仮面ライダージオウ~Crossover Stories~   作:壱肆陸

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竜峰=ダンタリオ=レンブラッド
2012年で仮面ライダーウィザードに変身した悪魔。通称「ダン」。悪魔らしく自分以外の全てにマウントを取り、悪魔らしく人間を絶望させるのが至上と豪語するなど、総じてヒーローらしからぬ性格。その実、生まれつき魔力が少ない「魔力喘息」であり、竜峰家の責任問題でファントム退治を押し付けられただけで、昔は弱気でネガティブな性格だった。2012年ではゲートであるミカドの過去を知った上で「堕落」を説き、戦場に自身の意思で赴いたミカドの「希望」を認め、仮面ライダーウィザードの力を託した。修正された歴史では、実家の仕事を継いで魔獣の世話をする毎日を送っているが、密かに下界行きを夢見ている。名前の由来はソロモン72柱の悪魔「ダンタリオン」。



過去最長のお久しぶりです。改名しました壱肆陸です。
忘れていると思うので軽く振り返りを置いておきます。

①壮間たちはディエンドにダンまち世界へ飛ばされてしまう
②怪人が出現するダンジョン【X階層】が出現
③壮間と香奈は【ヘスティア・ファミリア】へ、ミカドは【ロキ・ファミリア】に入団し、元の世界に戻る方法を探すため【X階層】攻略を目指す
④一方そのころ【剣姫】アイズとマティーナが邂逅

更新再開しますので、よろしくお願いします。
今回も「ここすき」よろしくです!


(マティーナ)

「位置について、よーい……ドンっ!」

 

 

身を屈めた香奈は、壮間の掛け声で駆け出した。枝と枝で終始のみを区切った簡易的な50M(メドル)のコースを彼女は一気に駆け抜ける。これは壮間の世界で言う所の『50m走』。そして、肝心のタイムはというと。

 

 

「6秒4……相変わらず陸上部並の記録」

 

「6秒台! 結構速くなってる! でもなんか……思ってたよりは地味?」

 

「当然です。『神の恩恵』を授かったからと言って、そう急に超人にはなりません」

 

 

壮間が読み上げた記録に喜びつつも、若干不満げな香奈。

壮間と香奈はつい先ほど、神ヘスティアから『恩恵』を授かった。具体的に言えば、背中に【ステイタス】を刻んでもらったのだ。この体力テストじみた催しは、その効果のほどを確かめるものだ。

 

 

「なんかこう、うおおおお力が溢れる! みたいなの期待してたんだけどなー」

 

「分かります…でもダンジョンに潜ってモンスターと戦ったり、修行なんかしたりで経験値(エクセリア)は体に刻まれて、確実に強くなっていきますよ」

 

「……と、ベル様は言っておられますが、【ステイタス】の上昇というのは本来非常に緩やかなものです。この世界にどれだけ滞在されるおつもりか知りませんが、短期間では大した成長は見込めませんよ」

 

「リリルカさんの言う通りっぽいな。まぁ、元々気休めみたいなつもりではあったけど。で……これでも香奈は気持ち変わらないか?」

 

「当然! 行くよダンジョン! 私も!」

 

 

この世界にいる間にベルのようには成れないと分かっても、香奈は自身の意見を曲げない。ゲーム好きの彼女はどうしても『ダンジョン』というものを見てみたいらしい。

 

 

「なんかこう、一気に強くなる裏技とか無いの!? ほら、ベル君って4か月で『レベル3』になったんでしょ? だったらメチャクチャ頑張ったらレベル上げれたりは……」

 

「できる! わけ! ありませんっ! そもそもベル様の成長速度が異常なだけで、普通ランクアップというものはそれなりの年月を要するんです! リリなんて…生まれた時から『恩恵』を授かっているのにまだレベル1……!」

 

「へー、リリちゃん冒険者歴長いんだ。8年くらい?」

「リリは15歳です!! ベル様より年上なんです!!」

 

「えっ、嘘!? 小っちゃいのに! でも私17歳! 勝ち!」

 

「何の勝負ですか!!」

 

 

横で香奈が大変な粗相をしているのが申し訳ないが、壮間は一先ずダンジョン攻略に思考を費やすことにした。ともかく、香奈も壮間も『魔法』や『スキル』が発現しなかった以上、『恩恵』に大きな期待は持てない。

 

 

「俺はとにかく技術や知識、あとは戦い方を磨いて行こうと思います。ベルさん、特訓付き合って貰えますか?」

 

「いいですけど…僕、人に教えるっていうのはやったことなくて。特訓相手は出来るなら僕よりもアイズさんの方が……」

 

「アイズさん?」

 

 

彼女は他派閥、しかも都市の超有名人。これまで2度も稽古の機会があったのにまだ望むのは流石に厚かましいと、ベルは自身の憧れの影を選択肢から消した。

 

そして、そんなベルの憧れ、【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインはというと───今まさに都市を騒がせるダンジョンの異常事態、【X階層】へと踏み入ってしまっていた。

 

ただし、彼女に降りかかっている異常は未知なるモンスターでも、ギミックでもなく、何者か分からない少女『マティーナ』という、飛びきりの異常事態だった。

 

 

「今の風、マジ凄だった! 強いんだねぇアイズちん」

 

「……神、様…?」

 

 

相応の警戒を向けつつ、アイズは自身の中に浮上した可能性を口に出した。

まるで自分達とは違う次元に生きるような超越存在の視線。目の前の彼女は異様だと断言は出来る。アイズの知っている内で最も近かったのが『神』だった。

 

だが、それではダンジョンに彼女がいることが説明できない。神はダンジョンには入れない、入ってはいけないというのが原則だ。何より、彼女が放っているのは神威というよりはむしろ、もっと異質な『歪み』そのもの。

 

 

「神サマ? 違うよ。マティちゃんそーゆーのじゃナイナイ!」

 

「そうなんですね……?」

 

「ここにはさぁ、アイズちんとお話しに来たワケ! だって16歳でそんな強い生き物になるとかヤバじゃん! びっくらだよ! マティちゃん女の子もラブだし、好きになっちゃうかもーなんて!」

 

 

アイズには理解しがたいテンションで、なんだか段々と神様に近い気もしてきた。

しかし、余裕綽々意気揚々と語り掛けるマティーナの周囲に集う殺気。忘れてはいけない、ここはダンジョン。油断をした者から死んでいく場所。生まれたばかりの怪人達は、その生得の殺傷能力を全て、警戒の無いマティーナへと向けた。

 

 

「っ───危ない……!」

 

「『止まりなさい』」

 

 

アイズの剣が届く距離だった。しかし、その剣が振るわれる前に怪人達の動きは止まった。理性や知性が無いはずのモンスターが、彼女の言葉に従ったのだ。

 

 

「『これ以降、私への全ての攻撃を禁じます』」

 

 

モンスターはまたもその言葉に従い、階層の奥へと他の冒険者を探しに消えていく。彼女の声は冷たく無機質だった。それは感情の無い、ただの『宣告』。それをモンスターは遵守するという、不可解な理屈が眼前に広がる。

 

アイズの第一級冒険者としての経験は、彼女の正体を説明できない。モンスターの調教(テイム)にしたって、言葉だけでは到底不可能だ。それなら超短文詠唱の魔法? しかしその軽率な立ち振る舞いから魔力は感じない。

 

 

「あっ、フツーに時間止めればよかったじゃんね。マティちゃんうっかり~! まーいっか、これでゆっくりお話しできるねアイズちん!」

 

 

モンスターがいなくなったエリアで、手ごろな岩を見つけたマティーナ。そこに座り込んだ彼女は、岩の上で手をパタパタとさせてアイズを誘う。この岩を机に見立てているつもりらしい。

 

アイズも油断はしない。油断はしないが、誘われた通りに彼女も岩の前に腰掛けた。

 

 

(彼女は神じゃない…でもあの力は、きっと神の力(アルカナム)と同等……!)

 

 

神は全知全能の存在。

しかし下界に降りた神は、自身が持つ超常的な能力を封印して生活をしている。というのも、神々曰く『権能が使えたら地上ライフつまらんだろ』らしく、一部の例外を除き力を使った時点で天界へと強制送還される決まりとなっているのだ。

 

神は地上では『全知零能』。

だが、神ではないという彼女が神の力(アルカナム)と同質の力を無条件で行使できるとしたら、それは世界が掌上に置かれているのと同義だ。

 

見極めなければいけない。彼女が善人なのか、悪人なのか。もし悪人だとしたら───

 

 

「アオイに聞いたよー、アイズちんジャガ丸くん好きなんでしょ? ほら、あげる!」

 

「っ!」

 

 

マティーナを最大限警戒していたアイズだったが、彼女が出したジャガ丸くんに一瞬で陥落した。マティーナから手早くジャガ丸くんを受け取ると、小さな口で遠慮なく頬張る。

 

あまり表情は変わらないが、今まさに幸福の絶頂! という感じなのは伝わってくる。アイズは史上最強のジャガ丸くん愛好家。そして彼女の中では、ジャガ丸くんをくれる人は善い人ということになっている。

 

 

「美味しそうに食べるねー、超キュートじゃん! ワンちゃんみたい!」

 

「美味しいです……ジャガ丸くんは、完全食。世界一の食べ物……! でも……」

 

「それにしてもレベルが高い冒険者ってホントに毒効かないんだ。それに致死量入れたんだけど、やっぱ凄い生き物だね! マティちゃん仰天!」

 

「やっぱり……! わかってない…ジャガ丸くんに毒は、邪道!」

 

 

そしてアイズはド天然(おバカ)であった。

しかし、レベル6ともなれば耐異常のアビリティも極まっている。第一級冒険者を服毒させ殺すのは不可能だ。毒殺の心配など必要が無いと言った方がいい。

 

 

「それで、マティ……さん?」

 

「なになにアイズちん」

 

「マティさんは、ここがどこなのか…知ってるんですか?」

 

「ん、知ってるよ。だってここマティちゃんが作ったんだもん」

 

 

あっけらかんと信じられないことを言うマティーナ。このモンスターもいる上にどう考えても人工で作られたものじゃない階層を、彼女が作ったと言う。しかし彼女が嘘をついているようには思えなかった。

 

というよりも、嘘をつく必要すら無い。そんな視線。

マティがアイズを見る目は神と同じ、下位の存在を見るものだ。

 

 

「ホントは嫌だったんだよ? だってめんどっちいし。でもアオイがどーしてもって言うから。推し活しないとね、推し活!」

 

「マティさんは、何者…なんですか」

 

「なんだろーね……愛に生きる女、的な?」

 

「愛……?」

 

「アイズちん好きな人いる? 推しは? 音楽とかお話とか、好きって色々あるじゃん。マティちゃんはねぇ…強い人が好き! 自然淘汰に食物連鎖、絶対に生き残る生き物が大好き」

 

 

愛というものがよく分からない、そんなアイズが問いかけた純粋な疑問。それの答えは随分と単純だった。強い人が好き、まるでアマゾネスのようだとも思った。

 

だが、アイズが理解できた文章はそこだけだった。

 

 

「でも、一番好きなのは自分。マティちゃんは、誰かを愛してる自分が一番好き」

 

 

混じり気の無い笑顔は、楽しそうにそう語った。

誰しもが持ち得る心の内側。それを隠す必要も無いと言い放つ彼女。だからなのかは定かではないが、その一瞬だけアイズには、マティーナが人には見えなかった。

 

 

「アイズちんは漫画とか小説とか好き?」

 

「……!?」

 

「マティちゃんはキライ! だってページめくるのメンド―じゃん。マティちゃんは誰かを推すのに努力なんかしたくない。だから王様とかもどーでもいいの。オゼちんやウィルちんみたいにオタクちゃんでもないからさ、なんで強いのかーとか、過去がーとか、どーでもいいの」

 

 

彼女は話し続ける。この世界の住人には理解できない文字列を。

下界の人々に娯楽を見出す悪神ですらも、唾を吐きかけるような浅い主張を。

 

 

「物語に価値なんて無いよ。だから飛ばし読みしちゃって、早送りしちゃって、一番強くてカッコいいマティちゃんの推しを見つけるの! 超素敵じゃない? そしたらさ、一番強い推しがいるマティちゃんの愛が最強で、一番強い推しを推してるマティちゃんが一番イケてるってことじゃん!」

 

「……それじゃあ、昔にモンスターと戦ってた英雄も…」

 

「英雄? アオイが言ってたけど…アルゴノゥト、フィアナだっけ、あとアルバートとか? 強い人は好きだけど」

 

「っ……! 戦いの中で命を懸けて……それでも人々のために戦って、偉業を成し遂げた…そんな英雄の戦いも、価値が無いって言うんですか……!」

 

「ん、すぐ死ぬし英雄って。だったらラスボスで居座ってるモンスターの方がラブじゃない?」

 

 

彼女は何を言っている。心の底からアイズは理解できない。

モンスターとは人類の敵だ。モンスターがどれだけの人を殺したと思っている。

 

そうか、そんな事、マティーナにとってはどうでもいいのだ。

自分の軽率な愛の過程で誰が死のうが、彼女はその背後の物語に関心を示さない。

それは彼の英雄に対する最大限の冒涜であり、侮辱だ。

 

 

「取り消してください…! じゃないと、私はあなたを許さない……!」

 

「怒っちゃった!? あー、アオイには丁寧におもてなししろって言われたのに―! しょーがないなぁ」

 

 

マティーナが不貞腐れたように頭を傾けると、その愛を失った蔑むような視線と呼び合い、壁が割れる。そして、怪人達が産声を上げた。産まれたモンスターは3体。

 

コブラのような姿の超越生命(アンノウン)『スネークロード・アングィス・マスクルス』。モグラのイメージで実体化した未来人類(イマジン)『モールイマジン』。そして侵略種(ワーム)のサナギ態。

 

 

「『争え』」

 

 

モールイマジンが鉄爪をアイズの細い体に叩き付ける。彼女の耐久ならば避けるまでもなく、攻撃を受け止めてそのまま斬り返した。だが、想定外が2つ。第一に攻撃が想定より強く、第二に敵が想定よりも硬い。

 

 

「さっきよりも強い……!」

 

「『最後の一匹になるまで殺せ。力を示しなさい』」

 

 

マティーナの『発令』はモンスターの行動を制限するだけでなく、行動を強制した上で強化さえも可能にする。それによって能力が上昇した怪人達の能力値は、ダンジョン深層のモンスターのそれに匹敵する。

 

加えて、今度はスネークロードが行動を開始。錫杖を掲げると、アイズの頭上に出現する次元断層。それは強烈な引力を持ち、彼女の体を一瞬で吸い込んだ。

 

アイズが次に見た景色は遥か遠くの地面。このルームで最も高度がある位置、その最大限上空に転移されたのだ。ここから落下し、下で待ち構える強力な怪人達。並大抵の冒険者なら即死のコンボだろう。

 

ただ、【剣姫】は並大抵でも強豪でもなく、『怪物』なのだ。

 

 

「【目覚めよ(テンペスト)】───!」

 

 

超短文詠唱を鍵とし、呼び覚まされるは闘気の暴風。

最も高度が高い、則ち目の前には階層の天井。アイズが自然落下よりも早く天井を蹴ると、その体は一陣の矢となった。

 

刹那、抉れるモールイマジンの胴体。

 

その風は防御を無意味と定義する。風が触れた傍から削り取り、彼女の風に唯一耐えうる『不壊属性』の剣《デスペレート》が最期を刈り取るからだ。付与魔法(エンチャント)を纏った彼女と斬り結ぶことを許された生物など、一握りも存在しない。

 

死の訪れと共に灰化した肉体を風が巻き上げ、次に剣先が向いた相手はスネークロード。

 

錫杖から霧を伴う風を発生させるスネークロードだが、当然そんな陳腐な風は一瞬で押し負け、霧は大気に溶けて消える。そして細剣の一振りが蛇の体を断ち切った。

 

 

「ヤバ。うん、アオイの言う通りこれは強過ぎ」

 

 

これがアイズ・ヴァレンシュタインの『魔法』。

精霊の風、【エアリエル】。

 

最後の一体、ワームのサナギ態はアイズの強さを目の当たりにし、生存本能により即座に『脱皮』して成虫へと進化した。タランチュラの姿に酷似した『タランテスワーム パープラ』となったワームは、自身の奥の手を解放する。

 

身体の『タキオン粒子』を操作することで一定時間、高速化した時間での活動を可能にする能力、『クロックアップ』。この能力は敵とは異なる時間を生み出すため、アイズのスピードも無意味である───はずだった。

 

 

「───!!?」

 

 

何かを仕掛けようとしている、そう判断したアイズはクロックアップより一瞬だけ早く、風による加速を開始した。そしてタランテスワームがクロックアップの世界に没入した時には、彼女は最高速度に達していた。

 

その結果、アイズはクロックアップの世界でも依然として動いていた。希薄な理性の中で怪物は瞠目する。それでもタランテスワームから見れば、まだ自身の速度には及ばない。焦るには値しない。何よりアイズは、異なる時間にいるタランテスワームを視認できない。

 

しかし、そうして放った棘の触手は風に押し返された。

迂闊だった。彼女の【エアリエル】は、彼女の認識に関わらず彼女を守る完全自動防御(フルオートガード)()()()()なら理屈として分析可能だった。

 

ただ、アイズは反撃を放った。風を纏った刀身がタランテスワームの腕を掠める。無論アイズにはほとんど何も見えていない。彼女はワームの速度に追いつかない人類の認識感覚を、自身の膨大な戦闘経験と天性の感覚で補完したのだ。

 

 

異なる時間の間で言葉は通じない。しかし、タランテスワームは認識した。彼女の剣よりも鋭い視線から、「見つけた」という宣告の言葉を。

 

ワームは『擬態』という習性を持つ。故に、圧縮された時間の中でタランテスワームは僅かに、しかし鮮烈に感じた。その圧死してしまいそうなほど濃く、包囲されていると錯覚するほどに執念深い、彼女の殺意を。モンスターに対する底無しの憎悪を。

 

 

その生命は、生まれ落ちて初めて恐怖を知った。

直後に鋼の刃がタランテスワームの体を刺し貫き、恐怖に屈した怪人は抵抗することも無く絶命した。

 

 

 

「『アイズ・ヴァレンシュタイン。生命活動を除くここでの行動を禁じます』」

 

「っ───!」

 

 

クロックアップの戦闘が終了する。

その次の一瞬を認識した時には、アイズの目の前にはマティーナがいた。

 

マティーナがワームをけしかけたのはこれが狙いだった。いくら彼女でも、圧縮した時間での移動を2()()()()()捉えきることは出来なかった。

 

その『規則』が発令された瞬間、アイズの思考は禁じられ、目を開いたまま座り込む。その美麗過ぎる容姿も合わさり、彼女は紛れもない【人形姫】と化した。

 

 

「ごめんねアイズちん、しばらくそうしててー。アイズちんヤバすぎだから……いたら舞台がつまらなくなる。ま、マティちゃんはどーでもいいんだけど」

 

 

【X階層】の奥で、剣姫は決して覚めない眠りにつく。

全ては愛のために。彼女はルール無用の児戯の如く、盤面から騎士の駒を排除した。

 

 

_______________

 

 

「なるほど……『アンノウン』に『イマジン』、特異な性質を持つモンスターたちだけど、戦闘においては僕らの世界のモンスターと大きく変わらないものが多いみたいだね。その点、特に警戒すべきは『ワーム』か」

 

「クロックアップと擬態、人間ではまず相手にならない存在の筆頭だ。サナギ態ならともかく成虫の討伐は、俺たちの時代……いや世界でも困難を極めていた」

 

ロキ・ファミリアに入団したミカドは、その条件の通りに自身の知る怪人の知識を共有していた。ロキ・ファミリアの団長、フィンは、その情報を整理しながら仮想の戦場を組み立てる。

 

 

「……擬態を見破る方法は?」

 

「専用の装備があれば擬態の解除が可能だが、それ以外なら体温や匂いだろうな。記憶まで複製が可能なワームでも、生理現象だけは模倣できない」

 

「よし、それなら対処が可能だ。話を聞く限り高速移動も……レベル6、ウチの主力なら対応ができると見た。まぁ、あくまでも推算だけどね」

 

 

怪人の名称、攻撃手段、身体構造、能力、生態。これだけの情報を一度聞いただけで、まるで実際見たかのようにクリアな戦場を見据えている。このフィン・ディムナという男は、ミカドが知る中で最も優れた切れ者だ。天賦の才と、長年培った経験で裏打ちされた、都市最大派閥を率いるに足る英傑。

 

ちなみにこの少年のような容姿に反し、彼の年齢は40を超えているという。ステイタスの効力で肉体の全盛期が長くなっているとか。しかしつい最近似たような驚きを経験したもので、ミカドはさほど動じなかったのだが。

 

 

「ん、お疲れさん。攻略作戦の方は首尾よく行っとるみたいやな」

 

「……ロキ」

 

 

そうして情報共有を終え、フィンと別れたミカドを待ち構える軽薄なにやけ顔。怪物の巣とも言えるこの集団の中で、目の前の極端に細身な彼女は唯一無力な存在であるとミカドは理解している。理解したうえで、最大の警戒と敬意を払う。

 

彼女こそがこのファミリアの起源。つい先日、ミカドに【ステイタス】を与えた主神、ロキである。

 

 

「さっきティオネが凄い形相で探しとったでー。ミカドは人気者やなー」

 

「今朝方人づてに喧嘩を売ったからな。この派閥ですら少数のレベル6だ、どんな手を使ってでも訓練相手にしてやる」

 

「おーおー穏やかちゃうなぁ。嫌われもんの策士もええけど、家族同士は仲良くがルールやで?」

 

狡智神(きさま)に言われたくはないな」

 

「なんやそれ。あっもしかして、うちって異世界でも有名神なん!? なぁなぁどんな感じで売り出されとるん!? 【美しすぎるトリックスター】とか大ウケちゃうか!? 異世界のこともっと教えてーやー!」

 

「喧しい……」

 

 

この館にいる間は常に野心でギラついているミカドだが、このエセ関西弁の細目女神相手に限って疲労が先に来る。というのも、ステイタスを授かった初対面の時でさえ、

 

 

『異世界転生キターーーー!!』

『なんなん自分、どないしたん!? やっぱ馬車に轢かれて目が覚めたらー……ってクチか? それとも突然いつの間にかってパターン!?』

『可愛い女の子ちゃうのはアレやけど、ベート以来のツンツン男子やーーー!! これはこれで萌えや、萌えーーー!!』

 

 

こんな感じでフルスロットルだったのだ。

ミカドがこれまで関わってこなかったタイプの人種、というか神種なので、相当深刻に持て余していた。ここまで残念具合を見せつけられても侮る気にはなれないのは、彼女が放つ底知れぬ神威からだろうか。これが神というこの世界に同情する気持ちも、まぁ確実にあるのだが。

 

 

「そんで、【X階層】攻略作戦には参加できそうなん? フィン達に実力を認めさせるんやったか? 異世界で知らんにしても、随分な道を選んでもうたな~」

 

「さっきも言ったが、今は団員と片っ端から組手をしている」

 

「あーうん。新入りが不意打ちしかけてくるって苦情、いくつか聞いとるわ。目が合ったら勝負ってモンスター使いやないんやから」

 

「ラウルという団員が唯一協力的だったから20本先取で勝負したが、ある程度競ったものの変身した状態で負け越した。変身した俺はレベル4以下の実力と見て間違いない」

 

「ラウルがヘトヘトやったんはそういう事か。合掌……」

 

「ここから戦闘の技術を……特に『魔法』を高めて戦力に食い込む。まだ戦っていないのはレベル6の主力連中と……」

 

 

ベタベタと引っ付いてくるロキを剥がしながら、ミカドが探すのは山吹色の小柄なシルエット。

 

 

「レフィーヤ、訓練に付き合え。魔法を見せろ」

 

「嫌です」

 

「ならいい加減リヴェリアとかいうレベル6の魔導士に会わせろ。そいつの魔法を見たい」

 

「ダメです。貴方みたいな礼儀のれの字も知らないようなヒューマン、リヴェリア様にはぜっっったいに会わせません!」

 

 

廊下の隅で縮こまっていたエルフの少女、レフィーヤは悲鳴に似た怒号を発しながら、涙目でミカドに振り向いた。

 

 

「……なぜ泣いているんだ貴様」

 

「貴方のせいですっ!! 昨日の今日でファミリア中に迷惑をかけてくれたせいで、やれ『レフィーヤが連れてきたヒューマンヤバい』だの、『レフィーヤちゃんと見張っとかなきゃダメでしょ』だの、私は貴方のお守ですか!? 挙句の果てには『レフィーヤの男の趣味どうなってんの』とまで言われたんです! だから私は嫌だったんです! 屈辱です!」

 

「なんやレフィーヤ、そんなことで泣いとったんかー可愛えなー。ほれミカド、女の子泣かせたんやから謝らんかい」

 

「なっ……!? っ……すまなかった」

 

「本当に悪いと思ってますか!? 大体、なんで今日になってもアイズさんは帰ってこないんですか……どれもこれも全部貴方のせいです……!」

 

 

とんでもない目つきでとんでもない冤罪を吹っかけてきたレフィーヤ。単独でダンジョンに潜っているらしいレベル6の団員、アイズ・ヴァレンシュタインが帰ってこないという話は、ミカドの耳にも入っている。しかしいくら慕っている先輩が不在だからと言って、そのベクトルは余りに理不尽だ。

 

 

「まーアイズたんは大丈夫やって。ウチの中の『恩恵』もビンビン感じるし、そもそもアイズたんは可愛すぎる最強チートぶっ壊れ反則美少女! やで? そんな簡単に何かあるとは思えんやろ?」

 

「それはそうですけど……」

 

「ほんなら心配は無用! ミカドと仲良くできんっちゅうんも……一緒に飲み交わせば解決や! そうと決まれば、今から『豊饒の女主人』でミカドの歓迎会やるでー!」

 

「えぇっ!? 今からですか!?」

「まだ昼間だぞ。大体、そんなことをしている暇は……」

 

「えぇねんえぇねん! いつ何時だろうが、うちが飲みたい時が宴の時やー!」

 

 

自由過ぎるロキの行動に強く反発できないのは、彼女が神だからだろうか。コミュニケーションの主導権を握られるというか、他人を御するのが妙に上手いというか。人類である限り、彼女の前ではどんな猛者だろうと子供扱いされてしまうように感じる。

 

 

(ファミリア、『家族』か)

 

 

主神が『親』で、眷族が『子』。ミカドはそのファミリアの構造を理解すると同時に、いつか失った懐かしい感覚を思い出していた。

 

 

______________

 

 

一方そのころ【ヘスティア・ファミリア】。

香奈は勝手をやっては主にリリの説教をされ、仕方ないので春姫の手伝いで屋敷の掃除をしていた。そんな中、竈火の館に飛び切り胡散臭い来客が現れる。

 

 

「よぉベル君にヘスティア! 元気かい? あれ、君は……」

 

(あ、多分この人神様だ)

 

「なるほど君がそうか! 俺はヘルメス、察しの通り神の一柱だ。よろしくな、異世界の迷い人ちゃん」

 

 

羽根つき帽子を被った澄ましたイケメン。自ら演出するような軽々しい品格からは、街で出会う人々との『目線』の違いを感じる。ヘスティアともかなり違うが、玄関を開けた香奈はすぐに彼が『神』であると断定できた。

 

来客を聞きつけトテトテと駆け寄ってきたヘスティア。何か嫌な予感を察知したのか、表情を歪めながらヘルメスの顔を見上げる。

 

 

「おいおい、同郷になんて顔をしてるんだヘスティア。厄介な話を持ち込むわけじゃない、オレはただお詫びをしに来ただけさ」

 

「お詫びだってぇ?」

 

「いま都市を騒がせてる【X階層】のことさ。ヘスティアのとこにもアオイが来ただろ? そのことなんだけど、実はあいつ俺の眷族なんだゲボホォ!」

「わー! 神様が吹っ飛んだぁ!?」

 

 

ヘスティアがヘルメスの腹部目掛けて右ストレートを放ったところで、閑話休題。

 

 

「……というわけなんだ。いやー参ったね、アオイは何をするつもりなんだろうか」

 

「なーに被害者面してるんだ君は!! 青盗っ人がレベル2だなんて一大事じゃないか! だいたい、子供の暴走を止めるのは神の義務だろ!」

 

「ちょ、よくわかんないけどヘスティア様、落ち着いて!」

 

「落ち着けるかーっ!! 君のとこの青盗っ人のせいでボクの……ボクらの……あれ、なんだっけ……? とにもかくにもゆるさーんっ!!」

 

 

ヘスティアの暴走を横目に、一瞬だけ神妙な表情を見せたヘルメス。率直に言って、香奈はそれが少し恐ろしかった。自分とは見ているものが違うと確信できる『眼』は、その既視感も相まって香奈に苦手意識を植え付ける。

 

 

(思い出した……似てるんだ、あのタイムジャッカーって人たちと……)

 

「だからお詫びしに来たって言ってるだろ? 誠心誠意、アスフィの護衛も巻いて来たんだ。【X階層】の攻略について、困ってることがあればなんでも力になるぜ? って、こんなことヘスティアに聞くより当事者に聞いた方がいいな。ベル君いないのか? おーいベルくーん!」

 

「わーっ! ベル君は今いないぞ! 新入りの団員と特訓中だ! わかったらさっさと帰れ!」

 

「あ、ソウマとベルくん帰ってきた」

 

「あれ? こんにちはヘルメス様。わざわざホームまでどうしたんですか?」

「あ……こんにちは。知らんけど神様かこの人……ぽいな」

 

「間が悪いぞベル君……! 壮間君もタイミングを考えたらどうなんだ!」

 

「わかんねぇけど多分俺悪くないですよね!?」

 

 

特訓から一旦戻ってきたベルと壮間がヘルメスに見つかり、派手に頭を抱えてツインテをブンブンと振り回すヘスティア。そんな彼女をよそに、ヘルメスは滑るようにベルに寄り添うと、そのまま進行方向を外向きに反転させる。

 

 

「やぁベル君! それに新入りってことは、君も異世界から来た子か。【X階層】攻略に向けて特訓してるんだって? どうだい具合の程は?」

 

「え……それが、実は少し滞ってまして……」

 

「そいつは由々しき事態じゃないか!! 大方、ベル君は人に戦いを教えるのが不慣れで困ってるんだろ? それならオレにいい考えがある! 二人をちょっと借りてくぜ、ヘスティア。なぁに悪いようにはしないさ信用してくれ!」

 

「ちょっと待てぇぇっ!! 18階層での前科があるだろキミは!! 置いてけ! ボクの眷族(こどもたち)を置いてけーーーっ!!」

 

 

18階層の騒動───ヘルメスは以前、ベルを騙してヘスティアと女冒険者たちの水浴びの覗きをさせようとしたことがある。その他にも彼がいらん事をして拗れた騒動は数知れず。ヘスティアの悲痛の叫び虚しく、ベルと壮間は天界きってのトラブルメーカーに連れ去られてしまったのだった。

 

 

 

「で、ここって……レストラン?」

 

「『豊饒の女主人』。レストランってよりは『酒場』の方が正しいな。オラリオじゃ一番人気って言ってもいい名物酒場さ。飯が旨いし、なにより店員が可愛い!」

 

「ヘルメス様、ということはまさか……」

 

「察しがいいなベル君。さ、善は急げだ!」

 

 

ヘルメスに押し出されるように2人が連れてこられた石造りの大きめの建物は、彼曰く酒場らしい。確かに料理のいい匂いや、昼間から飲んでる人がいるのか酒の匂いも僅かにする。

 

ベルは彼の神意を察したようだが、壮間はそんなことは全く無い。混乱したまま扉をくぐらされ、その先に待っていたのは───異様に美人なウエイトレスだけが働く明るい酒場、つまり店員がみんな女性の空間だった。

 

 

(これは無理だ!)

 

 

ステップを反転させ、逃げ出そうとした壮間の肩をヘルメスが掴んで離さない。無言で首を横運動させる壮間。慣れているのか苦笑いをしているベルだが、壮間にとってはハードルが天を突いている。

 

ジオウになってから女の人に囲まれる機会は確かに多かったが、今回はなんか雰囲気が違う。なんだこの料理以外にいい匂いがしそうな空間は。こんな場所に金を払って居させてもらうのだ、壮間にとっては実質キャバクラである。

 

香奈や心愛やガヴリール、壮間の知る残念美人の顔を思い出して心を落ち着かせていると、ヘルメス一行に店員が声を掛ける。

 

 

「なんニャ? ヘルメス様に白髪頭……こっちは知らない野郎ニャ」

 

「ひゃっ!?」

 

 

店員の顔が壮間の上半身をジロジロと観察している。茶毛のふわふわした髪に、おそらく付け物じゃない猫耳も近く、そして先端が広がった尻尾が揺れる。壮間はもう完全に凍結してしまっていた。

 

 

「なーんか変わったカンジがするし、冒険者にしてはヒョロいやつだニャぁ?」

 

「アーニャさん! その、壮間さんは……僕たちの新しい仲間で」

 

「ま、金落としてくれるならなんでもいいニャ! お客様3人入るニャー!」

 

 

ベルの助け舟でアーニャという店員から解放され、呼吸を再開する壮間。可愛い系の美人に動物の要素が加わるだけで、かくも威力を増すのかと息を吞む。生まれて初めて「獣人萌え」というものを理解した壮間だった。

 

 

「なんだ早速モテモテじゃないか、羨ましいぜ壮間君」

 

「ほんっとにもう……なんなんですかこの店……特訓の話じゃないんですか……!」

 

 

できるだけ店員の方を向かないようにしつつ、メニューを見る壮間。

知ってはいたが全く読めない。ただ数字だけは壮間の世界と共通のようで、料理の値段だけは読み取れた。安いもので数百ヴァリスくらいだ。

 

少しここで生活した感じ、1ヴァリスが円換算で大体10円くらい。ドルと同じレートと考えると、ここの料理は一食数千円ということになる。高い。本当にここは「そういう店」なんじゃないかと勘繰ってしまう。

 

悶々としている壮間を見て愉快そうにしていたヘルメスは、一人の店員を見つけるとハンドサインとウィンクを送る。その時、店の中で複数の「なにか」が壮間たちに向けられたような気がした。

 

 

「───っ!? なんだ今の……」

 

「……クラネルさん、シルは用があって外しています。来るなら彼女がいるときの方が良いかと」

 

「今日はシルちゃんに会いに来たんじゃない。リューちゃん、オレたちはキミに会いに来たのさ」

 

「クラネルさん、貴方は人が好過ぎる。いくら神とはいえ、付き合う相手は選ぶべきだ」

 

「ハハハ、酷いなぁリューちゃん。あぁ忘れていた紹介するぜ、彼は……そういえばちゃんと名前聞いてなかったな、自己紹介頼むよ」

 

「え? あぁはい、俺は日寺───んぐッ!?」

 

 

それまで会話が聞こえながらも、視線を落としっぱなしだった壮間。話を振られて顔を上げると目に飛び込んできた女性店員の姿に、壮間の呼吸は再び止まった。

 

またしてもとんでもない美人だ。容姿端麗という言葉が最も似合う顔立ちと、研ぎ澄まされた宝剣のような空色の瞳。澄み切った雰囲気。加えて、あの尖った耳は「エルフ」だろうか。

 

 

「日寺……壮間です……」

 

「このヒューマンが何者かはまだ聞いていませんが、様子が変です。具合が悪いのなら医療系のファミリアに……」

 

「い、いや、大丈夫ですリューさん! 壮間さんのコレ多分そういうのじゃないんで! 僕も気持ちはわかりますし……」

 

「お約束みたいな反応で面白いなぁみんな。それじゃ、オレの口から説明させてもらうか」

 

 

この店が壮間にとって余りに「強い」理由が分かった。彼女含め、恐らく壮間より年上であろう女性ばかりだからだ。自分が年上に弱いということを、まさか異世界で知ることになろうとは思わなかったが。

 

 

「なるほど。クラネルさん達の【X階層】の攻略に向け、私に指南を、或いは同行を頼みたい……ということですか」

 

「話が早くて助かるよ。どうかなリューちゃん。異界の冒険者のため、レベル4【疾風】の力を貸してくれないか?」

 

(レベル4!? この女の人が!?)

 

 

ヘルメスの説明が終わり、リューはすんなりと状況を飲み込んだらしい。それに加え、ベルがレベル3と聞いているが、彼女はそれを超えるレベル4だという。もしその話が本当なら是非とも力を借りたいところだが、どうにも何か訳ありの空気を感じてしまう。

 

 

「【次幻怪盗(ファントムシーフ)】ならこの酒場にも来ました。まぁ、何かを話す前にミア母さんが殴り潰し、泥になってしまいましたが」

 

「そうニャ! あの泥棒の残骸を片付けたのはミャーなのニャ! 本物に会ったら絶対とっちめてやるのニャ!」

 

「今は都市中大盛り上がりさ。誰が『万能の力』を手に入れるのか、ってね。異界の彼も帰るために【X階層】の攻略が必須だ。どうか力を貸してやってほしいんだけど」

 

 

リューの視線がジトっと湿気を帯び、ベルに向けられる。呆れたような目つきに無言の叱責を感じたらしく、ベルは申し訳なさそうに苦笑いを浮かべた。

 

 

「冒険者として挑戦する姿勢は否定しません。しかし、今回は全てが未知な階層の攻略。レベル3の貴方では危険な可能性が高い。私は、そんな無茶な冒険に力は貸せない」

 

「っ……確かに僕じゃ危険かもしれない。だからこそリューさんの力を借りられれば!」

 

「貴方の身に何かあればシルに申し訳が立たない。そんな場所に貴方を送り出すわけには……」

 

 

優れた冒険者は『未知』に臆病なものだ。未知なるものに胸躍らせながらも、死なないために未知を徹底的に潰す、その矛盾の境目に立つのが冒険者。緊張のせいだけじゃなく、この世界も彼女のことも何も知らない壮間は、何も口を出せない。

 

しかし、神であるヘルメスは違った。まだ手札は残っていると言わんばかりに、掌を拡げて話を進める。

 

 

「時にリューちゃん。前にアオイがこの世界で何をしたのか、覚えてるかい?」

 

「何を……」

「そんなの覚えてるに決まってるのニャ! あの泥棒は突然オラリオに現れて、それから……ニャニャ? えーと、ニャンだったかニャ……?」

 

「アーニャさん……アオイさんは『変身』してダンジョンに。それで、確か同時期に都市外の派閥が……!?」

 

 

アーニャとベル、その両方の顔が「思い出せない」という事実を物語っていた。あの夜、竈火の館で壮間が察したのは杞憂でもなんでもなかった。やはり、『ディエンドに関わる過去』がこの世界から忘れ去られている。

 

 

「……いえ、私は覚えています。【次幻怪盗(ファントムシーフ)】は異国の派閥と手を組み、『ダンジョンを盗む』と豪語し、そこに……!」

 

「そう、いくら記憶を辿ってもそこまでだ。どの方向から思い出しても、ある『特定の地点』から先の記憶に辿り着かない。神であるオレやヘスティアでさえ、そのツギハギの空白を見ることができないのさ」

 

 

違う。『ディエンドに関わる過去』の一部は、アオイが現れたことで修復されているのだ。消えているのはそれ以外の記憶。形式が全く異なるが、これは間違いなくライダーの歴史消滅による記憶改竄と同質のもの。

 

 

「ただ一つ確かなのは、前にアオイを止めた役者の一人がベル君だということ。その経緯さえ思い出せないが、ベル君は何かを成したのさ。そして再びアオイは現れた……安易だがオレはこいつを『運命』だと捉えている」

 

「運命、ですか……」

 

「アオイもベル君を気にしてたみたいだしなぁ。無関係のままいられるほど、この事態は彼に甘くないだろうぜ」

 

 

リューは情報を精査する。神さえも欺き、都市全体を巻き込んだ記憶の混濁。それこそ『神の力』でも行使しなければ在り得ない異常事態だ。もしそうでないとすれば、隣で心当たりがありそうな顔をする異界の少年が気にかかる。

 

 

「……わかりました、引き受けましょう」

 

 

敵意の刃を収めるように瞼を閉じ、エルフは神の誘いを受容した。

 

 

「ただし条件があります。私が指南をするのは異界のヒューマン、貴方だけです」

 

「え、俺……だけ!? ベルさんは!?」

 

「そうですよ! 僕もできるならリューさんに───」

 

 

ベルが不可解そうに食い下がろうとすると、昼間の酒場にまた来店者が。ただ、その声はベルにとって、更にはヘルメスや壮間にとっても聞き馴染みのある声で。

 

 

「なんっや、みんなノリ悪過ぎんか!? ウチが飲みたい言うたら付き合うのが親子っちゅーもんやろ! 結局ウチとレフィーヤとミカドの3人て!」

 

「仕方ないですよ。今は皆さん忙しいですし、まだ昼間ですし、何より……」

 

「俺がさほど歓迎されていないからな」

 

「自覚はあるんやな」

「自覚はあるんですね」

 

 

3人の視線が3人の視線と合った。

 

 

「「あーーーーーーーっ!!!!」」

 

 

店が震えるような大声を出したのは、壮間とレフィーヤだった。

ちなみに、この店でそんな事をすれば何が起こるのかは冒険者の中じゃ自明である。

 

 

「騒ぎを起こすんなら出ていきな!!」

 

 

カウンターの奥から現れた恰幅のいい女店主が、その剛腕でレベル3の冒険者を2人、神を2柱、あと仮面ライダー2人を店から叩き出した。なるほど、確かにここは「そういう店」でもなければ、荒くれ者の冒険者にいいようにされるような店でもない。店から放り出されて落下されるまでの時間で、壮間はそう納得した。

 

ちなみに後にあの店主がレベル6であることを知り、壮間はあの店が化物の巣窟にしか見えなくなる。

 

 

「で、なんで貴方がいるんですかあああああっ!!」

 

「なんでって!? 僕が昼間に酒場にいたらダメですか!?」

 

「ダメです。ダメに決まってます! こーんな昼間から飲むなんて非常識極まってます! あり得ません、この酒乱兎! 冒険者の自覚やプライドってものは無いんですかっ!」

 

「別に僕飲みに来たわけじゃないですし……ただ【X階層】の攻略に、ある人の協力が得られないかと」

 

「貴方たちも【X階層】に……!? しかも協力ぅ!? 図々しくもアイズさんの手を借りておきながら、今度は別の女性に手を出すつもりなんですね! 最低ですこの男。恥を知りなさい女の敵!」

 

「なんでぇっ!?」

 

 

叩き出されたことを気にする事もなく、レフィーヤはベルが視界に入るや否や言葉の連続爆撃を射出する。もちろん、どつき合いをしているのは彼らも同様である。

 

 

「お前今までどこいたんだよミカド!!」

 

「チッ……なんだ貴様、生きてたのか」

 

「生きてるわ!! いや忘れてたのは悪かったけど、電話もメールもしてただろ! 返せ! 反応を! めちゃくちゃ心配しただろーが!!」

 

「あぁアレか。喧しいから全てブロックした。一日に何度も連絡をするな、常識が無いのか」

 

「なんで俺が面倒くさい元カレみたいな扱いされてんだよ! あとしっかり生存確認してんじゃねーか! なんでそう冷静に自由なんだよお前は!」

 

 

【ヘスティア・ファミリア】と【ロキ・ファミリア】は、主神同士非常に仲が悪いことや、かの【剣姫】がベルの憧れの人であることもあり、大派閥と零細派閥の間ながらも何かと縁がある。

 

もっとも、必ずしも良縁ではないというのは、このやり合いを見ての通りであるが。

 

勃発した2つの戦争(一方的)が互いに顔を見合わせ、状況が浮かび上がる。ベルがミカドを、レフィーヤが壮間を認識したところで、暇を持て余していた神も口を挟んだ。

 

 

「ミアには追い出されちゃったけど、面白いことになってるな。もう一人の異界の少年はロキのとこに行ったのか」

 

「じゃあアイツはやっぱりヘルメスんとこの子なんか?」

 

「いいや、彼はヘスティアの眷族さ。そういえば、もう一人女の子もいたなぁ」

 

「なんやて!? なんでよりにもよってドチビのとこに行くねん!? 2人も! しかも女の子やとぉ……がーっ! なんやそれ気に食わんわ!!」

 

 

「……あの狐みたいな人がお前のとこの神様?」

 

「あぁ、【ロキ・ファミリア】……俺は都市最大の派閥に取り入ったぞ。一先ず環境の確保という点では俺が上を行ったな」

 

「別に競争するつもりはないけど……ベルさんだって、ウチの【ヘスティア・ファミリア】だって負けてない。俺はここで必ず強くなってやるよ!」

 

「なんだその余裕な態度は……少しは悔しがれ殺すぞ」

 

「そんな理不尽な殺意があるか!?」

 

 

「あのヒューマンも異世界から……つまり彼の言っていた好敵手というのが……! はっ!? まさか彼の力を借りて【X階層】に挑むつもりなんですか!?」

 

「あ、はい。今日も朝から攻略に向けた特訓をしてます。壮間さんは戦闘経験は少なそうですけど、それでも充分に強いですよ。知識無しの初潜入で中層まで行っちゃったみたいですし、特訓をしたらもしかすると……」

 

「なぁっ!? それってまるっきり……! ぐぬぬぬ……!!」

 

 

ヘスティアがここにいれば話は別だったのだが、居揃った面子が面子なので、大派閥であるはずの【ロキ・ファミリア】側が勝手に追い詰められていた。その結果───

 

 

「こんなん飲んどる場合ちゃうわ!! 帰るでレフィーヤ、ミカド! 帰ってしこたま特訓してドチビに目にもの見せてやるんやー!! もっとも、ウチの子がドチビんとこに負けるなんて絶対ありえへんけどな!」

 

「言われるまでもない! 首を洗って待っていろ日寺、この世界で魔法が使えない貴様と決定的絶対的な差をつけてやる!」

 

「勝負ですベル・クラネル! 貴方の弟子のそのヒューマンと、私が育てるミカドさん! どっちがより強くなって【X階層】を攻略するのか!」

 

 

三下の悪役みたいな挙動で遠ざかる【ロキ・ファミリア】の2人と1柱。それを遠い目で見ながら、色々と察した疲れ顔を合わせる。

 

 

「ベルさん、あのエルフの人に何したんですか……」

 

「いやそれが本当に分かんなくて……なんで僕あんなに嫌われてるんだろう……そういう壮間さんは」

 

「多分大体同じですよ……」

 

「大変ですね、お互い……」

 

 

神の承諾のもと、その場のテンションで派閥間の対決が始まってしまった。どうやらミカドも似た者同士の仲間を見つけたらしく、アレが2人いると考えると壮間の気持ちが急に重くなった。

 

 

(でもまぁ、やるからには負けたくないよな)

 

 

ミカドが壮間を宿敵認定しているのは理解している。あっちがその気なら、こちらもこの世界で超えてやろうじゃないか。この世界で出会いに恵まれたのは、自分の方だと教えてやる。

 

 

 

都市全体が沸き上がり、冒険者たちはダンジョンへと挑む。

その一部が【X階層】に吞まれて敗れ去る中、彼らは慎重に、且つ速やかに戦いに備える。

 

 

 

(ええか? ミカドは魔法のためにレフィーヤやリヴェリアに教わりたいと思っとるみたいやけど、魔法っちゅうんはエルフの専売特許やない。むしろミカドのタイプに合っとるんは───)

 

「そういえば貴様は俺に突っかかって来なかったな。話は聞いているぞ、ベート・ローガ」

 

 

ロキの斡旋でミカドが尋ねたのは、ファミリアの中で誰とも群れない灰狼の獣人。レベル6【凶狼(ヴァナルガンド)】、ベート・ローガ。剥き出しの野生、傷を思わせる顔の刺青。その荒々しさに違わぬ強さを、ミカドは肌で感じていた。

 

 

「ロキの入れ知恵か? 別の世界だかなんだか知らねぇが、俺は雑魚が嫌いだ。てめぇみたいな口だけの雑魚は特にな。分かったらさっさと失せやがれ!」

 

 

蹴って突き放すような、慈愛の欠片もない声。『お前のような新参に居場所は無い』という、過不足のない罵倒がミカドの感じた全てだった。しかし、神はそうではないと言う。

 

 

「ロキが言っていたな。『ベートの“雑魚”は意味が違う』と」

 

「……あの野郎」

 

「その意味とやらに興味は無い。ただ『雑魚』呼ばわりされたまま終われるほど、俺は俺を許しちゃいない。安心しろ狼男、貴様らが幾ら化物だろうが……俺は死んでも食らい付いてやる!」

 

 

狼が嚙み殺したのは、憤りか、嘲笑か。

ただ、ミカドには牙を嚙み締めた彼の口角が、僅かに上がったように見えた。

 

 

 

壮間たちが『豊饒の女主人』に訪れた翌日、早朝。

彼女と約束したのはこの時間だ。朝日を眺めていた壮間の前に、彼女───リュー・リオンは現れた。

 

 

(脚長っ、腕綺麗っ、めっちゃ美人! ていうか薄着っ!?)

 

 

現れて1秒も経たず目を逸らしてしまう壮間。昨日はウェイトレスの長袖制服だったので気付かなかったが、その白い手足が目に入ると余計に美しく見えてしまう。

 

しかし、壮間はすぐに気を取り直す。こんなことで一々躓いていては、特訓も何もない。それに、彼女が放つ澄んだ闘気は、緩んだ空気を一瞬で断ち切った。

 

 

「ミア母さんに無理を言い、数日の間だけ午前休みを貰えました。その時間で貴方の稽古に付き合います」

 

「ありがとうございます、俺のためにわざわざ……」

 

「貴方のためではなく、クラネルさんのためです。彼は私の友人の想い人であり……私にとっても尊敬に値するヒューマンだ。異界のヒューマン、貴方のせいで彼に危険が及ぶことはあってはならないことだと、強く理解しなさい」

 

 

リューが得物を構える。あの質感は間違いなく木刀だ。木刀のはずなのだが、その表面から感じるのは剣にも勝る『武器』としての格。そして、それに足る『剣士』としての格が、リューにはある。

 

寝ぼけていた壮間の意識がようやく認識した。

彼女は確実に強い。変身した壮間よりも、ベルよりも。

 

 

「彼に釣り合うよう、これから貴方を徹底的に叩き直します。覚悟はした方がいい、()()()()()()()()()()()()()

 

 

壮間とミカド、それぞれが圧倒的な格上のもとで力を磨き、肩を並べる同士を相手にそれを試す。そうして高まるのは冒険者としての【ステイタス】。それにより、元の世界よりも顕著に強さが高まっていくのを感じた。

 

【ステイタス】はこの世界でしか意味をなさないと、壮間もミカドも理解していた。だが、試してみたくて仕方がないのだ。強くなった自分が、強くなる自分が、この際限なく深い『戦いの世界』のどこまで沈むことができるのか。

 

泡沫の夢でいい。道を外した派生の物語でいい。

冒険の先に行きつく景色には、きっと大いなる何かがある。

 

特訓し、試し、傷つき、治し、そして最後に神が【経験値】を書き記す。それの繰り返し。そんな幾度目かのループの最後、結実した『それ』を神々は子に告げる。

 

 

「おめでとう壮間君。君に……スキルが発現した」

 

「お待ちかねやな、ミカド。おもろい魔法が出たで」

 

 

______________

 

 

壮間たちがこの世界に連れて来られて、しばらく経った。

一昨日、【ロキ・ファミリア】が【X階層】攻略のためダンジョンに潜ったらしい。それを聞いた【ヘスティア・ファミリア】も、少し遅れながらも今日、ダンジョンへの潜入を決行する。

 

 

「いいですか!? 今回は到達階層の更新が目的ではありません! レベル3以上の実力の壮間様が加わったとはいえ、行くとしても18階層まで。中層までの可能な限りの探索で【X階層】の出現を待つ! これが今回の作戦です!」

 

 

サポーター兼事実上の指揮官のリリが声を張る。ダンジョン入り口、バベルの大穴前での最終確認だ。パーティーメンバーは【ヘスティア・ファミリア】全員。もちろんそこには、香奈もいた。

 

 

「鍛錬の成果もあり、壮間様の強さは下層でも十分に通用するでしょう。しかしあくまで【ステイタス】はレベル1なのをお忘れなく! なにより香奈様はズブの素人です!」

 

「ひどい! それ言うならリリちゃんも春姫ちゃんもレベル1じゃん!」

 

「大丈夫です! 春姫殿も香奈殿も自分たちがお守りしますので!」

 

「観光目的なら俺も止めたが、何か覚悟あってのことみたいだしな」

 

「……ですので別に反対はしていません。香奈様の未知数の『魔法』はともかく、『スキル』は役に立つかもしれませんし」

 

 

ヴェルフと(ミコト)が肩を持ってくれて、嬉しそうにドヤ顔する香奈。その顔のまま壮間の方を向き、親指を立てる。マウントのつもりだろうか。

 

そう、香奈は何故か魔法とスキルの両方が発現したのだ。

 

しかも魔法の方はヘスティア曰く「意味不明」。類を見ない反則魔法とも解釈できるし、場合によっては全く役に立たないゴミ魔法となってしまう可能性もある。よくわからないという意味では、壮間のスキルも大概ではあるが。

 

 

「私も特訓したし、リリちゃんからボウガンも貰った! 今回は役に立つからね!」

 

「別にそんな……まぁいいや。でも絶対無茶すんなよ香奈。帰ったらダンス部のラストステージだからな」

 

「ダンスぶ……? 香奈さん踊るんですか? それは是非見てみたいです!」

 

「おっとベルくん興味ある? それじゃ帰ったら異世界の最新ダンスを───ってこういうのフラグだって! 無し! 今の無し!」

 

「また神様のようなことを……」

 

 

慣れたように大穴へ進むベル達に対し、壮間と香奈の脚は少しだけ歩幅が狭くなっていくのがわかった。

 

 

「壮間さん?」

 

 

今回は充分に備えたはずだ。それでも、入り口を前に足が竦んでしまう。

ダンジョンに挑むというのは、その挑戦に命を懸けるということ。己の脚で死地へと向かうということだ。

 

でも、止まるわけにはいかない。だから約束した。ホームで待つ主神と、元の世界と、実現したいと願う己の夢に。

 

 

「行きましょう、ベルさん!」

 

 

二度目の挑戦。【ヘスティア・ファミリア】は、ダンジョンへと潜入した。

 

 

_____________

 

 

「やぁっと来たー! 【ヘスティア・ファミリア】! じゃあもう始めちゃうよ」

 

 

どこでもない階層で、少女マティーナはそれを悟った。

ダンジョンとは生き物だ。神を嫌い、際限なく怪物を産み出す、巨大で不可解な生命。そんな存在に、マティーナは全霊の愛を捧ぐ。

 

 

「物語に価値は無い。だから結果だけ魅せて。生きるか死ぬか、みんながどんな生き物になったのか。マティちゃんはもっと愛したいの」

 

 

その愛を以て、彼女はダンジョンを『再現』した。

全ては『物語』から外れた世界だから成し得た越権行為。

 

マティーナの指先が、僅かにひび割れた天井を指した。

 

 

「『呑み込め』」

 

 

_____________

 

 

ダンジョン1階層に足を踏み入れた【ヘスティア・ファミリア】。

その瞬間、壮間の周りから仲間が全て消え去った。

 

 

「……は!?」

 

 

事態を察して即座に戦闘態勢を取る。

前に見た1階層とは岩肌の色が違う。馬鹿すぎる。そんな理不尽があるか。まさか、ここは既に───

 

 

『ウヴォオオオオッ!!』

 

 

恐怖の記憶にこべり突いた、忘れたくても不可能な振動。この死を予感させる不気味な重低音は……ミノタウロスだ。

 

 

「あり得ねぇ……いや、気付いてるならしゃんとしろ!!」

 

 

答えの出た恐怖に怯えるな。ミノタウロスは中層域以下のモンスター、1階層には決して現れないと壮間は『予習』したはずだ。だとしたらここは1階層じゃない、それが結論。

 

レベル2に分類されるミノタウロスは、レベル1では逆立ちしたって勝てない。でも、あの時の壮間とは状況が違う。

 

 

「来いや!!」

 

 

ミノタウロスの大振り。あぁこれを食らえば首を持っていかれる。

壮間は短く息を吸い、耳を澄まして目を凝らす。命のやり取りで、冷静に情報を拾うために。動く大岩のような体躯。そんなの疾風を駆ける妖精の方が、何倍も速いに決まっている!

 

 

「見えてるぞ……っ! 牛畜生!」

 

 

この数日食らいまくったリューの打撃に比べれば、鈍間もいいとこだ。とはいえ際どいのは事実で、多分このまま続けてれば5回に1回くらい死ぬ。でもそれで不足は無かった。あの時壮間に欲しかったのは、変身するための余裕なのだから。

 

攻撃の回避、それと同時にドライバーにウォッチを装填し、腰に装着。戦場でこの数秒を産み出す能力ほど、壮間が欲しかったものはない。

 

 

「変身!」

 

 

ジオウの鎧を身に纏った瞬間、力関係は逆転する。

レベル2に分類されるミノタウロスでは、推定レベル3以上の仮面ライダーには逆立ちしたって勝てない。

 

ジオウの拳がミノタウロスの頭蓋を砕く。踏みとどまったミノタウロスの反撃は、またしても大振り。今度は避けるまでもなく、構えて受けてトドメを刺す。そこまで想像を思い描いた瞬間、

 

 

「【ファイアボルト】!」

 

 

空間を走った光の亀裂。そして炎上。

頭から血を吐き出し突進する魔牛は、ジオウに辿り着く前に力尽きて焼き消えた。

 

 

「ベルさん!」

 

「壮間さん、今のは……助けはいらなかったですね」

 

 

自身より背の低い白髪頭が見えて、情けなくも安堵してしまう。こういうところだけは男らしく変われる気がしない壮間だった。

 

しかし、そこにいたのはベルだけで、他の仲間の姿は確認できない。

 

 

「僕も気付いたら一人でした。しかもここは……」

 

「間違いないです。ここは───【X階層】。俺たち、どうにも罠に嵌ったっぽいですね……!」

 

 

試練の形式は支配者が決定する。一人で戦えない者には孤独を、孤高の強者には枷を。英雄には、誰よりも険しい岸壁を。

 

そして、意地悪な支配者は、迷宮に迷い込んだ弱者たちにも試練を与える。

 

 

「これ……もしかして最悪ってやつ!?」

 

「無論、最悪だ。僕は『最』も『悪』な悪役(ヒール)だからね」

 

 

冒険者達とも壮間とも逸れた香奈の前に、狙い撃つように現れたのは【次幻怪盗(ファントムシーフ)】。

 

この試練の支配者は次元の旅人。

『普通の少女』は、彼の悪に何を見る。

 

 

 




幕間に時間かけすぎです。あと2話+エピローグで終わらせます。
マティのパートは数か月前に書いてたので、「推し」だなんだとギーツ被りしてるのは全くの偶然でございます。更新遅いのが悪いんですよね。

次回、【X階層】のラスボス登場。予想してお待ちください。

久しぶりに感想、お気に入り登録、高評価などなどお待ちしております!
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