連邦宇宙軍ルナツー駐留艦隊旗艦マゼラン級戦艦【アナンケ】
ミサイルが艦橋のすぐ横も掠める様に通りすぎていった。艦橋の乗組員達が悲鳴を上げる。
「危っ!対空砲弾幕薄いぞ!ボール隊は迎撃どうした!」
艦長の怒号が飛ぶ中、カニンガンは押し黙ったまま思考を巡らせていた。今回の作戦の目的、ルナツーを守り、艦隊も守る。敵艦隊の足止めを行い小惑星攻撃艦隊の後背を守り、かつ主力艦隊の被害を抑えてルナツーまで撤退しなければならない。艦隊が有っても補給や整備のための拠点が無ければ艦隊を維持が出来ない。ルナツーを防衛出来たところで連邦宇宙艦隊が全滅しては意味がない。何とも困難な作戦だった。
(それでもやるしか無いか・・・・)
「ビーム攪乱幕の減衰率はどうか?」
「ハッ!現在減衰率55パーセントです」
カニンガンは顎を一撫でして指示を出す。
「宜しい、20パーセントを切ったら報せろ」
「了解!」
『艦橋へ、此方は砲術科!砲撃準備良し!何時でも撃てます!と言うより早く撃たせろ!』
「貴様!なにをッッ!」
いきなり通信に割り込んで来た砲術長に怒鳴ろうとした艦長をカニンガンは手で制す。
「砲術長、司令のカニンガンだ」
『ッ!!ハッ!閣下』
通信越しにも緊張が伝わって来る。
「君らの仕事はまだ先だ。なに焦る事は無い」
『しかし!』
「決定打を君らが撃つのだ!」
息を呑むのが分かる。実際ミサイル攻撃は共和国艦隊に被害を余り与えていない、ミノフスキー粒子のせいでミサイル自体の誘導性能が低下しているのも有るが、敵艦隊の直援モビルスーツ隊が効果的にミサイルを迎撃しており敵艦への直撃を防いでいるためだ。やはり決定的なダメージを与えるにはメガ粒子砲による攻撃が必須だった。
「だからもう少し辛抱してくれ」
『ハッ!!了解であります!!』
砲術長は興奮気味の声を上げ通信を切る。
「提督!宜しいのですか!?」
艦長が不満を溢す。
「すまん、艦長の職責を奪った形になってしまった。しかし、劣勢の時はあのぐらい跳ねっ返りの方が頼りに成るものさ」
連邦宇宙軍コロニー駐留艦隊所属マゼラン級戦艦【ジョージ・デューイ】
ミサイルが左舷に直撃して艦が激しく振動する。通路で火の手が上がる。
「うわ!もうダメだ!」
メガネをかけた若い乗組員が悲鳴の様な声を上げ、頭を抱えてうずくまる。
「戦艦が簡単に沈むか!!」
ベテランらしい角刈の乗組員が叫ぶと同時に若者の胸ぐらを掴み乱暴に立たせた。今だに体を震わせているのを見て、顔に平手打ちをかます。
「おい!確りしろ!死にたくなければ手を動かせ!」
「は、はい!」
若い乗組員オスカ・ダブリンは何とか気を取り直し消火作業を始める。
連邦宇宙軍地球軌道艦隊所属第九機動戦隊ボール十六番機
砲から撃ち出された対空散弾で迫り来るミサイルを撃ち落とす。爆発と共に撒き散らされた破片が機体の装甲に当たり、コクピット内にガンガンと音が響く。
「ヤバい!ヤバい!」
コクピットに収まった恰幅の良いパイロットは冷汗を流しながらボールの貧弱な装甲が破片を弾いてくれる事を祈った。瞬間、警報が鳴る。
「のわ!!なんだ!?」
機体に異常かと肝を冷やした。モニターには砲弾の残りが後わずかと警告表示されていた。
「クソ!脅かしやがって!!」
モニターをぶん殴る。
『リュウ、リュウ・ホセイ軍曹、応答しろ』
隊長機からの通信に慌てて応答する。
「此方、リュウ、隊長殿、何でありますか?」
『お前の機体、残弾が少なくなっているはずだ。今のうちに補給に戻れ』
「了解であります」
これで一息着けるとホッとする。
『それから搭載機器は丁寧に扱え、機着長にドヤされるぞ』
「ハッ、申し訳ありません!」
返事をしながら乱暴にフットペダルを踏み込みスラスターを噴かし母艦に帰艦する。
連邦宇宙軍ルナツー駐留艦隊旗艦マゼラン級戦艦【アナンケ】
「提督、ビーム攪乱幕の減衰率20パーセントを切りました」
「良し!主砲発射用意!ミサイル発射管は対ビーム粒子弾装填、メガ粒子砲の一斉射と同時にビーム攪乱幕の第二弾発射だ!」
命令を各艦に通達して行く。
「砲術長、待たせたな。準備は万端かね?」
『ハッ!何時でもどうぞ』
敵味方の艦隊同士の距離が縮んで行く。カニンガンはタイミングを計って命令を下す。
「撃て!」
『待ってました!!』
光の矢が一斉に共和国艦隊に降り注ぐ。
熱中症に気を着けましょう。室内だからと気を抜いたらダメ本当に・・・・