―――時刻はまた遡って、クレアがティルフィング達と街を襲撃してきた異形達に対して、防衛戦を始めた頃。
クレア達が休暇として訪れていたビーチの方にも、同じような異形達が侵攻を開始していた。
当初、マスターであるクレアが不在で指揮系統がはっきりしておらず、各々接敵次第各個撃破というバラバラな動きをしていた。トップのティルフィング達が不在とはいえ、元々一騎当千の斬ル姫達が何人もこの場におり、かつ後ろを気にする必要も然程なかったため、多少バラバラな動きをしていても問題が無かったのだ。
だが、デュリンとアスカロンが街の人々を連れてビーチへと戻ってきた事で、状況は一変する。避難してきた人々を守るため、ある程度の陣形を組んで防衛戦をする事を余儀なくされたのだ。ここまで個別で動いていたのもあって、斬ル姫全員の立ち位置は割とバラバラになっていたため、陣形を組み直すのに多少の時間がかかってしまう状態になっており、なおかつ、まだクレアが不在で指揮系統がはっきりしていない状態のせいで、斬ル姫達は苦戦を強いられることとなってしまった。
しかし、いつまでもそんな状態では、いずれ突破されて街の人々に危害が及ぶと考え、その状況を打開するための一声が飛ばしたもの達がいた。
「皆さん、聞いて下さい!! このままバラバラに戦っていても、いずれ突破されます!! 後衛部隊は、私の所まで下がって、前衛部隊の態勢立て直しを支援して下さい!!」
「前衛部隊は一度下がって態勢を立て直し、後はデュリンの指示で動いて下さい! ここは私とアスカロンが踏みとどまります!! だから早く!! アスカロン!!」
「はい!! ここから先は、一歩も通しませんよ!!」
声をあげたのは『シェキナー』、『アロンダイト』の二人だった。シェキナーは元々陸寄り、それも避難してきた人々を連れて来ていたデュリンとアスカロンの近くにいたため、後方から弓矢で援護射撃をしていたのだが、他の後衛メンバーは海寄りにいたため、特に防衛線を始めてからはあまり成果が出せずにいた。アロンダイトも陸寄りの場所から、単独であちこちを飛び回りながらきびしそうな戦線を支援していたものの、このままでは埒が明かないと感じ始めていた。
そこで2人は一度合流し、デュリン達を含めて二言三言話しあい、後衛部隊を含めた自身と後から来て比較的体力のあるアスカロン以外の前衛メンバーを下がらせて態勢を立て直し、その後指揮系統をデュリンに一括する事で混乱を少なくする事にしたのだ。デュリンに指揮系統を一括したのは、クレアやティルフィングと付き合いも長く、こういった仕事に向いてると話し合ったメンバー内で判断したためであり、デュリンもそれを了承した。
それが決まってからは行動は早く、アロンダイトとアスカロンは迫りくる異形達へと果敢に切り込んでいき、シェキナーは斬ル姫達が後退しやすいよう、広範囲に弓矢を降らせるようにしていた。アロンダイトとシェキナーの声を聞いた斬ル姫達も、それぞれの役割を全うすべく、態勢を立て直すために動き出した。
それから、ものの数分で態勢を立て直した斬ル姫達は、デュリンの指示のもと、避難してきた人々を守る防衛線を展開。最初は苦戦していたが、態勢を立て直してからは問題なく戦線を押し上げ、現在は侵入してきた森林の入り口とまではいかないまでも、その付近まで戦線を押し返していた。デュリンも、ここまでやれれば大丈夫だろうと判断し、アスカロンをティルフィング達の援護にいくよう伝えて、アスカロンもその指示を聞いて、街の方へと急いで戻っていった。
―――というのが、ビーチ側の話なのだが。そんなビーチでの防衛戦が展開されてる中、戦線に参加していないメンバーが一人いた。
「・・・・・・Zzzzzz・・・。」
―――レーヴァテインである。彼女はわざわざ持参してきたハンモックを使い、森林地帯の入り口ほどで寝ていたのである。スケルトンや竜牙兵だけならいざ知らず、体重の重いゴーレムがズシンズシンと侵攻してきて、かつ戦闘の音が聞こえてるであろうのにもかかわらず、である。昼寝を始めたレーヴァテインを起こすのは、どうやらその程度では駄目のようだ。
実は、何人か見かけた斬ル姫も必死に声を掛けていたのだが、彼女が何の反応も示さないのを見て、そのままにしていたのだ。そんな状態の彼女を無理に起こせばどうなるか・・・、それを以前、隊長であるクレアが証明してくれており、故に、『触らぬ神にたたりなし』ならぬ『起こさぬレーヴァテインに破壊なし』とばかりに、放置していた。
・・・が、味方である斬ル姫達はともかく、敵である異形のもの達には、そんな理屈は通用しない。ましてや、知性のかけらすらあるか分からない存在たちである。遅かれ早かれ、今から語る悲劇(?)は必然のものだったのであろう。
アスカロンが街の方へと戻っていって数分後、とあるゴーレムがビーチへと侵攻していく時、偶然にもレーヴァテインがハンモックのひもを掛けている木の一つを折ってしまったのだ。当然、木が折れればハンモックを張り続けることもできず、寝ていたレーヴァテインは地面へと放り出されてしまった。
「・・・・・・ゑっ、あだっ!? へぶっ?!」
さらに、泣きっ面に蜂といわんばかりに、後ろから来ていた2体目のゴーレムにお腹を踏まれ、悶絶するレーヴァテイン。常人であれば、おそらく骨折どころか、下手をすれば死んでしまうそれを、悶絶だけで済んでいるのは流石斬ル姫という所なのだが。
悶絶して丸まり、少しだけ転がったおかげで、何とかレーヴァテインがもう1回踏まれる事は無かった。・・・しかし、悶絶から回復して、ユラユラと起き上った彼女は、次の瞬間、目をギラギラと光らせ、無言で剣を構えて、視界に捕えたゴーレムへと突貫していき、構えた剣を力任せに、砂煙が高く舞い上がるほどに叩きつけた。
その時、たまたま近くには、レーヴァテインやティルフィングと同じ『ファーストキラーズ』の『マサムネ』、『パラシュ』がいたのだが、いきなり拉致外からとてつもない殺気が飛んできた事に驚き、あわてて二人とも下がると、唐突に目の前にいたゴーレムが沈み、高く砂煙が舞いあがったのだ。そして、その砂煙がはれると、ゴーレムの姿が無残にも砕け散っており、小さな砂のクレーター出来あがっていた。そして、その中心にいたのは、顔をうつ向かせ、だらりと剣を構えたレーヴァテインだった。
先ほどまで寝ていたレーヴァテインを2人も見ていたのだが、前述のとおり、放置していたのだ。その放置していたレーヴァテインが、急にゴーレムへさっきも隠さず飛びかかって、一撃で粉砕した。これだけの情報で、最悪な予感がしていた2人は、その予感が的中していない事を祈りつつ、レーヴァテインに声を掛けた。・・・若干、声が震えているのは、お互い気にしない事にして。
「れ、レーヴァテイン・・・?」
「・・・・・・。」
「だ、大丈夫かい・・・? なんか、すごい勢いで飛び出してきたけど。」
「・・・・・・ねぇ、2人とも。」
「「っ、は、はい!?」」
底冷えするような、地面の下から這い出てくるような低い声と、ギラギラと輝かせ細められた目に射すくめられながら、返事をする2人。この瞬間、2人の中では最悪の予感が的中してしまった事を悟った。すなわち、敵の異形が、偶然かどうかはともかく、『破壊の鬼神』を起こしてしまったのだと・・・。
「コイツらさ・・・、どっから来てんの?」
「え、いや、その・・・。」
「何? 答えられないの?」
「う、ううん! 森林! あっちの森林の方から来てるんだよ!!」
「そ、そうだ! 私達は、そいつらから、こっちに避難してきてる人達を守ってる最中なんだ・・・。」
「・・・そう。」
と、一言だけつぶやくと、先ほど飛び出してきた速度と全く同じ速度で森の中へと飛び込んでいき、瞬間、とんでもない振動と破砕音、そして獣のような叫び声がこちらへと届いてきた。あぁなってしまったレーヴァテインは止められないと二人も悟っている為、止めにいくような事はしなかった。すれば今度は、自分達がミンチになりかねないと知っているから。
余談だが、振動と破砕音に気づいて一瞬全員がそちらに意識を向けたのだが、陸寄りのメンバーは切れたハンモックを見て、海寄りのメンバーは砂場に出来た小さなクレーターと、何かを悟った二人の表情で全てを察した模様。一応、街の方にも振動と破砕音、叫び声は届いていたのだが、数的不利があったため、気にしている余裕があまりなかった。ただ、叫び声を聞いてビクッとなったメンバーがいたため、ある程度は察していたのだった。