仮面ライダージオウ~Crossover Stories~   作:壱肆陸

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バジリスク
孔雀の羽と極彩色の鱗を持つ幹部級ファントム。竜峰家の封印から放たれ、絶望して命を絶つ寸前だった女子高生に受肉した、魔界のファントムの1体。右掌の瞳で動きを封じ、左掌の瞳で魔力を封じるほか、鎖鎌「マース」を操り予測不能な戦闘を行う。ファントムらしくまともな道徳は持ち合わせていないが、レヴァナントに同士討ちを禁止されているためファントムの増殖にはモチベが無い。特に正体を隠さずガヴリール達とは親交を深めており、ダンにとっては複雑な存在となっている。一人称は「ボク」で、「知り合いを思い出す」という理由から天界組とは仲が良い。


壱肆陸です。実は大学を卒業しました。大学院行きます。
今回文字数が狂ってます。やりたいこと全部やりました。長い旅になりますが、いってらっしゃいませ。


よろしければ「ここすき」をよろしくお願いいたします……


英雄の夢(モノガタリ)

 

「ダンジョンから出るまで待ってください!」

 

 

ダンジョン潜入と同時に突入した【X階層】。しかし、その際に冒険者たちはバラバラに分断されることとなった。その中でも取り分け貧弱な【ステイタス】な新人冒険者、香奈はよりにもよって、事の黒幕であるアオイと出くわしてしまったのだが……

 

まずは掌を彼に向け「ストップ!」の意思表示。これにはアオイも意味を汲み取れない様子。

 

 

「命乞いには見えないな」

 

「この世界でやることがあるし、ソウマもやる気になってる。だから元の世界に帰すのは少し待ってください!」

 

「……っはは! まさか君は、僕が迎えに来たと思ったのか!?」

 

「だって悪役って嫌がることをする人でしょ。ガヴさんのラッパも取ったし!」

 

「それはそうだ、一本取られたね! いいね、君のジョークはファビュラスだ。だが僕は悪戯好きの妖精より姫殺しの魔女に惹かれるタイプさ、言いたいことはわかるかい?」

 

「言っとくけど、私だって少しは強くなった! 魔法もスキルもある! 前みたいに捕まったりはしないから!」

 

 

2015年で、香奈は令央に捕まってアナザーゴーストに取り込まれた。あの時の壮間の顔が目に焼き付いて離れない。もう壮間たちの脚を引っ張りたくない、その一心で香奈は【ステイタス】を授かったのだ。

 

ディエンドライバーの銃口を向けるアオイ。毅然とした態度を崩さない香奈。その間で戦いが起こることは無く、アオイが銃を下したことで緊張は解かれた。

 

 

「誰だか知らないが先を越されたね。一度手を付けられた姫の“二人目”になるのは、どうにも美学に欠ける。あぁ言い方がよくないか、他意は無いから聞き流してくれ」

 

「どゆこと?」

 

「まぁ元々その気は無いさ。マティに頼んで僕も『挑む側』として楽しむことにしたんだ。君に声を掛けたのは、少し面白そうなことをしていたから……そんな興味本位の衝動」

 

 

アオイの指先が向いているのは、香奈の手元のスマホ。アオイに会う寸前、ダンジョンの中に興奮して写真を撮っていたから持ちっぱなしだった。

 

 

「“この世界でやること”ってのは、それかな? それにしては……下手だねぇ、画面が暗くてほとんど何も映っちゃいない」

 

「勝手に見ないでっ! そうだけど……写真へたっくそだけど、こうやって私の見たものを残すの! ソウマが歩んだ物語を、いつか皆にも知ってもらいたいから。それが私の役目だと思うから!」

 

 

他愛のないからかいに、舌足らずな言い返しをしたつもりだった。だが、その時のアオイの顔は、少なくとも香奈が今まで見てきた『悪役』の顔じゃなかった。

 

 

「泥棒さん……?」

 

「君は……物語の『語り手』になるというのか? 王の資格があると選ばれた彼らの横で、資格を持たぬ君が? たった、それだけのために命を懸けると……!? そうか……そうか! そうだったのか! 君が!」

 

 

途方に暮れたような瞳の奥で、感動に震えているような、そんな顔。ダンジョンに響く調律の崩れた笑い声が止まると、アオイの指先が香奈の口元をなぞり、呼吸を近づけるように顎を持ち上げた。

 

あ、これ漫画で見たことある。香奈は思った。

少女漫画でよくあるやつだ。顎クイってやつだ。確か漫画だとこのまま……

 

 

「……君に興味が沸いた」

 

「ちょ、え、わ、ま───!」

 

「なぁにをやってるんですかああああああっ!!!」

「おい待てリリスケ!?」

 

 

通路の奥から爆走する小さな影は、まるで転がり迫る岩のように。その勢いのまま香奈の横腹目掛け、運動量の損失が限りなく0に近い完璧なクリーンヒットのタックルをお見舞いした。

 

その隕石の正体は、さっき逸れたリリ。遅れてヴェルフ、春姫、(ミコト)も駆けつけた。ベルと壮間以外ファミリアが揃っているようだったが、まずはリリの激怒が先だった。

 

 

「この非常時にバカですか! バカなんですか! ダンジョンで事に及ぼうとするなんてあり得ません! 最悪です最低です!」

 

「リリ殿落ち着いて! それで、その……香奈殿、今何をしていたのかは、自分はその……見ていないので!! ですよね春姫殿!!」

 

「こんっ!? は、はい見ておりません……香奈様と殿方の接吻なんて決して!!」

 

「俺は別にどうこう言うつもりは無いが……まぁ流石にここでは引くっつうか……」

 

「ちちちち違うんだよ!! そうじゃなくて大変なの! この人! ほらこの人見て!」

 

「で、誰なんですかその方は!! いつの間にそんな方と関係を持ったんですかぁ!?」

 

「何言ってんの!? 誰って……あっれえ!? 誰!!??」

 

 

いまそこに犯人居ますよと言うつもりが、香奈の横にいたのは見知らぬ美青年だった。彼は何食わぬ顔で軽く会釈をすると、不審な目線に笑顔で返す。

 

 

(いや、違う。この人……泥棒さんだ!!)

 

 

その目が香奈だけに語り掛ける。そういえばラフィエルや春姫に変装していたが、これはもう変装ってレベルじゃないだろう。すぐさま告発しようとする香奈を遮り、青年は態度を変えて演じる。

 

 

「もしかしてお仲間さん? よかった、俺ブルーノっていうんだ。レベル2なので彼女とだけじゃ心細くて……よければパーティに加えてくれないかな?」

 

「な……!? 聞いてリリちゃん! この人!」

 

「言わない方がいい。全員で地上に帰りたければね」

 

 

香奈にしか聞こえない耳元の小声で、アオイ……もといブルーノは囁く。ファミリアの仲間がいて、壮間やベルがいない今、香奈はただ無力にその声に従うしかできない。

 

 

「賭けをしよう。このまま最奥に辿り着くのは僕か、彼らか。君たちが勝てばこの世界のお宝をあげる。僕が勝った時は……君を貰おうかな」

 

 

ダンジョンで始まる奇妙なラブロマンス。

こんなのは全く求めていないと、香奈は心の中で絶叫した。

 

 

________________

 

 

2日前、ミカドから怪人に関する情報を十分に得たと判断した【ロキ・ファミリア】は、【X階層】攻略作戦を決行し、主力陣を総動員した大規模なパーティでダンジョンへと潜入した。

 

まずは団員のヒリュテ姉妹が【X階層】の出現を確認したという22階層を目指しつつ、ギルドから提供された出現報告が多い階層を探索。【X階層】の出現をひたすらに待っていた彼らだったが、その時はあっけないほど突然に訪れた。

 

 

「───なるほど。僕らは彼がダンジョンの異常事態(イレギュラー)を利用して何か企んでいると思っていたけど、どうやら違ったみたいだね」

 

「この異常事態(イレギュラー)をあの若造が御していると、そう言いたいのかフィンよ。荒唐無稽過ぎて笑えもせんわい」

 

 

【X階層】に呑み込まれたフィンが出した推測。それに呆れ口調で返したのは、ドワーフの老兵だった。年齢に反して若々しいフィンに対し、彼は顔のシワや生え盛った髭からも「老人」と言って差し支えない。もっとも、老人にしては余りに肉体が屈強なのだが。

 

 

「しかし、そうでもないと説明がつかないのも事実だ。一個人がダンジョンを操る……これが異世界から訪れたという者の権能だというのか?」

 

「あぁ、リヴェリアはミカドに会ってないんだったっけ」

 

「レフィーヤが頑なに引き離してきたからな。まったく……慕ってくれるのは嬉しいが、そう過保護のような態度を取られると私の立場が無い」

 

 

もう一人の冒険者、神々しい杖を携えた美しきエルフの麗人も答える。その知性と高貴さは戦場でも色褪せず、魔導種族の王族としての権威は揺るぎない。

 

フィン・ディムナ、二つ名は【勇者(ブレイバー)

ガレス・ランドロック、二つ名は【重傑(エルガルム)

リヴェリア・リヨス・アールヴ、二つ名は【九姫(ナイン・ヘル)

 

【ロキ・ファミリア】の三首脳である、レベル6の第一級冒険者たち。【X階層】に入った瞬間、その3人を残して他の団員は消えてしまった。フィンはこれをアオイの仕業と考えたようだ。

 

 

「しかし猶の事理解できんのう。この状況が策であるとして、分断のつもりということじゃろう? 儂ら3人を分けずにおいてか?」

 

「逆さ、ガレス。僕らを他の団員から離した……僕ら【ロキ・ファミリア】の弱点について、巷ではどう言われているか知っているかい?」

 

「主力とそうでない者の力量差が大き過ぎる、多くの団員が我々に頼り過ぎている、というやつか? 確かに耳が痛い部分もあるが、私たちも舐められたものだな」

 

 

壁が連鎖するように割れ、一本道を覆い尽くすほど大量のモンスターが生れ落ちる。モンスターはモンスターでも、ミカドから聞いた通りの異界の怪人たち。数十にも及ぶその無垢な殺意は、余すことなくたった3人の冒険者へと向けられた。

 

 

「その通りだ。進もう、ガレス、リヴェリア。僕らが揃っておいて後れを取るようじゃ、とんだ笑いものだからね」

 

 

()()()()()()()の洗礼に怯む者など、【ロキ・ファミリア】にはいない。勇者は先陣を切り、果ての知れない未知へと脚を踏み出した。

 

 

_______________

 

 

「見覚えのある連中ばかりだが、安らぎは無いな。これが【X階層】……思っていた数倍は居心地が悪い。それにしても何処へ行ったレフィーヤの奴……!」

 

 

襲い掛かるオルフェノクを斬って捨てる赤い残光。

仮面ライダーゲイツ、ミカドは猛者たちとの修練を経て、宣言通り遠征メンバー入りを成就させたのだった。もっとも、それは「おこぼれ」のようなものだとミカドも理解している。

 

 

「【剣姫】か……それほどの腕なら、戦わない手は無かったんだがな」

 

 

【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン。ファミリアの中核を成す彼女は終ぞ戻ってこず、フィンは彼女が【X階層】に迷い込んだと判断した。そもそも出入りの条件が不明な階層だ、一度入って出られなくなった可能性は十分に考えられる。それによる隊の再編成に巻き込まれる形で、ミカドが戦力に組み込まれることとなったのだ。

 

そして【X階層】に突入。ミカドはレフィーヤと同じ場所に転送されたのだが、そこが【X階層】と知るや否やレフィーヤは動転。ミカドを放ってアイズを探しに行ってしまった。方向音痴のミカドに全く非が無いタイプの、珍しい迷子である。

 

 

「走り回って見つかるわけないだろう。憧れとはこうも人を盲目にさせるものか? これだから他人の尻を追っかけ回るような奴は……!」

 

 

このエリアは転移前と似た森林の様相をしていた。しかし、気温と湿度が異様に高い。いち早くこのエリアから脱したいので、ゲイツもレフィーヤを血眼になって探す。そんな時、木々の向こうから聞こえてきた戦闘音。

 

ようやく見つけたと、音が聞こえた方に進もうとした。だが、その一歩がスイッチとでも言うように、ゲイツの足元が割れ、隆起を始める。

 

 

「下からも生まれるのか!」

 

 

現れたのは黄色と黒の危険色を帯びた、魔化魍「ツチグモ」。8M(メドル)はあるであろう巨体だが、ミカドにとっては少々嵩張るだけの障害物だ。直したばかりのジカンザックスを持ち、一息に斬りかかる。

 

即殺を試み、急所を狙った渾身の一撃。それはツチグモの向こう側からも放たれ、同時に二つの致命傷を受けたツチグモは瞬く間に絶命した。

 

ゲイツが感じ取ったのは魔力の砲撃でなく、鋭く叩き込まれた斬撃。だが死灰が降る中で浮かび上がるのは、長く尖った耳のシルエット。

 

 

「レフィーヤか?」

「その姿……日寺さんですか?」

 

 

視界が晴れた先にいたのは、覆面とフードで顔を隠した別のエルフだった。彼女もまた、その姿と自分の記憶が異なっていることに勘付く。

 

 

「……失礼、人違いのようだ」

 

「俺もだ。こっちはエルフ違いだがな。だが貴様、日寺のとこのファミリアか」

 

「それは違う。が、日寺さんから貴方のことは聞いています、もう一人の異界のヒューマン。貴方とここで出会うとは、奇妙な縁だ」

 

「全くだな。出会ったのが奴じゃなかったのは僥倖だが……」

 

 

この数日の間、壮間の師匠となっていたエルフ、【疾風】リュー・リオン。ヘルメスが告げた可能性が気にかかり、彼女も【ヘスティア・ファミリア】を追ってダンジョンに潜ったのだが、やはり同様に【X階層】に巻き込まれてしまった。

 

壮間の仲間ではないようなので、ミカドとしてはギリギリ敵認定から外れている存在。変身を解き、睨み合う時間が続く。しかし、いくら時間が経てど分からないのは、ミカドが彼女を無視できない理由だった。

 

この場所には戦いに来た。ただ力を磨き、試しに来た。それは揺るがない。

だが、通り過ぎる何もかもを見ずに進んでいては、かつてと同じ過ちを繰り替えすだけだ。

 

 

「提案がある」

 

「同意見です、異界のヒューマン」

 

 

_______________

 

 

通路を出た一歩目で、異変に気付いた。

脚部に掛かる負担の上昇。血液が巡る速度すら鈍化しているように感じる。体が、重い。

 

ここは【X階層】。同一の階層でありながら、区域毎に特性を変える悪夢のエリア。

 

だが、並走する白兎は纏わりつく重さを感じないかのように、怪人たちの隙間を走り抜け、斬撃を繰り出し続ける。

 

 

「壮間さん!」

 

「全然っ……まだ行けます!」

 

 

壮間とベルが進むルートは過酷だった。

ひっきりなしに出現する怪人だけでなく、冒険者同様に階層へと迷い込んだ通常のモンスターたちが、ほとんど絶え間なく襲い掛かる。そのうえ、逃げるようにエリアを移動したら地形や環境が激変するのだ。

 

下級イマジン「レオソルジャー」が次々と生れ落ちる怪物の宴(モンスターパーティー)を、2人の戦士は重い身体を振り回して斬り進む。一瞬たりとも油断はできない。ここは『未知』の最前線。気を緩め、初見殺しに足を掴まれた瞬間、死という奈落に引きずり込まれるから。

 

体力と精神力が摩耗していくのを止められない。改めて痛感する、これが「ダンジョン」であると。

 

 

《ギリギリ斬り!》

 

 

力を振り絞った壮間の一振りで、レオソルジャーの大群はようやく全滅した。魔石を回収して過重力エリアから抜けると、壮間は一度変身を解除して回復薬を口に含む。

 

 

「なんとか、切り抜けましたね……でもポーションを飲むのに変身解かなきゃいけないのは、なんつーか盲点でした。やっぱシビアだ」

 

「少しでも休んでください。しばらくは僕が見張っておきます」

 

「いや、ベルさんに負担掛けてるのは俺の方ですし」

 

「そんなことないですよ。壮間さんは強くなってる……リューさんとの特訓の成果ですね、羨ましいです」

 

 

壮間は強くなった、それは自分でも薄く感じることはできる。

それでも追い詰められているこの現状で、ベルにはまだ余力があるように見えた。それも当然かもしれない。なにせ、この命懸けの綱渡りを繰り返すのが冒険者なのだから。

 

 

「凄いなぁ、この世界は」

 

「そうなんですか……? 僕からすれば『変身』だって凄いですよ。不思議な鎧を着て強くなる、まるで伝説に出てくる騎士の英雄みたいで」

 

「これは俺の世界でも特別ですよ。こんな力を持ってる人はごく僅かで、どの時代でも『仮面ライダー』になった人が世界の中心にいた。主人公だった。でも、この世界にはそんな力を持った人が無数に存在する」

 

 

いわば、誰でも主人公になる近道を得られる世界。それでも未だ踏破されていないのが『ダンジョン』。気が遠くなるような物語だ。

 

そんな世界で何かを成す、つまり『俺がいた』と名を残すには、並大抵の覚悟じゃ無理だ。それでも、そこから逃げたら主人公なんて名乗れない。この【X階層】こそがそのための試練であり、ここを自身の力で突破してこそ、この世界に来た意味が生まれるはずだ。

 

 

「……すいませんベルさん、変身するまで頼みます」

 

「はい……でも、できるだけ早めでお願いします。アレを相手に、僕もあんまり自信は……!」

 

 

生まれたのではなく、そいつは別のルームから渡って来た。他のモンスターの血液や死灰を勲章のように付着させ、確固たる知性と殺戮衝動で、三つ首総計六つの眼が2人を見る。

 

半身が白黒で別れ、婉曲した角を幾つも備えながら、衣服を纏ったような姿は人類に近い。一言で称するのなら『悪魔』。壮間たちが知らぬその名は───山羊の不死生物、カテゴリーQ「カプリコーンアンデッド」。

 

 

『フォオオオオオオオオオオッッッ!!!!』

 

「───かァッ!?」

 

 

反応しきれない速度。否、初見でそれを攻撃と判断できるはずもない。カプリコーンの雄叫びと同時に放たれたのは、指向性の衝撃音波。防御不能の振動攻撃がもたらすのは、体内への破壊。

 

低級のモンスターなら即死に至らしめる速効を食らい、血を吐き出しつつもベルは前を向く。眼前まで迫っていたのは鈍色の殺気。カプリコーンの尾から放たれた三日月状の刃をナイフで受け止めたベル、手応えのある標的に歓喜するカプリコーン、その双方が跳躍し激突した。

 

 

《ライダータイム!》

《仮面ライダー!ジオウ!!》

 

「すいません待たせました!!」

 

 

そこにジオウも参戦し、回復薬で取り戻した体力を頼りに拳を振るう。しかし、その程度では退きもしないカプリコーン。ベルとジオウの連携連撃を片手一本ずつで捌き、二対一の構図に対応する。

 

二人の冒険者を嘲笑うように踊る悪魔。壮間が初めて【X階層】に迷い込んだ時に遭遇したイノシシ怪人もそうだったが、やはりこの階層には稀に、桁外れな猛者が出現する。

 

ベルもその強さを実感していた。刺突の一発や二発では届きそうもない命への距離、敵の攻撃から感じられる死の冷気。人類と近い体格に闘争本能を詰め込んだかのような、生粋の殺戮生命体。これが『怪人』か。

 

 

「【ファイアボルト】!」

 

『ッッ……ヒャアアアアアハアァ!!』

 

「そんな、効いて───!?」

 

「ベルさん!!」

 

 

ベルの魔法の威力は大したことはない。だが、それにしたって、体が燃えようと全く怯まず攻撃を続けてくるのは異常だ。距離を取ろうとするベルに対し、カプリコーンは卓越した跳躍力でそれを許さない。

 

ベルが引き抜いた二本目《牛若丸 弐式》と《ヘスティア・ナイフ》はカプリコーンの爪と乱撃を交わし、カプリコーンがベルの装甲を、ベルがカプリコーンの生身の胴体を何度か裂いた。加えて死角から援護するジオウの剣も、カプリコーンの右腕を斬りつける。

 

合金のように硬い肉が断たれ、溢れ落ちる緑色の血液。重症だ。生命である限り、この状態での活動は数分と保たない。勝負は決したと言って過言の無い状況だった。しかし───

 

 

『ナメタコト、シテンジャ、ネェヨ……!』

 

「モンスターが喋った……!?」

 

「いや、それより……なんで動くんだアイツ!!」

 

 

傷付けられた矜持を、その怒りを掃き出すように、カプリコーンの攻撃は勢いを強めた。血を撒き散らしながら狂気を加速させ、壁から引き抜いた三日月刃(ブーメラン)を握って暴乱する。

 

アンデッド、不死生物。彼らに生物学的な死は存在しない。加えて、マティーナによる模造である『彼』に宿る知性も所詮は模造であり、退却という選択肢は存在しない。モンスターに必要な知性とは元来『殺意』のみで、『生存本能』の再現をマティーナは放棄した。

 

アンデッドであろうとジクウドライバーの機能を使えば撃破が可能だ。その機能については壮間もミカドから聞いたことがある。しかし、その機能が異世界のモンスター相手に有効なのか。

 

ダンジョンで不確定要素に頼るのは、最終手段でなければならない。

 

 

「壮間さん、15秒……頼めますか?」

 

「即日返済ですね。やってやりますよ……!」

 

 

2人にはまだ手が残っていた。

ダンジョンに挑む前に『未知』を潰す、壮間が最近まで知らなかった常識。冒険者の第二の刃とは『知識』だ。それを以て、この不死生物を突破する。

 

前に出たジオウが、カプリコーンの刃と斬り結ぶ。敵は息切れすらしない怪物、スタミナの上限は無く多少の攻撃を喰らっても動じない異常な打たれ強さを持っている。それらをインプットしたうえで、想像する。15秒後に到達する未来を。

 

 

「見せてやるよ、前とは違うってな!」

 

 

相手は素早く、狂乱の最中にいる。想像できる手数が多く絞り切れない。

それに対し、ジオウは半歩だけ接近して間合いを潰す。動かれるより先に剣を振るう。傍から見れば危なっかしい挙動だが、壮間には見えている。そこに攻撃は来ない。

 

むしろそれによりカプリコーンの領域が侵略され、行動が制限された。壮間の想像に映る未来が減ったのを感じると、次のワンアクションで更に妨害し、絞り込む。

 

 

「来るよな、ここに!」

 

 

想像が収束し、一つになった。凶刃が右側から迫る。

これなら防げる、その予感を信じて防御が成就した。

 

壮間に備わった才能、「想像力」とは「勘」の一種だ。歴戦の猛者が経験則と知識で行う「分析」と「読み」を無意識にやっているに過ぎない。

 

だからこそ、レベル4の元冒険者であるリューのもとで学んだことは大きかった。敵の攻撃を予測し待つのではなく、能動的な動作をすることで敵を自由にさせないという駆け引き。

 

敵を壮間の「想像」の中に引きずり込み、「想像通り」を強制する独裁戦法(キングスタイル)。極めれば戦場を思い通りに操ることさえ可能な、壮間の新戦法。

 

 

「ベルさん!」

 

 

鐘の音が聞こえた。時は満ちたと告げた。

壮間は誘導していたのだ。カプリコーンを、ベルの一撃が確実に当たる未来まで。

 

 

「【ファイアボルト】ッ!!」

 

 

スキル【英雄願望(アルゴノゥト)】による15秒の蓄力。ベルの近くにまで誘導され、正面を晒したカプリコーンに放たれるのは白光を伴う大爆炎。

 

その不死性からか、カプリコーンはその優れた跳躍力を回避に使おうとしなかった。この位置、このタイミングで、カプリコーンはベルの魔法を必ず受ける。壮間にはそう想像できた。

 

畜力した炎の猛勢で押し出され、後方へ吹き飛ばされたカプリコーン。腹部の金板が割れ、炎が体に食らい付き、体の前半分が焼失しながらも、不死の殺意を絶やすことなく両腕を拡げる。そして、熱気と共に酸素を吸い込み───

 

 

『───ッ!?』

 

「咆哮、だろ!?」

 

 

ジオウが投擲したジカンギレードが、熱で爛れたカプリコーンの首を貫いた。発声器官の損傷、肺と口内への血液の流入で、声も衝撃波も出せるはずがない。

 

完全なる無防備に追い込まれたカプリコーンに、肉迫するジオウは手を伸ばす。狙いはその胸部。モンスターの体内に必ず存在し、この【X階層】で再現された怪人にも存在を確認した『魔石』。

 

冒険者の常識、『魔石はモンスターの急所』。

生きたままこれを失ったモンスターは、例外なく死滅する。

 

爆炎で肉体が燃え、剥き出しになった魔石を、ジオウは握り砕いた。

 

魔石を失ったカプリコーンは灰となって消滅。漂う火炎の花弁を割いて、ジカンギレードが地に倒れ込んだ。

 

 

「……冒険者って、いつもこんな感じなんですか……?」

 

「いつもってわけじゃないですけど……まぁそうですね」

 

「はは、強いわけだな……」

 

 

この【X階層】は単純な構造でほとんど一本道。カプリコーンがこの先のモンスターを倒してここに来たのだとすれば、しばらくモンスターは現れない。今の戦いでダンジョンの壁も大きく傷ついているのを見ると、2人は腰を下ろした。『損傷した壁からモンスターは生まれない』、これも冒険者の常識だ。

 

 

「そういえば聞いてなかったんですけど、ベルさんって何してそんな強くなったんですか? みんな口揃えて早い早いって言いますけど」

 

「それは……神様が言うには『成長期』だって」

 

 

それで説明付くか? とこの世界に来たばかりの壮間ですら思うし、ベルはヘスティアに対し信頼度というか信仰が強すぎる気もする。相手が神なのだから当然なのかもしれないが。

 

 

「特別なことはしてないと思いますよ。ダンジョンに潜ってモンスターを倒して……まぁ強いて言うなら……」

 

「あぁなんか嫌な予感がする語り出し」

 

「レベル1の時にミノタウロスと戦ったり、18階層で黒いゴライアスが生まれたり、【アポロン・ファミリア】や【イシュタル・ファミリア】と全面戦争になったり」

 

 

案の定特別のオンパレードだ。18階層といえば本当はモンスターが生まれない安全地帯で、街すら存在すると聞いている。しかもファミリア間の戦争と来たら、自分より格上の冒険者と何度も刃を交えているに違いない。

 

 

「……それは大変ですね」

 

「ですね……何回も死ぬかと思いました」

 

「そんな目に遭っても、そんな目に遭うって分かっていても、ベルさんが冒険者であり続けたい理由って?」

 

 

壮間はいつもの感じで聞いてしまった。やはり異世界に来たって、人が同じならやることは変わらない。その質問にベルは悩むことなく、常に想い続けている自身の憧憬を答えた。

 

 

「僕、英雄譚が好きなんです」

 

「英雄譚ですか? それって、いわゆるおとぎ話とか……」

 

「そうです! 特に祖父から貰った『迷宮神聖譚(ダンジョン・オラトリア)』なんて愛読書で。小さい頃から、そこに出てくる英雄に憧れてたんです」

 

 

少年が語る話は続く。事故によって祖父を喪った後、祖父の「男ならハーレムを目指せ!」「一攫美少女を狙え!」という教えに従い、出会いを求めてオラリオに来たらしい。故人のことを悪く言いたくは無いが、こんな純真無垢な少年になんつー教えをする爺だと、壮間は思った。

 

 

「英雄みたいになりたくて、英雄みたいな出会いがしたくて……僕は冒険者になった。そして出会ったんです、追いかけるべき憧れの人に」

 

 

ベルから何度か聞いた、憧れの相手。

冒険者になったばかりの頃、上層に現れたミノタウロスに襲われた時に助けてくれたという、【ロキ・ファミリア】の【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン。

 

 

「僕は弱いから、あの時に未来が分かっていたら……きっと足が竦んでしまったと思います。冒険者にはならなかったかもしれません。でも少なくとも後悔は無い。だから僕は、この憧れを追ってこれからも進み続けたいです」

 

「小さい頃の夢に、一目惚れした人に……一途、なんですね」

 

 

どこまでも真っ直ぐな深紅(ルベライト)の瞳、その根源をようやく理解できた気がした。

 

 

「壮間さんの話も聞かせてください。王様になりたい……んですよね?」

 

「そうですね、俺も似たようなもんです。歴史に名を残すような『主人公』になりたかった。俺も昔は物語が好きだったんですよ、ちょっと捻くれて読まなくなったけど」

 

「へぇ、異世界の英雄譚……ちょっと気になりますね。どんなお話なんですか?」

 

「えっと、確か───」

 

 

あまり思い出したくもない幼き日に思いを馳せる。

あの頃は恥ずかしげもなく自分が正しいと思っていて、表だけの理想の「ごっこ遊び」を───

 

 

「……こんなこと言ってる場合じゃないですね。先、急ぎましょう。じゃないとミカドに負けちゃうんで」

 

「え、あ……そうですね」

 

 

話を濁すように壮間は立ち上がり、ベルから目を逸らした。

別に後ろめたいことがあったんじゃない。ただ、抜け落ちたように思い出せないのだ。

 

 

(俺のルーツって、なんだっけ……?)

 

 

______________

 

 

「どうですか、(ミコト)様?」

 

「……いえ、見つかりません。この付近にもお二人はいないようです」

 

 

なにやら(ミコト)が目を閉じて集中し、それをリリが気に掛ける。彼女らは、これを少し移動する毎に繰り返していた。

 

 

「さっきから何やってんの、(ミコト)ちゃんは?」

 

「アレは(ミコト)のスキルだ。【八咫白烏(ヤタノシロガラス)】って言ってな」

 

「その目で見えなくとも、近くにいる仲間……同じ神血(イコル)を分け合った同胞を感知できるらしいのです。その力で(わたくし)も見つけてくださったんですよ」

 

「あー、だからさっきは皆揃ってたんだ」

 

「体調に左右されますが、今のところ自分は絶好調です! しかし、それでも見つからないとなると……」

 

 

怪人たちを一通り倒し、休息を取るパーティ一行。

レベル2の戦闘員である(ミコト)を軸に、同じくレベル2で鍛冶師のヴェルフも前衛を張る。後ろでリリも抜かりないサポートと指揮を行い、ここまで危なげなく進んでこれた。

 

ちなみにその1、香奈は現状お荷物である。全く戦えないとは言わないが、流石に素人に毛が生えた程度の新人を前に出す道理が無い。

 

ちなみにその2、春姫もファミリアでは新人らしく、戦闘には参加していない。曰く『妖術師』らしいのだがその仔細は不明。香奈同様に、サポーターとしてリリの教えを受けている状態だ。

 

 

「では先に進みましょう。ベル様も心の底から心配ですが、リリ達も人の心配をしている場合ではありません。レベル2のお二人で何処まで通用するかさえ……」

 

「待ってくれよ、レベル2は3人……だろ?」

 

「そうでした。繰り返し言いますが、リリは全く信用していませんからね。ブルーノ様」

 

 

ちなみにその3、パーティメンバーはもう一人、ブルーノと名乗る青年。彼の正体が変装したアオイであることは、香奈以外知らない。リリが彼を疑っているのは、単に彼女が冒険者不信だからだ。

 

と、落ち着いているように見える香奈だが、内心は課題をやらないまま受ける授業中ばりにハラハラである。今のところ探索が順調すぎて、壮間より先に最奥に辿り着いてしまうのではないか。焦った香奈は、先を急ごうとするリリを大慌てで引き留める。

 

 

「リリちゃんタンマ、もうちょっと休んでいかない!? そ、そういえば、えっと……」

 

 

上手い言い訳が思いつかない。「この期に及んでまだ足を引っ張るおつもりで?」というリリの視線が怖い。

 

 

「あ、そうそう! 春姫ちゃん!」

 

(わたくし)!? な、なんでございましょう?」

 

「春姫ちゃんの妖術って、なに? 魔法? いや、チームなんだし教えてほしいなぁって。普通に気になるし」

 

「それは……」

 

 

春姫の尻尾と耳がバツの悪さを表すように垂れる。他の皆も言葉に困っている様子だ。リリだけは、ブルーノを邪魔そうに睨んでいるのだが。なんにしても触れちゃいけない話だったようだ。

 

 

「じゃあさ春姫ちゃん! 春姫ちゃんが前にいたファミリアって、どんなとこだったの? 元は別のファミリアだったってヘスティア様に聞いたんだけど。館にいる間、春姫ちゃんと喋る機会あんまなかったから聞きたくて!」

 

「……どうでしょう皆様、そのくらいなら。(わたくし)も……香奈様とお話をしたいです」

 

「自分は良いと思います。しかしブルーノ殿。念のため、この話はできるだけ内密にしてくださいますよう」

 

「極東の美女に頼まれちゃあ断れないよ。我が主神に誓って秘密にするさ」

 

 

(ミコト)にデレデレするブルーノ、これは演技なのだろうか。とにかく足止めもできるし話もできるし一石二鳥。香奈は自分のコミュ力に賛辞を送る。持参していたジャガ丸くんを配りだすと、流石に食糧の無駄だと叱られたが。

 

 

(わたくし)が近頃までお世話になっていたのは、【イシュタル・ファミリア】でございます。その……歓楽街を拠点としていたファミリアで、(わたくし)はそこの娼館で……その……娼婦を……」

 

「しょうかん? しょうふ? え、耳? うんうん……ん゛っ!?」

 

耳打ちで聞かされた「娼婦」の意味。顔を真っ赤に染め上げる両者。もっとも娼婦として働かされてたとはいえ、春姫は異性の鎖骨を見るだけで気絶するほど初心であったため、未だ彼女の純潔は守られたままである。この事実は春姫自身も知らない。

 

 

「あ……ごめんね春姫ちゃん。そんな話、したくなかったよね……?」

 

「いえ、そんなことはございません。確かに……かつては娼婦となった身を呪っておりました。娼婦は英雄譚では『破滅』の象徴。このような卑しい(わたくし)は、英雄に救われる資格なんて無いと」

 

 

家を勘当され、オラリオに流れ着き、娼婦となった自分が嫌いだった。汚れた身で何かを望むなんて許されない。たとえ主神イシュタルの陰謀が、春姫を生贄に捧げることだと知っていたとしても、あんな無垢な少年に「助けて欲しい」なんて言えるはずがなかった。

 

 

「そんな(わたくし)に、ベル様は手を伸べてくださいました」

 

 

『例え娼婦でも、破滅が待っていても『英雄』は見捨てない!』

『馬鹿にされても指をさされても、汚れていたって、それは恥ずかしいことなんかじゃない! 一番恥ずかしいことは、何も決められず動けないでいることだ!!』

『僕はまだ、貴方の願いを何も聞いちゃいない!』

 

満月の光を受ける空中庭園に、少年は春姫を救うためだけに現れた。そして、自身より強大な戦闘娼婦(バーベラ)たちを前に叫んだ。その言葉に気付かされ、救われたのだ。

 

 

「うおぉ……ベル君かっこいい!」

 

「はい、あの夜のベル様はとても……」

「なぁーっ!!! なんですかこれは! ベル様との思い出自慢ですか! それならリリだって! リリだってぇーっ!!」

 

「落ち着けリリスケ。それにしても、よく考えればそうだな。【ヘスティア・ファミリア】はベル以外、別のファミリアからの集まりだ」

 

「え、そうなのヴェルフ君?」

 

「おいやめてくれ。ヘスティア様ならともかく、その『君』ってのは慣れねぇ」

 

「だって年下」

 

「一応ファミリア内じゃ兄貴分やってんだけどな……年下扱いは【ヘファイストス・ファミリア】を思い出しちまう」

 

 

【ヘファイストス・ファミリア】。鍛冶師で構成される商業ファミリア、武具の一大ブランドだ。ヘファイストスといえば、香奈もゲームか何かで聞き覚えがある。武器にまつわる神様かなんかだったような気がする。

 

 

「俺と(ミコト)、あとリリスケは、【アポロン・ファミリア】との戦争遊戯(ウォーゲーム)でベルの力になるために改宗(コンバージョン)したんだ」

 

「はい! 自分はタケミカヅチ様から一年のお暇をいただき、ベル殿に恩を返すため【ヘスティア・ファミリア】に」

 

「“あと”とはなんですか! この中ではリリがベル様の最古参なんですっ!」

 

 

(ミコト)は【タケミカヅチ・ファミリア】でダンジョンに挑む冒険者だった。しかしある日、モンスターの大群に襲われ窮地に陥った(ミコト)たちのパーティは、そこに居合わせたベル達にそのモンスターの大群を押し付けてしまったという。

 

怪物進呈(パス・パレード)自体は、冒険者が生き残るための歴としたテクニックだ。だが、その結果ベル達はダンジョン内で遭難する大事に至ってしまった。生還したベル達から許されてからも、(ミコト)はずっと負い目を感じていた。

 

だからこそ、(ミコト)はファミリアを代表し、愛する主神のもとを離れてベルの力になることを申し出たのだ。

 

 

「タケミカヅチ様、また聞いたことある神様。リリちゃんはどこファミリアだったの? 生まれた頃から冒険者ー、って言ってたけど」

 

「それはぁ、その……」

 

「【ソーマ・ファミリア】だよな、リリスケ」

 

「えっソウマぁ!?」

 

「あー! だからフクザツな気持ちと言ったんですっ! なんでソーマ様と同じ名前なんですか……呼びづらいったらありません!」

 

 

リリが所属していた【ソーマ・ファミリア】は問題を抱えていたという。ファミリアの運営を放棄し酒造りに没頭する主神ソーマに、その神酒に溺れて狂ったように資金を集め、互いに蹴落とし合う団員たち。その中で種族的に非力なうえサポーターであったリリは、長年の間過度な冷遇と仕打ちを受けていた。

 

そうやって冒険者という人種を信じられなくなり、そんな彼らを騙し裏切り続けるという破滅的な仕返しを繰り返す。そんな自暴自棄の末に出会ったのがベルだった。

 

 

『僕、リリだから助けたかったんだ。リリだから、いなくなって欲しくなかったんだ』

 

 

ベルのことも裏切り、見限った。それでも彼は、冒険者に捨てられたリリを守りに現れたのだ。

 

 

「ベル君スケコマシだ」

 

「そうなんですっ! えぇわかっています、ベル様はああいうお人です。どこまでもお人好しで、女の人にはとことん弱いんです……その癖して想い人はあの【剣姫】様……! ですが! そんなベル様に、リリは全てを捧げると決めたんです」

 

 

自分より遥かに小柄な女の子、その小さな体が背負う覚悟の大きさに、香奈は打ちのめされた。リリだけじゃない、春姫も、ヴェルフも、(ミコト)も、ベル・クラネルという冒険者に魂を預けてここにいる。

 

自分はどうだろうかと、香奈はふと思った。

この目で見た物語を世に伝える。アオイが言うところの『語り手』になる。その覚悟が、人生のすべてを捧げる覚悟が本当にあるのだろうか。

 

日寺壮間という少年に、香奈はすべてを託せるか。

 

 

「そんなの……」

 

「おい軟派男、お前も話してもらおうか。お前はどこのファミリアだ? どうしてここにいやがった」

 

 

香奈が答えを口に出す前に、ヴェルフの双眸はブルーノを向いた。冒険者たちの話を楽しそうに聞いていた扮装の悪役は、どこまでも自然な口ぶりで答えた。

 

 

「俺は【ヘルメス・ファミリア】の団員だ。極秘の冒険者依頼(クエスト)でダンジョンに潜ってたらここに、ってわけだよ。参ったさ、早く帰らないとアスフィ団長が心配してるだろうに」

 

 

アオイは確かにヘルメスの眷族だ、嘘の中に本当が混ぜ込んである。悪人が嘘をつく手口を目の当たりにし、香奈は嫌そうな顔で彼と距離を取った。

 

 

「【ヘルメス・ファミリア】は何かと胡散臭い話が絶えませんし、あのヘルメス様が主神様というのも大変ですねぇ」

 

「本当だよ。でも、俺は我が主神を敬愛してる。俺たちでは理解できない、決して手は届かない……どこまでも愛しているよ、あぁ……憎いほどにね」

 

 

なんだか湿度の高い愛情告白に、多分全員がブルーノから一歩半くらい遠ざかったと思う。この話に触れたくないのか、皆がそそくさと出発の準備を始めてしまった。

 

でも、その正体を知る香奈にだけ、その言葉は引っ掛かりを残す。

今の言葉は果たして、本当にヘルメスに向けたものだったのか?

 

 

(皆にはそれぞれ、冒険者としての思いがあった。戦いに命を懸けるだけの思いが。じゃあ、泥棒さんは……何を思ってこの世界に来たんだろう)

 

 

彼にとって悪役とは、どういう意味なのだろうか。

少なくとも今のところ、怪しいし迷惑なのは確かだが、アオイは「悪」に見えない。

 

この冒険の間で、彼の物語も聞けたらいいなと、香奈は思った。

 

 

_______________

 

 

「アイズさん……どこにいるんですかアイズさーん!」

 

「今は諦めろ! 大きい声を出すな、敵が寄ってくるだろうが!」

 

「気持ちはわかるが落ち着きなさい同胞。今は彼の意見が正しい」

 

「でも、もう何日も帰ってないんですよ……うぅ、アイズさん……」

 

 

ミカドとリューは互いに手を組むことを決め、その後間もなくしてアイズを探していたレフィーヤを発見。前衛の戦士×2と魔導士の三人編成を組み、【X階層】を進んでいた。

 

リューもレフィーヤもレベル以上の実力を持った実力者だ。溢れ出るように迫る怪人たちにかなり手こずりつつも、環境の変化にも適応し、湿地帯のような通路を進んでいた。

 

 

「それにしても驚きました。まさか18階層の貴女とこんなところで……」

 

「詮索は無用でお願いします。今は、最奥への到達のみを考えましょう」

 

 

レフィーヤとリューは冒険者として一度面識がある。18階層で闇派閥(イヴィルス)に襲われたベルとレフィーヤを助けたのが、覆面の冒険者リューだった。

 

 

「最奥ですか……アイズさんはそこにいるんでしょうか? それに、確かここには『万能の力』が眠っているって話でしたけど」

 

「『万能の力』か……」

 

「その力がいかなるものかは想像も出来かねますが、仮に実在するとするなら……邪な冒険者の手に渡ることだけは、阻止しなくてはなりません」

 

「っ、そうですね。ここに闇派閥(イヴィルス)が来てるかもしれないんです。彼らよりも早く『万能の力』を回収するのが、私たちの使命です! って、聞いてますかミカドさん!?」

 

 

階層攻略に決意を固めるレフィーヤだったが、ミカドはなにか考え事をしているように浮いた視線を泳がせていた。

 

 

「……不要な話で注意を散らしたくないんでな」

 

「不要とはなんですか。異世界から来たにしても、ミカドさんは【ロキ・ファミリア】の一員です。そうでなくとも、冒険者としての……戦士としての正義は無いんですか?」

 

「正義、か。その単語を俺に振るな。頭痛がする」

 

「正義の何が嫌なんですか! あ、わかりました。ベートさんとばかり訓練してたから、影響受けて捻くれた性格になったんですね!?」

 

「吊るし吊られるぞ貴様」

 

「弟子がこんなのじゃ示しがつきませんし、ベル・クラネルの弟子にも勝てません! さぁミカドさん、冒険者の正義について私がしっかり教えますからね!」

「正義談義は帰ってからにしろ! あと誰が日寺に負けるだと!? 撤回しろ魔力馬鹿!!」

 

 

ものの見事に乗せられ、器用に気配を隠しながら言い合いを繰り広げるミカド。『正義』という単語が湿気に混じって飛び交う空間で、リューの意識は少しだけ過去に遡る。

 

 

『さぁ! 今日はみんなで正義について語り合いましょう』

 

 

「『正義』か……懐かしいやり取りだ」

 

「……あぁもういい! 進むぞ。おいエルフの剣士、どうした。貴様も正義がどうこう言う気か?」

 

「いえ、なんでもありません。今の独り言は忘れてください」

 

 

正しさの権化のような赤髪の少女が話を切り出し、仲間たちで何度も主張をぶつけ合ったものだ。それは、彼女がまだ【アストレア・ファミリア】にいた頃の記憶。一人残らず仲間を喪ったリュー・リオンが、決して取り戻すことはできない思い出。

 

この目だ。この目が無視できない。その過去を見るリューの目が、ミカドの前進を引き留める。見誤ることすらあり得ない、その引っ掛かりの正体は。

 

 

「貴様も───」

 

 

言葉を紡ぐ前に、足元が激しく揺らいだ。そこは湿地の通路を抜け、地面に薄く流れる川が辺り一面に広がるルーム。川を裂き、割れた大地から、樹色の大蛇が突き上がる。

 

 

「今日はデカブツによく遭うな」

 

「なんですかこの大きさ……階層主レベルじゃないですか!? いえ、それどころじゃ……」

 

「27階層の階層主『アンフィス・バエナ』のような長体。しかし甘く見積もっても、その倍は大きい……!」

 

 

角が生えた蛇というよりは、悪魔を模した甲冑から脊髄や背骨が伸びたような様相。その圧倒的巨体は土砂と水が降りしきる中で、絶望までも彼らに叩きつける。

 

 

「奴は『イマジン』だ!」

 

「イマジンって、確か人のイメージで実体化する精神体でしたよね!?」

 

「そのイマジンを撃破すると、そのイメージが稀に暴走することがある。それがあの“ギガンデス”と呼ばれる怪物だ! 奴の4倍は大きかったが、同じ形態のものと遭遇したことがある」

 

「あれの……4倍……!?」

 

「では対処法もご存じなのですか」

 

「巨大怪人用のビークルや兵器で対応するが、基本は災害扱いだ! 立ち向かうだけ被害が拡大する。ましてや、たったの3人で挑む相手ではない!」

 

 

巨大イマジン「ギガンデスハデス」の口が開く。ミカドは理解していた、それは「大砲が照準を定めている」のと同義であると。溜めの時間すら必要とせず放たれたのは、川の形状を変える威力の火球。

 

レフィーヤはその脅威を目の当たりにし、息を止めた。こんな大きさのモンスター相手に、即席の三人編成で挑むだなんて正気じゃない。これが【X階層】の、真の恐怖。

 

 

「……だが、面白い」

 

 

ギガンデスハデスの外骨格が刃と衝突し、その破片が水飛沫の中に消えた。変身したミカドが、あの巨体に単身斬りかかり、ダメージを刻んだのだ。

 

 

「災害がどうした。俺は世界を変える男だ! 貴様のような災害から、世界を守るための救世主だ!! 貴様で試してやる、俺にその力があるということをな!」

 

 

ミカドが怯える要素なんて微塵も無かった。彼は最初からその覚悟で戦っているのだ。混沌の世界という強大過ぎる不条理に抗い、変えて見せると、ミカドはレフィーヤやフィンの前で宣言してみせたじゃないか。

 

レフィーヤは、あの怪物に一瞬だけ恐怖を覚えてしまった。ミカドの覚悟に気圧されてしまった。それが心の底から恥ずかしい。思い出せ、もっと強い敵と戦ってきたはずだ。もっと強い仲間と肩を並べてきたはずだ。

 

そして何より、ベル・クラネルなら立ち向かう。どんなに大きな相手だろうが、あのヒューマンが立ち向かう姿がその目に見える限り、先輩として、宿敵として、レフィーヤが逃げることは決して無い!

 

 

「覆面の同胞、ミカドさん! 私の魔法で……あのモンスターを倒します!!」

 

 

背後で膨れ上がる魔力を確認し、ゲイツは振り返らずギガンデスハデスに斬りかかった。そこに重なる別の剣戟、リューの木刀による打撃が堅牢な装甲に傷を入れる。

 

 

「詠唱が終わるまで食い止めるには連携が必要です。可能ですか、異界のヒューマン」

 

 

リューは吹き荒ぶ風のように、軽く速い身のこなしでギガンデスハデスの注意を引き付ける。

 

 

「【ウィーシェの名のもとに願う。森の先人よ、誇り高き同胞よ。我が声に応じ草原へと来たれ】」

 

 

レフィーヤの詠唱が始まり、周囲が山吹色の光に包まれる。その光に応えるため、ゲイツが選択したのはドライブのライドウォッチ。

 

 

《アーマータイム!》

《DRIVE!》

《ドライブ!》

 

「あぁ、貴様の走りに付き合ってやる!」

 

 

ギガンデスハデスの体を滑走し上昇。頭部まで辿り着いたゲイツは、連続ブローを叩き込んで火球の放出を阻止した。次の火球も、気配を感じるより前にリューの攻撃が妨害。

 

 

「【繋ぐ絆、楽宴の契り。円環を廻し舞い踊れ。至れ、妖精の輪】」

 

 

詠唱中のレフィーヤはその場を動けない。膨大な魔力を制御しながら別の動作をすることは至難を極め、それは「並行詠唱」という超高等技術として知られている。ミカドも魔法を使う身として、魔力のコントロールの難しさは理解しているため、火球は打たせまいと立ち回っているのだ。

 

 

「硬い。あわよくばこのまま倒し切ることも考えましたが、淡い期待は捨てた方がよさそうだ」

 

「全くだな。火力不足が否めない。だがなるほど、そうか……こういった状況を覆す切り札が『魔法』ということか」

 

「……貴方の言葉からはどこか喜びを感じる」

 

「当然だろう。ようやく奴の……レフィーヤの本気の魔法を見られる。この世界に来た意味があるというものだ」

 

 

「【どうか───力を貸し与えてほしい】」

 

 

収斂される魔力に、ミカドの肌が粟立つ。前に見た魔法とは比べ物にならない圧力。戦場で歌を奏でる妖精の声は、その魔法の銘を紡ぐ。

 

 

「【エルフ・リング】」

 

 

レフィーヤを囲う魔法円が、山吹色から翡翠色に変わった。その瞬間に感じたのは、まるで彼女の魔力が別人になったかのような錯覚。そして妖精は歌を『繋ぐ』。

 

 

「【終末の前触れよ、白き雪よ。黄昏を前に(うず)を巻け】」

 

 

レフィーヤの二つ名は【千の妖精(サウザンド・エルフ)】。その由来を聞き、ミカドは笑いすらしたものだ。彼女のレア魔法【エルフ・リング】とは、詠唱を連結させることでエルフに限り他者の魔法を使うことができる『召喚魔法(サモン・バースト)』。

 

そもそも最大で三つしか魔法を使えないこの世界で、こんな魔法は唯一無二だという。しかし他人から授かった力を使うとは、どこかで聞いた話だ。

 

 

「っ、異界のヒューマン!」

 

「なッ……!? クソっ!!」

 

 

リューとゲイツの連携は完璧に近かった。しかし、そこで変化したギガンデスハデスの挙動。その余りに長い体を激しくうねらせ、周囲で飛び回っていた二人を弾き飛ばすと、天井に向けて火球を放ったのだ。

 

損傷し、壁から剥がれた瓦礫の雨が降り注ぐ。リューもゲイツの現在位置は、レフィーヤから離れすぎてしまった。詠唱中のレフィーヤに落下する岩を打ち落とそうと、ゲイツはジカンザックスを構えるが、

 

 

「【閉ざされる光、凍てつく大地。吹雪け三度の厳冬】」

 

 

眩いほどの光を放ち、その魔力を制御しながら、レフィーヤはその岩を全て回避した。理解していたつもりが、ミカドはまだ侮っていた。自分の遥か上を行く、この若き妖精の魔導士を。

 

 

「レフィーヤ、そこで止めるな!」

 

「───っ!」

 

「その魔法の特性は聞いている! 俺たちを信じて続けろ! 貴様なら、一撃でコイツを焼き払える!」

 

 

敵に接近しようとしていたレフィーヤに投げたその言葉は、全幅の信頼を示していた。この世界に来てから幾度と感じるなにか、その言語化がようやくできた気がした。ミカドが感じているこれは『尊敬』だ。

 

 

「【───終焉の訪れ。間もなく()は放たれる】」

 

 

詠唱を再開したレフィーヤ。かつてのミカドなら、この姿に劣等感と焦燥を覚えていただろう。今はそうでないのが悔しくもあるが、もう己の非力に絶望するのは飽きた。この化け物だらけの世界が、ミカドの心に残った何かを砕いたのだ。

 

 

「貴方は不思議なヒューマンだ。己の大義のみに邁進し、全てを犠牲にしてでも成し遂げるという覚悟。それを確かに感じた。その一方で他者を信頼し、敬う心も持ち合わせている」

 

「目がいいな貴様は。だったら俺だって言ってやろう、貴様も……喪失者だな。俺と同じ。貴様の眼は、鏡を見ているようだった」

 

「そうですか、やはり……」

 

 

リューの細くなる声を掻き消し、ギガンデスハデスが咆哮する。大岩をも砕く尾の薙ぎ払いを躱した2人は、共に大蛇の懐へと駆け出す。

 

 

「貴方は───正義を憎んでいるのですか」

 

「憎んじゃいない。ただ、俺は正義というものに頼り過ぎた。己の怒りに、悲しみに、正義と言う名を付けた。それが他を傷つけるだけの刃だと気付いたときには、俺の手は血塗れだった」

 

「私も……似ています。正義とはきっと、独りで抱えてはいけないものだった。私はこの手で、仲間が愛した正義を裏切ってしまった」

 

 

リューがいた【アストレア・ファミリア】は、都市の秩序を守る正義のファミリアだった。故に闇派閥(イヴィルス)とは敵対し、最後はその計略に巻き込まれてファミリアは壊滅。リューを残し、団員は全て死亡した。

 

残されたリューは主神を都市の外に逃がすと、単身で闇派閥(イヴィルス)への復讐を決行した。そこに正義は無く、あったのは純粋な怨恨。闇に与する者は、疑わしき者さえ含め全て亡き者にした。

 

 

「【忍び寄る戦火、免れえぬ破滅。開戦の角笛は高らかに鳴り響き、暴虐なる争乱が全てを包み込む】」

 

 

レフィーヤの詠唱は続く。魔力の高まりを背中で感じながら、ギガンデスハデスの火球を斬り落とし、その攻撃を二つの身で全て引き受ける。その中で、リューの移動速度が急速に上がったのをミカドは察知した。

 

 

「ただ少なくとも……仲間と正義を語り合ったあの日々は、私にとって掛け替えのない誇りだ」

 

「おい、どういうつもりだ!」

 

「援護を頼みます。これは、貴方というヒューマンに対する敬意です」

 

 

リューの機動力は、ギガンデスハデスの鈍重な動きで捉えられる範疇を超えていた。縦横無尽に吹く翠の風の中から聞こえるのは、もう一つの妖精の歌。

 

 

「【今は遠き森の空。無窮の夜天に鏤む無限の星々。愚かな我が声に応じ、今一度星火の加護を。汝を見捨てし者に光の慈悲を】」

 

 

ギガンデスハデスを翻弄する高速戦闘。その勢いは全く緩めないまま、リューは詠唱を紡いだ。到底信じられない光景だった。これだけ激しく回避と攻撃を繰り返しつつ、それでいて白兵戦の質を一切落とすことなく、魔力を完璧に制御している。

 

 

「【来れ、さすらう風、流浪の旅人(ともがら)。空を渡り荒野を駆け、何物よりも()く走れ───星屑の光を宿し敵を討て】!」

 

 

神業としか言いようのない並行詠唱に終止符が打たれた。同時に、ギガンデスハデスの咥内を満たす赤い閃光。乱射された火球。そこに畏れなど存在し得ないと、妖精の腕が照射の命を下す。

 

 

「【ルミノス・ウィンド】!」

 

 

風を帯びた無数の光球は火炎を尽く消し去り、流星群となってギガンデスハデスに炸裂した。満天に瞬く光は装甲を容易く抉り取り、その巨大な体を傷で埋め尽くす。蛇竜の呻き声が大地を揺らし、水面を伝う波紋となって、その苦痛を知らしめす。

 

リューほどの実力者なら、魔法を使わずとも時間稼ぎくらいできたはずだ。それでも並行詠唱までやって見せたのは、言わずもがな魔法の真髄を求めるミカドのため。

 

 

「全く、貴様ら冒険者はどこまで……!」

 

 

ダメージに畳みかけるゲイツのタイヤ連撃。最後に斧での一撃が僅かに巨体を退け、ゲイツはその場を離れた。聞こえたからだ。途切れることなく続いていた、彼女の詠唱の終節が。

 

 

「【至れ、紅蓮の炎、無慈悲の猛火。汝は業火の化身なり。ことごとくを一掃し、大いなる戦乱に幕引きを。焼きつくせ、スルトの剣───我が名はアールヴ】!!」

 

 

詠唱を結んだ少女の杖が、足元を指した。

 

希薄な生存本能が鳴らす最大の警鐘に従い、蛇竜は地に潜った。

地形を崩しながら地中をのたうち回るように移動し、地上に現れては、すぐに潜る。逃げ回ってレフィーヤの魔法を躱し、その後に食い殺すつもりなのだろう。

 

だが、翡翠の魔法円は敵を補足する。逃げ場は何処にも存在しない。この足元を流れる河川などよりも遥かに深くこの地を満たしているのは、彼女が溜め込んだ夥しい量の魔力。

 

この怪物すらも矮小に見えてしまうほど圧倒的に膨大な力。あらゆる兵器さえ超越する、神が与えた神秘。その全てが、彼女の声を引鉄に解き放たれた。

 

 

「【レア・ラーヴァテイン】ッ!!」

 

 

召喚されたのは、都市最強の魔導士リヴェリアの第二階位攻撃魔法。

魔法円がこの空間全てを覆うほど拡大され、そこから天を突き噴き出す獄炎の柱。全方位を殲滅する炎は容易くギガンデスハデスの全身を喰らい、焼き焦がし、死の裁きを下す。

 

リューとゲイツ、レフィーヤのみを除き、公平に下された審判。

河川で潤っていた地帯は一瞬で焦土と化し、ギガンデスハデスは魔石すら残さず完全な消滅に至った。

 

 

「……張り合う気も起きん。これが本物の災害か」

 

「よく見ましたかミカドさん……これがリヴェリア様の魔法です……!」

 

「あぁ見た。貴様らが悪でなかったことを、この世界の奴らは有難がるべきだな」

 

「貴方という人は、また人をバケモノみたいに……!」

 

「実際バケモノだろう。そのバケモノじみた力は、世界を救う力だ」

 

 

敵を討伐した焼けた地の中心で、レフィーヤは面食らったようにフリーズした。彼は褒めているのだろうか。だとしたら不器用過ぎないか。そう思うと、どうしようもなく笑いが込み上がってくる。

 

 

「ふふっ、思えば……要求も罵声も、ミカドさんはいつも本音で喋ってるんですね」

 

「前にそれで文句を言ってきた女がいてな。できるだけ本音で話すようにしている」

 

「でも、バケモノじゃないんです。私の力なんかじゃ、世界どころかオラリオも……大切な仲間だって救えない。アイズさんや団長たちには、全然追いつけない」

 

「それだけの力があって嘆くな。だとしたら、俺程度が救世主になるなんて馬鹿みたいだろう。貴様は上らしく、俺の前では誇っていろ」

 

「なんですか、その自分勝手な慰めは……」

 

 

呆れ顔で笑うレフィーヤ。先に進もうと踵を返したミカドに、リューもまた言葉を捧ぐ。

 

 

「『正義は背負うものじゃない、いつか押しつぶされてしまうから。ましてや振りかざすものじゃない、そんなものは悪意の押し売りと同じだ』」

 

「正義談義の続きか?」

 

「私の……尊敬する友の言葉です。異界のヒューマン、貴方は正義を恐れなくていい。『正義は秘めるもの』。貴方が信じ、胸に秘め、指針としているそれは……間違いなく正義だ」

 

「……貴様とは、もっと早く会いたかったな」

 

 

ミカドはドライブのウォッチを手に、呟いた。

しかし、ダンジョンは感慨に耽る暇すら、冒険者には与えなかった。

 

先ほどとは違う激しい揺れが起こった。それは足元から迫るものではなく、何処か遠くから伝わったそれだ。それなのに、足元から、この道の先から伝播してくる威圧が果てしなく大きい。

 

3人は察してしまった。この道の先、最奥で、何かが目覚めたと。

 

洗礼はそこで終わらない。その目覚めに呼応するように、攻略を傍観していた【X階層】が彼らに牙を剥く。焦土となった大地に川上から流れ込む大濁流が、彼らの退路と進路を吞み込んだ。

 

 

「───っ! 不可避です、息を……!」

 

 

規格外のダンジョンギミック。それはどんなモンスターよりも無慈悲に。

3人の冒険者を、未開の果てへと流し去った。

 

 

_______________

 

 

 

「───壮間さん、今の!」

 

「今の揺れ、ただの地震じゃないですよね。これは流石に……!」

 

 

壮間とベルも全く同じ揺れと、全く同じ気配を感じていた。

この先に何かが居る。それこそ『万能の力』と言われても納得してしまうような、絶大な存在が。

 

だが、そんなものに気を取られている場合ではないのが、残酷な現実。

 

鉱床のルームを埋め尽くさんばかりに群れをなす怪人たち、ヤゴ型ミラーモンスター「シアゴースト」。その統率を取る数体の怪人、ガラス状の体組織を持つ魔族「ファンガイア」。

 

このルームは複数のルートから繋がっているらしく、出入り口が多数存在する壺状の空間となっている。言い換えればこの場所は、ここまで辿り着いた冒険者たちを刈り取る蟻地獄。

 

シアゴーストに種子を埋め込まれ、触手の苗床となった冒険者。無残に食い散らされた死体の一部。ライフエナジーを吸われて色を失った肉体が、そこかしこで破裂して消滅する。

 

ここを制覇するしか生きる道は無い。この大群をやり過ごし、無数に存在する出入口の中から最奥へと続く正解を見つけ出す。意地が悪いなんかじゃ済まされない、どこまでも最悪な試練だ。

 

 

《アーマータイム!》

《ヒビ・キー!》

 

「突破します!」

 

「はいっ!」

 

 

先陣を切るのはジオウ。モンスターのすれ違いざまに音激棒を急所に叩き込み、最低限の力で撃破。飛来するファンガイアの牙はベルが砕く。出口を見つけ、駆け寄るとジオウは首を横に振った。

 

 

「ここも違う……っ!」

 

「そんな……っ、次です!」

 

 

出口の見極めの方法。まず一つは、他の冒険者が付けた目印だ。このルームの形状を見た冒険者なら、まず自分らの入り口に目印を付けるはず。もちろん、目印の無い出入口だって複数ある。だから残りは、壮間の「想像」だった。

 

ここを進み、生き延びる自分たちを想像ができるか。他人からすればただの勘を、ベルは信用した。信用する以外、ベルと壮間がこの死地を突破する方法は無い。

 

だが、いくら走っても想像は応えてくれない。どれだけ怪人を屠っただろう。どれだけの出口を回っただろう。体力と精神力の消費を最小限に、可能な限りの最短ルートで、それでも2人の疲弊はもう誤魔化しようのないレベルに至っていた。

 

 

(もう限界が近い……! あぁクソ情けない。この期に及んで帰りたいとか、やめにしたいとか、そんな考えばっか浮かんでくる!)

 

 

隣で駆けるベルもそうなのだろうか。壮間の世界で言う中学生の少年が、こんな過酷な目に遭ってまで、ただ一途に憧憬を追いかけているのか。その拙い英雄願望に、全てを捧げるというのか。

 

 

(考えろ……ベルさんを死なせんな! 年下に守られてんだぞお前は! さっき、大きな力を感じたのはどっちだ!? それが……いや、そうか違う! 逆なんだ!!)

 

 

ようやく答えは出た。ジオウは進路を変え、力を振り絞って速度を上げる。

 

 

「壮間さん!?」

 

「わかったんですベルさん! こっちです! 正解のルートは……!」

 

 

しかし、ダンジョンは果て無く無慈悲だ。

シアゴーストたちの体が震え、縮こまる。その背中が次々に割れ、這い出る青い外骨格と小刻みに振動する翅。トンボ型ミラーモンスター「レイドラグーン」が飛翔と加速を開始した。

 

更に、出口付近の鉱石から「ミラーワールド」を通ってレイドラグーンが先回りし、ジオウとベルを迎え撃つ。

 

 

「どけえええええっ!!!」

 

《音激タイムブレーク!!》

 

 

音激鼓ショルダーから実体化した鼓を地に設置し、ジオウは飛び掛かるように全力の一打を打ち鳴らした。その音激は地面と大気を伝い、周囲のレイドラグーンを一掃する。

 

しかし、それで削れた数なんてたかが知れている。必殺攻撃の余韻が残っているうちにベルは出口に到達したが、その隙を突かれたジオウは、シアゴーストが吐く粘着糸に囚われてしまった。

 

引きずり込まれるのはシアゴーストとファンガイアの群れ。あの数に囲まれれば、生き延びることは不可能だ。変身が解除されるまで嬲られ、生身を貪られるのみ。

 

でも、恐怖は感じなかった。死ぬ想像ができなかった。理由は、明白だった。

 

 

「壮間さんを、放せええええええッッ!!」

 

 

出口に入ったベルは、なんの躊躇いもなく怪人達に飛び込んだ。

壮間はもはや呆れ返ってしまう。期待したわけでも、計算があったわけでもない。ただ、いくら怖くても、いくら命の灯が消えようとしていても、ベル・クラネルは決して見捨てない。それは、想像するまでもない事実だった。

 

近づく鐘の音。円弧を描く白い光撃が、蟲毒の底で弾けた。

 

 

 

 

 

 

「───どうしてここが出口だって、わかったんですか?」

 

 

壮間とベルは互いに肩を貸し合い、狭窄する通路を進んでいた。あの地獄の試練を潜り抜け、二人とも大きなダメージもなく生還したのだ。それは、もはや奇跡とも言える確率だった。

 

そんな奇跡の後にこれを言うのは心苦しいが、助けてもらっておいて嘘はつけない。

 

 

「方向に目星を付けて、あとは想像に頼ったんです。ただし、選んだのは一番『嫌な予感』がする空洞。きっとあの地獄を抜けても、次に待っているのはさっき目覚めた『何か』ですし……」

 

「なるほど、それは……キツいですね」

 

「他人事じゃないですって……でも、本当に危なかった。ありがとうございました」

 

「お礼はいりません。僕も、壮間さんがいなければこの道を見つけられなかった。冒険者っていうのは、こうやって互いに助け合うものですから」

 

「やっぱすげぇわベルさん……」

 

 

どんな人生送ったらこの歳でここまで人間できるんだろう。いやむしろ反対か。彼はまだ純真無垢な少年で、夢や憧れに対する失望とか、挫折とか、そういうのを知らないのだ。早々に憧れに見切りをつけて諦めた壮間とは、根本が違う。

 

 

「あの、今言うのも変なんですけど……ベルでいいですよ。壮間さんの方が4つも上なんですし」

 

「いや、敬語使わせてくださいよ。ベルさんは俺の憧れなんです。俺は一度諦めたけど、もう絶対にこの夢を捨てたくない。今からでもなってみせますよ、ベルさんのような主人公に」

 

 

この世界には夢と浪漫がある。だが、一皮剥いた奥にあるのは、残酷で過酷な現実。果ての見えない迷宮と、怪物の如き冒険者たち。その夢はどこまでも遠く、身を焦がすほど眩い。

 

それでも、壮間は断言できる。この世界の主人公はベル・クラネルであると。この世界で主人公でい続けることがどれだけ険しい道か想像もできないが、彼はこの先どんな困難が待ち受けていようと、『英雄』であらんとするのだろう。

 

さぁ、覚悟を決める時だ。

 

怪物の咆哮が聞こえた。その暴威は反響する破壊音が勧告する。

この先にあるのが「冒険」だ。ここを超え、この世界で得たものはあったと胸を張り、皆で、元の世界に帰ろう───

 

 

 

『ジャア゛アアアアアアアッッ!!!』

 

 

 

ベルと壮間が辿り着いたそこは、遺跡のような広大な空間だった。

ここが『最奥』だと確信した。そこにあったのは、冒険者たちに絶望を叩きつける、純然たる力の化身だった。

 

それは巨大な甲虫のようであり、竜のようでもあった。大理石の装甲を纏ったような荘厳な巨体。鎧を備え、四つ腕に武具を持つ姿は、獰猛でありながら獣に非ざる存在。神々しくも恐怖を振り撒き、根源的な畏れであらゆる生命を屈服させる、極限まで邪な威光。

 

それは、闘争の勝者に与えられる『万能の力』そのもの。

我こそが神である。神はここに顕現した。

招かれざる14番目が、異界の複製迷宮で覚醒する。

 

───【X階層】迷宮の孤王(モンスターレックス)、巨大邪神フォーティーン

 

 

「これに……勝てって言うのかよ……!?」

 

 

こんなの、人の力でどうにかなる存在じゃない。

勇気や覚悟さえ無意味に霧散させる、それが絶対的な力というものだ。

フォーティーンは、壮間が知る何よりも、あの白いアナザービルドやソラナキよりも強い。どう戦ったところで、どんな手を尽くしたところで、どんな奇跡が起きたって、

 

勝てる未来が、想像できない───

 

 

 

 

「うおおおおおおおおおおっ!!!」

 

 

邪神の体が、勇猛な雄叫びと共に揺らぐ。

大戦斧を振り抜いたドワーフの重戦士───ガレス・ランドロックがそこにいた。

 

 

「っ……!?」

 

「壮間さん……どうやら僕たち、一番乗りにはなれなかったみたいですね」

 

 

恐怖で萎んでいた視野が広がるのを感じた。

今度はその鼓膜に、別の戦士の声が反響する。

 

 

「間もなく奴の剣が来る、転身し回避だ! 氷の攻撃に備え、後衛魔導士は炎属性魔法の詠唱を始めろ!」

 

 

小人(パルゥム)の将、フィン・ディムナの命令で動くのは数十に及ぶ冒険者たち。その大多数は【ロキ・ファミリア】の冒険者だった。彼らは皆、この【X階層】の試練を突破してここに集ったのだ。

 

アオイがダンジョンを操っている事実と、戦力の分散。フィンにとって想定外ではあったが、その事態は予め備えていた可能性の一つに過ぎなかった。フィンはダンジョンの潜入前に怪人やギルドから得た階層の情報を全団員に共有し、冒険者が足をすくわれる「初見殺し」を限りなく0にした。

 

だから団長や主力陣が不在でありながら、【ロキ・ファミリア】は一人として命を落とすことなく、迅速に最奥のルームへと集まることができた。

 

 

「【舞い踊れ大気の精よ、光の主よ。森の守り手と契りを結び、大地の歌を持って我等を包め。我等を囲え大いなる森光の障壁となって我等を守れ───我が名はアールヴ】!」

 

 

ハイエルフの魔導士、リヴェリア・リヨス・アールヴの詠唱が完成した。フォーティーンが掲げる杯、そして天より放たれる蹂躙の落雷。

 

 

「【ヴィア・シルヘイム】!」

 

 

翡翠色の魔法円から展開されたドーム状の『結界魔法』が、邪神の雷を完全に断ち切った。冒険者たちも、その結界すらも、無傷のままフォーティーンに立ち塞がる。

 

声は、叫びは、互いに呼び合って連鎖する。

 

 

「行くよー、せーのっ!! そらあっ!!」

 

 

勢いをつけ、傷だらけのアマゾネスの少女は跳躍した。

瀕死時に能力が上昇する自身のスキルを活かした特攻。フォーティーンの咆哮に恐れを抱かず、無邪気に笑顔を浮かべ、ティオネ・ヒリュテは大双刀(ウルガ)を邪神の副腕へと叩きつけた。

 

砕ける装甲。大絶叫。神の肢体は地に落ち、怒り狂ったフォーティーンの胸部から火球が乱射される。退避する冒険者たちだったが、彼女だけはその火球を正面から受け止め、走行を続けていた。

 

 

「いま……団長を狙ったわね?」

 

 

フォーティーンの視界に入ったのがフィンで、そちらの方角に攻撃をした。それだけのことだ。しかし、彼女にはそれがフィンに対する集中攻撃に見え、結果として大蛇の尾を踏むこととなってしまった。

 

石床に叩きつけられたフォーティーンの尾を避け、ティオナ・ヒリュテも跳躍する。そして、胸部に備わった顔部目掛け、叩きつけるのは己の拳。

 

 

「偉そうに浮いてんじゃねぇカス虫があああっ!!!」

 

 

フォーティーンの火球は魔力によるもの。その捨て身の攻撃が生んだ衝撃で、蓄えていた魔力が暴発した。そのダメージは大きく、体勢を崩した邪神の背中が階層内の石柱と衝突する。

 

 

「なんだこりゃ……戦えてるのか、あいつと。ていうか……」

 

「【ロキ・ファミリア】の皆さんです。やっぱり凄い……!」

 

「それって確かミカドの」

 

 

名を呼ぶと影が差すとは言うが、余りに丁度な瞬間に壁面の一部が破裂した。その穴から降り立ったのは、ずぶ濡れのレフィーヤとリュー、そしてミカド。

 

 

「レフィーヤさん……それにリューさんまで!?」

 

「リューさん!? なんでミカドと!?」

 

「なっ、日寺……!? 馬鹿な……!!」

 

「ベル・クラネルに先を越された……!? そんな、負けたんですか、私が……」

 

「いや待てレフィーヤ。アレを見ろ」

 

 

ミカドとレフィーヤも、フォーティーンと冒険者たちの戦闘に気付く。それを見た2人は、何やら生き生きとふんぞり返って立ち直った。

 

 

「なーんだ! まだ『万能の力』は手に入れてないんじゃないですか! じゃあ負けは無しですね!」

 

「その通りだ。どの世界にも俺が貴様に負けたという事実は存在しない。認識を改めろ愚か者が」

 

「……暫く彼らと共に行動しましたが、わからない。二人は何と戦っているのでしょう」

 

「さぁ……?」

「いいんですよ、もう勝手に言ってろ……」

 

「ここからが本当の勝負だ、と言いたいところだが……少し来るのが遅すぎたな」

 

「だよなぁ……多分これ、俺たちの出番無いぞ」

 

 

壮間はずっと不思議だった。あの出口を選んだ時も、フォーティーンを見たときも、勝てる未来は想像できなかった。それなのに、自分が死ぬ未来も想像できなかったのだ。この光景が、その答えに違いない。

 

全力を尽くし、死闘を演じる冒険者たち。そこに壮間やベルが入る余地なんて無かった。壮間たちが何をせずとも、あの絶対的強者である巨大邪神に彼らは立ち向かう。剣を持ち、声を張り上げ、果てしない絶望へと挑戦を続ける。

 

 

「ちょっとは近づけたと思ったけど、クソっ……こんなに遠いのかよ……!!」

 

 

こんな答えに辿り着くまで、随分と回り道をしたものだ。

この世界は、俺たちには早過ぎた。

 

 

冒険者たちの決死の攻防は、長くは続かなかった。その炎は、雷は、氷は、風は、冒険者の心を挫けない。だがその刃が、拳が、魔法が、邪神の鎧を砕いていく。黄金の剣が砕かれ、杯はその手を離れた。

 

その身一つとなったフォーティーンが見たのは、終局に吠える灰狼の戦士。【凶狼(ヴァナルガンド)】ベート・ローガ。

 

 

「終わりだデカブツ」

 

 

獣風情が烏滸がましいと邪神が放つ火球を、その長靴は食らった。ベートの装備《フロスヴィルト》は、魔法攻撃を吸収し己が力とする特殊武器。炎を纏った狼の右足は、流線の軌道を描き、星を喰らう牙となって邪神の心臓を喰らい破る。

 

 

「墜ちやがれえええええええええッッ!!!」

 

 

核を貫かれ、フォーティーンの肉体が炎上する。炎に包まれた体、そこに刻まれた無数の傷は、冒険者たちが幾度と突き立てた勇姿の証明。邪神の鎧が割れ、傷跡から逃げ場を求めた光が溢れ出た。そして───

 

大爆散。巨大邪神は一つの塊のような『なにか』を残し、この世界から消滅した。

 

 

____________

 

 

時を僅かに遡る。

香奈のいるパーティはベルと壮間を探しつつ、【X階層】を順調に進んでいた。(ミコト)の武術とヴェルフの魔剣がアンノウン「アントロード」を蹴散らしていく。

 

一方で、ブルーノも同様だった。いつの間にか持っていた槍で敵を捌き、リリと春姫、あと香奈を怪人たちから守る立ち回りを見せつける。しかも無駄に強くて安心感が半端じゃない。

 

 

「怪我は無い? 女の子になにかあったら世界の損失だ」

 

「ブルーノ様、お強いですね……」

 

「礼を言われたくないんでしょうか、あの態度」

 

 

そうして目に入る怪人を全て撃破したところで、一行は再び足を止めた。岩に腰を下ろし、食糧と水分を補給する。モンスターの魔石の回収や周囲の観察をしていたリリは、物憂げにため息を吐いた。

 

 

「なんだか割に合いませんねぇ。この変わった色の魔石が高く売れればいいのですが、それ以外に目ぼしいドロップアイテムもありません」

 

「期待してたほどじゃねぇ、ってのは俺も思ってた。もっとこう……見たこともねぇ未知の素材でもありゃ、鍛冶師としては嬉しかったがな。というか……これ言ってもいいのか?」

 

「どしたのヴェルフ君」

 

「いや、気を悪くしたら謝るが……思ってたほどじゃなくないか? この【X階層】ってやつは」

 

 

それは香奈以外の全員が、うっすらと勘付いていた事実だった。

決して易しいというわけではない。危ない場面というのも、ここまでに何度だってあった。しかし、戦力がレベル2しかおらず、しかもうち1人は戦闘職ではないヴェルフでここまで進めていること自体が、その発言を肯定してしまっている。

 

 

「自分も概ね同意見です。この程度であれば、これまで誰も踏破できなかったはずがない」

 

「そもそもリリは気になっていました。【X階層】の攻略とは、いったい何を指すのでしょう? 出口を見つける? 『万能の力』を手に入れる? それとも、普通のダンジョンのように階層主が存在するのかも……」

 

「それとも、この騒動を仕組んだ黒幕をとっ捕まえればクリアになんのか? そこんとこどうなんだ、なぁ盗っ人さんよぉ」

 

 

香奈がその言葉の意味を理解するより早く、ヴェルフの大剣が、(ミコト)の短刀が、リリのボウガンがブルーノもといアオイに突き付けられた。

 

 

「……なんだ、気付かれてたのか」

 

「え……えぇっ!? みんな分かってたの!? え、なんで? 私まだ言ってないのに!」

 

「様子というか存在が怪しすぎます! リリが何度冒険者を騙してきたと思ってるんですか! この手の策にリリは引っ掛かりません!」

 

「以前みすみすと侵入を許した不覚……同じ手は二度と食らいません。【次幻怪盗(ファントムシーフ)】殿、お覚悟!」

 

 

香奈が思っていたよりも遥かに、冒険者たちは聡く、強かった。降参を示して両手を上げるブルーノだが、その手がくるりと返ると、指に挟まっているのは白い球体。

 

 

「それはっ……!?」

 

「ヤマト・(ミコト)、君が忍としての素養を持ち合わせているのは知っていた。少女の腰元を弄ったのは美しくなかったが───」

 

 

王手から一転。目に止まらない速度で叩きつけられた球体が破裂し、辺り一帯を白煙が支配した。煙から飛び出し、音を立てず着地したのはブルーノの姿ではなく、変装を解いたアオイ。

 

 

「この鮮やかな脱出に免じて許してほしいな」

 

「逃げたってことは、今度は本物だな? なんでわざわざ俺たちについてきやがった。何が狙いだ!」

 

「一度に三つの問いとは強欲だね。本当なら対価を要求するけど、今の僕は気分がいい。まず僕は他の世界から奪った『お宝』を使うのは、それぞれ一度ずつのみと定めている」

 

 

アオイが槍を投げ放ち、戦闘が始まった。

ヴェルフが構えるのは魔剣。魔剣とは、名の通り魔法を宿した剣。

呪われし魔剣鍛冶貴族、クロッゾの中でヴェルフのみが作ることができる、かつて大戦で猛威を振るった『クロッゾの魔剣』。

 

 

烈進(れっしん)!」

 

 

その魔剣はオラリオで、それどころかこの世界で最高峰の一振り。戦争の道具と成り下がった祖先の魔剣を遥かに上回る、ヴェルフの信念の爆炎が剣より放たれた。

 

 

「『クロッゾの魔剣』、素晴らしいお宝だ。行使するほどに寿命が削れ、いずれ砕け散る無常の剣……美しい」

 

「当てつけか? 俺は使い手を残して勝手に砕ける魔剣が嫌いだ! 今も昔もな!」

 

「その心もまた、美学だね」

 

 

爆炎を愛でるように紙一重で躱し、アオイはディエンドライバーにカードを刺した。レベル2の身体能力でヴェルフと(ミコト)の攻撃を避けつつ、その銃口を空へ向ける。

 

息を潜め、背後から飛び掛かる香奈の跳躍も、アオイは躱した。

 

 

「次の回答だったね。同行した理由は片平香奈、彼女さ。彼女は物語の『語り手』になると言った。だから、隣でそれを見届けたかった。結果、僕の眼に狂いは一つとしてなかった」

 

「うっ……なんで、どうしても戦わなきゃダメ!? 戦うんだったらさ、泥棒さんはなんでここまで助けてくれたの!? 私たち呼んで、リリちゃんたち巻き込んで、せめて何がしたいのか教えてよっ!」

 

「君は僕の物語も知りたいのかい? だったら彼、彼女らに聞くといい。きっと何も覚えてはいないだろうけどね。変身」

 

《KAMENRIDE》

《DIEND!》

 

 

無数に重なる蒼の幻影。仮面ライダーディエンドに変身したアオイは、銃を構えたまま動きを止めた。そして───

 

 

「【瞳を晒せ此処は境界。崩れ去る混泥の傀儡。追憶の回廊】」

 

 

詠唱が始まった。

ヘスティアがヘルメスから聞いた、アオイはレベル2であるという事実。魔法を発現させていてもなんら不思議は無い。

 

 

「ヴェルフ様!」

 

「分かってる! 【燃え尽きろ、外法の業】───!」

 

 

すかさずヴェルフが短文詠唱を終わらせ、掌底をディエンドに向ける。ヴェルフの魔法『ウィル・オ・ウィスプ』は一定の魔力を感知し暴発させる、対魔法専用魔法。

 

しかし、魔法の射程に入っているはずのディエンドが一向に爆発しない。

 

 

「───【瞳を晒せ此処は境界。崩れ去る混泥の傀儡。追憶の回廊】」

 

「しまった……! ふざけろ、詠唱の空打ちだと……!?」

 

 

ヴェルフの魔法は魔法相手に極めて強力な反面、彼自身の魔力量が少なく連発ができないという弱点がある。ここまでの道程で数度使ったのを確認したアオイは敢えて魔法を誘い、効果時間が過ぎるのを見計らって再度詠唱を始めたのだ。

 

 

「【何処から産まれ、何処へと滅ぶ。竜尾(たから)を求め、針指す方へ帆を向けろ。遡れ永劫の旅路。永久に還らぬ暗天の写し鏡、悪賊を称えし詩を唄え】」

 

「詠唱を止めます! 魔法は使わせない!」

 

「……っ!? 待ってください! こんな無防備で詠唱……!? ありえません、何か狙って───!」

 

 

詠唱を続けながら、ディエンドが左手を上げた。

それはこの世界を支配する者、マティーナに対する合図だった。その瞬間、音も無く消え去る『足場』。

 

冒険者たちが落下する。その下に見えるのは、広大な遺跡のエリア。

数十の冒険者が集い、邪神を討伐した、戦いの決着の直後だ。そこにはベルや壮間の姿もある。

 

 

彼、彼女らはようやく理解した。

【X階層】と言う名はブラフ。ここはダンジョンの複製であり、()()()()()()()()()()()()()

 

アオイや香奈、リリたちがいたのは上の難易度が低い階層。アオイはそこで【ヘスティア・ファミリア】の大部分を、この祭壇のエリアの真上にまで誘導し、期を見計らって縦穴を開通させたのだ。そしてディエンドは落下しながら詠唱を続ける。

 

 

「【遡れ存在の源流。眠らぬ百目の海域を抜け、その魂に名を付けろ】」

 

《ATTACKRIDE》

《INVISIBLE》

 

「あの野郎、消えやがった!」

 

「ってそれどころじゃありません! このままじゃリリ達は……!」

「流石に死ぬよねこの高さ!!?」

「当たり前ですぅっ!!」

 

 

2階層、或いは3階層分の落下だ。いくら『恩恵』の力があっても落下死は免れない。しかし、上から落ちてくる存在は下の冒険者たちだって認識している。

 

 

「ベル様あああああああっ!!」

 

「リリ!? ヴェルフに春姫さん……って皆なんで上から!?」

 

「香奈!? なんだかわかんないけど、とにかく受け止める!!」

 

「どいてろ」

 

 

ベルやジオウが受け止めようとしたが、それを遮ってベートが飛び上がり、落下する香奈を受け止めた。

 

 

「あ、ありがとうございますぅ……!」

 

「フィンの言う通り、上にも階層がありやがったのか……雑魚が揃って脚でも滑らせたかぁ? んな間抜けは出てくんじゃねぇ。邪魔だ」

 

「なぁっ!?」

 

 

憎まれ口を叩きながらも率先して救助に入ったベートに続き、フィンやティオネ、【ロキ・ファミリア】の団員たちも落下する彼女たちを受け止めた。安堵したのは一瞬だけ、落下してきたのは香奈たちだけじゃない。フィンに受け止められたリリは、焦燥を隠さず事態を伝えた。

 

 

「フィン様! 【次幻怪盗(ファントムシーフ)】が透明になって一緒に落ちてきました! このどこかにいるはずです! それに、魔法の詠唱を!」

 

「何だって……!? 総員、構えろ! 奴は詠唱をしている。魔力を感知し直ちに討て!」

 

「……フィン、それは不可能だ。この近辺一帯から、先ほどまで感じなかった魔力を感じる。まるで奴の魔力を隠すように……!」

 

 

僅かに輝く祭壇。リヴェリアとレフィーヤが真っ先にそれに気づき、フィンも全てを察した。先の戦い、フォーティーンは囮だった。この魔力の力場は予め用意しなければ不可能だ。

 

つまりこの状況の全てが、アオイの狙い通り。

 

 

「【遡れ九度の航海。決して拭えぬ呪いを抱き、果てし無き彼方の遺物(ゆめ)に沈め】」

 

「魔法が来る! 備えろ!」

 

 

もう何もかもが遅い。姿を現したディエンドは、祭壇の中心で、その掌を床に置いた。

 

 

「【テセウス】」

 

 

魔法が発動した。集った冒険者たちの足元を蒼い輝きが覆い、彼らを夢遊の牢獄へと誘う。【ヘスティア・ファミリア】の面々とミカドを除き、全ての冒険者たちが動きを止めてしまった。

 

 

「……なんで香奈と落ちてきた。お前、いま何をした!!」

 

「やぁ王の資格を持つ者、ここまで来てくれて嬉しいよ。これは、君たちのための舞台だからね」

 

「話は不要だ。【X階層】は奴らが攻略した、負けを認めて俺たちを元の世界に帰せ」

 

「あぁ勘違いさせてしまったね。確かに、彼らの戦いは素晴らしかった。まさか本当に巨大邪神を倒してしまうとは……だが、だからこそ、僕の美学は華開く」

 

《KAMENRIDE》

《RYUGA!》

 

 

フォーティーンの爆発から落ちた『なにか』を拾い上げると、ディエンドが召喚したのは黒龍の戦士、仮面ライダーリュウガ。ディエンドに攻撃を仕掛けるベルたちに狙いを定め、リュウガは虚ろな存在感を放ち立ち塞がる。

 

 

「アオイさん……! 僕は、貴方のことが思い出せない。貴方が何をしたのか、何を思っていたのか! 知っていたはずなんです……! 教えてください! 貴方はいったい何者なんだ!」

 

「ベル・クラネル。君は、この世界の中心なんだ。君が思い出せないことが全てを物語っている。そう、それが全てなのさ。悪役(ヒール)という存在が、忘れられるなんてことはあってはならないんだ」

 

《KAMENRIDE》

《YUUKI!》

 

 

ジオウとゲイツの前に、新たな仮面ライダーが召喚された。

左腕に機構を仕込み、赤く捻れた線路を巻いた黒衣の幽霊騎士(ゴーストライダー)。仮面ライダー幽汽 ハイジャックフォーム。

 

 

「僕の魔法【テセウス】の効果は呪詛(カース)に近い。彼らは今、旅をしているんだ」

 

「旅……!?」

 

「『人生』を、僕はそう呼んでいる。産声を上げ、今に至るまで、その旅路を凄まじい速さで追体験しているのさ。そして彼らは思い出すだろう。己のルーツを、夢を、美学の原点を。そして……夢破れた、その日を」

 

《KAMENRIDE》

 

 

ディエンドが新たにもう一枚、カードを刺した。引鉄を引き、祭壇に降臨する『仮面の異形』。

 

 

《ICARUS!》

 

 

折れた翼を掲げる、黒と深紅の堕天使。

その名が意味するのは夢追いし英雄。夢にその翼を焼かれ、墜落した愚かな英雄。

宇宙の神秘(コズミックエナジー)で実体化し、裏の歴史より襲来した未練と挫折の化神。

 

 

「オレはイカロス……仮面ライダーイカロス」

 

 

仮面ライダーイカロス。それは英雄の夢に終わりを告げる存在。

この世界の冒険者たちは確かに強い。だが、そこに至る物語で捨ててきたものは無数に存在する。それらは決して彼らの脚を放さず、かつて夢見たはずの理想を腐食させてきた。

 

 

フィン・ディムナは思い出した。己の無力を蹴散らされ、不条理な力に両親を殺された絶望を。

 

ヒリュテ姉妹は思い出した。陸の孤島に囚われ、儀式と言う名の殺し合いを繰り広げた日々を。同胞をその手で殺した感触を。

 

ベート・ローガは思い出した。弱者の犠牲に絶望し、癒えない傷を負ったあの雨の日を。強さでさえ全てを救えないという現実を。

 

【ロキ・ファミリア】の冒険者たちは思い出した。

つい先日の人造迷宮攻略作戦で、仲間が死んだ。いくら研鑽を積もうが、戦うたびに痛感する。ファミリアで最前線を征く彼らのようにはなれない。いずれ振り落とされ、死ぬ。自分たちは何も特別な存在なんかじゃない。

 

 

『折れた夢』は無数の淡い光の帯となり、イカロスの翼に吸い込まれていく。そして、彼らの絶望を喰らった翼は、折れた姿から再生し、全ての光を遮るほど大きく広げられた。この迷宮から飛び立てるほど大きな、偽物ではない歪な翼。

 

 

「ベル・クラネル。君が世界を次代へと動かす『英雄の船(アルゴノゥト)』だとするのなら、僕の(テセウス)は夢折れた英雄を乗せて遡り、水底へと沈む棺桶だ」

 

 

悪役は叫ぶ。満を持して立った舞台の中心で、夢の力を奪われ倒れた戦士たちの屍を踏みつけ、存在しない太陽に腕を掲げる。

 

 

「僕はこの世界に訪れ、そして忘れられた。()()()()()()()()()()()()()()。僕の美学は、それを許さない……! だから僕は、刻むんだ。悪の存在証明を! 僕という存在がもたらした破滅を!」

 

 

怪人たちとフォーティーンを使い、猛者の冒険者たちを選別し、ここに集めた。そして自身の魔法とイカロスの能力を掛け合わせ、邪神さえ超える『堕ちた英雄』を産み出した。それに相対するは、王の資格を持つ者と、英雄の器。

 

 

「旅を司る我が主神(ヘルメス)よ! 世界は英雄を欲している? 違う、世界が求めているのは『破壊者』さ!! 壊し損ねたこの世界を、今度こそ僕の手で終わらせよう! 僕は悪役(ヒール)、美しき絶対悪───『世界の破壊者』ディエンドだ」

 

 

導かれ、仕組まれた道が一つに重なり、全てが満ちた。

異世界の迷宮を巡る冒険の、最後の試練が始まる。

 

 




35000字の長旅、お疲れさまでした……

リュウガ(好き)、幽汽(推し)、イカロス(趣味)
次回、ダークライダーVSジオウ軍&ヘスティア・ファミリアです。

補足ですが、仮面ライダーイカロスは小説版仮面ライダーフォーゼに登場したダークライダーです。メテオとフォーゼの合体みたいなベルトしてて、幽霊バイクに乗ります。ダンまち=英雄譚=イカロスの文脈で出しました。強いです。

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