さりげなく人類最強格が異世界から来るそうですよ?   作:我楽多零號

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第4話:なんか胡散臭いのが来た…。

 

 

 

 

 

 

「ジン坊ちゃーん!新しい方を連れてきましたよー!」

 

しばらく天幕に向かって森の中を進んでいると、箱庭の外壁と内側を繋ぐ入口に辿り着いた。そこにはジンと呼ばれる10歳前後の少年が佇んでいた。

 

「お帰り、黒ウサギ。そちらの女性二人が?」

 

「YES!こちらの皆様が………」

 

クルリ、と振り返る黒ウサギ。

カチン、と固まる黒ウサギ。

 

「………え、あれ?もう二人いませんでしたっけ?ちょっと目つきが悪くて、かなり口が悪くて、全身から“俺問題児!”ってオーラを放っている殿方と、……と、特徴らしい特徴がなくて………ええっと、顔がよく思い出せないです………と、とにかくとっても存在感が薄い殿方が」

 

「十六夜君なら“ちょっと世界の果てを見てくるぜ!”と言って駆け出して行ったわ」

 

あっちの方に、と指をさすのは上空から見えた断崖絶壁。呆然となった黒ウサギはウサミミを荒ぶらせて二人に問いただす。

 

「な、なんで止めてくれなかったんですか!」

 

「“止めてくれるなよ”と言われたから」

 

「どうして黒ウサギに教えてくれなかったのですか!?」

 

「“黒ウサギには言うなよ”と言われたから」

 

「嘘です、絶対嘘です!実は面倒くさかっただけでしょう御二人さん!」

 

「「うん」」

 

orzと言ったように前のめりに倒れる。

 

「因みに遠藤君は……」

 

と、付け足すように飛鳥が指を今度は別方向にさす。

 

「貴女のすぐ隣にいるわ」

 

黒ウサギの右横に。

 

「誰が特徴らしい特徴がなくて、存在感が薄いだ。いや、その通りだけども」

 

「うきゃァァァァァァァァ!!!???」

 

浩介の少し怒気を含んだ声が唐突に聞こえ、黒ウサギがビビクンッと震える。ついでにウサミミとウサシッポがピーンと逆立つ。

もっとついでに言うと、その隣にいたジンもビビクンッと震えていた。

 

ジンは我に返り叫んだ。

 

「大変です!“世界の果て”にはギフトゲームのため野放しにされている幻獣が」

 

「幻獣?」

 

「は、はい。ギフトを持った獣を指す言葉で、特に“世界の果て”付近には強力なギフトを持ったものがいます。出くわせば最後、とても人間では太刀打ち出来ません!」

 

ジンが必死で事の重大さを訴えていると、黒ウサギはため息を吐きつつ立ち上がった。

 

「はぁ……ジン坊ちゃん。申し訳ありませんが、御三人様のご案内をお願いしてもよろしいでしょうか?黒ウサギは問題児を捕まえに参ります」

 

そう言って艶のある黒い髪を淡い緋色に染めていく。

 

「“箱庭の貴族”と謳われるこのウサギを馬鹿にしたこと、骨の髄まで後悔させてやります」

 

全力で駆け出した黒ウサギは弾丸のように飛び去り、あっという間に四人の視界から消え去っていった。

その様子について飛鳥が代表で感想を呟く。

 

「箱庭の兎は随分速く跳べるのね。素直に感心するわ」

 

うん、うん。と頷く耀と浩介。

 

「ウサギ達は、箱庭の創始者の眷属。力もそうですが、様々なギフトの他に特殊な権限も持ち合わせた貴種です。彼女なら余程の幻獣と出くわさない限り大丈夫だと思うのですが……」

 

(トータスの兎人族(ハウリア)とはえらい違いだな)

 

きっと、ハウリア族を見たら黒ウサギは卒倒するに違いない。居た堪らないので黒ウサギとハウリアは絶対に合わせてはいけないと判断した浩介であった。

 

「紹介が遅れました。コミュニティのリーダーをしているジン=ラッセルです。さぁ、こちらへどうぞ。箱庭の中をご案内します」

 

ジンに連れられ、石造りの通路を通って箱庭の幕下に出る。

パッと頭上に眩しい光が降り注いだ。

 

「外から天幕の中に入った筈なのに、太陽が見えてる」

 

「あ、ホントだ。マジックミラーみたいだ」

 

「箱庭を覆う天幕は内側に入ると不可視になるんですよ。そもそもあの巨大な天幕は太陽の光を直接受けられない種族のために設置されていますから」

 

「あら、この都市には吸血鬼でも住んでいるのかしら?」

 

「え、居ますけど」

 

「……………そう」

 

(箱庭の吸血鬼は直接日光を浴びれないのか。やっぱ、異世界なだけあって同じ種族でも在り方が違うんだなぁ…)

 

複雑そうな飛鳥を尻目に浩介は、自分の知り合いである吸血姫様のことを思い出す。

 

「この箱庭には様々な種が住んでいます。それこそ、神仏、悪魔、精霊、獣人、人間。もっともこの東区画のこの付近では農耕地帯が多いので、住人達の気性も穏やかですけど」

 

ジンに箱庭の住人についての簡単な説明をされながら白く清潔感の漂う洒落た感じのカフェテラスの近辺まで歩いた。

 

「まだ召喚されたばかりで落ち着かないでしょう。詳しい話は軽く食事をとりながらでもいかがですか?」

 

ジンに促され、一行は身近にあった“六本傷”の旗を掲げるカフェテラスに座った。

 

(そういえば、今日はまだなにも 食べてなかったっけ? ………この世界にはサーモンサンドあるかな?)

 

注文を取るために店の奥から素早く猫耳の少女が飛び出してきた。

 

「いらっしゃいませー。御注文はどうしますか?」

 

「えーと、紅茶を三つと緑茶を一つ。あと軽食にコレとコレと…」

 

「サーモンサンド」

 

「はい」

 

サーモンサンド大好き浩介さん。メニューに載っていたのを見て歓喜した。

箱庭のサーモンサンドの味はいかがなものかと期待している浩介の隣で、ニャンニャンと三毛猫が鳴く。

 

「はいはーい。ティーセット四つにサーモンサンド、ネコマンマですね」

 

………ん?と飛鳥とジン、浩介が不可解そうに首を傾げる。しかしそれ以上に驚いているのは耀だった。

 

「三毛猫の言葉、わかるの?」

 

「そりゃわかりますよー。私は猫族なんですから」

 

『ねーちゃんも可愛い猫耳に鉤尻尾やな。今度機会があったら甘噛みしに行くわ』

 

「やだもーお客さんったらお上手なんだから♪」

 

………猫耳娘の言葉から、どうやら三毛猫は相当なやり手のようだ。

 

店内へと戻る猫耳娘の後ろ姿を見送った耀は嬉しそうに笑って三毛猫を撫でた。

 

「………箱庭ってすごいね、三毛猫。私以外に三毛猫の言葉がわかる人がいたよ」

 

『来てよかったなお嬢』

 

それを見ていた飛鳥とジンが耀に対して興味津々に質問攻めしだした。

曰く、生きているならどの動物とも会話できる模様。

 

(あらゆる生物と会話か…。そりゃ確かにスゲェな。帰還者(俺達)の“言語理解”は人語限定だし。“念話石”使えば多分会話できると思うけど互いにつける必要があるしなぁ)

 

「そう……春日部さんは素敵な力があるのね。羨ましいわ」

 

笑いかけられると、困ったように頭を搔く耀。

 

「久遠さんは」

 

「飛鳥でいいわ。よろしくね春日部さん」

 

「う、うん。飛鳥も同じ力……」

 

耀が言っているのは先程の鳥達のことだろう。

 

「ああ、違うのよ。あれはそういうんじゃないの」

 

飛鳥は憂鬱そうな声と表情で呟く。どうやら飛鳥は自分の力をあまり好ましく思っていないようだ。

その様子を見て、耀は話題転換も兼ねて浩介に話を振った。

 

「そういえば、遠藤はどんな力をもってるの?」

 

当の浩介はというと、女の子二人でガールズトークを展開して完全に蚊帳の外だろうなぁ、と話題を振られると思っていなかったようで、少しバツが悪そうな表情(かお)をしている。

ついでに飛鳥にはさん付けなのにこちらは呼び捨てかと扱いの差に若干ショックを受けたようで、最近自分のことを呼び捨てするようになった某魔王の娘が素敵にサムズアップする姿を幻視した。

 

耀があげた話題に飛鳥も食いついた。

 

「それは私も気になるわね。私達の中で唯一貴方だけがまだ片鱗すら見せていないのではなくて?」

 

「あー、まぁ、他人に見せるもんでもないし…」

 

注目する三人に対し、浩介は茶を濁す。その代わり嘘は言っていない。ただ、訂正する部分があるとすれば、「見せるものではない」のではなく、「見せたくない」の方が正確だ。もし見られでもしたら、とても正気でいられる自信がない。間違いなく、自分の殻に閉じこもるだろう。

もちろんそんな曖昧な説明では到底納得できない問題児二人。

二人が詳細を尋ねようとしたその時、

 

「おんやぁ? 誰かと思えば東区画の最底辺コミュ“名無しの権兵衛”のリーダー、ジン君じゃないですか」

 

「ガルド……」

 

品のない上品ぶった声がジンを呼ぶ。振り返ると2mを超える巨体をピチピチのタキシードで包む変な男がいた。

 

「……どなたかしら?」

 

「初めまして、お嬢様方。私はコミュニティ“フォレス・ガロ”のリーダー、ガルド=ガスパー。以後お見知り置きを」

 

(うわぁ……なんか絵に書いたような胡散臭そうな奴が出てきた…)

 

しかも、ガルドはお嬢様方と言った。当然、浩介のことは含まれていない。

 

「貴方の同席を認めた覚えはありませんよ。ガルド=ガスパー」

 

「黙れ、この名無しめ。聞けば新しい人材を呼び寄せたらしいじゃないか。コミュニティの誇りである名と旗印を奪われてよくも未練がましくコミュニティを存続させるなどできたものだ。そうは思わないかい、お嬢様方」

 

飛鳥と耀に愛想笑いを向けるが、その失礼な態度に二人は冷ややかな態度で返す。

 

「事情はよくわからないけど、あなた達二人の仲が悪いことは承知したわ。それを踏まえて質問したいのだけど」

 

飛鳥はガルドではなく、ジンに向けて鋭く睨む。

 

「ねぇ、ジン君。ガルドさんが指摘している、私達のコミュニティが置かれている状況……というものを説明していただける?」

 

「そ、それは」

 

ジンは言葉に詰まる。飛鳥はその動揺を逃さず畳み掛ける。

 

「貴方は自分のことをコミュニティのリーダーと名乗ったわ。なら黒ウサギと同様に、新たな同士として呼び出した私達にコミュニティとはどういうものかを説明する義務があるはずよ。違うかしら?」

 

追求する声は静か、されどナイフのような切れ味でジンを責める。

それを見ていたガルドは、含みのある笑顔と上品ぶった声音で、

 

「レディ、貴女の言う通りだ。コミュニティの長として新たな同士に箱庭の世界のルールを教えるのは当然の義務。しかし彼はそれをしたがらないでしょう。よろしければ“フォレス・ガロ”のリーダーであるこの私が、コミュニティの重要性とジン=ラッセル率いる“ノーネーム”のコミュニティを客観的に説明させていただきますが」

 

飛鳥は訝しげな顔でジンを見るが、ジンは俯いて黙ったままだ。

仕方なくガルドに説明を委ねた。

 

曰く、コミュニティとは複数名で作られる組織の総称。

 

曰く、コミュニティとして活動するには“名”と“旗印”を申告しなければならない。

 

曰く、ジン達のコミュニティは東区画最大手にして最強のコミュニティだった。

 

曰く、しかしそのコミュニティは滅ぼされ、“名”と“旗印”を奪われた。箱庭最大にして最悪の天災、“魔王”によって。

 

「魔王?」

 

魔王というワードにピクリと反応する浩介。なにせ、彼は異界の存在であるうえ、ただの呼称にすぎない、しかしその実力は魔王と呼ばれるに相応しい男の右腕なのだから。

飛鳥や耀も浩介ほどではないもののそれなりに馴染みのある単語に眉を顰める。

 

「“魔王”にギフトゲームを挑まれれば最後。誰も断ることはできません」

 

“魔王”とは、主催者権限(ホストマスター)という特権階級を有する修羅神仏のこと。無論その力はそれぞれ差異あれど強大であることに変わりはない。

 

ガルドはコミュニティと“魔王”について一通り説明すると不愉快な笑みを浮かべた。さも、ここからが重要とでも言いたげだ。

 

「名も、旗も、主力陣の全てを失なった時、もしも新たなコミュニティを結成していたなら、前コミュニティは有終の美を飾っていたんでしょうがね。今や名誉も誇りも失墜した名もなきコミュニティの一つでしかありません」

 

「……………」

 

「名もなき組織など信用されませんし、優秀な人材が、名誉も誇りも失墜させたコミュニティに集まるでしょうか?」

 

「そうね。誰も加入したいとは思わないでしょう」

 

「そう。彼は出来もしない夢を掲げて過去の栄華に縋る恥知らずな亡霊でしかないのですよ」

 

品のない、豪快な笑顔でジンとコミュニティを笑うガルド。

ジンは顔を真っ赤にして両手を膝の上で握りしめていた。

 

「もっと、言えばですね。彼はコミュニティのリーダーとは名ばかりで殆どリーダーとして活動はしていません。コミュニティの再建を掲げていますが、その実態は黒ウサギにコミュニティを支えてもらうだけの寄生虫」

 

「……………っ」

 

「私は黒ウサギが不憫でなりません。ウサギと言えば“箱庭の貴族”と呼ばれるほど強力なギフトの数々を持ち、何処のコミュニティでも破格の待遇で愛でられるはず。コミュニティにとってウサギを所有しているのはそれだけで大きな“箔”が付く」

 

「………そう。事情はわかったわ。それでガルドさんは、どうして私達にそんな話を丁寧に話してくれるのかしら?」

 

飛鳥は含みのある声で問う。ガルドもそれを察して笑う。

 

「単刀直入に言います。もしよろしければ黒ウサギ共々、私のコミュニティに来ませんか? 私のコミュニティは旗印を賭けたギフトゲームに連戦連勝。今やこの地域を治める程になりました。ジン=ラッセルの“ノーネーム”と比べどちらが裕福かなど、考えるまでもないでしょう?」

 

「な、何を言い出すんですガルド=ガスパー!?」

 

ジンは怒りのあまりテーブルを叩いて抗議する。

しかしガルドは獰猛な瞳でジンを睨み返す。

 

「黙れ、ジン=ラッセル。そもそもテメェが名と旗印を新しく改めていれば最低限の人材はコミュニティに残っていたはずだろうが。それを貴様の我儘でコミュニティを追いこんでおきながら、どの顔で異世界から人材を呼び出した」

 

「そ………それは」

 

「何も知らない相手なら騙しとおせるとでも思ったか?その結果、黒ウサギと同じ苦労を背負わせるってんなら…こっちも箱庭の住人として通さなきゃならねぇ仁義があるぜ」

 

獣に似た鋭利な瞳に貫かれて、ジンは僅かに怯む。

その間にガルドは再度彼女達に勧誘しようとする。

 

そこで、不意に声が上がった。

 

「仁義って言葉、辞書で調べ直した方がいいんじゃね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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