かつての夢を見る。
幸せだった夢を見る。
父親の宵鷺黄昏が亡くなってから道場は畳み三人の姉弟妹は三人で静かに暮らしていた。
「おうくん、やみちゃんご飯だよ」
夜明姉さんは穏やかな人だったがどこか抜けている人だった。
そろそろ俺達は俺達で何とかやるから嫁いで欲しかったが。
「や。」
の一言で頑なに拒否られる。この村一番の美人であると俺と夜深は思っていた。実際引く手数多だと思う。
鍛冶屋の湯助さんあたりまだ諦めてないし。
八百屋の次郎なんか撃沈ついに百回目だ。
弟の俺からしても綺麗な闇色の艶のある長髪に女性らしい身体付きでモテるように思える。
「行き遅れになってしまっても知らんよ俺は」
と悪態をつく。
「おうくんに貰って貰うから大丈夫。」
「……………お姉ちゃん表出ようか久しぶりに切れちゃったよ…………」
「やめろやめろ勝てない上に身体弱いだろお前。何にキレてんだ何に」
頑なに俺の隣のポジションから離れないのは末っ子の夜深。
身体が弱く外出はろくにしない。まぁ命に関わる持病でもないが致命的に体力がなかった。
基本的には内気で家族以外とは会話もままならない。
線が細く目付きが悪いが一括りにした闇色の髪がはねて愛嬌はある。……と思う。
「あらあら、やみちゃんってばやきもち?」
ニコニコと笑いながら言う。姉さんからしたら他意のない言葉。けれども夜深からしたら地雷も地雷。火に油。地雷原に核を落とすようなもの。
「………お姉ちゃん…ふふっ…………久しぶりに姉妹水入らずお風呂入ろっか………………」
「あらいいわね。」
ニコニコー
「何をするつもりだ。お前は。」
夜深に軽くチョップする。恨めしげに此方をみるがスルー。というか接触し過ぎだ夜深。年頃の女子が身体を密着し過ぎな。線が細いけど当たるもんは当たる。
変わらない宵鷺家の風景。
暖かくいつまでも続くと思っていたその風景はいとも容易く崩れ去った。血を被ったかのような鬼の戯れのような襲撃。
宵鷺逢魔は『転生者』だ。
それでも朧気でまだらな前世の記憶と知識があるだけで特別な何かがあったわけでも無い。
前世の記憶の中でより深く残っていたのは『寂しさ』だけだった。
まだらな前世の記憶にはいつも線香の匂いがあった。
いつも一人だった。
隣には誰もなく近づく人は悉く居なくなる。
思い出したくないのだろうか。前世がどういった世界でこの世界は漫画の世界でという知識はあるが前世の自分の履歴だけがぽっかり抜け落ちている。
けれどもこの寂しさだけは紛れもない自分自身だった。
だから俺はこんなにも失う事が怖いのだ。
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少女の鬼との戦闘後カナタを連れ蝶屋敷に帰宅する。
カナヲ夫婦が既に来ておりカナタを深く抱き締めておんおんカナヲは泣いていた。
炭治郎君も安堵したかのように優しく微笑む。
カナタも怖い思いをしたのだ。おんおん泣くカナヲに抱かれ次第にカナタもポロポロ泣き始める。
「……………今日は泊まって行きなさいカナヲ、炭治郎君」
優しく微笑むしのぶの言葉に頷く二人。
「………………後で話がありますからね逢魔くん」
声にドスが聞いてません?しのぶさん。
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それからは何故か宴会をすることになった。
俺達宵鷺夫婦。竈門家族。宇髄家族も何故か聞きつけてきた。
三人娘のなほちゃん、きよちゃん、すみちゃんも駆けつけ賑やかになる。アオイは忙しくてこれないらしい。なんでも食堂を始めたとか。
普段広い蝶屋敷に二人住まいもかつての賑やかさになる。
鬼殺隊の医療施設だった時代すらも懐かしい。
三人娘が作る料理は絶品だった。カナヲが作り方を聞いていた。
女性陣も料理の話で盛り上がっていた。
子供達もカナタを中心に賑やかだ。
しのぶと二人きりもいいがこう言った賑やかなのも悪くない。
鬼に接触し怖い思いをしたカナタの傷も払拭されればいいが。
…………あと、しのぶに怒られたくないのだが忘れてくれないかなぁ。
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宴もたけなわにて各家庭も寝静まり俺達夫婦も片付けも一段落した。三人娘も手伝ってくれていた。
夜も深くなっている。
「逢魔くん?」
「は、はい?」
夫婦の寝室。蝋燭の光だけが照らしている。
「お疲れ様です。今日は色々ありましたね。」
しのぶは隣に座ってくる。肩に感じるしのぶの体温。
すぐに密着したがるのは妹と同じだなぁと考える。
「しのぶこそお疲れ様。ごめんね色々心配かけて…」
「……やっぱり鬼……だったんですか?」
「………」
「微かに鬼の気配が逢魔くんに残ってました。…………鬼がいるならまた……」
「…………あれは鬼舞辻の呪いが外れた鬼だった。禰豆子さんのように日光を克服をした鬼だったよ」
半分は嘘。転生者であることは言えないししのぶからしたら荒唐無稽だ。
息を飲むしのぶ。
「でも、……倒したよ…多分あれが最後の生き残り。あんなレアケースがいたら大変だよ。多分。」
「…………それはよかった…ですけど私が怒っているのは別ですよ? 逢魔くん?」
はい、存じております。笑顔で怒っているときはマジギレしてるときだ。……更に怒ってるときは絶対零度の冷たい表情の時です。あの時は被虐の性癖に目覚めそうになりました。
「………貴方は昏睡から目覚めてからまだ半年しか経ってません。」
駄目だ。その顔はさせるつもりはなかった。だからやめてくれ。
泣きそうで悲しい顔は…させるつもりはなかった。だから
「…ごめん。……」
「私は貴方を失いたくありません。貴方無しでは生きられません。そうしたのは貴方ですよ?逢魔くん。…………無理や無茶はしないで下さい。」
真っ直ぐは見られない。弱くなった?俺は。
違う。…………立場が逆転しているのだ。こんなにもしのぶは俺を愛してくれている。
他の全てをかなぐり捨ててでも愛してくれている。
かつての俺のように。
だから。
「俺は……俺も失うのが怖いんだ。どうしようもない理不尽が
「…………貴女を失ってしまうのが怖い」
失ってしまう怖さ。それは常に付きまとう。
「……当たり前です。私達は人間なんですから。」
彼女のしなやかな手が俺の頬を撫でる。
「……死が二人を別つまで」
「いやだ…死すら。いやだ。」
「我が儘ですね。あの時の貴方はもっと真っ直ぐでしたよ…んぅ…んん…」
んちゅっと舌を入れてくるような情熱的な口づけで唇を奪われる。
「んんんっ!!!!?」
しのぶの突然のキスに目を見開く。舌を絡められ彼女の味がする。脳に直接刺激する甘美な衝撃。
「んはぁ…な、なにを!!?しのぶ!!?」
即堕ちしてしまう衝動に思わず一度離れる。
「貴方の強さに私は救われました。……だから貴方の弱さも下さい。私という存在をより深く刻ませて下さい逢魔くん………」
彼女の真剣な眼差しで此方を見てくる。彼女もいっぱいいっぱいで顔は真っ赤だ。
「しのぶは貴方に添い遂げると誓いました。貴方も誓ってくれましたね。…」
ああ。誓った。けれどもこの寂しさはどうしようもないんだ。
宵鷺逢魔の弱さじゃなく【××××】の弱さだから。
「…駄目です。下さい。貴方の弱さを私に下さい。」
しのぶは俺を押し倒し覆いかぶさる。小柄な身体に似つかわしくない力で押さえ込まれる。いや俺が弱くなったんかな。
「貴方は失いたくないからと無理をするでしょう。………夫婦なんですから分かち合い支え合い生きたいんです。」
あぁ……そうだな。貴女の気持ちをないがしろにしていたのかもしれない。
「健やかなときも病めるときも。」
「もし…………貴方が怖れる理不尽の時は一緒です。」
しのぶの衣服が緩み微かにはだけてく。微かにのぞく絹のような肌は扇情的で妖艶だった。
未だ少女のような風貌が抜けない彼女からは女性らしいフェロモンが俺の脳に直撃する。
「……そうだな。自分のことばかりだったな。しのぶ…俺のこの寂しさ埋めてくれるか?」
彼女の腰に手を回す。蝋燭の光だけに照らされた彼女の顔をまじまじ見る。相変わらず可愛い。
初めて出会った時もこうして見上げたっけ。まぁ覆いかぶさるじゃないけど。
「……はい。死ぬまで死んでも側にいます。…………だからもう無茶はしないで下さい。」
「ああ。程々に…な」
「もう。」
再び唇を重ねる。
このあと滅茶苦茶愛し合った。
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明朝。昨日宴会してた広間に皆集まっていた。
宇髄さんがニヤニヤしており他の宇髄嫁ズやら竈門夫婦などが気まずそうにしてた。
いやその…………いたこと思い出したの賢者モードの時で二人して悶絶して寝れませんでしたよ!!?皆爆睡して気付かない事にこれでもかってくらい祈りましたけど宇髄さんの表情で「あ、察し…」みたいになったわ!!
「……もうお嫁に行けない……」
としのぶは顔を真っ赤にして俯く。いやいやもう俺の嫁だからね!!?
子供達は爆睡しており気付いてないですよと雛鶴さんがフォローしてくれる。
「…第一子期待してるぜ?」
宇髄さんはニヤニヤしながらお茶を飲みからかってくる。
「…ははは」
はぁ。駄目だ。顔面から火が出るくらい恥ずかしすぎる。
「おーま。」
カナタが近付いてくる。ちょっと待って。
「どうした?」
軽く咳払いしてイヤに真面目な顔をしているカナタにつられて此方も姿勢を直す。
「きのうは、助けてくれてありがとう…なの。めいわくかけた…ごめんなさい。」
ぺこりと礼を言い謝るカナタ。
「…………そだな。カナヲたちに心配かけたしな。まぁどちらにしろ無事でよかった。…………カナヲに愛されてるって分かっただろう?もう8歳なんだ。お姉ちゃんらしくな。」
カナタの頭を撫でる。
「謝って自分が悪かったって認めるのは良いことだよ。うちの妹は頑なに謝らなかったしなぁ」
「…妹?」
「そ、妹。まぁ末っ子だから俺も甘やかしたからなぁあはは」
「仲良くなカナタ」
「うん!!あとおーま」
「うん?」
「弟子にして下さい。」
はい?
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穏やかな日々がただただ過ぎていく。
春は桜を見て酒を飲んでは飲み過ぎとしのぶにどやされる。
夏は花火がやっていて一緒に見に行った。
やや薄着になっているしのぶに目が行くがじと目で見られる。
水着の文化が早く浸透してくれ主に欧米の。
秋は紅葉が咲く。この時代でも食欲の秋とよく言ったものでやせ細った体型も徐々に戻りつつある。しのぶからは食べ過ぎと釘をさされる。
冬。
正直冬はすきではなかった。
夜明姉さんと夜深を思い出す。
………………失ったものだけ数えても仕方がないと思う。
一度も墓参りしてなかった事を思い出す。
寒空の中かつての村にいく。既に人の気配はなく廃村になっていた。
雪は積もりかつてと変わってしまった村を進む。
宵鷺道場。
「此処ですか?」
隣のしのぶは聞いてくる。そうだよと返事を返す。もう放置されて大分経っており廃屋と化していた。
【童磨】の襲撃からそのままのよう。
「…………大丈夫ですか?」
「ああ、大丈夫。しのぶもいるし。気持ちの整理はついてるさ」
道場の裏手に彼女らを埋めた簡易的なお墓があった。
「ただいま姉さん。夜深。…全部終わってから来るつもりだったけど遅くなっちゃったわごめん」
「初めましてしのぶと申します。……挨拶が遅くなりましたけど逢魔くんのお嫁さんやってます」
「逢魔くん、全部自分で背負っちゃうとこがあって大変です。……でも幸せにやってますから安心して下さい。」
としのぶは手を合わせる。俺も手を合わせる。
俺は幸せになって良いのだろうか。と未だに死んでしまった二人を前に何処かそう思ってしまう。
『馬鹿ね、……私達はいつもおうくんの幸せしか願ってないよ?むしろ幸せにならなかったら呪うわよ』
『幸せになっちゃえ、馬鹿兄貴…』
…そうだな、ごめん。俺の都合の良い幻覚だったとしても俺は此処で区切りを付けなくちゃいけない。
しのぶを幸せにするために。
ありがとう夜明姉さん。夜深。安心して休んでくれ。
俺は幸せだから。
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冬が終わり再び春が来た。
俺は道場兼寺子屋を開く事にした。
蝶屋敷の近くに使ってない建物があった。持ち主の人は高齢で管理が難しく管理を条件に使用許可を頂いた。
宵鷺剣術を教える道場兼寺子屋を開いた。
転生者前と後に培ったことを生かしつつ生活をしていく。
しのぶは身重だ。無理はさせられない。
薬屋もやりつつ寺子屋もしていこうと思う。
生徒第一号はカナタだった。宵鷺の剣に興味を持ったらしい。女の子に剣はと言っていたが元々剣士だったカナヲにやると効かないカナタを止める言葉は出てこなかったらしい。
カナタは思っていた以上に打ち込んでいた。
長続きするかなぁなんて思っていたが基礎の体力作りにも根を上げず付いてきている。
徐々に門下生や生徒が増え忙しくなってきた。
やりがいがあり楽しくなってきた。
賑やかな毎日は寂しさを感じさせず矢のように進んでいく。
「せんせ、もう少しだって。」
胴着姿のカナタがひょっこり顔を出す。
「そっか。ありがとう。カナタ。」
自室で書き物をしていた俺にカナタが声をかけてくる。
「そわそわしてるよせんせ。」
カナタは俺をせんせと呼ぶ。まだ慣れずむず痒い。
「仕方ないだろう。初の子どもだ。…立ち会うって言ったのにしのぶはやですと拒否されたんだよ」
「しのぶ様乙女だから恥ずかしいんだよー」
「乙女心とは難解だ」
廊下を進み出産を行っている部屋に行くと産声が聞こえた。え、きた!!?
「は、入って良いか」
どうぞという言葉と共に部屋に入ると出産を終え横になるしのぶと赤ん坊がいた。
「…女の子…ですよ。逢魔くん…」
疲れ切った顔で微笑むしのぶ。
「ああ、お疲れ様…しのぶ…抱きかかえて良いか?」
「どうぞ」
近くにいたカナヲの手を借り我が子を抱きかかえる。命の鼓動を感じる。
不確かだった実感が確かなものになる。
「…俺と貴女の子か…」
「ふふ、そうですよ……」
「名前……決めたんだけどいいかな?」
「そういえば決めるって言ってましたね……」
「女の子ならちょうどよかった。貴女の名前から貰って夜の関連の名前で『
夜明前の茜色に染まる空の意。
これからのこの子の人生がより明るいものになるように。
「素敵な名前で…よろしく東雲。」
「宜しくな。東雲。」
これからもいろいろなことがあるのかもしれない。
三人で乗り越えて行こう。
俺はもう寂しさを感じる事などないのだから。
『胡蝶の君へ』了
終わりです。
鬼滅は最高です。アニメも良いし最新話はぼろ泣きでした
鬼滅モノまた書きたいです。では。
追記
4月29日日間ランキング28位
まさかランキングにあるとはびっくりです
感謝です