サイド3『ムンゾ共和国』31バンチ『ブリュタール』ホテル『コノシア』
コロニー内人工湖として最大級の面積を誇るコノシア湖と森林公園を持つ観光用コロニーには普段の閑静な雰囲気が嘘の様に多くの兵士が警備していた。そんな厳重な警備を敷かれたホテルの一室で二人の男が話していた。
「いやはやムンゾ共和国は良い所ですな」
「・・・」
「人々は明るく、ワインも旨い」
片方の男が一方的に話していた。一方の男の方は顰め面で押し黙っている。話していた男が溜息を着く。
「フレミングさんいい加減に切り替えましょう」
「・・・しかしねアームストロングさん我がムーアは今までが今までだったのですよ」
サイド4『ムーア』首相レイモンド・フレミングは顔を伏せる。サイド4は親連邦的な政策を今まで行ってきた。開戦後サイド4は共和国軍に制圧下に置かれフレミングは生きた心地がしなかった。
「まさか連邦軍が戦いもせず撤退するとは!」
フレミングは怒りに任せ拳を机に振り下ろす。その様子にやれやれとフォン・ブラウン市長アルフレット・アームストロングは肩を竦める。
「しかし過去の事をあれこれ言っても仕方ないでしょう?だいたい共和国がその気だったら我々の命なぞとっくに有りませんよ」
アームストロングはワイングラスを傾ける。
「今は精々ギレン氏に媚びでも売って戦後の良い席を確保する。その事に注力するべきですよ」
事実、今このコロニーには各サイドと月面都市の代表者が集まり共和国側の外交官との会談を行っている。
(狸が!何が媚びでも売ってだ!貴様がアナハイムと組んで連邦と共和国双方に物資を流している事はわかっているんだ!!)
フレミングは心の中で悪態をつくが表情にはおくびにも出さない。
「連邦が敗れると?」
「どうですかね?共和国軍は想定以上に精強ですが、連邦軍は今まで戦争で負けた事が無いのです。正に不敗神話です。しかし・・・」
言葉を区切り再びワインを口に含む。
「ご存知ですか?フレミングさん、連邦軍はそもそも今までまともな戦争をした事が無かったのですよ」
アームストロングは愉快そうに嗤った。
宇宙要塞ルナツー司令室
「第12巡洋艦隊は八番ゲートに誘導」
「第三区画の対空砲の整備は終わったか!」
オペレーター達が忙しく働く中、司令官のロドニー・カニンガン中将はすっかり薄く成った頭髪を撫でながら密かに溜息をつく。
「お疲れ様です。カニンガン中将」
整った顔の長身の将校がカニンガンに声をかける。
「ワッケイン大佐、いやなに政府からの通信に応対していてね」
「それは・・・本当にご苦労様です」
ワッケインは顔を顰める。開戦以降、艦隊保全に努めてきたが戦わず撤退を続ける連邦宇宙軍に対して政府からの連日の突き上げに参っていた。
「開戦前に充分説明したつもりだったが、戦争を現実的に考えていた者がこんなに居なかったとは」
共和国との戦争が始まった現実を目の当たりにして初めて自分の尻に火がついている事に気が付いた政治家達は責任転嫁の相手に宇宙軍を選んだ。カニンガンは再び深い溜息を着く。
「共和国との戦争で多くの犠牲者が出ていると言うのに・・・寒い時代ですな」
「寒い時代か、随分と詩的じゃないか?」
カニンガンは苦笑いを浮かべる。その時、司令室に一人の兵士が駆け込んで来る。
「司令!緊急事態です!」
「どうした?」
「観測班がムンゾ方面で核爆発と思われる閃光を観測その後、小惑星の移動を確認、このままでは地球落下の軌道に乗ります!!」
「何!!」
司令室は騒然と成った。