あ、そうそう。原作の展開から大きく離れ出すのは、4巻を超えてからです。それまでは、割と原作の展開に沿って進んでいきますよー。
追記・時系列が間違っていたので、最後の文を直しておきました。すみませんでした。
「お嬢様、明日は休日ですが……あまり夜更かしはいけませんよ」
「わかっていますわ、尊。おやすみなさい」
街の中に、ぽつりと浮かぶように存在する、和式の豪邸──ここ、神堂家のメイド長として、桜川尊は生きてきた。
尊の視線の先、自らの部屋に消えるのは、彼女が幼い頃より面倒を見てきた、主人にして妹のような存在である少女、神堂慧理那。先程は尊の言いつけに、まるで幼い少女のように明快な笑顔で応えていた彼女。だが、実際にはまたヒーローもののフィギュア──今日はツインテイルズのフィギュアを購入したので、それで遊び倒すのだろう。
「……お嬢様のご趣味にも困ったものだが。……ここ最近の事件に比べれば、遥かに可愛いものだ…………」
神堂家邸に備えられた使用人室に向かいながら、尊は今日の昼間の事を思い返す。
五月直前、つまりはゴールデンウィーク直前の週末──この時期に玩具メーカーは需要を見越し、続々と新商品を投入してくる。
そしてその『新商品』の中には、世界初という謳い文句で発売された、ツインテイルズのフィギュアも含まれていた。販売されるのはテイルレッドとのもののみとなるが、彼女達が始めてメディアに登場したのが4月と考えると、このスピードはまさに神速と言えるだろう。造形のクオリティも悪くはない。
そしてもちろん、慧理那がこのフィギュアに食いつかないわけがない。尊は『買い物ならば自分に任せてくれ』と、そう口を酸っぱくして言ってはいるが……。
(お嬢様は、ツインテイルズに心酔しているからな……。そうでなくとも、『自分で買うからこそ愛着がわく』という信念の持ち主ではあるが……)
こうして昼の間、慧理那は尊と他数名の護衛メイドを引き連れて、大手ショッピングモールへとやって来ていた──のだが。
(まさか、エレメリアンの襲撃を受けるとはな……)
そう、エレメリアン。慧理那はその見事なツインテールゆえに、エレメリアンから積極的な襲撃を受けていた。その遭遇頻度は、国内に現れたエレメリアンに対しては、ほぼ100パーセント。もはや髪型を変えて対応しろと、そう尊でさえ言いたくなるほどだった。
だが、慧理那は神堂家の家訓により、就寝時と入浴時以外、ツインテールを解く事は許されていない。そのためエレメリアンの襲撃に対しては、尊達護衛メイドの動員数を増やすぐらいの対策しか出来ておらず、常に後手に回っているのが現状だった。
(しかし、また……今回も助けられたな)
そんな現状を何度も助けてくれているのが、テイルレッドをはじめとしたツインテイルズの面々だった。
尊は慧理那のお付きメイドとして、彼女達に頼らざるを得ない現状を恥じていたが……それでも、どこかに『彼女達ならばお嬢様を任せてもいいだろう』という思いが、僅かでもあることは確かだ。
だからこそ、尊が感じている危機感は助長される。
(そう、また今回も助けられた……。だが、
自らの懐から取り出したもの──婚姻届を見つめ、尊はその眉根を寄せる。
28歳、まだ三十路前──だが、それ故に焦る。まだ微かに残る希望を見つめて、尊はパンドラの箱すら開く事を躊躇しないでいた。
「………………」
婚姻届を懐にしまい、代わりに彼女が取り出しのは、
「………………観束総二と、十文字習。そういう名前だったな」
思い浮かべるのは、あの日運命の邂逅(思い込み)を果たした赤毛の少年の顔と、
桜川尊、28歳────ようやくの春の兆し(幻覚)を掴みとるため、彼女は修羅の道を突き進もうとしていた。
♢
「……また、助けてもらえましたわ」
数多のフィギュアや、変身アイテム、中にはサイン色紙──多くのヒーローグッズで彩られた部屋の中、慧理那は自らの枕元に置いたテイルレッドのフィギュアを、じっと見つめていた。
『こんな目に何度も遭って、怖いだろうと思いますけど……絶望だけはしないで下さい。あなたは、絶対に俺……わ、私が守ります』
「……また、守られてしまいました」
エレメリアンが現れてからというもの──慧理那にとって、これまでの人生で、精神的にこれ以上に充実した期間はなかった。
幼い頃から、ヒーローというものに強い憧れを抱く慧理那の眼の前に、突如として現れた本物のヒーロー……テイルレッド。
ほかのツインテイルズももちろん、好きではある。しかし慧理那にとって、テイルレッドとは『初めて自分を助けてくれたヒーロー』なのだ。もはやその感情は憧れを超えて、崇拝の域にさえ達していた。
『あなたがツインテールを愛する限り、私はいつだって助けに来ます』
「……ツインテールを……愛する、限り…………」
昼間に助けられた時、テイルレッドにかけられた言葉を思い出して、慧理那は無意識のうちに、自らの髪に触れていた。
「わたくし……ツインテールを、どう思えばよいのでしょうか……」
ツインテイルズは好きだが、ツインテールは嫌いである。自分がそう思っていると
「……いけませんわ。もう、寝ないと……明日も、学校はあるのですから…………」
誰に言うでもなく、自分への言い訳を連ね、彼女は無理やりツインテールを頭の中から追い出す。かわりに思うのは、やはりツインテイルズついてのこと。
ツインテール部。先日その部室を訪問した慧理那だったが、やはりどこか不自然さというか、既視感にも近いなにかを感じていたようだ。彼女は密かに、ツインテール部の面々が、ツインテイルズ──少なくとも、その中の誰か1人には関係しているのではないかと、そう疑っていた。
(ヒーローの正体を探るなど、いけないこと…………もしかしたら、罵倒されてしまうかも……。ああ、でも……いけないと思えば思うほど、何故か求めてしまいたくなりますわ…………)
その心に芽生えつつある、密かな背徳感にのぼせながら──いつの間にか、慧理那は眠ってしまっていた。
その日、彼女が見たのは、ツインテールの夢だった。
♢
「えー、先日転入生が来たばかりですが、もうひと方紹介することになりました」
「え? またあ?」
「本当に多いな……」
トゥアールが転入してきて数日後、朝のホームルームで担任から告げられた新たな人物の来訪に、生徒たちは活気付くでもなく、『またか』とでも言いたげな、うんざりとした顔を見せる。
こういうものは、たまにだからこそ良いという事なのだろう。そもそも、習もトゥアールも、胸焼けするほどに『濃い』人物。そんな人物達に続いてやって来る教師など、これまた濃ゆい人物に違いない──このクラスの生徒たちはそう決めつけていたし、事実その通りだった。
「本日から陽月学園の体育教師として赴任された、桜川尊先生です〜」
担任から促され、教室内に入って来たのは──コスプレではない、まさに本物のメイド服を着用し、その髪を短いツインテールにした妙齢の女性だった。
……そして総二達にとっては、一昨日ツインテール部で目にしたばかりの人物でもある。
「桜川尊だ! うむ、よろしく!」
「………………」
「………………」
クラス中が静まり返る。しかし生徒達の心中は、決して静かではなかった。
それもそのはず。桜川尊といえば、この学園の生徒会長である神堂慧理那お付きのメイドとして、学園内でも有名になるほどの人物である。そんな彼女が体育教師として赴任してくるなど、もはや怪しすぎて突っ込むんじゃないと言われているのと同じだ。
しかしそれでも疑問を隠しきれなかったのか、ひとりの女子生徒がおずおずと手を挙げる。
「あの、先生……」
「知りませ〜ん。私は何にも知りませ〜ん」
しかし女生徒からの疑問の視線にも、この30代半ばの教師はのらりくらりと躱してしまう。これまでの言動で十二分に察せれはするが、自分達の担任教師が保身に長けた人物であると、ようやく生徒達は自覚した。
「……みんな、驚いているようだな。無理もない、私は神堂慧理那様の警護を一任されたメイドだ。皆もよく目にしていたとは思うが……ただ校内でじっとしていているだけだと、お嬢様が心配なされるのでな……理事長と学園長に相談して、非常勤の体育教師をすることになった」
スーツやジャージなどではなくメイド服をまとった教師という、想像と常識を超えた『濃さ』を浴びてしまったことで、思考回路がショートしてしまったのだろう。習やトゥアールの時とは異なり、もはや質問しようという空気すら湧き上がってこない。
「ん? どうした? ……ああ、なに、心配するな。ちゃんと教員免許は持っているからな。ほれ、この通り」
(いや、そういうことじゃないだろ……!)
まるで目の前に御馳走と罠が同時にあるような状況で、総二は心の中で桜川尊という存在そのものにツッコミを入れつつも、しかしその視線は無意識のうちにツインテールへと向いてしまっていた。
「む? 熱い視線を感じるな。君は……おお、観束君じゃないか!」
「……は? え? ……え?」
突然名指しされ、あまりのことにぼんやりとしていた思考を引き戻される総二。ツインテールに思わず視線が向かうという総二の性質を、尊は知っていた訳ではない。しかし、利用できるものは全て利用する。これは、神堂の家にメイドとして仕えるうえで、尊が慧理那を守るために身につけた武術の教えであった。
「いや、その……」
「せんせいー、観束はツインテールが好きなんでーす」
総二が困惑する隙に、尊からただならぬ気配を感じたクラスメイトAが、総二の性壁を暴露する。完全な密告だったが、この場においてそれを心の中でも咎める者は、総二をはじめとするツインテイルズの面々以外には存在しなかった。それほどまでに、尊が放つプレッシャーは凄まじかったのだ。
「そうかそうか、ならばこれをあげよう! ツインテールが好きだという君に、私からのささやかな贈り物だ!」
生徒からの思わぬ後押しを受け、尊は自らの本懐を果たすべく総二の席まで歩くと、サイズにしてA6ほどの封筒を手渡した。
(なんだ、あれは……。あの大きさ、写真か? いや、それにしては──)
「……総二、それを開けるのはやめた方が──」
「……写真じゃ、ない……折りたたまれた……紙?」
封筒の中身に不信感を感じた習が総二を止めようとしたが、
「嬉しいか? そうだろう」
「これ、婚姻届って……書いてるんですけど、気のせいですよね?」
「気のせいって、君はその程度の漢字を読むのに自信がないのか」
「妻の欄に、すでに先生の名前も書いてるんですが……」
「フッ、当たり前だ! 夫と妻、双方の名前があって初めて、婚姻届はその意味を為す。白紙のまま渡すなど、相手に失礼ではないか」
「相手って!?」
「君だっ!!」
一切の迷いなく、そう答える尊。その瞳はまるで純真な子供のように煌めいていて、ともすれば見惚れてしまいそうなほどだ。しかし総二はツインテール以外に目を奪われる男ではない。それを察知したのか、尊は自らのツインテールを摘み、見せつけるように揺らす。
「君はツインテールが好きなのだろう? ならば私と婚約しても、何の問題もないじゃないか!」
「問題大有りですよこの年増! 総二様はすでに売約済みです!!」
ここでようやく、異様な空気に呑まれていたトゥアールが動いた。彼女立ち上がると、さらに尊を糾弾するべく詰め寄ろうとする。しかしトゥアールが二の句を告げる前に、尊が動いた。
「観束トゥアール……噂の新入生か。天才だが、いろいろと問題がある生徒……。だが小娘よ、若いな! 自らのその
「何ですって!?」
「歳も若ければ、考えも若い! すでに売約済み? ふっ、私もそう信じていた男がいたよ…………だが彼は、私のことなど目にもくれなかった! 婚姻届を何枚も手渡したというのに!」
「いや、普通に当然の対応だよ! 婚姻届を何枚も手渡されるって恐怖だよ!」
総二渾身のツッコミもスルーして、尊はトゥアールはおろか、クラス全体を呑み込むよう、自身の心理領域を展開する。若さにかまけ、美貌にその身を委ね、結果として婚期を逃した女の言葉が、まるで毒のように生徒達を不安にさせていく。
「私の事が滑稽に見えるかもしれない……だが、しかしっ! 女子たちよ、 この年まで独身でいると、もはや中途半端は時間の無駄! 毎日を全身全霊で過ごし、その上で務めて冷静に、全力で焦る! それが、三十路までに結婚できなかった女の背負う、十字架なのだ!」
この時、クラス内の女子生徒達は──果てしなく失礼な事だが、尊にゴルゴダの丘を登るキリストの姿を見たのだろう。堰を切ったように騒ぎ始めると、「カレシいない!」などと叫び、悲鳴をあげ、自らが結婚できる年齢に達していない事を嘆いていた。
「結婚……適正年齢……」
「うむ……。よく学びなさい、子供たちよ。反面とはいえ、教師は教師だ!」
「あんたみたいな教師がいるかああああああっ!!」
しかし、トゥアールさえも抵抗できない尊の気迫に対し、怯まない者がいた。それは愛香だ。一途に総二を想う彼女にとって、尊の言葉は全く響かないものだったらしい。総二に婚姻届の続きを書かせようとする尊に対し飛びかかると、渾身の力を込めてその拳を振り抜いた。
だが──熊をも沈める愛香全霊の一撃は、尊のガードによって防がれてしまう。
「強い……!?」
「津辺愛香君だな。まだまだ若いというのに、なかなかの
尊は愛香がさらに繰り出した拳を避けると、体を回転させ、総二に向けて婚姻届の束を投擲する。
「えっ、ちょっ!?」
「しまった!」
しかし投擲された婚姻届の束は、空中で切断され、地に堕ちる。
婚姻届を切り裂いたのは、習だ。これまで自体を傍観していた習だったが、まだ若い総二がこれ以上婚姻届を押し渡されるのは、どうにも我慢ならなかったらしい。
「習!」
「桜川先生。あなたの焦りは私には理解できないものだが……。総二はまだ若い。その未来の芽を本人の同意も無しに摘もうなどと、そんなことは許しませんよ」
「……津辺君もトゥアール君も、どちらも私の障害になると思っていたが……やはり最大の脅威は君だったか、十文字君」
「……?」
「ふっ、なにをとぼけた顔を。私にはわかるぞ、君は──」
何かを習に告げようとする尊。しかしその瞬間、ホームルームの終わりを告げる鐘が鳴り響いた。どうやらホームルーム終了後にまで私情を持ち込む気はないようで、尊は戦闘態勢を解くと、どこか満足げな顔でクラスを見渡す。
「ところで男子諸君。観束君のように、婚姻届が欲しい者はいないか? なあに、この学園の男子生徒と同じ数は持ち歩いている。遠慮せず、受け取るがいい」
訂正。満足げな顔ではなく、貪欲に飢えすぎた顔が、逆にそう見えただけらしい。尊の猛禽類も恐れるであろう鋭い視線を受けて、クラス内の男子生徒たちは一斉に教科書を広げ、猛烈な気迫とともにその内容に没頭し始めた。
「……ふむ。まあ、今日はこの辺でいいだろう。他のクラスのぶんもあることだしな。……津辺君、そして十文字君。いずれまた、ゆっくりと語り合おうではないか」
こうして、嵐の化身のごとき混乱を残して、桜川尊は去っていった。
後に残されたのは、混沌とした状況と──総二に残された婚姻届。もっとも、婚姻届はすぐに愛香が破り捨てたが。
(……もしかしてあの人、ああやって自己紹介していくつもりなのか……? まさか、婚姻届を渡す
こうして、総二たちの過ごす学園に新たな嵐が巻き起こっている頃……元ドラグギルディ部隊の面々にも、同じように天災のごとき暴虐が襲いかかっていた。
♢
「ふん、これがツインテイルズか……」
「ドラグギルディに劣るとはいえ、タイガギルディを倒すとはな……。確かに、我らが呼ばれるだけはあるようだ」
元ドラグギルディ部隊の基地、かつてはドラグギルディを中心として、対ツインテイルズの会議が行われていたホールに今は、2体の巨大なエレメリアンと、それに付き従う数々のエレメリアンがひしめいていた。
10本の触手を持ち、貧乳を愛する、
股間に巨大な触手を持ち、それを必殺の武器とする、
巨乳と貧乳、一本と無数。同じく乳を愛し、触手を武器とする者どうしでありながら、クラーケギルディとリヴァイアギルディ、そして彼の配下たちは犬猿の仲であった。
「ほう、怖気付いたか? クラーケギルディ。ならばさっさと帰るがいい。もっとも、その時は貴様の命など無くなっているだろうがな」
「ふん、ほざけリヴァイアギルディ。相手の戦力を正しく測れぬようでは、貴様もおしまいだな……」
「お、お二人とも……そ、その辺に……」
リヴァイアギルディとクラーケギルディの間を取り持つのは、ドラグギルディ部隊の最古参たるエレメリアン、スパロウギルディ。しかしいかに経験豊富な彼といえども、自らよりはるかに強大な力を持つ2体のエレメリアンを前にしては、怖気付いてしまっていた。そんな彼の進言をこの2体が聞き入れるはずもなく、睨み合いは続くかと思われた、が────
「スパロウギルディの言う通りです、お二人とも。……ツインテイルズは強敵です。お二人が力を合わせなければ、勝てないでしょう」
ここで、スワンギルディが一歩踏み出す。スワンギルディは、リヴァイアギルディとクラーケギルディが基地にやって来た時、リヴァイアギルディがドラグギルディを侮辱したと思い込んで突っかかり、その結果リヴァイアギルディとの力の差と、彼のドラグギルディの死を悼む気持ちを学んだばかりである。
その彼が、自身とクラーケギルディの争いに割り込んできた。そのことにリヴァイアギルディは内心ほくそ笑みながらも、あえて厳しい態度をとる。
「スワンギルディといったか……。若造が、この俺を侮っているのか?」
「そうではありません。ただ、事実を言っているだけです」
「ほう……?」
睨み合うリヴァイアギルディとスワンギルディ。しかし、スワンギルディは一歩も引かない。
「スワンギルディ……。お二方、我が部隊の若輩の無礼、お許しを。しかし彼の言う通り、ツインテイルズはまさに強敵。確実に倒すためには、クラーケギルディ様とリヴァイアギルディ様の協力が必要不可欠かと……」
若者の思わぬ成長にスパロウギルディは感激しつつも、ここぞとばかりにスワンギルディの言に補足する形で、クラーケギルディとリヴァイアギルディに共闘を促す。このスパロウギルディの言を受けて、リヴァイアギルディとクラーケギルディは顔を付き合わせる。
「……なるほど、そこまで言うならば、我らにも考えはある」
「我が部隊とリヴァイアギルディの部隊より、1人ずつ選び、出撃させる。それをツインテイルズが破るならば、我らも腹をくくろうではないか」
「……! ありがとうございます!」
無論、リヴァイアギルディとクラーケギルディも、ツインテイルズの戦闘能力を正しく理解していた。しかし、彼らは責ある身であり、部隊を率いる将である。最初から自分たちが出るとすれば、自分たち以上に犬猿の仲な配下たちの猛反対にも合うだろうと想定し、それを抑えるため、部隊の中でも自らの腹心と呼べる存在を、それぞれ出撃させようというのだ。
もし、出撃させた部下がやられてしまえば、リヴァイアギルディとクラーケギルディが出向けばいい。そこまで考えた上でのこの決断をスパロウギルディも察し、思わずといった様子で礼を言う。
「礼など構わん。よし、俺の部隊からは……バッファローギルディ、貴様がゆけ」
「我が部隊からは、ジェリーフィッシュギルディ! 貴様が先鋒となって、ツインテイルズを打ち破るのだ!」
「はっ!!」
「御意!」
リヴァイアギルディとクラーケギルディの命を受け、意気揚々と立ち上がるのは、リヴァイアギルディよりもさらに巨躯を誇る戦士、二本角のバッファローギルディと、クラーケギルディに匹敵する数の触手を蓄える戦士、ジェリーフィッシュギルディだ。どちらも、クラーケギルディとリヴァイアギルディの懐刀ともいえる存在である。
巨乳と貧乳、両者の先鋭がツインテイルズ打倒に燃え、一方は荒々しく足音を響かせ、一方は優雅な足取りでもって出撃した。
♢
尊が鮮烈な教師デビューを果たしたその放課後、エレメリアンが出現した。
その現場は、なんと街中。それも、陽月学園の生徒の帰り道だという。
「街中で暴れられると危険だ、最初から全力で行くぞ!」
「敵は2体なんでしょ。分担はどうする?」
「ワシが抑える。レッドとブルーで仕留めよう」
慣れた様子で、だが全力で急いで現場に急行するツインテイルズの3人。そこに待ち受けていたのは、2体の巨体のエレメリアンだった。
「あいつらか……!」
「来たか、ツインテイルズ! 我が名はバッファローギルディ、
「そして私は、
荒々しき猛牛と、ゆらゆらと優雅な水母。対照的な2人の存在に対し、ツインテイルズは各々の武器を構える。周囲には、戦いの影響を受けないよう離れているとはいえ、大勢の人。その中には、騒ぎを聞きつけてやってきたのか、尊を従えた慧理那の姿まであった。
「頑張ってくださいまし! ツインテイルズー!」
「また会長がいる……!?」
「ツインテイルズ……巨乳はおらぬが、レッドはまさに可能性を感じさせる身体よ……!」
「ブルー、ハート……どちらも甲乙つけがたい貧乳だな」
一瞬、慧理那の存在に気を取られたレッドだったが、2体のエレメリアンの乳評論を聞き、すぐに向き直る。
「巨乳と貧乳……。そんな俗な属性、本当にあるんだな」
「なんでもいいでしょ。それより……
『え、ええ……。そのはずですが……』
その時、あまりにも俗な相手の属性にげんなりとするレッドに対して、ブルーはその瞳を、獲物を見つけたハンターのように……いや、そのハンターすら喰い殺すような獰猛な獣のように、ギラリと目を光らせていた。
「このような体格ばかりの木偶の坊とコンビを組むなどと……。クラーケギルディ様の命でなければ、まず貴様から切り捨てていたところだ」
「ぬかせ、ジェリーフィッシュギルディ! まずツインテイルズをおびき寄せるという貴様の作戦には同意したが、奴らを倒すなど俺1人で十分──」
「オーラピラー……んでエグゼキュートウェ────ブ!!」
バッファローギルディとジェリーフィッシュギルディが言い争いを繰り広げている隙に、ブルーはバッファローギルディに向けて即座にオーラピラーを展開。必殺技を、まさに渾身の力を込めて撃ち放った!
「ぐおおおおおおおお!?」
「バッファローギルディ──ー!?」
ブルーの槍を防ぐことも出来ず、バッファローギルディは爆散した。その爆発でジェリーフィッシュギルディは吹き飛び、ブルーは爆煙の中に突っ込むと、血眼でその後を探す。そしてほどなくして、地面に落ちていた菱形の宝石──
「やったわレッド、ハート!
「私利私欲のために敵を血祭ってたんじゃねーよ!!」
「……かつて明鏡止水の境地を感じたはずだが、間違いだったのか……。いや、あれまた一意専心の域か……?」
「これで……これであたしは……ふ、ふふ」
ブルーが大事そうに
「ブルー!」
「おっと、危ない! そういえば、もう一体いたわね!」
「くっ、躱したか! 流石は、見事な貧乳属性の持ち主……!」
ジェリーフィッシュギルディは、その手に持った鋭いレイピアによる刺突を得意とするエレメリアンである。その一撃はまさに神速であったが、今のブルーはかつてないほどに精神的に充足した状態。属性力は精神の力であるのだから、今の彼女がジェリーフィッシュギルディの攻撃を避けられないはずがなかったのだ。
「貧乳貧乳……うるさいのよ!」
「フッ、見事な貧乳だが、しかし今はクラーケギルディ様からの命を受けた身! レッド、ブルー、ハート! 貴様ら全員、この私の触手で討ち果たしてくれよう!」
そう言うと、ジェリーフィッシュギルディはその背中から10本ほどの触手を出現させる。戦闘態勢に入ったとみたレッドとハートは、ジェリーフィッシュギルディの攻撃を見切るべく、身構える。しかし、ブルーは──
「しょく、しゅ……? ヒッ、い、いやあああああああああああああああああああっ!!!」
「!? どうした、ブルー!」
「しょ、触手!? 触手ぅぅぅぅ!!」
「まさか……。ブルーは触手が苦手なのか!?」
「なんだって!? まさか……長い付き合いだけど、知らなかった…………」
「ど、どういうことだ!? 私のこの素晴らしき触手を見て、そこまで取り乱すなど……」
ブルーのあまりの取り乱しように、ジェリーフィッシュギルディも動揺を隠せないようだ。その様子に目ざとく気づいたレッドは、とりあえずこの状況をなんとかするべく、ジェリーフィッシュギルディに向けて必殺技を放つ!
「ええい、そこだっ! グランド! ブレイザー!!」
「なっ!? う、うおおおおおっ!! 貧乳ぅぅぅぅ!!」
レッドの必殺技を避けられず、爆散するジェリーフィッシュギルディ。しかし、彼の貧乳への熱意は並々ならぬものがあったようだ。その触手を伸ばすと、爆発の影響もあり、ついにはブルーのその手にまで触手は到達した。
「え、お…………きゅう」
そして、その瞬間──ブルーの意識は途切れ、その身体が発光を始める。気絶による変身解除だ。
「まずい!!」
「ハート!」
ハートは即座に自身と愛香を包むよう、外から見えないようにオーラーピラーを展開。すぐに走り出し、ギャラリーの中を突っ切て、人気のない裏路地へと駆け込んだ。レッドもそれに追従し、裏路地に入る。
そこでは既にハートがオーラーピラーを解除しており、変身したままのハートの姿と、変身を解除して横たわる愛香の姿があった。
『総二様もドラグギルディとの戦いで力を使い果たした時、強制的に変身が解除されていましたが、これは危険ですね。次のメンテナンスで、テイルブレスとハートブレスにも、強制変身解除の対策をしましょう』
「そうだな、頼む。さすがに俺も、今のは肝を冷やしたよ」
この先に不安を抱きながらも、変身を解除するレッド。しかし瞬間、彼の眉間に電流のような刺激が走った。
鮮烈なまでの、ツインテールの気配。
「待てレッド! 今は──」
「……観束君……が……テイルレッド…………」
総二が振り返った先、裏路地の入り口には肩で息をしながら、髪も振り乱した慧理那が呆然とした様子で立っていた。どうやら、急いで追ってきたらしい。それがどのような感情からかは不明だが、周囲には慧理那以外に人の気配はない。よほど、急いで来たのだろう。
「ち、違うんだ、これは……」
総二が言い訳をしようとする前に、慧理那はあまりの衝撃に意識を失ってしまった。そしてそんな彼女に代わるように、慧理那を追ってきたのだろう尊が現れる。
「さ、桜川先生…………」
「……事情を説明してもらえるかな? 観束君……そして、十文字君」
威圧するような物言いではない、むしろ嘆願するような口調。それを受けて、総二と習は頷かざるをえなかった。
「……だが、事情を聞けば傍観者ではいられんぞ」
「お嬢様はもう既に、なんども狙われているのだ。傍観者では、どのみちいられんよ……」
習からの問いにも、尊は即座に答える。しかしその顔には、主人がこれから歩むであろう苦難を思って、苦悶が浮かんでいた。
「……わかりました。でも、約束してください」
「ああ、誰にも話さん。この、わたしの名前を妻の欄に書いた婚姻届に誓おう」
「それはいいです」
こうして、4月も末、ゴールデンウィークの直前──総二達はついに、その正体を知られてしまったのだった。
習と総二のデートって(番外編以外で」見たい?
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構わん、やれ
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断固として拒否する
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メス落ちまだ?
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習側が記憶失ってたらいいよ
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トリニティ!