「キャアァァァァァァァ!!!」
「「!?」」
ティルからの説教を受けていたオレの耳に、女性の悲鳴が聞こえてきた。当然、ティルにも聞こえてきたようで、オレの前で腕組をして若干顔を絡めて怒っていた状態から、すぐに臨戦態勢に切り替えて悲鳴の聞こえた方角へと目を向けていた。
「・・・マスター、とりあえず説教はここまでにさせてもらいます。」
「あぁ、だな。(ここまでって事は、後でやるのか・・・? まぁ、それはいいか。)とりあえず、今悲鳴が聞こえたほうに、ってイテテ・・・。」
「っ、マスター。大丈夫ですか?」
「・・・少なくとも、正座のせいで足がしびれて、しばらく大丈夫じゃないかもな。」
クソッ、自業自得とはいえ、正座のせいで動けないとかダサすぎる。・・・こうなったら、最悪ティルだけでも、と思っていると、ティルが急にオレの前で背中を向けて屈みだした。
「ティル。急にそんな姿勢をして、どうした?」
「いいから乗ってください! 非常時につき、おぶって運びます!」
「っ、いいのか?」
ティルは非常時だからと、オレをおぶって運ぶことにしたようだった。けど、正直男が女におぶられて運ばれるのはどうかと少し思うものの、それ以上にティルに迷惑をかけないか少し不安だった。が、そんな感情もティルが力強くこちらに笑いかける表情を見て、霧散した。
「非常時ですから。その代わり、降ろす時少し乱暴になるかもしれないので、それは勘弁してください。」
「・・・すまん、恩に着る!」
「いえ、こんな状態で正座させた私も悪いので、これでお相子です。」
オレはそう返すティルに急いでおぶられると、振り落とされないようしっかりティルの肩をつかんだ。それを確認したティルは、しっかり掴まってるようオレに優しく微笑みかけた後、凛とした表情でオレをおぶりながらも、猛スピードで悲鳴の聞こえたほうへと駆け抜け始めたのだった。
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「もう、なんで私ばっかりこんな目に合わなきゃいけないのよ! もうイヤァ!!」
「所長、落ち着いてください。ここで混乱していても、エネミーがまだ――」
「っ、マシュ! まだ来てるよ! 前と右!」
「っ、ハァッ! テヤァ!」
ティルフィングがクレアをおぶりながら悲鳴を聞きつけ、駆け抜け始めた頃。
件の悲鳴を上げた本人――『人理継続保証機関フィニス・カルデア*1*2』の所長『オルガマリー・アニムスフィア』は、ティルフィング達がラグーナ島で相手したスケルトンや竜牙兵に囲まれ、パニックになっていた。一応、迎撃に関しては、合流したデミ・サーヴァント*3となった『マシュ・キリエライト*4*5』が務め、そのスケルトン達をマシュのマスターとなっている一般公募で選ばれた48番目のマスター候補、『藤丸立香*6*7』が見つけては、マシュにどこから来てるか指示を出して切り抜けている。が、如何せんマシュの武器は、デミ・サーヴァントとして覚醒する直前、自分に力を貸してくれたサーヴァントの持っていた武器である盾のみ。一応、盾を振り回してスケルトン達を砕いたり吹き飛ばす事はできるが、ここには戦いに慣れてない面子しかいないのもあって、徐々にジリ貧なのは否めなくなってきていた。最前衛で戦闘を続けているマシュはそれをひしひしと感じ始めており、最悪の場合はマスターである立香と所長のオルガマリーだけでも逃がさければ、と考えていた。
しかし、それを押し寄せるスケルトン達を捌きながら、まだ戦いなれていないマシュが考えてしまったのがいけなかった。いくらデミ・サーヴァントになったといっても、元はただの少女。慣れない
「っ、マシュ!!」
「っ、しまっ、くぅっ!」
立香の声で、マシュが慌てて現実に意識を引き戻すと、1体のスケルトンが目前に迫っており、武器を振りかぶっていた。咄嗟に盾を引き戻すも、戦い慣れしていないマシュにすぐさましっかりした構えがとれるわけもなく、スケルトンの一撃に思わずたじろいでしまった。そして、そのたじろいだ隙に、3体のスケルトンがマシュの横を抜けて立香達のもとへと群がっていった。
「っ、マスター! 所長! 逃げてください!!」
「あっ・・・。」
「ヒィ!! こ、来ないでぇ!!」
スケルトン達の接近に、思わず呆けてしまう立香。一方、もはやパニックでまともな思考もできていないオルガマリーは右手を構えてガント*8を打ち、スケルトン達を遠ざけようとするも、狙いの定まっていない今のオルガマリーでは当てられるはずもなく、ついに1体が接近して、その手に持つ剣を振り上げた。マシュも急いで目の前のスケルトンを倒して立香達のもとへ行こうとするも、迎撃する際に少し距離を開けすぎたせいか、二人とスケルトンの間に割り込むにはもう時間がなかった。―――そう、頭ではわかってても、止まる事はできなかった。『奇跡』という一縷の望みにかけて、マシュは足を止めることはできなかったのだ。
しかし、無情にも剣は振り下ろされてしまう。オルガマリーはこれ以上、現実を直視したくないのか顔を覆い、立香は思考が止まったのか呆然としていた。そして、そこに必死に手を伸ばして、マシュは間に合えという思いで立香達のもとへと急ぐが、次の瞬間、自分の目の前で二人がスケルトンに殺されてしまう未来を想像して―――
―――しかし、その想像が現実になることはなかった。
「―――フッ! ハァッ!」「グエッ・・・!?」
「やぁぁ!! たぁぁ!!」
「え~い!」
―――立香達とスケルトンの間に、桃色と黄色の閃光が駆けた瞬間、二人に剣を振り下ろしていたスケルトンはその場から吹っ飛ばされていた。そしてその後、大きな物体が振り下ろされる音と銃声が聞こえ、立香達の目の前に残っていたのは、白いライフルを持った、色々と際どい白い服装をした、紫髪の女性と、自分の身の丈以上の巨大な柄の長い大剣(?)を持った茶髪の少女、そして、金髪のボーイッシュな格好をした少女をおぶった桃色の髪の女剣士だった。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
「―――ロンギヌス、フライシュッツ。貴女達も無事だったんですね。」
「はい。ティルフィングさんや、マスターも。ご無事で何よりです。」
「こっちはロンギヌスちゃんと一緒だったから、もしかしたら~って思ってたんだけど。いや~、二人とも無事でよかったよ~。」
悲鳴を聞きつけ、マスターをおぶって走り抜けた私は、その先で、ラグーナ島で戦った異形の存在に今にも襲われそうになっている二人の少女を見つけ、急いで剣を差し込んで異形の剣を払いあげ、その勢いのままに回転して一閃し、倒しました。そして、すぐに2体の異形を見つけて攻撃しようとしたのですが、横から銃声と、大きなものを振り上げる音がしたので、そちらをチラリと見ると、はぐれていたロンギヌスとフライシュッツがいました。
そして服装に関しては、私と同じで水着ではなく、やはり元の服装に戻っていました。
二人が異形へ攻撃を仕掛けて倒したところで、私は二人に声をかけたのが、上記の会話です。なるほど、2人ずつで分かれていた形だったのですか。・・・ある意味、戦闘員と非戦闘員の組み合わせだった私達は、結構危険だったのかもしれませんね。
そう考えていると、フライシュッツが少しジトーっとした目でこちらを見て口を開きました。
「ところでティルフィングちゃん、な~んでマスター君をおぶってるの?」
「えっ? あ~、その、色々とありまして・・・。って、マスター?」
フライシュッツにマスターをおぶってる理由を問われ、どう答えたものかと思案し始めた時、ふと違和感を覚えました。ロンギヌス達に合流したにもかかわらず、マスターが先程から、何の反応も示していないのです。それも、フライシュッツにこういう事を尋ねられているにもかかわらず、です。大抵こういう場合、すぐにでも反応してフォローしてくださるのに。
そう思って、マスターのほうに顔を向けると――
「(チ~ン)・・・。」
「ま、マスター!?」
「ま、マスターくん!? ちょっとティルフィングちゃん、どんなスピードで走ってきたの?!」
「どんなって、そんなのいつも通りのスピードですけど、あっ・・・。」
そこまで話して、私はミスを犯していたことに気づきました。今まで、マスターをおぶる事は何度かありましたが、おぶって走る事が無かった為、いつも通りの感覚で走り抜けてしまっていました。その上、先程二人の少女を助ける為におおよそ無茶な急制動をかけてしまったので、おそらくその結果、気絶してしまったのではないかと。
そして、私がしまったと思ったのを読み取ったロンギヌスが、大慌てでマスターの無事を確認しに来て、私はフライシュッツにすごい剣幕で怒られました。
「てぃ、ティルフィングさん! いったんマスターを下ろしてください! マスター、大丈夫ですか!?」
「ちょっとティルフィングちゃん! いつも通りで走った上にあんな無茶な急制動をかけたら、いくらマスターくんが気絶するにきまってるじゃない!! ごくごく普通の人間なんだから!!」
「す、すみません! マスターをおぶって走ったり戦う事なんて、今までしたことがなかったもので。それに、先ほどは彼女たちを助けないといけないという思考でいっぱいいっぱいでして・・・。」
「にしたって、もうちょっと加減を――」
「えっと、そこの女の子三人!! 誰だか知らないけど、喧嘩する前にあっちを手伝ってもらっていいかな!?」
「「「えっ?」」」
唐突に私達以外の声が聞こえてそちらを一斉に向くと、私達が助けた少女が、私たちの後ろのほうを指さしていたので、視線をそちらに向けると、大きな・・・『盾』、でしょうか? それを構えた少女が、ラグーナ島で遭遇した骨の異形達を相手にしていました。しかし、盾の少女は戦い慣れていないのか、腰もうまく据わっておらず、ただただ盾を振り回したり、盾事突進したりして骨の異形を追い払っている感じでした。なるほど、確かにあれは助太刀したほうがよさそうですが、それだとマスターが―――
「―――ティルフィングさん、フライシュッツさん! ここは私が見てるので、お二人はあの子の加勢に行ってください!」
「「ロンギヌス(ちゃん)?」」
「マスターや彼女達の事は、私が見てますから。それにこのままだと、またさっきみたいに物量で押し切られちゃうかもしれませんから! だから、行ってください!」
ロンギヌスの提案を聞いて、少し思案する。確かに、現状このままでは落ち着いて話し合う事も、マスターの様態を確認する事も満足にできそうにない。となると、まずはあの異形達を黙らせた方が早いですか。・・・というより、マスターが気絶してるのを見て、取り乱してしまった私達がいけなかったのですが。平時であれば、すぐに判断出来ていた事が出来なかったなんて、マスターに聞かれたら怒られそうです。
「・・・そうですね。フライシュッツ、私への小言は後に回してください! まずは、この状況をどうにかします!」
「ん~、しょうがないな~。まぁ、マスターくんが起きてても、きっと同じこと言うだろうし。その代わり、後で色々と言いたいこと言わせてもらうからね!」
「お手柔らかにお願いしますよ。」
ロンギヌスの提案に従い、私は盾の少女を援護するため、彼女の元へ駆けていきました。そして、フライシュッツはというと、狙撃の構えに入って、こちらが前進しやすいよう援護射撃と、私や盾の少女が撃破し損ねた敵の排除を始めていました。基本的に、マスターが絡まなければ、私とフライシュッツの組み合わせは前衛後衛と役割を分担できますし、何よりフライシュッツの援護射撃は的確で、こちらが動きやすいように援護してくれるので、よくマスターにも「相性だけ考えるなら、一番最高の組み合わせ、『ベストマッチ』だよな。」と言われます。・・・まぁ、ここまでの様子をご覧になってる皆さまでしたら、その後どうなるかは火を見るよりも明らかかもしれませんが。
とにかく、そんな(マスターから見て)『ベストマッチ』な私達は、瞬く間に盾の少女の撃ち洩らしを撃破して、未だに数体の骨の異形達に苦戦している盾の少女の援護に入りました。
「遅くなってすみません。助太刀します!」
「後ろからの援護は、お姉ちゃんに任せてね~。」
「っ、あなた達は! ・・・助かります! 私一人では、とてもではないですが、あの二人を守り切れなかったかもしれないので・・・。」
そういう彼女の表情は、悔し気に歪んでいました。疲労の色も見え隠れしているのを見るに、長時間戦闘を続けていたか、戦いに慣れてないか、あるいはその両方かと、私の中で推測が出ました。が、それを今ここで確認している時間はなさそうですし、気にしていても仕方ないですね。というより、本来は防具として使う盾、それもかなり大きめの『大盾』ともいえるものを鈍器のようにして、あの骨達を撃退していた事自体、かなり体力を使う作業でしょうから、戦い慣れているいないに関わらず、疲労度はこちら以上だと思います。であれば、こちらが主体となって動いた方がよさそうですね。・・・向こうからすればポッと出なので、今からする指示に、素直に従ってくれればいいですが。
「いきなり現れて指示を出されても困るかもしれませんが、あなたは一度後ろに下がって、彼女達を守って下さい。後の戦線は私達が持たせます!」
「えっ? ですが、それではマスター達を守る事が・・・。」
そう言って、私の指示に従う事を渋る盾の少女に、優しく諭すようにフライシュッツが声をかけました。
「何も、前に出る事だけが『守る事』じゃないよ~。キミの本領は、その『盾』で襲ってくる外敵を通さない事でしょ? 積極的に攻めるのは、私達のや・く・め♪ だから、もう無理に前に出て、体力を浪費する必要もないよ。ほら、よくいうじゃない? 『適材適所』って。」
「・・・・・・。」
「だいじょ~ぶ♪ それなりに修羅場潜ってきてるし、あんな骨達ぐらいなら、簡単にやられたりしないよ。だから、ここはお姉さん達に任せて。ね?」
「・・・分かりました。でも、マスターの指示次第では、私も前に出ますから。」
「構いません。今の指示はあくまで、前に出てきた私達のわがままですから。本来指揮するべき方が居るのなら、そちらの指示に従って下さい。」
「はい!」
盾の少女はそう言うと、急いでロンギヌス達のいる辺りへと戻って行きました。その間、追いすがろうとする敵には私が剣を振り抜き、フライシュッツが狙撃して妨害、あるいが撃退する事で、侵攻を阻止していました。そして、しばらくしてチラリと見ると、盾の少女はロンギヌス達と無事合流しており、それを確認した私とフライシュッツは一瞬だけ顔を見合わせ、互いにどちらからともなく頷きあうと、骨の異形達を殲滅を開始しました。
戦闘自体は弱体化してしまった私でも難なくこなせるほどで、フライシュッツも依然と変わらず的確な狙撃でこちらを援護してくれたおかげで、向こうにいた時より攻撃を多めに叩き込む必要はあったものの、殆ど同じように骨の異形達を相手に出来ました。それと、向こうでの戦闘の様に、この異形達はどこかから生成されたもの、という訳ではなさそうなので、ある一定数倒すと、周りにはもう残敵は存在しなくなっていました。
それを確認した私達は、一度後方で待つマスター達の元へと合流することを決めました。
そして、マスター達のもとへと合流した私たち二人だったのですが、合流した先ではマスターが意識を取り戻していましたので、先ほどの事に付いて謝罪しようと思ったのですが―――
「・・・・・・。」(困り顔)
「・・・・・・。」(警戒)
「え、え~っとぉ・・・。」(困惑)
「あの、所長さん。ちょっと落ち着きましょうよ。ね? 助けてくれたんだし、決して悪い人たちじゃ「アンタは黙ってて!」、・・・ハイ(ショボン)。」
「マスター。その、今の所長は、下手に刺激しない方がいいかと・・・。」
―――『所長』、と呼ばれる少女が宥めようとした朱色の髪の少女を一括して黙らせながら、意識の戻った私達のマスターをにらみつけて警戒しており、睨みつけられているマスターもマスターで困った表情をしていました。そして、ロンギヌスはというと、この状況をどう収めるべきかわからず、困惑していました。
・・・とてもじゃないですが、これじゃ謝罪どころじゃないですね。ともかく、先にこの状況をどうにかしないといけませんね。一段落、というには、まだ早いようです。
※クレアは転生者ですが、プロローグで本人が望んだ通り、大した力は持ってないので、身体能力は並です。