サイド5【ルウム】付近宙域 ムンゾ共和国軍第四艦隊【ドロス艦隊】所属グワジン級戦艦【グワラン】
「壮観だな」
グワラン艦長、ラコック大佐は感嘆の声を洩らす。今、この宙域には共和国軍の戦力の約七割が集結している。特にグワジン級戦艦は、このグワランを始め、グワジン、グワリブ、グワデン、ガンドワ、ズワメル、グワバン、グワダン、クワザン、グワメル、の十隻が集まり、本土防衛任務に就いているグレートジオン(艦の命名に存命の人名を付けるのは個人崇拝が過ぎると言う非難有り)と移動中の小惑星に帯同して防衛の指揮をとっているギドルを除いたグワジン級が集結していた。
「これ程の戦力が一同に会するのだから当たり前だが」
ドロス級宇宙空母一隻、グワジン級戦艦十隻、ザンジバル級機動巡洋艦三十四隻、ティベ級高速巡洋艦六十隻、ムサイ級巡洋艦二百二十隻、合わせて三百三十五隻の戦闘艦、作戦参加モビルスーツ二千九百九十機、更に後方には補給艦や病院船と言った補助艦艇が百隻が待機している。
「艦長、斥候部隊が敵艦隊を捕捉。予測通りの航路を進撃中。艦隊司令部より命令、作戦計画に従い移動開始せよ」
オペレーターの報告を聞きラコックは気を引き締める。
「総員、第一種戦闘配置!」
「アイ、アイ、サー!第一種戦闘配置!」
艦内放送と警報が鳴り響く。
連邦宇宙軍コロニー駐留艦隊旗艦マゼラン級戦艦【ホレーショ・ネルソン】
「提督、敵艦隊を捕捉。数三百隻以上。既に布陣完了している様です」
共和国軍は広く両翼を広げる様に布陣している。数で劣る連邦艦隊を包囲する腹づもりだろう。
「ふん、大艦隊だな」
ワイアットは忌々しげに吐き捨てる。だが直ぐに気を取り直す。
(いかんな、紳士たるもの余裕を持たなくては、英国紳士たる者を示して見せよう。・・・・英国の誇る舌先をな!)
「全艦に通信を繋げてくれたまえ」
「ハ!・・・・どうぞ」
副官からマイクを受け取りワイアットは言葉を紡ぐ。
「諸君、艦隊司令のグリーン・ワイアットだ。我々地球連邦宇宙軍は現在に至るまで地球圏の秩序を守って来た。我々こそが地球圏の守護者だ。我々は平和を望んでいる。そんな我々にムンゾ共和国は挑んで来る」
自分達の正当性を強調する。歴史上多くの指導者が言った言葉【平和を望んでいる】と、この戦いは【攻撃】では無く【報復】で有ると。
「彼等は言う地球連邦が彼等の権利を踏み躙っていると、しかし、共和国政府は本当にスペースノイドの権利を守るために今回の戦争を起こしたのだろうか?」
兵士達に問い掛け意識を惹く。
「否である!」
兵士達が考えるより早く強く否定する。
「共和国政府は、ギレン・ザビはその様な事を考えて居ない!彼の中に有るのは自己の利益を大きくする事だけだ!故に我々は勝たねば成らない!彼等を独裁者から解放するために!」
実の所、ワイアットはギレンに悪い感情を抱いていなかったが、敵の政府や指導者を【悪魔】とする事で倒す相手を明確にする。
「敵は我々より多く、よく訓練された精強な軍だ。しかし、敵艦隊は戦争の基本たる戦力集中を疎かにして広く布陣している。つまり敵陣は薄いと言う事、つまり突破は容易だ!」
勝ち筋を示す。
「正義は我々に有る!ならば勝つのは我々だ!」
歓声が至るところで挙がる。ワイアットはマイクのスイッチを切って副官に渡す。
「お見事です提督!」
副官が興奮気味に賞賛を送って来る。
「うむ・・・」
ワイアットはその賞賛に軽く応え提督席に腰を下ろし紅茶を一口含む。普段より苦く感じた。