盾しか装備できない?わたしは一向にかまわんッッ   作:タコス13

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乗り越えるべき過去

ラフタリアLv20、烈Lv30になっていた。

 

「Lvというものは便利だな。筋力鍛錬を経ずとも身体が出来ていくのだから。しかし、君の身体がみるみる成長するのには驚かされたぞ。」

 

「亜人は幼い頃にLvを上げると、比例して肉体が急成長するんです。この辺りが、亜人を人間ではなく、魔物と同じだと迫害される理由でもあるんですが......」

 

ラフタリアは少し悲しそうに、微笑みを浮かべる。

 

「くだらない事を考えるものだな......度量が小さい者が国を統べるべきではないな。そんな事、気にする必要はないぞ。」

 

烈はくだらないと切り捨て、ラフタリアの頭を撫でながらそう言う。

 

「うう......恥ずかしいです......」

 

ラフタリアが照れながらそう言うと、烈は手を離す。

 

「すまないな、つい。......さて、そろそろ、村人が言っていた辺りだが......」

 

森などで狩りをしていた烈達は、その辺の魔物では、経験値が頭打ちになり、新たな場所へ行く事にした。

 

武器屋の店主の話からリユート村という場所を拠点にする事にした。

 

そこで、幾つかの盾も解放した。

 

『ロープシールド』

 解放済み……装備ボーナス、スキル『エアストシールド』

 

『ピキュピキュシールド』

 解放済み……装備ボーナス、初級武器修理技能1

 

『ウッドシールド』

 解放済み……装備ボーナス、伐採技能1

 

『バタフライシールド』

 解放済み……装備ボーナス、麻痺耐性(小)

 

『パイプシールド』

 解放済み……装備ボーナス、スキル『シールドプリズン』

 

『エアストシールド』というのは、射程5mの範囲に盾を一定時間出現させる事が出来るスキルだ。

 

『シールドプリズン』というのは、射程6mの範囲に盾を複数出現させ、ターゲットを閉じ込める効果があるスキルである。

 

他にも、幾つか盾を解放したが、割愛する。

 

村の周りで少し狩りをしていたが、村人から、鉱山に魔物が住み着いたと聞いて、行ってみることにした。

 

「ああ、あれだな。入ってみるか。」

 

目的の鉱山に到着し、中へと進む烈達。

 

途中、鉱石等を採取しながら、奥へ奥へと歩みを進める。

 

「......止まれ。気配がする。」

 

さらに歩みを進めていると、烈がラフタリアを制止する。

 

暫くすると、大型肉食獣の様な唸り声が木霊してくる。

 

現れた魔物は、豹くらいの大きさの、3つ首のドーベルマンの様な見た目をしている。

 

所謂、ケルベロスと呼ばれる怪物に酷似しており、今まで出会した魔物の中では、一番強い部類だろう。

 

「......!?......あ......あぁ......」

 

ケルベロスを見た途端に、ラフタリアの様子がおかしくなる。

 

冷や汗をダラダラと流し、身体は震え、恐怖を感じているのか、言葉も発せないでいた。

 

「どうした、ラフタリア。」

 

そんな様子のラフタリアに、低い声で短く質問する烈。

 

「お父さん......と......お母さん......を...殺した...魔物......」

 

譫言の様に、烈の問いに答えているのか、そうでないのかは分からないが、呟くラフタリア。

 

「なるほど......トラウマという事か。」

 

烈と出会った事により、見違える様に成長したラフタリア。

 

しかし、心の奥底に植え付けられた恐怖というものは、大抵の事では拭えない。

 

「ラフタリア、良く聞け。アレはお前が倒すべき、仇を取るべき相手だ。わたしは手を出さん。」

 

ラフタリアの瞳をしっかりと見据えながら、語りかける。

 

「それは......!?...む、無理です......!私......」

 

恐怖の対象を倒せと言われ狼狽えるラフタリア。

 

「恐怖を乗り越えなければ、強くはなれん。」

 

そう言い残して立ち上がり、ケルベロスに近付く烈。

 

「とはいえ、無理強いはしない。逃げたくば逃げれば良い。わたしは止めん。」

 

ケルベロスの眼前で、手を後ろに組み目を瞑る。

 

「し、師父様!な、何を!?」

 

烈の行動に目を見開いて、驚愕するラフタリア。

 

「言っただろう。わたしは一切手を出さん。抵抗もしない。君が逃げれば、わたしはこいつに喉元を喰らいつかれるだろうな。」

 

驚愕するラフタリアを後目に、淡々とそう述べる。

 

ケルベロスは涎を垂らしながら、大きく口を開け烈に喰らいつこうと、飛び掛る。

 

「師父様!!......うわぁぁぁぁ!!」

 

抵抗する素振りを見せない烈を見て、ラフタリアは恐怖を押し殺す様に叫ぶ。

 

烈の喉元まであと数cmというところで、ケルベロスの牙は止まる。

 

ラフタリアの剣が、ケルベロスの首を穿いたのだ。

 

そのまま剣を引き抜いて、ケルベロスの首を斬り落とす。

 

「ラフタリア......わたしは君を信じていたッッ!!」

 

烈は目を開けると、嬉しそうにそう言えば、そこには死骸となったケルベロスがいた。

 

「はぁ......はぁ......私、やりましたッッ!!」

 

ケルベロスを倒す事により、トラウマを乗り越えたラフタリアは満面の笑みで報告する。

 

しかし、ケルベロスは雄雌(つがい)だったのか、もう一体がラフタリアの背中目掛けて襲い掛かる。

 

「良くやった。だが、気を抜くのは感心せんな。」

 

烈がラフタリアを押し退けると、ケルベロスは烈の腕に喰らいつこうと飛び掛る。

 

「師父様!!危ないッッ!!」

 

ケルベロスが喰らいついたその瞬間、硬いものが激しく衝突する音がして傷一つ負うことは無かった。

 

「師父様!?えぇぇぇ!?」

 

「噴ッ破ッッ!」

 

驚くラフタリアを他所に、烈は一撃のもとケルベロスを屠る。

 

「あ、あの!師父様、これはどういう事ですか!?」

 

「どういう事、とは?」

 

詰め寄るラフタリアに、何食わぬ顔で聞き返す烈。

 

「なんで、噛まれても平気なんですか!?さっき喉元に喰らいつかれるって言ったじゃないですか!!」

 

「ああ、言ったな。だが、噛みちぎられるとは言っていない。それに、結果的にトラウマも乗り越えられたじゃないか。」

 

ラフタリアの抗議に、諭す様に言い聞かせる烈。

 

「それは、そうですけど......なんか、納得出来ません。」

 

「ははは、そう怒るな。今夜はご馳走にするから。」

 

まだ納得いかない様子のラフタリアだが、烈の笑顔につられて笑顔になっていた。

 

ケルベロスの死骸を手際良く解体していけば、肉を観察する烈。

 

「思った通り、上質な赤身肉だ。臭みもそれ程無さそうなだな。」

 

ケルベロスが今日の食料に決定した様だ。

 

その後ケルベロス肉の下準備をしてから、最奥まで探索して外に出る。

 

日はまだ高く、時間もあったので組手を中心とした鍛錬を行う。

 

「ラフタリア。君は女性だ。故に力では男性や魔物に敵わない。よって、相手の攻撃を受け止めようと思うな。力の流れを感じ、受け流せ。動きを予測(よみ)、躱すんだ。」

 

最初はある程度分かりやすく、予備動作を大きめにして攻撃を繰り出すが、徐々に予備動作を小さくし素早くしていく。

 

さらに、フェイントや予備動作を同じくしながら軌道を変えたりなど、予測しずらい攻撃をする。

 

ラフタリアは、烈の攻撃に対応して反撃を繰り出すも、全て躱され、透かされ、攻撃を幾つも受ける。

 

傷だらけになりながらも、懸命に喰らいつき諦める事無く、日暮れまで組手を続けた。

 

「私が作った傷薬だ。塗っておけ。」

 

「はぁ......はぁ......ありがとうございます......」

 

傷だらけのラフタリアに肩を貸して、キャンプ地まで行くと、傷薬を渡す烈。

 

それから、塩漬けにしておいたケルベロス肉を、取り出し調理を始める。

 

「......ラフタリア、君に伝えておく事がある。」

 

調理をしながら、不意に話しかける烈。

 

「......はい、なんでしょうか?」

 

ラフタリアは烈が話す内容に心当たりがあるのか、言い淀む。

 

「......わたしは戦いに赴かなければならない。よって、死ぬかも知れない。故に、恐らくは3週間後......君とは一旦別れる事になる。なに、今の君なら例えわたしがいなくなっても---」

 

「私を舐めないで下さいッッ!!」

 

突然の烈からの別れを告げる言葉に、ラフタリアは言葉を遮り叫ぶ。

 

「え?」

 

烈はラフタリアの叫びに、面を食らった顔になる。

 

「......師父様の赴く戦いとは、波との戦いですよね?」

 

「ラフタリア......君はどこでそれを?」

 

「村人と話しているのを聞きました。......師父様。私もその戦いに参加させて下さい。」

 

烈の問いかけに答えて、覚悟を決めた顔でそう続けるラフタリア。

 

「......君を守りながらは闘えないぞ。」

 

「構いません。」

 

「君が苦戦しても、わたしは助けられないかもしれない。」

 

「構いません。」

 

「......死ぬかもしれないぞ?」

 

「私は一向に構いませんッッ!!」

 

烈の問いに、力強く答えるラフタリア。

 

「君は馬鹿だ。」

 

「そうかもしれませんね。」

 

烈の言葉に笑顔でそう答える。

 

「決意は変わらん様だな......波に向けての鍛錬はより一層厳しくするからな。」

 

「はい、望むところです。私は波に両親を殺されました。波によって友人と離れ離れになりました。でも......だからこそ、私の様な子供を、人を、増やしたくは無いんです。」

 

ラフタリアの決意を目の当たりにして、やはり強い子だなと、烈は笑みを零した。

 

「良いだろう。参加を許可する。だが、参加するからには必ず勝て。負けは許さん。......さて、飯が出来る。食べるとしようか。」

 

烈はそうラフタリアに言い付けると、完成した食事を盛り付けた。

 

ケルベロス肉を1時間半甘辛のタレで柔らかく煮込んだ料理を食べながら、ラフタリアが口を開く。

 

「師父様は、どの様にして武術を習ったんですか?」

 

「わたしか?わたしは......中国という国の香港という街に産まれたんだ......」

 

ラフタリアの問いにポツポツと、語り始める烈。

 

『19XX年、香港』

 

「こいつは、頂いて行くぜ!」

 

当時、10歳のわたしは九龍城というスラム街を根城にひったくりで生計を立てていた。

 

両親に捨てられ、生きていくには四の五の言っていられなかった。

 

わたしが捨てられた理由......それは、わたしが第2子だったからだ。

 

当時、中国では一人っ子政策という法律が在った。

 

2人目の子供を産んだ場合には、罰金に加えて様々な福利厚生も受けられなくなる。

 

故に、産まれた事を隠し出生していない事にされる場合が殆どだ。

 

そういう者達は黒孩子(ヘイハイツ)と呼ばれ、わたしもその1人だった。

 

戸籍がない黒孩子(ヘイハイツ)はまともな教育を受けられないばかりか、孤児院にも入れない。

 

それもそのはずだ、戸籍が無いという事は存在しないという事なのだから。

 

幽霊や、透明人間を想像するとわかりやすいかも知れない。

 

「よう、烈。あがりの方はどのくらいだ?」

 

わたしは、仲間と待ち合わせるのが日課だった。

 

仲間の名前は李天籟(リー・テンライ)といって、年は同じで奴もまた黒孩子(ヘイハイツ)だった。

 

「それなりってとこだな。そっちは?」

 

「こっちは、結構良かったよ。」

 

付き合いは李が行き倒れているところに気紛れで、飯を食わせてやった事から始まった。

 

「それより、今日は稼ぎも良かったし、見に行こうぜ!」

 

「また、カンフー映画か?」

 

「当たり前だろう!」

 

稼ぎが良い日には、決まって映画館に行くのだった。

 

李はカンフー映画が大好きで、よく付き合わされたものだ。

 

「なぁ、烈、知ってるか?中国武術はめちゃめちゃ強いんだぜ。その中でも、海王と呼ばれる達人は世界最強なんだ。いつか俺も中国武術を学んで、海王になるんだ!」

 

「お前、喧嘩弱いじゃん。」

 

「うっせぇ、修行したら強くなんの!」

 

 

カンフー映画を見終わると、毎回そんな事を語っていた。

 

李は喧嘩が弱くて、おっちょこちょいで、お調子者だが、とても良い奴だった。

 

何も無かったし、1日を生きるのがやっとだったが、楽しかった。

 

しかし、楽しい事ばかりでもなかった。

 

わたし達は不良グループに目を付けられていたんだ。

 

「よぉ、烈に李じゃねぇか。羽振り良さそうだな?そりゃそうだよなぁ、俺らにしょば代払ってねぇもんな。ぶっ殺され......がぁっ!?」

 

「うるせぇんだよ!チンピラが!」

 

わたし達はいつも棒等で不意打ちを食らわせたりして、追い返した。

 

だが、そんな事をしているとマフィアにまで話が行ってしまったらしい。

 

そんな状況の中、わたしは運命的な出会いを果たす。

 

それは、街でひったくりのカモを探していた時だ。

 

筋骨隆々の僧侶らしき人物が、財布に大金を入れているのを目撃したんだ。

 

わたしは、久々の大物を目の前にして、油断なく心を鎮めた。

 

わたしは子供のため小さく、そして大人ほど速くは走れなかった。

 

しかし、小さいが故に小回りが聞くという強みを持っていた。

 

僧侶が人混みに入ったところで、わたしは行動に移した。

 

「............」

 

「悪いが、そいつは貰って行くぜ!!」

 

不意打ちで放った飛び蹴りは避けられてしまった。

 

それは囮であり、その先の壁を蹴って財布の入った鞄に飛びかかったんだ。

 

万が一鞄をひったくれなかったとしても、その後の逃走ルートも確保していた。

 

しかし、僧侶は予想外の行動を取ってきた。

 

鞄に飛びかかるわたしの襟を鷲掴みにして、完全に捕らえたのだ。

 

「ふむ、動きは荒削りであるし、未熟も未熟ではあるが......良き才能に恵まれておるな。」

 

片手で軽々とわたしを持ち上げながら、観察する様に見ていた。

 

「く......離しやがれぇッッ!!」

 

「憤ッッ。」

 

なんとか逃れようと顔面に蹴りを放ったが、当たる前にもの凄い勢いで放り投げられてしまった。

 

当然、地面に激突するものと思ったが、劉老師は先回りしわたしを受け止めた。

 

わたしは、声を出すのも忘れて、ただ驚愕するしかなかった。

 

「わたしの名は劉海王。名はなんという?」

 

わたしがカモに選んだ相手こそ、かつてわたしの師であった、劉海王その人だ。

 

「れ、烈......烈永周。」

 

「烈か。......どうだ、わたしのところで、武術を学んでみる気はないか?」

 

「ふ、ふざけんな!く、クソ喰らえ、だ!」

 

劉老師の言葉を素直には信じられず、反発した。

 

「ほう......その剥き出しの敵愾心、一歩間違えばただの蛮勇だが、己を貫き通す心根の強さ、とも言える。ますます、捨て置くのは勿体ないが......無理強いはせん。」

 

そう言うと、劉老師は徐に財布を取り出した。

 

「この金はくれてやる。だが、これだけは覚えておけ。こんな端金では1ヶ月生活するのが、精一杯だ。この環境からは抜け出せん。己を変えたくば、明日ここに来い。待っておるからな。」

 

それだけ言い残すと、劉老師は去って行った。

 

わたしは悩んだ、何せ初めて大人に優しくされたんだ。

 

とりあえず、李に相談しようと待ち合わせ場所に向かった。

 

しかし、李は待ち合わせ場所には居なかった。

 

この時の事を、わたしは今でも悔やんでいる。

 

その時わたしは、李が来ない事は何回かあったし、少し遠くの方まで狩場を広げていると考えていた。

 

しかし、翌朝になっても李が帰って来る事はなかった。

 

心配になり、李を探し回って聞き込みをしていると情報を手に入れた。

 

青龍(チン・ロン)という、この辺りで幅を利かせてる中国マフィアに、連れていかれたと言うのだ。

 

急いで、青龍(チン・ロン)の縄張りを探し回ると、李を見つけた。

 

離れた所からでも分かる血の匂いに、すぐに駆け寄った。

 

「李ぃぃぃッッ!!」

 

「......れ、つ...か......?」

 

李は腹を刺されて、出血は酷く、手遅れである事は見て理解(わかっ)た。

 

「よか......た......無事......だった...んだな......ガハッ......」

 

「喋るな!俺は無事だから!」

 

それでもわたしは、必死に傷口を押さえたが、李の身体はボロボロで、血は止まらなかった。

 

「そ...う...か......はは...おま...え...を......売らな...かった......グフッ...はぁ...はぁ......かいが...あ...るな......」

 

「馬鹿野郎!売っちまえば良かったじゃねぇか!?何で、こんなになるまで......」

 

腕の中で、李の体温は、どんどんと冷たくなっていくのが分かった。

 

「......馬...鹿...は......お前...だ......恩人...を......とも...だちを......売るわけ...ない...だろ......」

 

「死ぬなッッ!!死ぬんじゃないぞッッ!?...そ、そうだ!俺、海王に会ったんだ!劉海王って人だ!修行しないかって、弟子にならないかって、誘われたんだ!李も生きて一緒に......」

 

李を少しでも励ますため、死なせないために、そう言った。

 

「はは......そい...つ...は......ゴフッ......す...ごい...な......だ...が......俺...は......む...り...だ......」

 

「馬鹿野郎ッッ!!諦めんじゃねぇッッ!!!」

 

だがそれも虚しく、李の命が消えていくのを感じた。

 

「...わ...り......ぃ......そ...し......て......あ......り...が......と............ぅ..................」

 

「李......?李ッッ!?李ぃぃぃぃぃぃッッ!!!!」

 

李はわたしの腕の中で、息を引き取った。

 

「ぐぅぅ......あ゛ぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!!」

 

わたしは、泣いて、泣いて、泣き叫んだ。

 

涙は枯れ果てる事なく、流れ続けた。

 

やがて、血の涙に変り、復讐を誓った。

 

だが相手はマフィアで、わたしは子供だった。

 

自分が勝てないのも分かっていたし、死ぬ事も分かっていた。

 

だが、それでも諦める事は出来ずに、包丁を盗んで青龍(チン・ロン)のアジトへと踏み込んだ。

 

やけになって、奴らを道連れに命を棄てようとしていたんだ。

 

30人ほどその場にいたが、そのうち8人を負傷させ、2人を殺した。

 

「ガァッッ!?」

 

「そこまでだ、クソガキ。2人も殺しやがって......どう、落とし前つけるつもりだ?」

 

しかし、頭目と思しき男に、足を撃ち抜かれた。

 

「ぐぅぅ......よくも...よくも李をッッ...!!」

 

「ああ...お前、烈とかいうガキか。李、ねぇ......。あいつ、お前の名前を呼びながら、泣き叫んでたよ。女々しい奴だったなぁ?」

 

卑下た笑みを浮かべながら、そう語りかけてきた。

 

「ぐっ......お゛ぉぉぉッッ!!!」

 

「誰が、立って良いつったぁぁッッ!!」

 

わたしは、足に力を込めて、無理矢理立とうとしたが、顔面を蹴り上げられた。

 

「ぐぞぉぉぉ!!卑怯だぞッッ!?」

 

「まったく、末恐ろしいガキだぜ......卑怯?だからどうした?今やってるのは殺し合いだぜ?不意打ちだろうが、袋叩きにしようが、銃を使おうが、関係ねぇ。ルール違反じゃねぇ...というか、そもそもルールなんざねぇ。卑怯なんて言葉は弱いやつの僻みでしかねぇんだよ。死ねやクソガキ。」

 

頭目の男は、得意気にそう語り、わたしの頭に拳銃を突き付け、引鉄に指を掛ける。

 

不思議と怖くはなかった。

 

わたしの心にあったのは、張の仇を討てなかった悔しさだけだった。

 

目を瞑り死を覚悟した時、何かが勢いよくぶつかる音と、怒号が聞こえてきた。

 

目を開けると頭目は壁の方でへたり込んでおり、入口の方を見ると劉老師が立っていた。

 

「ふむ、確かに間違ってはおらぬが......子供相手に恥を知れッッ!!!」

 

劉老師の気迫にその場にいる者は誰一人として、動く事は疎か言葉を発する事も出来なかった。

 

「......さて、貴様らが警察に自首すると言うのならば、見逃してやっても良いが......」

 

「ぐぅぅ......な、何やってやがるッッ!?さっさとそのジジィをぶっ殺せッッ!!!」

 

劉老師の言葉を遮る様に頭目が叫ぶと、組員達は劉老師を取り囲み襲い掛かる。

 

「これが答えか......死を覚悟せよッッ!!!」

 

その言葉と同時に劉老師が動いた。

 

まず、柳葉刀(リュウヨウトウ)で斬り掛かる2人の喉元を足刀にて潰し無力化させる。

 

さらに、刀や棍といった武器を使用する組員を叩き、蹴り、投げ、次々と倒していく。

 

無論、相手もただ見ている訳ではなく、銃器を使い反撃するも、時に組員を盾にして、時に射線から身を外し銃弾を避けながら、射手を潰していった。

 

組員を全て倒され、残る1人となった頭目は半狂乱になりながら銃弾を乱射するも、1発も当たらなかった。

 

「く、クソッタレ!!!こ、こいつがどうなっても......グァァァッッッ!!?」

 

わたしに銃を突き付けて人質にしようとするも、劉老師の振るう柳葉刀(リュウヨウトウ)にて腕を斬り落された。

 

劉老師は柳葉刀(リュウヨウトウ)を捨てると、頭目に向かって歩き出す。

 

「た、頼むッッ!!頼みますッッ!!!殺さないでくださいッッ!!!」

 

頭目は震えながら後退りして、恐怖のあまり失禁していた。

 

「1つだけ答えよ。答えなければ、殺す。嘘をついても、殺す。......李という少年を殺めたのは貴様か?」

 

劉老師は頭目の目の前に佇むと、静かだが確かな殺気を帯びて尋問する。

 

「ひぃぃぃぃッッ!!!は、はい!!!お、俺が殺りましたッッ!!!で、でも......あれは、弾みというか......」

 

「もう良い。貴様が殺したのだな?......ならば、死ね。」

 

頭目の胸ぐらを掴み持ち上げると、冷徹にそう伝えた。

 

「ま、待って......待ってくれッッ!?あ、あんた坊さんだろッッ!?降伏した相手を殺して良いのかよッッ!!?」

 

「生憎と貴様の様な外道に見せる慈悲は持ち合わせておらぬ。......噴ッッ!!!」

 

頭目の言葉に耳を貸さず、そう語ると手を離し後ろ蹴りを放った。

 

顔が潰れる嫌な音がして、すぐ後ろの壁と劉老師の足に挟まれて脳髄をぶちまけ、顔はぐちゃぐちゃに潰れ、それはもう凄惨な幕切れとなった。

 

「烈よ、足を見せなさい。」

 

劉老師はわたしに近付くとそう言った。

 

「な、なんでここに......?」

 

「良いから見せなさい。」

 

わたしの問いかけに答えず、撃たれた足を観察していた。

 

「ふむ、弾は貫通しておる様だな......重要な神経等も無事なようだ......少し痛むが、我慢しろ?」

 

劉老師は自分の僧衣を破ると、わたしの足を止血して下さったんだ。

 

「ぐぅぅっ......」

 

「よし、終わったぞ。お前が無事で何よりだ。」

 

わたしの頭を撫でながら、笑顔でそう言ってくださったのを良く覚えている。

 

「ふー......ふー......なぜ、ここに......?」

 

「ああ、その事だが、待ち合わせの場所に行く途中で、お前の話を耳にしてな......」

 

「そうじゃないッッ!!何で俺なんかの為にッッ!?」

 

劉老師の言葉を遮り、そう問いかけた。

 

「馬鹿者。弟子を助けぬ師が何処におる。......烈、もう一度言う。わたしの弟子になれ。」

 

「だ、だけど俺......薄汚いガキだし......」

 

そう優しく語られると温かさというか慈愛の様なものを感じ、それだけに自分自身を卑下せずにはいられなかった。

 

「何を言う、お前は仲間思いの優しい子供ではないか。」

 

劉老師はわたしの目を見つめながら、そう語ってくださった。

 

「でも結局......」

 

そう、結局わたしは仇を討つ事が出来なかった。

 

「悔しかろう。辛かろう。だがな、お前は生きておるッッ。わたしが敗けない技術(ほうほう)を教えてやる。勝つ為の武術(ちから)を与えてやる。生きておればなんだって出来るのだッッ!!」

 

劉老師がわたしを抱きしめてそう仰った時、わたしは自然と涙を流していた。

 

この人について行こう、そう決めた瞬間だった。

 

それから、劉老師は私財を投じて李に立派な墓を建ててくださった。

 

「李、俺......劉師父の所で中国武術を学ぶ事にしたよ。修行して修行して......いつになるかは分からないけど、いつか海王になって......必ず中国武術が世界最強だって証明してみせるッッ!!......そしたら、あの世にも伝わるだろうからさ、あいつは俺の親友だって、兄弟なんだって、自慢してくれよ。......じゃあ、また、来るからな。」

 

そして、わたしは中国武術を学び始めた。

 

『現在』

 

烈は語り終えると目に涙を浮かべながら、恥ずかしそうに目を擦った。

 

ラフタリアは話を聞き終えて、涙を流していた。

 

2人には共通する所があり、劉海王の様に烈も初めての弟子を持つに至った。

 

この子を立派に育てあげようと、密かに決意した烈だった。

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