U.C0066 地球 南米大陸 連邦軍本部ジャブロー
この巨大地下基地は未だ建設途中ではあったが一部本部機能は既に稼働していた。その中の一つが連邦軍人事局である。地上の茹だるような蒸し暑さとは違って人事局事務室は空調が利き涼しいほどであった。
「どうしたものか」
その中に有って室内の温度を一、二度上げているのではないか、と思える肥満体の将校が一人、人事局長ゴップ准将である。
「兵が足らんとは、連邦軍始まって以来の事ではないかね」
ゴップの言葉どおり連邦軍は慢性的な人手不足に陥っていた。と言うのも宇宙居住者スペースノイドの志願者が近年激減したためだ。宇宙世紀が始まって半世紀以上過ぎた現在、コロニーや月面都市更には木星船団等の特殊な環境を含めれば人類全体の約90%が宇宙に住んでいる。必然的に連邦軍人も多くの割合がスペースノイドと言うことになる。
「地上軍は比較的ましな様ですが」
副官の言葉に気だるげにうなずく
「だろうな、ヨーロッパ方面軍のパウルス少将や海軍のバッフェ准将が郷土防衛を主張してアースノイドの志願者が其なりにいるからな、問題は宇宙軍だよ」
老朽化した宇宙艦艇や戦闘機を更新するために長年に渡り企てられてきた宇宙軍増強計画、其を僅か数日で台無しにした政治家と軍高官の汚職事件、当然ながら宇宙軍の威信は失墜し、そこに付け入る様に地上軍閥の横槍が入り予算や人員を削られた。其れでも連邦宇宙軍が運営できたのは宇宙に置いて唯一の軍事組織だったため一定の志願者はいたためだが、そこに二年前のサイド3での災害である。素早く対応して被害を最小限に止めたサイド3防衛隊に対し連邦宇宙軍の対応の酷さは部隊指揮に関しては無能を自負するゴップをしても「醜態を曝さないだけ行かないほうがまし」と言わしめる程だった。
「議会では徴兵制への移行も視野に入れているようですが」
「戦時下でも無いのにか?其に地上軍はともかく宇宙軍ではただの歩兵等は使えんよ、其にしても、サイド3の防衛隊、今はムンゾ共和国建国宣言に伴い国軍に改名したが、有能な人材が奴らに流れるのは痛いな」
本来宇宙軍人とは高い技能を要るエリートの筈がアースノイドがスペースノイドを見下す風潮のせいで連邦政府内に置いて何処か外様の用な雰囲気が醸成されていたが近年になって其が一気に表面化、結果連邦軍に見切りを付けた人材が、サイド3防衛隊、改めムンゾ共和国軍に入隊することが多くなっている。
「サイド3に対して経済封鎖が決定しましたが・・・」
「実行力は無いだろうな」
ムンゾ共和国は穴だらけの連邦軍艦隊の警備の目を簡単にすり抜けるだろう。連邦宇宙軍の現状は、信用が無いため志願者が居ない、兵士の補充が居ない、兵士を教育する時間が短い、練度と士気が低い、不祥事を起こして信用を無くす。悪循環に陥っていた。