仮面ライダージオウ~Crossover Stories~ 作:壱肆陸
ラッキークローバーに所属するオルフェノク。年齢不明。中性的な姿だが性別は男性。本から引用するような語り口調で話すが、彼曰く「物真似をしないと他人と話せない」という。「異なる種の共存」という思想を支持する姿勢を貫くが、その思惑は不明。「孤独に苦しんでいる」らしく、その打開の希望をミツルに見ている。2003年では生存した。
グラスホッパーオルフェノク
キリギリスの特質を備えたオルフェノク。オリジナル。〔CCG〕からはS+レートに分類されているが、正確な実力は不明。聞いた者の心理に作用する音色をバイオリン型の武器から奏でることができる。極めて特異なオルフェノクで、オルフェノクエネルギーを注入する術を持たない。彼曰く「そういう意味じゃ不能」だが「種としては理想のオルフェノク」らしい。
卒論が辛い146です。
今回はダンまち編の2話目になります。6話くらいで完結を目指して進めていきたいと思っていますが、無理そうな匂いがプンプンする。色々とチャレンジするためにも、とにかく書くべし。
今回も「ここすき」をよろしくお願いします!
この世界における数千年前、巨大な『穴』から生まれるモンスターたちは人界を蹂躙していた。非力な人類は勇敢に剣を取るが、多くの命が無慈悲に散っていく。そんな暗黒の時代が長く続いた。
しかし、人類は戦いを続け、偉業を成し遂げた。
後世にて『英雄』と称えられる者たちの活躍により、人類はモンスターたちを退け、遂にその『穴』へと到達したのだ。
そして、そんな人類の雄姿を、『彼ら』は見ていた。
『神』───それは人智を超えた
天界で暇を持て余していた神々は、地上に降臨した。それを境に時代は転換点を迎え、世界は『神時代』へと一新する。穴を塞ぐように都市は栄え、人類は『恩恵』によって力を得た。そうしてモンスターたちは、地下の世界へと完全に封印されたのだった。
これが『ダンジョン』の成り立ちである。
「───っ、はぁ、はぁッ……!」
今や都市産業と化したダンジョンの奥には『未知』が眠っている。ダンジョンで採れる魔石は新たな技術を生み、ドロップアイテムは自然界で得られる素材とは桁違いの質を誇り、地上では決してお目にかかれない植物、異次元の強さの怪物、目を奪われるような神秘───多くの者がこれらの『未知』に取りつかれた。
しかし、未だその最奥に辿り着いた者はいないとはいえ、名だたる冒険者たちによってダンジョンは攻略され尽くした。上の階層ほど効率的なルートや必要な対策は整備され、ほとんどの冒険者たちは先人の『既知』の中で、力及ばず諦めるか、命を落とす。
実際に『未知』の最前線を征くのは選ばれた者だけ。
「なんだよ……ここは……!」
『未知』への挑戦こそ冒険者の花道である、ダンジョンに夢を見る者はそう語る。だがもし、漫然とした既知の中に『それ』が、『未知』が現れた時、そこでようやく遠かった現実の顔を拝むのだ。
『未知』とは、『死線』と同義であると。
『ギギャ…ギギッ……』
「ひぃっ!? 来るな…知らねぇぞ…! 俺は、こんなの聞いてねぇ……!」
鉱石の『鏡面』からモンスターがこちらを睨む。
冒険者である彼は、ダンジョンの22階層を探索していた。何度も来たことのある区域だったはずだ。森林の階層であるこのエリアに、こんな鉱床なんてあるはずがない。
ここから逃げ出そうと彼は走る。彼の右腕は、既に失われていた。この謎のエリアに入ったかと思えば、妙な模様の入った人型の怪物に引き千切られたのだ。
モンスターが強過ぎる。形質も能力も見たことが無い。地形だって、どこをどう進めば抜けられるのか皆目見当が付かない。そんな混乱の最中、ゆっくりと歩いて来るのは、
「な、なんなんだ…なんなんだよおおおおおおおおっ!!!」
「わかってる、だろ。おまえ、は、にげられない」
目の前の自分は、そう覚えたての絶望を紡ぐと、その姿から『脱皮』し、奥から新たな姿を見せる。思考を止めて彼は逃げた。何も分からず、ただ『未知』を嘆き、『未知』に恐怖して逃げる。
そんな彼を嘲笑う速度で、ダンジョンの
______________
壮間とミカドが『ダンジョン』に向かって数時間。
なんでも魔石というものを回収し、売却すれば金になるとのことなので一先ず衣食住に関しては安心していたところだったのだが、全く帰ってくる気配が無いまま時間は過ぎた。
「お腹すいたぁぁぁぁぁぁぁ……」
結果、居残りを命じられた香奈は街の片隅で、消え入りそうな弱音を叫んでいた。壮間たちが帰るまで一文無しの香奈。既に日が暮れ始め、異世界から来た香奈にとっては知らない夜が訪れつつあった。
帰って来ない壮間たちも心配だが、それ以上に空腹で他に何も考えられない。
「ウィルさんもどっか行っちゃうし……うぅ、こんなんなら街じゃなくて森とかだったらよかったのに……草とか食べれるし」
飢えのせいか素か、発想が野生児。
壮間との待ち合わせ場所も離れ、枯渇寸前の体力にしては広範囲に、フラフラとオラリオを徘徊する香奈。食べ物の香りに釣られては店の前に辿り着き、涙と涎を飲んで引き返すを繰り返す。
……まぁ普通は一晩くらい何も食べなくたって平気だろうが、異世界の食べ物を食べたいという欲求と、はしゃぎまくって無駄に浪費した体力が香奈を順調に追い詰めていたのだ。
「この匂いは……!?」
またも美味な匂いを感知した香奈は、無意識にその発生源を辿る。なんだか馴染みのある香ばしい匂い。行きついた先は店を閉める寸前の木造の露店だった。
「ふぅ……今日は随分と忙しかったなぁ、もうこんな時間だよ。おばちゃんは先に帰っちゃうし! 急用だかなんだか知らないけどボクをなんだと……! うわああっ!!?」
ぶつくさと愚痴を垂れながら店仕舞いをする幼女の店員だったが、店前で涎を垂らす香奈を見て悲鳴に近い声を上げた。その虚ろな視線はモンスターと見間違えられても仕方ないものだっただろう。
しかし、よく見るとただ店の「商品」を欲しがっているだけだと分かった。そしてお金が無くて食べ物に在り付けずにいたのも察した彼女は、怪訝そうにしながらも余った商品を香奈に差し出す。
「……食べるかい?」
コクコクと頷き、香奈は彼女が差し出したコロッケのような食べ物『ジャガ丸くん』にかぶりついた。満たされる胃袋の快感、香奈は食べる喜びを欠片も隠さず笑顔で表現する。
「~~っ!! 美味しい!」
「そうだろうそうだろう! なにせこのボクが揚げたジャガ丸くんだからね! ジャガ丸くんを作る腕に関しちゃ、神の中で一番って自負してもいいくらいさ!」
「本当に美味しい! サクッとした衣に中はホクホク、食べ応えも抜群のおやつコロッケって感じ! うん、でもコロッケとはちょっと違う? それに芋の中に感じる知らない甘味……薬っぽいけど鼻につく感じは無くて……」
「むむむ…」と初めて食べる異世界飯に興味を注ぐ香奈だったが、食べたっきり礼も言ってないことに気付き慌てて頭を下げる。ただし跪いて、地面に。
「うぇっ!? ど…『土下座』!? どうしたんだい突然!」
「こんなに美味しいコロッケ…この御恩は一生忘れませんっ!! お金は必ず……」
顔を上げた香奈は、そこで初めてしっかりと店員の顔を注視し、思わず言葉を止めてしまった。
丸っこく幼い顔立ち、小さな体格は幼女と言って差し支えない。ただその青色の瞳、ツインテールになっている黒い長髪、美しい肌の肢体が合わさると、不思議と「綺麗」と言う言葉が自然に零れ出た。神秘的というか、容姿が整い過ぎている。というか───
(おっぱい、でっか)
その幼い容姿に余りに不釣り合いな、育ちに育った胸部。香奈も自分が小さいとは思わないが、流石にこれは完敗だ。そんな彼女のアンバランスさも含めて黄金比を形作っていると言わんばかりに、彼女は美しかった。
いや、美しいだけじゃない。異世界の人だからかと思ったが、明らかに他の人と違う。なにか神々しさのような、心から敬意を表したくなる何かを、香奈は彼女から感じていた。
例えばこの間出会ったガヴリールたち、天使のように。
「えっと、ごめんなさい。お、お名前は……」
「名前かい? ボクはヘスティアさ」
(ヘスティア……なーんか聞いたことあるような…ゲームだったっけ…?)
その時香奈の脳内に、さっき彼女───ヘスティアが話していた内容がフラッシュバックする。『ジャガ丸くんを揚げる腕だけは、神の中で一番』。
その言葉はいとも容易く、香奈のモヤモヤの答えとなった。
「あ、まさか……もしかして、本当の本当に本物の…神様ですか?」
「…? もちろんそうだけど、見ればわかるだろ?」
ここは異世界、世界の仕組みも法則も異なる地。
天界から地上に降りた『神』。彼女、ヘスティアもその一柱だ。
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異世界とは、『ダンジョン』とは、恐ろしい場所だった。
これまで何度も死にかけたことはあるが、まさか金策でこんな目に遭うとは思っていなかった。労働経験の無い壮間が知らなかっただけで、どの世界でも金を稼ぐという行為は命懸けが基本のようだ。
あの牛頭のモンスターを前に死の淵が見えた時、壮間の視界に飛び込んだのは俊足の白兎。鐘の音と共に炎雷を放ち、怪物を討った小さな英雄の姿。
「───だからリリはギルドに任せるべきと言いました! 他派閥の冒険者をホームにまで連れ帰るなんて大問題ですっ!」
「だがなぁリリスケ、15階層にまで来てるにしちゃ防具も武器もまるで持っちゃいない。サポーターにしたって不自然だ。どうにもなんかワケありっぽくないか?」
「それが問題だと言っているんです! ベル様はまたホイホイと面倒事を持ち込んで! まぁ…今回は女性を誑し込まなかっただけマシだと思いますが!」
「確かに、言われてみりゃお前が男を助けるなんて珍しいな。ベル」
「すごく誤解を招きそうな言い方!? 僕べつに女の人だけ助けてるつもりは……!」
何やら言い争いをしていた3人は、少し間を置いて壮間が目覚めていることに気付いた。広い洋室、ソファの上。ここは壮間が気を失ったダンジョン内部ではなく、どうやら地上のようで、ミノタウロスを倒した冒険者であろう少年もいた。
負傷して倒れた壮間を、彼らが地上まで運んでくれたようだ。
おまけにどういうことか怪我まで治っている。
「あ……気が付いたんですね。よかっ」
「まずはあなたの派閥、そして15階層でろくに装備も持たず倒れていた理由を教えてくださいますか! そのうえで何も無いようでしたら、そのまま速やかにお引き取りを!」
「おいリリスケ。病み上がりの奴に強く言い過ぎじゃないのか?」
「いい加減に自覚してください! レベル3のベル様を擁する【ヘスティア・ファミリア】の等級は既に中堅以上、【ファミリア】内部の情報を盗もうとする輩なんていくらでもいるんです! 他所の冒険者をホームに入れるなんて論外も論外で……!」
「す、すいません……事情は手短に話すので落ち着いて…!」
猛り狂っているのは栗色の髪をした少女。いや、幼女と言うべきか。とにかく小柄だ。身長は1メートルと少ししかないように思える。ここまでのやり取りを見る限り、幼そうなのに色々と背負い込んでいそうだ。
話の内容は全くわからないが、ここは壮間が正直に話すのが一番早そうだった。
「っと…そこの白髪の人、ですよね。俺を助けてくれたの」
「あ、はい。15階層を探索してたら、見たことない小さい鳥みたいなモンスターを見つけて。それを追いかけてたらそこで……」
15階層に落下した際、他の誰かを探すために放ったタカウォッチロイドだ。売らなくてよかったと、壮間は心の中でウィルに軽く頭を下げた。
「ありがとうございます、本当に危ないとこでした。仰る通り全く準備不足で、完全にダンジョン舐めてた……事前に色々調べとくべきだったな」
「……おい待て待て。なんだその、まるで初めてダンジョンに潜ったみたいな反応は」
「え、いや初めて潜ったんですが……」
壮間の発言に眉を動かしたのは、他の2人に比べればかなり背格好の広い赤髪の青年。その服装はなんとなく和服みたいで、少しだけ親近感が湧いた。
それはそうと、壮間の発言で場が凍り付いた。そんなに信じられないほど愚かな行為だったのだろうか。そう思っていた壮間だったが、驚いている理由はそこではない様子。
「初めてのダンジョンで……15階層!?」
「武器も防具も無しでか!? ふざけろ! 有り得るかそんな話!」
「待ってください! オラリオ外から来たばかりの上級冒険者なら有り得る話です。派閥……所属する【ファミリア】とレベルは?」
「ファミリア…? レベル…あ、ウィルの話に出て来たアレか……でもそれよく知らなくて……常識知らずで申し訳ないんですけど、なんなんですかね、それ……」
「っ……あのですねぇ! リリ達は仮にも恩人です! 隠すにしてももう少しマシな言い訳ってものが……!」
「待ってリリ! この人、嘘ついてるようには見えないし、もしかして本当に【ステイタス】を持ってないんじゃ……」
「ベル様はお人好しが過ぎます! 【
今度は空気が凍るどころか暴発した。どうやら壮間は相当信じられないことを言ったらしいが、例の如く何の話をしているのかさっぱりわからず、何も言えないまま疑いの目を一身に浴びる壮間。
空気が大分しんどくなってきた。壮間が心の中で助けを求めたその時、下の階から大きな音量が迫ってくるのを感じた。しかも何やら聞き覚えのある声も混ざっている。
「だーかーらー! あれはボクの奢りだって言っただろ! 神の施しだ! いい加減放せー!」
「ダメですよ! 神様のコロッケなんて食べて『はい、ありがとうございました』じゃ済みません! 恩返しさせてください、できれば住み込み食事付きの労働でええええっ!」
「そんな厚かましい恩返しがあるかぁっ!?」
「香奈……!」
「神様!? 誰ですかその人!?」
香奈がツインテールの幼女と取っ組み合って登場した。
またしても何が何やらだが、なんとなく香奈が迷惑をかけてそうなのは想像できた。
「ベル君! サポーター君! ヴェルフ君! もう誰でもいいから助けてくれ! 全っ然話聞いてくれないんだよこの子!」
「あ、ソウマじゃん。ダンジョンどうだった!?」
「どうだったじゃねぇよ離れろ! すいませんホント、そいつ俺のツレなんです!」
助けてもらった立場で更に迷惑をかけた形に。恩を仇でとはこのことだ。壮間の名を聞いて微妙な表情をした小さい少女も気になったが、取り敢えず香奈を引き剥がし、2人揃って深々と謝罪をし、一度落ち着いて話を整理することにした。
「……女神様」
「そう、ヘスティア様。神様だって。天使の次は神様だよ、凄いよね」
「僕たちは神様……ヘスティア様の眷属、【ヘスティア・ファミリア】なんです。神様の力で恩恵を授かって、ダンジョンを攻略しています」
「そ、そうなんですね……」
正直に言って、壮間の頭には情報が入ってこなかった。というのも、壮間は今上着を脱いだ上半身裸の状態で、女神だというヘスティアに背中を観察されているのだ。上裸で女性の前にいるだけで壮間にとっては異常事態、ガチガチに緊張している。
(どういう恰好だよアレ……紐……!?)
ヘスティアの服装は壮間にとってはかなり常軌を逸したもので、まずは露出が多い。胸の谷間は見えるわ、脚は見えてるわ。しかも薄着のようで、破れた白い布を纏っているような服は体のラインに吸い付いていて刺激が強い。
極めつけには両腕から胴を横断する青いリボンは、その豊満な胸部を持ち上げ更に存在感を増強させていた。あのリボンの意味が一番分からない。壮間は激しく混乱している。
「……うん、確かに彼は【ステイタス】を持ってない。どの神とも契約を結んでない子供だ」
少しばかり壮間の背中をいじくると、ヘスティアはそう断言した。
「すてーたす、ってあの能力値的な数字的なアレ?」
「俺に聞くなよ香奈。俺もまだなんもわかんないから」
「本当の本っ当に、君達はダンジョンのことも恩恵のことも、ボクら神のことも知らないのかい?」
「はい……すんません」
「~っ……はぁ…本当みたいだ。ボクらは下界の子供たちの嘘は分かる。神に誓ってと言うと変だけど、嘘はついてないよ」
神の一声というか、それを疑うことは誰も出来なかったようで、一先ず壮間への疑いは晴れたと見てよさそうだ。
「しかし、そうだとするとどうやって15階層まで……」
「まぁいいじゃねぇか。確かに俺も気になりはするが、それこそ他所の冒険者への詮索になっちまう。悪かったな、嘘だなんて疑って」
「そんな! 命を助けてもらったのは俺です。こちらこそお礼も何もできずに……あ、そうだ魔石。途中から拾えてなかったけど、全財産これだけなんでこれでよければ……」
「いや受け取れませんよ! 僕はたまたま見かけただけですし、しかも全財産って受け取れるわけないじゃないですか!」
「いやほんとに危なかったんで。勉強代と思えば全然安いんで。今日は野宿するんで黙って受け取ってください……!」
「野宿って、宿も無いんですか!? それなら今日はここに泊って行かれた方が……」
「できませんって! 恩に恩の上塗りなんて! いいから黙って受け取ってください!」
「だから絶対受け取れませんって!!」
「ふたりとも腰低いのに喧嘩みたいになってる」
「似た者同士なのかもね。ボクのベル君の方がずっとカッコいいけど!」
魔石の押し付け合いをする壮間と「ベル」と呼ばれた少年。「ポーション代くらいは頂きましょう!」「いくらなんでも現金過ぎるだろ!」と奇妙な戦いへの参戦者が増える中、ぼーっとそれを見ていた香奈が思い出したように呟く。
「そういえば、ミカドくんは?」
壮間の動きが固まった。
確かミカドと別れたのは、モンスターの大群に襲われて「穴」に落下した時。つまりミカドはまだ……
「ミカド忘れてたああああっ!!?」
ミカド、未だダンジョンの中。
______________
「……何か無性に腹が立ってきたな」
救助された壮間とは逆に、見立て通りミカドはまだダンジョンに留まっていた。壮間とはぐれてからかなりの時間が経過した。地上ではもう夜遅くだろう。
ここは13階層。落とし穴で壮間と別れた階層から、ミカドは動けていなかった。下の階層へと続く縦穴は幾つか見つけたが、壮間を探しに下に行くのは悪手。地形も分からないミカドが探しに行ったところで、ミイラ取りがミイラになるだけだ。
(奴がそう簡単に死ぬようなら苦労はしない。俺だけでも地上に帰りたいところだが……)
ここでミカドの方向音痴が発動。ミカドは一般的に提唱されるダンジョンの順路を外れ、普通の冒険者ならまず来ないような奥地にまで迷い込んでしまっていた。
変身を解いた状態で身を隠し、行動は最小限に。モンスターは魔石から離れた部位が消滅してしまうため食料にすることはできない。2068年での作戦中を思い出し、体力を温存して道を探す。
「それにしても、俺としたことが見立てが甘かったな……モンスターの強さは想定の範囲だったが、数と罠が厄介だ。これを知識無しで攻略するのは不可能だな。知識があれど、単独だと厳しそうな環境だが……」
しかし、モンスターの強さが許容できるというのはあくまで仮面ライダーだからだ。ミカドは生身でもやむなくモンスターと戦ったが、かなり手に余る感触を覚えた。事実かなりの痛手を負う羽目になった。
生身の人間が武器を持った程度でアレを相手にし続けるのは些か無理があるというもの。こうも道のりが長いと大それた兵器も持ち歩けないだろうに。
この異世界には、まだ知らない決定的な何かがある。それがミカドの見解。
だとすればミカドはそれを知りたい。
不意に連れて来られたこの世界。何かを得られるとするのならそこにあるはずだ。
「……長かったな、ようやくだ。誰か居る」
まだその姿は見えないが、ミカドはそれを確信した。
激しい戦闘音が聞こえた。というより、それは殴る蹴るの打撲音ではなく、確実に「爆撃」の音。それを裏付けるように、ミカドはその先に大きな魔力を感知していた。
ウサギのモンスター『アルミラージ』の大群、その焼け焦げた死体の前で息を切らす少女。先端に蕾が付いたような杖を持ったまま、少女は試験管に入った液体を飲み干す。
「……よし、次っ!」
「待て」
呼び止められた声に気付き、少女もミカドの存在に気付いた。少女はダンジョンで誰かに会うのは慣れているのかあまり驚かず、しかしこんな奥地で誰かに会うとは思ってなかったらしく目を見開く。
「えっと、なんでしょう……?」
「それを寄越せ」
「はい?」
「遭難した。道が分からん。体力も減っている。その薬らしき液体を俺にも寄越せ」
助けを求めるには余りに高慢な言い草。少女は顔を引きつらせて絶句するが、モンスターにやられたらしき傷が目立ったので慌てて手持ちのポーションを渡した。
ダンジョンにおいて、他派閥の冒険者とは無干渉が基本。
しかし必要な時には助け合うのが人情というものだ。彼女はそんな温厚な考えの持ち主だった。
「これはいいな、傷と体力が回復した。味も悪くない…戦場では重宝するだろうな。礼は言ってやる」
しかしこうも乱暴な感謝をされると、流石に苦笑いも出るというもの。
「それで、あなたはどこの派閥の冒険者ですか? 帰り道は案内しますが、その……私も大きい派閥の者なので敵対派閥だと困ると言いますか……一応確認を」
「派閥? 俺は外部から来たばかり。不要な心配だ。そんなことよりも貴様……」
ミカドは困った様子の少女をまじまじと凝視する。
山吹色の長髪を後ろで結び、容姿は冒険者の荒々しいイメージに反してとても可憐な少女だが、ミカドにとってはどうでもいいこと。気になっていたのは「尖った耳」と「杖」。
「…俺達の世界の言葉にはなるが、言語が統一されているなら名詞も統一されているはずか。貴様、もしや『エルフ』か」
「世界…? 確かに、私はエルフですが!」
「この世界では実在するのか。伝承に残っていた限りでは、エルフとは森に住む妖精、自然と共に生き、長い寿命を持つ神秘の種族。一方でプライドが高く選民思想が強い。森で鎖国体制を敷き、他種族との交流を断っているともあった」
「っ……随分と古典的なエルフ像をお持ちのヒューマンですね! これは同胞の名誉のため言わせて貰いますが、エルフはあなたの思うような者ばかりでは……!」
「なによりエルフは、
ミカドの無礼に対する憤りが、その一瞬だけ彼女の中で棚上げされた。思わず意識が臨戦態勢を取ったのだ。ミカドが彼女に放ったのは、モンスターにも似た明確な殺気。
ようやく会えた他の冒険者。この世界の秘密を体感する絶好の機会。
「貴様、名前は」
「レフィーヤ・ウィリディスですが……!?」
「地上に戻る前に俺と戦え、レフィーヤ・ウィリディス。俺は『冒険者』というものを知らねばならない」
なんて自分勝手なヒューマンなのだろうと、彼女───レフィーヤは呆れかえった。しかし、レフィーヤも冒険者になって長い。彼が本気なのは肌で感じ取れるし、相手はレフィーヤを本気で叩き潰す気なのも分かる。
だが、そうはできない理由もレフィーヤにはあった。
「……あのですね。自分で言うのもなんですが、私は【ロキ・ファミリア】の【
「無い。なんだそのふざけた名前は」
「ふざっ……!? とにかく、私は『レベル3』なんです! 13階層で満身創痍になっているようなあなたでは、恐らく相手にも……」
「御託はいらん!」
相手がきっと年下であろう女子だろうと、ミカドは容赦なく攻撃を仕掛けた。いつもなら多少は躊躇っているところだが、ここはダンジョン。常識を標にしていては痛い目に遭うのはもう知っている。
そして、それは案の定的中する。
ミカドは本気で拳を繰り出した。しかし、それは余裕をもって見切られ、次の攻撃も簡単に防がれてしまう。
(やはりか……! この女でさえ、身体能力は俺を遥かに凌駕している!)
俊敏、膂力、感覚、その全てが常人からかけ離れているのが分かった。事実、本気で攻撃するミカドが赤子扱いだ。妙な苛立ちすら覚えてくる。
「……もう気が済みましたか? 私はあなたと戦うつもりはありません」
「チッ……確かにモンスター以上の化物だ、喰種か貴様は。しかし…それは貴様がエルフだからというわけではなさそうだな」
「誰がモンスターですか! ほんっとに、とことん失礼な人ですね!」
「俺ももう手段は選ばん。貴様の本気を見れなければ、わざわざ迷った価値が無いからな!」
この世界の『冒険者』は、なにか特殊な能力上昇が付加されていると見て間違いない。それによって人類がモンスターをも超える力を得て、ダンジョンを攻略しているのだ。
その「何か」を持たないミカドだが、それを埋める手段は持っている。生身相手に変身したと言えば壮間が怒りそうだが、知った事かとミカドはドライバーを装着した。
《ゲイツ!》
「変身!」
《ライダータイム!》
《仮面ライダー!ゲイツ!!》
「な……なあああ───っ!!?」
レフィーヤは驚きの余り絶叫した。
恐らく自分より格下の「レベル1」程度であろう少年が、なにか知らないアイテムを腹部でガチャガチャしたかと思うと、突然フルプレートの鎧を纏ったのだ。この世界からすればぶっちぎりの常識外れに愕然とするのも当然。
「な、なんなんですかそれ!?
「喋っている余裕があるのか、もう一度確かめろ」
再び迫るゲイツの攻撃。だが、その速度は生身とは段違い。なんとか避けたレフィーヤだったが、拳を受けたダンジョンの壁が易々と崩れた。さらに、距離を取ろうとするレフィーヤに一瞬で追いつく瞬発。
(鎧を着ただけじゃない! 【ステイタス】……というか身体能力が跳ね上がってる! この力に敏捷、どう考えてもレベル3の私を超えてませんか!?)
彼がレベル1だと仮定して、推定レベル2か3以上の
だが目の前で起こっている事実は、そうでもない限り説明できない。
(何者なんですか……このヒューマン!!)
得体の知れない力を持ったヒューマン。その文字列が浮かんだ時、レフィーヤの中で白髪の『彼』の姿も一緒に浮上するが、今は関係のない男に腹を立てている場合ではない。
「魔法を見せろ! 怪我をしたくなければな!」
「っ……!」
レフィーヤは一瞬躊躇する。冒険者にとって【ステイタス】は生命線であり、仲間以外には極力知られたくない情報だ。魔法もまた然り。敵か味方かもわからない彼に見せてしまうのは、果たして得策なのだろうか。
しかし、彼は本気だ。魔法を引き出すまでは喰らい付くと、その鬼気迫る声色が告げていた。なによりこの燃えるような気迫に、レフィーヤは何処か覚えを感じた。
「……わかりました。どうなっても、知りませんからね!」
それをスイッチに、レフィーヤの動きが変わったのをゲイツも知覚した。全ての神経を「回避」に注ぎ込んだような攻撃と防御を捨てた身のこなし。彼女の動きを止められない。だが彼女が顕現させる
「【解き放つ一条の光、聖木の弓幹】」
レフィーヤの「詠唱」が始まった。彼女の足元に展開された
そしてゲイツは、構築されていく詠唱に果てしない戦慄を覚えた。
「【汝、弓の名手なり。狙撃せよ、妖精の射手】」
「───っ!!」
レフィーヤが言葉を強く編み上げる。それと同時に膨れ上がる、莫大な魔力。今までミカドが知覚していたそれとは次元が異なり、もはや感動すら覚える絶景の域。
「───【穿て、必中の矢】!」
肌が逆立ち、呼吸が冷える。心臓が打ち震えているのを感じる。魔法を紡ぐ妖精、その美しさの中にミカドは純粋な脅威を、絶対的な力を見た。
《アーマータイム!》
《プリーズ!》
《ウィ・ザード!》
「【アルクス・レイ】!!」
暴力的、怪物級の魔力が、その名の下に解放された。レフィーヤの魔法杖から放たれる光。指向性を持った光線、光の矢。それは圧倒的に速く、敵を焼き焦がす熱と威力を帯びてゲイツに迫る。
「これが貴様の魔法か……!」
撃たれてからでは間に合わなかったであろう。直感に頼りウィザードアーマーを起動させて正解だった。今ならよく見える、この魔力の奔流、洗練された魔法の真髄が。
ゲイツはウィザードアーマーで魔力を躍動させ、炎の円盾を創り出し【アルクス・レイ】を受け止めた。魔力は圧倒的にあちらが上だが、ウィザードアーマーの単純なスペックでそれを補っている。
(詠唱無しで防御魔法!? 無詠唱魔法なんて、また
光の砲撃の出力が上昇した。あの女、まだ余力があったのかとミカドは激しい畏怖を覚える。これが冒険者。これが、異世界の魔導士───!
炎の盾が光に呑まれて消えた。しかしゲイツは退避するどころか、ジカンザックスを握り砲撃に真っ向から斬りかかっていく。
「まだだ……もう少しで、何かが……ここで負けるかあああッ!」
完全に熱されたミカドの闘志。ここに壮間がいないからこそ剥き出しにする、その激しい心の本音。そんな彼に対し、付き合いきれるかと匙を投げたのは彼自身でもレフィーヤでもなく、
武器───ジカンザックスだった。
「───しまった」
光の矢をなんとか僅かに逸らすことに成功し、激しく抉り取られたのはダンジョンの壁面。そしてついでにジカンザックスの刃がボロボロに崩壊してしまった。
先のアナザーウィザードラゴンとの戦いで酷使し、壊れてしまったジカンザックスをミカドが修理したのだが、不十分だったのかもしれない。武器が使い物にならなくなったゲイツと、魔法を撃ち終わったレフィーヤは、戦いを再開せず暫く顔を合わせ合う。
「貴様のせいで武器が壊れた。弁償しろ」
「貴方が先に襲ってきたんでしょうがっ!!?」
ここに来た意味があったと、ミカドは仮面の奥で笑みを浮かべた。わざわざ壮間と合流することはない、どうせ彼は放っておいても死なないはずだ。だったら、この寄り道の間で差を付けておくのも悪くない。
この異世界で出会いを果たしたミカド。そんな彼を、ダンジョンに眠る「何か」は静かに見ていた。
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「ねーねー、どこ行くのアオイ? マティちゃん疲れたぁ。早く『アレ』取りに行けばいいのにさぁ。それかダンジョンデートしよ? ダンジョンデート!」
悪役は、未だ何も動かずに成り行きを見守っていた。
辛抱弱いマティーナだけが彼の横で駄々をこねるが、アオイはそんな彼女の散漫する視線を、人差し指で誘導し
「マティ、バベルには何があるか知っているかい?」
「知らなーい。マティちゃんこの世界初めてだし」
「下の階層には人間が経営する高級店がある。深層のモンスターのドロップアイテムもそのまま売っていると聞くよ。お小遣いをあげるから、暫く遊んでくるといい」
「モンスターが!? 行く行く超行く! なに買おっかなー、内臓とか売ってるかなぁー! きゃーっ楽しみ過ぎヤバい!」
金貨を受け取ったマティーナは、ウッキウキのスキップでバベルへと走って行った。それを見届けたアオイの目線は横に滑り、自分達の後をつけていた気配に笑いかけて応答する。
「ホームに行っても留守で困ってたけど、そちらから来られては礼儀に欠けて、それはそれで困るね。ともあれ会えて嬉しいよ……お久しぶりだね、神ヘルメス」
「ごめんごめん。オレも君に与えた『恩恵』を感じたもので浮かれちゃってさ。こちらから出向ずにはいられなかったんだ、許してくれ」
うやうやしい動作でアオイが頭を下げる相手は、旅人のような恰好をし、横に聡明そうな眼鏡の美女を引き連れた細身で優男の男神。
「アスフィ団長も久しいね、相変わらず美しい海色の髪……【
「……貴方に団長と呼ばれたくはありませんが。私は貴方のこと、ヘルメス様に言われるまで忘れてたくらい苦手なので」
「そうだろう、やっぱわかってるなーアオイは。それを言うなら君の彼女だって可愛かったぜ? ただ、あまりに
「やめておいた方がいい。失礼だが、貴方にマティは愛せないよ。
さて、マティは
場所をヘルメスの顔が効くアイテム店に移し、人目につかないよう従業員用の部屋でアオイとヘルメスは腰を下ろした。そしてアオイが上着を脱いで背中を晒し、ヘルメスは店から拝借した針で自身の指に血を浮かばせる。
「まさか頼みが【ステイタス】の更新だとはなぁ。身構えてた分なんか拍子抜けだ」
「まぁヘルメス様は普段あれこれと胡散臭いことを頼まれて、私たちに散々迷惑をかけますからね……!」
「おいおい、集中してるんだから憎まれ口はよしてくれよアスフィ。それに、オレだってファミリアの子供たちを信頼してるからこそ、色んな神のパシリ……じゃない、依頼を受けるんじゃないか」
「ははっ、相変わらずこの世界で狂言回しを満喫しているようで何より。その
「よく言うぜ。あれだけオラリオを振り回したと思えば、【ファミリア】に断りもなくパッと消えたくせに。『恩恵』の反応も消えたから、オレはてっきり死んだものかと思ってたんだが……」
ヘルメスの指先は血をインクとして、アオイの背中に軌跡を描いていく。アオイの背に浮かび上がったのは常人では解読不能な文字列。その
冒険者とは、神々の恩恵を受けて超人へと昇華を果たした者たち。下界の子供たちが持つ潜在能力、可能性を神々が抽出し、
そして彼らが何かを成し遂げるたびに、それは肉体の中に
「……おいおい、冗談だろ…?」
【ステイタス】の更新が終わった。そして、その有り得ない結実に、ヘルメスは笑いを含んだ声で驚愕を隠せない。
「どうしたんですかヘルメス様…?」
「……レベル2」
「はぁ!?」
【ヘルメス・ファミリア】の団長、アスフィもまた結果を聞いて声を荒げた。レベルとは冒険者としての器の階位。レベルの上昇は「進化」とでも呼ぶべき事象で、レベル1とレベル2ではその力に雲泥の距離さえ生じる。
さらに、レベルを上げるという行為は極めて困難。ただ戦闘で漫然と経験を積むだけではそれは果たせず、積み上げた力で神々に認められる「偉業」を成し遂げて初めてレベルアップが認められるのだ。
故に冒険者の半数はレベル1であり、レベル2に上がるのにも通常何年という時間がかかる。
「所要期間2か月……【ランクアップ】世界最速に次ぐ速さ。しかもアビリティはオールS。参ったな、ヘスティアの言ってたことは眉唾じゃなかったって……!?」
「あぁ余り驚く必要は無いさ。彼とは違い、僕はこの世界の外で10年ほど旅をしてきたからね。この世界を出たら【ステイタス】は失効してしまったが、【
アオイがこの世界に訪れるのは「2度目」だ。
世界によって時間の流れも大きく変わる。ここに訪れたのはアオイ自身の体感時間で10年ぶり。この彼以外には信じ難い真実を、嘘を見抜ける
「もしやダンジョンの様子がおかしいのも君の仕業か?……オレの『英雄』を潰すような真似だけはしないでくれよ?」
「やっぱり勘が良い神だ。だがどうかな? 僕は悪役。主役を否定し、踏みにじるのが生きがいだからね。僕と言う悪意に圧し潰される程度であれば……語るに値しない物語だということさ」
「あぁそうかい。また前みたいに盛大に掻き回すんだろうけど……ま、オレが見込んだベル君なら大丈夫さ」
「前みたいに……か。それもいいが、僕は確かめに来たんだ。この世界のお宝は本当に価値があるものか───」
アオイは去り際に告げる。まるで冷たい銃口を世界そのものに突き付けるように、神すらも恐れることはなく、彼は宣戦布告を行う。
「この世界はありのままで居てくれた、これはその謝儀か、或いは細やかな復讐か。彼らに『未知』への挑戦権を与えるよ。超えれば万能への直通切符、そうでなければ……折れた夢を捧げて貰うだけだ」
これは親愛なる主神、ヘルメスに対する招待状。
そろそろこの都市の各地でも冒険者たちに伝えよう。悪役が導く冒険の舞台の号砲を。
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「えぇっ!? ダンジョンに仲間の人が!?」
「そうなんです…! 落とし穴で別れたっきり完全に忘れてた! まぁアイツなら絶対大丈夫だとは思うけど……」
「大変じゃないですか! どの階層かは分かりますか? ごめんリリ、ヴェルフ、僕ちょっと行って来る! できるだけ早く戻るから、
「ちょ……待ってくださいベル様!?」
まさかミカドのことが頭から消えてるとは、余程この異世界に翻弄されているのだと壮間は猛省する。「ベル」と呼ばれた彼は快くというか、食い気味に手を貸してくれるようで、心強くもあるが申し訳なさも多分に感じた。
壮間は気付いていなかったが、どうやらここはかなり大きな豪邸。軽く数十人は暮らせそうな広さがある。ベルは武器と防具を身に着けると、壮間と共に急いで階段を駆け下りた。
時間はもうとっくに夜。下の広間に顔を出すと、卓上に夕飯が用意されていた。何人分なのか分からないが、料理の皿が敷き詰められたとにかく豪勢な食事だ。それどころではないのに壮間の腹も鳴ってしまう。
これだけ広い屋敷なのだから妥当かと思っていた壮間だったが、それを見て屋敷の住人である彼ら、特にあの厳しいことを言う小さい少女は顔色を豹変させた。
「なーっ!!? なんですかこのご馳走は! ここのところ稼ぎが厳しいから節制という話をしたばかりなのに……!」
「まぁいいじゃないかサポーター君。今日は客人も来てるんだ、少しくらい贅沢したって
「誰の借金のせいだと思っているんですか! 今日の当番は
「呼びましたかリリ殿? おやっ、15階層の方も目覚められたのですね、申し訳ありませんこのような恰好で……ベル殿は見送られに行かれるのですか?」
豪華すぎる夕飯に愕然としていた一同の横から、凛々しい目付きの和服姿の少女が。黒髪といい顔つきといい、久しぶりに日本人に近似した人物を見て壮間は変な安心をしてしまう。
彼女が
「
「夕餉ですか? おぉっ、随分と豪勢ですね!? 自分は春姫殿が当番を代わりたいと仰るのでお任せしたのですが……ここまで気合が入っていたとは……!」
「春姫様ならさっき中庭の掃除をしているのをリリは見ました! 本当に
「なっ!? そんなはずは……確かに自分は春姫殿に! では、この食事は一体誰が……!?」
ダンジョンにミカドを探しに行くつもりが、夕食問題で何が何やらわからなくなってきた。つまり誰も作っていないはずの豪華な夕食が目の前にあるという。唐突に現れたそのミステリーの解答は、また唐突に自分から現れる。
「全く困ったものだね、喧嘩をしていては食事が冷めてしまう。せっかく僕が愛情と敬意を込めて用意したというのに」
「あ、お前は!! 仮面ライダーディエンド!」
「ガヴさんのラッパ盗んだ泥棒! 名前忘れたけど!」
「アオイだ。まぁ名前はどうでもいい、僕が世界を旅する
壮間たちをこの世界に連れて来た張本人、アオイがようやく姿を現した。そういえば2012年でも彼はラフィエルに変装していたような気がする。ともかく、彼をとっちめれば元の世界に帰れるはずだと壮間は身構えたが、その出現に憤っているのは壮間たちだけではないようだ。
「あ……っ、貴方は! アオイさん!?」
「君はッ…! 青盗っ人!! 何しに現れたんだ! 盗っ人猛々しいにも程があるぞっ! ボクとベル君のファミリアから出てけーっ!!」
「青ではなくシアンだ。いい加減覚えて欲しいな、神ヘスティア。それに、この食事は心ばかりのお詫びさ。迷惑をかけた分と、これから迷惑をかける分のね」
「話には聞いていましたが、自分は初めて見ます……彼がオラリオを騒がせた、あの【
「ああっ! やはりこの食事、保管していた食糧まで使われてしまっています! なんてことしてくれたんですかこの悪魔ぁーっ!」
「何が迷惑料だ、ふざけろ! 今度は何を企んでやがるこの泥棒が!」
どうやらアオイのことはベルやヘスティア達も知っているらしいが、それにしても凄まじい嫌われ具合に壮間たちも怒りを収めてしまった。一体彼はこの世界で何をやらかしたのだろうか。
さらに当の本人が嫌われて心底楽しそうなので、輪をかけて質が悪い。
「招待しようと思ってね、君たち【ヘスティア・ファミリア】…そして王の資格を持つ者を」
「招待……?」
嘘を見抜けるヘスティアが様子を伺う。しかしその神の目からしても、彼の内部は霞のように捉えづらい。ヘスティアが知る下界の子供たちとは、やはり何か根本から異なっている気がしてならない。
「リリルカ・アーデ、君なら把握しているはずだ。ここ最近、ギルドが発注する【
「えぇ……確かに近頃は不自然なまでに多いです。それも上層から下層まで問わず。それがどうしたのですか!」
「今、ダンジョンで
冒険者を生業とする者は、それを聞いて怖気が走った。どれだけ対策をしようと無に帰す、死角からの未知。それはダンジョン攻略において最も恐ろしいものだ。
壮間にも思い当たるものがある。ミノタウロスに襲われる前、突然地形が変わって桁違いに強いモンスターが現れた。もしやそれが
「───だがそこにはお宝が眠っている。そうだな、言ってしまえば……世界を意のままにする『万能の力』」
「万能の力……!? そんなもの、神であるボクですら聞いたことも無いね! あるわけないさ!」
「だが真実だと分かっているはずだ、貴女は。神ゆえにね」
「っ───!」
「都市中の冒険者たちにもこれを伝えた。間もなく始まるよ、気高く夢を見る者たちの真の挑戦が」
ヘスティアの沈黙が何を意味するのか、誰もが分かってしまう。悪役の青い瞳は冒険者ベル・クラネルと、王候補の日寺壮間を見つめ、彼らに向けて放たれるものこそが本命の開催宣言。
「番外クエストさ。迷宮に眠るお宝を、誰が最初に手にするか。驕る弱者にとっては不運、臆さぬ強者にとっては幸運、気まぐれに冒険者を呑み込む階層に名を付けるのなら、そう───ダンジョン【X階層】」
その知らせは彼の言う通り、都市全域の【ファミリア】に知れ渡っていた。都市最大と名高い大派閥から日々の生活すらままならない零細派閥まで。果てには都市で暗躍する闇にまで、その話は大きな波紋を広げる。
世界を渡る悪党、【
【X階層】を攻略した者こそが全てを手にする。
余所者の悪役は傲慢にも、冒険者たちに冒険の意味を問う。
これでダンまち世界の説明は大方済んだかな…?
壮間と香奈は【ヘスティア・ファミリア】に、ミカドは【ロキ・ファミリア】と関りを持つことに。レフィーヤは外伝のソード・オラトリアのキャラですが、僕の推しなので出してしまった……当然ヴァレン何某さんも出ますよ。
ダンジョンX階層とはなんなのか。壮間が前回迷い込んだアレがそうです。そこにいたモンスターは、皆さんお馴染みの奴らですね。その攻略を目指す物語となります。
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