盾しか装備できない?わたしは一向にかまわんッッ   作:タコス13

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盾、されど海王

関所の門を抜けると、限りない大草原が広がっていた。

 

一応、石畳で道が舗装されてはいるが、少し外れると、一面の緑が眼前を覆う。

 

烈も生前は中国で名士であり、祁連山草原を目にしているが、それ以上かも知れない。

 

「では勇者様、このあたりに生息する弱い魔物を相手にウォーミングアップしましょうか。」

 

「そうだな。魔物と闘うのは初めてだからな。やれるだけ、やってみよう。」

 

「頑張って下さいね。」

 

「ああ。」

 

波から世界を護るとは言ったものの、まずは、どの程度のものか計らねばならない。

 

しばらく草原をとぼとぼと歩いていると、なにやら目立つオレンジ色の風船みたいな何かが見えてくる。

 

「勇者様、居ました。あそこに居るのはオレンジバルーン……とても弱い魔物ですが好戦的です。」

 

ふざけた名前だが、侮る事はしない。

 

「ガア!」

 

鳴き声をあげて、烈に襲い掛かる風船の様な見た目の魔物。

 

烈は足を開き、腰を落として、両手を構える。

 

そして、突っ込んで来た魔物に、崩拳を打ち込む。

 

「破ッッ!!!」

 

魔物は吹き飛ばずに、その場で、破裂した。

 

「なっ......!?えぇぇぇッッ!!?」

 

マインの驚愕した叫び声が辺りに響いた。

 

「ふむ、思ったより、大分脆いな。」

 

「脆いな、じゃないですよ!?今、何したんですか!?」

 

マインは興奮気味に、烈に問いただす。

 

「ん?今のは、崩拳と言って中国武術を代表する中段突きだ。」

 

「そういう事を聞いてるんじゃありません!なんで一瞬消えたんですか!?」

 

「消えて等いない。ただ、素早く崩拳を放っただけだ。」

 

烈は当然の事のように、冷静に答える。

 

ピコーンと電子音がしたと思ったら、EXP1という数字が見えた。

 

「この、EXPというのは?」

 

「それは、経験値の事です。一定数集まると、レベルが上がりステータスが上昇します。」

 

「なるほど、つまり今回は経験値を1、得たのか。」

 

そんな話をしていると、足音が聞こえてきた。

 

「あれは、練とその仲間か。」

 

練が仲間を引き連れて走って行く。

 

練達の目の前に、先程と同じ、オレンジバルーンが3体現れた。

 

練が剣を構えて、横に一閃すると、3体とも破裂した。

 

「剣の握り、構え、振り、どれもなっていない。威力はともかく、動きは素人に毛が生えた程度だな。」

 

「そうですか......」

 

戦利品である、オレンジバルーンの死骸を拾うと、ピコーンと盾が鳴った。

 

盾に近付ければ、淡い光となって盾に吸い込まれていった。

 

『GET オレンジバルーン風船』

 

そんな文字が浮かび上がり、ウェポンブックが点灯する。

 

中を確認するとオレンジスモールシールドというアイコンが出ていた。

 

まだ変化させるには足りないが、必要材料であるらしい。

 

「これが伝説の武器の力ですか。」

 

「ああ、この様に素材を集めて強化していくらしい。」

 

「なるほど。」

 

「ところで、先程拾った、オレンジバルーン風船というのは、売れるのか?」

 

「銅貨1枚で売れれば、いい方だと思います。」

 

「大した金額では無さそうだな。この世界の貨幣価値を聞いても良いか?」

 

「銅貨100枚で銀貨1枚、銀貨100枚で金貨1枚になります。」

 

どうやらこの世界では、金貨1枚=銀貨100枚=銅貨10000枚となる様である。

 

「ふむ、少々分かりにくいが、それはおいおい覚えていくとするか。」

 

「次は、私の番ですね。頑張ります。」

 

話していると、オレンジバルーンが2体現れた。

 

マインは剣を抜くと、2振りで現れた2体を倒す。

 

「ここでは流石に魔物が弱すぎる。もっと強い魔物が出る場所に行こう。」

 

「そうですね。もう少し先に進むと良い狩場があります。」

 

烈達は森の方へと進み、イエローバルーン、レッドバルーンという色違いやウサピルという魔物を狩った。

 

「もっと強い魔物が出る場所があるんですが、そろそろ帰らないと日が沈んでしまいますね。」

 

「そうだな、かなりの数を狩ったからな。」

 

日が傾き、時間的にも夕方くらいになっていた。

 

「今日は早めに帰って、もう一度武器屋を覗きましょうよ。私の装備を、新調したいです。」

 

「そうだな。」

 

Lvは5まで上がり、素材も多数手に入り、初日の成果としては十分だろう。

 

烈達は1日目の冒険を切り上げて、城下町の方へと戻る。

 

街へ戻ると、その足で武器屋に顔を出した。

 

「お、盾のあんちゃんじゃないか。他の勇者たちも顔を出してたぜ。」

 

他の勇者も来ていた様で、ホクホク顔の店主が出迎えた。

 

「魔物が落とす素材を買い取って貰えると聞いたんだが、ここでの買い取りは可能か?」

 

「魔物の素材買取の店がある。そこへ持ち込めば大抵の物は買い取ってくれるぜ。」

 

「謝謝。」

 

「で、次は何の用で来たんだ?」

 

「ああ、彼女の装備を買いに来たのだ。」

 

マインに視線を向けるとマインは店内の装備をジッと凝視していた。

 

「予算額は?」

 

「そうだな......マインさん、予算はどの程度に考えている?」

 

「...........」

 

マインは真剣な眼差しで装備を選んでおり、烈の問いかけが耳に入っていなかった。

 

烈の手元には、銀貨800枚が残っているが、生活の事もあるのでそれも考えなければならない。

 

「お連れさんの装備ねぇ……確かに良いものを着させた方が強くなれるだろうさ。」

 

「それはそうだろうな。」

 

烈1人でも魔物を倒せるが、波が未知数な以上戦力を増強するにこしたことは無い。

 

「暇潰しに値下げ交渉を受けてやろうか?」

 

「良いのか?かなり値が張りそうだが......」

 

「構わねぇよ。雑談みたいなもんさ。」

 

店主は機嫌が良いのか、人が良いのか、そんな話を持ちかけてくる。

 

「そうか、ならば、8割引。」

 

「幾らなんでも酷すぎる! 2割増。」

 

「わたしがいた世界ではこのくらい当たり前だがな。そして、増やしてどうする。7割9分。」

 

「嘘つけ!それに、商品を見ねぇで値切る野郎には倍額でも惜しいぜ!」

 

「そちらから持ちかけてきた話だがな。9割引。」

 

「チッ! 2割1分増!」

 

「ははは、さらに増やすのか。ならば、12割引。」

 

「それじゃあ、こっちが金を払う事になるじゃねぇか!しょうがねえ5分引き。」

 

「まだまだ、行けるはずだ。9割2分--」

 

大の大人が2人してくだらない問答をしていると、マインが選び終わり戻ってきた。

 

持ってきたのは、可愛らしく凝ったデザインの鎧と、烈が選んでいた剣よりも値が張りそうな剣だった。

 

「勇者様、私はこのあたりが良いです。」

 

「親父さん、合計するといくらになる?6割引。」

 

「オマケして銀貨480枚でさぁ、これ以上は負けられねえ5割9分だ。」

 

この装備を買うと、残りは銀貨320枚となる。

 

「マインさん、本当にそれが必要なのか?」

 

「はい、勇者様の足を引っ張りたくないんです!」

 

烈の問いかけに、胸を押し付けながら、そう答えるマイン。

 

「......わかった。」

 

烈はそう短く答えると、店主に銀貨480枚を渡す。

 

((私に勧めてきた装備の3倍以上する物を平気で強請るか......割引が無ければ、予算を超過していた。警戒を怠らない様にせねばな。))

 

烈の中で、マインの印象がどんどんと悪くなっていった。

 

「ありがとうございやした。まったく、とんでもねぇ勇者様だ。」

 

「はは、これからも贔屓にする故、勘弁してくれ。」

 

「ありがとう、勇者様!」

 

マインは気を良くしたのか、烈の手にキスをしてきた。

 

烈は顔を一瞬顰めるが、すぐ様平静を装って、思い過ごしだった場合の対処をする。

 

店を出た烈達は、街の宿屋へと入っていく。

 

宿屋の1泊の料金は、一部屋、銅貨30枚程であるらしい。

 

「2部屋でお願い。」

 

烈にとっても問題は無く、印象が悪い人間と同部屋というのもバツが悪い。

 

「はいはい。ごひいきにお願いしますね。」

 

宿屋の店主が揉み手をしながら、烈達を部屋へと案内する。

 

その後、宿屋に併設している酒場にて、別途料金の銅貨5枚の食事を2つ注文する。

 

森からの帰りがけに購入した、地図を広げながらマインと打ち合わせをする。

 

「この辺りが、今日わたし達が魔物を狩った森だな?」

 

「ええ、そうです。そして、明日行くとすれば、この少し先のラファン村の先のダンジョンが良いかも知れませんね。」

 

マインの話を聞きながら、地図を頭に叩き込む烈。

 

Lv上げをする際に場所というのはかなり重要になってくる。

 

「ところで、勇者様はワインは飲まれないんですか?」

 

食事を頼む時、マインが店員と話していたが、その後一緒にワインが運ばれてきた。

 

他の客のテーブルを見た所、このワインはセットではないらしい。

 

「わたしも酒は嫌いでは無いのだが、このワイン、芳醇な葡萄の香りの他に、薬草の匂いが混じっているな。」

 

「そ、それはこの国のワインの特徴でして......」

 

「だとしたら、わたしには合わないな。せっかくの葡萄の香りを薬草の匂いで台無しにしてるとしか感じられない。」

 

「そんな事言わず、飲んでみて下さい。意外と美味しいですよ?」

 

「悪いが、飲む気にはならないな。」

 

「そう、ですか。」

 

マインは残念そうにグラスを下げた。

 

「さて、部屋に帰るとするか......」

 

「私はもう暫く飲んでいきます。おやすみなさい。」

 

「ああ、おやすみ。」

 

烈は1人、割り当てられた部屋へと戻っていく。

 

((あの薬草の香り......あれは恐らく睡眠薬かなにかだな。いずれにせよ、警戒しておかなくてはな。))

 

部屋に戻ると、日課の站樁を終えて、ベッドに入って眠りについた。

 

マインがなにかしら仕掛けてくるとは思っていたが、何も起こらずに朝を迎えた。

 

朝になり、マインの様子を見にマインの部屋の前に行くと、騒がしい足音が近づいてくる。

 

「盾の勇者だな!」

 

「ああ、そうだがなにか用事か?」

 

敵愾心を顕にしながら、呼び掛ける騎士に烈は答える。

 

「王様から貴様に召集命令が下った。ご同行願おう。」

 

「ほう、まぁ、良いだろう。」

 

「さあ、さっさと着いて来い!」

 

騎士の1人が、烈の腕を掴み、力任せに連れていこうとする。

 

「わたしに、触れるなッッ。」

 

騎士に向かって、小さく怒鳴り、騎士の手を握る。

 

「ぐあっ!」

 

まるで、万力にでも挟まれたかのような痛みが、騎士を襲う。

 

「逃げも隠れもせん。それで問題は無いだろう?」

 

「あ、ああ、分かった。」

 

外に出ると馬車が止まっており、恐らくはこれで城に行くのだろう。

 

一切動じない烈を乗せて、馬車は城へと入っていった。


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