ギレンは生き残りたい   作:ならない

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潜水艦シーホース

南太平洋 水深二百メートルの深海 ロックウッド級潜水艦【シーホース】

 

「魚雷三本がモンブラン級に直撃!モンブラン級撃沈!」

 

ソナー員は振り向き興奮気味に報告を上げる。

 

「センサーから目を離すな、攻撃を続ける。魚雷発射管四、五番、有線誘導モード、方位〇九〇、目標フガク級輸送艦─」

 

ケンハントは静かな声でソナー員を注意して、冷徹に次の命令を号令した。

 

「─魚雷発射」

 

アンコウにも似た様な特異な形状のロックウッド級潜水艦は魚雷発射管八門と垂直ミサイル発射管十門という重武装を誇っていた。そしてその巨体に似合わず高い速力と静粛性をも兼ね備えた現行最強の潜水艦だった。

更にその七番艦にあたるシーホースには高出力と静粛性を兼ね備えた新開発の常温核融合炉を搭載、高い発電量を十全に生かした高性能センサー類をも搭載している。そしてその艦長を勤めるロバート・ケンハント中佐も若い頃から海に潜り続けた練達の潜水艦乗りであり、その誇りに賭けて一度仕留めると決めた獲物は逃がす気は更々無かった。

発射された魚雷はシーホースと繋がった光ファイバー製のケーブルで操作され真っ直ぐにフガク級に向かう。

 

「動き有り、フガク級の左舷で着水音何かを投下した様です」

 

その報告に司令塔内に緊張が走る。

 

「対潜兵器の類いか?」

 

「かなり大きいく重い代物の様です。既存の対潜兵器には該当しませ…?…ッ!!推進音!!投下された不明物が移動を開始!!本艦に向けて直進して来ます!!」

 

「魚雷ケーブル切り離しアクティブ誘導に切り換え!方位二〇〇デコイ射出!急速潜航!深度五百!急げ!!」

 

シーホース乗組員達は命令一下素早く行動を開始、デコイを射出して海底に息を潜める。

 

「魚雷、不明と交差します…!?爆発音を二発確認、魚雷が爆発したものと思われます」

 

「なに?対抗魚雷だったのか?」

 

ケンハントの記憶では対抗魚雷、つまり魚雷を迎撃するための魚雷は旧世紀の頃から研究されていたが目立った成果は上げられていない。

あのフガク級の目的は完成した対抗魚雷の輸送だったのか?ケンハントの思考はソナー員の悲鳴の様な報告に中断される。

 

「推進音確認!!不明はまだ生きてます!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

南太平洋 同海域 フガク級改造型輸送艦【カイセイ】水中用試作モビルスーツMSM-3-1【プロトタイプ・ゴッグ】

 

モンブラン級が吹き飛び、カイセイの艦内は騒然となった。まさか連邦の勢力下の海域で攻撃を受けるとは思っていなかった。甘いと言えばそれまでだがカイセイ乗組員の殆どは企業や研究所から出向してきた技術者ばかり、軍人は艦長以下数人の航海員とテストパイロットのコーカ・ラサ曹長とマーシー・ブライ軍曹だけだった。

 

「こちらラサ曹長!!出撃する!!」

 

『待て曹長!!非武装のゴッグで何が出切る!!一旦格納庫に戻って武器を装備しろ!!』

 

技師長の焦った声が聞こえて来る。

 

「時間がありません!!それに格闘用のアイアン・ネールが有ります!!」

 

『曹長やれるかね?』

 

技師長との通信に艦長が割り込んで来る。

 

『艦長何を!?』

 

「やれます!!技師長、ゴッグを、技師長の作ったゴッグを信じてください!!」

 

『!!!…クソ…殺文句だな……ラサ曹長頼む、ゴッグ出すぞ!!』

 

通信越しに技師長が技術者達に指示を飛ばすのが聞こえる。

 

「ゴッグ行きます!」

 

少しの衝撃の後、気泡で覆われていたメインモニターに水中の映像が映し出され暗く底の見えない海底にまるで呑み込まれる様な感覚に襲われる。

素早くスイッチを入れて音響、磁気、熱など各種センサーを起動させメインモニターにそれらセンサーが収拾した情報を複合しデジタル処理された映像が映し出される。

 

「見つけた!」

 

水中に巨大な艦影を確認する。と同時にカイセイに向かって来る二本の魚雷も捉える。

 

「やらせるか!!」

 

フットペダルを踏み込む、ゴッグの背中に搭載されたハイドロジェットが吹き出し凄まじい加速を生み出す。パイロットシートに押し付けられ視界が狭まる。あっという間に魚雷が目の前に迫る。蛇腹の様なフレキシブルアームを左右に大きく広げゴッグを回転させる。

 

「ッ!!」

 

加速した時などはるかに超えるGがラサを襲う。意識を持って行かれそうになるのを必死の堪える。

長いアームと大きな手により掻き回された海水が激流となって魚雷を巻き込むと次の瞬間、魚雷が爆発ゴッグを爆発により生じた水圧が叩く。軍艦の船底を引き裂くほどの水圧を受けてコックピット内は警告が鳴り響く。ラサは警告音を止め機体の自己診断プログラムを走らせる。

 

「さすがゴッグだ。何とも無いぜ」

 

実際、右のアイアン・ネールが二本が剥ぎ取られた。両足にも少なく無いダメージを受けたが、水中用モビルスーツにとってあんなのは飾りです。事実、完全水中用に開発されたゴッグの足は歩けはする物の(開発者曰くヨチヨチ歩き)簡略化が施され駐機用のランディックギア程度の扱いだった。

兎も角、深刻なダメージを機体が受けなかった事を確認して、ラサはゴッグを再び加速させる。敵潜水艦はもう目の前、モニターにはロックウッド級の独特なフォルムがハッキリと映し出される。

 

「このアンコウ野郎!!さばいて鍋にしてやる!!」

 

ロックウッド級に突進、勢いそのままに船体に爪を立てる。

 

 

 

 

 

 

 

 

ロックウッド級潜水艦【シーホース】

 

金属を引き裂く音と凄まじい衝撃が艦内を襲う。

 

「被害報告!!」

 

『左舷ミサイル発射管に浸水!!』

 

『居住区に亀裂!!浸水発生!!』

 

『左推進機大破!!』

 

次々上がってくる被害報告にケンハントは自身の敗北を悟った。

 

「艦長、被害が大き過ぎます!!このままでは浮上出来なくなる恐れが!!」

 

副長は焦った様子で捲し立てる。

 

「敵前での浮上は我々サブマリナーにとって最大の屈辱だな……」

 

乗組員達の視線がケンハントに集まる。今にも泣きそうな者、不安そうな者、強い意志で真っ直ぐ見つめる者、さまざまな視線がケンハントを見ている。

ケンハントは一つ深呼吸を行った。

 

「緊急浮上!!」

 

「艦長……無念であります」

 

副長は肩を落とす。ケンハントはその肩をポンと叩くと乗組員達に向かって口を開く。

 

「諸君らの勇戦に感謝する。諸君と共に戦えた事は私にとって名誉だ!!」

 

その言葉に乗組員達は敬礼を持って答える。ケンハントも敬礼を返した。

 

「さて諸君、時間が無いぞ。機密書類の破棄忘れるなよ」

 

こうしてロックウッド級潜水艦シーホースは拿捕され共和国軍は新型潜水艦の実物と稼動データを入手する事に成功した。





今年最後の投稿です。
皆さん良いお年を

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