ギレンは生き残りたい   作:ならない

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番外編【底無しの沼】

U.C0077 サイド3【ムンゾ共和国】首都バンチ【ズム・シティ】ザビ家私邸

 

「…完成だ」

 

ギレンは机の上に置いて有る物を眺める。

これを完成させるために費やした時間を思い出しタメ息を着く。

首相として忙しく働く合間に少しずつ作り上げた。

軽く伸びをして固く成った体を解す。

 

「長かった…」

 

机の上には深緑色のプラモデル1/100、MS-06FZ【ザク改】が立っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

【ズム・シティ】首相官邸

 

事の起りは一年前の執務室、休憩中に何の気無しにクラウス・ルーゲンス軍務大臣と雑談をしていた時、たまたま話題に上がった話しだった。

 

「モビルスーツのプラモデル?」

 

「はい、国内の玩具メーカーが制作販売の許可を求めて来ました。軍の広報の一環に成りますし許可しようかと」

 

宇宙世紀に成ってもプラモデルは趣味として一定の需要が有る。

勿論、宇宙ではプラスチックの原料である石油は採れるわけが無いので、トウモロコシ等の植物由来の合成樹脂が使われている。

 

「それは面白そうだな、販売したら私も買おう」

 

ギレンの前世はガンダムオタクで有った。(今世でも立場を利用して自宅に訓練用モビルスーツシミュレーション筐体を私用に置くほどにはオタクだった)

ガンプラも何体か作った事も有る、とは言えそんな凝った物を作る訳では無く、いわゆる素組と呼ばれるただ組み立ただけの物だった。

久し振りにガンプラを作ってみようと軽い気持ちで有った。

 

 

 

 

 

 

 

 

それから約半年、モビルスーツのプラモデルが販売された事を知ったギレンは通販で買い求めた。

配達された商品を見てギレンは違和感を覚える。

 

「何だ…これは…」

 

まずパッケージとは違う、そこに写っているのはスタイリッシュにポージングを決めるモビルスーツでは無く、やたらと渋い絵柄で、これまた渋い顔のパイロットがコクピットから身を乗り出し整備員に指示を出している。

そして何より中身が違う、単色で色を塗る事を前提としており、何よりパーツが細かい、その数千以上、まず素手で組み立るのはまず不可能、ピンセットとルーペが必要だろう。

バンダイのガンプラを買ったつもりが、間違って海外メーカーのミリタリー物プラモを買ってしまった様な心持ちだった。

とは言え買った物をそのまま詰むのはもったいない。

その日から仕事の合間を縫って少しずつ組み上げていった。

 

「こんな愛想の無い説明書始めてだ…」

 

大量のパーツのわりに説明書は四つ折りの紙が一枚、字が小さい上に分かりずらい。

 

「あれ?パーツが無い」

 

細かいパーツは直ぐに見失う。

 

「あぁ、パーツが余った、こっちは足らない」

 

同じ様な形のパーツは一度混ざると見分けられ無い。

 

 

 

そして今日、数ヵ月の苦労の末にプラモデルが完成した。

完成したザク改を眺めて満足気に笑う。

 

「ふふ、我ながら綺麗に出来ているではないか」

 

一頻り眺めた後でうめく様に呟く。

 

「だが、プラモデルはもう十分だな…」

 

一つ作るのに酷く疲れた。

完成品を飾り棚に置き部屋を出る。

 

 

数日後、ネットでニュースを見ていたギレンの目に一つの記事が止まる。

 

「MS-05QザクⅠQ型のキット化だと!?何とマニアックな…」

 

数分後、ネットショッピングで注文していた。

ギレンは一度嵌まると抜け出せない沼に嵌まってしまっていた。


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