胡蝶の君へ   作:九咲

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宵鷺の貴方へ【中編】

不思議な人でした。   

 

影のある人でした。

 

線が細い人でしたが中性的ではなく男性らしい人ではありました。

 

彼からの直球な好意を上手く流せませんでした。

 

心拍数が上がり呼吸も乱れます。

 

私の知らない感情でした。

 

両親を鬼に殺され姉と鬼殺に生きてきてその姉をも殺されそういった事を考えてきたことはありませんでした。

 

そういった事をしている場合ではないと断じて来たのかも知れない。

 

 

「しのぶちゃんそれは恋だよっ」

 

私以外の唯一の女性の柱である甘露寺蜜璃に対してその感情を吐露する。

 

継子のカナヲも論外だし三人娘は幼すぎるしアオイも違うだろう。

 

仮にも『恋』柱である彼女位にしか相談出来なかった。

 

まぁ他の柱達はあらゆる意味で論外ですけど。

 

かく言う彼女も特定の誰かと付き合ってるとは聞いた事は無いが。

ま、蛇柱の彼がいる限り厳しそうですけど。

 

「はぁ、恋です…か」

 

 

「良いなぁ、情熱的だなぁドラマチックだなぁ」

 

いや、相談したのは失敗だったのかも。

 

…再確認的な意味合いではよかったのかもしれない。

 

 

彼の直接的な好意を断る術と理由はなかったのかもしれない。

 

「別に鬼殺の剣士が恋しちゃ駄目って理由はないと思うよ?」

 

蜜璃さんは、めずらしく真剣な眼差しで此方を見る。

 

「しかし…生死が隣り合わせですし」

 

「宇髄さんなんてお嫁さん三人いるし」

 

いやあれは特殊過ぎるのでは。

 

「宵鷺くん…だっけ?鬼殺の剣士だししのぶちゃんの意向も十分汲んでくれそうじゃない?ぞっこんなんでしょ」

 

いやぞっこんって。

 

頬が熱くなる。心拍数が上がる。

 

「…姉さんがなんていうか」

姉を理由にだすのは卑怯かも知れない。

 

「それこそしのぶちゃんに幸せになって欲しいんじゃ無いかな」

 

言葉を失う。

 

「じゃないかなぁって私は思うなぁ」

 

幸せ…か。

 

今まで考えてこなかった事をぼんやりと考える。

すっかり冷めてしまったお汁粉を、一口啜る。……あまい。

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

 

 

俺こと宵鷺逢魔が鬼殺の剣士になって早一年が経過した。

 

階級は甲。柱以外の最上級の階級へ至る。

 

最速で柱になった時透無一郎に及ばないものの他の剣士に比べ抜きん出ていたらしい。

 

殺した鬼はゆうに百。柱になる条件は十二鬼月を殺すか鬼を50体殺すとされているが彼は甲の階級へ収まっていた。

 

蝶屋敷を拠点とし鬼殺に励んでいた。

 

 

「しのぶさんの元で働けないのであればお断りします」

 

呆気らかんと言い放ったそう。

 

隣に居た胡蝶しのぶさんは顔を真っ赤にしている。

 

 

リア充爆発しろと隠の人は思いましたまる。

 

蝶屋敷にて、力仕事をこなしながらしのぶさんの仕事の手伝いをしていた。

 

「…………それに俺は『上弦の弐』の鬼を探し出すに集中したいですし」ふと呟く。

 

『上弦の弐』…?

 

 

「……家族を、殺した鬼を思い出したんです」

 

まばらな記憶は不愉快な姿を覚えている。

 

にやけ面が癪に障る鬼だった。

 

男の鬼だった。

 

鬼にしては外見は整ってはいたがやはり鬼。

 

瞳には上弦と弐と刻まれていた。

 

 

ああ、十二鬼月……圧倒的強者と対峙してしまったと知る。

 

「……………けれど貴方はお姉さんと妹さんを守り切ったのでしょう?」

 

「死なせてしまったからそれは違いますよ」

 

蝶屋敷の庭に出て花壇に水を撒く。

 

「あれは弄ぶ鬼です。弄び殺し喰らう鬼ですよ逢魔くん。……それを喰らわせず撃退出来たのであれば誇って良いはずですよ」

 

しのぶさんは優しくいい聞かせるように言ってくれた。

 

分かっているけれど。

 

「姉さん達の尊厳を守れた事は嬉しいですがやはり俺の人生から奪われたのは事実なんだ」

縁側にちょこんと、座るしのぶさんへ振り返る。

 

「…………そうですね。気休めでした」

しのぶさんは、目を閉じる。

 

「いえありがとうございますしのぶさん。…………だからこそ俺は貴女には死んで欲しくないのです」

 

「私は死にませんよだって……」

 

 

「…姉を殺した鬼を殺すまでは……ですか?」

 

「……はい。知ってましたか」

 

「すいません。……けれど貴女には救われて昏睡していた時嫌な夢を見たのです」

 

「夢…ですか」

 

「貴女も私の家族を殺した鬼に殺されてしまう夢です。嫌に鮮明で…予知夢のようなものな気がします」

 

嘘だ。俺は貴女が死ぬ顛末を知っているだけ。

 

それでもねじ曲げるのだ。

 

この剣。この命。全ては貴女を助けるために。

 

 

▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽

 

「…………私達姉妹は両親を鬼に殺されました」

 

私は呟く。

 

「鬼殺を志す者は皆。似たような境遇の者が多いでしょう。逢魔くんもそうでしょう」  

 

「姉カナエと共に同じ境遇の人が居なくなるようにと誓い鬼殺の剣士になりました」

 

私は怒っているのです。

 

 

「それでも姉は人間と鬼が仲良く出来れば良いのにと考えるような優しい人でした。」

 

 

「けれどオニは卑劣で下劣で…人を食糧としてしか見なしていません。」

 

それでも姉の遺志は尊重したい。

 

 

「私が良く笑って居るのもカナエ姉さんが可愛いって言ってくれたからなんですよ?昔は仏頂面ばっかりだったんですよ?」

 

仏頂面なしのぶさんも可愛いから大丈夫とか…ぅ、…はずい。

 

真面目な顔で言わないでください

 

「……けれど…少し……疲れてしまいまして……」

 

鬼はやっぱり鬼なんですよ。仲良くなんて出来ない。

 

私はいくらとりつくっても……姉を殺した鬼が憎い。

 

 

「俺も貴女がこの前言ってた竈門君達に会いましたよ」

 

「すれ違いだったとばかり」

 

風変わりな鬼殺の剣士の兄と鬼の妹。

 

この前の柱合会議で話題になった。

 

「………皆、ああなれれば良いのですけれど。だからこそ彼にこの願いを託してみては?彼ならやってくれる」

 

 

「そうですね…そうかもしれない。あの兄妹は眩しいくらい純粋ですから」

 

逢魔くんは隣に座ってくる。

 

まただ、心拍数が上がり頬が熱くなる。貴方と会ってから幾許はなるか。

 

未だ慣れない。

 

「肩の力を多少抜かれてもいいんじゃないかな?しのぶさん。俺は貴女の全てに惹かれた。……仇が一緒なら分け合えると思う」

 

優しい声音。お館様とは別種の私の私だけを落ち着かせてくれる声。

 

「俺はけして貴女を殺させない。……そろそろ答えを聞かせて欲しい」

 

度重なるアプローチを受けていた。忙しさにかまけて正式に返事はしていなかった。

 

いい加減彼に失礼だし…誤魔化すのも限界だった。

 

貴方の優しさも真っ直ぐさも顔も声も匂いも全て……私を惑わす。

 

「逢魔くん、私は………胡蝶しのぶは…貴方を……」

 

ああ、多分顔は真っ赤だろう。

 

 

「貴方が、大好きなんです」

 

 

「俺も大好きだ、…しのぶ」

 

どちらからも手を重ねる。それだけで心拍数はまだ上がる。

身体が熱いし思考はなんだか考えて居られない。

 

彼の事だけしか考えられない。

 

ああ。……みんな留守でよかったなんて…考える。

 

唇を重ねる。

 

……私は幸せになっていいのかな、姉さん。

 

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