「本当に、すみませんでした!!」
「い、いやぁ。気にすんなって。こうして、オレは生きてんだし。」
「もう~、マスターくんは甘すぎだよ! あのままだったら、下手すると死んでたかもしれないんだから!」
抱き合っていた姿を見られた恥ずかしさのあまり、マスターを突き飛ばしてしまい、それから海へ沈んだマスターを救出してしばらくした後。私は、マスターに対して危うく死なせてしまうかもしれなかった事を謝罪していました。あっ、挨拶が遅れました。どうも皆さん、ティルフィングです。
で、話を戻しますが、マスターは先程の事を、笑って受け流してくれましたが、フライシュッツの言う通り、もしあのまま海に沈んでいれば、マスターの命は無かったのかもしれないのですから。
ただ、マスター曰く「ギャグシーンで死ぬ奴は、大抵『ランサー』だって相場は決まってるから*1」とかなんとか。あの、『事情』云々以前に唐突にメタ過ぎる気がするのですが。それに、この場にはちょうど槍使いが二人もいるのですから、その発言は不謹慎な気がします。・・・えっ、男限定、ですか? そ、そうですか。なら、安心なんでしょうか。
さて、現在この場にいるメンバーですが、私とマスター、さっき来たアスカロンにロンギヌス、フライシュッツに加え、新たに『セブンスキラーズ』の1人で、アスカロンの親友『フォルカス』が来ています。どうやら、彼女が何か、マスターに伝えたい事があるそうなのですが、アスカロンがマスターを呼びに行くと言い、ちょうどそこにロンギヌスとフライシュッツが鉢合わせ、事情を聞いたフライシュッツが自分も行きたいと言いだし、二人が暴走。ロンギヌスも止めようとしたそうなのですが、結局アスカロンが先走って私達の所に到着。ロンギヌスとフライシュッツも後から追いつき、さっきの状況になったようです。
話を聞いたマスターは、苦労をかけたロンギヌスや、仲間外れにしてしまったフライシュッツ、報告があるのに色々と後回しにしてしまったアスカロンとフォルカスに謝罪していました。それと、先程私とだ、抱き合っていたのは、(話の内容を暈しながら)私が落ち込んでしまい、それを慰める為であって、深い意味は無いと言って納得してもらいました。まぁ、私と同じで、長い事マスターと一緒にいるロンギヌスや、マスター一筋(恋愛的な意味で)なフライシュッツ辺りは何か感づいていそうですけど。
とまぁ、色々本来の目的から外れに外れてしまっていたのですが、マスターがわざとらしく咳き込んで、新たにこの話し合いの輪の中に入ってきている一人、フォルカスに目線を向けました。そういえば先程、アスカロンがフォルカスに関して何か慌てていましたが・・・。見た所、おかしな点もありませんし、特に怪我等をした訳ではないのでしょうか。
マスターも同じように考えたのか、何があったのか、事情を尋ねていました。すると、フォルカスは僅かに逡巡したものの、
「何かあってからじゃ遅いんだ。頼む、フォルさん。話してくれないか? どんな事でも構わないからさ。」
という、マスターの言葉を受けて、アスカロンに一度目を向けてから、再度マスターに視線を戻して口を開きました。
「・・・実は、さっきの襲撃があってから、時々、声が聞こえるんです。いえ、聞こえるというより、頭の中に、響いてくるというか。」
「声?」
「それは、どんな声が響いているんですか?」
「・・・『人』、より正確に言うと、『人類』、彼らが繰り返す悲劇の連鎖に対する嘆きと怒り、憐憫。そして、それに対して何もしない、『万能の王』への怨恨。そう言った、負の感情が、頭に響く声となって、響いているんです。」
「っ!?」
フォルカスが頭に響く声の事を話すと、マスターの顔色が一瞬驚愕に染まりました。そして、手で眼を覆って上を仰ぐと、「・・・最っ悪だ。*2」と、小声で呟くのが聞こえました。マスターの様子に、私とロンギヌス以外のメンバーが訝しむも、マスターがすぐに真剣な表情になって口を開いたのを見て、質問を挟む人はいませんでした。
「・・・フォルさん、今声はどうなってる?」
「えっ? ・・・そうですね。まだ聞こえてます。」
「なるほど。なぁ、その声って、場所によって聞こえたり聞こえなかったりするのか?」
「頭に響く感じは、ずっとしてますね。ただ、森の方に近づくと、気持ち少し強くなってる気がします。まるで、共感できるなら来いと、私を呼ぶように。」
「ふむ・・・。よし。皆、悪いけど今から、ちょっとオレに付き合ってくれるか? もしかしたら、さっきの襲撃の元凶、ないしはその足取りを見つけられるかもしれない。」
フォルカスの言葉に口元を押さえて少し考え込むと、マスターは真剣な表情で私達にそう頼んできました。その眼には、普段なかなか見られない、自信がある、といった色をしていました。ただ、手掛かりとなる魔法陣はすでにない状況なので、事情が掴めないフライシュッツ達は首をかしげて疑問を口にしていました。
「え~っと、マスターくん。確か魔法陣はもう壊しちゃったんだよね。今のフォルカスちゃんの話から、どうして襲撃の元凶が見つけられると思ったの?」
「・・・疑問に思うのはもっともだ。ただ、これに関してオレは、確証があるんだ。もうティルやロンちゃんは知ってるからいいとして、オレにはちょっと、人には話しづらい『事情』があるんだ。今回の事は、それと関係しててさ。だから、あとでここにいるメンバーには絶対、それについても話す。だから、頼む。ここはオレに付き合ってくれないか?」
そう返すマスターの表情は、少し愁いを帯びていました。まぁ、普通に考えれば、「今は自分の『事情』は話せないけど、あとで話すから黙ってついて来て欲しい」と言う事ですからね。マスターは性格的に、こういった隠し事はあまりしたくないタイプですし、自分の『事情』についても、話せるなら全員に話してもいいと考えていると、以前聞いたことがあります。ただ、今の自分の立場と、抱えている『事情』が『事情』なだけに、おいそれと話してそれが外に漏れてしまったら、私たちを今以上の危険に巻き込んでしまいかねない。そう考えて、隠しているとも。だから、話せない事に対して、少し負い目を感じているのでしょう。元々、自己評価が高くない方ですし、悩みを貯め込んでしまう癖がありますから。
ただ、そんな様子のマスターを見て、ハァとため息をついて、フライシュッツは「しょうがないなぁ。」といった感じで口を開きました。
「も~、そんな顔でそんなこと言われちゃったら、これ以上何も言えないじゃな~い。」
「フライ、姉?」
「わかったよ、マスターくん。今はマスターくんに付き合ってあげるよ。アスカロンちゃんとフォルカスちゃんも、それでいいよね?」
「えっ? あっ、はい。私、難しい話とかよく分かんないですけど。でも! マスターが私達を必要としてくれてるなら、喜んで力になります!」
「・・・正直、私の話が、先ほどの襲撃にどう関係しているのとか、気になる事はあります。でも、マスターが必要としてくれて、その『事情』と言うのも話していただけるのなら、私も力になりたいと思います。」
「アッスー、フォルさん・・・。ありがとう、宜しく頼m「その代わり!」っ、何だフライ姉?」
「さっきマスターくんが言った通り、私達三人にも、ティルフィングちゃんやロンギヌスちゃんが知ってるマスターくんの秘密、ちゃんと話してね。」
「・・・あぁ、もちろんだ。そういう約束だしな。」
フライシュッツにそう返事するマスターに、もう愁いの色は残ってませんでした。・・・やはり、マスターにはこういった表情の方が似合っています。先ほどまでの悲しみや負い目を浮かべた表情は、マスターにはふさわしくないです。そして、そんなマスターに私は―――
「―――ティルフィングさん。」
「ひゃあっ!?」
「「「?」」」
「? どうしたんですか、変な声をあげて?」
「ろ、ロンギヌスですか。ど、どうしました?」
「いえ、マスターの方をずっと見ていたので、気になって・・・。」
「そ、そうですか。」
「? 大丈夫か、ティル? 何か変な声上げてたけど。」
「い、いえ。お気になさらず。私は大丈夫です、はい。」
び、吃驚してしまいました。急にロンギヌスに声を掛けられて、変な声をあげてしまうとは。マスターやアスカロン達も、心配そうな眼でこちらを見てきますし。・・・唯一、ロンギヌスの言葉で何かを察したフライシュッツだけが、複雑な表情でこちらを見ていましたが。
何はともあれ、私達6人は、フォルカスとマスターを先頭に、先ほどの魔法陣があった森の奥へと、再び足を踏み入れる事にしました。
―――今思えば、ここでの選択が違っていれば、私達はおそらく、マスターが以前言っていた、『正史』と呼ぶべき時間に近い時を過ごしていたのかもしれません。世界樹たる『ユグドラシルの樹』を巡る戦い、そして、その後の、『
ですが、私達は選択した。フォルカスの中で響く『共鳴』に導かれて。
この選択が、私達と、ひいては部隊に所属する『斬ル姫』達、そして、『正史』においては邂逅出来ない存在達との、未知なる運命の交差を齎す事になるとは、この時に私達には、まだ想像もできないのでした―――。
『フォルカス』、という名前の魔神柱は存在しませんが、実は同じ存在を指してる名前の魔神柱はいます。ヒントは『生命院』。分かった人はコメントにて言っていただいていいですよ?(露骨なコメ稼ぎ)