アイノテ世界樹日記   作:すたりむ

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第六階層(1):リハビリ、訓練、そして血戦

・白蛇の月、2日

 かつてロックエッジが壊滅したとき、グレイロッジは第六階層を探索しており、残りのギルドは第四階層に到達するのにも苦労する有様だった。当然、第五階層は完全に人の手を離れ、そのせいでシリカ商店の在庫はすっからかん。施薬院共々、やりくりにはとても苦労していた。

 俺たちが第五階層に行くようになってからその状態は劇的に(主にイナー姉さんの採集能力のおかげで)改善したのだが、それもつかの間の夢。ロックエッジはまだ本調子でなく、グレイロッジは相変わらず深層に苦戦中。そして俺たちがこの通りとあっては、また相当やりくりに苦労することになるだろう。

 そんな状況なのに、シリカ商店の店主が差し入れとか言ってアーチドロワーというごっつい弓をふたつもよこしてきた。いま無事なのがイナー姉さんとカチドキしかいない俺たちにはとても助かる差し入れだが、同時に期待もひしひしと感じる。――呪いの影響でまだ満足に動けない身としては、どうにも歯がゆい。

 で、見舞いに来たマハとまた雑談。ヴィズルの話を振ってみたら、彼女は前と違って知っていることを全部話してくれた。もうアイノテたちにも関係のない話じゃないもんね、と言って。

 前の執政院の長、ヴィズル。その正体は、かつて汚れた世界を浄化して危機から人類を救うために行われた世界樹計画の、その唯一の見届け人だった。

 その計画がなんだったのか、どの程度それらが進んでいたのか、そして――根本的に、それを知った人間がなぜ殺されなければならなかったのか。全部わからない。レン達は街の発展のためと聞かされていたそうだが、千年も前から生きている人間がいまさらその程度のことに執着するというのもいまいちリアリティに欠ける話だ。レンも薄々それには気づいていたようだったが、彼女は主の命令が守れれば意図などはどうでもよいと判断したので、結果として彼の意図は永遠の謎になってしまった……はずだった。

「でも彼は復活した。

 ロックエッジを襲い、ホイスビーを襲い、彼はなにをする気だったんだろう。さっぱりわからない。できれば直接会って聞きたかったけど、倒された以上それも無理だね」

 マハは言ったが、俺は彼女とは違う意見だった。つまり――たぶん。直接会って聞いても無駄だったんじゃないか。

 なんで、と聞かれたので俺は、たぶんあのヴィズルは偽物だと思う、と答えた。あの人形みたいな動きと、不自然すぎる戦闘行動、それからバカのひとつ覚えみたいな台詞の繰り返しと、倒した後の不可解な呪い。全部不自然だ。マハやレンから聞いた相手の行状とぜんぜん違う。アレは誰か知らないヤツがヴィズルとやらを真似て作った、なんかよくわからん鉄砲玉だと思ったほうがいいんじゃないのか。

 マハは反論しようとしたが、それよりも、ボクもそう思う、という声が後ろから聞こえてくるほうが早かった。身体を杖で支えながら、重たそうな本を抱えたショロロがずるずるこっちに向かって歩いて来るところだった。

「クローン、っていうやつなんじゃないかな。たぶん」

 とか言う。なんだよそのクローンって、と聞いたら、挿し木って意味だよと返された。……ならそう言えよ。要は枝の一部を切り取って植えて育てる例の――待て。それ人間でもできるのか。なんか凄くグロい想像しか湧かないんだが。そう言ったらショロロがめちゃくちゃバカにしたような顔をした。あーあー悪かったね。どうせ俺はバカですよ。

 で、ショロロの言によれば、動物のクローンっていうのは錬金術業界でも伝説の範疇に入る技術だが、第五階層の遺跡を作った文明ならあるいはできたのかもしれない、ということだった。今回のヴィズルと思しきモノは、そうしてヴィズル風の外見をした生物を育成し、それにヴィズル風の物言いを覚え込ませて動かしていたんじゃないかな、と。誰がだよ、と聞いたら知らない、とあっさり返された。そりゃそうだろうけど。

 

 ともあれ、このあたりで体力が尽きたので今日はお開き。わかったことは多いが、まずは動けるようになるのが先だ。なんとかしないと。

 

 

・白蛇の月、3日

 俺たちの身体を縛る呪詛の名は、エンタングルレイというらしい。

 診断したのはカチノヘ。上級呪詛のひとつで、生半可な術者では扱えないものだとか。覚悟と免疫があれば数分で実害は消えるそうなのだが、今回みたいに不用意に呪と接触するとかなり長く影響が残ってしまう、という話だった。

 で、カチノヘ曰く

「その呪詛はね……動こうとすると対抗するタイプだから……動き続けていれば、力を使い果たしてなくなっちゃうと思うんだ……たぶん」

 とのことで、テリアカαの投薬と平行して適度な運動を勧められた。動くのもだるい俺としては勘弁して欲しかったんだが、ショロロはやる気満々で樹海でトレーニングをしようと言い出した。おまえね、前衛が呪いで動けないってのにそんなんできるか、と言ったが聞きやしねえ。しまいにゃイナー姉さんとカチドキだけ連れてでも行こうとしたので、仕方なく付き合うことにした。――この辺、アシタの同類だなこいつ。殴られるの嫌だから言わねーけど。

 そして第二階層から始めて即ケルヌンノス撃破。さすがにこの辺は弱いなー。後衛の弓だけで十分どうとでもなる感じ。

 

 

・白蛇の月、4日

 調子に乗って挑んだ13階でワニ相手に死ぬ思いをして逃げた。弓が効かない相手は勘弁。

 

 

・白蛇の月、5日

 どうせなら派手に行こう、ということでモリビトの里に行って協力を仰いだら、普通に訓練相手を快諾してくれた。そしてボコボコにされた。ガッテム、こいつら絶対以前の恨みを拳に乗せてやがる。

 とはいえ18階の水飲み場付近での訓練はそうとういい運動になった。おかげで心なしか、身体が軽くなってきた気がする。

 

 

・白蛇の月、6日

 対モリビト戦、2日目。今日は模擬戦争訓練だ。

 当然ながら、地域を特定されて集まられると人数に優位なモリビト達には絶対敵わない。なので隠れる場所のない平原は危険極まりないのだが、それを避けて小道のほうへ行ったらそこにすっげえ得意顔のモリコが大量の戦力を連れて待ち構えていた。

「行くと思った場所に伏兵を置き、叩く。戦術の基本だろう?」

 で、ふたたびボコボコにされる。くそ、いまに見てろよ。

 

 

・白蛇の月、7日

 対モリビト戦、3日目。

 イワヲさん(通称。本名、イワォロペネレプ)と戦闘訓練。モリコと違ってこっちは呼び名を気に入ってくれたようで、おーいイワヲさーんと呼ぶと喜んでぴーぴー言いながら飛んできてくれる。モリコはすっっげえ不満そうな顔してたけど。

 そしてまたボコボコに。コルネオリがうまく動けないと雷もフェザースピアーも普通に対処できねえ。

 

 

・白蛇の月、8日

 対モリビト戦、4日目。

 オウガ+デモン相手に乱戦。だいぶ戦えるようになってきたが、やっぱりボコボコにされた。もう慣れてきたが、負けに慣れるってのも嫌な話だ。ああ、早く全力で動きたい。

 

 

・白蛇の月、9日

 今日から3日くらいはモリビト達は黄金祝祭日とかだそうで、訓練は断られた。

 で、ちょうど俺たちも動きがよくなってきたことだし、と8階の飛竜を相手に腕試し。楽勝。すげえ、俺たちって動けさえすればここまで強くなってたんだ……と、思っていたら、戦闘中に折れたのか笛みたいな形の牙を拾った。

 それで、俺たちが帰って執政院に報告をしていたちょうどそのとき、イケニ5兄弟の……ちょ、長男? 次男? 悪い、誰だか区別つかないけど、そのうちのひとりが泣きながら飛び込んできた。なんでも、8階で得体の知れない赤い竜に襲われたらしい。

 即ミッション発動。因果はわからないがたぶんまたおまえたちが原因だろうから殺ってこいと。……この体調で? マジすか。

 

 

・白蛇の月、10日

 血戦を制したのは、イナー姉さんの一撃だった。

 巣穴の新しい主、偉大なる赤竜。幸い巣穴の構造を熟知していた俺たちは、悠々と相手の背後を取ることに成功した。防御陣形を展開し、ファイアガード完備、チェイス剣の準備オッケー、猛き戦いの舞曲が流れ始め――そこまでは、完璧だった。問題はそこからだ。

 まず相手の、呪を含んだ咆吼がとんでもねえ。舞曲のおかげで精神は高揚していたが、そうでもしないと咆吼だけで立ちすくんでなにがなんだかわからなくなってしまいそうなほどの威圧だった。いつ吐くか読みづらい炎の吐息のためにコルネオリはファイアガード固定、そうして防御がおろそかになったところに、冗談のような勢いで繰り出された尻尾によるなぎ払い攻撃が効いて、防御陣形を取っているにも関わらず一撃で全員がボロボロになった。

 やがて陣形が崩れ、あと尻尾がもう一撃来たら間違いなくコルネオリが倒れるところまで追いつめられた。そうなるとファイアガードが持続できないので、俺たちの勝機はまずなくなる。だから速攻するしかないんだが咆吼による威圧のせいでまともに打撃が入れられやしねえ。コルネオリはファイアガードに忙しく、こりゃジリ貧だな、と覚悟を決めかけたとき、イナー姉さんが奇妙な構えを取った。敵ではなく空を射抜く構え。鉄をも徹せ、サジタリウスの矢よ。そうつぶやいた彼女の手から放たれた矢は、しばらくして天空から槍となって飛来し、いままさになぎ払いに移行しようとしていた尻尾を射抜き、杭打ちのように地面にたたきつけて固定した。痛みと、行動を封じられたことに火竜が悲鳴を上げて立ちすくみ――咆吼による制約が薄れたその瞬間、ショロロの大氷嵐の術式を乗せた俺の剣が、相手にとどめを刺した。

 後で聞いたのだが、どうやら怪我をした後でパベールに教えてもらった技らしい。なるほど、そういえば使ってましたねパベール。とこしえの魔竜を相手にゲシゲシと削っていくあの火力はたしかに凄いモノがあった。特に今回はそれがなければ勝てなかっただろう。と考えると、レン&ツスクル戦での負傷は怪我の功名だったのかもしれない。ショロロは、対抗してこっちも電撃の術式とか覚えようかな、とか言っていた。……いや、対抗する必要あるのかソレ。

 で、これも後で聞いたのだが赤竜はどうも例の牙笛から出る音が苦手だったらしく、そのせいで狙っていた住処を飛竜に取られてたとか。ところがその牙を俺たちが折ってしまったせいで、悠々住処を奪取することに成功した、ということらしい。あー、まあそりゃ俺たちのせいだわ。もう倒せたから誰も文句言わんけど、こういうこともあるから以後は気を付けよう。自然環境はどの桶屋が儲かるのか事前に判別しづらい。

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