ギレンは生き残りたい   作:ならない

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番外編【タナバタ作戦】

U.C0079七月七日13:00 日本東北地方フクシマ上空

 

一機の大型ヘリコプターが山間を縫う様に飛んでいる。

 

「あれが有名なフジヤマか?」

 

「軍曹殿、ありゃアダタラです」

 

戦闘服を着た屈強な男達が二十人ほど乗り込んでいた。

 

「間もなく降下地点です!!」

 

「総員装備チェック!忘れ物しても取りに戻れないぞ!」

 

隊長の言葉に全員が一斉にお互いの装備のチェックを始める。

 

「作戦の再確認を行う。今回の任務はムラサメ研究所に捕らえられている被験者の救出と研究データの破壊だ!間違っても被験者に危害を加えるなよ!!」

 

「「「サーイエスサー!!!」」」

 

全員が応えた。

 

「隊長殿!質問宜しいでしょうか?」

 

「何だ?」

 

「警備兵はともかく、研究員はどうします?」

 

ここに居る全員が研究所で行われている非道な行為をブリーフィングで知らされている。そこで隊長は重々しく頷いた後に口を開く。

 

「皆殺しだ!」

 

「「おう!」」

 

「やってやろうぜ!」

 

この日、共和国軍陸戦部隊の精鋭が地球各地のニュータイプ研究所に襲撃をかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

14:00 フクシマ旧コウリヤマ市

 

西暦の時代にはそれなりの人口が有ったこの街も強制移民の影響だろう、完全なゴーストタウンに成っていた。道路には雑草が生え、ビルやマンション等の建造物には蔦が絡まっている。

 

「これが有名なトーキョージャングルか?」

 

「軍曹殿、そりゃトーキョー砂漠じゃありませんか?あとここはフクシマです」

 

ヘリコプターから降りた兵士達は徒歩で目的地のムラサメ研究所に向かっている。

 

「二人とも私語は慎め。ムラサメ研究所まであと10km、全員警戒しろ」

 

ミノフスキー粒子の散布や偵察衛星の無力化により連邦軍の索敵能力が著しく下がったとは言え、ここは敵地のど真ん中、警戒するのは当たり前と言えた。

 

「・・・・ッ!敵歩兵十一時の方向数三」

 

その時、先行して警戒任務に当たっていた兵士が敵兵を発見した。隊長は隠れてやり過ごすように全員に合図を送る。全員が草薮の中に身を潜ませるとほぼ同時に敵兵の会話が聞こえて来る。

 

「今日は一段と暑いすね」

 

「ああ、日本の夏は特に暑く感じる。なんつーかじめじめしてる」

 

「・・・・」

 

「俺、ヨーロッパ勤務長かったから余計にそう思うす」

 

「・・・・」

 

「どうした?一等兵」

 

「・・・・いえ、いつもと雰囲気が違う気がして」

 

隠れた共和国兵は肝を冷やす。

 

「気のせいじゃ無いすか?いつもと同じすよ」

 

「そうですね。すみません自分の気のせいでした」

 

「暑いし仕方ない。基地に帰ったらビール奢ってやるよ」

 

「やったー!」

 

「自分まだ未成年ですよ」

 

連邦の兵士達はそのまま離れて行く。充分離れたのを確認して共和国兵は移動を再開した。

 

 

 

 

 

 

 

 

15:00 ムラサメ研究所付近の丘

 

隊長は副隊長を伴って望遠鏡で研究所の警備態勢を偵察していた。

 

「金網に鉄条網それに監視塔、あれは発電室か?しかし、妙だ」

 

「何がです?」

 

「外を警戒すると言うより、内側から出さない様な配置だ」

 

軍事基地と言うより刑務所や捕虜収容所の様な警備態勢を敷いていた。中心にメインの研究所が有り、その外周に警備兵の詰所や監視塔等が置かれている。

 

「被験者の脱走防止でしょうか?」

 

「だろうな。ふむ、暗くなってから仕掛けるか、潜伏拠点を設営するぞ」

 

「急がなくて宜しいのですか?」

 

副隊長の言葉に隊長は首を横に振る。

 

「思ったより警備の兵士が多い。だが練度と士気は低い様子だ。そんな敵には夜襲が効果的だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

21:50 ムラサメ研究所外周

 

監視塔で夜間警備担当の兵士が欠伸を噛み殺しながら任務に当たっている。

 

「何だ?眠そうだな仮眠しなかったのか?」

 

「一昨日のポーカーの負けを取り戻せそうだったんだ」

 

「負けたくせに、お前は直ぐに熱く成るからギャンブルにゃ向かないよ」

 

相棒に忠告しながら外にライトを当て警備を続ける。背後でドサッと何が倒れる音がした。

 

「寝落ちかよ。危ねぇな」

 

振り返った時に見た物は脳漿を撒き散らして倒れた相棒の姿だった。

 

「何だこムグッ!」

 

何が起こったか理解する間もなく背後から口を押えられた。警備の兵士が最後に見た光景は自分の胸にナイフが沈む瞬間だった。

 

「監視塔クリア、移動する」

 

『了解、此方は一分後に発電室に突入する。総員暗視ゴーグル準備』

 

「了解、よし行くぞ」

 

部下を引き連れて警備兵の詰所の扉前に移動する。きっかり一分で電力が停止、周囲が暗闇に包まれた。

 

「あ、停電か?」

 

「あのポンコツ発電機め!」

 

詰所内から兵士達の声が聞こえて来る。手榴弾のピンを抜き、扉を少し開け投げ込む。

 

「うん、何だ?」

 

爆発、扉が吹き飛んだ。

 

「GO!GO!」

 

直ぐに内部に突入する。連邦の兵士だった物が床や壁に撒き散らされている。かろうじて生きている敵兵も息も絶え絶えと言った様子だった。その敵兵も直ぐに突入して来た兵士達に撃ち抜かれ絶命していく。

 

「報告!」

 

「クリア!」

 

「クリア!」

 

「オールクリア!」

 

基地の他の所々からも発砲音と爆発音が聞こえて来る。詰所の隅には竹が飾られていた。

 

「これが有名なオンミョーのオフダか?」

 

「軍曹殿、そりゃタナバタのタンザクです」

 

 

 

 

 

 

 

 

22:00 ムラサメ研究所内部

 

研究所の内部はまるで普通の病院の様な内装をしていた。もっとも窓には防弾ガラスが嵌められ扉は金属製で内部から開けられ無いようになっている事を除けばだが。

 

「グスッヒグッ」

 

金属製の扉で閉じられた部屋の中で七~八歳ぐらいの少女が膝を抱えて泣いていた。その時、扉が開かれ一人の兵士が部屋に入って来た。少女はビックと体を強張らせて叫ぶ。

 

「いやぁ!やめて!」

 

「もう大丈夫だから、泣かないで」

 

「いやぁ!いやぁ!」

 

兵士が出来るだけ優しい声で宥めようとしても少女は叫び続ける。その様子に兵士は怒りが心の底からこみ上げて来るのを感じた。

 

(こんな子供に何でこんな仕打ちが出来るんだ!!)

 

少女の手首にはNo.4と書かれたタグが付けられていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

金属製の扉が並ぶ中、奥まった場所に所長室と書かれた高級そうな木製の扉の部屋が有った。

 

「クソ!クソ!クソ!」

 

所長室の室内に悪態を着きながら紙の資料をカバンの中に詰め込んでいる一人の男がいた。ムラサメ所長、ムラサメ研究所の創設者にして主任研究員を勤める男

 

「私はこんな所で死ぬ男じゃない!」

 

だが今はハンターに怯える獲物に過ぎない。

 

「連邦兵士の役立たずめ!」

 

資料をカバンに詰め終わり逃げ出そうと扉に向おうとした時、木製の扉が蹴破られてハンターが室内に入って来る。

 

「ヒィ!」

 

「ムラサメ所長を確認!」

 

ハンターたる共和国兵士が所長に銃口を向ける。

 

「待って!私は!!」

 

言い終わる前に銃口から放たれた弾丸は所長の眉間を正確に撃ち抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

22:30 ムラサメ所長外周

 

共和国の兵士達は連邦軍のトラックを数台奪い、被験者の少年少女を乗せていた。多くが酷く怯えて居るか、まるで人形の様に何の反応を示さない。隊長はその様子に憤りを感じずに居られなかったが表情に出さない様に努めていた。

 

「隊長、最後の一人を乗せました。撤収準備完了です」

 

「良し、総員撤収!!」

 

トラックの車列が走り出しムラサメ研究所を後にする。充分離れた所で隊長はスイッチを押し込む、その瞬間ムラサメ研究所は爆炎を上げて地上から消滅した。同日、世界中で非道なニュータイプ研究を行っていた研究所が同じ様に襲撃を受け徹底的に破壊された。生き残った研究者は一人もいなかった。


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