盾しか装備できない?わたしは一向にかまわんッッ   作:タコス13

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海王の矜恃

通された来賓室にて、勇者達は皆それぞれ、割り振られたベッドに腰掛けて伝説武器の説明を熱心に読んでいる。

 

確認した所によると、まず、伝説武器は整備を必要としない特殊な武器だという。

 

持ち主のLvと武器に融合させる素材、倒したモンスターによってウェポンブックが埋まっていく。

 

ウェポンブックとは、変化させることの出来る武器の種類を記載してある一覧表である。

 

烈がウェポンブックを開くと、盾の目録が展開され壁を突き抜けて並べられるも、全て変化不可能と記載されていた。

 

また、特定の武器に繋がるように武器を成長させていくこともできる。

 

スキルを獲得するには、武器に込められた力を解放させる必要があるようだ。

 

そして、初期から存在している、海王の矜恃というスキルの説明を開く。

 

『スキル名 海王の矜恃

 

スキル説明 このスキルは中国拳法の世界に長年身を置き、鍛錬により極限まで自身を追い込む事でその技術を探求し、自身を遥かな高みにまで昇華させた者にのみ与えられる特殊スキル

スキル効果 伝説武器の規則事項を限定解除、攻撃力成長補正(大)』

 

「っていうか、コレゲームじゃね?俺は知ってるぞ、こんな感じのゲーム。」

 

元康が得意げに話し出す。

 

「え?」

 

「というか有名なオンラインゲームじゃないか、知らないのか?」

「いや、俺も結構なオタクだけど知らないぞ?」

 

「お前しらねえのか? これはエメラルドオンラインってんだ」

「何だそのゲーム、聞いたことも無いぞ。」

 

「お前本当にネトゲやったことあるのか? 有名タイトルじゃねえか。」

 

「俺が知ってるのはオーディンオンラインとかファンタジームーンオンラインとかだよ、有名じゃないか!」

 

「なんだよそのゲーム、初耳だぞ」

 

「え?」

 

「え?」

 

「皆さん何を言っているんですか、この世界はネットゲームではなくコンシューマーゲームの世界ですよ。」

 

「違うだろう。VRMMOだろ?」

 

「はぁ? 仮にネトゲの世界に入ったとしてもクリックかコントローラーで操作するゲームだろ?」

 

3人の中でゲームの世界というのは共通ではあるが、3人とも違うゲームだと思っているようだ。

 

「クリック? コントローラー? お前ら、何そんな骨董品のゲームを言ってるんだ? 今時ネットゲームと言ったらVRMMOだろ?」

 

「VRMMO? バーチャルリアリティMMOか? そんなSFの世界にしかないゲームは科学が追いついてねえって、寝ぼけてるのか?」

 

「はぁ!?」

 

このまま、話が堂々巡りし始めそうになると、樹が割って入る。

 

「あの……皆さん、この世界はそれぞれなんて名前のゲームだと思っているのですか?」

 

「ブレイブスターオンライン。」

 

「エメラルドオンライン。」

 

「すまないが、わたしはそういった事には明るくなくてな。」

 

先程から全く話についていけない様子の烈。

 

「あ、ちなみに自分はディメンションウェーブというコンシューマーゲームの世界だと思ってます」

 

((コンシューマー...とは、確か家庭用ゲームだったか...?ネットゲームは、ウェブ上のゲームだったはず...VRMMOというと...だめだ...分からない...))

 

「まてまて、情報を整理しよう。」

 

 流石に混乱したのか、元康が額に手を当てて他の3人を宥める。

 

「錬、お前の言うVRMMOってのはそのまんまの意味で良いんだよな?」

「ああ」

「烈はともかく、樹も意味は分かるよな?」

 

「SFのゲーム物にあった覚えがありますね。」

 

「すまないが、話に追いつけていない.....」

 

「そうだな。俺も似たようなもんだ。じゃあ錬、お前の、そのブレイブスターオンラインだっけ? それはVRMMOなのか?」

 

「ああ、俺がやりこんでいたVRMMOはブレイブスターオンラインと言う。この世界はそのシステムに非常に酷似した世界だ。」

 

練が語るところによれば、VRMMOとはネット上に仮想現実を作り出し、それを大人数で遊ぶという物で、練に取っては当たり前にある技術で、脳波を認識して人々はコンピュータの作り出した世界へ入り込むという。

 

「それが本当なら、錬、お前のいる世界に俺達が言ったような古いオンラインゲームはあるか?」

 

元康の問いかけに、練は首を横に振った。

 

「これでもゲームの歴史には詳しい方だと思っているがお前達が言うようなゲームは聞いたことが無い。お前達の認識では有名なタイトルなんだろう?」

 

元康が頷く。そういった方面に詳しいのなら聞いた事もないというのはおかしい。

 

「じゃあ一般常識の問題だ。今の首相の名前は言えるよな?烈はどうだ?」

 

「ああ、それくらいなら、知っている。」

 

元康の問いかけに、皆が頷く。

 

「一斉に言うぞ、せーの!」

 

「安倍心三。」

 

「濱田光一。」

 

「野乃村龍太郎。」

 

「マック朱阪。」

 

「「「「.....................。」」」」

 

4人が4人ともに違う結果となり、心当たりも無いようだった。

 

さらに、自分の世界の有名な事柄や人物等の話になったが、そのどれもが知らないという結果になった。

 

「どうやら、僕達は別々の日本から来たようですね。」

 

「そのようだな。間違っても同じ日本から来たとは思えない。」

 

「という事は異世界の日本も存在する訳か。」

 

「時代がバラバラの可能性もあったが、幾らなんでもここまで符合しないとなるとそうなるな。」

 

 

烈だけは日本人では無いが、4人とも別々の日本から来た点では同じだ。

 

「このパターンだとみんな色々な理由で来てしまった気がするのだが。」

 

「あんまり無駄話をするのは趣味じゃないが、情報の共有は必要か。」

 

大人ぶってるのか、性格の問題か、練が上からの物言いで話し始める。

 

「俺は学校の下校途中に、巷を騒がす殺人事件に運悪く遭遇してな。」

 

「ふむふむ。」

 

「一緒に居た幼馴染を助け、犯人を取り押さえた所までは覚えているのだが...」

 

練はおそらく刺されたのであろう、脇腹を擦りながら説明する。

 

「そんな感じで気が付いたらこの世界に居た。」

 

「そうか、友人を守って死んだのか。それは、誇りある死だったな。」

 

烈が素直に称賛の声を上げると、クールを装って当然だと笑った。

 

「じゃあ、次は俺だな。」

 

軽い調子で、元康が自分を指差して語り出す。

 

「俺はさ、ガールフレンドが多いんだよね。」

 

「......そうか。」

 

顔が整っていて、女好きの雰囲気そのままの発言に、烈は呆れたように返す。

 

「それでちょーっと...」

「二股三股でもして刺されたか?」

 

練が小馬鹿にする様に尋ねると、元康は目をパチクリさせて頷いた。

 

「いやぁ……女の子って怖いね。」

 

「…そうか。」

 

烈は心底呆れて、そう答えるしか出来なかった。

 

次に樹が手を胸に当てて、話し出す。

 

「次は僕ですね。僕は塾帰りに横断歩道を渡っていた所……突然ダンプカーが全力でカーブを曲がってきまして、その後は……」

 

「「「……」」」

 

そのまま轢かれたのだろう、3人の中で1番理不尽な理由だ。

 

「最後はわたしか........そうだな、ある男とあらゆる武器を解禁した果し合いを行った。...そして、わたしが敗れ、斬られ死んだ。」

 

詳しい話をしてもややこしいだけなので、要点だけを掻い摘んで説明する。

 

「拳法家とか言ってたが、実際にあるんだな、そういうの......」

 

練は驚きと疑念の混じった様な顔でそう答えた。

 

「わたし以外の人間はこの世界の事は熟知しているという事であっているのか?」

 

「ああ。」

 

「やりこんでたぜ。」

 

「それなりにですが。」

 

話を聞いている限りでは、烈は他の3人にくらべ、2、3歩遅れている事になる。

 

「わたしはこういう物に疎くてな.......ヘルプで探すのにも限界がある故、すまないが色々教えてくれると助かる。」

 

錬は冷酷に、元康と樹は何故かとても優しい目で烈を見つめる。

 

「よし、元康お兄さんがある程度、常識の範囲で教えてあげよう。」

 

「まずな、俺の知るエメラルドオンラインでの話なのだが、シールダー……盾がメインの職業な。」

 

「ああ。」

 

「最初の方は防御力が高くて良いのだけど、後半に行くに従って受けるダメージが馬鹿にならなくなってな。」

 

「ふむ.....」

 

「高Lvは全然居ない負け組の職業だ。」

 

「なるほど、確かに納得はできる。」

 

盾の勇者と聞いて、なんとなくは予測出来た結果に取り乱す事もなく平然としてる烈。

 

「取り乱したりしないんだな?」

 

「ああ、そもそも盾とは基本的に武器ではなく、防具だからな。」

 

当たり前の事ではあると、それほど落胆は無かった。

 

「ところで、武器の変化等はなかったのか?」

 

「転職なんかは無かったし、別の系統職になれるゲームでも無かったな。」

 

他の方向性に良い点はないのかと聞いてみるが結果は振るわない。

 

「ふむ、かなり難しい職業という事か。他の2人はどうなんだ?」

 

「悪い……」

 

「同じく……」

 

一応は聞いてみるものの、空振りらしい。

 

しかし、烈は全くもって問題ないと考える。

 

他の武器を装備すればいい事であるし、それでなくとも武器ならある。

 

烈は自身の拳を見ながら考えていると、他の3人はゲームの話題に花を咲かせる。

 

「地形とかどうよ?」

 

「名前こそ違うが殆ど変わらない。これなら効率の良い魔物の分布も同じである可能性が高いな。」

 

「武器ごとの狩場が多少異なるので同じ場所には行かないようにしましょう。」

 

「そうだな、効率とかあるだろうし。」

 

烈以外はこの世界では自分がとてつもない存在だと思っているようだ。

 

それこそ、ゲームの中に入り込んだという様に現実味が欠けている様な印象を受ける。

 

「まずは、モンスターという存在がどの程度のものか見極めねばな。」

 

3人は烈を可哀想な目で見ているが、烈には油断も諦めも無かった。

 

「勇者様、お食事の用意が出来ました。」

 

案内役が晩飯を知らせに来た。

 

「ああ。」

 

皆が扉を開けて、騎士団の食堂に案内された。

 

高い天井に、吊るされた豪華なシャンデリアと、食卓を飾るロウソク台等が中世ヨーロッパをイメージさせる。

 

食事はバイキング方式の用で、様々な料理が所狭しと並んでいた。

 

「皆様、好きな食べ物をお召し上がりください。」

 

「なんだ。騎士団の連中と同じ食事をするのか。」

 

何が気に食わないのか、練が上から目線でそんな文句を言う。

 

「何故その様に邪険にする?以前に波を退けた以上、我々が学ぶ事は多々あると思うが。」

 

拳法家として、経験とはそれほど重要なものであり、練にそう意見する。

 

「そういうものなのか?」

 

「お気になさらないでください。それに、こちらにご用意した料理は勇者様が食べ終わってからの案内となっております。」

 

どうやら、優先順位として勇者の方が上のようだ。

 

「ありがたく頂こう。」

 

「ええ。」

 

「そうだな。」

 

勇者達は思い思いの料理を取り、食べ始める。

 

食べ慣れない食材などもあるが、こういった調理法はどうだろうかと考えながら食べる烈。

 

それぞれ食事を終えると、部屋に戻った3人は疲れが出たのか寝る準備を始めた。

 

「風呂とか無いのかな?」

 

「中世っぽい世界だしなぁ……行水の可能性が高いぜ。」

 

「言わなきゃ用意してくれないと思う。」

 

「まあ、一日位なら大丈夫か。」

 

「そうだろ。眠いし、明日は冒険の始まりだしサッサと寝ちまおう。」

 

元康の言葉に2人は頷いて、ベッドに入るが、烈は部屋を後にしようとする。

 

「どこ行くんだ?烈。」

 

「食後の站樁だ。」

 

「タントウ...?」

 

「站樁とは、中国拳法における、立った状態での禅であり、トレーニングだ。これが日課なのでな、ここでやったら寝づらいだろう?」

 

烈はそう言い残して、王宮のベランダに出て站樁を始めた。

 

立ち始めて直ぐに、身体に違和感を覚え、その感覚に驚いた。

 

((な、なんだこれは!?何かが、わたしの身体の中を巡っているッッ!!これはまさかッッ!?))

 

中国拳法の門を叩いて以来、毎日欠かさずにやってきた站樁。

 

気の流れを良くし、同時に下半身の強化も行うとされる。

 

気をイメージしろと言われるも、具体的な感覚もなく、しかし、ある様な気がする...

 

そんな、微かな感覚を頼りに、あると信じて行ってきたが、今宵、烈はその核心に触れたッッ。

 

((白林寺に入り、初めて教えて貰ったのが站樁...気の流れを感じろと言われてきたが.....気とは.....))

 

「これかァ!!」

 

この夜、烈は何時間も站樁を行い、やがて自室に戻り、胸を高鳴らせ、眠りについた。

 

 


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