する。

 

 

(ロビン魂には分身能力がある…背後からの不意打ちが決まれば…!

……いや、今はとにかく凌ぐんだ。蔵真と千歌ちゃんたちを連れて逃げないと!)

 

 

ゴーストは完全に防御の姿勢。なんとか隙を作って皆を救出できれば、後は分身能力で煙に巻く。それまでこの能力は見せないままにするべきだ。

 

 

「崩せないか…手法を切り替える。コレを持ち出して正解だったな」

 

「それは…!16個目の眼魂!?」

 

 

ネクロムが出したのは深紅の眼魂。英雄眼魂は15個と聞いている。あんな眼魂は見たことが無い。

 

 

「人間界の天文学者、ガリレオガリレイの眼魂だ」

 

「ガリレオって地動説の!?ちょっと朝陽!16個目があるなんて聞いてないよ!?」

 

「僕だって知らないよ果南ちゃん!確かに英雄眼魂は15個、その眼魂は()()()()()()()!」

 

「我々が独自に開発した眼魂だ。他の英雄眼魂とはルーツが異なる。

残念ながらグレートアイに干渉は出来ないが、今ここで貴様を倒すには効果的」

 

 

ネクロムがガリレオ眼魂をドライバーにセット。パーカーゴーストが望遠鏡を構えるようなポーズを取り、ネクロムのトランジェントを覆い包む。

 

 

《カイガン!ガリレオ!》

《天体!知りたい!星いっぱい!》

 

 

顔に表示された望遠鏡と月のシンボル。土星の環を帽子のように被り、星座が輪郭を描く深紅のパーカー。仮面ライダーネクロム ガリレオ魂。

 

 

「知っているはずだ人間。空というのは、天文学者の領域だと」

 

 

宙を浮かぶゴーストの周囲に複数のエネルギー球が現れた。それらはゴーストを中心に円運動を続けており、その様はまさしく惑星運動。

 

これが邪魔で仕方がない。ただでさえ障害物で狙いが定まらないのに、それぞれエネルギー球が引力を持っているため狙撃が引き寄せられてしまう。完全な狙撃手殺しの一手だ。

 

 

「今、この惑星はゴーストを恒星として公転している。もしその公転が止まればどうなるか…分かるか?」

 

「どうなっちゃうの果南ちゃん!?」

 

「えぇっと…朝陽に引力が働いて公転してるなら…」

「公転の力と引力が釣り合っていることになりますわ。つまり、公転が止まれば…!」

 

 

心配が先に立ち千歌が思わず果南に尋ねる。

真っ先に答えに辿り着いたのはダイヤだったが、その先は誰もが察することができた。

 

公転が止まる。引力に逆らう力が消滅し、全ての惑星がゴーストに引き寄せられ衝突、爆発した。

 

だが、なんとか変身を維持するゴースト。空中で持ちこたえ、惑星が消えた隙に反撃を試みる。

 

 

「まだ落ちないとはな。だったら、私から向かってやる」

 

《ダイカイガン!ガリレオ!》

《オメガドライブ!》

 

 

またしてもゴーストの周囲に惑星が出現。しかし、今度は一番外側の地面を貫く軌道にネクロムが乗っていた。

 

その円が描く通りにネクロムも動く。つまり、宙を移動する。

ネクロムが起動の頂点、ゴーストの上空に達した瞬間、他の惑星も合わせて一列に並び直線を形成した。

 

ネクロムが外側の惑星を蹴り飛ばすと、その惑星は次の惑星を取り込み、その次も、その次もと次々に巨大化し、最後にゴーストを飲み込んで大爆発。変身が解かれた朝陽が地面に伏した。

 

 

「朝陽くん!」

 

「千歌ちゃん!来ちゃ駄目だ!

大丈夫…僕はまだ戦える。早く皆と逃げ…て……?」

 

 

千歌が駆け寄りその手を取ろうとしても、すり抜ける。

朝陽がわざと透過しているわけじゃない。実体化できないのだ。朝陽という存在が薄れていくのが分かる。

 

 

「朝陽くんが消える…!?なんで!あと2日もあるはずなのに!」

 

「何を驚く?仮にも一度グレートアイの力で願いを叶えたのだ、48時間程度の時間が奪われたって代償としてはむしろ安いくらいだ」

 

「そっか…やっぱ神様、そんなに優しくないか。ごめんね。なんかまた責任背負わせちゃったみたいで…」

 

 

千歌以外のメンバーにはもう朝陽は見えず、声も聞こえない。白い羽根が舞い落ち、千歌から見ても朝陽の体が光の粒子になって消えていく。

 

 

「いやだ…消えないで…!消えるな!死なないで朝陽くん!」

 

「そうだね、こんな時に…消えたくは無かったかな。本当にごめん。皆があんなに望んでくれたのに、生きてあげられなくて……」

 

「違う…違うよ!朝陽くんは、ずっと……!」

 

 

最期に見る景色だというのに酷い曇天だ。

お似合いかもしれない。ずっとそうだった。太陽は彼にとって、あまりに眩しすぎるから。

 

 

朝陽の体が景色に溶けて消えた。

 

 

___________

 

 

───約80年前

 

 

僕に『朝陽』と名付けた誰かは、きっと余程の屑野郎か大馬鹿に違いない。

 

その男児は一般的な民家に生まれた。しかし、その体は普通とは言い難かった。

体が異様に脆いのだ。腕や脚は走ることにも耐えられない有り様だが、特に酷いのは皮膚。太陽の光を浴びるだけで焼かれてしまうため、日中外に出る事すらできない。

 

率直に言って厄介者だろう。彼が生まれた家は裕福でもなかったし、親はそれほどの人格者でもなかった。医者に見せて治せないと知ったら、両親は泣きながら彼を山小屋に置いて逃げた。

 

 

あれから数年。親心のつもりか近くの住民に食料を届けるよう頼んでいたらしく、なんとか食い繋ぎ幸運にも生き延びてはいる。

 

もっとも、あれ以来親は一度も会いに来ないから、きっと死んでも構わないと思っているに違いない。そもそも脆い朝陽を山に捨てるような親だ。考えるだけ無駄だったか。

 

 

「死んだらいいのに」

 

 

息する以外することがなく、屋根の下で自然に出てくるその言葉。

親に向けられたものか、幸せに生きる他人に向けられたものか、自分に向けられたものか。幼く弱い体で出来るのは恨むことだけ。

 

小屋の戸が開いた。食料を届けに来たのだろう。入口は朝陽のいる部屋から離れており、届けに来る者の顔も見たことがない。あちらも会いたくないだろうし、大した興味も無い。

 

しかし、その日は少し違った。すぐに消えるはずの足音が遠のくどころか近づいて来て、その妙に強い足音と呼吸は朝陽の所にまでやって来てしまった。

 

 

「うおおおぉ!出たな妖怪…っ!?人じゃんか!あれ!?話が違う!」

 

「人…だけど」

 

「喋った!」

 

「喋れる、一応…」

 

 

声の勢いだけで朝陽が吹いて飛ばされ、そのまま死んでしまいそうな活気。自分以外の声を聴くのは久しぶりで、鼓膜がジンジンと痛む。

 

 

「おじさんがいっつも知らないとこに食べ物持ってっててさ、腰やったから代わりに行ってこいって言われてよ!そんで言うには山の妖怪にあげるって…あれぇ、言ってたっけ!?言ってたような気がするんだけど!」

 

「声、大きい」

 

「ごめん!お前なんだ!?なんでこんなとこいるんだ?」

 

「僕は…朝陽。体弱くて動けないし、太陽の下も歩けないから捨てられた…」

 

「なのに朝陽か!面白いな!いい名前なのに勿体ない!

俺は一晴!高海一晴だ!よしお前、俺の友達な!また会いに来るぜ朝陽!」

 

 

話を聞かず一方的に見つけて友達にしてきた。

これが朝陽の親友にして千歌の曽祖父、一誠との出会いだった。

 

今思うと随分と千歌に似ている。それにしても長い走馬灯だ。

今一度噛み締めるべきという事だろう。己の存在が、いかに命に値しなかったのかを。

 

 

 




後編に続く。
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