ギレンは生き残りたい   作:ならない

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ルウム会戦(2)

連邦宇宙軍地球軌道艦隊旗艦マゼラン級戦艦【タイタン】

 

全艦隊に向けて発信されたワイアットの演説を聞きティアンムは思わず苦笑してしまった。

 

「ワイアット提督の苦い顔が目に浮かぶな」

 

「は?」

 

艦長が怪訝そうな顔をする。ティアンムの艦隊に所属する者は上司に似て、裏を読むとか高度に政治的な判断だとかに疎い者が多い。

 

「帰還したら上等なウィスキーでも一本、贈らなければ成らないと言う事だ」

 

艦長は首を傾げる。

 

「無事に帰れればな・・・」

 

ティアンムの最後の呟きは誰にも聞かれ無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

共和国軍ドロス級宇宙空母【ドロワ】モビルスーツ第二格納庫

 

ドロワに三つ有るモビルスーツ格納庫の中の一つ六十機のモビルスーツが並んでいる。その中に黒く塗装されたゲルググが三機が駐機され、その前で黒いパイロットスーツを着た三人組が年若いパイロット達に激を飛ばしている。

 

「機体は毎日工場で何十機と作られる!だがパイロットは何年もかけてやっとケツの殼が取れるんだ!」

 

ガイア大尉の言葉をマッシュ中尉が継ぐ様に話す。

 

「良いか!【死んでも任務を遂行する】とか考えているヤツはパイロットとして二流三流だ!」

 

オルテガ中尉が更に継ぐ。

 

「生きて任務を果たすのが本物のモビルスーツパイロットだ!」

 

最後にガイアが拳を振り上げ叫ぶ。

 

「お前ら連邦軍ごときに殺られんなよ!!」

 

「「「おう!!」」」

 

それに若いパイロット達が応える様に拳を振り上げ叫ぶ。

 

「解散!」

 

其々の機体に散って行く。

 

「さて、何人生き残れるか・・・・」

 

ガイアは先程の力強い声とはうってかわって苦し気な声を出す。モビルスーツが戦力化して十五年、その間、モビルスーツの真の価値を連邦軍上層部が理解する事は無かったが、それでも連邦宇宙軍の現場指揮官達が工夫して生み出した対モビルスーツ戦術は無視する事が出来ない程には仕上っている。そんな強敵と自分達が鍛えた若者達が戦うのだから心中穏やかでは無かった。

 

「生き残す、だろ?」

 

マッシュが不敵に笑う。

 

「そうだ、その為に派手に塗ったんだからよ」

 

オルテガは自分達の機体を顎でしゃくる。艶やかに光る黒と紫に塗装され、そして肩に鮮やかな黄色い三本のラインが走っている。戦場で目立つこと請合いの塗装であった。視覚による情報がより重要度が増したミノフスキー粒子散布下に置いて、エースパイロットや隊長達への角飾りやパーソナルカラーとエンブレム等の施工は、味方へは憧れと勇気を敵へは心理的圧迫と恐怖を与える事となった。しかし、同時に敵兵の敵愾心を煽る事も確かで有り、敵の攻撃がエース機や隊長機に集中する事が有った。この三人組【黒い三連星】はその事を逆手にとって自身達に敵の注意を集中させる事で味方への攻撃を減らすと言う。良く言えば豪胆な悪く言えば無茶な戦い方をしてきた。そして確かに彼等の居る部隊の損耗率は他の部隊と比べ低く抑えられていた。

 

「そうだな・・・・よし!俺達も行くか!」

 

「おう!」

 

「連邦の野郎を宇宙から蹴り出してやるぜ!」

 

三人は特注品のヘルメットを被りコクピットに乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

共和国軍第一艦隊旗艦グワジン級戦艦【グワジン】艦橋

 

「閣下、モビルスーツ隊の配置完了しました」

 

共和国軍総司令ランドルフ・ワイゲルマン大将は参謀長の報告に首肯く。

 

「敵情は?」

 

「我が艦隊の正面、やや左翼方面に展開中です。一部が分離、三十隻がルウム宙域から離脱しました」

 

メインモニターに分離した艦隊の情報が映し出される。

 

「小惑星に向かう航路か、追撃は・・・・無理だな」

 

「はい、敵艦隊本隊が殿軍を務めている様です」

 

分離した艦隊の後背を守る様に密集して陣を敷いている。モビルスーツを警戒しての事か対空に強い陣型だった。

 

「まるで古代のファランクスだな。ふむ、小惑星防衛隊に通達は?」

 

「既に敵艦隊追撃の情報を通達しました」

 

「宜しい、では此方も始めようか、全軍戦闘体制に移項せよ」

 

「ハッ!全軍戦闘体制に移項!」

 

命令一下、オペレーター達が各隊に通達して行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

連邦宇宙軍コロニー駐留艦隊旗艦マゼラン級戦艦【ホレイショ・ネルソン】

 

「共和国艦隊動き始めました!」

 

「来たか」

 

興奮気味のオペレーターの声を聞きながらワイアットは冷静にメインモニターを眺める。共和国艦隊から見て左翼側に纏まっている連邦艦隊に対して共和国艦隊は右翼側の艦隊を連邦艦隊の側面に移動させ始めた。このまま移動を続ければ逆L字の様な形になる。連邦艦隊に対して十字砲火を浴びせる気だろう。

 

「艦砲射撃で此方の陣型を散らしてからモビルスーツで止めを刺すつもりだろうな」

 

「しかし、敵は最初から随分と大胆に動きますな」

 

「此方の陣型を見ての事だろうが・・・・」

 

連邦艦隊が密集している為に機動が制限されていると判断したのだろう。だが

 

「勝負を焦ったな。敵艦隊の連接点を衝く!全艦最大船速!」

 

あろうことか、連邦艦隊は密集したまま加速を始めた。共和国軍は知らない事だったがコロニー駐留艦隊司令グリーン・ワイアット提督は連邦宇宙軍で最も艦隊統制能力に優れた指揮官だった。ワイアット提督指揮の元、連邦艦隊は一糸乱れぬ艦隊機動を取っていた。

 

「突撃!!」

 

連邦艦隊は一個の塊と成って共和国艦隊の一点に襲い掛かろうとしていた。


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