さりげなく人類最強格が異世界から来るそうですよ? 作:我楽多零號
社畜となり、早半年。色々と忙しく投稿できませんでした。
これからは徐々にペースと取り戻したいところですが、調子の波が激しく、この先も長々と待たせることがあるかもしれません。
ご迷惑をおかけして申し訳ありません。
どこか場にそぐわない、飄々とした声音。大して張り上げたわけでもないのに、やけに明瞭に響き渡る。その主は、今まで静聴していた浩介だった。
「……なんですか貴方は? 藪から棒に…。私は今そこのお嬢様方と大事な話をしているのです。突然会話に横槍をいれておいてその言い回し、失礼ではありませんか?」
突然、意気揚々と勧誘をしているところを邪魔され少し不機嫌そうな様子で浩介を睨むガルド。
しかしながら、的外れなことを言う彼に、浩介は、はぁ…。と、ため息を吐いた。
「いやいや。藪から棒じゃなくて最初から俺居たから。むしろ四人で会話してるところに横槍入れてきたのお前だから」
「……なに?」
ガルドが飛鳥、耀に、え?そうなの?的な顔を向けると、二人は肯定という意味合いで肩を竦めた。
どうやらガルドさん、今の今まで浩介の存在に気づいていなかったらしい。
今度はガルドが浩介に胡乱な眼差しで睨まれることとなった。
「……ゴホン。失礼、ジェントル。しかし先程の言葉はどういう意味です?」
誤魔化しの咳払いをしつつ、しかし先の言い回しにしろ、態度にしろ浩介のことが気に食わないのか、先の発言について食ってかかった。
というわけで、浩介は遠慮なく語ることにした。
「お前みたいな小物感満載なヤツが仁義なんて大層な言葉使う必要ないって言ったんだよ」
「んだと!?」
額に青筋を浮かべるガルドを無視し、浩介は話を続けた。
「まず、他人の不幸を嬉嬉として語ることが既に小物の所業だろ? それに、競い合う間柄とはいえ、子供相手によくもまぁ、あんな嫌な言い回しができるもんだ」
浩介の呆れた様子にますます苛立つガルドだったが、ここはぐっと我慢。
「……しかしジェントル。先程も申しましたが、そこのジン=ラッセルは、皆様方を謀ろうと……」
「みたいだな。………で?」
「で、って…」
「そんなことお前の口から語られるまでもなくすぐに明るみに出ることだろ。無論、褒められたことじゃないだろうけど、それでも、仲間の為にやったことだろ? コミュニティを復興したいって純粋な想いからやったことだろ? ……なら、俺は“有り”だと思うぜ?」
にっ、と笑いながら驚いた様子のジンの頭をくしゃくしゃと撫でる浩介。
そんな光景を瞳に写す飛鳥と耀。
ほんの数時間の付き合いだが、ほとんど影が薄かったり、項垂れたり、困ったような笑みを浮かべたりなど、お世辞にも好印象とは言えなかった浩介が、こういった笑い方をするのは少し意外であった。
ジンの愚行を賞賛しているように見える浩介にガルドは嘲笑うように指摘する。
「……わかっていませんね…。名と旗印を奪われたコミュニティの復興というのが、どれほど困難な道か…。こんな夢物語を語ること自体がそもそも間違いなのですよ。ましてや……」
「それは、お前が決めることじゃないだろ?」
浩介は、泰然とした声音でガルドの論理を制した。
「ジンがコミュニティを復興する道を選ぶのも、黒ウサギがコミュニティを支え続けるのも、俺達がどのコミュニティに行くのも、すべてにおいて、お前が決めることじゃない。“自分で決める。そして行動する”。それだけのことだ。間違ってなんかないんだよ」
“自分で決める。そして行動する”
当たり前なことだ。でも、そんな当たり前なことを本当の意味で遂行できるものは、果たしてどれほどいるだろうか?
世論に、常識に、理屈に囚われて自分自信に不可能という壁を作ってはいないだろうか?
浩介は、そんな壁をぶち壊して、全ての理不尽に抗ってみせた男を知っている。
その男から教わったのだ。
抗うことの大切さを。そして、その先にある可能性を……!
「必要なら、俺は手を貸すぞジン=ラッセル」
「……え? ……ほ、本当ですか!?」
騙そうとした挙句、自らのコミュニティに入るメリットがほぼ皆無にも関わらず、手を貸すと言われたことに心底驚いたジンは歓喜を含めた声を上げた。
「とはいえ、俺にも俺が選んだ道がある。いつまでもってわけにはいかない。あんなこと言っておいて悪いけど」
「い、いえ、とんでもありません!!」
「……」
自分があれだけ落してやったものを、あっさりと流し、“ノーネーム”加入を了承する浩介を見て、小さく舌打ちをするガルド。
ガルド的に、野郎が弱小に流れたところでどうでもいいが、“ノーネーム”を蹴落とす為に“フォレス・ガロ”の武勇伝を語ったことが仇となり、なんとも勧誘を蹴られ、“
ならばと少女二人に話を振ると、答えはーー。
「結構よ。だってジン君のコミュニティで私は間に合っているもの」
は? とジンとガルドは飛鳥の顔を窺う。
彼女は何事もなかったかのようにティーカップの紅茶を飲み干すと、耀に笑顔で話しかける。
「春日部さんは今の話をどう思う?」
「別に、どっちでも。私はこの世界に友達を作りに来ただけだから」
「あら意外。じゃあ私が友達一号に立候補していいかしら? 私達って正反対だけど、意外に仲良くやっていけそうな気がするの」
口にしときながら気恥しそうな飛鳥に対し、耀は無言でしばし考えた後、小さく笑って頷いた。
「……うん。飛鳥は私の知る女の子とちょっと違うから大丈夫かも」
『良かったなお嬢……お嬢に友達ができてワシも嬉しいわ』
「女の子の友情って、喜ばしいよなぁ…」
ホロリと泣く三毛猫。
またも蚊帳の外かと思いながらも、つい最近、ガールフレンド(本人は嫁になりたいと思っている)に友達ができたことで嬉しく思ったことを思い出し温かな目をする浩介。
そして、リーダー達をそっちのけで盛り上がる二人。
ガルドは全く相手にされなかったことに顔をひきつられ、それでも取り繕う様に大きく咳払いして二人に問う。
「失礼ですが、理由を教えてもらっても?」
「だから、間に合ってるのよ。私、久遠飛鳥は、裕福だった家も、約束された将来も、おおよそ人が望みうる人生の全てを支払って、この箱庭に来たのよ。それを小さな一地域を支配しているだけの組織の末端として迎え入れてやる、などと慇懃無礼に言われて魅力的に感じるとでも思ったのかしら。だとしたら自身の身の丈を知った上で出直して欲しいものね、この、エセ虎紳士」
ピシャリと言い切る。
ガルドは怒りで体を震わせたが、自称紳士として言葉を必死に選ぶ。
「お、お言葉ですがレデ」
「
ガチン!とガルドは不自然な形で、勢いよく口を閉じて黙り込んだ。
「………!? ……………!?」
「実は私、少し気になっていることがあるの。貴方は
飛鳥の言葉に力が宿り、今度は椅子にヒビが入るほど勢いよく座り込む。
突然尋問を始めた飛鳥に浩介は特に驚くような様子もなく、話しかけた。
「あ、やっぱり気づいてた?」
「当然でしょ?」
先んじて話してしまうと手を打たれかねないと思って伏せていたが、浩介がガルドになびかなかった最大の理由がそこにはあった。
ガルドは大きな墓穴を掘ったのだ。自分達を大きく見せるのに夢中で。
まず、魔王でないガルドが名と旗印をかけるギフトゲームを何度も続けるのは負けた場合のリスクと照らし合わせれば、現実的にほぼ不可能だ。
こんな矛盾、冷静に話を聞いていれば誰でも判る。
ガルドの頭の悪さと幼稚さが明るみになる。突き詰めれば、“リーダーの器”なんかじゃないことが嫌でもわかる。
そんなリーダーに人が付いてくるだろうか?周りが余程のろくでなしでない限り答えは否だ。
となれば、如何にして団員をまとめているのか……想像に難くない。
ただ、現実はいつだって想像よりもクソッタレだ。
「……………………は?」
ガルドの発言に、その場の空気が凍りついた。
ジンも、耀も、飛鳥も、浩介でさえ、一瞬耳を疑って思考を停止させた。
ガルドは女子供を人質ととることで相手にコミュニティを賭けたギフトゲームを強制した。
……そして、その人質は、すでにガルド達の手によって殺されていた。
「初めてガキ共を連れてきた日、泣き声が頭にきて思わず殺した。それ以降は自重しようと思ったが、父が恋しい母が愛しいと泣くのでやっぱりイライラして殺した。それ以降連れてきたガキは全部まとめてその日のうちに始末することにした。だが、身内のコミュニティの人間を殺せば組織に亀裂が入る。始末したガキの遺体は証拠が残らないように腹心の部下が食」
「
ガチン!!とガルドの口が先程以上に勢いよく閉ざされた。
「素晴らしいわ。ここまで絵に描いたような外道とはそうそう出会えなくてよ。流石は人外魔境の箱庭の世界といったところかしら…….ねぇジン君?」
「彼のような悪党は箱庭でもそうそういません」
「そう?それはそれで残念。ところで、今の証言で箱庭の法がこの外道を裁くことはできるかしら?」
「厳しいです。吸収したコミュニティから人質をとったり、身内の仲間を殺すのは勿論違法ですが、裁かれるまでに彼が箱庭の外に逃げられてしまえば、それまでです」
「そう、なら仕方ないわ」
苛立たしげに指をパチンと鳴らす。ガルドを縛り付けていた力が霧散し、体に自由が戻る。怒り狂ったガルドはカフェテラスのテーブルを砕くと、
「こ………この小娘がァァァァァァ!!」
雄叫びとともにその体を激変させた。
体毛が変色し、黒と黄色のストライプ模様が浮かび上がる。その様はまさにワータイガー。
「テメェ、どういうつもりか知らねぇが………俺の上に誰が居るかわかってんだろうなぁ!? 箱庭第六六六外門を守る魔王が俺の後見人だぞ!!俺に喧嘩を売るってことはその魔王にも喧嘩を売るってことだ!その意味がーー」
「
ガチンとまた勢いよく黙る。
しかし今の怒りはそれだけでは止まらない。ガルドは丸太のように太い剛腕を振り上げて飛鳥に襲いかかる。
それに割って入るように耀が腕を伸ばした。
「喧嘩はダメ」
耀が腕を掴む。お世辞にもガルドのような剛腕とはいえない華奢な腕でガルドの拳を止めたのだ。
それはガルドに更なる屈辱を与えた。
「………………っっっ!!」
怒りが臨界点を突破しているせいか、もはや我武者羅にもう片方の腕を耀に向かって振り抜いた。ーーーーということはなかった。
「………ふっ、女子供相手に穢らわしい罵声と暴力を振るうとは…。自称紳士が聞いて呆れる。この程度の輩に葬られたとあらば、死した者達の魂も浮かばれんというもの」
「っ……」
犯人は浩介だ。ガルドがもう片方の腕を振り上げた瞬間、その腕を掴み後ろに押さえつけたのだ。ついでにガルドの重心を支配し、身動きを取れなくしている。
飛鳥も耀もジンも少し戸惑った様子。
しかしそれは、浩介がガルドを押さえつけたことが原因ではなかった。
その原因は浩介の様子だ。
普段の浩介より、声のトーンが低いし、喋り方も変だし。
そしてなにより、ガルドの動きを制しているおり、空いている片手の中指でどこから取り出したのかワンレンズタイプのサングラスを押さえ、妙なポーズを極めている!
「…………遠藤……君?」
敵を拘束しながらも香ばしいポーズをとる浩介に三人は戸惑いを隠せない。
戸惑いつつも声をかけた飛鳥に浩介は反応する。
「久遠、そしてジン。俺もこの救いようのない外道を裁くことに賛成だ。とはいえ、あくまで決定権はそちらにあると心得ている。ならば、どうする?」
「…………」
そんな浩介を見て飛鳥と耀は小さく笑みを零した。
なぜ変な口調なのか、なぜ変なポーズをとっているのか。聞いてやりたいことはあるがこの際放っておく。
浩介のサングラスの奥から覗かせる眼から伝わる確固たる自信と意志。
少し頼りないとすら思っていた男から、この先どのようなことが待っていようとも打破してみせようという自信と意志が見て取れたからだ。
飛鳥は楽しそうに笑いながらガルドを見やった。
「さて、ガルドさん。私は貴方の上に誰がいようと気にしません。それはきっとジン君も同じでしょう。だって彼の最終目標は、コミュニティを潰した“打倒魔王”だもの」
その言葉にジンは大きく息を呑む。内心、魔王の名が出た時は恐怖に負けそうになった。
しかし、それ以上にジンの中にある言葉が木霊のように残っていた。そう、言ってくれたのだ。ジン達がとった本来無礼極まりない行動は、“有り”なのだと。ジンが選んだ
その言葉が、ジンを後押しした。
「………はい。僕達の最終目標は、魔王を倒して僕らの誇りと仲間達を取り戻すこと。今さらそんな脅しには屈しません」
ジンの揺るぎない言葉に、浩介は賞賛とばかりに「ふっ」をする。
「そういうこと。つまり貴方には破滅以外のどんな道も残されていないのよ」
「く、くそ………!」
飛鳥は機嫌を少し取り戻し、悪戯っぽい笑顔で話を切り出す。
「だけどね。私は貴方のコミュニティが瓦解する程度では満足できないの。貴方のような外道はズタボロになって己の罪を後悔しながら罰せられるべきよ。そこでみんなに提案なのだけれど」
ジンは首を傾げる。耀と浩介は飛鳥のしたいことがおおよそ検討がついているので静かに清聴する。
飛鳥は女性らしい細長い綺麗な指先でガルドの顎を掴み、
「私達と『ギフトゲーム』をしましょう。貴方の“フォレス・ガロ”存続と“ノーネーム”の誇りと魂を賭けて、ね」
ガルドは飛鳥の提案を呑むしかなく、青ざめた表情で帰っていった。
その様を見送り、ガルドの姿が完全に見えなくなった途端、浩介は、無言で、しかし、誰が見ても分かるほど死に切った瞳で、さっと踵を返すと、ふらふら、よたよたと歩き出し、やがて店の壁の隙間に身を寄せて小っちゃくなった。
何事かと目を丸くしている三人の前で、浩介は膝に顔を埋めると小さく、しかし、はっきりと呟いた。
「とうとうやってもうた……」