ギレンは生き残りたい   作:ならない

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ルウム会戦(5)

共和国軍第三艦隊第25攻撃機動中隊一番機【ビーダーシュタット専用ゲルググイェーガー】

 

ベージュ四肢と茶色の胴体を持つゲルググイェーガーは90mmマシンガンでミサイルを迎撃していた。

 

『十番艦【アマツォーネ】ミサイル直撃!被害甚大!』

 

「ちっ!全機迎撃のペースを上げろ!艦隊を守れ!」

 

配下の部隊に激を飛ばし、自身もミサイルを迎撃するために90mmマシンガンの空になったマガジンを棄て次のマシンガンを挿入して対空散弾を装填した。その時、コクピット内に警報が鳴る。

 

「何だ!?ッ!!全機回避しろ!!!」

 

言うが早いかシールドを掲げ回避機動をとる。

 

『隊長?何が』ガッジジ・・・

 

反応の遅れた僚機の一機がピンク色のビームに貫かれ爆散する。回避行動をとった部下の中にも直撃は避けることは出来た物の被弾する機体が出てくる。

 

「くっ!」

 

自機も掲げたシールドに直撃をうけ左手首ごと破壊される。時間にして二十秒ほど、連邦艦隊のメガ粒子砲一斉射をうけた共和国第三艦隊は旗艦【グワデン】を含む13隻が大破、撃沈が8隻、他の全ての艦も小破ないし中破という甚大な被害を被った。

 

 

 

 

 

 

 

 

サイド3【ムンゾ共和国】首都バンチ【ズム・シティ】首相官邸

 

会議室にムンゾ共和国の何人かの大臣が集まりモニターに望遠で写し出されたルウムでの戦闘映像を見守っていた。現在、共和国艦隊は連邦艦隊の攻撃により甚大な被害を出している。何人かは不安気な表情をしている中、ギレンは落ち着いた声で参謀本部から派遣されて来たラルフ・オルバイ大佐に疑問を投げ掛けた。

 

「この状況で連邦軍の狙いは何だ?」

 

「ギレン閣下!何を落ち着いているのです!?我が軍が劣勢なのですよ!!」

 

集まった大臣の一人ダルシア・バハロが凄まじい剣幕で怒鳴る。

 

「我々が焦ってどうする?・・・・賽は投げられたのだ。後は軍を信じて待つ他に有るまい」

 

怒鳴った訳でも無いギレンの言葉の妙な圧力にバハロは押し黙ってしまう。

 

「オルバイ大佐、君の分析を聞かせてくれ」

 

「ハッ、連邦艦隊の狙いは中央突破による戦域離脱だと思われます」

 

オルバイの返答に同席していたサスロが疑問を挟む。

 

「中央突破と戦域離脱、全く逆の事に思えるが?戦域を離脱したければ我が軍と会敵時に反転すればよかったのではないかね?」

 

「突破離脱を行った例は歴史上にも類が有ります。有名所では関ヶ原の合戦での島津の退き口などです」

 

うんうんと頷いているギレン以外、大臣達は関ヶ原や島津と言う聞き馴れない単語に疑問符を上げている。咳払いを一つ入れオルバイは説明を続ける。

 

「それはともかく、我が軍との会敵時、あの時点で反転撤退すれば我が軍が追撃を行い連邦艦隊に大損害を与えていたでしょう。小惑星攻撃艦隊にも分艦隊を派遣出来ました。しかし、突破を謀る事で連邦艦隊はそれを防ぎました。そして軍隊は多勢で有れば有るほど機動力は低くなります。背面に回り込まれた場合にも回頭するだけでも時間が掛かります。まして敵の攻撃で中央から分断された状況なら尚更」

 

「つまりその時間を利用して戦域から離脱する、と」

 

ギレンの言葉をオルバイは肯定する。

 

「しかし、離脱してどうする?」

 

「考えられるのは、二つです。可能性として高いのは月を利用してのスイングバイでルナツーに逃げ込む事。もう一つは可能性は低いですが、本国つまりサイド3を強襲する事です」

 

「サイド3に敵が攻めて来るだと!」

 

「大丈夫なのかね!?」

 

二つ目の可能性を聞いた大臣達が色めき立つ。

 

「可能性は低いと言う言葉が聞こえなかったのかね?オルバイ大佐続きを」

 

それをギレンが一睨みして大臣達を黙らせ、オルバイの話を続けさせる。

 

「ハッ、続けさせて頂きます。本国強襲の可能性が低い理由ですが本土防衛部隊の存在が大きいのです」

 

「しかし、本土防衛部隊の戦力はさほど多くは無いはずだが?主力艦隊を抜いたほどの敵を撃破出来るとは思えないのだが?」

 

「撃破する必要は有りません、主力艦隊の追撃がやって来るまで時間を稼げれば良いのです。数で優勢を確保出来、挟撃にもなりますので態勢的にも有利に立つ事が出来ます。しかし、それを敵将が理解していないとは思えません」

 

そこまで言ってから言葉を句切り回りの大臣達の顔を眺め此所まで疑問が無いか確認した。

 

「ですので敵艦隊の狙いは突破後のルナツーへの撤退だと考えます」

 

「では、本土防衛部隊をその様に移動させた方がよいか?」

 

「いいえ、その必要は無い様です」

 

オルバイはモニターを指差しながら

 

「これで王手です」

 

オルバイは胸を張って言い放った。


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