仮面ライダージオウ~Crossover Stories~   作:壱肆陸

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馳間錬道
ラッキークローバーに所属するオルフェノク。27歳。香賀とは異なり「喰種とオルフェノクは共存すべき」という考えを持つ強面の男。いかつい容姿とは裏腹にラッキークローバーの交渉人であり、スマートブレイン内でも立場を持ち、他のオルフェノクを部下に引き入れ、斡旋するなどの業務を担っている。2003年で「レヴィアタン」が死亡したのをきっかけにオルフェノクを見限り、ラッキークローバーを脱退した。

コンドルオルフェノク
コンドルの特質を備えたオルフェノク。〔CCG〕からはSSレート「コンドル」として駆逐対象とされている。暴力団にいた馳間が組に始末された際、覚醒したオリジナル。羽根を撃ち出し、オルフェノクエネルギーを注入する。戦闘にはスナイパーライフルのような銃を用い、卓越した視力と射撃制度で5㎞以内の獲物なら決して外さない。


理系研究者146です(研究テーマがやっと決まった大学生)
ガヴドロ編、完結でございます。わずか2か月、短い戦い…普段からこのくらいのペースで進めば、もう折り返しくらいはできてただろうに……先は長いです。

とりあえず前回「ヤツ」の登場で終わりましたが、そいつの活躍から始まります。

今回も「ここすき」をよろしくお願いいたします!


ゲイツドロップキック!

「仮面ライダーディエンド。僕はあらゆる物語を欲しいまま駆ける、まさに悪役(ヒール)さ」

 

 

突如として参戦した「アオイ」と名乗る青年は、変身してそう言い放った。無数のカードがシアンのボディに突き刺さったような姿。『仮面ライダーディエンド』。

 

何も分からない壮間だったが、一つだけ断言できた。彼も確実に魔法使いとは違う、壮間やミカドのような「時代の外」から来た仮面ライダーだ。

 

 

「ディエンド…!? そうか、彼が……」

 

「ウィル、知ってんの!?」

 

「彼に関しては一度会っただけだ。ただ…ディエンドという存在はよく知っている」

 

「ふんッ! まさかディエンドが現れるとは…とっくに消えているものだと思っていたぞ! だが僥倖である、貴公には是が非でも聞きたい事があるのでな」

 

「聞きたい? 分かっていないな、僕は悪役(ヒール)だ。知りたければ釣り合う対価か、見合う美学を用意したまえ」

 

「吾輩に指図するとは心意気や良し! 話は暴力を以て聞くとしよう、征けファントム共!」

 

 

全く状況について行けてない壮間に2012年の天使悪魔、あと香奈。なんだかよく分からないまま、よく分からない仮面ライダーとファントムの戦いが始まろうとしていた。

 

 

「お手並み拝見だね。見ていたまえ我が王、彼はきっと…君の王への道に深く関わる存在だ」

 

「そうだ、しかと見るといい。これが悪役(ヒール)の戦い方だ!」

 

 

ディエンドはファントムの軍勢に飛び出すと、変身銃『ディエンドライバー』の集中砲火を浴びせてファントム1体の体勢を崩した。そしてそのファントムを踏み台にし更に高く跳躍すると、宙返りしながら空中から追加で連射。

 

着地と同時に小さく跳ねると、次の一歩で一気に加速。この多数の相手に対し常に死角を取り、残像が残るほどの速度で銃撃と打撃を交えながら自在に駆け回る。

 

 

「速っ!」

 

「何を呆けているんだい?」

 

「え、うおッ!?」

 

 

驚くジオウの前まで動いたかと思うと、ディエンドはジオウに発砲。完全に意識外の攻撃を喰らい吹っ飛んだ。

 

 

「どう考えても味方の流れだっただろ! 撃つか普通!?」

 

「何度も言うさ、僕は悪役(ヒール)だ。悪役(ヒール)は善悪で犠牲者を区別しない。死にたくないなら精々抗うといい」

 

「なんなんだあの人! ちょっと香奈、危ないからみんな連れて逃げてて!」

 

「え、ガヴさんたちとっくに逃げてるけど」

「あーそうですかバカは俺だけですか! 行動が早くてとてもいいと思うよ俺は!」

 

 

躍動し暴れ回るディエンドだが、流石に多勢に無勢が過ぎるのではないかと、ジオウは加勢を考える。加勢したらまた撃たれそうなので手を出したくないのだが、言っている場合ではない。

 

 

「なるほど、これは少しヘヴィだ。それならこれでどうかな」

 

 

ディエンドはこんな状況には動じず、むしろ楽しむように新たに3枚のカードを取り出した。それらを全てドライバーに装填すると、それぞれのカードに封じられた「仮面ライダー」の情報が読み取られる。

 

 

《KAMENRIDE》

《MADROGUE!》

 

《KAMENRIDE》

《IBUKI!》

 

《KAMENRIDE》

《SKULL!》

 

 

ディエンドの発砲で3人の仮面ライダーの情報が解放された。カードに記録されたライダーを召喚し、使役する。それこそがディエンドの持つ能力。

 

 

「あれは…アマキさんにそっくりな鬼のライダー…!? あとの2人は見たことないけど、あれって!」

 

 

召喚ライダーの一人は仮面ライダー天鬼と容姿が酷似していた。それだけでなく、眼鏡を上げるような仕草をする機械のコウモリのようなライダーのベルトにはフルボトルが。帽子をかぶった髑髏のライダーのベルトにはガイアメモリが見えた。いずれも知らないライダーだが、それに近しい存在を壮間は知っていた。

 

『仮面ライダーマッドローグ』『仮面ライダー威吹鬼』『仮面ライダースカル』。壮間の知らない広い歴史から呼び出された3人の戦士は、それぞれ銃武器『ネビュラスチームガン』、『音撃管・烈風』、『スカルマグナム』を持ってディエンドと並び立つ。

 

 

「さぁ、一方的な狩りを始めようか」

 

《ATTACKRIDE》

《CROSSATTACK!》

 

 

背中を合わせ、四方全てに対応するように並んだ4人のライダーは、それぞれの方角に迫るファントムを次々と撃ち抜いていく。一切の死角もない連携射撃。ファントムの戦線は徐々に後退していく。

 

そこで陣形を崩し、疲弊したファントムの軍勢にまずはマッドローグが突撃。鋼の翼を広げると超速度のソニックブームで敵を吹き飛ばし、そこに威吹鬼が音撃管を鳴らして撃ち込んだ鬼石が共鳴、破裂。最後にスカルが生み出した髑髏の幻影がファントムを喰らった。

 

 

「豪華絢爛なコラボレーション。これが悪役(ヒール)さ、ファビュラスだろ?」

 

 

一連の攻撃でファントムの大群を大きく削ることができた。しかし、未だ敵は多数だ。

 

 

「…そろそろ終わりにしよう。戦いは短くスマートに、それもまた美学だからね」

 

《KAMENRIDE》

 

 

この軍勢を一気に葬る手札があると宣言し、ディエンドは新たなカードを切る。呼び出したライダーの姿は、壮間もよく知る仮面ライダーだった。

 

 

《WIZARD!》

 

「はぁっ!? ウィザードだと!?」

 

 

召喚されたのは仮面ライダーウィザード。しかしダンはまだ魔力切れで倒れており、現にガヴたちに置いて行かれていたダンは、その辺に転がりながら文句を言う。

 

 

「ざけんな俺様がウィザードだ! 2人目なんて認めねーぞ!」

 

「ダンさん、さっきミカドに力渡したじゃないですか…」

 

「別に君だけが仮面ライダーウィザードではない。数多の世界に数多のウィザードは存在し、このウィザードはいわばそれらの集合体…共通したイメージのビジョンに過ぎないのさ。そして……」

 

 

ディエンドは更に別のカードを取り出す。他のカードとは色や絵が明らかに異なるそのカードをドライバーに入れ、銃口を向ける先は空中ではなくウィザード。

 

 

「ここから僕の美学が弾ける。痛みは一瞬だ」

 

《FINAL FORMRIDE》

《WI-WI-WI-WIZARD!》

 

 

ウィザードに向けて弾丸を放つと、撃たれたウィザードは宙に浮かび上がり、人体では有り得ないような複雑な変形を経て巨大化。大地を踏みしめる4本足に、大きく広げた翼、その出で立ちはファンタジーの象徴たる存在───「ドラゴン」そのものだった。

 

 

「なんで俺様がドラゴンなんかにならなきゃいけねーんだ!!!」

 

「だから君じゃない。黙ってくれ、手負いを撃つのは美しくない」

 

 

ウィザードのファイナルフォームライド形態『ウィザードドラゴン』の背に乗ったディエンドは、ドラゴンと共に大きく飛び上がると遥か上空からファントムの軍勢を一望する。

 

それを見てジオウもピンと来た。あの男が、一体何をしようとしているのか。

 

 

「ヤバい! ダンさん、香奈! 出来るだけ遠くに逃げるぞ!」

 

悪役(ヒール)は犠牲者を善悪で区別しない。ただ振るいにかけるのさ。僕という気まぐれな風に振り落とされない者だけが、僕の舞台にいることを許される」

 

《FINAL ATTACKRIDE》

《WI-WI-WI-WIZARD!》

 

 

必殺指令のカードを読み取り、極限の魔力が熱を帯びる。

 

ウィザードドラゴンが放出した魔力の業火が大地を走り、その全てを跡形もなく焼き尽くした。当然ながらファントムは全滅。壮間たちはなんとか逃げ切ることができたが、遅かったダンがちょっと燃えていた。

 

この男、仮面ライダーディエンドはとんでもなく強い。

とんでもなく強いのだが、それ以上に色んな意味でとんでもない。滅茶苦茶な存在だということを壮間に知らしめた。

 

 

「……一体何者なんだよ、あんた」

 

悪役(ヒール)さ。どきたまえ、君に用は無い」

 

 

ジオウの仮面に銃口を突きつけて退かすと、ディエンドは視線を落とす。その先に居たのは大慌てで自分の火を消していたダン。

 

 

「僕が欲しいのは君だ、竜峰=ダンタリオ=レンブラッド」

 

「は…キモっ」

 

「人間に媚びることなく悪魔らしく、正しい絶望を与える魔法使い。その悪魔の美学とてもファビュラスだ。僕の夢を聞いてくれ、僕はね…あらゆる物語から悪の花弁を集め、世にも美しい悪役(ヒール)の花束を作りたいんだ」

 

 

この男も人の話を聞かないタイプらしい。ドン引きするダンに構わず話し続ける。

 

 

「僕の仲間になる気はないかい? 僕なら君を物語の外へと連れ出せる」

 

 

ウィザードの資格は継承した。この物語は間もなく消え、魔法使いとしてのダンもいなくなることは本人も分かっていた。どうせ消えるなら彼と共に行くのも一つの手だろう。

 

しかし、ダンは遠くで見ているガヴ達を一瞥すると、中指を立てて言い切った。

 

 

「ヤだね。ここが一番楽しい俺様の遊び場だ、外なんて知るかバーカ!」

 

「そうかい。それなら仕方ない…諦めよう! 怪盗エターナル、隻眼の梟に続き、またフラれてしまったな」

 

 

それ以上勧誘はせず、意外にもディエンドはあっさり引き下がった。仲間に加える以上、本人の意思を尊重するのが美学と言いたいのだろうか。少し考えた壮間だったが、よく考えるとどうでもいい事に気付いてやめた。

 

 

「この世界に()は来てないらしい。ので、長居は無用だね。インパクトだけを残して去るのも悪役(ヒール)の美学だ」

 

「待つがいいディエンドよ! よもや吾輩を無視するとは非礼極まりないッ! 聞きたい事があると言ったはずだ、逃がさんぞ!」

 

「おっと動かない方がいいタイムジャッカー。僕は訪れた世界では必ず、僕が通った証として消える物語から『お宝』を持ち去ると決めているんだ。背後を見たまえ、盗み出したのは試作段階だったが…それでもS+クインケ『ナルカミ』。君を消し炭にすることくらいは容易い」

 

「何…!?」

 

 

『ナルカミ』は〔CCG〕の死神、有馬貴将が使うクインケ。2003年に存在したものだ。

 

アヴニルが勢いよく振り返る。時間停止も間に合わないほど至近距離に近づけられた電磁砲の『クインケ』がそこにはあり、それを構えていたのはタイムジャッカーと似た服を着崩した、長い三つ編みのJKっぽいイマドキ少女。

 

 

「貴様、“マティーナ”…! ディエンドに付いたのかこの愚か者がぁッ!」

 

「アヴさんおひさ~あれ、ウィルちんいないじゃん!」

 

「あ、ホントだウィルいない。いつの間に。ってウィルの知り合い? タイムジャッカー!?」

 

「うーん…まぁどーでもいいじゃん。でもマティちゃんアオイにラブするって決めたから、ウィルちんにもヨロシクねっ。ねーアオイ、この銃可愛くない、マティちゃんに似合わない~!」

「そんなことないさ、とても似合っているよマティ。では諸君、今この瞬間記憶に刻みたまえ。悪役(ヒール)という名の美学を」

 

 

時間を飛ばしたような一瞬でマティーナがアオイの傍まで移動すると、彼は金の角笛を堂々と掲げた。その『お宝』が何か知っていたのはガヴと香奈。

 

 

「あぁっ! それって、ガヴさんの世界の終わりを告げるラッパ!」

「おいそれ私の部屋に置いてただろ。入ったんか? 天使の乙女部屋に勝手に入ったんかお前?」

 

「お宝は貰っていくよ。さようなら諸君! そして近いうちにまた会おう、王を目指す仮面ライダー」

 

 

空間が歪む。真昼の地上に現れた銀色のオーロラ。

アオイとマティーナはオーロラカーテンを潜り、世界の狭間へと去って行った。

 

 

「なんだったんだ一体……で、結局ディエンドってなんだよ……」

 

 

散々場を乱し、悪役を連呼し、やりたいことだけやって帰った謎の仮面ライダー。そのディエンドという名を壮間は嫌でも忘れないだろう。

 

よくわからんがとりあえずミカド頑張れと、天を仰ぎ壮間はエールを送った。

 

____________

 

 

 

遥か天空の異界。雲の上の大地と大自然、あと居住区と施設が最小限。たったそれだけだ。天界にはたったそれだけしか存在しない。情報網どころか交通網すらも整備されていないのだ、平和な世界に発展は不要なのだから。

 

 

「こんな天界は間違っている…人間を凌駕し、悪魔に聖なる裁きを下す、それこそがあるべき天使の姿だ! 平和に腑抜けた世界よ、その痛みを以て思い出すといい!」

 

「世界を救う…か。貴様を見ていると、俺がどれだけ拙かったのかがよく分かる」

 

 

空中から天界を見下ろすアナザーウィザード。それを見上げ、見下す言葉をかけるのは、魔法陣から天界へと降り立ったミカドだ。そこから先はいつもの動作。左腕のホルダーからゲイツウォッチを外し、カバーを回してウォッチを起動させる。

 

 

《ゲイツ!》

 

「俺は何を焦っていたんだ。拙くて何が悪い、俺はまだ18だ」

 

 

ドライバーにウォッチをセットし、ロックを外す。腕を大きく回してドライバーを掴む。その堂々と誇らしげな動きには一切の迷いは無い。そしてデジタルに刻まれる時計の前で、少年は最後に叫ぶ。

 

 

「変身!!」

 

《ライダータイム!》

《仮面ライダー!ゲイツ!!》

 

 

「らいだー」の文字が仮面と融合し、ゲイツが天界の大地を踏みしめる。

 

 

「今すぐ立ち去れ下等種族。ここは天界、人間如き足を踏み入れることも憚られる神聖な聖域だ」

 

「何を言っている。その聖域を壊そうとしているのは誰だ?」

 

「壊すのではない。田畑を耕すのと同じ、必要な犠牲だというのが分からぬか」

 

「貴様らの世界の未来など知ったことか。ただ貴様は平和な世界を害そうとしている、俺はそれを止める。全身全霊でな」

 

 

体が軽いのは、ここが天界だからという訳ではなさそうだ。

未来のことも過去のことも、取り合えず忘れろ。所詮は子供のヒーロー気取り。大事なのは現代(いま)を生きる人々と、ミカド自身。

 

 

「文句があるなら俺を倒せ! 貴様の言う大義とやらに価値があるのなら、俺なんかに負けはしない!」

 

「笑止。分を弁えよ痴れ者が」

 

 

黒い翼を畳み、地に降りたアナザーウィザードは全開の魔力でゲイツの打倒にかかる。が、その一撃をゲイツは受け止めた。天界で増幅しているはずの魔力が人間如きに堪えたれたその屈辱は、ゲイツが反撃として繰り出したブローでさらに倍増した。

 

 

「馬鹿な…!」

 

 

「神の腕」ゼルエルや白羽家執事マルティエルには及ばずとも、ルシフェルは天界で戦士として名を挙げた天使。その戦士の感覚が、ゲイツに戦慄している。

 

まるで魔獣を相手しているような、無駄な思考の無い動作。その積み上げた経験と戦闘能力だけが遺憾なく発揮されている。強敵と判断するに屈辱はあれど疑問は生じない。

 

 

「…貴様の相手をするのは愚策だ。天界の土となるのも烏滸がましき人間、竜に喰われて朽ち果てよ!」

 

《ドラゴライズ》

 

 

温存していた奥の手だが、止む無し。アナザーウィザードは己の最大級の魔法を発動させた。それは自身に宿る魔力をファントムとして完全顕現させる魔法、『ドラゴライズ』。

 

天界に禍々しい魔力が満ちた。粗削りの赤き宝石が埋め込まれ、骨と化した肉体で咆哮する魔獣。朽ち果てた翼が希望の光を遮る混沌の悪夢。

 

 

「我が命を以て命ずる、刃向かう者を根絶せよ! アナザーウィザードラゴン!」

 

 

アナザーウィザードラゴンが再び吠え、天界が揺れた。その爪や牙が傷をつけた場所は紫にひび割れて虚無の空間と化す。アナザーウィザードが己の内の魔力を失う代わりに召喚した制御不能の魔獣は、理性も無く天界を破壊し続ける。

 

巨体が相手ならばタイムマジーンを呼ぶべきだが、魔法陣はもう閉じられている。ゲイツが使える選択肢は3つ。まず『ドライブ』だが、速度があってもあの巨体には大した意味を成さない。そして『ゴースト』は手数はあるが火力不足が否めない。

 

そうなると答えは一つだ。今のミカドなら、きっと使えるはず。

 

 

「力を借りるぞ…ファイズ!」

 

《ファイズ!》

 

 

この前は後悔に耐えられず使えなかったこのウォッチ。

いくら開き直ったところで、ミカドが誤ったという事実は決して消えない。でも、ミカドは生きていくために乗り越えると決めた。

 

 

「タスク…荒木湊…俺の正義が殺してしまった、全ての者たち…決して忘れはしない。決して繰り返さない! 身勝手な話だ、だが…そのための勇気を、力を! 俺に貸してくれ!」

 

 

彼らを恨んでいるわけがない。彼らがくれたのは後悔だけなんかじゃない。何度だって思い出し、口ずさむ。彼らが与えてくれたモノの名前を。それこそがミカドの償いだ。

 

 

「罪の十字架なら背負ってやる。だが俺は、十字架を振り回してでも道を拓き、前に進む! 今を生きる! 文句があるなら化けて出ろ! それが俺の答えだ!」

 

 

ファイズウォッチを装填し、ドライバーを回す。出現し、弾け飛んだアーマーがアナザーウィザードラゴンを後退させると、ゲイツは飛び上がって拳を突き出す。

 

 

《ライダータイム!》

《仮面ライダー!ゲイツ!!》

 

《アーマータイム!》

《Complete》

《ファ・イ・ズー!》

 

 

鎧を纏ったゲイツの体をフォトンブラッドが巡る。熱と確かなパワーを帯びた拳が、アナザーウィザードラゴンの頭蓋を殴り飛ばす。そして堂々と、仮面ライダーゲイツ ファイズアーマーは地を踏みしめた。

 

 

「祝え!」

 

「どこから現れた貴様」

 

 

魔法陣は閉じたはずなのに、ウィルが何故か天界に現れた。細かい理屈はもはや気になりもしないが、神出鬼没は何かと心臓に悪くてよくないとそういえば壮間が言っていた気がする。

 

 

「地上は随分と面白いことになっていたけど、祝福の気配があれば馳せ参じるのが私だ。2003年では祝い損ねてしまったからね」

 

「もういい、よくわからんが好きに祝え」

 

「祝え! 全ライダーを受け継ぎ、新たな未来へ我らを導くイル・サルバトーレ! その名も仮面ライダーゲイツ ファイズアーマー! 時を経て、ライダーの力を継承した瞬間である!」

 

 

そういえば2014年でも祝われた気がするが、悪い気分ではないとミカドは微かに笑った。そして立ち上がったアナザーウィザードラゴンに向け、駆け出す。

 

朽ちた翼で羽ばたくと、暴風と共に黒雲から雷が降り注ぐ。尾の攻撃には氷の属性が付与されているのか、凍てつく風がゲイツの動きを鈍らせる。ゲイツはそれらを勘と勢い、あとはファイズアーマーの基礎スペックでのゴリ押しで突破。

 

 

《Five・Four・Three・Two・One…》

 

「叩き割る!」

 

《ザックリ割り!》

 

 

足元まで接近すると、ジカンザックスを構えて上方向に溜め攻撃を放つ。それを迎え撃つ竜の爪。その迎撃は重力魔法で威力を底上げしており、ただでさえ体躯の差が絶望的なのに更に重い。

 

 

「ならばこれでどうだ! どうとでもなれ!」

 

《フィニッシュタイム!》

 

 

それは短絡的な閃き。ゲイツはライドウォッチの代わりに、ウォッチモードのファイズフォンⅩをジカンザックスに装着した。これでどうなるかは知らないが、装着できるなら何か意味はあるはずだ。

 

その勘は正しく、各種ビークルやギアと相性のいいファイズアーマーはその操作を受信し、ファイズフォンⅩに内蔵されたエネルギーを刃に充填させた。そしてそこに注ぎ込まれたフォトンブラッドは相乗効果によって出力を増し、その色は銀色にまで到達する。

 

 

《ザックリカッティング!》

 

 

ファイズアーマーのスペック自体は他に劣る程度。しかし、対オルフェノク光子エネルギーであるフォトンブラッドの効果を、ジクウドライバーの機構によってあらゆる敵に対応させることで、ファイズアーマーは他を凌駕する圧倒的な殺傷能力を獲得する。

 

増幅したパワーと銀のフォトンブラッドの出力で、アナザーウィザードラゴンの爪が焼き切れ、片腕が熱で砕け散った。恐るべき火力だが、当然代償はある。

 

 

「ジカンザックスの刃が焼け落ちている…思いつきの割に馬鹿げた出力だ。これは修理が必要だな」

 

 

一発でジカンザックスが使い物にならなくなるようじゃ、今後そう何度もは使えない手段だ。ゲイツはファイズフォンⅩを取り外すと、畳まれていたテンキーパッドを出し、コード「555」を入力する。

 

 

《Ready》

《Pointer on》

 

 

指令を出されたファイズアーマーが「ギア555」を召喚する。アナザーファイズとの戦いに使用していたショット555ではなく、今回は右脚に装着する「ポインター555」を呼び出した。

 

 

《フィニッシュタイム!》

《ファイズ!》

 

「こいつで一気に決める」

 

 

アナザーウィザードラゴンが殺意を剥き出しにし、灼熱のブレスを解き放つ。触れた場所から空間を砕く咆哮。それを大きく飛び上がって回避したゲイツは、空中で一回転すると「ポインター555」からマーカーを射出した。

 

マーカーは着弾と同時に円錐状に展開し、アナザーウィザードラゴンの動きを封じ込めた。必殺の準備は完了だ。

 

ゲイツは一度ファイズと交戦した際、この技を使われたことを覚えている。過去の過ちも弱さもこの技を以て乗り越える。これは天国に最も近い場所から送る、ミカドの決意表明の一撃。

 

 

「貫け!」

 

《エクシードタイムバースト!》

 

 

仮面ライダーファイズは「罪」の戦士。

持ち主を選ばず罪を生み続ける呪われた力。だが、罪と向き合い戦い抜く覚悟を決めた者にのみ、その力は最期まで戦い抜くための強さを与える。

 

ポインター目掛けた飛び蹴りが炸裂し、「きっく」の刻印を刻み込んだ。それに反応してフォトンブラッドがアナザーウィザードラゴンの体組織を分子レベルで分解、そして破壊し尽くす。

 

その体を貫き、通り過ぎたゲイツが着地すると、アナザーウィザードラゴンは「Φ」の赤色光を空に残して爆散し崩れ落ちた。その解放された魔力はアナザーウィザードへと還っていく。

 

 

「人間如きがアナザーウィザードラゴンを倒しただと…!?」

 

「残るは貴様だアナザーウィザード。魔力は戻ったはずだ、決着を付けてやる。これからの未来を生きる魔法使いとしてな」

 

《ウィザード!》

 

 

本番はここからだと、ゲイツはウィザードウォッチを起動。ファイズウォッチを外し、代わりに装填するとドライバーに手を重ねるように構え、回転させた。

 

 

《ライダータイム!》

《仮面ライダー!ゲイツ!!》

 

 

ゲイツの後ろにアーマーが……

ではなく、出現したのは頭上。しかもアーマーの代わりに赤い魔法陣がそこにはあった。ジオウのWアーマーと同じく、これまでとは違う形態の変身。

 

魔法陣はゲイツの頭を通り過ぎ肩辺りまで進むと、そこで止まって実体化。そして展開・変形し、アーマーとしてゲイツの全身を纏った。最後に「うぃざーど」の文字が複眼に収まり、変身が完了する。

 

 

《アーマータイム!》

《プリーズ》

《ウィ・ザード!》

 

 

魔力が編み込まれたマントと帯を風にはためかせ、ウィザードリングの輝きを両肩に宿した次代の魔法使い。

 

 

「本日二度目! 祝え! 全ライダーを受け継ぎ、新たな未来へ我らを導くイル・サルバトーレ! その名も仮面ライダーゲイツ ウィザードアーマー! 魔法使いのライダーの力を継承した瞬間である!」

 

「サルバトーレ……救世主か、悪くない」

 

 

天界を守る最後の希望、それは未来からやって来た人の子。

追い詰められ、苦しみ、呪われた運命に翻弄された少年の逆襲が始まる。

 

 

「さぁ……これが俺の、ショータイムだ!」

 

 

再び走り出したゲイツは、アナザーウィザードにまず回し蹴りを叩き込んだ。次に回し蹴りで、その次も一呼吸置いて蹴り。パンチを用いない格闘でアナザーウィザードを攻め立てる。

 

 

「人間風情には理解できまい…恵まれた生活を享受する貴様らには! 我々天使は身を粉にして貴様らを導いている。邪魔立てされる義理は無い!」

 

「悪いが、俺達の時代で天使が働いていたならこんな性格にはなっていない。あと俺の時代はこの天界よりも数百倍は最悪だ。説く相手を間違えたな」

 

 

アナザーウィザードの主張も受け止めた上で軽く受け流す。そこから先は魔法の応酬が始まった。アナザーウィザードが炎を出せば、ゲイツも炎で対応。とはいえ魔法使いルーキーのゲイツはそこまで多彩な魔法が使えるわけじゃない。

 

 

《グラビティ》

 

「っ…!」

 

 

重力の魔法でゲイツの動きが止められた。そこから更に「サンダー」の追い打ちを喰らわされるが、重力の拘束は解けない。それどころか重みは増す一方。

 

 

「そのまま地に縛られていろ。翼も持てない人間にはお似合いだ」

 

「……身の程を弁えろ、そう言いたいのか…?」

 

「そうだ。人間が我ら天界の問題に手を出すな」

 

「ふっ…俺もそう思っていた…無能な俺は、何も出来ずただ消えゆくのがお似合いだと…そう信じていた……だが…!」

 

 

性悪の魔法使いが教えてくれた。それはミカドの「希望」じゃない。「希望」とは、気付かぬうちに己の中にある、心の暗闇を照らしてくれるくだらなくて大事ななにか。

 

過去の過ちも、己の非力さも、他者の輝きも、他人の正義も、何もかもが息苦しかったと気付いた。そんなことをいつまでも考えていたって、頭が痛くなるだけだ。苦しいのなら全て捨て去ってしまえばいい。

 

 

「ずっと考えていた…俺は日寺の『何』になるべきか…馬鹿を言うな! 何故ヤツを中心に考えなければいけない! 日寺がどれだけ成長し、何を受け継ごうが、俺は日寺の何かになんてなってやらん!」

 

 

仲間だとか、敵だとか、道化だとか、復讐者だとか、負い目だとか、そんな枠組みで縛られたくなんかないと気付いた。恨みを捨て去ったのなら、この世界が美しく見えたのなら、できるはずだ。やりたいことの、やりたかったことの全てが。それがミカドが見つけた「希望」の正体。

 

 

「俺はもう何にも縛られない。未来から来た俺は……自由だ!」

 

 

ゲイツから溢れ出す魔動力がグラビティの魔法を相殺した。

 

ミカドは正義よりも自由を愛することに決めた。『仮面ライダーを全て殺さなければ未来は救えない』なんて契約は忘れ去ることにした。未来なんてこれからいくらだって変えられる。方法を考える時間だっていくらでもあるはずだ。

 

そう決意し、軽くなった心が「自由」という単語で何かを思い出した。それはミカドが初めて壮間と出会い、対面早々戦いになった時に飛び出た言葉。

 

 

『理不尽な悪から、人々の自由を守る戦士…それが───』

 

 

「……そういうことか」

 

 

アナザーウィザードが再びグラビティを発動するが、もうその手は食わない。アクロバットに飛び上がったゲイツは四方八方に魔法陣を展開し、そこからランダムに炎の魔力を放出する。その不規則な攻撃をアナザーウィザードは見切れない。

 

 

「小賢しいッ!」

 

 

魔法陣は再び魔力となり、着地したゲイツの脚に収束して炎を纏わせる。強烈なキックを読んだアナザーウィザードは防御の構えを取る。しかし、

 

放たれたのは、魔力の無いただの筋力によって放たれる全力のパンチ。

 

 

「なにっ…!? 蹴り主体では……!」

 

「パンチを使わないなんて誰が決めた」

 

 

予想だにしなかったパンチに怯んだアナザーウィザードは、そのまま魔力入りのキックまで直撃してしまった。そして、追撃を加えようとゲイツが駆け出す。

 

 

「させん!」

 

《ディフェンド》

 

「邪魔だ!」

 

 

その魔法使いは張られた防壁を、単純な魔動力と物理攻撃で打ち砕く。武器が使えないのだから仕方ないが戦法が余りに脳筋。次々とディフェンドを発動させるアナザーウィザードに対し、ゲイツも手を休めない。

 

ミカドは魔力を多く生まれ持った『ゲート』。それはウィザードアーマーでは、そのまま無尽蔵のスタミナに変換されるのだ。

 

 

「貴様の理想は分かる。快適な世界を…誰もが抱くありふれた希望だ。世界を救うというのも、実のところ俺は貴様を笑えない」

 

「そうだ、遅れた天界はいずれ滅ぶ! 魔界に差を付けられ…人間にすら追いつけなくなる! その前に一度作り直す必要があるのだ! 我だけが天界を正しく導ける!」

 

「きっとそれが違うんだ。貴様が何をしなくとも…人間も、天使も、悪魔も、このまま幸せに生きていけるはずだ。適当にな。この世界はきっと滅んだりはしない」

 

 

根拠はない。希望なんてそんなものだ。そう考えた方が楽ならそれでいい。

 

仮面ライダーウィザードは「魔法」の戦士。

絶望しなかった者にのみ与えられる力、それが魔法。その力は希望を胸に生き続ける者の指に輝き、他者の絶望をも眩く照らす光となる。

 

 

アナザーウィザードが腰に手をかざすが、それ以上防壁が出現することはなかった。ドラゴライズやエクリプスといった大魔法の連発が祟り、ルシフェルの魔力が尽きたのだ。

 

 

「我の魔力が……そんなことは有り得ないッ…!!」

 

 

魔力が無くなってもアナザーウィザードは肉弾戦で抵抗を続ける。このまま大人しく降参するならウォッチだけ砕いて帰っていたが、諦めないのなら仕方ない。ミカドも全力で叩き潰すことを決めた。

 

 

《フィニッシュタイム!》

《ウィザード!》

 

「フィナーレをくれてやる!」

 

 

思いきり蹴飛ばしてアナザーウィザードと距離を取り、ドライバーを回転させて必殺技が発動した。ゲイツは腰マントを翻し、右足を中心に出現した魔法陣が炎の魔力を練り上げる。

 

駆け出し、身軽にロンダートを決め、再び足が地面に付くことで魔力が倍増。そこから更に飛び上がって宙返り、最後に体を捻って万全の体勢で放つ、燃え盛る魔法のドロップキック。

 

 

「はあああああッ!!!」

 

《ストライクタイムバースト!》

 

 

それはアナザーウィザードを確実に穿つ、終幕の一撃。着陸したゲイツは最後に不慣れなターンを決め、この聖戦を締めくくる。

 

絶望に堕ちた宝石が砕ける。赤い魔法陣を残し、アナザーウィザードは断末魔と共に大爆発を起こした。その中から転げ出たアナザーウィザードウォッチも、爆発の余波で木端微塵に弾け飛んだのだった。

 

 

「……はぁ、流石に疲れたな」

 

 

変身を解除し、ミカドは思わず息をつく。余裕そうにも見えたが、本人からすると想像以上にギリギリな戦いだったらしい。アナザーウィザードラゴンとの二連戦だから無理もない。

 

しかし、

 

 

「……認めんぞ、我が野望はまだ終わらない…!」

 

「…! 冗談も大概にしろ貴様…!」

 

 

爆発の中でルシフェルが立ち上がった。ここまでしぶといと流石に呆れる。ルシフェルは魔力の尽きた体を執念で動かし、絞り出した最後の魔力で光の刃をミカドに───

 

 

「そこまでだ、ルシフェル」

 

 

白い羽根が舞い落ち、光が通り去った。ミカドに向けられたルシフェルの殺意が途切れ、光の刃が切り刻まれて崩れ落ちる。まさに神業と言える神速の太刀がルシフェルを打ち砕いたのだ。

 

そこに舞い降りたのは美しく、凛々しい、強き眼差しの白い袴を着た天使。その風格は同じ天使でもガヴリールとは雲泥の差だったが、容姿自体は妙に似ていることから正体は察することができる。

 

 

「ゼルエルっ…!!」

 

「ガヴリールから最初に報告を聞いた時、私は信じられなかった。だからこそ敵としてお前と相対した時、私は覚悟を決めたのだ。本当に身も心も堕天し、魔に堕ちたというのなら容赦はしない。罰を受けろ…ルシフェル!」

 

 

天真=ゼルエル=ホワイト。ガヴリールの姉で、ルシフェルの友人だという、天界最強の天使。そんな彼女を前にルシフェルの道は完全に閉ざされた。今度こそ終わりだ。

 

 

「何故だルシフェル…私は、お前を妹たちに誇れる素晴らしい友だと思っていた。お前ほど天界のことを想っている天使はいないとも思っていた。そんなお前が何故、天界に仇を成した…!」

 

「そんなこと決まっているだろう……天界を想った故だ。そして…お前を想った故だ、ゼル!」

 

 

去ろうとしていたミカドの足が止まった。話の流れがなんだか予想外の方向に向かい始めている。

 

 

「私を…だと? どういうことだ…」

 

「ゼルは可憐だ。お前ほど美しい天使は他にはいない! そんなお前がこんな行き遅れた天界で生きることが耐えられない! そんな人間界ではもう誰も着てないような古臭い着物などではなく、もっとハイカラな服の方がゼルには似合うはずだ!」

 

「お前だって似たような服を着ているじゃないか」

 

「それは…ゼルとお揃いになりたいと望んだから! お前こそが我が全て、希望なんだ!」

 

「……?」

 

 

ミカドはもう何も考えなくなっていた。

ガヴリールがルシフェルを苦手と言った最たる理由がこれだ。この男、ゼルエルのことが大好きな上に言葉にするのを躊躇わない。一方でゼルエルはその好意が理解できない。

 

こんなやり取りを近くで見せられたら、そりゃ苦手にもなる。

 

 

「…よく理解できんが、悔い改めよルシフェル。その罪、決して軽くはないが、お前なら必ず戻ってくると信じている。私の誇らしき友よ」

 

「待てゼル! 我が想いはまだ───」

 

 

問答無用でルシフェルが転送された。本当によかった、あれ以上聞いていたら何かしらのアレルギーが発症してしまうところだった。

 

結局最後までこんな感じでは締まるものも締まらない。あの男のことを真剣に考え、本気で戦った時間と労力を返して欲しいとミカドは切に願った。

 

 

「ルシフェルを止めてくれたのはお前か。人間の少年」

 

 

ゼルエルはミカドの姿を見て、呼び止める。人間が天界にいるという事実や、人間がルシフェルを追い詰めたという事実を全て差し置いて、まずは感謝と謝罪を兼ねてゼルエルは頭を下げた。

 

 

「私の到着が遅れたばかりに、彼に取返しのつかない過ちを犯させてしまうところだった。私の代わりに友を止めてくれたこと、そして人の身でありながら天界を守ってくれたこと、感謝する」

 

「頭を下げられる分には構わんが、礼なら俺よりも悪魔の魔法使いに言え。ヤツがいなければ俺は絶望していた。あと不本意だがどこぞの王様志望の人間にもな」

 

「謙虚だな、改めて心より礼を言う。そうだ…名を教えてくれないか、人間の少年。その栄誉を是非とも天界で語り継いでいきたい」

 

 

ゼルエルはそう言うが、アナザーウィザードを倒したことで間もなく歴史は塗り替わるのだ。この戦いは無かったことになり記憶から消えるため、名を名乗ったところで意味はない。

 

意味は無いが、折角だ。ミカドは名乗ることにした。

 

 

「光ヶ崎ミカド……いや───」

 

 

違うなと、ミカドは一度口を閉じる。今名乗るべき名前はそっちじゃない。今ならばなんの恨みも躊躇いもなく、こう名乗れる気がしたのだ。これからの時代を生き、未来を作る戦士の名として。

 

 

 

「俺は……仮面ライダーゲイツだ」

 

 

 

________________

 

 

戦いを終え、ゼルエルによって下界に送り届けられたミカド。晴れ晴れとした顔で帰って来たミカドは、まず疲れ果てた様子の壮間の前に立って、正面から視線を合わせた。

 

 

「勝ったぞ」

 

「…お疲れ。まぁミカドなら勝てるだろって思ってた」

 

「その分かったような口ぶりをやめろ、腹が立つ。いいか日寺、貴様が想像力とやらで俺の先を行くのなら、俺は貴様が想像できないような存在になってやる」

 

 

なんだかよく分からないが、ミカドは変わったようだ。何か負の感情が抜け落ちた代わりに負けん気だとか脳筋な面が強く出ているようで、少しおかしかった。

 

 

「…何がおかしい貴様」

 

「いや…ごめん。でもそれでこそミカドだ。これからもよろしくな」

 

「よろしくぐらいはしてやる。だが、貴様は依然として俺の敵だ。俺は貴様よりも多くライダーの力を受け継ぎ、未来を変える」

 

「俺だって負けない。ライダーの力を受け継いで王様になるのは俺だ!」

「いいや俺だ」

「俺だって」

「黙れ死ね俺だ」

「だから俺…!」

 

「しつこいっ! なんですぐ喧嘩するかな2人とも!」

 

 

オカンみたいなテンションで香奈が言い争う2人をつねって止める。それにミカドがまた噛みつき、壮間が苦笑いする。きっと彼ら3人は、こうやってこれからの物語を進んでいく。

 

安心した顔でダンは立ち上がり、希望に満ちたミカドの肩を叩く。重荷が肩から下りたような柔らかい表情で、最後まで喧嘩を売るようにダンはミカドと向き合う。

 

 

「あのキモい天使様をブッ飛ばした気分はどうだった?」

 

「最高だ。俺はもう絶望したりしない…ウィザード、貴様の力は貰っていくぞ」

 

「くれてやるよ、精々魔法使いを満喫しろ。だがな、俺様の楽しい魔法使いライフを横取りしたんだ。その力でなるもんがロクなもんじゃなかったら、承知しねーぞ」

 

 

そう言って笑ったダン。「何になる」のか、例えば壮間が王様になりたいような。掲げていたい楽しくてカッコいい夢。ミカドはウィルに視線を向け、誇らしげに答えた。

 

 

「救世主だ」

「やっぱ力返せこの野郎」

 

 

良い感じだったのに突如始まった乱闘。ヴィーネが止めに入る前に、ダンは熱でぶっ倒れた。

 

 

「ねぇ、香奈ちゃん」

 

「なになに? そういえばヴィーネちゃん、いつのまにかちゃん付けにしてくれたよね。嬉しい!」

 

「そ、そう…? ありがとう…」

「あらあら~では私のことも、『ラフィちゃん』と呼んでくれますか?」

「よし、今日だけ特別に私を『ガヴちゃん』と呼ぶ権利をやろう」

「サターニャ様と呼んでもいいわよ!」

 

「便乗するなお前ら! それでね香奈ちゃん、前に行った時代のこと記録してるって言ってたじゃない? メモもいいと思うんだけど、それなら………」

 

 

ヴィーネが香奈に耳打ちで、あることを提案した。ありそうで香奈の中には無かった発想に香奈は「それだ!」と感動して手を叩き、ヴィーネと顔を合わせて笑い合う。

 

イベント好きの悪魔、引きこもりの天使、(偽物だったが)ドSな天使、よく知らないけど馬鹿そうな悪魔、あとはちゃんと仮面ライダーだった悪魔の魔法使い。そんな思い出を記録として残す素敵な方法。

 

 

「よーし! じゃあ早速……!」

 

 

 

__________________

 

 

2018

 

 

2012年、魔法やら天界魔界やらの不可思議な戦いを終え、3人は揃って2018年へと戻って来た。

 

 

「日寺、俺は貴様の家に住む」

 

「……はぁ!?」

 

 

ミカドがあっけらかんと放った破壊力抜群の爆弾発言。帰って来て早々これである。壮間は疲労も合わさってぶっ倒れそうな気分になった。

 

 

「知っているだろうが、俺はこの時代に家を持たない」

 

「今知ったわ。じゃあ今までどうしてたんだよ…」

 

「たまに宿を取ったが、大体野宿だ。しかしこの時代の警官に何度か捕まった」

「そりゃな」

「流石に不便なので今後は貴様の家に泊まることにした。貴様の家に案内しろ」

 

「お前っ……お前なぁ! 本当に自由な奴だなお前! ダメに決まってんだろ、香奈もなんとか言って……」

 

 

「誰かに頼る」ことを解禁したミカドがこうも厚かましいとは思っていなかった。香奈のヘルプを期待した壮間だったが、香奈はスマホを熱心に覗いて体を震わせていた。

 

 

「うんっ…これだよソウマ!」

 

「どれだよ」

 

「この写真! さっきみんなで撮った記念写真! 歴史が変わっても消えてない…写真なら消えちゃう歴史を記録できるんだ!」

 

「俺たちが消えた歴史の記憶を有しているのと同じ理屈だろう。タイムマジーンやジクウドライバーには時間改変による破綻を最小限に抑えるための保存機能があるからな」

 

「リクツはわかんないけど、なんかわかったかもしれない…私がこれからの冒険でやるべきこと…!」

 

 

2012年でミカドは変わり、香奈はやるべきことを掴んだ。この旅の恩恵はとても大きい。それだけでなく、香奈は楽しかったのだ。普通に生きてたら体験できないような天使や悪魔とのコミュニケーション。絶対に知れなかった、意外と俗っぽい天界や魔界の事情。

 

 

「天界は今も平和なんだよね。ってことは、ヴィーネちゃんやガヴさんはもう下界(ここ)にはいない。だったら……」

 

 

2012年で最後に撮った記念写真を見て、壮間と香奈は思わず吹き出す。

 

あからさまにやる気の無さそうなガヴに、青い顔のダンを無理矢理写真に収めて笑顔のヴィーネ。目立とうと中心を陣取るサターニャを嬉々としてピースで隠すラフィ。そして最後に隅に欠席者の如く付け加えられた、不二崎俊in瀬戸内海の写真。メチャクチャだ。楽しかった時間を表現するのに、これ以上のものは無い。

 

だから香奈は上を向き、胸に満ちた感謝を一気に叫んだ。

 

 

「ガヴさーん! ヴィーネちゃーん! 本当に楽しかったよ、ありがとーーーーっ!!!」

 

 

シンプルに大声で叫んで、天界と魔界に届いているのだろうか疑問にも思わないのが、実に香奈らしい。もう覚えていなくともきっとまたいつか出会い、また友達になれますようにと天に祈った。

 

 

香奈が歩道の真ん中で叫んだ、そんな下界での一幕。

その目と鼻の先の家で、ボサボサ金髪の自宅警備員は掃除してない部屋でくしゃみをした。

 

 

「へぶしっ! なんだ…? 噂すんなよ、マジで人類滅びればいいのに……あーっ! なんでそれ外すんだよクソエイム! あああああああああっ!!」

 

 

そんな事も露知らず、話はミカド移住問題に。案の定香奈は全く聞いていなかったので、あの爆弾発言をもう一度聞く羽目になった。

 

 

「ソウマの家に!? あ、でもご両親いないから広いし…いいんじゃない?」

 

「嫌だよ! なんで男二人で同棲しなきゃいけないんだ! 嫌だろ普通!」

 

「黙れ。いいから俺に寝床を提供しろ」

「提供される側の態度じゃないんだなそれ!」

 

「うーん、じゃあ私の家はどう!? ご飯のお金とかお手伝いとかしてくれれば、お父さんもお母さんも分かってくれると思うよ!」

「よし、そうと決まれば片平の家に……」

「お金も手伝いもいらねぇから俺の家に住めばいいんじゃないかな!!!」

 

 

香奈とミカドが同棲する事実に耐えられなかったらしく、血反吐を吐くような気迫でミカドの居住を承諾。「最初からそう言え」と吐き捨てるミカドと、ご近所さんが増えて喜ぶ香奈が両脇にいるもんで、壮間は抱く感情に困った。

 

 

_____________

 

 

「かくして、ミカド少年は仮面ライダーウィザードの力を受け継いだのだった。彼が我が王を超える存在になるか、支え合う仲間となるか…イレギュラーで自由と開き直った彼の物語、これからが楽しみです」

 

 

ミカドに力を与えた者の正体など不安要素は多いが、そんな無粋は一先ず忘れ、少年の成長を喜ぶ。しかし、ウィルは自分が見初めた王である壮間の勝利を確信している。

 

型破りなショーを終えた物語は次のページに。預言者は本を開く───

 

 

「……本が無い…!?」

 

「探し物はこれかな?」

 

 

青い残像が本をウィルから奪い、そして投げ返した。開いた本にあった見覚えのない白いページ、そこに大きく殴り書きされた「悪役(ヒール)」の文字。

 

 

_____________

 

 

 

「……そういえばさ、ミカド。お前“仮面ライダーディエンド”って知ってる?」

 

「ディエンド…そんな仮面ライダーは知らんな。それがどうした」

 

「いや、お前が天界に行ってる間に来たんだよ。悪役(ヒール)って自称して大暴れして帰ったよくわからんメチャクチャな仮面ライダー」

 

「そうそう! なんかね、色んな仮面ライダーを出してたし、ガヴさんのラッパも盗んでいった青い人! また会おうって言ってたし、もしかしてそのうちまた……」

 

「───青ではなく“シアン”。間違えないでくれたまえ、快活なお嬢さん(プリマドンナ)

 

 

壮間と香奈が大声出して文句に近い驚きを叫んだ。

3人の前にまた突如現れた、悪役の青年『アオイ』。噂をすればとは言うが、いくらなんでもこれは……

 

 

「早過ぎだろ!!」

 

「在り来たりという平穏に浸る正義を、背後から刺し殺す。それが悪役(ヒール)さ。僕はいつだって物語を僕色に塗り替えるのを美徳とする」

 

 

銀色に揺らめくオーロラが、壮間とミカドと香奈を呑み込んだ。

それは一瞬の出来事だった。たった一瞬で、壮間たちの前に広がっていた景色は一変した。

 

 

「……これって」

「馬鹿な…」

「えええええええっ!!?」

 

 

そこは異国。いや、異国というにも少々語弊が生じる。

明らかに近代都市ではないレンガ造りが目立つ街並み。突然転移したことは置いておいて、ここまではまぁ木組みの街で経験済みなのだ。

 

しかし、そこを行き交う人々まで中世の時代のようで、たまに鎧を着て武器を持つ人もいるし、なんなら獣耳が生えたり尖った耳をした女性がいたり……

 

これまで様々な時代で戦いを繰り広げてきた。どれも現実を疑うような知らない世界の連続だったが、それら全てがまだ常識的だったと思えてしまうような光景。

 

 

有り体に言うと、そこは『異世界』だった。

 

 

街の中央に聳え立つのは神々が住まう巨塔『バベル』。

かつて暇を持て余した神々は下界に降り立ち、人々に恩恵を与えた。

 

 

ここは『迷宮都市オラリオ』。

神の寵愛を受けし者たちは、夢と浪漫と冒険を求め、遥か深い『迷宮』へと潜る。

 

仮面ライダーの存在しないこの英雄の都で、壮間たちはまだ見ぬ冒険に挑む。

 

 

NEXT>>XXXX

 

 

_____________

 

 

次回予告

 

 

「レベル…? モンスター? ダンジョン??」

「すごいっ! まるでゲームの世界みたい! テンション上がるぅ!」

「決めたぞ日寺。俺は冒険者になる」

 

青年アオイにより誘われたのは、まるでゲームな異世界。

 

「僕は世界を旅する盗賊。幾多の世界を巡り、美学と宝を求める悪の渡り鳥。そんな僕が二度もこの世界に訪れたのには理由があるのさ」

「なにィ~? あの青盗っ人の知り合いだなんて信用できないね! ボクとベル君のファミリアから出てけっ!」

 

どうやら世界ぐるみで嫌われている。あの悪役、なにやった!?

 

「英雄譚が好きなんです。英雄みたいになりたくて、英雄みたいな出会いがしたくて…僕は冒険者になった。そして出会ったんです、追いかけるべき憧れの人に」

 

仮面ライダーのいない世界で、壮間が出会うのは「未完の少年(リトル・ルーキー)

 

「番外クエストさ。迷宮に眠るお宝を、誰が最初に手にするか」

「せっかくやることが無いなら、冒険しよう。今の俺達がどこまで行けるか!」

 

英雄と、救世主と、王様が、悪役に挑む幕間の英雄譚。

 

「さぁ、この世界に…【騎士の物語(ライダー・ミィス)】を奏でよう!」

 

 

次回「ディエンド・オラトリアXXXX」

 

 




新キャラ「マティーナ」はイタリア語で「朝」を意味しています。

悪役を名乗る「アオイ」、仮面ライダーディエンド。早速メインに出しゃばります。
で、ディエンドといえば「世界の旅」。それを前面に出すなら当然……

ということで、次回からルール違反の「クロス(ほぼ)無し」の「異世界回」!「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」との短めエピソードをお送りします。ここに来て異世界ラノベ選出は「やる必要があった」と「やりたい」の5:5くらいが理由です。ちゃんと意味はあるのでご安心ください。原作知らない方は、偶然たまたまもうすぐアニメ4期があるので強くオススメします。

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