盾しか装備できない?わたしは一向にかまわんッッ   作:タコス13

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厄災

翌日までに出来うる限りの準備を行った烈達。

 

視界には『00:17』と表示され、後17分で初めての波が来る。

 

城下町では騎士団も準備を終えて、住人も家へと避難していた。

 

「...........」

 

腰に携える剣を握り締めながら、神妙な面持ちのラフタリア。

 

「緊張するか?」

 

「はい、私の武術が通用しなかったら、皆を守れなかったら......そう考えてしまいます。」

 

烈の問い掛けに、思い悩む様な表情で返すラフタリア。

 

「わたしだってそうだ。だが、我々に出来るのは死力を尽くす事のみ。そうすれば結果がどうであれ、悔いは残らないはずだ。」

 

「......そうですね、全力を出す事だけ考えます。」

 

烈の言葉を聞き、深呼吸をして緊張を解すラフタリア。

 

「波の前に、私の過去の話を聞いて下さいますか?」

 

「ああ、構わない。そういえば君の過去の話は聞いた事は無かったな。」

 

あまり詮索するのも良くは無いだろうと、敢えて聞かなかった烈。

 

「私は、最初の波により奴隷になりました。」

 

「そうか......」

 

烈はラフタリアの話に真剣に耳を傾ける。

 

「私はこの国の辺境、海のある街から少し離れた農村部にある亜人の村で育ちました。……この国ですから裕福とは言えませんでしたけど。」

 

『1ヶ月前 亜人の村』

 

「この豆のスープ、ラフタリアも一緒に作ったんだって?こりゃ将来コックさんにもなれるかも知れないなぁ!」

 

「もう、あなたったら......うふふ。」

 

お父さんとお母さんは優しくて、村の皆とも仲良く平和に暮らしていました。

 

「なんだ、あの空は!?」

 

「まずい!!魔物が溢れ出て来るぞ!!皆逃げろ!!」

 

そんなある日、突如訪れた波から骸骨の魔物が大量に溢れ出て来たんです。

 

「おい!こっちからも来るぞ!!応援を頼む!」

 

「分かった!俺がそっちに入る!」

 

それでも、骸骨の魔物は数こそ多くはありましたが、近隣の冒険者さん達が協力して対処出来ていました。

 

「くそ!今度は野獣に虫だと!?」

 

「ダメだ!!数が多過ぎる!!撤退、撤退だ!!」

 

しかし、骸骨の魔物の他に獣の魔物や巨大な昆虫の魔物も溢れ出て来て、次第に防衛線は崩壊していきました。

 

「な、なんだあの犬の化け物は!?......ぎゃぁぁぁ!?」

 

「ま、待って......に、逃げ......きゃあぁぁぁぁ!!!」

 

さらに、3つ首の巨大な犬の魔物が猛威を奮って、村の人達はまるで草木の様に呆気なく殺されていきました。

 

私達も村の皆も必死で逃げ回りましたが、魔物はまるで遊びでもしている様に次々と殺していき、私達家族も逃げ切れず崖に追い詰められました。

 

お父さんとお母さんは後ろから来る魔物を見遣り、それから顔を見合わせると私に微笑みかけました。

 

そして私の頭を優しく撫でてくれて......幼かった私にも、自分達を犠牲にして助けようとしているのが分かりました。

 

「ラフタリア……これから、お前はきっと大変な状況になると思う。もしかしたら死んでしまうかもしれない。」

 

「でもね、ラフタリア......それでも私達は、アナタに生きていて貰いたいの……だから、私達のワガママを許して!」

 

「いやぁ! お父さん! お母さん!」

 

気が付くと、私はお母さんに崖から突き落とされていました。

 

不思議な事に落ちている間、私の目には全てがゆっくりと見えたんです......お父さんとお母さんが、あの魔物に襲われる瞬間も。

 

私は海に落ちた衝撃で気を失ってしまったのですが、運良く近付くの浜辺に流れ着いていました。

 

全身が痛かったですが、身体に鞭打ってあの崖を確認しに行きました。

 

お父さんとお母さんが生きてるかもしれない......そんな奇跡を信じて。

 

しかし、いざ崖に行ってみると......夥しい血と、辛うじて肉片と分かるそれがあり、希望は絶望に変わりました。

 

「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 

私は日が暮れるまでずっと泣き叫びました。

 

そして、途方に暮れながら村へと歩いて行くと......私の他にも生き残りが居たんです。

 

「これから、どうしたら良いんだ......」

 

「お父さん......お母さん......」

 

生き残った皆は、それぞれが悲嘆にくれ絶望していました。

 

それを見た時、私はお父さんとお母さんの言葉を思い出しました。

 

((ラフタリア、悲しい時や苦しい時こそ笑うんだ。泣いていても始まらないだろう?笑っていれば必ず良い事があるんだ。))

 

((ラフタリア、貴女は本当に元気で優しい子......皆が困っている時は貴女が先頭に立って助けてあげなさい。大丈夫、貴女は強いからきっと出来るわよ。))

 

私は涙を吹いて、笑顔を作りました。

 

「ねぇ、皆聞いて!!泣いていても、何も出来ないよ?大切な人は死んじゃったけど......それでも......だからこそ!強く生きよう!!」

 

私は皆に精一杯大きな声で呼び掛けました。

 

「でも......強く生きるったって......村が......」

 

「今すぐは無理かもしれないけど......私達皆で力を合わせて、元に戻そうよ!諦めなければ、きっと出来るよ!!」

 

私は精一杯の笑顔で、皆に呼び掛けました。

 

「......そうだよ。ラフタリアちゃんの言う通りだ!皆、頑張ろうよ!!」

 

「そうだな......そうなんだよ!俺達はきっと出来る!!村を復興させよう!!」

 

皆が元気を取り戻して行く姿に、私はとても嬉しくなりました。

 

でも、その時です......騎士団が来て私達は皆、捕まってしまいました。

 

『現在』

 

「そこからは、地獄でした......毎日の様に鞭でいたぶられ、病気を患ったら売られて......笑い方も忘れて、絶望に食い潰されそうになった時、師父様に助けられました。」

 

「...........」

 

ラフタリアの話を黙って真剣に聞く烈。

 

「私は、師父様に出会えて本当に幸せです。だから、私は波に打ち勝って私の様な子供を、1人でも救う......それが、今の私の目標です。」

 

「素晴らしい目標だな。わたしにどこまで導けるかは分からないが......死ぬまでは面倒を見てやる。......そう簡単に死ぬ気はないがな。」

 

真剣に返して、最後にニカッと笑みを浮かべる烈。

 

「さて......来るぞッッ。」

 

カウントが『00:00』を示すと、世界中に響くが如く何かがひび割れる様な音が木霊する。

 

次の瞬間には景色が変わり、空には至る所に亀裂が入り、ワインの様な不気味な色に染まっている。

 

烈達は辺りを見回して、現在地の確認を行う。

 

「城下町の外だな......リユート村の近辺か!避難はどうなっている!?」

 

「波は何処で発生するか予測出来ないらしく、殆ど進んでないと思います!!」

 

「村へ急ぐぞ!!」

 

状況確認後、すぐさま駆け出す烈と、後に続くラフタリア。

 

「あ!師父様!!」

 

ラフタリアが走りながら指差す方向には、他の勇者達が別方向に駆け出してるのが見えた。

 

「放っておけ!」

 

「良いんですか!?」

 

「奴等は波の事も知っている!止める方法も知っているはずだ!」

 

烈は確認している時間は無いと、短くそう伝える。

 

その直後に、信号弾らしき物が上がり、おそらくは騎士団への連絡だと烈は考えた。

 

そうこうしている内にリユート村に着くと、駐屯していたと思われる騎士と冒険者が必死に魔物を抑えていた。

 

「ラフタリア!君は村人の避難を頼む!」

 

「分かりました!師父様もご武運を!」

 

短く言葉を交わすと、ラフタリアは村の中へと駆け出していく。

 

「はいぃぃやぁぁぁ〜〜ッッ!!」

 

烈は魔物が群がる方向へ駆け出し、虫型の魔物に勢いを付けて打ち込みをすると、目を見張る様な連撃で次々と魔物を倒し、止めを刺す。

 

「ゆ、勇者様......?」

 

「御苦労!君達は1度下がり、態勢を整えてからもう一度戻って来い!」

 

疲労困憊の男達を短く労うと、そう指示を出す烈。

 

これ幸いにと、怪我を負っていない者も下がるが気にしない。

 

「さぁ、来い魔物共ッッ!!」

 

未だに溢れ出し続ける魔物達に突っ込んでいく烈。

 

そこからの猛攻はまさに蹂躙といった様だった。

 

この闘いは一対一戦(タイマン)ではなく、対多数戦だ。

 

相手1人の場合と違い、多人数が相手の場合四方からの攻撃に注意しなければならない。

 

その条件が、烈にある行動を選ばせた。

 

すなわち、魔物の鈍器化である。

 

闘いの場においての、その卓越した技術に目が行きがちだが、烈の修行により培われた肉体を忘れてはならない。

 

その極限にまで鍛え上げられた肉体にはどれ程の力があるのだろうか。

 

一撃を入れた人型の魔物の足を掴むと、そのまま横凪に、他の魔物を叩き潰す。

 

「これは武器とは見なさないのだな?伝説の盾よ。」

 

ニヤリと笑みを浮かべると、魔物を鈍器に使いながら、懐に入ってきた魔物は自らの拳足で叩き伏せる。

 

「た、助け―――」

 

後方から、叫び声が聞こえてくる。

 

どうやら、世話になっていた宿屋の主人のものらしい。

 

烈は臨戦態勢を取るも、すぐ様それを解いた。

 

「はいやぁ!」

 

何故なら、避難を担当するラフタリアが襲い掛かる魔物を剣で斬り伏せたからだ。

 

「大丈夫ですか?さぁ、こちらへ!」

 

「あ、ありがとう......」

 

腰が抜けた主人が立ち上がると、家族と一緒に逃げて行く。

 

「きゃああああああああああああああああ!」

 

絹を割くような悲鳴が木霊する。

 

見ると、逃げ遅れたであろう女性の下に魔物が群れを成して近づいている。

 

「墳ッッ!!!」

 

烈は、手に持った魔物を投げ付けて第一波を凌ぎ、すぐ様間合いを詰めると、残る魔物を撃滅していく。

 

さらに進んだ先の開けた場所で戦っていると、頭上から火の雨が降り注ぐ。

 

「甘いッッ!!」

 

烈は最小限の動きで、それ等を躱し切ると飛んで来た方向を見遣る。

 

どうやら、到着した騎士団が魔法を放った様だ。

 

魔物の群れの中に、烈がいることもお構い無しに。

 

「......それなりに、効果はあるようだな。」

 

周りを見渡すと、虫型の魔物は瞬く間に焼き殺されていた。

 

「ふん、盾の勇者か……頑丈な奴だな。」

 

誤射ではなく、明確に烈を狙い、魔法を放った様だ。

 

「師父様、大方の避難は終わりました!」

 

「良い仕事ぶりだ、早かったな。」

 

「ある程度の準備はしていた様です。それより大丈夫でしたか?魔法攻撃を受けていた様ですが......」

 

「そうだったか?何やらにわか雨が降ったが、幸い濡れずに済んだ。」

 

馬鹿にする様な笑みを浮かべてそう答える烈を見て、顔を赤くしていた。

 

「き、貴様!盾の分際で!!」

 

「師父様への無礼は許しませんよ?」

 

殺気を込めて、ラフタリアが言い放つ。

 

「盾の勇者の仲間か?」

 

「私は、師父様、もとい烈海王様の弟子、ラフタリア小龍です。師父様への攻撃、見過ごす事は出来ません。」

 

「……亜人風情が騎士団に逆らうとでも言うつもりか?」

 

「護るべき民を蔑ろにして、仲間もろとも魔法で焼き払う輩を許しては置けませんね。」

 

「五体満足なのだから良いじゃないか。」

 

「あなた方の様な輩は騎士団とは言いません。賊と言うんです。」

 

騎士団と一戦交えかねない態度で詰め寄るラフタリア。

 

「よせッッ!!」

 

「ッ!失礼しました!」

 

烈が一喝すると、ラフタリアは素直にそれに従う。

 

「下らん連中に、時間を浪費するな。」

 

「な、貴様―――」

 

「敵は魔物で、護るべきは民だろう。国を滅ぼしたいのか?」

 

団長の言葉を遮り、そう言い放つ烈。

 

「犯罪者の勇者が何をほざく!」

 

「ならば、貴様らだけでここの魔物を相手取るか?」

 

先程の魔法を生き延びた魔物達が襲いかかって来る。

 

その全てを、己の五体のみで屠っていく烈に、恐怖を覚える騎士団。

 

「ラフタリア、もう一度確認してきてくれ。万が一にも、逃げ遅れていたら大変だ。」

 

「はい!師父様の方は?」

 

「引き続き、こいつらの相手をしている。」

 

わらわらと防衛線から這い出てくる魔物に構えを取り見据える烈。

 

「終わり次第、戻ってきます!」

 

「ああ、気を付けるんだぞ!」

 

そこから、また、烈の猛攻が再開した。

 

暫くしてから戻ってきたラフタリアと、騎士団と共に烈は掃討戦を繰り広げた。

 

烈が先頭に立ち、魔物を屠り、逃れた魔物をラフタリアが斬り伏せ、騎士団達が広範囲に魔物が散らばらない様に魔法で壁を作る。

 

そうやって役割分担を果たしながら、数時間後に空の亀裂は閉じて、厄災の波は終わった。

 

「ま、こんな所だろ。」

 

「そうだな、今回のボスは楽勝だったな。」

 

「ええ、これなら次の波も余裕ですね。」

 

波の最前線で一際大きな魔物の死体を前に談笑する他の勇者達。

 

「ほう、中心となる魔物を倒せば、波は終わるのか。」

 

「なんだか、分かりやすいですね。」

 

半ば呆れた様にそれを見るラフタリアと烈。

 

「よくやった勇者諸君、今回の波を乗り越えた勇者一行に王様は宴の準備ができているとの事だ。報酬も与えるので来て欲しい。」

 

どうやら、毎回、波の後に宴会が催され、そこで報酬の支払いもされる様だ。

 

「どうしましょう、師父様?」

 

「まぁ、行かずに難癖を付けられても困るしな。行こう。」

 

ラフタリアの問いに、行く事を告げる烈。

 

「あ、あの……」

 

リユート村の住人が烈達に話しかけてきた。

 

「どうした?」

 

「ありがとうございました。あなたが居なかったら、みんな助かっていなかったと思います。」

 

「気にするな、やるべき事をやったまでだ。」

 

「いいえ。」

 

烈の答えに、別の住人が割って入ってくる。

 

「あなたが居たから、私たちはこうして生き残る事が出来たんです。」

 

「君達がそれで良いのなら、それで構わない。」

 

「「「はい!」」」

 

住人達は、烈達に深々と頭を下げて帰っていった。

 

「これで、私の目標が1歩前に進みました!」

 

「ああ、今回は良くやった。偉いぞ。」

 

住人達の後ろ姿を見ながら誇らしげにそう話すラフタリアの頭をクシャクシャと撫でる烈。

 

それから、烈達は王城にて宴会に参加する。

 

「いやあ! さすが勇者だ。前回の被害とは雲泥の差にワシも驚きを隠せんぞ!」

 

日が落ちて、辺りはすっかり夜になってから開かれた宴会で国王が高らかに宣言した。

 

前回の波に比べて、大幅に被害を減少させる事に成功し、死傷者も1桁で済んだという。

 

「なんか、騎士団や冒険者の皆さんの手柄も、みんな勇者様達に取られてる感じがしますね......」

 

「その方が分かりやすい宣伝になるからな。奴等にとって誰が頑張ったのかはさして重要ではないのだろう。」

 

波に関して、調べたいことがあった烈はヘルプを確認する。

 

『波での戦いについて』

 砂時計による召集時、事前に準備を行えば登録した人員を同時に転送することが可能です。

 

この内容からするに、勇者の仲間以外も、それこそ騎士団の様な軍隊でも一緒に転送出来るようだ。

 

「......どうやら、連中は協力して闘うという事を知らんらしい。言っても無駄だろうな。」

 

「そうかも知れませんけど......」

 

納得出来ない様子のラフタリアだが、周りに並ぶ料理を見て、気持ちを切り替える。

 

「すごいご馳走ですね!」

 

並べられた料理に舌鼓を打ちながら過ごしていると、怒り心頭という様子の元康が近付いてくる。

 

「おい!烈!」

 

「......どうした、声を張り上げて。」

 

うんざりするような態度で振り向く烈に、手袋を外し投げ付ける元康。

 

「決闘だ!」


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