盾しか装備できない?わたしは一向にかまわんッッ 作:タコス13
ラフタリアを檻から出すと、烈は彼女の手を優しく握り元きた道を歩いて行く。
少し開けたサーカステント内の場所で奴隷商は人を呼び、インクの入った壷を持ってこさせる。
そして小皿にインクを移したかと思うと烈に向けて差し出す。
「さあ勇者様、少量の血をお分けください。そうすれば奴隷登録は終了し、この奴隷は勇者様の物です。」
「いらん。彼女は奴隷ではなく、わたしの弟子だ。」
奴隷商の申し出を手で制止し、そう言葉を添える。
「本当によろしいんですか?裏切るかも知れませんよ?」
「弟子を信じぬ師匠が何処にいる。」
奴隷商の問いかけに、キッパリとそう答える烈。
「......ふふ、それならよろしいのです。貴方は本当に噂とは違うお方だ。」
奴隷商は微笑むと、烈に金額の説明をする。
銀貨30枚を渡して、テントを後にした烈達は、次に武器屋へと足を運んだ。
「アンタ......」
ラフタリアを連れた烈を見て、武器屋の店主は驚愕していた。
「すまない、ここが武器屋なのは知っているが、ここしか知らないのでな。ローブや服の生地は扱っているか?」
「はぁ......」
武器屋の店主は溜息をついた。
「その子をどうしたのかは聞かないが......ローブなら扱ってるが、服の生地は流石にな。知り合いの所で扱っているから、後で店を教えてやる。」
「すまないな......」
良くしてくれる店主に、頭を下げてお礼を言う烈。
「嬢ちゃんのサイズなら、これくらいが良いだろう。」
烈に麻で出来たローブを投げ渡す。
「ああ、それから、武器も欲しい。剣がいいな、ブラッドコーティングとやらが掛かっているもので頼む。」
「アンタ、装備出来なかったんじゃないか?......まさか......」
「そう、彼女が使う。彼女はわたしの弟子なんでな。闘い方を教える。」
はっとした様な顔の店主に事も無げに答える烈。
「教えるたって......嬢ちゃんはまだ......」
「ああ、子供だ。言いたいことも分かる。だが、彼女が選んだ道だ。それに、わたしも波と闘う身。必ず生き残るとは言えん。そうなった時......彼女が1人でも生きていける様にするには、これしかない。」
店主の目をしっかりと見て、真剣にそう語る烈。
「なるほどな......アンタって本当に噂とは違うみたいだな。殴ろうとして悪かったな。」
「気にするな。あなたは殴らなかった、それが全てだ。」
申し訳なさそうに頭を下げる店主に、そう答える。
「さて、ブラッドコーティングの掛かった剣だったな。だとすると、この辺りだな。」
幾つか、剣を並べていく店主。
「ふむ......これは中々の品だな。重さも丁度いい。幾らだ?」
「そいつは、魔法鋼鉄製だな。だが、この前見せたやつより品質は良いからな......おまけして、銀貨300枚ってところだ。」
烈が手に取った剣の説明を簡単にしながら、金額を提示する。
「そうか、ならばこいつを貰おう。ところで、そこにあるのは中華鍋ではないか?」
金額を聞き了承すれば、ふと店の奥にある、中華鍋にしか見えない物を見つける。
「あれか?中華鍋ってのがよく分からんが、ありゃ失敗作だ。鍋にも出来る盾ってアイデアだったんだが......防御力がな......」
バツが悪そうに、頬をかきながら答える店主。
「ほう......ちょっと見せてくれないか?」
「あ、ああ、別にいいけどよ。」
店主の許可を取り、手に取って見てみると盾が振動し、視界にアイコンが浮かぶ。
『ウェポンコピーが発動しました。』
『中華鍋の盾の条件が解放されました。』
さっそくウェポンブックを開くと、ツリーが点滅しており、さらに進化させる。
『薬膳の盾』
能力未開放 装備ボーナス、調理技能1 薬効上昇1
禁則事項限定解除
禁則事項限定解除により、薬膳の盾から50cmまで離れる事が可能になりました。
「これは、便利だな......」
「ん?何が便利だって?」
烈の呟きに、店主が問い掛ける。
「あ、いや、なんでもない。」
店主の問い掛けに、笑みを浮かべながら誤魔化す。
流石に、装備をコピーして使えるようにしました、とは言えない様だ。
「そ、そうか。さて、嬢ちゃん、こいつがこれからアンタの武器になる。」
店主がラフタリアに武器を手渡すと、少しよろめく。
「大丈夫か?流石に長剣じゃあ重いか。」
「大丈夫です!このくらい持てます!」
張り切りながら、そう答えるラフタリア。
「あまり無理をするな、ラフタリア。剣はわたしが持って行こう。ところで、使っていない皮の袋とかはあるか?サービスで付けてくれ。」
「しゃーないな。持って行きな。」
烈が銀貨300枚をカウンターに置くと、店主が袋を投げ渡す。
それから、店主に道を聞いて、洋裁屋を訪れる。
「いらっしゃいませー。」
「武器屋の店主から、ここで服の生地を扱っていると聞いたんだが、見せて貰えるか?」
眼鏡を掛けた、顔の整ったオタク気質な印象の女が出迎えた。
「ええ、扱ってるわ。もしかして、その子の服を作るの?うちは洋裁もやってるから、服作りも請負うわよ。」
「いや、生憎だが材料だけ揃えて、わたしが縫う予定だ。」
女店主の申し出に、そう断りを入れる。
「へぇ、あなたが......お客さんにこう言うのもなんだけど、見かけによらないわね。」
少し、驚いた様に感想を述べる、女店主。
「そんな事よりも、生地を見せて貰うぞ。」
そう言って、売られている生地を吟味していく烈。
白い絹のような生地を手に取り丈夫さ等を確かめる。
「中々、良い生地だな。これを貰おうか。それから、糸や針なども見せてくれ。」
「どんな服を作るつもり?」
「演武服に近いものにする予定だ。」
「演武服?聞いた事無いわね......もし良ければ、うちの設備を貸すわよ?その代わり、作業を見ていても良いかしら。」
烈の言葉を聞き、そう提案する女店主。
「それは、有難い。もちろん、構わない。」
提案を快諾すると、作業に取り掛かる。
まずは、ラフタリアのサイズを測っていく烈。
「......くすぐったいです......」
「すまんが、少し我慢してくれ。」
測り終えると、型紙を作り、手慣れた様に布を裁断していく。
「中々、いい手つきね......」
「昔、白林寺という寺にいてな。修行衣を自分で縫うのだが、腕の良い者は、演武服や伝統衣を作り、それが寺の収入の一部になっていた。わたしもよく、縫わされたものだ。」
そんな事を語りながら、手際良く作業を進めていく。
驚異的なスピードで、服を縫っている烈を、食い入る様に見つめる女店主。
「......なるほど......これがこうなって......」
そうこうしている内に、3時間程で演武服が完成する。
「ラフタリア、これを着てみろ。」
「は、はい!ありがとうございます!」
完成した演武服を手渡たされると、奥で着替えてくるラフタリア。
「ど、どうでしょうか......?」
緊張しているのか、恥ずかしいのか、おずおずと出てくるラフタリア。
白い絹のような生地に、ふちやチャイナボタンは薄めの青い糸で縫われており、花と鳥を模した刺繍まである拘り様だ。
長袖で、下はチャイナズボンになっている。
「良く似合っているぞ。」
烈は笑顔でそう答えると、ラフタリアの頭をクシャクシャと撫でる。
「なるほど......デザインが少し気に入らないけど、とても勉強になったわ......ここをああして......」
女店主は服作りを観察しながら、新しい服の案でも練っているのかブツブツ言っている。
洋裁屋を後にした烈達は、巻紙と肉や野菜や調味料を買い込んで、森へと向かった。
「さて、君を弟子に迎えるに当たって、拝師の儀というものを行うわけだが、その前に身体を清めるとしよう。わたしは目を瞑って皮袋を持っているから、お湯を浴びるんだ。」
烈は薬膳の盾でお湯を沸かし、皮袋にお湯を移し小さく穴を空けて、簡易シャワーを作る。
それをラフタリアの頭より上で支えて、目を瞑りながら終わるのを待つ。
「終わったか?」
「はい!ありがとうございました。」
シャワーを浴び終えて、ラフタリアが答える。
「わたしの流派では修行者は髪を剃るのだが......女性の君に、それはあまりに酷だ。なので、わたしが君の髪を整えよう。」
そういうと、ラフタリアの髪を編み込んでいく烈。
編み終えると、ラフタリアは烈と似た三つ編みになった。
「わぁ、お揃いですね!」
ラフタリアは嬉しそうにその場を回る。
烈は微笑みを浮かべながら、その様子を見て、言葉を続ける。
「では、拝師の義に移るとしよう。」
巻紙をラフタリアに手渡して、作法なんかを教える烈。
「さて、わたしはこの世界の文字を書けないので、白紙だが、だからこそ今から伝える教えを頭に叩き込むんだ。」
「はい!」
拝師の義を始める烈に、緊張した面持ちで答えるラフタリア。
「1つ、弱者に理不尽な暴力を振るう為に技を使ってはならない。1つ、同門の者と組手以外で闘ってはならない。1つ、師匠の言葉に逆らわない事。以上、3つの事を守るのだ。」
「わかりました!」
膝をついて、頭を下げるラフタリア。
「とはいえ、強さこそが全てというのも、また武の世界......この3つに逆らうのも自由だが、その時は全力でわたしが阻止する。肝に命じておくんだ。」
真剣な眼差しでラフタリアに言い聞かせる。
「さて、これで儀式は終了した。今後わたしの事は師父と呼ぶように。それから、君にわたしが昔使っていた名前を授ける。今日より、ラフタリア
「ありがとうございます、師父様!......コホッコホッ......」
よほど嬉しいのか、元気よく答えるラフタリアだが、咳き込んでしまう。
「あまり、無理をするな。これから飯にしよう。」
ラフタリアの背中を擦りながら、優しくそう話す。
それから、薬膳の鍋を火にかけて鍋料理を作る烈。
薬草を煎じたものを香辛料として加えれば薬膳鍋の完成だ。
「ほら、遠慮せず食べろ。ラフタリア、君は風邪をひいてる様だから、体の温まる薬膳鍋にした。少しは良くなるだろう。」
「師父様は......ほんっ......とうに、お優しいですね。」
烈に薬膳鍋を作って貰い、微笑みを浮かべながら、優しく伝える。
「......食うんだ。」
ラフタリアの言葉を聞き、顔をカァ......っと紅くさせ、照れを隠す様にぶっきらぼうにそう促す。
時間的に夕食になったので、その日はそのまま野宿をする事になった。
火を焚き、烈が見張り番をしながらラフタリアは横で眠りにつく。
「......んぅ......いや......助けて......いやぁぁぁぁッッッ!!!」
悪夢を見ているのか、叫び出すラフタリア。
「大丈夫だ。君は強くなる、助けなどいらない程にな。だから、安心するんだ。」
烈はパニックを起こすラフタリアを抱きしめて、頭を優しく撫でながら、そう言い聞かせる。
「......お父...さん......お母...さん......ひっぐ......」
ラフタリアを撫でていると、魔物が飛び出してくる。
「...........」
が、しかし、烈が殺気を込めてひと睨みすると、逃げていった。
野生動物程でないにしろ、奴らも死にたくはないのだ。
そして、朝を迎えると、起き出してくるラフタリア。
「......おはようございます......」
眠気眼で起きてくるラフタリア。
昨日の鍋の残りを餡掛けにした物を食べて、修行を開始する。
「先ず最初に教えるのは站樁という基本的な鍛錬法だ。これは、わたしの師匠だった人物から、初めて教わった事だ。」
感慨深そうに、ラフタリアに指導していく烈。
「は、はい!」
烈に教わりながら、姿勢を整えて、立っていると、10分もすると汗を吹き出す。
小刻みに筋肉が震えながらも、1時間、音を挙げずに耐える。
「よし!そこまで!......ラフタリア、君は筋が良い。身体の話ではなく、心構えの話だがな。根性がある。」
「はぁ......はぁ......ありがとうございます!」
褒められたのが嬉しかったのか、明るい顔で答えるラフタリア。
「次は、剣の修行だ。まずは、わたしの動きを見るんだ。」
(刃牙さん、武蔵さん、君達の技を借りるッッ!!)
烈は、何も持たぬその手に、剣をイメージする。
自身が修行時代、幾度も幾度も振るってきた、あの中国剣を手の中に
そして敵を、今回はレッドバルーンをイメージし、その姿を呼び起こす。
何度か狩ってきた魔物を想像力のみでそこに
刃牙がやっていたリアルシャドーと、武蔵がやっていた無刀による斬撃。
この2つを掛け合わせて、今ここに、剣も魔物も使わず、魔物狩りを完全再現するッッ!!
「あ、あれは、レッドバルーン!?それに剣も......」
「ハイィィ〜〜ッッッ!!」
リアルシャドーのレッドバルーンを、無刀による斬撃で一刀両断する烈。
さらに、もう2匹を突きと、連続斬りで倒してみせる。
「と、この様に剣は突きや斬撃など、万能に使える武器だ。厳しいかも知れんが、波までにこの位、使いこなせる様になってもらう。」
息を深く吐き、ラフタリアに向き直り、そう指導する烈。
「凄いです!私も、頑張ります!」
そう言って、よろよろに剣を構えながら、現れた魔物に斬り掛かるラフタリア。
「腰が引けている!腕がなってない!体重をもっと掛けろ!」
烈の激しい激が飛ぶ中、ラフタリアは懸命に魔物を斬り伏せる。
そんな調子で1週間が経つ頃には、肉体は強化され姿も成長し、10代後半の女性の姿になった。
パニックも7晩目には綺麗に収まっていた。
そして、拝師の儀式した事で海王の矜恃にも変化があった。
『内弟子の成長補正(大)ㅤ弟子の成長補正(中)』が追加された。
これが、ここ1週間の出来事である。