アイノテ世界樹日記   作:すたりむ

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第二階層:探索、栄光、そして挫折

・天牛の月、4日

 6階から先、一層深くなった森林は、通称第二階層と呼ばれているらしい。

 今日からそこを探索だ気張るぞーと言って宿を出たところ、広場で変なガキ発見。コルネオリの知り合いらしい、カチノヘとかいう陰気なカースメーカーの小僧は、俺たちを見るなりこう言った。

「今日……6階行くと、死ぬよ?」

 こ、こええ。足がブルっちまった。それでも新階層に行きたいと駄々こねるショロロをむりやり引きずって1階へ。こちらも、酒場の噂によれば、最近新しい通り道が見つかったらしい。探索する余地はあるだろう。

 で、行ってみたら超強い獣が暴れてやがる。それでもがんばって探索しようとしたのだが、途中で挫折。ぶっちゃけ、こいつら第二階層の敵じゃねえのか。なんでこんなところに……新人がうっかり入り込んだら、死ぬぞ?

 

 

・天牛の月、5日

 1階の新通路の探索、終了。らしい。

 らしい、というのは、最後俺は野良ナマケモノにのされて意識がなかったからだ。どうやら泣きながらカチドキが俺たちの身体引きずって逃げ出したらしい。……案外力あるよなあいつ。なんでバードなんかやってんだ。いや、ジャーナリストだっけ?

 

 

・天牛の月、6日

 6階、初探索。

 獣、ものすごく強いなー。どうしようもなくて逃げ回りながら、それでもなんとか、いろんな金になる素材などを見つけることができた。でもナマケモノ怖いよナマケモノ。助けてー。

 

 

・天牛の月、7日

 今日は朝からコルネオリがおおはしゃぎ。なんでも、新しい必殺技をひらめいたから実戦で使ってみよう! とか。どんな技だよと聞いたら、シールドスマイトと言って盾を正面に構えて突撃して盾でぶん殴る……それ、技なのか? と聞きたかったが、あまりにコルネオリが嬉しそうなので言うに言えなかった。

 で、とりあえずナマケモノ相手にぶちかましてみたところ、衝撃に巨体がぐらりと傾いた。おお、すげえ! と思った次の瞬間ナマケモノから強烈な一撃。コルネオリ気絶。……ダメじゃん。要は地力がないとなにやったって一緒ですよという、大変ためにならない教訓でした。

 

 

・天牛の月、8日

 伝説のギルド、グレイロッジのメンバーが、後進のためと称して稽古会を開いた。

 意気揚々と行くコルネオリに連れられて、俺も嫌々ながらも参加。といっても、俺は楽しく冒険して樹海で稼げればそれでいいので、稽古とか興味がないのです。なのでロッドテイルとかいう重戦車みたいな戦士にコルネオリがタコにされてる間、俺はマハという名前の、発音の少しおかしな子とずっと喋っていた。

 どうやら彼女、ずいぶん遠くの国から来たらしいのだが、意外なことにイナー姉さんをよく知っていた。以前は二人でよく、魔物に見つからずにそーっと移動する方法とか研究していたらしい。自分もレンジャーになりたかったけど、トロかったので無理だったんだーと、楽しそうに彼女は言った。

 と、そんな感じで雑談しているところにロッドテイルから怒号。喋ってる暇があったら貴様らも戦えと言われ、仕方なくマハと一緒に模擬剣を構える。可愛い子だから傷つけたくないなーと思いつつ手加減気味に仕掛けたら片手の指で止められ、あ、ヤバ、と思って身を引いたところにあごを盾でかるーく撫でられた。そこから先の記憶がない。

 あのレベルの戦士とタメ口利いてたのか俺は……迂闊だった。人は外見によらない。教訓としてもらっておこう。

 

 

・天牛の月、9日

 扉を開けたら熊が3匹もいたときの驚きといったら。

 ていうか、なんなんだよあの熊ども。マジで尋常じゃない。スノードリフトなんて目じゃねえだろ、あれ。第二階層半端ねえな……とか言いつつ、最近シリカ商店に並んだ新型メディカを惜しみなく使えば一応探索をできるようになってきたうちらのパーティは、案外適応力が高いのかもしれない。

 ま、しばらくは採集して金稼ぎつつ、メディカ連打の日々だな。

 

 

・天牛の月、10日

 7階に到達。案外早かったな。

 ……まあ、到達した早々、いばらの敷き詰められた地面にびびって撤退したんだけど。

 帰り道、ショロロがきょろきょろ茂みを見ているのでなんだと思ったら、

「ほらアイノテ、ここに獣道があるよ」

 マジかよ。通ったら入り口近くの茂みに出た。つうか執政院の地図に載ってねえぞこれ。なにやってんだあいつら。

 

 

・天牛の月、11日

 サソリに袋小路に追いつめられて撤退。

 マジで泣きそう。なんだあのバケモノの山。第一階層に帰りたい。

 とか思っていたら、なんか変な水晶のカケラをショロロが拾っていた。奴が言うには、浅い階層にあった封印された扉の鍵らしい。暇があったら回ってみようよ、だと。まあ、暇があればな。

 そして7階の探索はほぼ完了。そろそろ資金繰りが厳しくなってきたが、執政院が欲しがっている飛竜の卵とやらは8階にあるって噂だ。アレ取ってくればしばらくはしのげるよっ、とはしゃぐショロロを見ていると……やばい、不安しか出てこない。なにかの刷り込みか?

 

 

・天牛の月、12日

 8階には飲むと体力を回復できる不思議な泉があると聞いたんだが、行ってみたら枯れていた。

 その場にいたレンの言によると、こういうことはよくあるそうで。上の階に魔物とかが住み着いて、巣を作った結果として水がストップしてしまうとこうなるらしい。回復したいなら自分で魔物を倒してこい、だってさ。うがー。

 仕方ないので飛竜の卵へゴー。飛竜、でかすぎて姿見ただけで心臓発作で死ぬかと思ったが、がんばって逃げ回った結果、なんとか卵を手に入れ即逃げ。執政院に報告した。しかしそれはいいとして、8階には下層へ進む階段が見当たらない。どうしてだろう? と思って、ちょうど酒場にいたマハに質問してみた。

「あれ、飛竜の巣の奥に隠し通路あるんだけど、知らないの?」

 ……マジすか。つーか俺たち、あんなおっかないところに何度も足を運ばなきゃあかんのですか。勘弁してくれ。

 

 

・天牛の月、13日

 いい加減、ちょっと自分らは弛み過ぎなんじゃないかと思い、嫌がる奴らをむりやり連れて熊に特攻。

 ……俺だけ気絶ってどういうことっすか。

 いや、まあ、コルネオリの奴の防御が堅いってのは知ってたが。ここまでとは。

 このあたりで金が尽きたので採集活動再開ー。即座に3000エンほど稼いでふたたび探索へ。こういうとき、イナー姉さんの採集スキルはマジで頼りになる。

 

 

・天牛の月、14日

 7階で巣を作って泉を堰き止めていた魔物を撃破。

 固定したねぐらがあるわけだし覚悟して行ったが、それにしてもえらく強かった。仕方なく虎の子のファイアオイルを使っちまった……アルケミストが(ry

 最近アイツ開き直ってねえか。むかつく。

 

 

・天牛の月、15日

 熊、2体目を撃破。らしい。

 らしいというのは、また俺だけのびてたから。つうか、一撃で倒れるんスけど。どうしろと。

 コルネオリがガードしてくれりゃいいんだが、あいつの盾突撃以外にろくな攻撃手段がない現状ではそれも無理だし……困った。打つ手がない。

 

 

・天牛の月、16日

 ここ数日第二階層をうろついて、俺たちの致命的な欠陥が浮かび上がってきた。要するに、危険な花びらによる眠り攻撃をかわす手段がないんだな。

 盾突撃じゃどうしても後攻になっちまうし、それ以外だと攻撃が来るまでに2匹しか倒せないので、たくさん出てきたときにはもうどうしようもない。全員眠ったところに火食い鳥の火炎弾とか来た日には、これはもう火葬ですわ。いや、かろうじて生きてたんだけど、あのときは「詰み」という言葉を本気で意識したな……

 くそ。どうすっかな。

 

 

・天牛の月、17日

 なんかスノードリフトと愉快な仲間たちが復活したらしい。

 執政院はそれで朝から大忙し。俺たちも当然のごとく狩り出されたんだが、結果から言えば俺たち出る必要あったのか? みたいな感じだった。

 というのは、コルネオリの古巣のロックエッジが討伐隊に参戦したからだ。つうかあのアシタとかいうメディック、マジで棍棒死ね死ねラッシュだけでスノードリフト狩りやがった。最後、スノードリフトがガチ泣きしてた気がするのは見間違いか。コルネオリは憧れのアシタさん大活躍に目を輝かせてたが、俺はぽかーんと馬鹿みたいに口を開けて突っ立ってることしかできなかった。

 

 

・天牛の月、18日

 樹海サソリの持つ、真鉄のけっこう分厚い殻があるんだが、これをシリカ商店に持っていったところ大好評。最近真鉄がちょうど尽きていたらしい。

 もう少し持ってくれば真鉄製のブレストプレートを作ってやるとのことだが、それより俺としては新型の剣、レイテルパラッシュが店に並ぶようになってきたのが嬉しい。これで俺の攻撃の威力もそれなりに増えるってもんだ。すげえ助かる。

 コルネオリも防御陣形覚えたっつってたことだし、これでようやく樹海のさらなる奥地への探索が可能になるってわけだ。

 ……金があればな。くそ、金欠が激しいぜ。

 

 

・天牛の月、19日

 嘘みたいに戦いがうまくいくようになった。

 やっぱり、防御陣形+レイテルパラッシュ二本が画期的だったらしい。すげえつええ! と思って調子に乗って熊に突撃して俺だけ撃砕。な、なんで……

 防御力不足、深刻です。

 それはともかく、以前からギルドのアドバイザリーとして登録所に居座ってる眼帯ヤローがへんな提案をしてきた。8階で5日間の武者修行? 無茶言うなよ……と思ったが、餌として出されたシリカ商店で発売されはじめたばかりのニューモデルの服にショロロが過剰に反応。カチドキを口説き落としたせいで、決行することになっちまった。ガッテム。

 つうかその話をマハにしたら、けらけら笑いながら

「でもさ、回復の泉の近くじゃほとんどの生き物はおとなしくなるから、その辺で5日キャンプすれば楽勝だよ?」

 とか言われた。いやまあ善意で言ってくれたところ悪いが、その辺を見抜けってのがこの試練の主眼だったんじゃ……いいけどよ。感謝もしてるけど。

 つーことで、今は夜。これから逝ってきます。

 

 

・天牛の月、25日

 生きて帰ってきたぞー!

 いやまあ楽勝だったけど。最近俺が使うようになった新技、トルネードがマジで強いということに気がついたら、急に楽になった。それでも最初は殊勝にもいろいろ鍛えながら回っていたのだが、収集品が持って帰れないくらい膨れあがったので慌てて中断。あとは飯を狩るとき以外、ずっと泉のそばにいた。

 いちばんはしゃいでいたのは例によってショロロで、林間学校みたいだとか言って大喜びしてた。で、放っておいたらいきなり黙り込んだのでその辺の木を指差してションベンならそこらへんでしろと言ったらすげえ怒られた。そういやあいつ、女だったんだな……やせっぽちで、背が高くて、男口調で、ガキだからつい忘れちまう。つうか名前もあんまりこのあたりの地方の女らしくはないよな。と聞いてみたら、なんと父親と同じ名前らしい。マジかよ。アルケミストどもはクレイジーだな、とカチドキに言ったら

「ん、でも大ショロロはわりと良識人だよ?」

 と返された。なんでも前に取材に行ったら、すごく丁寧に扱ってもらったらしい。……それだけで良識人という判断もどうかと思うが。というかこいつ本当にジャーナリスト活動とかしてたのか。

 そしてキャンプ。うちのパーティはひ弱なのでここまで長く篭もったことはなかったが、やっぱりキャンプともなるといろいろわかるものである。特に、イナー女史の料理が絶品ということが判明。思うんだけど、このひとは冒険者にしとくのがもったいなくないか。当番制だったので他の奴の飯も食ったが、コルネオリのは食えたもんじゃなかった。後はフツー。意外にもショロロが食えるモンを作ってきたことには驚いたが、俺とどっこい程度じゃまだまだだね。

 しかしやっぱり、5日も潜ると普段見ないものが見えるねー。樹海で生きるコツが多少見えたような気がする。

 そして帰ってきたらシリカ商店で新発売が目白押し。カチドキは新しいリュートに見入っていたみたいだが……悪い、とりあえずロングボウとヒーターシールド優先な。

 

 

・天牛の月、26日

 調子に乗って7階の大サソリを倒してみた。案外イケるもんだな……が、さすがにこんなのを繰り返していると普通に金が尽きる。仕方ないので明日は採集生活だな。

 

 

・天牛の月、27日

 すげえ。今のイナー姉さんが本気を出すと1日で4000エンも儲かるのな。

 あまりに儲けたので、カチドキに新しいリュートを大盤振る舞い。すげえ喜んでた。こいつもジャーナリストとか名乗ってるが根っこの部分でバードなんだよな……

 そして9階を漁る。だいぶ耐久力ついてきたな、うちも。

 

 

・天牛の月、28日

 うっかり飛竜とコンタクト。やったね♪

 いやマジでシャレになってねえっての。ありゃ人間に勝てるもんじゃねえわ。一応、コルネオリが一撃で意識トバされつつ身体で食いついて時間を稼いでくれたおかげで、たまたま近くにいたロックエッジの救援が間に合ったけど。

 しかしロックエッジ、ホントとんでもねえな。ダークハンターのハラヘルスって姉ちゃんからはイナー姉さんと同じ気配を感じたが、あの腕は本物だわ。以前会ったカチノヘと一緒にびしばしびしと縛って相手の動きを封じ、その間に棍棒と矢と斧が雨のように降り注ぐ。あっさり狩っちまった。信じられねえ。あいつら人間か?

 そして10階突入。すげえ、俺たちまるで一流の冒険者みてえ! とひゃっほうしつつ突撃し、ドアを開けたらゾウが4体もいて死ぬかと思った。マジ勘弁。

 

 

・王虎の月、1日

 密林の中、レンと会った。

 こいつもすげえよな。どこのギルドにも入ってないみたいなのに、腕だけで樹海の中をひとりかふたりでうろうろしてやがる。

 で、レンが言うには、この先は行くべきではないらしい。なんでも、以前からこの辺ではケルヌンノスとかいうヤバい獣が大暴れしているので、行くと君たちのレベルじゃ間違いなく死ぬぞ、ということ。

 上等だ、行ってやろーじゃん! と言えるほど俺も無謀じゃありません。ショロロとかやる気満々だったけど。まさか勝てる気か?

 

 

・王虎の月、2日

 今日起こったことを冷静に書き留めるのは、ちと難しい。とりあえず書かなきゃいけないことは山ほどあるんだが……

 時系列順に行こう。まず、いつものようにショロロが無茶なことを言い出した。これはまあいい。奴はそういう性格だってのはもう重々知っている。だがそれを誰一人止めなかったのは、たぶんここ最近の冒険の成功で浮かれていて、天狗になってたんだろう。

 結果、俺たちは密林の王者、ケルヌンノスと戦うことになった。

 勝てたさ。ああ、勝てた。俺の右腕と引き替えにな。

 全治2週間。思ったよりは浅かったらしい。怪我したのは俺だけじゃねえ。無茶やったショロロのほうも、同じくらい寝込まないとダメだそうだ。

 せっかくギルドの経営も軌道に乗ってきたトコだったのになー……めげるわ。とりあえずコルネオリ達は浅い階層を回って当座の資金を稼ぐことに決めたらしい。あーあ、ひでぇもんだ。

 ショロロは、これまでにない大失敗のせいで部屋に篭もって出て来ねえ。ま、若いうちはそんなこともあるさ。せいぜい悩め。ついでにこれを機にもうちっと使えるようにならねーかな。

 ……ま、なんだ。俺の腕が上がるようになるまでには、な。

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