地球 ニューヤーク 飲食店【ボウデンズ・ダイナー】
早朝、西暦の頃から経営され地域住民から愛され続けた古き良きダイナー、昔ながらのステンレス製の細長い形状の店、古くさい曲がこれまた古くさいジュークボックスから流れている。使い古された鐘の音と共にドアが開き馴染みの客が入店する。
「いらっしゃい警部」
「おはよう、リジー」
ニューヤーク市警の初老の刑事ゴードン警部は馴染みの店員のリジーと挨拶を交わす。
「いつもの?」
「ああ、頼む」
「レタスとトマトのサンドイッチ、チーズ抜きとコーヒーは砂糖抜きミルク少なめね」
注文を書き込み、引っ込もうとした店員を呼び止める。
「やっぱり、チーズも入れてくれ」
「良いの?」
「女房には内緒にしてくれ」
リジーは笑いながら厨房に注文を通すとコーヒーの淹れ始める。
「疲れてるみたいだなゴードン」
「あんな宣言が有った後だからな署長も市長も皆ピリピリしてる。それに昨日の夜にバカなガキが触発されて立て籠り事件を起こしたりするもんだからあまり寝て無い」
顔馴染みの客と最近の情勢などを話している。その時、ガタガタと店内の調味料やインテリアが震え出す。
「地震か?」
揺れはしだいに大きくなり、外から大きな音が近づいてくる。
「様子を見てくる。皆、外に出るなよ」
ゴードンは脇のホルスターから愛用のリボルバーを抜き外に出る。
「…どうなってるんだ!?」
ニューヤークの市街地を轟音を響かせながら走っている物を目撃する。
暫し茫然としていたが急いで無線で本部に呼び掛ける。
「本部!!こちらゴードン警部!!市街地で戦車が走ってる!!どうなってるんだ!!」
ニューヤーク市警本部
『こちらパトロール116、セントラルパークを装甲車が走り回ってる!!』
『パトロール088、タイムズスクエアを戦車が走って!?あぁ俺のパトカー踏み潰しやがった!!』
『アッパー・ニューヤーク湾に戦艦が浮いてるぞ!!』
各地の警官達からの悲鳴の様な通信に市警本部は始まって以来の混乱に陥っていた。その様子に署長は努めていつも通りの落ち着いた声で命令する。
「各員は現地の最上位の者が指揮を取り市民を最寄りの避難所に誘導を開始、市民の安全を最優先にしつつ情報を収拾、現状を把握する」
その声に多少の冷静さを取り戻したオペレーター達は各所に指示を飛ばして行く。
「エッシェンバッハ市長と連絡は取れたか?」
「市議会に出席中だった様ですが、議会場と連絡が取れません」
「仕方ない、今は出来る事をやるだけだ」
ニューヤーク市警の長い一日が始まった。
ニューヤーク市 マンハッタン ブロードウェイ
地球統一軍第301戦車中隊第1小隊の小隊長ハーマン・ヤンデル中尉は61式戦車のキューポラから身をのりだし周囲に目を配りながら四両の戦車で市庁舎に向かっていた。
『市民の皆さんは建物から出ないで窓からは離れてください。我々地球統一軍は皆さんの敵ではありません』
戦車に据え付けられたスピーカーから録音された音声がリピート再生されている。民間人の多く居る市街地を進撃しながらも間違っても民間人を戦車で引き殺す様な事が有っては為らない。『地球統一軍の目的は連邦政府高官の粛清と新しい強い指導者の下で地球圏の再統一で有り侵略では無い』と言う建前上、当然の配慮である。
「隊長、前方に防御陣地」
前方に双眼鏡を向ける。
確かに警官隊がバリケードを張っているが、とてもお粗末な物で防御陣地などと言える代物では無かった。一部の警官はポリカーボネート製のシールドを構えている。
「先ずは警告、その後解散しなければ威嚇射撃を行う」
スピーカーのマイクを取り警官隊に警告を発したが警官達は動こうとしなかった。
「職務熱心な事に感心するべきか、融通の利かない事に呆れるべきか」
タメ息を付く
「同軸機銃で威嚇射撃を行う。当てるなよ───撃ェ!!」
搭載された機銃が火を吹く、警官隊の頭上や直ぐ前の地面に着弾する。警官隊は雲を散らす様に逃げ出す。
「良し、全車前進」
そのまま進撃を再開した小隊は別途進出していた歩兵部隊と合流、市庁舎を制圧した。
その日の内にニューヤークは完全に統一軍の占領下に置かれた。同日、北米の東海岸に同時に上陸した統一軍に未だ防衛体制を整えていなかった連邦軍は次々に撃破され、数日後には東海岸側は西はアパラチア山脈まで南はジョージア州まで占領された。