ギレンは生き残りたい   作:ならない

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設定が原作と大きくちがいます。ご注意下さい


騒乱(3)

サイド3『ムンゾ共和国』ウィルヘルムファーフェン暗礁宙域外縁部

 

その部隊が連邦艦隊を発見したのは全くの偶然だった。ティベ級高速巡洋艦『レッドバイカウント』は無人偵察ポット『バロールⅡ』の運用訓練中に連邦艦隊を発見した。発見の情報はすぐさま艦隊司令部に報告された。

 

「司令部からの返答はまだか!」

 

レッドバイカウント艦橋で神経質そうな痩せた男が通信担当オペレーターに叫ぶ。

 

「副長少し落ち着きたまえ、焦ったところで司令部の命令が早く来る訳では無いのだから」

 

「は!申し訳ありません艦長」

 

副長を穏やかな声で嗜めながらもレッドバイカウント艦長の心中は穏やかな物では無かった。首相官邸を占拠され政府が混乱している時に連邦艦隊がしかも強襲上陸を意識した編制の艦隊が首都近くの宙域に潜んでいる。陰謀だの謀略だのに疎い自分でも分かる。偶然と見るには余りにタイミングが良すぎる。艦長は自分の禿げ頭を一撫でして軍帽を深く被り直した。

 

(下手をしたら即連邦との戦争に成るな)

 

近年ムンゾ共和国は人的また物質的資源の余裕からどこか楽観的な雰囲気が国内に流れていた。気の緩み、連邦を甘く見すぎたツケが回ってきた。

 

(いずれにせよ軍部だけではなく政府の判断が必要だ。慎重派のギレン大臣に思い切った決断が出来るか?)

 

艦長が思考を巡らせていたその時、通信担当官が司令部からの命令を受信したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ウィルヘルムファーフェン暗礁宙域 連邦艦隊『第59任務艦隊』レパント級ミサイルフリゲート『エクノモス』

 

エクノモス艦長は時計を確認していた。作戦開始時間まで三十分を切った。

 

「そろそろ時間だ。各部署最終チェックを開始せよ」

 

「大変です艦長!」

 

レーダー員が悲鳴の様な声を上げる。

 

「レーダーダウン!一切の反応が消失しました!」

 

「ECCM作動!監視員は警戒を厳とせよ!手透きの者は全員警戒任務に当たれ!」

 

艦長は素早く命令を飛ばしクルーも指令に素早く対応した。この艦隊に所属する者は正に精鋭揃い、そうでなければ共和国の警戒宙域を抜け危険な暗礁宙域に長期間潜むなど出来る訳が無かった。

 

「各艦との通信は可能か?」

 

「はいノイズが多いですが可能です。しかし月軌道艦隊とのレーザー通信は遮断されました」

 

この艦隊が首都を制圧後は月軌道艦隊本隊が共和国に侵攻し完全に占領下に置く手筈になっていた。任務中断を艦隊司令に具申するべきかと艦長は頭を悩ませた。

 

(直前までこの宙域周辺に敵艦の反応は無かった。潜んでいるとしても多くて三、四隻それだけならば突破できる)

 

艦長は連邦上層部ほど共和国軍を甘く見ていなかった。自軍と同等の戦力を保有すると常々考えていた。が彼は知らなかった。共和国軍が既に熱核反応炉を実用化して軍艦に搭載している事実をそしてその熱核反応炉を利用した熱核ロケット推進の加速力と最高速度を、原作では本来既に連邦も実用化していた筈の技術だが0050年代に地球に残ったミノフスキー粒子の研究資料や関連技術の殆どをギレンが回収していたため未だ試作段階だった。(技術の国外流出は本来で有れば難しいことだがその当時サイド3は連邦の一地方の国内と扱われていた)

 

「人影を見ただと?」

 

まして熱核反応炉を機動兵器にまで搭載するなど想像すらしていなかった。

 

「はい、デブリの間にチラリと」

 

「バカな暗礁宙域で生身の人間が活動できる筈が無い」

 

その時、隣を航行していたフリゲート艦が爆散した。

 

「敵襲!!」

 

「各砲座対空戦と・・・・!」

 

艦長が言い終わる前に艦橋は爆炎に包まれた。艦長が最後に目撃したのは青い鋼の巨人のバズーカが火を吹く瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

第1機動戦闘大隊隊長機MS-09R-2『ランバ・ラル専用リックドムⅡ』

 

ジャイアントバズを艦橋に命中させたフリゲートがコントロールを失い別のフリゲートに激突して巻き込みながら爆発した。

 

「各機爆発に注意、巻き込まれるなよ。第2中隊は援護第1中隊は回り込むぞ私に続け!」

 

指示を出しながらフットペダルを踏み込む、バーニアを吹かして獲物を狙う。敵艦の艦尾に回り込みノズル孔に360mm砲弾を撃ち込む。機関部まで到達した砲弾は艦を爆散させる。

 

『ラル中佐、敵機の発艦を確認!』

 

見ると揚陸艦が格納庫のハッチを開きガイドビーコンを展開していた。

 

「暗礁宙域で戦闘機は自殺行為だ」

 

事実戦闘機は発艦した瞬間デブリを回避しきれず激突爆散した。僚機が格納庫にMS用ハンドグレネード『クラッカー』を投げ込む、揚陸艦は内部から火を上げて爆発した。

 

「よし、足の速いフリゲート艦を集中して狙え」

 

のろまな揚陸艦の脅威度は低いと見て、的をフリゲート艦に絞る。連邦艦隊は揚陸艦を中心に密集隊形を取り対空砲の密度を上げて離脱を図る。

 

「ほう、対応が早いな各機踏み込み過ぎるなよ。敵艦隊を追い込むぞ」

 

距離を取りながらも獲物を追う猟犬の様に敵艦隊を追撃する。

 

『中佐そろそろ予定宙域です』

 

「よし、全機停止これ以上前に出るなよ!」

 

連邦艦隊が死地から脱出しようと速度を上げる。その時暗礁宙域の外側連邦艦隊の正面に共和国艦隊が姿を現す。その数二十六隻ムサイ級巡洋艦二十隻ティベ級高速巡洋艦六隻V字いわゆる鶴翼陣形で連邦艦隊を待ち構えていた。百九十六門のメガ粒子砲が一斉に火を吹く十字砲火、光の奔流が艦隊を飲み込む艦隊は一瞬で全て消し飛んだ。

 

「凄まじいな・・・・」

 

正に艦隊が消えたのだ跡形も無く超高熱で蒸発したのだ。ラルは命令を下した友の顔を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

共和国軍宇宙艦隊旗艦『グワジン』

 

時間は連邦艦隊を攻撃する少し前、ルーゲンスはハンカチで汗を拭いながらギレンに問う。

 

「先程の命令、よろしかったので?」

 

ギレンが首相代行として艦隊司令部に下した命令『連邦艦隊を暗礁宙域内で殲滅せよ』それはつまり連邦軍と事を構えると言うことだった。

 

「ヤる時は徹底に殺らなければ、中途半端が一番良くないものだ」

 

ギレンの答えにルーゲンスは胃が痛み出すのを感じていた。

 

「それより官邸突入のプランは纏まったかね?」

 

「いいえ未だ。首相官邸の外壁と窓のシャッターを突破する方法が無く、突破出来れば後は問題無く制圧できるのですが」

 

「頑丈に作り過ぎたか・・・・」

 

共和国の首相官邸は警備の観点から頑丈に作られた。軍艦並みの強度を持った外壁にモビルスーツの装甲にも使われている超硬スチール合金のシャッター最早要塞である。

 

「うむ、良い案が有る」

 

「拝聴しても?」

 

ギレンは自信満々に答える。

 

「手を使う」

 

「シャッターの手動開閉装置は内側にしか有りませんが?」

 

ギレンはニヤリと笑う。ルーゲンスは嫌な予感に更に胃が痛み出すのを感じていた。




艦艇の設定
ティベ級高速巡洋艦
原作ではチベ級ティベ型高速巡洋艦だったが本作では技術の進歩に伴い通常動力艦を熱核反応炉に換装した設定のチベ級は存在しない。武装は主砲三連装メガ粒子砲二基、ミサイル発射菅四門、対空機関砲六門、最大モビルスーツ搭載数十八機
ムサイ級巡洋艦
共和国軍の主力艦で原作での後期生産仕様に近い。初期型と比べて火力の強化とモビルスーツ用カタパルトが増設されている他コムサイ搭載能力はオミットされて代わりにモビルスーツの整備設備が増強されている。武装は連装メガ粒子砲五基(内一基は後部用)、ミサイル発射菅六門、対空機関砲四門、最大モビルスーツ搭載数六機
グワジン級戦艦
原作ではザビ家に縁の有る者やギレンに信頼された者に与えられた戦艦だった為宮殿の様な豪華な広間が有る等ジオン公国の象徴的な艦だったが本作では旗艦能力を重視した為広間はオペリーティングルームや作戦会議室に改装されている。武装は大型連装メガ粒子砲三基、対空メガ粒子砲六門、最大モビルスーツ搭載数二十四機
レパント級ミサイルフリゲート
0040年代から使われている連邦軍の旧型フリゲート艦だが余裕の有る設計のおかげで近代化改修され未だに主力として使われている。原作では熱核反応炉とメガ粒子砲と熱核ロケット推進も搭載していたが本作では搭載されていない。武装はレールガン二基、艦首ミサイル発射菅六門、艦尾ミサイル発射菅四門、垂直ミサイル発射菅十二門、対空機関砲四門、艦載機一機

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