アイノテ世界樹日記   作:すたりむ

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第一階層:デビュー、試行錯誤、そして勝利

・笛鼠の月、11日

 故郷の田舎村から旅をして5日目。ようやくエトリアに到着した。

 今日からこの俺、アイノテもとうとう冒険者。輝かしい冒険への道が待っている。まずはどこかでギルドに入ろうと思ったのだが、目につく募集はみんなメディック。あ、これはレンジャー。これはアルケミスト……俺はソードマンだっつーの!

 途方に暮れていたところ、金鹿の酒場の女主人がいいことを聞かせてくれた。どうも、最近話題のロックエッジというエースギルドの人員が膨れあがり過ぎたため、人員整理として株分けしたものの、こっちは人数が少なすぎて困っているらしい。ブラボー! 速攻で紹介してもらった。

 どうやら新ギルドの名前はホイスビーというらしい。現在集まっているメンバーはパラディン、アルケミスト、レンジャー、バード。なんてこったい、見事に前衛攻撃職が抜けてやがる。よし、ここは一丁俺の腕を見せてやろうじゃねーか!

 

 

・笛鼠の月、12日

 即、後悔した。

 ぶっちゃけ、どんなギルドだって使える奴を放出するわけねーよな……リストラ組の悲哀が漂ってやがる。まともなのは俺だけじゃねえか。

 頭を整理。とりあえずギルドのメンバーを見回してみよう。

 パラディン、コルネオリ。こいつはそこまで悪くねえ。血の気が多くてテメエホントにパラディンかと言いたくなるが、気骨はあるしやる気にも溢れてる。現時点ではぽんこつだけど、鍛えればどうとでもなるだろう。

 アルケミスト、ショロロ。ガキのくせに小生意気な理屈を振りかざす、いけすかねえ奴だ。特に初級の冒険者にとってはでかい敵には毒ってのがセオリーなんだが、こいつは毒なんて見栄えがしないし邪道だとか言って覚えやしねえ。じゃあなに覚えてるんだって、あん? TPが高い? 樹海の知識が豊富? テメエちょっとその履歴書のスキル表欄見せてみろ……ってオイ! マジで術マスタリーなんも持ってねえじゃねえか! 泣かすぞガキ!

 レンジャー、イナー。モグラ3匹が出て来ただけでいきなり泣き出した時にはマジでどうしようかと思った。腕は悪くねえんだがな……弓による支援は期待できねえってことか。金になる薬草とかを見分ける知識だけはガチですげえ。けどいま欲しいのはそれじゃねえ。

 バード、カチドキ。ジャーナリスト気取りの大馬鹿野郎で、ろくに歌も歌えねえくせに馴れ馴れしい。ていうか使えねえ。一応弓は撃てるみたいなんだが俺がバードに期待してるのはそっちじゃねえ。

 以上。つうか早速樹海で戦闘したが、コルネオリ以外戦力にならねえじゃねえか。くそ。

 

 

・笛鼠の月、13日

 これといって戦果もなくボロボロになって撤退。

 まあ、泣き虫なのを除けばイナーの姉御は悪くねえ。問題は残りだ。

 

 

・笛鼠の月、14日

 剣が刃こぼれするほど堅い虫と遭遇。おいアルケミスト、炎……そうだった。撃てねえんだよなあ。こんちくしょうめ。

 死にそうになりながらなんとか撤退。これだからガキは。

 

 

・笛鼠の月、15日

 1階で休憩中に変な色の蝶と遭遇、なんとか撃退。

 こえーな。ちょっと油断していると樹海はすぐこれだ。アレに勝てたのはまぐれと思うが、全員無事でよかった。次からはああいう場所で休まないようにしよう。

 で、同じく1階で、見分けにくい獣道発見。いろいろ見つかる伐採所との連絡通路が出来たので、これで当面の資金繰りはなんとかなりそうだ。

 

 

・笛鼠の月、16日

 安定収入を得て気が大きくなったせいか、コルネオリの勧めで2階へ。

 即、ウサギ共が大挙して襲撃。のされちまった。ガッテム。

 どうも俺がのびてる間、カチドキの野郎が踏ん張って倒したらしい。帰ってこれたのはシリカ商店で売っていた不思議な糸のおかげだとしても、よくがんばってくれたもんだ。少しだけ、あいつについては見直してやらんでもない。でも歌を歌え。それが先だ。

 

 

・笛鼠の月、17日

 なんだよあのデカブツ……

 びびっちまった。後で情報収集をしたところ、狂える角鹿、とか呼ばれているらしい。2階の主みたいな奴で、ぶっちゃけ勝てる気がしねえ。

 が、コルネオリに言わせると、前のギルドのマスターであるメディック、アシタの棍棒にかかれば、あの程度の獣なんかは一撃らしい。すげえな。つうかそれホントにメディックなのか?

 

 

・笛鼠の月、18日

 3階に到達。

 そして俺は、自分がいかに甘かったのか思い知った。

 本当にマジで、カマキリ超こええ。勘弁してくれ。コルネオリ、アシタさん自慢はいいからさっさと逃げろ。つうか逃げコース間違ってんじゃねええええ! なんとか逃げたところにダンゴムシみたいなケダモノに襲われて全滅。しかけたところを、通りすがりの強いブシドーとカースメイカーに助けて頂いた。ショロロ曰く、ボクがレンさん呼んできたからみんな助かったんだからね、とのこと。おまえそういうことを胸張って自慢するくらいなら、その前に術を身につけろ。マジで。頼むから。

 で、その二人組、レンとツスクルから、4階と5階には頻繁に狼の大群が湧くので未熟なうちは近づくなと釘を刺された。こえー。絶対近寄らないことにしよう……おいショロロ、なにテメエ勝手に執政院から4階の地図とか取り寄せてやがる。ただじゃねえんだぞ。ったく。

 

 

・笛鼠の月、19日

 変な夢見ちまった。例の固いケダモノ、ボールアニマルに手こずっているうちにカマキリがやってきて、逃げようと思ったら退路がなかった夢。

 ……マジでやめてくれないかな。心臓に悪い。そんなこと言ってたら今日も野牛に襲われ、ほうぼうの体で逃げ出した。最近、こういうのが多くないかオイ。

 

 

・笛鼠の月、20日

 か……勝った! 野牛に勝った!

 マジ信じらんねえ。最後の一撃、俺超かっこいい! とか思った。アドレナリン出まくり。これが……冒険……

 はい。実は打撃源のかなりの部分は期待の新武器、ショートボウによるものです。最近イナー姉さんとカチドキに頭が上がらねえ。前衛の誇りはどこに。

 

 

・笛鼠の月、21日

 調子に乗って鹿に挑んで勝てなかった。

 堅いなあの鹿。ありゃショートソードじゃ無理かな……どこぞのアルケミスト殿が毒使ってくれりゃあなー。楽勝なのによ。と聞こえよがしに言ってるのにショロロの奴は聞こえないふり。くそ。

 

 

・笛鼠の月、22日

 金がNeeeeeeeeeee!

 困った。メディカを確保したら、もう宿に泊まる金額がねえ。仕方ないので、宿泊まって起きて伐採行って帰ってシリカ商店で売り払ってメディカ確保してから出発。くそ、本気で追いつめられてるな。なんだこの自転車操業。

 ……いやまあ、正直1階で木こりのまねごとだけしてりゃ十分儲けは出るわけで、無理して下に潜る理由はあんまりないんだが。そう言ったらショロロが見下したように笑ったのですげえムカついた。くそ、意地でももっと儲かる場所に行って、豪邸立ててやる。ナメるなよ!

 

 

・笛鼠の月、23日

 樹海で500エン発見。た、助かった……と思った直後、鹿に襲われそうになって泣きながら逃げた。不思議な糸に超感謝。そして100エンの出費。ガッテム。

 で、諦めきれずに再出発し、3階で狼と初遭遇。つっても戦ったのは俺たちじゃなくて、いつぞやのカースメイカーのお嬢ちゃんだった。ツスクルとか言うらしい。それにしても呪言一撃で相手を殺すってのはとんでもねえな。ツスクル曰く

「……ペイントレード。簡単」

 とのことだけど、アレたぶん食らったらうちのパーティ全滅してる。

 

 

・笛鼠の月、24日

 狼を初撃退。つ、つええ……

 あとちょっと遅れてたら、血の臭いを嗅ぎつけた他の狼が到着してえらいことになってた。つくづく攻撃力不足が悔やまれる……なあ、ショロロさんよ、テメエに言ってるんだぜ?

 今日、金鹿の酒場で火の術式使える奴を呼んでこいって依頼があった。いま金欠なんでなんとかこなそうとしたものの、ショロロじゃどうしようもないんで無理言って友人のコックを紹介して報酬を分け合うことに。つうか友人はただのコックなんだが火の術式1レベル。ショロロ、テメエより使えるぞこいつ。

 

 

・笛鼠の月、25日

 狼、追加して5つ撃退。コツをつかんできた。

 で、浮かれて調子に乗ったショロロが、執政院からまーた勝手に5階の地図を借りてきやがった。しかも狼どものボス、スノードリフトをこらしめてこいという執政院からのミッションまで受けてきちまった。

 ……えーと、切れていいですか。テメエ俺たちがそんなことできるレベルか! と言ったら、ショロロの奴、計算上は近いうちに倒せるようになるから大丈夫、と得意げに返しやがった。おまえが戦うんじゃねーんだぞコラ!

 

 

・笛鼠の月、26日

 狼、目につく限り全撃破。これでひとまず4階は安全か、と気を緩めて5階へ足を伸ばし、暴れ野牛にのされて気絶。な、情けねえ……

 ぶっちゃけ、以前はのびたコルネオリをひきずって帰ることが多かったのだが、ここ最近は立場が逆になってやがる。さすがパラディン、堅いな。

 で、この状況で狼のボスをどうやって倒せと。無茶言うな。まずは頻繁に道を突進してくる野牛をどうにかしねえと話にならねえぞこれ。

 

 

・笛鼠の月、27日

 迷宮で誰かの落とし物か、見慣れない剣を見つける。ショロロの鑑定の結果、ボアスピアソード? とか呼ばれているタイプの剣だとか。使ってみたが、確かに悪くない。けど野牛退治にはちと力不足だ。どうしたもんかな……

 

 

・笛鼠の月、28日

 目についた鹿をのしてみたらえらくでかい牙が丸ごと手に入った。ショロロ曰く

「あ、これたぶん弓の素材になるよ」

 とのことだったのでシリカ商店に行くと、すっっっっげえ感激された。最近はレアものだったらしい。お礼に安価で獣の大弓とかいうごっつい弓を2つ分、仕立ててくれた。すげえありがたい。これのおかげで野牛を攻撃前に打ち倒すことができるようになったはず。よし、スノードリフトに手が届くぞ!

 

 

・天牛の月、1日

 油断して野牛にのされました。不覚。

 

 

・天牛の月、2日

 昨日の油断を悔い、今度はもうやられないように覚悟して出陣。

 スノードリフトまでたどり着いたが、慎重に行くべきだとカチドキが主張していったん撤退。悔しいが奴の言うとおりだ。あの圧力の敵に、いま敵うとはとうてい思えない……

 で、帰って戦利品を売り払ったところで、シリカ商店で売り出し中の格安新商品に気がついた。……ボアスピアソード? マジで?

 コルネオリが購入。飛躍的に攻撃力が伸びた。これなら……行ける、か?

 

 

・天牛の月、3日

 大決戦を制した理由は、地の利を得たことだった。

 迷宮の狭い箇所におびき寄せ、防御中のコルネオリが攻撃を一身に受けて耐久。耐えて耐えて耐えてる間にショロロが抜け目なく俺に近寄り

「はいアイノテ、ファイアオイルだよ」

 テメエ今日は気が利くじゃねえか。気合いのダブルアターック! ということで勝利。近くのスノーウルフどもをまったく寄せ付けず、傷ついたのはコルネオリの盾だけだった。

 で、いいかげん5階まで降りるのも長いし、ショートカットが欲しいなーと思っていたら、たまたま出会ったレンが樹海磁軸とかいう便利なモンを紹介してくれた。いきなり6階までワープできる優れものだ。ある程度力がある者にしか使用を許されていないそうだが、スノードリフトを討伐できるおまえらならば問題ないだろうと。よっしゃ、これでさらに儲かる場所を探せるぞ!

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