サイド3【ムンゾ共和国】37バンチ【サガルマータ】基礎訓練場【ブートキャンプ】食堂
昼飯時、訓練兵達が騒がしく昼食をとっている。娯楽の少ない訓練期間中の若者達にとって食事は数少ない楽しみの一つだった。
「は~」
その中に有って陰鬱なため息をこぼす者が一人。
ハイスクールを卒業と同時に徴兵されて三ヶ月が経ち基礎訓練を終了した彼は制式な兵士と成った。そして今日、配属される部隊が通達されたのだが…
通達された命令書に目を落し何度目かのため息をこぼす。
「おいおい、どうしたシケた面して」
同郷の仲間で同じ時期に徴兵されて三ヶ月の間共に訓練に明け暮れた友人がコーヒー片手に肩を叩いてくる。
そんな彼に無言で命令書を渡す。
「え~何々モビルスーツパイロットとしての適性を認め航空学校でのパイロット訓練を命ず。すげえじゃないか!モビルスーツパイロットなんて!!」
今やモビルスーツは戦場の花形、エースは勿論の事パイロットというだけで一目おかれる存在だ。無邪気に喜ぶ友人に彼は再びため息をつく。
「冗談じゃないよ。パイロットなんかになって、地球送りにでもされちゃたまんない」
戦場の花形と言うだけ有ってモビルスーツは前線に優先的に配備される。そして今の最前線は地上、民間人の支援を名目にオーストラリアのグレートサンディ砂漠に設置した宇宙港基地を基点に各地に展開し始めている。
一月に行われたブリティッシュ作戦の後、状況は落ち着き自分が徴兵されるころには戦闘など起こり得ないと高を括っていたが、今や雲行きは怪しくなり、いつ統一軍と戦端が開かれてもおかしく無い状況だ。
彼にもムンゾ共和国に対する愛国心は有るし、困っている苦しんでいる人々を助けたいと言う心情、やや大仰に言えば義侠心も持ち合わせている。だが命を賭けてまでか?と言われれば首を傾げてしまう。
「親父やお袋もせめて一年遅く俺を産んでくれてればな……」
憂鬱になる原因がもう一つ、先ごろ共和国議会で軍の徴兵制に関しての法案が可決された。他サイドから志願者増大と将来的にコロニー連合軍化を鑑み来年度より徴兵制を廃止し志願兵のみの募兵制に移行する。
自分が徴兵される最後の世代だと知り気分が沈んでいたところにこの命令書、ため息の一つもつきたくなると言う物だ。
「そこまで言うなら徴兵拒否すれば良かったんじゃないか?」
共和国では代わりに国家や地域に対する奉仕活動が義務付けられているが良心的徴兵拒否権が認められている。
「あの時は戦争が終わったと思ってたんだよ!……兵役終わりゃ就職も有利になるって言うし……」
「(後ろが本音だな)資格も取れるしな」
友人は呆れ混じりに呟く。
兵役終了者には政府が就職の斡旋してくれる上に兵役中には各種資格取得に補助金が出るのだ。(大学進学を望めば受験のための講義も受けられる)
「仕方ない、せめてパイロットになったら本国勤務を希望しよう」
「よし、そのいきだ。でも本土防空隊なんてエリート部隊、お前には無理だろうけどな!」
「この野郎!」
軽口を叩き合いながら別れを惜しみ互いの無事を願った。
「バーニィお互い生き残ろうぜ」
「ああ、また会う時は酒でも飲もう」
「再会の酒か…良いな!」
堅く握手を交わした。
ちなみに彼──バーナード・ワイズマンはパイロットに成った後、伍長に昇進してサイド6勤務になり、友人は同じ基地で警備任務に就いた。更にちなむと互いにギリギリ十九歳だったため酒は飲めなかった。
後にバーナードは現地でとある女性と知り合い紆余曲折の末、結婚するのだがそれはまた別の話だった。
年下の親友とも出会います。