仮面ライダージオウ~Crossover Stories~   作:壱肆陸

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香賀雪哉
ラッキークローバーに所属するオルフェノク。26歳。人間の生きようとする姿を心から愛しており、美しいものを見たいという理由で人を襲っていた。一度死を超えたオルフェノクは彼にとっては美しさの極致であり、オルフェノクは例外なく愛する一方で人間を不用意に殺す喰種は滅ぼすべきと考えている。2003年の「4区決戦」にて、四方、ウタ、ミナトの3人により駆逐された。

カメレオンオルフェノク
カメレオンの特質を備えたオルフェノク。〔CCG〕からはS+レート「カメレオン」として駆逐対象とされている。香賀が病で衰弱死した際に覚醒したオリジナル。包帯のような帯で人間にオルフェノクエネルギーを注入する。オリジナルの特権である形態変化に特化しており、特定の人間の姿に化けることもできる。


GWブーストで執筆乗り切りたい、146です。
今回から遂に最終決戦です。遂にとはいってもなんか筆乗ってるから、ウィザドロ編は期間短めなんですよね……まぁウィザードは好きで元々結構見てたのでそれもあるか。

さて、ミカドの行く末が今回でハッキリ決まります。絶望の袋小路の突破口は何処に。

今回も「ここすき」をよろしくお願いいたします!


ミカドの希望と、あと『悪役』

昼間なのに誰もいない場所。ベンチの上で、ミカドは何をする事も無く待ち続ける。ダンがミカドに「エンゲージ」の魔法を使い、アンダーワールドに侵入してから暫く経った。

 

内側に何かがいるという息苦しさがある、なんとも気持ちの悪い感覚だ。過去を見てくると言っていたが、見てどうするというのだ。あんな場所に救いも希望も無い。あるのは消したい過去と過ちだけだ。

 

 

「……ふぅ」

 

「やっと戻って来たか……」

 

 

魔法陣からダンが現れ、妙な感覚も引いていった。アンダーワールドから戻って来たダンはまず息を吐いてミカドに一言を投げかける。

 

 

「クソ重い……」

「人の記憶に土足で踏み込んで感想はそれだけか」

 

 

二日酔いの時のような顔で言うものだから、ミカドも青筋を立てる程度に怒りを見せる。別に同情を期待したわけでは無いが腹が立ったのだからしょうがない。

 

 

「…とにかく、まぁお前に何があったのかは知った。で、お前は昔のことを引っ張って死にたがってるってワケか?」

 

「……そうだ。散々殺しておいて、間違って、それで戦えもしない俺に意味なんて無い。例え戦えたとしても…その先に何がある。俺には世界を変えることなんて……!」

 

「はぁーッ……わっかんねー。バカかよお前」

 

「何だと…!?」

 

 

倒れかかるようにベンチに座り、もぐもぐとドーナツを食べ始めるダンにミカドは詰め寄る。そんなミカドに、ダンは魔法陣から取り出したドーナツを突き出す。

 

 

「何のつもりだ」

 

「やると思ったか? 残念、これも俺様のだ」

 

「いらん。勝手に食ってろ」

 

「で…死にたい理由が? なんだっけ?」

 

「だから俺は…!」

「あーもうどーでもいい!」

「貴様が聞いたんだろ!」

 

「お前が色々やらかしたのは見た。でも、アイツらはもう死んだ。なんで死んだ奴のためにお前が死のうとしてるのか、ちっとも理解できねーって言ってんだ」

 

 

この悪魔の言っている事こそ理解が出来ない。やはり悪魔は、人間とは違う腐った生物なのか。ミカドはその怒りを隠さず発露する。

 

 

「俺が殺したんだ! タスクも、ファイズも、俺のせいで死んだ! 俺の正義が無意味な犠牲を生んだんだ!」

 

「だから、そんなん反省して終わりでいいだろ」

 

「いい訳が無い! 失った命は戻らない!」

 

「そうだ戻らない。悪魔の俺様が保証する、死んだ人間は地獄か天国か…たまに幽霊になるくらいだ。死んだ奴はもうお前に何もしちゃくれない。なんでそんな奴らに義理を立てなきゃいねーんだ」

 

 

やはり理解できない言葉を続ける。

理解はできないが、その言葉が何故か固く閉ざしたミカドの記憶に突き刺さった。

 

 

「……馬鹿な。死んだ者たちのことを忘れろと、そう言っているのか!?」

 

「記憶を見てりゃ、未来を救いたいとか、復讐したいとか、あいつが死んだこいつが死んだばっかりだ」

 

「それが俺の全てだ!」

 

「ちげーな。少なくとも、俺様は昔なんて忘れた! なんか家の都合とかゲート守んなきゃとか色々あったけど…そんな事どーでもよくなるくらいに、人間を馬鹿にして、ファントムおちょくって、ヴィーネやガヴとワイワイやってるのが今は楽しい」

 

 

そりゃ辛いこともあった。吐きそうな夜もあった。

そんな事を思い出したって辛いだけだ。それで絶望してしまうくらいなら、受け入れなくたっていい。前を向けばいい。それがダンが決めた道だった。

 

 

「ミカド、お前は『いつ』を生きてる? 本当はどうしたい?」

 

「どうしたい…だと…? 何度も言っている、俺は……っ!」

 

 

そこから先の言葉が詰まった事に驚く。ほんの一瞬だけ見えた気がしたのだ、過去や後悔で縺れた無能という役割の牢獄の先、何も無い真っ白な景色が。

 

 

「少なくともお前のアンダーワールドにファントムはいなかった。つまりまだ絶望してない。あるんだろ、お前の最後の希望ってやつが」

 

「俺の生きる道に、希望なんて……!」

 

「へっ、とぼけたって無駄だ。そいつを暴いてやるよ。暴いてお前を絶望させるのは俺様だ!」

 

 

結局それかと、最後にオチを付けてくる。真面目に考えていたミカドが馬鹿みたいだ。この時代に来てからというもの、そう感じることが何度もあった。

 

そこで飛んできた『レッドガルーダ』が、ダンに異変を伝えた。魔力を介して受け取ったメッセージは「ガヴリールが攫われた」だった。

 

 

「どこの誰だか知らねーけど、ガヴに手を出すなんて分かってんじゃねーか。しゃーねーから助けに行ってやる」

 

 

そう言うと、ダンは別の使い魔「ブルーユニコーン」を召喚してミカドの肩に乗せた。

 

 

「来たけりゃ来いよ。死なせてはやらねーけどな」

 

 

________________

 

 

チェーンが擦り切れるほどの勢いで自転車を爆走させる。事情を知らない人が見れば恐怖するだろう。そんな迫力を撒き散らしながら、香奈はスマホの印に向かって走る。

 

 

「いたっ!!」

 

 

目的地到着、そして急ブレーキ。止まったのは海岸の岩場で、そこにいたのは縛られたガヴとルシフェル。そして、タイムジャッカーのアヴニルだった。

 

 

「…人間が何の用だ」

 

「ふぅんッ! 誰だ貴公は、何処かで見たか?」

 

「私はバッチリ覚えてるんだからね! 千年桜のとこにいた、タイムジャッカーの……名前は知らない!」

 

「アヴニルであるッ! なるほど、思い出した。貴公は王候補の付属品か」

 

 

香奈に遅れてヴィーネも自転車で参上。一方でラフィはというと、一人だけタクシーを使って馳せ参じていた。

 

 

「「ズルい!!」」

 

「すいません…昼食を食べたばかりなので、体を動かすのはちょっと…」

 

「続々と群れて集まる天使に悪魔…如何にしてこの場所を突き止めた」

 

「ガヴちゃんに付けておいたGPSです」

「はぁっ? GPS!?」

「ストーカー予備軍ナイスよ!」

「そんなに褒められると照れちゃいますよ~」

 

 

別に褒めては無いが結果としてはいい方向に転んでいる。ガヴは縛られながらもドン引きしているが。

 

 

「何企んでるのか知らないけど、ガヴさんを返して!」

 

「抜かせ小娘共が。見た所、王候補の一人もおらんではないか。それで吾輩に楯突こうなど笑止千万!」

 

「そうだな、全くもって笑えるぜ!」

 

 

銃声と同時に時間が止まり、ルシフェルの目の前で銀の弾丸が静止した。ルシフェルはそれを指で挟み、全く同じ速度で投げ返す。その弾丸を再び弾き返したのは悪魔の姿のダンだった。

 

 

「不意打ちは失敗だ、悪魔よ。いや…竜峰家の指輪の魔法使いと呼んだ方がいいか」

 

「そういうお前は天使様か? だっせぇ和服着やがって、何時代だよ。そんでガヴ! どーした、助けて欲しいか!?」

 

「遅い。私が捕まったら2秒で来いよ魔法使い!」

 

「礼はエンジェル珈琲の猫耳接客で我慢してやるよ!」

 

 

ウィザーソードガンを剣として構え、ダンは一気にルシフェルへと斬りかかる。ルシフェルも左手で刀を操り、激しい正面からの斬り合いが始まった。

 

 

「頑張ってくださいルシフェルさん!」

 

「どっち応援してんのよラフィ。でも…なんかダンってガヴには甘いのよね。あれ私が捕まってたら絶対あと10分は黙って見てた」

 

「それよりミカドくんいないんですけどぉ! 魔法使いさん!?」

 

「知らねーよ! でも、アイツはそのうち来る。希望ってやつを引っ提げてな!」

 

 

ダンの言葉は無責任だが力強く、香奈は思わず頷いてしまった。こうして誰かのために戦っている姿を見てようやく感じられた。ダンは、この時代に生きた仮面ライダーなのだと。

 

だが、ルシフェルに比べてダンの動きは鈍い。前にミカドと戦った時はもっと余裕があったはずだ。なにより違和感があるのは……

 

 

「貴様、何故魔法を使わない」

 

「……はっ、使わせてみろよ!」

 

「児戯のつもりか。悪魔と戯れる程、無価値な時間は無い。終わらせてやる」

 

 

ルシフェルは一歩引いて刀を投げると、その姿は赤いオーラに覆われアナザーウィザードに。再び掴んだ刀は『アナザーウィザーソードガン』となり、ダンの体を斬り裂いた。

 

血液と共に噴き出す魔力。その勢いが明らかに弱いのは、天使と悪魔には一目瞭然だった。ふらついて倒れたダンに駆け寄ったヴィーネは、何かおかしいと彼の額に触れ、その熱さに声を上げる。

 

 

「すごい熱…! こんな熱でなにやってんのよ! 本当に死ぬわよ!」

 

「魔法使いさん……とにかく早くなんとかしないと! なんかこう…治す魔法とか!」

 

「…ッ、うるせぇ……っ!」

 

 

ヴィーネや香奈の手を除けて、ダンは立ち上がり舌を出す。もう悪魔の姿も維持できない状態。それでも立てた中指をそこにいる者全員に見せつけ、俺様はここにいると叫ぶ。

 

 

「邪魔? 偽物? そんで心配だぁ? おいおいおい頭が高ぇなハナクソ共。俺様は…魔法使いだぜ? こんなもんのどこが絶望だ! 本当の絶望を見せるのはこの、竜峰=ダンタリオ=レンブラッド様だ!」

 

「魔力の尽きた身で愚かな。消え失せろ…悪魔!」

 

 

アナザーウィザードが魔力弾を放とうとした、その瞬間。その動きを止める。その場の誰もが気付いていたのだ。大きな気配がここに近づいていることを。

 

 

「アハハハっ! 跪きなさい弱き者たちよ! そう、私こそ下界に君臨する悪しき女王。その名も大悪魔……サタn」

 

 

崖上で名乗りを上げたサタなんとかの声は、轟音と巨体の影に隠れて消えてしまった。もちろん大きな気配というのはサタなんとかのことではなく、タイムトンネルを通って現れた白いタイムマジーンのことだ。

 

ロボモードのタイムマジーンはアナザーウィザードを殴り飛ばし、その衝撃は海に伝播して波を引き起こす。その中から飛び降りたのは仮面ライダージオウとウィルだった。

 

 

「ソウマ! あとウィルさん!」

 

「香奈! ごめん遅くなった! でもちゃんと足止めはしてきたから。あ、そうだガヴリールさんは…」

 

「あれじゃないかな、我が王」

 

 

捕まっているボサボサ金髪死んだ目天使を見て。ジオウは「あぁ……」と憐憫の声だけ漏らした。やはり駄天は避けられなかったようで、タプリスに心の中で謝っておく。そして更に気になるのは、横のボロボロの悪魔。

 

 

「久しぶりじゃねーか、『仮面ライダー』さんよぉ」

 

「ダンさん…いくらなんでも極端過ぎません??」

 

「俺様が楽しけりゃオールオッケーだろ? 来たとこ悪いが引っ込んでろ、アイツらは俺様の獲物ゴフぅッ!」

「ダンさんが血ぃ吐いて倒れた! そりゃそうだその傷だし!」

 

「ちょっと! なんで私を無視すんのよ!!」

「……うるせーぞサタなんとか」

「サタニキア様よ!」

 

 

なんかガヤガヤやっているが、アナザーウィザードは普通に立ち上がって戦いが再開しようとしている。流石にダンはもう戦えない。合流した壮間に選手交代だ。

 

 

「ジオウだったか…何度も我を妨害したその仮面、忘れはしない」

 

「そういう役目だったんだよ。お前ら邪魔すれば、天界に攻め込むファントムの数だって足りなくなる。もう諦めろ!」

 

「そう言われて諦める者に王たる資格無しッ! 吾輩、そのような弱卒を選んだつもりはない。違うか?」

 

「その通りだ。人間如きが我が理想を打ち砕けると思うな」

 

 

アナザーウィザードが指輪を骨で作られたドライバーにかざす。放たれた魔法は、アヴニルによって与えられた最上位の禁断魔法。

 

本来なら「ワイズマン」とそれに準ずる魔法使いのみが使える魔法だが、ルシフェルがそれを使えたのは魔法に対する深い理解によるもの。堕天したルシフェルは魔界より指輪魔法の秘伝を盗み出していたのだから。

 

 

《エクリプス》

 

「太陽が……欠けた…!」

 

 

太陽に闇が集まり、その光が欠ける。真昼の空が黒く染まる。この魔法は魔力が高まる「日食」という現象を強制的に発動させる魔法なのだ。

 

 

「貴様らに知らしめてやる。我が理想、天界の再創造の大義を」

 

 

聞いても無いのになんか勝手に喋り出した。

 

 

_______________

 

 

「希望」とは何だ。ブルーユニコーンの導きのまま走りながら、ミカドは考える。

 

 

「俺の生きてきた時代に…希望なんてあったのか…? 朝起きて、戦って、誰かが死んで、怯えながら眠る日々に……」

 

 

希望が生きるための「心の支え」なのだとしたら、未来を救うという己の正義こそ希望だったはずだ。あんな世界を変えたかった。死んでいった仲間や家族が、平和な世界で生きられるように。

 

でも、戦えなくなった。そのために必要な犠牲が余りに重過ぎて、耐え切れなくなった。犠牲を払いながら戦う自分も、戦えなくなった弱い自分も、どちらも受け入れられなかった。

 

 

「っ……!」

 

 

考えに意識を奪われ、ちょっとした段差に引っかかってミカドは大きく転んだ。ひりつく傷の痛みを感じ、地に伏せながら、また考える。

 

ミカドは他の仮面ライダーや怪人、ちょうどあのアナザーウィザードのように、理想を叶えられるほど強くあればよかったのだ。果てしなく遠い希望以外は見えない異常者、そうなって初めて「役割」が与えられる。そうできないミカドは「脇役」だ。

 

 

その結論が踏み固められていたはずだった。そこに矢を放ったのは、ダンの言葉だった。

 

 

他者に献身する。命を以て償う。己の役割の身の丈にあった範囲で、過去で塞がれた狭い道を真っ直ぐに進む。その、命を懸けても届かない希望以外を目に入れず。

 

 

「………息苦しいな」

 

 

そんな言葉が口から零れる。立ち上がり、もう一度走り出そうとする。その足が、走り出すのを止めた。

 

 

「俺が絶望しなかった理由……俺は…そんな遠い光のために生きていたのか…?」

 

 

希望とはもっと近くにあるものじゃないのか。近くにあるからこそ生きられる。そう、例えば、戦いの終わりに立ち寄った喫茶店で飲む一杯の珈琲。そんなどこにでもありふれた希望。

 

あの時、木組みの街で見た景色。

白いボートが浮かぶ、美しい湖。水面は青空を映し出し、輝いている。

空を舞う小鳥も、踏みしめた芝生も、地を駆ける兎も、何もかもが光に祝福された世界。

 

俺が心を奪われたのは、遠い未来の景色じゃなくて、きっとその景色そのものだ。

 

 

「……太陽が…兆候も無しに日食だと…?」

 

 

歩いてブルーユニコーンを追い、辿り着いた海岸。突如青空が黒く染まったのに驚くと、その先に居るアナザーウィザードとタイムジャッカーの姿が視界に入った。

 

アナザーウィザードが変身を解除し諭すように語っていた。己が邁進する正義と、その希望を。

 

 

「かつて…我にも貴様らのように、人間界で紛れて修行をしていた時があった。天真と共にだ。天真の妹、貴様なら分かるはずだ。そこで我は……絶望した。

 

───天界は、余りにも遅れている!!」

 

 

魂の叫びだった。多分、ルシフェルにとっては。

しかし、飛び出て来た言葉が少し思っていたものと違ったので、他の連中はミカド含め真顔だった。

 

 

「……わかる!」

 

 

ガヴだけが深く同意していた。息を呑み、拳を握り固めてまで感情を出す始末。

 

 

「人間界に降り、驚愕した。魔力無しで動く絡繰りの数々! 書庫に足を運ばねば手に入らないような情報もインターネットに全て集約されている! 灼ける程暑い日はクーラー、凍える日にはこたつ、自然をも超越する貪欲さ! そのうえ人生全てを使っても味わえきれない娯楽の数々! 美味なる食事! 人間程度が持ち得るものの、なにもかもが天界には存在しないのだ!」

 

 

すごく熱弁し始めた。あの比較的ミステリアスで強者の貫禄を見せつけていたルシフェルが、もうただの田舎の兄ちゃんにしか見えなくなっていた。

 

 

「めっちゃわかるっ……!!」

 

 

心から同意する彼女は誰の味方なのか。

 

 

「魔界にも洋菓子店やゲームなどは存在する。魔界通販なるシステムも普及しているな。にも拘わらず! 天界での遊戯を知っているか、けん玉やあやとりだ! おやつに至っては『炒った豆』だぞ! 崇高な存在である天使が、人間や悪魔如きに文化で遥かに劣っている現状! 絶望と言わずして何と言う!」

 

 

ガヴ以外の全員の目が死んでいた。アヴニルさえも瞬き多めでルシフェルの真剣な眼差しに首を傾げている。

 

ミカドも立ち尽くしたまま顔を引きつらせ、ポカンと口を開けていた。何を言い出すかと思えば、要は「我こんな田舎嫌だ」だったのだから仕方ない。呆れたと同時に、なんだか笑いがこみ上げてきた。

 

 

「はぁ…馬鹿馬鹿しい。俺はこんな奴の正義で苦しんでいたのか……」

 

 

ルシフェルは冷めた民衆に熱弁を続ける。

遅れた天界を栄えさせるにはどうすればいいのか。それは人間界の歴史から学んだという。それこそが───

 

 

「戦争だ。人間は戦争を繰り返し発展を重ねた。天界は魔界と争わなくなって久しい…その呑気な平和思想こそが発展を止めているに違いない。我は絶望した。そして彼により魔法を得たのだ! その魔法で、我は天界に戦争を起こす!」

 

 

ルシフェルの言い分は確かに幼稚だ。しかし、馬鹿や異常者には大義の大小など分からない。そういう馬鹿馬鹿しい思想こそが戦争を起こし、幾多の歴史で悲劇を生んだのだ。

 

そう、この世界は小さい偶然やしょうもない気持ちで回っている。

ミカドが生まれた時代だってそうだ。

 

そんな世界をどう変えようというのだ。そんなふざけた物語の舞台上で、己の「役割」を演じる? 過去に相応しい生き方をする? 真面目に、誰にも恥じないように……

 

 

「───馬鹿は俺か」

 

 

その瞬間、ミカドは縛っていた全てを捨てた。

崖から飛び出し、ジカンザックスゆみモードでルシフェルを射抜く。

 

そして、倒れているダンを蹴った。

 

 

「ゲフォッ!?」

 

「ダンさん! え、ミカドぉ!? え、何やってんだお前!?」

 

「何って、仕返しだ。俺にドーナツをくれなかったからな」

 

 

なに言ってんだよと言おうとした壮間、噛み付こうとしたダン、そのどちらも言葉を止めた。何故なら、ミカドの顔から暗い何もかもが消え去っていたから。

 

 

「……仮面ライダーウィザード。君は、ミカド少年に何を言った?」

 

「別になにも。俺様の美学ってやつを自慢しただけだっての」

 

「そうだ、俺はウィザードに動かされたわけじゃない。貴様もだ日寺。あとお前もだ片平。俺はもう…考えるのをやめただけだ」

 

 

ミカドは馬鹿だった。馬鹿真面目で損をしていただけだった。

そんな貧乏くじはもううんざりだ。だったら馬鹿じゃなくて、彼らのような「アホ」にでもなってやる。

 

 

「誰かが言った『正論が人をキレさせることはいくらでもあるが、人を救った例は有史以来一度も存在しない』」

 

「暴論過ぎない?」

 

「そうだね。だが我が王、君のように正論で心を固める者もいれば、多くから見れば無価値な暴論で救われる者だっているんだ」

 

「日寺……一つ聞きたい。お前から見て、俺はどんな男だった」

 

 

そう問われて壮間は少し悩む。色々と言いたい事はあるが、最初に言葉になるのはやっぱり一つしかない。

 

 

「お前はなんかいっつも怒ってて、ことあるごとに『殺す』っていうライダー絶対殺すマンの危ないヤツだったけど……凛々蝶さん拉致ったり、大事な時に道迷ったり、修学旅行で俺ら振り回したり…危ないのと同じくらい、ミカドは───」

 

「もういい、それ以上は言うな。それは…俺が見つけた俺だけの『希望』だ」

 

 

生きる理由になんら迷いがない、その吹っ切れた顔。それでこそ壮間の知るミカドらしい顔だ。

 

 

「……希望だと? 貴様程度の希望、我が望みには届き得ない!」

 

「黙れ。ハッキリ言うが貴様の希望とやらはクソだ」

「うん…強くは否定できない。気持ちは分かるんだけど」

「だってよ天使様! 散々下に見てきた人間にクソ呼ばわりされる気持ちはどーだ!?」

 

 

立ち上がって再変身したアナザーウィザードだったが形勢逆転に加え、水を得た魚だ。壮間ミカドに便乗してここぞとばかりに煽るダン。

 

 

「天使様はさっき絶望して魔法を手に入れたとか言ってたっけ? 違ぇな、そんなもんは魔法じゃない。絶望したヤツなんかに魔法が使えるかよ!」

 

「ま…確かにダンの言う通りだと思うぞ、ルシ兄さん」

 

「天真の妹…いつの間に拘束を…! 貴様か悪魔!」

 

 

残っていた魔法一回分の魔力で「コネクト」を使い、ダンがガヴの縄を切ったのだ。アヴニルもポカンとしていたので難なく逃げ出すことができた。

 

 

「いいかルシ兄さん。私たち天使にとって、大事なものが何か分かるか?」

 

「何だと言うんだ…!」

 

「楽しむ事だよ。人間を救う立場の天使が絶望してちゃ意味ないだろ。誰かを救うならまず自分が幸せにならなきゃいけないんだ」

「それとあんたの駄天とは違うわよ?」

「全くガヴちゃんの言う通りです! サターニャさんもそう思いますよねっ!」

「ちょっと寄らないで何する気よラフィエル! この天使たち終わってるんだけど!」

 

 

ガヴの決めた台詞もイマイチ締まらなかったが、言った内容自体は的確にルシフェルの逆鱗を突いたようだ。ミカドも立ちあがり、面子が揃ったこの時、アナザーウィザードは日食の下で魔力を躍動させる。

 

 

「……理解できないのならもう充分だ。本来、人間から集めた魔力を使う筋書きだったが、それも叶わない。だが僥倖にも…魔力切れの悪魔を除き『4人』、天使と悪魔が集まった!」

 

「まぁいいだろう、貴公が王に相応しき覚悟を持つのは事実だ。最後まで付き合ってやろう!」

 

「さぁ始めるぞ。サバトの時だ天界よ!」

 

 

アヴニルが杖を突く。すると地面が赤くひび割れ、日食の魔力と大地の魔力がアナザーウィザードに集約を始めた。

 

 

「2人の天使、2人の悪魔…魔力の塊たる4つの存在を生贄に我が魔力を増幅させる。さぁ我に力を捧げよ!」

 

「マジかルシ兄さん…ちょ、ギブ! 降参するから命だけは……ってアレ?」

 

 

何も起きないまま地面のひび割れが消えた。日食も終わり、完全な太陽の光が空を青い姿へと戻す。ガヴもヴィーネもサターニャもラフィも、全く異変なんて起きてはいなかった。

 

 

「馬鹿な……何故だ!」

 

「貴様の目論見は全部失敗したということだ。理由なんて俺達が知るか! 往生しろ、アナザーウィザード!」

 

「っ…ならばこの身一つでッ! あの時代遅れな天界を壊すだけだ!」

 

《コネクト》

 

 

アナザーウィザードが「コネクト」の魔法を発動。巨大な魔法陣が空中に現れた。それが繋がっている場所は、考えるまでも無く天界に違いない。

 

追おうとする仮面ライダーや天使に悪魔。だが、ルシフェルの神足通がそこに無数の魔法石を転送させた。これは2018年で見た戦術と全く同じだが、数が圧倒的に違う。

 

 

「計画より遥かに少ないが、邪魔者を屠るには足りるだろう。貴様らの相手はファントムだ!」

 

 

ゲートから集めた魔力がファントムとして次々に生まれ落ちる。この数の怪人を相手していたらアナザーウィザードにまんまと逃げられてしまう。

 

 

「俺が奴を追う! ここは日寺、貴様に任せた!」

 

「…おう! こっちこそ任せたぞミカド!」

 

 

肩を並べ、互いに任せ合った2人の仮面ライダー。魔法陣の中に消えたアナザーウィザードに続こうとしたその時、壮間の持っていたプロトウォッチが消え、ミカドが持っていたプロトウォッチに色が宿った。

 

仮面ライダーウィザード、ダンタリオは次の魔法使いとしてミカドを選んだのだ。

 

 

「この俺様がお前を魔法使いって認めてやるよ。行け、ミカド! お前が最後の希望だ!」

 

 

ジクウドライバーを装着し、ミカドは見つけた己の正義ではなく「希望」をもう一度確かめる。このふざけた、愛しい世界を生き抜くための希望を胸に、天界への魔法陣へと飛び込んだ。

 

 

「させんわッ!」

 

「隙アリですっ! 天使神拳奥義“岩山両斬打ち”!」

 

「なッ…がはっ…!?」

 

 

時間を止めようとしたアヴニルに対し、ラフィが背後から手刀をズドン。フィジカルは貧弱なのか一発でアヴニルはノックアウトし、ミカドは無事ゲートを通り抜けた。

 

 

「ラフィエル、なによ今の技! カッコいいじゃない!」

 

「天界でゼルエルさんに教えてもらったんです。上手くいってよかったです」

 

「おい待てラフィ。お前なんで……」

 

「あのー…喋ってる場合じゃないかもしれないです…! 任されたとは言ったけど、どうするこの数のファントム……!」

 

 

量産兵のグールならまだしも、通常の怪人クラスでこの数は流石に厳しいと、壮間の想像力も語っている。タイムマジーンで一掃する作戦に出るべきだろうか。

 

 

「確かに大変ですね…このままでは街にも被害が…」

「そうですね…サターニャさんっ、ここが大悪魔の力の見せどころですよ!」

 

「いーやもう騙されないわよ! そう言って私を囮に……あれ、ラフィエルが2人いるんだけど!?」

 

「へっ?」

 

 

ずっとラフィの隣にいたガヴは気付いていたが、さっきアヴニルを倒したラフィと、さっきまで皆と行動していたラフィは別だった。

 

 

「ってことは、これどっちかがファントムってこと!? だったらさっき現れた方が偽物で…あれ、でもラフィちゃんさっきタイムジャッカーのアウディさん倒してたし…」

「アしか合ってないぞ香奈」

 

「皆さんなにを…私はさっき天界から帰って来たばかりなんですけど」

 

「ってことは、さっきまでのラフィエルは!?」

 

 

サターニャが振り返ると、もうそこに一緒にいた方のラフィはいなかった。そして襲い掛かるファントム。ジオウが守りに入る前に、脈絡のない銃声がファントムを撃ち抜いた。

 

 

「姿を騙り、衝撃というファンファーレで登壇する幻影(ファントム)の如く。良い演出だ。実にファビュラス!」

 

 

座るダンの隣に立つその青年は、銃を手の上で回して口笛を吹く。そして次々とファントムを撃ち抜いてはキザな仕草を主に女子陣に送った。そんな彼に、ダンと壮間は当然の質問。

 

 

「「誰だお前!」」

 

「そう! 僕に会った者はまずそれを聞くべきだ。僕は名乗るのが好きだが、身勝手に押し付けるのは美しくない。失礼、話が逸れた。僕を呼ぶなら『アオイ』と呼んでくれたまえ。こんな名前はどうでもいい、大事なのは……美学の名だからね」

 

 

ファントムの軍勢の意識は、その「アオイ」と名乗る青年に集められた。そんな窮地にも全く動じない彼は、その銃をもう一度手の上で回して銃口を斜め上に止める。

 

その、『平たくて変わった形の、シアンカラーの銃』を。

 

 

「常に世界の裏をかき、期待を覆す美しき嫌われ者。それが悪役(ヒール)。未だ僕を知らぬ世界よ傾聴したまえ。僕という、悪役(ヒール)という、華麗に渦巻く美学の旋律を!」

 

 

何処からか引き出した「カード」を銃に装填し、銃身をスライドさせその力を読み取らせる。

 

 

《KAMENRIDE》

 

「変身!」

 

 

笛の鳴るような音の後、悪役は銃声でその名を物語に轟かせる。世界を超えて己のために戦った自由な次元戦士の名を。

 

 

《DIEND!》

 

 

上空に打ち上げられた弾丸は何枚もの青いカードとなり、何色ものビジョンが錯綜した末に重なった戦士の姿と一体化し、その色をシアンカラーに決定づけた。

 

 

「仮面ライダーディエンド。僕はあらゆる物語を欲しいまま駆ける、まさに悪役(ヒール)さ」

 

 

その招かれざる介入者は、まず主役(プロタゴニスト)の座を奪い取った。

 

 




世界は所詮コメディだ!そして空気を読まないのが悪役。説明はまた後程!
感想、高評価、お気に入り登録などなどお待ちしております!!


今回の名言
「正論が人をキレさせることはいくらでもありますけれど、人を救った例は有史以来一度も存在しませんわ!!」
「ゲーミングお嬢様」より、祥龍院隆子。

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