盾しか装備できない?わたしは一向にかまわんッッ   作:タコス13

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矛盾の条件

「いきなり、何を言い出すんだ貴様は?」

 

元康の言葉に、理解出来ない様子の烈。

 

「聞いたぞ! お前と一緒に居るラフタリアちゃんは奴隷なんだってな!」

 

声を荒らげて、烈に食ってかかる元康。

 

「......いや、ラフタリアはわたしの弟子であって奴隷じゃない。」

 

呆気に取られながらも、そう説明する烈。

 

「そんな耳障りの良い言葉で誤魔化したって無駄だ!証拠は挙がってんだよ!」

 

「......はぁ......話が通じない様だな......それで?仮に奴隷だったとして、貴様には関係ないだろう。」

 

烈は聞く耳を持たない元康に、深く溜息を吐いて答える。

 

「関係ある!人は……人を隷属させるもんじゃない! まして俺達異世界人である勇者はそんな真似は許されないんだ!」

 

「ほう......だが、それならばこの国はどうなんだ?亜人を奴隷にしているだろう。国王にも同じ事を言ったのか?」

 

烈は、元康の言い分に少し感心していた。

 

ろくに人の意見を聞かず糾弾する所はあまり褒められないが、それでも奴隷に対する考え方は烈もそれ程変わらないからだ。

 

故にその真意を知りたく、この様な問いかけをした。

 

「そ、それは......王様だって事情がある筈だ!というか、話をすり替えるな!」

 

「......つまり、言い難い国王等には糾弾せず、言い易いわたしに食ってかかっていると。......恥ずかしくはないのか?」

 

烈は落胆のあまりずっこけそうになりつつも、呆れ返った顔でそう問いかける。

 

「き……さま!」

 

元康は怒り心頭といった顔で、歯を食いしばり矛を構える。

 

「勝負だ! 俺が勝ったらラフタリアちゃんを解放させろ!」

 

「何故、貴様と闘わねばならん。仮に闘ったとして、わたしが勝ったらどうするつもりだ?」

 

「そんときはラフタリアちゃんを好きにするがいい!今までのようにな!」

 

「貴様に許可を貰う必要も、許可を取る筋合いも無いな。......覚悟も出来ていない貴様と闘う様な拳をわたしは持ち合わせていない。」

 

烈は、何かを失う覚悟を持ち合わせていないであろう元康に、城を後にしようとラフタリアを探す烈。

 

「モトヤス殿の話は聞かせてもらった。」

 

宴会客皆が開けた道の先から、国王が歩いてくる。

 

「勇者ともあろう者が奴隷を使っているとは……噂でしか聞いていなかったが、モトヤス殿が不服と言うのならワシが命ずる。決闘せよ!」

 

「亜人や獣人を奴隷としているこの国の、長である貴様がそれを言うか。」

 

話にならないとばかりに、国王を無視してその場を後にしようとする烈。

 

国王が指を鳴らすと、兵士達がラフタリアを囲んだ。

 

囲まれたラフタリアはただ黙したまま、成り行きを見守っている。

 

「........なんのつもりだ?」

 

烈の纏う空気が、冷たくなっていく。

 

「この国でワシの言う事は絶対! 従わねば無理矢理にでも盾の勇者の奴隷を没収するまでだ。」

 

「言っていることが、駄々をこねる子供そのものだな。拒否しても構わないが......良いだろう、乗ってやる。」

 

国王を睨みつけながら、了承する烈。

 

「決闘は、庭にあるコロシアムで行う!」

 

松明に照らされた庭にある、訓練用のコロシアムを囲む観客達は決闘を今か今かと待ち侘びていた。

 

槍の勇者対盾の勇者の一騎討ち。

 

一対一戦(タイマン)を望んだのは元康の方だった。

 

元康にも、人並みのプライドはあるようだ。

 

「では、これより槍の勇者と盾の勇者の決闘を開始する! 勝敗の有無はトドメを刺す寸前まで追い詰めるか、敗北を認めること。」

 

烈は元康をしっかりと見据えながら、半身になるも構えを取らなかった。

 

「矛と盾が戦ったらどっちが勝つか、なんて話があるが……今回は余裕だな。」

 

蔑むような態度をとって、烈を睨みつける元康。

 

「では―――」

 

この先、波を乗り越えていく上で鍵になる勇者の実力を見ておく。

 

烈は、こうなってしまった以上、逆に良い機会だと考えた。

 

「勝負!」

 

「うおおおおおおおおおおおおお!」

 

元康は矛を構えながら、烈に向かって突っ込んでくる。

 

烈は立ち止まったまま、矛先、全身、目の動き等を鋭い眼光で見つめ、あらゆる攻撃を想定しながら、じっと待つ。

 

「乱れ突き!」

 

元康がそう叫ぶと、1つの突きが幾つにも分かれて烈を襲う。

 

しかし、全てが同時に、という訳ではなくタイミングはバラバラだ。

 

言ってしまえば高速の連続突きに他ならず、烈は矛先を見据えながら一つ一つを、最小限の動きで躱す。

 

「な!?全部避けただと!?」

 

「......どうした?攻撃をしてこないのか?」

 

唖然とする元康に、拍子抜けした様な顔で問いかける烈。

 

「く、うおらぁぁぁ!!」

 

烈の問いに、ハッと我に返り渾身の力を込めながら、突き、斬り、払う。

 

しかし、その全てを、今度は盾を使い受け流し捌き切ったタイミングで、盾を振り打撃を加える。

 

「ぐっ、おぉぉぉ!!」

 

元康は辛うじて矛で受け止めるが、3m程、後方へ地滑りする。

 

「な、何で......何でそんなに攻撃力があんだよっ!?」

 

烈の盾による打撃の重さに、思わず叫ぶ元康。

 

「鍛錬の賜物、としか言い様がないが......」

 

烈は律儀に答えながら、盾と元康を何度か交互に見比べる。

 

「......止めにしよう、元康。実力の差はハッキリしただろう。......負けを認めるんだ。」

 

烈は戦闘態勢を解き、腕を広げ、目を見詰めて諭す様に投げ掛ける。

 

「ふ、ふざけんな!!俺はまだ、負けてねぇ!!まだ、本気を出してないだけだッッ!!!」

 

烈の言葉に激昴する元康は槍を構えながら、叫んだ。

 

「......仕方あるまい。ならば、本気とやらを出して攻撃して来い。......ハンデだ、わたしは避けもしないし、盾も使わない。」

 

構えながら、躙り寄る元康に対し、悠然と歩いて近付き仁王立ちする烈。

 

「どうした?貴様の間合いに入ったぞ。」

 

烈は、抵抗の素振りも見せずに、ただ元康に合図とも取れる言葉を投げ掛ける。

 

「舐めやがってッッ!!俺相手に舐めプした事を後悔させてやるッッ!!!瞬速突きッッ!!!」

 

元康は烈の言葉に、鬼の形相で怒鳴り、しかし、冷静さは失っていないのか、現時点で最速最強のスキルを発動する。

 

烈は、決して相手を侮る様な真似をする人物ではない。

 

拳雄、魔拳とまで称される烈は、相手を過大評価も過小評価もしない。

 

ただただ、己の分析通りの闘い方をするまでだ。

 

故に、元康の誇る最強の矛は烈には届かない。

 

元康の矛が、烈に襲い掛かるその刹那、槍の柄を確りと掴み、届く前に止めたのだ。

 

「どうした、これは貴様の領分だろう。」

 

「な、なんで―――」

 

「痛いぞ?......墳ッッ。」

 

元康の言葉が終わらない内に、槍の柄を引っ張り、近付いてきた所を、左の拳にて右肋骨に打ち込む。

 

「〜〜ッッ!?ガハァッ!!!」

 

元康の装備している魔法銀鉄製の鎧の腹部を貫き、鎖帷子ごと脇腹に到達した拳は肋骨をへし折って、元康を吹き飛ばし壁に激突させる。

 

あえて、肋骨という硬い所を狙う事で、内蔵へのダメージを軽減させたが、それでもかなりの重症だ。

 

言葉を失っていた観客達から、悲鳴が上がる。

 

だが、そんな事よりも、烈には感心している事があった。

 

((今の感触......肋骨を砕くつもりでいたが......親父さん、いい仕事をしているな。))

 

元康の鎧は硬さは勿論の事、靱やかさも持ち合わせており、それが吸収剤の代わりとなって、ダメージを軽くしていた。

 

「ぐぅ......ま、まだ......負けてねぇ......」

 

それ故に、ゆっくりとだが、元康は立ち上がった。

 

だが、既に満身創痍の身体は、立っているのがやっとの状態だ。

 

「ほう......意識は手放さなかったか。」

 

烈は、ゆっくりと歩いて、元康に近づいて行く。

 

「確かに、貴様は勇者故に、多少の才はあるのだろう。だが、その程度だ。......悪い事は言わん、槍の握り方からやり直せ。」

 

間合いに入ると、そう言って、顔面に打ち込んだ。

 

元康は、再度吹き飛び、鼻の骨と前歯が折れ、今度こそ意識を手放した。

 

元康の身体を運んでやろうと近付く烈に、マインと国王が叫ぶ。

 

「モトヤス様を守って!!」

 

「盾の勇者を捕縛せよ!!」

 

兵士達が槍を構えると同時に、魔法部隊が、烈に魔法攻撃を仕掛ける。

 

「いやぁぁ!?モトヤス様ぁぁぁ!?な、なんて事するのよッッ!?」

 

烈は、元康を掴んで、自身を守る盾として使用する。

 

「わたしは盾の勇者だ。盾を使って何が悪い。」

 

悪びれる様子もなく、淡々とそう返す烈。

 

「た、盾って!?モトヤス様じゃないッッ!!!」

 

「発想が貧困だぞ?その場にある物を利用するのは、闘いの基本だ。」

 

元康を放り捨てると、烈はそう答える。

 

「うぅ......俺......烈に殴られへ.....?」

 

先程の魔法の衝撃で、元康が目を覚ました様だ。

 

「気が付いたか。......もう一度言うが、ラフタリアは奴隷じゃない。わたしの大切な1番弟子だ。」

 

「な、なにを言っへ......」

 

「何処で聞いたかは知らんが、お前の勘違いだぞ?確かに、わたしは奴隷商から彼女を買い取ったが、奴隷紋も刻んではいないし、闘う事を選んだのも彼女だ。」

 

魔法攻撃は元康をも巻き込むと悟ったのか既に止んでおり、槍を向ける兵士達も先程の闘いを見て、中々近付く事が出来ずにいた。

 

それを利用して再度、元康に事の顛末を説明をする。

 

「れ、れも......まるひぃが......」

 

「マルヒィ?誰だそれは。」

 

「お、お前が襲っは、女の子らよ!!王女さまらっはんら。」

 

歯が折れている為か、舌っ足らずにそう答える元康。

 

「ほう、奴が......」

 

少し考える様にそう烈が呟くと、客席の方で人が吹き飛ばされている。

 

「な、なんら!?」

 

「......彼女を怒らせた様だな。」

 

驚く元康と、やれやれといった様子の烈。

 

「か、彼女っへ......?」

 

「無論、ラフタリアの事だ。」

 

現在から遡る事数分前、ラフタリアは兵士達に槍を向けられ取り囲まれていた。

 

「無抵抗の者に槍を向けるなんて......どういう事です?」

 

「盾の勇者のせいで、槍の勇者様の身が危ない!お前を人質に取れば、奴も手出し出来ない筈だ!」

 

ラフタリアの問いに、興奮した様子で答える兵士。

 

「その様な行いが、あなた方だけでなく、槍の勇者様の名前をも傷付けると分からないのですか?」

 

ラフタリアが兵士に、諭す様に言い聞かせる。

 

「盾の奴隷の分際で、偉そうにッッ!!」

 

ラフタリアの言葉に、さらにヒートアップして怒鳴りつける兵士。

 

「それから......槍を向けるからには、覚悟出来てるんですか?」

 

「ああッッ!?何言ってんだッッ!?」

 

槍を向けられながら平然とした様子で問いかけるラフタリアに、恫喝しながら槍を眼前に突き付ける兵士。

 

「それは脅しの道具じゃない、と言ったんです。」

 

「貴様、この状況が―――」

 

ラフタリアの答えにさらに兵士が恫喝しようとした瞬間、ラフタリアが槍の柄を掴み引っ張ると、体勢が崩れる兵士。

 

「葉ぁッッ!!」

 

前のめりになった兵士の顎に、ラフタリアは剣を瞬発的に抜く事で柄の部分をかすらせる。

 

前のめりになる事で首が伸びきり、そこへ顎先を掠める打撃が加わる事で、脳が何度も頭蓋に激突し、兵士は膝から崩れ落ちた。

 

「か、かかれぇぇッッ!!」

 

兵士が倒されたのを見て、他の兵士達が号令の下、ラフタリアに襲い掛かる。

 

「その1、不用意に大振りをしてはならない。」

 

一撃で倒そうと大振りになっている兵士数名の攻撃を、難なく躱して、素早く剣の腹で攻撃を入れるラフタリア。

 

「その2、武器に頼りきりで他の部位での攻撃を疎かにしてはならない。」

 

槍での攻撃に、一心不乱になる兵士達にの槍を踏んで打撃を打ち込む。

 

「その3、自分の間合いよりも懐に敵を入れてはならない。」

 

槍に自信のある兵士の鋭い突きを躱しながら、懐に入りカウンターで鉄山靠を使い、吹き飛ばす。

 

「あなた達は、基本がなっていませんね。」

 

倒れ伏す兵士達に、呆れた様にそう言うラフタリア。

 

「おっと、そこまでだ。」

 

「剣を納めてください、ラフタリアさん。」

 

剣を構えながら現れる錬と、投降を呼び掛ける樹。

 

「勇者様2名ですか......降伏せざるをえませんね......」

 

ラフタリアはそう言って、剣をゆっくりと錬に投げて―――

 

「......なんて、諦めると思いますか?......いぃぃやぁぁぁッッ!!!」

 

―――瞬時に錬の方向へ飛込み、投げた剣をキャッチして、回転斬りを放つ。

 

「ぐッッ!?」

 

ラフタリアの剣を、己の剣で受け止める錬。

 

「扮ッッ!!!」

 

ラフタリアは、そこから流れる様に、肘鉄を錬にぶち込むが、辛うじて脇を絞めて防御する錬。

 

「流石は勇者様、これを防がれるとは思いませんでした。」

 

((なんて、速さと重さだッッ!?くそっ、腕全体が痺れて、剣をうまく握れないッッ!?なんでこんな子が......))

 

錬は無言のままだが、内心では驚愕していた。

 

「何故攻撃してくるんですか、ラフタリアさん!?」

 

「何故?おかしな事を言いますね......私は身を守っているだけですよ。」

 

樹の問い掛けに、目を見据えながらそう答えるラフタリア。

 

「あなた方が、私や師父様を陥れようとしたり、理不尽に攻撃を加えてくるので抵抗しているだけです。」

 

「兵士達は、槍を構えていただけじゃないですか!?」

 

「無抵抗の者を多数で取り囲み、凶器を突き付けて恫喝するのを攻撃と言わず、何と言うんですか?」

 

そんなやり取りをしているラフタリア達を見ながら、心底驚く元康。

 

「な、嘘......はろう......?」

 

「彼女には、とにかく、剣の基本をみっちり叩き込んだ。ろくに鍛錬をしていない連中では、歯が立たんだろう。」

 

烈は当然だといった様子で、元康に答える。

 

「な、基本らけへあんなに強い(ふよい)わけないらろう!?」

 

「ふん、基礎を疎かにしている者には分からんだろうな。」

 

元康の抗議に、鼻を鳴らして馬鹿にした様に答える。

 

「ところで、どうするんだ。貴様が負けを認めん限り、この状況は続きそうだが?」

 

「あ......」

 

元康が周りを見渡すと、混乱の極みといった様相だった。

 

「みんな、待っへくれッッ!!!」

 

会場中に元康の声が響き渡る。

 

「俺の負けら、みんなやめへくれ。」

 

「モトヤス様!?」

 

「ルール違反は何も無い。俺の完敗ら......今回はな。」

 

マルティの縋るような態度に、悔しそうにそう返す元康。

 

「モトヤス殿がそう言うのなら仕方ない......」

 

落胆した様子の国王。

 

「此度の決闘、まことに遺憾だが、盾の勇者の勝利とするッッ!!!」

 

国王のこの一言で決闘は終わった。

 

矛盾の条件を満たしていない、盾の圧勝という形で。


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