U.C0058 コロニーサイド2『ハッテ』6バンチ ホテル『カラブリア』
「つまり我々のサイド3への移住を取り止めて欲しいと?」
「はい、ビューレン先生の組織にはサイド2での自治独立活動を続けて頂きたいのです」
ホテルの一室、茶色のスーツを着た初老の穏和そうな男と紺色のスーツの目付きの鋭い若い男が向き合っている
「・・・お話は分かりました、しかし、此処サイド2は知っての通り地球に最も近いコロニー群、連邦の影響力は貴方の思っている以上に強いのです、我々の活動もかなりのリスクがつきまといます」
初老の男、ビューレンは一旦言葉を句切りコーヒーに口をつける
「ですので同志達を納得させる為にもサイド3の方々にも何等かの志を示して頂きたいのですが」
「勿論です、こちらをお納め下さい」
若い男は1枚のカードをビューレンに差し出す
「失礼」
ビューレンはカードを自身のタブレットにかざす
「!?、此れはまた大金ですな」
「サイド2の皆さんには無理を押してお願いするのです、この程度の支援は当然かと、もし宜しければ人員なども派遣出来ますが?」
「いいえ、これ以上ご好意に甘える訳には行けませんな、金額は期待の大きさと捉えましょう、必ずや期待に応えて見せるとダイクン先生にお伝え願いたい」
「はい、必ずお伝えします」
その後、二人は現状の確認と意見交換を行い会談を終わりにした
「それではビューレン先生、私は此れで」
若い男が手を差し出す
「ええ、有意義な会談と成りました流石はデギン・ザビ先生のご子息だ若いのに大したものだ」
互いの手を握り握手を交わす
「ありがとうございます、まだまだ未熟者ですがコロニー自治権のため微力を尽くします」
サイド2『ハッテ』6バンチ宇宙港行きエレカ
ビューレンとの会談を終え若い男、ギレンは宇宙港行きのエレカに乗り込みはネクタイを緩めた
(疲れた、まったく19の若造の仕事じゃないだろこんなのこちとら只の元サラリーマンだぞ)
この男ギレン・ザビは転生者である、物心ついた時には前世の記憶があった
機動戦士ガンダム、それがこの男が転生した世界である
ギレンは機動戦士ガンダムを知っていた、と言うよりその作品のファンだった、そして絶望した、ギレン・ザビの最後も知っていたために、戦争を起こし多くの人々を死に追いやり最後は権力闘争の果て実の妹に殺される
そんな終わりかた望まない、死にたくない、初めは逃げ出そうとした、ザビ家と縁を切りどこかでひっそり暮らす、だが何処に行くのか此れから起こる戦争は世界全てを巻き込んだ大戦争、ならば戦争を回避する、此れも上手くいかない、既に戦争の原因とも言える地球連邦と宇宙居住者の溝は埋めがたく先送りは出来ても完全に阻止するのはそれこそ奇跡に近い
そこでギレンは開き直った、ならばもう戦争に勝つしかない生き残るために、そこからはあらゆる策を講じた、前世の記憶と現状を擦り合わせ父に意見して後々重要な発明をする個人や企業に投資、連邦軍人のヘッドハンティングにより軍事ノウハウの蓄積、サイド3の孤立を防ぐために今回のような各コロニーや月面都市の独立活動家と接触して積極的に支援し宇宙居住者に自主独立の啓蒙活動、途中まではギレンの思惑通り進んだが此処で予想外の出来事が起きた
(まさか、父に「自分の発言の責任を取れ」と言われるとは、出来れば目立たず黒子に徹したかったが)
宇宙港から地球行きシャトルに乗り込む
(まあ、やれることはやろう)
「宇宙世紀を生き抜くために」
ギレンは独り言ちる。