ギレンは生き残りたい   作:ならない

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状況

八月、統一軍の宣戦布告から六ヶ月が経とうとしていた。

 

北米東海岸に上陸した統一軍北米方面軍総勢三十五万人は勢いそのままに北米大陸全土を制圧するかに思われた。しかし、アパラチア山脈に展開した連邦山岳師団に阻まれ機甲戦力を中核とした統一軍北米方面軍の進軍は停止した。海岸沿いに南下した統一軍北米方面軍第二軍団は、キャリフォルニアベースより出撃した連邦機械化歩兵師団と海兵師団がメキシコ湾の連邦海軍大西洋第一艦隊による支援を受けながらアラバマとミシシッピで必死の防衛戦を展開、膠着状態に陥っていた。

 

一方で連邦派と統一軍派の派閥争いで混乱の続いていたアジア方面では方面軍連邦派が窮地に追い込まれていた。今まで状勢を静観していた極東アジア軍団長ライアー中将が統一軍に協力を正式に表明した事により状勢は一気に統一軍派に傾いた。連邦派の将兵は多くが拘束され残った連邦派は中央アジア旧アフガニスタンの山岳でゲリラ戦を展開していた。

 

アフリカ大陸では連邦の劣勢は明らかであり統一軍アフリカ方面軍の浸透戦術によりゆっくりとしかし確実に戦線は後退、自身の劣勢を鑑みた連邦アフリカ方面軍は残る戦力をキリマンジャロ基地に集結、籠城の構えを取り徹底抗戦を唱えた。

 

南米大陸では連邦軍本部ジャブローに逃げ込んだ政府高官達により連邦政府臨時国会を設置、連邦における軍事だけで無く政治の中心と成った。連邦軍は本拠地南米を防衛するべくジャブローの工廠をフル稼働し南米沿岸部の防衛部隊を増強、同時に北米方面への増援を編制、急激な増強により急増した兵站への負担は退陣を免れたゴップ大将の手腕により滞りなく進められその速度は統一軍の予測より遥に早く戦況硬直の一因となった。

 

統一軍側は大西洋の第二、第三、インド洋の各艦隊を味方に付けるも、バッフェ提督率いる大西洋第一艦隊が連邦側に付き、状況が不利と見るやメキシコ湾とカリブ海に引きこもり、要塞化したアンティル諸島の連邦陸軍と連携して攻め来る統一軍艦隊を退け続けている。太平洋では海軍艦隊総司令部のあるハワイ諸島を連邦側が掌握、さらにオーストラリアをも手中に納め太平洋での制海権を奪取、アジア方面とインド洋に睨みを利かせていた。

 

統一軍占領下の地域では正体不明の部隊による研究施設への破壊工作が起こったりはしたが戦況に変化を及ぼすほどの事では無く、各地で戦線は膠着、泥沼化の様相を見せ始めている。両軍共に状況打開の一手を模索していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

サイド3【ムンゾ共和国】9バンチ【海】

 

ギレンは海辺を歩く、強い陽光が照りつける。ビジネススーツのジャケットを脱ぎネクタイを緩め衿のボタンも外す。少し歩くと大きなテントが張られていて其方に歩いて近付いて行くと警備の兵士が制止しに来る

 

「ここは現在、立ち入り禁止です。直ちに立ち去って下さ…ッ!ギレン閣下!失礼しました!!」

 

ギレンに気付いた警備の兵士が慌てて敬礼をとるのを手で制しテントに入る。テントの内部では機材が並べられモニターには次々と数値とグラフが変化して行くのを白衣や作業着を着た技術者達が観察しては手もとの端末に何やらを打ち込んでいる。

 

「皆、ご苦労様」

 

「ギレン閣下!?お出ででしたか、連絡を頂ければお迎えに上がりましたのに」

 

一番年配の技術者が驚いてイスから立ち上がる。

 

「君達は忙しいだろうからね。それに最近は執務室で缶詰めでね久しぶりに海辺でも歩きたかったんだよ」

 

ギレンは悪戯ぽく笑う。

 

「それで状況はどうだね」

 

「概ね順調です。ただ─」

 

海洋を再現し観光と魚介類の養殖を目的としたこのコロニーでは現在、水中専用モビルスーツのテストが行われていた。

 

「─やはりコロニー内の海では限界が有ります。陸戦型の揚陸用装備は問題無いのですが…」

 

現在、共和国軍の水中モビルスーツは二つに分けられる。一つは陸戦型ゲルググ用装備で各部をシーリングして防水、水中推進用のバックパックを装備する陸に近い浅瀬を行く揚陸装備で此方は殆ど完成している。

今、このコロニー内でテスト中なのは、もう1つは完全水中専用のモビルスーツで水中戦に不必要な物を省く事で原作の水陸両用機と比べて高い完成度を誇っていた。

 

「やはり本物の海での実地テストは必要か、ふむ……」

 

ギレンは顎を撫でながら少し考えると手をポンと叩いて口を開く。

 

「なら、行くかね海」

 

「は?」

 

こうして水中専用モビルスーツ開発チームは地球に降りる事が決定した。


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