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地球軌道上 共和国軍第三艦隊 旗艦クワジン改級戦艦【グワデンⅡ】作戦会議室
第三艦隊の旗艦のグワデンはルウム戦役で大破してしまったが回収され後のグワダン級に繋る改修が施されていた。
作戦会議室正面の大型モニターに壮年の男、ダグラス・ローデン大将が立つ、その顔には先のルウム戦役で負傷して右目を黒い眼帯で隠していた。
「これより【オペレーション・アイリーン】の概要を説明する」
作戦に参加する将官達がモニターに注目する。それを確認してローデンは口を開く。
「作戦地域は北米大陸東海岸部、目的は統一軍北米方面軍の戦闘能力を奪い各都市を開放する事である」
モニターに北米大陸東海岸の3D地図連邦支配下の地域は緑に統一軍支配下の地域は赤く表示されて写し出される。
「本作戦は三段階に分けられる。先ず作戦の第一段階として機甲師団を中核とした連邦軍十個師団がアラバマよりジョージアに進撃を開始メキシコ湾に立て籠もっている連邦海軍大西洋第一艦隊及びキースラー、グッドフェロー両空軍基地より出撃した航空機がこれを支援するこれにより敵軍の主力部隊を南部に引き付ける」
モニターの地図にアラバマから緑色の矢印がジョージアに伸びる。
「第二段階、敵主力が南部に引き付けられている間に先行して北米に展開中の我が軍のモビルスーツ部隊二個大隊がアパラチア山脈を越え敵軍を南北に分断すると同時に潜入した特殊部隊コードネーム【サイクロプス】及び【アカハナ】がレーダー施設と対空兵器を破壊する」
今度は地図上に青い矢印がテネシーからアパラチア山脈を越えサウスカロライナに伸び、ノースカロライナに青い点が二つ発光する。
「第三段階、海兵隊二個師団が強襲降下し後から降下する主力部隊の降下地点を確保する。主力たる地上方面軍ニ十四個師団は降下地点ノースカロライナより十二個師団づつ戦力を二分し一方は北進、東海岸の主な都市を開放する。もう一方は南進、北米統一軍主力を連邦軍と挟撃撃滅する」
ノースカロライナの光点が大きくなりそこから矢印が南北に分かれ進んで行く。
「以上がオペレーション・アイリーンの概要である。各部隊の詳細な作戦行動は事前に配布した資料を確認する様に以上だ。何か質問は?」
ローデンは将官達を見渡す。
「無い様だな、では作戦開始まで待機。解散!」
良く通る声で宣言して会議室より退出する。
地球軌道上 共和国軍第三艦隊 地球降下艇HLV【088】
第三艦隊及び海兵隊所属の軍艦群百隻余が衛星軌道上に集結している。
その中の一隻のムサイ級巡洋艦【ジョン・グレン】その艦橋部分の下、二つのエンジンブロックの間に懸架されたHLVでは乗組員が地球降下のための最終チェック行っていた。
「機体の最終チェック……完了、艇長」
HLVオペレーターは降下の準備が完了したことを艇長のドレン中尉に報告した。
ドレンは一つ首肯くとジョン・グレンに通信を繋ぐ。
「HLV088よりジョン・グレン」
『こちらジョン・グレン』
「088発艦準備完了」
『了解、こちらでも確認した。作戦開始まで待機せよ』
「了解した。さてと…」
ドレンは続いてHLVの格納庫内に駐機されたモビルスーツに乗り込んでいる上官に通信を繋ぐ。階級は自分の一つ上の大尉だが有る意味下手な佐官より気を使う人物だった。
「大尉殿、発進準備完了しました。そちらはどうですか?」
『ドレンか?こちらも完了している。何時でも良いぞ』
やたら良い声が無線越しに返答してくる。
この上官は両親の反対を押切り大学を中退、軍人を志し士官学校に入校、主席で卒業後は提示された安全で出世コースの本国勤務を蹴り危険な前線勤務を希望した。それだけなら(優秀なのを除けば)よく居る愛国青年だが問題は彼の立場、彼はムンゾ共和国の創始者ジオン・ズム・ダイクンの御曹司キャスバル・レム・ダイクンだった。
内心ため息をつきながら部下達に次の指示を出す。
国の有力者の息子が立場に甘えず国のため険しい道を自ら選ぶ、なんと素晴らしい愛国者だろうか──これが自分の上官で無ければ更に素晴らしいのだが……しかもこれから地球上で長期の任務が待っている。
(勘弁してくれ…)
ドレンは不満な内心を押し込み黙々と仕事を続けた。