胡蝶の君へ   作:九咲

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胡蝶の君へ【前編】

これは蟲柱・胡蝶しのぶに恋した俺の足掻きの物語だ。

 

 

 

それは電撃で落雷のような恋だった。

 

鬼に襲われ虫の息の俺は雪の降る曇天の空を見上げていた。

 

痛ぇ、寒い…。

 

真冬の寒気は容赦なく我が身を苛む。傷も徐々に体温をも奪う。

意識は朦朧で妹を抱えていた。妹はもう冷たい。

ああ、守れなくてごめんなと優しく髪を撫でる。生前もいつもといてあげといた綺麗な髪のままだった。

 

さらに俺たちを庇って死んでしまった姉に視線を向ける。

 

ああ、相変わらず人形のように美人だった二人の姿は変わらない。

 

もう、ほほえんではくれないけど。

 

寒空の中で死んでしまうのだろう。…鬼に食われなかっただけマシだろうか。妹と姉を喰わせなかっただけ個人的には勲章もんだ。剣術ならっとくもんだ。

 

「もし、生きてますか?」

 

曇天を遮るように覗き込む顔があった。

小さく可憐であったが難しそうな顔をしていた。

 

あれ、可愛いな。

 

虫の息のまま的外れなことを考えている。

姉さんと妹にどやされるな、ははっ。

 

 

「間に合わず申し訳ありません。貴方はまだ息があるようです…お姉さんと妹さんはお悔やみ申し上げます」

 

処置をしますという言葉と共に意識は暗転する。

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

それからは彼女・胡蝶しのぶに保護された。

 

 

彼女の住まいとする蝶屋敷と呼ばれる屋敷に世話になっている。

 

 

「逢魔さん、大分良くなりましたね!!」

 

よく世話をしてくれる三人娘の一人なほちゃんが言ってくる。

 

「そだね。…大分良くなったね皆のおかげだ」

 

宵鷺逢魔(よいさぎおうま)。それが俺の名だ。

 

身長はそれなりにあるが、線が細いとよく言われる。

 

 

それでも宵鷺に伝わる剣術を習っていたため筋肉量はそれなりにあった。

そのおかげが分からないけれど軽く運動出来るまでは回復した。

 

癒えるはずの傷と癒えさせたくない病気を抱える事になるが

 

「逢魔くん、良くなりましたね…それで話とは?」

恩人である胡蝶しのぶさんが部屋に入ってくる。

傷が治るまで本当よくしてもらった。

 

家族を失った痛みと。

 

小さく可憐で作り笑いをする少女に恋したことに多少の罪悪感を覚えるけれど。

 

 

 

 

 

「鬼殺の剣士に…ですか?」

 

「はい、…出来れば貴女の指導で。貴女に救われた」

 

「…うーん。私は育手ではありませんし。逢魔くんが何の呼吸に即しているかは分かりませんし…まぁ鬼殺隊は年中人手不足ですし歓迎はしますよ」

 

 

「けれど拾った命。捨ててはいけないですよ逢魔くん」

 

 

「はい、…全てしのぶさんのために。この身の全てはしのぶさんの為に」 

真剣な眼差しでしのぶさんを見つめる。

彼女を目の前にしてこの気持ちは抑えがたい。

 

 

「…え、えっと」

さすがの、しのぶさんも言い淀み視線が踊る。

 

きゃーきゃーっと、後ろで騒ぎ立てる三人娘と首をかしげるカナヲがいたが俺はしのぶさんの手を握る。

 

「…き、傷が完治してからですよ逢魔くん」

 

顔を赤くしてそっぽ向くしのぶさん、まじ天使。

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

傷が完全に癒え激しい運動も問題なかったためしのぶさんに許可を得て育手の元を訪ねる。

 

 

守衛螺映(しゅえらうつえ)という妙齢の女性だった

着物を着崩し腕に大きな傷のある白髪の女性。

 

「…………誰かと思えば宵鷺のぼうずか」

 

 

「…やっぱり映さんでしたか。…………鬼殺隊だったんですね」

 

かつて宵鷺剣術道場で師範代を務めていた女性。

 

父よりも強く何をしているかは分からず父が逝去してから疎遠になってしまっていたから何をしているかは知らなかった。

 

 

「…………かか、夜明(よあけ)嬢と夜深(やみ)嬢もしんでもうたか…弔い合戦か敵討ちか?逢魔」

 

 

「それもありますが……救って貰った恩人の力になりたくて」

 

「胡蝶の娘にでも惚れたかえ?」

意地の悪い笑みを浮かべるが。

「はい」

と真っ直ぐと、答えると映さんは目を丸くする。。

 

「まじか。あの堅物の坊主がの。さぞ夜深嬢が悔しがるかの」

 

「なんで夜深が出てくるんです?」

首を傾げる…振りをする。あの子が俺に家族以上の慕情を抱いていた事は察していた。

 

「鈍感め。……胡蝶の娘を助けるか。柱レベルになればあかんぞえ?」

 

分かっている。分かりすぎている。

 

 

宵鷺逢魔は『転生者』だ。

 

この世界を知っていた。この世界に生まれ自我が確立したと同時に自覚していた。

 

この世界は『鬼滅の刃』という漫画の世界だ。

 

刊行15巻の現在連載中の漫画だ。

 

推しのキャラは実はしのぶさんではなかった。

 

けれど彼女に救われ彼女を目の前で間近でみて惚れてしまった。

 

まだらの記憶は知識として残っている。

 

もはや自我は生前の自分を失い『宵鷺逢魔』と確立しついる。

 

『宵鷺夜明』と『宵鷺夜深』を失った痛みも俺のものだ。

 

 

 

だから再び失いたくないのだ。

 

確定された未来。上弦の鬼に敗死する彼女の未来をねじ曲げるのだ。

 

「…………俺には殺さなきゃいけない鬼もいるんです」

 

 

「選抜まで鍛えてやるぞぇ、儂の扱きはキツいぞ。まぁ下地があるのはよゐことじゃ」

 

嗜虐的な笑みを浮かべる映さん。道場時代からそう変わらない。

 

「……変わらないですね映さんは」

 

 

呼吸。鬼殺隊の誰しもがそれを会得している

 

肺を強くし全身に巡る血液を多くする『全集中の呼吸』。

 

鬼を殺すのは人の身で至らなければならない。

 

怪我もするし病気にもなる。

 

身体は鍛えて鍛え抜いた先に強さがあるのだ。

 

 

俺は下地があったから体力作りは勘を取り戻す程度にあった。

 

全集中の呼吸に関しても『宵鷺』の剣術の教えに通ずるところも有り会得していたものがあった。

 

「夜明嬢も夜深嬢も喰われずにいたのも主が抵抗したのだろう。鬼殺の剣士として向いてるのやもな」

 

なら守れなかったのは俺に訓練が足りなかったからだ。

 

もっと真面目に訓練していれば二人とも死なずに済んだのかもしれない。  

 

半年後。

 

最終選抜へいたる。

 

俺が習得したのは『影の呼吸』。

 

『宵鷺』の剣は正道に非ず。奇襲や隙をついた正々堂々とは言えない剣ではあった。

 

影から主を護る忍びに似て非なるものだった。  

 

宵の鷺のような剣術『宵鷺剣術』の根源であった。

 

 

「いってきますよ。映さん」

 

 

「惚れた女のために力を使え逢魔。あまり私怨には駆られるなよ。死んだ二人ともそれは望んではいまい」

 

「……それでも責任は取らせます。」  

 

 

 

『十二鬼月』上弦の弐『童磨』を殺す。

 

 

俺の家族を殺した鬼を。

 

俺の愛した女性をこれから殺す鬼を。

 

 

滅する為に。




鬼滅が好きすぎて短編で物語畳み方の練習に書いてみました。
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