仮面ライダージオウ~Crossover Stories~ 作:壱肆陸
仮面ライダーカイザに変身した青年。25歳。白髪。元は二等捜査官だったが、カイザギアに適合した上に対オルフェノク戦闘に異様な適性を示したためオルフェノク対策課の特等捜査官に異例抜擢された。自分以外全ての人間の内外を汚いと断言する病的な潔癖症で、自分の清潔と安全と平穏を何より尊重して行動する。基本的に他人を一切肯定しない。2003年ではミカドのジクウドライバーだけを回収しようとあらぬ疑いを捏造し捜査官を仕向けたが、令央に敗北した。カイザのウォッチは令央が所持している。
本来の歴史では・・・ミナトが死のうがオルフェノクが事変を起こそうが、どんな手を使ってでもしぶとく生き残り、特等として一定の地位を保っている。
ドンブラザーズ面白いですね(今更感)、146です。
未来からの来訪者も特に気にはせず、魔法使いたちがいつも通りで動きます。ダンになにがあってなにを思っているのかとかに注目した方がいい気もするし、そんな気にせんでもいい気も…
今回も「ここすき」をよろしくお願いします!
「さぁ、食事の時間だ!」
めちゃくちゃ目の前に敵がいるのに何を言っているのか。
そんな事は一切気にせず、仮面ライダービーストは多数のグールとファントム「レヴァナント」目掛けて走り出す。
構える剣は魔法剣「ダイスサーベル」。獣のように低い体勢から、荒々しい刺突が繰り出される。
「貴様が古の魔法使い…知っているぞ…その内に飼うファントムを解放しろ…」
「俺も知ってるぜ。牛乳とたくあんでコーンスープになるけど、コーンスープから牛乳引いてもたくあんはできないってことはな!」
さっきから会話が成り立っていない。どうやら彼と分かり合うためには拳を交える必要がありそうだ。
《バッファ! ゴー!》
《バッバ・ババババッファ!》
「沖ノ島行き特急便、出発進行!」
ビーストが自身のアンダーワールドに飼うファントム「キマイラ」は、様々な生物の力を宿した存在。ビーストは指輪を介してその一部を引き出し、帯びることができる。
右肩に「バッファマント」を纏い、猛牛の力を宿したビーストは熱を発しながら猪突猛進。猪ではなく牛なのだが。しかし威力は凄まじく、魔力を帯びたぶちかましは触れたグールを粉々に粉砕する。
そうしてあっという間に全てのグールが撃破され、解放された魔力がビーストドライバーに吸い込まれていった。
「お前らとの日々は忘れねぇぜ…ごっつぁん!」
「魔力を喰うか…我々とは相性が悪い…」
レヴァナントは死したファントムの魔力で能力を発揮するネクロマンサー。魔力そのものを喰らって無に還すビーストの相手は得策ではないと、影に紛れて消えて行った。
「おっと逃がしちまった。仕方ない、一期一会と一日一膳は台風一過っていうしな!」
「なんなんだ貴様…! あのファントムは俺の相手だ、何故邪魔をした!」
戦いに割って入る前にファントムに逃げられてしまい、ミカドはビーストに憤慨をぶつける。しかし、お察しの通り仮面ライダービーストこと不二崎俊にそんな道理は通用しない。
「何か悩みでもあるのか、ボウズ?」
「…そんな事、貴様には関係ない!」
「悩んだときには星に語り掛けろ。大事な三つの星は北極星、太陽、あと…かつお節だ!」
さっきも聞いたし、なんか違うし、なんなら星ですらなくなった。元々星ではなかったけど。しかもそのまま走って去った。乗って来た馬を放置するなと大声で言いたい。
「何なんだ…馬鹿馬鹿しい…!」
ファントムに吹き飛ばされたっきり、気を失って馬に顔を舐められているサターニャもそうだったが、どうしようもない袋小路で見つけた答えもよく分からない奴らに邪魔されて無意味になる。
この時代の全てに馬鹿にされているように感じた。今まで行ったどの時代よりも、生き辛い世界だ。
「いや、それを言うなら死に辛い…か」
______________
「ヴィーネちゃん、この時代のガヴさんも…やっぱりもう自堕落?」
「そうね…昔のガヴも知ってるんだ。私も結構頑張ったつもりなんだけど…」
一方、香奈は知り合った悪魔のヴィネットことヴィーネと共に、この時代のガヴリールの家へと向かっていた。しかしガヴの話をするとヴィーネが分かりやすく落ち込む。あの性格と一緒に過ごせば、苦労事も多いのだろう。
「天使も風邪引くんだ。なんか意外っていうか…聖なるバリアーっ! とかで守られてるイメージだったのに」
「私も一回風邪引いたことあるけど、悪魔も風邪引くんだって思ったわ。ていうか、なんか新鮮で楽しいわね。人間の子と天使悪魔談義できるのって」
それから先も「悪魔でも風邪ってしんどい?」とか「あれの薬まで作る人間ってなに!?」みたいな会話に華を咲かせるふたり。人懐こい香奈もそうだが、こういう青春的な時間が好きなヴィーネも楽しそうにしていた。
そうしていると当然、時間も早く過ぎる。ガヴの家の前まで来たのだが、その付近でコソコソと隠れていた人物がいた。
「あれ…木村くんよね?」
「つ…月之瀬…さん。こんにちは…っ」
「知り合い?」
「同じクラスの男子なんだけど…どうしたの、こんなところで?」
「い、いや、なんでもない…じゃなくてえっと…天真さんに…!」
ヴィーネの同級生という木村は、チラチラとガヴの部屋を見ては、手元の袋に視線を移し替える。それが気になった香奈は遠慮せずに袋の中身を覗き込んだ。
「やっぱなんでもない! さ、さよなら!」
そう言い残して、木村は逃げるように去ってしまった。しかし香奈は袋の中身を見て彼がここに居た理由を察し、ニヤついた顔でヴィーネに耳打ちする。
「さっきの男の子、千羽鶴…持ってたよ! これってひょっとして…」
「千羽鶴……! って、あの病気が早く治りますようにって鶴を千羽も折るっていう、人間界のおまじない!? ガヴただの風邪なのに!? ていうかガヴに!?」
「人間の恋心ってのはなかなかフクザツなんだよねぇ…思いの強さが奇跡を起こすっていうし、ガヴさんもう治ってたりするかも!」
恋バナの波動を感じて活性化した香奈は、ヴィーネを引っ張ってガヴの部屋に。寝てる可能性があるからとヴィーネは合鍵で部屋を開けたが、なんで彼女が合鍵を持っているのかはなんとなく察せたので聞かなかった。
そして部屋は案の定の汚部屋。人の往来がある分2018年よりはマシだが、依然として人が暮らす部屋の有り様ではない。また、肝心のガヴリール自身は風邪だと聞いていたのだが……
「ガヴ……!」
「おっ、ヴィーネ…いいとこに…ちょっとこのクエストだけやってくんない…? 周回イベだからヴィーネでも…痛ぁ゛っ!?」
ベッドの上でノートパソコンを開き、ふらふらになりながらネトゲをしていたガヴ。ヴィーネはそれを見るや否や、ぶっ叩いて強制的に寝かしつけた。動きに一切の無駄のない達人芸だ。
「ちょっと、私病人だよ…? 叩くことないだろ…」
「ちゃんと寝てろって言ったわよね!? パソコン禁止!」
「はぁ!? 期間限定イベントやってんのに! これ逃したら今度はいつ復刻するか…!」
「禁・止♡ わかったわね♡」
「はい。」
ヴィーネが笑ってない目で槍を出したので、ガヴも折れた。そこで初めて気づく、部屋の中の知らない顔。
「そういえば、誰? あー…もしかして風邪治すための生贄?」
「生贄っ!?」
「いやや、そんなわけないでしょ!?」
「ヴィーネも悪魔らしいことできるようになったじゃん」
「ヴィーネちゃん!!?」
「だから違うわよ! 香奈さんは…説明に困るけどただの…友達だから! うん、友達!」
「友達ぃ…? なに勝手にウチのヴィーネに手を…ゲホっ! エホッ!?」
「ガヴ!? ほらもうゲームなんてしてるから…えっと、こういう時には…」
ガヴが急に咳き込み始め、額に触れるとヴィーネがさっき確認した時よりも熱くなっていた。熱が全く下がっていない。ヴィーネも風邪を引いた経験が一度のみなので、調べたと言っても焦って対処に困ってしまう。
そんな時、香奈は速やかに水の入ったコップを差し出した。
「コップが完全に乾いてたし、ガヴさん水飲んでないでしょ! 風邪引いた時は水分補給大事!」
「へ…? あ、はい…」
「あと布団もちゃんと羽織る!」
「だって暑いし…体熱いなら冷ました方がいいだろ普通…」
「理屈は知らない! それはそれ、これはこれ!! いいから毛布被って寝る!」
「なんなの? 押しかけ女房第2弾?」
放っておくとガヴは自滅の方向を辿るため、その後も二人がかりでなんとかガヴを布団に収めることに成功。気のせいも多分に含まれるだろうが、症状も多少は落ち着いたようにも見える。
「助かったわ香奈ちゃん。私だけじゃどうすればいいか分かんなかったし…」
「いやーソウマっていう幼馴染の男の子もよく風邪になってて。両親が留守がちな家だったんで私が看病してたんですよねー。ふふん」
「それにしてもガヴの熱全然下がらないわね…私の時は一日休んだら治ったんだけど…」
「いやいや、こんなの一日で治るわけないでしょ…頭や喉どころか体中なんか痛いし、食欲も全然出ないし、鼻水すごいし…軽く地獄だよこんなの」
「じゃあなんでゲームしてたのよ」
「ん…? それって風邪じゃなくて、インフルエンザでは…?」
インフルエンザという単語に疑問符を浮かべる天使と悪魔。意外なところの天上天下カルチャーショックだ。どうやら知らない様子なので、香奈が知る限りの知識を話してみた。
「……この症状が1週間…!? で、下手すりゃ死んで、こんなのが人間界じゃ毎年大流行!? バカなの? 死ぬの?? こういう疫病関係は魔界管轄でしょ。なんてもん作ってくれたんだよ魔界…」
「今はもうそういうのやってないから! でも大丈夫よね!? ガヴ死なないわよね!?」
「基本お薬飲んでればなんとかなるし、早く病院に行った方が……あ、でも天使って病院に行っても大丈夫なのかな?」
「ま、お仕事って意味じゃ、しょっちゅう行き来してるけど」
「おいこら縁起でもない」
「でも病院って金かかるじゃん面倒くさい。だったらラフィに魔法で治してもらうよ。白羽家って治癒魔法で有名だし」
「ダンはそういう魔法使えないけど、確かにラフィなら…あ、そういえば香奈さんは大丈夫なの!? 人間だし、これって感染るんじゃ…」
「それなら大丈夫。私、病気とか風邪とか一回もなったことないし!」
天使も悪魔も風邪を引いたというのに、人間の香奈が一番丈夫なのは何かの不条理を感じた。そこで二人の頭にある赤毛の悪魔の顔と一緒に浮かぶ人間界の言い伝え。
「バカは風邪を…」
「ガヴ、ストップよ」
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時は遡り、壮間が向かった時間へ。
こちらの時間では果てしなく弱気なダンは、天使に魔法使いとしての責務を押し付けようと画策。壮間と共にこの時間のガヴリール(あと一応ルシフェル)を探していた。
「天使に頭下げるのって、悪魔的に大丈夫なんですか?」
「プライドなんかで保身が買えるなら喜んで買うよ、俺は」
「言い切りましたね」
ダンが魔法使いになった経緯はどうやら「お家の事情」らしく、実力も魔力も伴っていないが仕方なく嫌々でやっているらしい。魔界もなかなかに世知辛い。
「で…タプリスさんに教えてもらった住所は、多分この辺り…」
手書きの地図を見て一軒のアパートに到着。問題はどの部屋がガヴリールの部屋なのかだが、壮間が首を捻っているとダンがバシバシと肩を叩く。何かと思ったらダンは顎を震わせながら壮間の背後を指さしており、その先から感じる光のオーラ。
振り返ると気品と清廉でできたような圧倒的美少女がいた。後光すら感じるというか、多分何かしらの光は本当に発している。見ているだけで浄化され、思わず膝をついて祈りたくなるような凄まじい天使の品格。
「ガヴリールさん………!?」
「あの…私になにかご用ですか?」
「誰!!??」
本人確認を取った上で、タプリスが持っていた写真と同じ姿であると確かめた上で、壮間は叫んだ。いくらなんでもあんまりだ。どう考えても、この天使がアレになるとは思いたくない。
開口一番大いなる失礼をかましてしまったが、どこまでも寛容なガヴリールは「立ち話もなんですし…」と2人を部屋に招いた。部屋には僅かな乱れも無く、完璧に整頓されている。しかもお茶と茶菓子まで出す始末。誰だコレと言いたい気持ちを、壮間は8回は抑えた。
「えっと、俺は…日寺壮間です。人間やらせてもらってます……で…ちょっとダンさん、なに逃げようとしてるんですか!」
「だって無理でしょ、俺死ぬぜ!? こんな高位な天使に悪魔なんて言ったら、俺なんて一瞬で灰にされて……!」
「悪魔の方なんですね!」
「ひィっ!? お許しィィィィ!!」
「私も天使として下界に降りたばかりで、未熟な私には毎日が学びの連続です。私は公園の草むしりやゴミ拾いなどで人々のお役に立とうと励んではいるのですが……」
聖人過ぎる。本当に同一人物なのだろうかと今一度不安になる。
「やはり慣れない下界での生活…不安は消えません。私にも悪魔の友達がいますが、他の悪魔の方はどのようにして毎日過ごされているのか、参考までにお聞きしたいです!」
「えぇぇ…たかが悪魔の生活なんてそんな…俺、魔法使いだから大体ゲートやファントム追っかけてるだけだし…アイツらいつでも出るからご飯なんて最近ドーナツしか食べてないし、魔力回復しようにも不安で寝れなくて仕方ないから魔界通販の魔力ドリンクで……!」
なんだか知らない間に愚痴になっている気もしたが、ガヴリールは興味深そうに頷きながら聞いていた。どこまで優しいのだろうか。
「魔法使いさん…なんですね」
「そう…なんです。で…天使様、単刀直入にお願いしたいんですけど…魔法使い、代わってくれませんか!?」
「へ?」
そこでようやくダンが本題を切り出す。確かにダンの精神は切り詰められている印象で、魔法使いに誰かが成らなければならないとしてもダンは適任とは思えない。代われるなら代わってあげるべき、と壮間も思えてしまった。
しかし、そもそもの疑問が壮間の中には残っており、ガヴリールもそこを優しく突いた。
「あの…多分なんですけど、魔法使いって代われたりするものじゃないのでは…」
「…え?」
「ですよね…」
「え!?」
「いえ! 私は魔界の魔法に詳しくはないんですけど、そういうのって一族の秘伝だったりするので…」
「言われてみれば…親父がそんなこと言ってたし、わざわざファントムと契約させられたのもそういう…!?」
逆に今まで気付いていなかったとなると、厳しい日々の中でかなり希望的観測で生きていたのだろう。淡い期待は打ち砕かれ、ダンは完全に抜け殻になってしまった。
「終わった……」
「ごめんなさい! 代われるなら代わってあげたかったんですけど…」
「まぁダンさん、大変だとは思いますけど、俺でもなんとか戦えてるんだからきっと大丈夫ですって」
「俺じゃ……ダメなんだよ」
それは、今までよりも遥かに弱い声だった。不安の堰が外れ、奥の奥に押し込められていた泣き声のような悪魔の弱音が、止める術もなく溢れ出る。
「俺は魔力も少ないし、ゲートにキツく当たられたら凹むし、ファントムは俺よりずっと強いし…こんな俺じゃいつか救えない日が来る…誰にも絶望して欲しくない、そう思っていても俺じゃきっと……」
壮間はそのうずくまる背中と弱音で、過去に飛ぶ直前のミカドを思い出した。
救いたい、守りたい、その気持ちだけは誰よりも大きいのに、自分が求める力に自分がまるで追いつかない。そんな自分が嫌い。それが辛くて、誰かに託したい。壮間にもわかる、その気持ちになったことは何度もあるから。
ただ、壮間には「自分自身が王になる」という支えがあっただけだ。他者に対する憧れがあっただけだ。どうして気付かなかったのか、凄惨な過去があっただけでミカドだって自分と同じ「普通の少年」だったというのに。
「……やめてしまえば、いいんじゃないですか?」
ガヴリールはダンに、そう言った。決して高圧的な意味じゃないのは、優しく触れる羽根のような声が教えてくれた。ただガヴリールは、ダンの身を案じて言ったのだ。
「でも…俺しか魔法使いは…」
「それであなたが不幸になるのはよくないですよ。辛かったらやめてしまえばいいんです。誰かを幸せにするために生まれた私たち天使とは違って、あなたは悪魔なんですし」
傍から見れば無責任な言葉だろう。守られる側からすればたまったものじゃない。実際のところそんな簡単にはいかないのも、誰もが分かっている。でも、確かにその許しの言葉はダンの心を軽くした。
あの時、ミカドに言えなかった言葉はきっとこれだ。
「…そうですね。仮面ライダーやるにしても、もっと気軽にやればいいんじゃないですか? 悪魔なのに真面目すぎなんですよ多分」
「悪魔って真面目な方が多いんですね。なんだか意外でした」
「そっか…俺、そういえば悪魔だった。悪魔が人間守るために辛がってるなんて、そりゃそうか…! なんか…ホントなんとなくだけど、ちょっとわかった気がする」
ダンの顔が少しだけ明るくなった。きっとこれで彼はこれからも戦っていけるだろう。
話がうまくまとまった所で、壮間が「あっ」と声を出す。本来の目的のことをすっかり忘れていた。
「ガヴリールさん。まず、あの…サタなんとかっていう悪魔には気を付けてください。駄天にはくれぐれもご注意を!」
「堕天ですか…?」
「あと、ルシフェルって天使知ってますよね!? 俺、そいつを探してるんです。なんでも人間界で何か悪さしようとしてるみたいで…!」
「ルシフェルって、ルシ兄さんが!? 信じられませんけど…それならゼルエル姉さんに伝えておきますね! すぐに動いてくれるはずです!」
未来のガヴリール曰く、ゼルエルという天使は「最強」。そんな天使が直々に動いてくれるなら、アナザーウィザードの動きをかなり制限できるはずだ。
「…俺、辛くならない程度に頑張ってみる。力を抜いて、少しは悪魔らしく。ありがとう天使様」
「悪魔が天使にお礼するのも、少し変ですけどね。おふたりのこれからに…光あれ!」
そうして、天使と悪魔と人間はそれぞれが己の道に戻った。
ダンは己自身を見つめ直し、ファントムと戦い続ける。壮間も任せきりではダメだと、アナザーウィザードを妨害すべく行動を開始した。
「そういえば…魔法使いさんの名前、聞き忘れてしまいました」
ガヴリールは結局、この直後に急転直下で駄天を果たすのだが、それは誰にも防げない無情な話である。
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そして時は過ぎ、香奈がガヴリールの家にいる時間まで進む。
時刻も夜に。普段なら活動が活発化するガヴリールもインフルエンザの前には陥落し、顔色は悪いままだが流石に就寝してくれた。
ヴィーネと香奈はガヴリールを見守るため、もう少しここにいるつもりのようだ。
「なにやってるの、香奈さん?」
「んーとね、メモ。というか日記? 色んな時代で見たものを記録しておくの。いつかそれをみんなに伝えられたら素敵だなーって」
「確かに素敵ね! どれどれ、『天使と悪魔も風邪をひく』、『ガヴさんモテる』、『ヴィーネちゃん怒ったら怖い』……」
えらく大雑把なうえに、あまり公開されたくない情報まで混ざっている。幸先が不安になる有り様だった。
「そういうヴィーネちゃんは、さっきからなんで折り紙を…?」
「え!? あ…ほら、さっき木村くんが千羽鶴持ってたじゃない? だからちょっと作ってみたくなっちゃったかなー…なんて?」
「え、これ鶴!? ぜんぜん鶴になってないよ!?」
「けっこう難しいのね…ケルベロスなら折れるんだけど……そうだ、千頭ケルベロスとか、どう思う!? 頭が3つあるから333匹で済むし名案じゃない!?」
「怖いと思う」
「そうよね」
シンプルに言うと、ふたりとも結構ヒマだった。だったら帰ればいい話だが、ヴィーネはガヴが心配で、彼女がいる限り香奈も帰らない。仕方がないので千羽鶴作りにシフトしたようだ。
香奈も鶴の折り方くらいは知っているので、ヴィーネにそれを教えることにした。流石に一晩で千羽は無理だろうけども。
「……ヴィーネちゃん、あの魔法使いさん…なんなの!?」
鶴を折る傍らで、香奈は思わず強めに言ってしまった。しかしヴィーネも思う事は常々あるので真摯に受け止める。
「ダンは…ガヴと並んで私の“悔い”だから…私がもっとちゃんとしてれば…!」
「あっごめん、ヴィーネちゃん責めたつもりじゃ…」
「やることは軽率で、人に嫌がらせすることとマウント取ることしか考えてなくて、控えめに言っても性格は最悪。でも私たちの中じゃ一番悪魔らしいから、なんかこう…私のコンプレックスが刺激されてるみたいで腹が立つの! 無性に!」
思った数倍のフルパワー文句が帰って来て、香奈も少し引いた。というか自分が悪魔っぽくないのは重々自覚していたらしい。
「これ言ったら怒られるけど、前はあんなのじゃなかったのよ!? それが急に転校してきたと思ったら高校生デビューしてるし! 昔は…昔はあんなに健気な子だったのに、 ちょっと目を離した隙に…しかもその間にガヴの駄天もみすみす見逃すし…私は……私はっ……!」
「おちついてヴィーネちゃん! 鶴が! 怒りで鶴がどんどん禍々しくなってるから!」
酒でも入ったのかと思うほどの感情突沸。普段かなり苦労しているのだろう。香奈も同情を禁じ得ない。
「ただ…私はちょっと驚いちゃったんだ。まぁ正直に言うと、がっかりした。この時代の魔法使いって呼ばれる仮面ライダーが、あんな人だったなんて」
「その『仮面ライダー』ってなに? 魔法使いとは違うの?」
「…なんだろ。ソウマやミカドくんがそうで、魔法使いに限らず誰かを守るために戦う正義のヒーロー…かな?」
少なくとも香奈はそう思っていたから、ミカドの戦う理由である「全ての仮面ライダーを殺す」が理解できなかった。でも、もしダンのような仮面ライダーがいるのだとすれば、そんな最悪な未来も有り得ないとは言えなくなる。それが怖い。
「他にも何人か会ってきたし、ソウマからも色々聞いてて、この時代ではどんな仮面ライダーさんに出会えるんだろーって、ちょっと楽しみにしてたから余計に……」
「正義のヒーローって…いまどきそんなの子供でも言わないだろ…」
そんなことを話していると、ガヴが目を覚ましてしまった。
「お前ら、病人の部屋でうるさい…ただでさえ寝苦しいのに起きるわ」
「「ごめんなさい」」
「まったく…お前らいつまでいるんだよ、早く帰れって……」
ガヴはふらふらと体を起こすと、すっかり熱くなった額の冷却シートを取り換え、再び布団へと潜る。再び目を閉じ、眠りに落ちる前に、熱くて痛むガヴの頭は普段出てこないであろう言葉を口まで運んだ。
「ダンは…あぁ見えて、ちゃんとヒーローだっての…」
それだけ言ってガヴは眠った。ガヴとダンがどんな関係性なのか香奈にはわからないが、少なくともヴィーネは驚いていた。しかし、意外そうではなかった辺り、その言葉を理解できるだけの何かが彼女にもあるのだろう。
「…帰りましょっか」
「だね。また起こしちゃいけないし」
________________
彼は天使と悪魔のクラスメートの、ただの人間であった。
少年の名は木村。渡しそびれた千羽鶴を持ったまま、かといってガヴの家を訪ねる勇気はなく、うろうろと歩き回っている間にすっかり夜になってしまった。
「天真さん、少しは体調治ったかな…明日は学校来てくれるかな…」
ガヴが駄天したのは高校入学直後であるが、短いながら駄天前の聖人として学校に通っていた時期がある。当然そんなガヴに心を奪われた人間は多くいたわけで、木村もそのうちの一人だった。
しかしガヴの駄天によって、そんな人間達の憧れは打ち砕かれる。今じゃあの時のガヴは集団幻覚とまで言われる始末。
だが木村はガヴの駄天を見てもなお、「これはこれで推せる」と呑み込んだ超ガヴ信者であった。風邪のことだって何故か知っていたし、千羽鶴もきっかり千羽作ったのはもはや恐怖だろう。
「はぁ…なんで僕はこんなことしかできないんだろ…ていうか渡せなかったし…」
「ねぇ君。落としたよ」
肩を落とす木村はついでに千羽鶴の一部を落としていたようで、通りがかった青年に声を掛けられて赤面した。千羽鶴なんて他人に見られていい気分するものじゃない。しかも渡せず持ち帰るところなので猶更だ。
「これって千羽鶴?」
「いっ…そ、そうです…」
「誰かにあげるんだ。いいよね、そういうの。俺もそういうの大事だと思う。クラスの子とか病気なの?」
「ま、まぁ…いつも学校には来ないけど、風邪とかひかない人だったんで…心配でつい…」
「大切な友達なんだね。それで、これは友達に対する思いが詰まってる」
「友達かどうかはちょっと……」
青年は木村に鶴を返す。木村もそれを受け取ろうと、手を差し出す。
しかし、青年の手は木村の前で反転し、鶴は足元にぽとりと落ちた。そして、青年の足が紙の鶴を踏み潰した。
「えっ……?」
「くっだらねぇ」
青年、輝良祐樹───アルミラージは木村の手から千羽鶴を取り上げ、変化した怪物の姿でそれをズタズタに引き裂いていく。
「レヴァナント様がさぁ、アイツはもういいから別のゲート絶望させろって。そしたら失った分の魔力チャラにしてくれるってさ。だったらやるよな普通、お前みたいなチョロそうなゲート!」
「ば、ばけもの……っ!?」
「あれ、絶望しねぇな? 鶴なんかじゃダメか…じゃあその大事な友達ぶっ殺してやれば満足か!?」
「っ、やめろ! 天真さんに…天真さんに手を……!」
「へぇ、天真っていうのか。ありがとなおバカさん」
恐怖と無力感で泣き崩れる木村を、高らかに嘲笑するアルミラージ。絶望の崖っぷちにまで追い込まれた、悲劇の幕が上がりそうなこの瞬間。
そんな展開は下らないと一蹴するように、缶は飛んできた。
空き缶がアルミラージの頭部に直撃し、残っていた変な匂いの液体がアルミラージの眼を攻撃する。
「うげっ、眼が!? てか臭っなんだよコレ! 『魔界通販謹製 魔力500%ドリンク』!?」
「クソ不味いだろ、それ。お似合いだぜ死に損ないのゴミウサギにはな!」
「テメェっ、指輪の魔法使い!!」
窮地に現れたダンは、挨拶代わりにと更にもう一発缶を投げた。今度は中身が十分に入っており、マンドラゴラから抽出された異臭がアルミラージを苦しめる。爆笑するダン。
夕方の戦闘で手ごたえを感じなかったダンは、アルミラージが生きていると踏んで密かに探し回っていたのだ。
「おい木村、お前がゲートか」
「竜峰くん…!?」
「いいかクソファントムと根暗の木村、よく聞け。この世の人間は一人残らず、俺様の足元を這いずる下等生物だ! お前らなんかが気安く触れんな。こいつらを絶望させんのは俺様の特権なんだよ!」
ダンが青い指輪をはめる。水のエレメントが封じられた指輪だが、アルミラージは感じていた。その指輪に秘められた膨大な魔力を。
《ドライバーオン》
「新衣装のお披露目だぜ。噛ませ犬になれクソウサギ」
《シャバドゥビタッチヘンシン!》
頭上に現れた青い魔法陣がダンを通り過ぎ、水のドラゴンの旋回と共に青きウィザードを進化させる。
《ウォーター ドラゴン!》
《ジャバジャババシャーン ザブンザブーン!》
ダンが契約し、アンダーワールドに宿したファントム「ドラゴン」。その力のうち「水」のエレメントの力を引き出し、その姿をより青く、よりドラゴンに変化させた。仮面ライダーウィザード ウォータードラゴンスタイルだ。
「さぁ、ショータイムだ!」
「何がショータイムだ、ざっけんじゃねぇゴミクズが!!」
アルミラージの内側から魔力が解放され、体の裂け目から次々と分身が溢れ出る。夕方に対峙した時よりも遥かに膨大な魔力量だ。
「俺は魔力さえあればいくらでも増える! レヴァナント様から貰った魔力全部使って、これで俺は20人! お前の分身よりも多い!」
「バカじゃねーの。数いりゃ強いなんてチンピラの考えだろ」
「テメェがやったことだろうが!!!」
20人に分身したアルミラージは一斉にウィザードへと襲い掛かった。あっという間に囲まれて袋叩きルートに一直線。一方的なリンチは余りに惨い光景で、眼を塞ぐ木村の横には普通にウィザードが座っていた。
「あれ…!?」
「よっ、なにやってんだろなアイツら」
「テメ…いつの間に抜けやがった!?」
再び方向を変えて殴りかかるアルミラージ達だったが、打撃が通る前にウィザードの体が流動化して攻撃を受け流す。「リキッド」の魔法で身体を液状化しているのだ。
液状化したウィザードはあらゆる攻撃を掻い潜って、三つ目が目立つアルミラージの本体を捕え、流動化しているため回避もクソもない関節技で動きをロックする。抵抗するならもう一度液状化し、別の形で動きを封じるのみ。
「…ッソが! 何やってるお前ら早く助けろ!」
「おっといけない」
「バカッ……おい待て、止まれ分身共!」
分身がウィザードに襲い掛かる前に、再び液状化して即座に退避。アルミラージの分身への制止命令は間に合わず、勢い余って本体のアルミラージだけがボコボコに殴られた。
「さーて、分身したくせにわざわざ固まってくれるとはな」
《ルパッチマジックタッチゴー!》
青い魔法石から生まれたもう一つの指輪を右手の指に通し、ウォータードラゴンの真価を発揮する。エレメントは進化することで別のエレメントとして発現することがあるのだ。土なら「重力」、風なら「雷」、水ならば───「氷」。
「マジかよ…クソが…ッ!」
「あぁ、マジだ!」
《チョーイイネ! ブリザード》
《サイコー!》
氷の魔力を帯びた魔法陣は、通った場所の全てを凍てつかせる。そうやって20人を一気に凍り付かせた後は、渾身の魔力でトドメを刺すのみ。
「フィナーレだ!」
《チョーイイネ! スペシャル》
《サイコー!》
「スペシャル」は現実世界でドラゴンの一部を顕現させる魔法。ウォータードラゴンの場合はドラゴンの尻尾がウィザードの体として装備され、そこから放たれるのは海をも割る鮮烈な一撃。
薙ぎ払い一閃。氷に囚われた20体ものアルミラージを、竜の尾は一撃で打ち砕いた。
「ふぃー…さてと、おい木村!」
「ひぃっ!? 竜峰くん…? これは一体どういう…!」
「説明なんてしねーよ。で、この折り鶴…ガヴのやつに渡すつもりだったのか?」
「そう…だけど、もうこんなの渡せないし……」
ウィザードは指輪を外して変身を解除し、怯えまくる木村の足元の折り鶴を拾い上げる。確かにボロボロで他人に渡せる代物ではない。
「…はっ、そうだな。こんなもん別にいらねーよ」
ダンは折り鶴を投げ捨てた。まぁダンの悪行とマウント癖はクラスじゃ有名なので、「思いは伝わる!今からでも渡そう!」とはならないと木村も思っていたのだが。
「お前はこいつを渡して、ガヴに気に入られたいんだろ?」
「えっ? いや、そんなつもりは…」
「いいや、お前はそのつもりだったんだ。俺様が言うなら間違いねーよな。だったらこいつを渡す前にガヴが治っちまったら…そりゃもう絶望だろーが」
「えぇ…?」
「見てろ木村。明日の朝にはお前を絶望させて、俺様に屈服させてやる」
そう一方的に言うと、ダンはポケットに入れていた缶の中身を飲み干し去って行った。悪魔らしく空き缶だけは道端に投げ捨てて。
そしてダンが向かった先はガヴの家。部屋の内側に召喚したプラモンスターに鍵を開けてもらい、堂々と不法侵入。ベッドで寝ているガヴの顔色は依然として悪く、柄にもなくうなされているようだった。
「天使が風邪引くとか傑作だな。写真撮って後で笑ってやろ」
弱ったガヴをひとしきり撮影すると、ダンは彼女の左手の指にリングをはめた。
《プリーズ プリーズ》
ドライバーを通じ、ダンの魔力がガヴへと移動していく。
「プリーズ」は魔力供給の魔法。魔力の塊である天使と悪魔にとって人間界の害というのは大体の場合無力なのだが、生活の乱れや疲れなどで魔力が弱まることもある。ガヴの場合は理由は明白の上に駄天で天使力も怪しかったので、そこをウイルスに攻められたのだろう。
つまり天使なら魔力の充電さえできれば回復する。事実、魔法を使ったことでガヴの顔色はみるみるうちに良くなっていった。
「…いつぞやの借りだぜ、天使様」
忘れもしない。ダンの生き方を変えてくれた天使こそ、ガヴリールだ。愚直に誠実に必死にやるだけが道じゃないと教えてくれた。あの日があったからダンはまだ戦っていける。
「はぁー……しんど」
ドリンクでやりくりしていた魔力が尽きる。眠る天使だけしかいない部屋で、誰にも聞こえてないと信じて魔法使いは呟いた。
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「治った」
翌日、ヴィーネと香奈がガヴを訪ねたらすっかり元気だったので、女子二人して大口を開けて驚いてしまった。
「ま、天使にかかれば人間の風邪なんてチョロいもんよ。インフルだかなんだか知らないけど」
「わかんないけど元気になってよかった!」
「あんたもう天使として怪しいけどね…」
「でもなんか変な夢見たんだよな…昔の夢? 下界に降りて来てすぐくらいの…なんだっけ」
「ガヴさんがまだ天使だった頃の!?」
「まだ天使だっての」
「本当に堕天する前に生活直しなさいよ? あとほら、昨日木村くんがお見舞いに来ようとしてたから、学校でお礼言わないと」
「木村? だれ?」
「あんた本当最悪ね」
そんなやり取りを向かいの塀に隠れて見ていた木村は、もうすっかり元気そうなガヴの姿に、ほっと表情を和らげる。
「よかった…本当に天真さん元気になった」
彼にとって名前を覚えられてないことなんて些細なことだったらしく、ただガヴが元気だった事と朝一で姿を拝めた事にご満悦な様子だった。この世界、変わっているのは悪魔や天使よりも人間なのかもしれない。
絶望させてやると物騒なことを言っていたが、ダンが何かしてくれたのだろうか。それならお礼を言わなきゃと思った、そんな矢先のことだった。
「誇れ。人間にしては素晴らしい魔力だ」
「竜峰くん…? じゃな…っ!?」
昨日見た仮面ライダーウィザードに似た姿だったが、すぐに偽物だと断じた。余りに歪められた解釈の「ウィザード」は、木村の体に触れて希望から一気に絶望へと転覆させる。
「人間の身に余る魔力…我がサバトの糧となれ」
木村の体が紫に割れ、アナザーウィザードはその中から魔法石を引きずり出して取り込んだ。それを後ろから見ては手を叩く、時の異端者。
「ふん、気に入ったか? 吾輩が与えたその力。精々有意義に使い、王として蹂躙の限りを尽くすがいいッ!」
「言われるまでもない。全ては天界を救うため。そして我が望みのために……!」
人間を強制的に絶望させる力を得て、タイムジャッカーのアヴニルとアナザーウィザードが2012年で動き出してしまった。そんな中、戦えるのは思い悩むミカドと……
「マジか…」
体温計、39℃。
魔力切れでしっかり風邪を感染されたダンだけだ。
その頃、不二崎は愛媛のみかんと島根の十六島のりと香川の醤油でいくら味を作るため中四国に旅に出ていた。
時系列はビースト邂逅直後(ダンはまだ不二崎を知らない)で、ドラゴンスタイルに関しては今回のウォーターで4属性全部そろった感じです。ダンがどんなやつか分かっていただけたかと。
次回からは最終局面。アナザーウィザードが動き出し、ミカドとダンが再び……あと多分2話。3話かも……
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